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今日も青空が広がっている初音島に8つの怪しい影が上陸した。
影達は集まって何か話し合った後、別れて走り出す。
それを木の陰に隠れて見ていた独りの女性が深いため息を吐いた。
「祐一さんのためにも、早く諦めてもらわないといけませんね」
青い髪の女性は呆れた様子で呟いた。
歌声は君と共に
「なんか、今日の祐兄さんって機嫌が良いね」
いつものように朝飯を作っていた時、急に音夢がそんなことを言ってきた。
はて、そんな風に取られるられるような態度をした覚えはないんだけど。
「祐一の機嫌が良くなるということは………今日はことりとデートか?」
「ん~、デートってほどのもんじゃない。 単に愚痴を言ったり聞いたりするくらいだ。
ちなみに、純一が水越姉妹と付き合っているという情報はことりから仕入れた」
「ぶっ!」
あ、お茶を噴きやがった。 汚いからそんなことするな。
ほら、音夢も呆れた眼でお前を見てるぞ。
まったく、いつの間に二股なんてするようになったんだか。
きっと天国で婆ちゃんが『純一も立派になったねぇ』とか言って笑ってるぞ。
「それで、今日はことりとデートなの?」
「だけん、デートなんて大それたモノじゃないちゅーとるやんけ。 同じこと2回も言わせんといてな」
「いきなり方言を混ぜないでください。 と言うか、それはどこの方言ですか」
「気にするな。 知り合いの喋り方を真似てみただけだ」
喋っている間に朝食が完成。 うむ、今回も上手く出来た。
それにしても、俺って気分が態度に出易かったかな?
前はあまりそういうのを表に出さなかったんだけど。
「純一は恋人とどんな感じなんだ? そこら辺を詳しく教えてくれ」
「誰が教えるか」
「ん~っと、普通に話しているだけなのに何故か空気が甘ったるくなっていく感じかな」
「ね、音夢さんっ!? なんば言いよっとねっ!?」
なるほど、つまり砂糖と練乳を混ぜてその上に蜂蜜を3:4:5の割合で加えて出来る食べ物みたいな感じか。
うわっ、自分で言ってて気持ち悪くなってきた。 そんな食べ物があるのかよ。
我ながらおかしなことを考えたものだ。
「コラ、食事中は大声を出すんじゃない。 礼儀がなってないぞ」
「お、お前が出させてるんだろうが……」
「さて、何のことやら?」
恨めしそうに純一が睨んでくるが、完全に無視して箸を進める。
むぅ、やはり出汁を取って正解だった。 インスタントより結構美味い。
秋子さんも出汁を取ってたんだろうな。 だって、台所にインスタント食品類が全く無かったし。
「なんかさぁ、祐一ってやけに料理が上手くなってないか? 前に会った時はそれほど上手くなかったと思うんだが」
「あぁ、母さんの妹さんに教えてもらったからな。 今なら大抵の料理を作れる」
「母さんの妹さん? それって、お――」
何かを言おうとして、純一が凍ったように固まった。
まぁ、原因はなんとなくわかる。 だって、秋子さんだし。
「どうしたの?」
「……いや、なんか背中に氷水をぶっ掛けられたような感じがした」
「一つ言っておくぞ。 お前が言おうとしたことは禁句だから言うな。 言ったら心に一生癒えない傷を負う」
「………全く冗談に聞こえないのは、俺が変だからなのか?」
それが普通の反応だから大丈夫。 むしろ反応が無い方がおかしい。
まったく、うちの母親といい秋子さんといい、うちの家系は訳がわからん。
……よくよく考えたら、俺もそうなんだよなぁ。
あんな風になるのかぁ。 老けないのは素晴らしいことなんだけど、他のはちょっと……
ほら、オレンジ色でゲル状のアレとか。
「ご馳走様でした。 さて、今日もことりと『朝倉純一と水越姉妹のラヴラヴ関係について』をテーマにして語り合うか」
「ちょっと待てっ! そのおかしなテーマは何だっ!? てか、今日『も』っ!?」
「安心しろ。 今回は杉並から得た情報も加えて討論するから」
「尚更安心できんわぁああああっ!!」
そんな叫びは俺の耳に届きません。
時間は常に動いている。 そう、人が動いているのと同じように。
……と、訳がわからないことを考えている間に老桜の下に着いていた。
ちなみに、今の時刻は午後1時だ。
「~~~~~♪ ~~~~~♪」
ふと、どこからか綺麗な歌声が聞こえてきた。
まぁ、ここで歌を歌うのは1人しかいない。
邪魔をしたらいけないので、静かに老桜に背を預けて座り込んだ。
「~~~~~♪ ~~~~~~~♪ ふぅ……」
パチパチパチパチッ
「相変わらず上手だな、ことり」
「あ、うん。 ありがとう」
俺が居たことに少し動揺していたようだが、すぐにはにかんだ笑顔を見せ、ことりはいつものように隣に座った。
平和だ。 めちゃくちゃ平和だ。
この前までなら捕獲用ネットとかゴム弾の嵐を潜り抜けながら必死に走っていた。
だから、こんなにのんびりすることがどうしようもなく幸せなんだ。
「と言う訳で、膝枕してくれないか?」
「どうぞ」
膝をポンポンと叩いて、ことりは恥ずかしそうな素振りを見せずに答えた。
むぅ、やってくれるのは嬉しいんだけど個人的には恥らうことりを見てみたかったのに。
つーか、何が『と言う訳で』なのかというつっこみは無しっすか?
