ひらひらと雪は舞う。

大地を白く染めて行く。

それに集うモノは……純粋な想い。

 

 

 

 

 

雪の契り

 

 

 

 

 

「う〜ん、決まらないよ〜」

 

今、わたしはとても悩んでいる。

今日は12月23日。 わたしの誕生日だ。

だから、今日は祐一とのデートなんだけど……

 

「わっ、あと1時間しかないよ」

 

時計の針は6時を示している。

約束の時間は7時。

 

「は、早く決めないと……」

 

いつの間にか、時間が迫っていることに焦るわたしの前にあるのは無数の洋服。

つまり、どんな服装で行くのか、まだ決まっていないのだ。

今回のデートはいつもとは少し違う。

何故かと言うと、普段はあまり『デート』と言う単語を使わない祐一が、この間――

 

「名雪、23日って空いてるか?」

「うん。 空いてるよ」

「なら、その……俺とデートしないか?」

「えっ……」

 

――恥ずかしそうに『デートしないか?』と誘ってきたから。

祐一から誘うことなんて滅多に無い。

おまけに、わざわざ『デート』と言う言葉を使ってまで誘うことは初めてだ。

だから、わたしはその誘いを受けた。

でも、言う場所を考えてほしかった。

祐一がみんなの居る教室の中で言ったから、香里や北川君に散々からかわれたよ。

うぅ〜、恥ずかしいよ〜

 

コンコン

 

「名雪、入るわよ」

 

頭が沸騰気味になった時に、お母さんが入ってくる。

1年前に事故ですごいケガをしたけど、今は後遺症もなく元気だ。

 

「あら、まだ決めてなかったの?」

 

部屋に散らばっている洋服を見て、お母さんはため息を吐く。

だ、だって! 祐一とデートなんだよ!? しかも誕生日にだよ!? やっぱり綺麗な自分を見てもらいたいもん……

お母さんはわたしの心境を読み取ったのか、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべながら、わたしの肩に手を置いた。

 

「名雪、無理に着飾ろうとしても意味がないわよ?」

「で、でも、せっかくのデートなんだし……」

「だからこそよ。 無理に着飾ると変になってしまうことが多いから、逆効果になってしまうかもしれないわ」

「そ、そうなのかな?」

「ええ。 昔、わたしも同じようなことをして失敗したことがあるから」

 

あの頃はわたしも若かったわねぇ、なんて呟いてお母さんは遠い目をする。

あの、今も十分若いと思うんですけど……

 

「それに、祐一さんは外見じゃなくて内面を見て名雪の好きになったのだから、どんな格好をしていてもきっと大丈夫よ」

 

いつもの3割増しくらいの微笑みで、お母さんはかわいらしくガッツポーズをする。

それは嬉しいけど、逆に困っちゃうよ。

どれでもいいって言われると、ますます悩んじゃうんだよね。

 

「う〜ん……」

「何か思い入れのある物とかはないの?」

「思い入れ……あっ!」

 

お母さんの言葉に、わたしは慌てて服の海を掻き分ける。

探すこと10分。 ようやく発見した。

思い入れがある服と言ったら色々あるけど、特にあるのはこれだ。

 

「それは?」

「これはね、前に祐一から貰った服なんだよ」

 

わたしの手にあるのは、もこもこと暖かそうな白のセーター。

以前、いきなり祐一が渡してきた物だ。

なんでも『なんとなく、お前に似合うと思ったから』らしい。

言ってる祐一の顔はちょっと恥ずかしそうで、ものすごくかわいかった。

まぁ、その後は時間が夜と言うことも手伝って、二人で朝まで激しく……(ぽっ)

 

「あらあら、若いっていいわね」

「お、お母さん!? 何でわたしの考えてることがわかったの!?」

「ふふっ、何故でしょうね」

 

わたしの追求は、いつもの微笑みによって阻まれてしまう。

も、もしかして、お母さんって額に火花が散ったりする新しい人類なの!?

……冗談に聞こえないのは何でだろう。

 

「決まったのなら早く着替えた方がいいわよ。 さっき祐一さんが居間で待ってるのを見たから」

「えぇっ!? それって本当!?」

「ええ」

 

時計を見ると、針はちょうど7時を指している。

は、早く着替えないと!!

わたしはそこら辺に置いてあった青いロングスカートを取って、急いで着替え始めた。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

「ゆ、祐一。 遅くなってごめんね」

「気にするな、大して待ってないから」

 

7時をちょっと過ぎた頃に、名雪は居間にやって来た。

慌てていたのか、息が弾んでいる。

まったく、少しくらい遅れても構わないのに。

 

「ところで、そのセーターって俺があげたヤツか?」

「うん。 そうだよ」

 

それは学校の帰りに見つけて、なんとなく名雪に似合うかなと思って買った物。

その時、店員さんに『彼女にプレゼントですか?』と聞かれて赤くなってしまったのを覚えてる。

確か、それを渡した時の名雪がすごくかわいかったから、思わず本能が暴走してしまったんだっけ?

あ、あくまで名雪がかわいかったからであって、断じて俺がケダモノなわけではない。 ないったらない。

 

「さて、とっとと行きますか」

「うん!」

 

こうして、俺と名雪は寒空の下に降り立つのであった。

 

 

 

 

 

「と言うわけで、俺達は商店街に居る」

「わっ、前振りが全く無いよ」

 

むぅ、名雪につっこまれる日が来ようとは……祐ちゃんびっくりだ。

それはともかく、商店街はなかなかの賑わいを見せている。

まぁ、もうすぐ年末だし、なにより明日はクリスマス・イヴだ。

恋人にあげるプレゼントを買いに来ている人も居るだろう。

 

「祐一、早く行こうよ」

「ん、あぁ」

 

何はともあれ、俺と名雪は歩き出す。

と言っても、別に行き先が決まっているわけでもなく、テキトーに商店街をぶらつくだけなのだが。

 

「ね、ねぇ、あれって……」

「ん?」

 

名雪が指差した方向にあったものは――

 

「――邪夢?」

 

そこにはブルーベリージャムとイチゴジャムに並んで、オレンジ色のジャムが店頭に置いてあった。

なんでも、店の人気商品らしい。

よく見ると、MADE IN AKIKOの文字が――

 

「――俺達は何も見ていない。 そうだよな?」

「う、うん。 何も見てないよ」

 

俺と名雪はその場から立ち去った。

胸の内に、大き過ぎる疑問を抱えながら……

 

 

 

 

 

「う〜ん、どれにしよう?」

「こんなに多いと迷うよなぁ〜」

 

ところ変わって、現在はデパートで色々と物色中。

品物の種類が多いのは良いんだけど、どれを買うか迷ってしまって決められない。

う〜む、何を買おう?

そうだ。 こういう時は店員さんのお勧めでも聞いてみた方が良い気がする。

え〜と、あそこに居る人はダメだな。 年季が浅い。

……あの人だな。 年季を積んだ店員オーラを出しているっぽい。

 

「あの、すみません」

「はい。 何かご用でしょうか?」

「実は、今日は恋人の誕生日なんですけど、何か記念になるような物ってありませんか?」

「それはおめでとうございます。 記念になるような物ですか……少々お待