「んっ……」
色んな考えを忘却の彼方に放り出して、頭をことりの膝に乗せる。
うむ、さずがことり。 すごく柔らかくて病み付きになりそうです。
……エロ親父かよ、俺は。
「ねぇ、祐一君はいつまでここに居るの?」
ボケ~っとしながら空を眺めていると、不意にことりに問われた。
そんなこと言われても、居るかどうかはあいつら次第だし。
「……さあな。 すぐ出て行くかもしれないしずっと居るかもしれない」
「わからないの?」
「まあな」
そう答えたら、何故かことりが嬉しいような悲しいような複雑そうな表情をしたように見えた。
本当のことは出来るだけ誰にも言いたくない。 まぁ、暦さんには言った――と言うか喋らされたけど。
本心から言えば、俺は初音島を離れずにずっと住みたい。
だけど、あいつらがやって来れば俺は逃げ出すから、ここから離れなければならない。
そうなればことりと会えなくなってしまうだろう。 それが、どうしようもなく嫌だと感じた。
「なぁ、俺はここに居てもいいのか?」
気が付けば、そんなことをことりに尋ねていた。
まったく、今日の俺はどうかしてる。 こんなことを聞くなんて。
最初は不思議そうな顔をしていたことりだが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「私は、祐一君が居たいと思う限りずっと居ても良いと思うよ」
「……そっか」
ことりはそう言ってくれるが、どちらにしろ俺はここを出て行く時が来るだろう。
今はまだ見付かっていないけど、近い内に判明する日が来ると思う。
その時、俺はどうしてるのかなぁ。 それでもこの島に居られたら良いんだけど。
「……私はずっと居てほしいな」
「えっ?」
弱い風が吹き、一瞬だけ俺の時間が止まる。
今、ことりは何と言った? ずっと居てほしい?
彼女の頬が薄っすらと赤くなっているのは俺の眼がおかしいからなのか?
「こ、ことり……今、何て――」
「見付けたんだよっ! 祐一っ!!」
瞬間、俺は即座に飛び起きて周りを見る。
あぁ…やっぱり名雪達か。 とうとう見付かってしまった。
逃げるか? いや、無理だな。 ここから逃げても絶対に捕まってしまう。
その証拠に、正面には名雪とあゆ、後ろには舞と佐祐理さん、横には美坂姉妹と真琴&天野がそれぞれに分かれている。
ちぃ! 完全に包囲されてやがるっ!
「さぁ、早く一緒に帰ってイチゴサンデーを奢るんだよっ!」
「うぐぅ、逃げようとしても無駄だよ。 みんなが祐一君を囲んでいるんだから」
んなことは言われなくてもわかっているっ! くそっ、本気でどうするっ!?
正面からの突破は無理。 名雪が居る時点で逃げ切れるはずがない。
背後も無理。 舞の力で何をされるかわからん。
横も無理。 香里のことだから何か罠があることは間違いないし、真琴が妖狐の力を使って何かを仕出かすに決まっている。
ならば空から……って、どうやって飛ぶんだよっ!? つーか、んなこと考えてる余裕なんて無ぇよっ!
くっ、何か打つ手は無いのかっ!?
「ゆ、祐一君……」
ふと隣から震えている声がすること気付く。
……仕方ない。 正直、あんまり気乗りはしないが……!
「ことり、協力してくれないか? このままだとあいつらに強制連行されてしまう」
「う、うん、 私に出来ることだったら協力するよ」
「……ありがとう」
お礼の意を込めて笑うと、何故かことりは頬を赤らめて俯いてしまう。
はて、俺ってば何か変なことしたか? 別に何もしてないと思うんだけど。
つーか、恥ずかしそうにこちらをチラチラ見てくることりが殺人級にかわいい。
「な、なにいちゃついてるんだおっ!! とっととこっちにくるんだおっ!!」
おっと、今はことりに見惚れている場合じゃなかった。
ふっ、とうとう漢字変換すら出来なくなったか。 この堕王め。
苺を抱いて溺死しやがれ。 このイチゴジャンキー。
「……生憎と、俺はお前達とは一緒に帰れないな」
「うぐぅ、どうしてっ!?」
「それは――」
ニヤリと不敵に笑って、ことりを抱き寄せる。
その際に『だおっ!?』とか『うぐぅ!?』とか『あぅ!?』と珍獣の鳴き声が聞こえた。
あっ、今『えぅ!?』と『ぽんぽこたぬきさんっ!』って言ってる。
「俺には白河ことりという恋人が居るからだっ!!」
言ってやった。 それはもう自画自賛できるくらいにはっきりと。
きっと俺の顔は真っ赤になっているだろうが、そんなことはどうだっていい。
名雪とあゆは目を見開いて驚いている。 多分、他の奴らも同じような反応をしているだろう。
ことりは……めちゃくちゃ驚いてますね。 嫌だろうけど今は我慢してくれ。
「そ、そんなの嘘だよっ! あの鈍感な祐一君に恋人なんて居る訳ないよっ!!」
「喧しいっ! 実際に存在しているだろうがっ!」
俺の反論に『うぐぅ……』と呻くあゆ。
ちぃ、ここまでしてもまだ帰らないのか?
さっさと帰りやがれ。 俺はお前達と帰るつもりなんて全く無いんだからな。
「本当にそうなのかしら?」
「……それはどういう意味だ? 香里」
「言葉通りよ。 相沢君のことだかあたし達を欺くために偽の恋人役を誰かに頼むことだって可能でしょう」
「……ほぅ、つまり俺とことりが恋人でないと言うのか?」
香里はニヤリと笑って、この問いに肯定した。
香里、お前はわかっていて言ってないか? いくらなんでも鋭すぎだろ。
くそっ、まさか見破られるとは……!
「それなら、何をすれば私と祐一君が恋人であると信じて頂けますか?」
「そうね、キスでもしてもらいましょうか。 もちろん、口にね」
……………マジか? 勘弁しれくれよ、姉御。
そんなこと絶対に無理じゃないか。 もし出来たらどれだけ嬉しいことやら。
「そうですか……」
そう呟くと、ことりは俺の方に向き直り、じっと見つめてくる。
そして、俺の頬に手を当てると――
そっと、唇と唇を重ねた……
「だ、だおぉおおおおっ!!」
「うぐぅううううっ!!」
「あぅううううっ!!」
「えぅううううっ!!」
「ぽ、ぽんぽこたぬきさんっ!!」
誰かの叫び声が聞こえるけど、そんなことはどうだっていい。
ことりの顔が近づいてきて、彼女の手が頬に触れて、そして……
「こ…とり……?」
「……これが私の気持ちです」
そう言って、ことりはしがみ付くように抱き着いてくる。
ははっ、ことりは俺のことが好き? そんな漫画みたいなことがあるなんて有り得ない。
でも、それでも良いのかもしれないって、心の奥から『俺』が言っている。
「……こんな俺でもいいのか?」
「祐一君だから言えるんです。 大好きです、って」
消え入りそうな声だったが、はっきりと聞こえた。
愛おしさが込み上げ来て、しっかりと彼女を抱きしめる。
離さない。 俺は絶対に離さない。
やっと見つけた大切な人を、俺は絶対に離したくない――
「話しかけ辛いわね」
「仕方ないですよ。 恋人になったばかりなんですから」
「真琴達には申し訳ないですが、あの二人を祝福するべきですね」
祐一とことりを草陰から見ながら、香里と佐祐理、美汐は笑っていた。
元々、この3人は他の5人とは違いあくまで友人として好きなのだ。
追い掛け回していたのは、単に親友に付き合わされていただけ。
見付けようとはせず、見付けても他の5人には誤魔化して祐一の発見を遅くしていたのである。
「あらあら、幸せそうですね」
「あ、秋子さんっ!? 来ていたんですかっ!?」
「ええ。 やはり祐一さんのことが気になりましたから。 あと、名雪達はお仕置きしましたので」
「そ、そうですか」
彼女達の額に嫌な汗が流れる。 恐らく、秋子が言うお仕置きとはジャムが関連しているだろう。
そう、あの最凶最悪のジャムが……
「とりあえず、祐一さんと話すのは明日にしましょう。 今、行くと邪魔になってしまいますから」
「そうですね。 それじゃ行きましょうか」
佐祐理の声と共に、皆はゆっくりとその場を後にする。 心の中で友人を祝福するように笑いながら。
不意に、最後尾を歩いていた香里が立ち止まり、未だに抱き合っている二人を見てこう呟いた。
「二人とも、お幸せに……」
その表情は、晴れやかな笑顔だった。
Fin
あとがき
シ「祐一×ことり編、完結っ!」
祐「今になって考えると、短編より中編って感じがするような――」
シ「シャラップッ! それ以上に言ってはいけませんっ!」
こ「何はともあれ、私と祐一君が結ばれたんですよね」
シ「そうですよ。 続きは書きませんけど」
祐「何で? 書こうと思えば書けるだろ?」
シ「そりゃ書けますけど、他のD.C.ヒロインのSSも書きたいんです」
こ「祐一君は私の恋人ですっ! 他の人にはあげませんっ!」
シ「まったく、ラヴラヴなのはいいですけど見せ付けないでくださいよ。 あ~、暑い暑い」
祐「て、テメェ……」
シ「え~っと、補足説明は特に無いか。 んじゃ、あとがき終了」
こ「えっ!? ちょっと待ってくださいよっ! 次回はどうなるんですかっ!?」
シ「少なくとも、祐一×ことりのSSでないことは確かです」
こ「そ、そんなぁ~」
<完成日:05年4月7日>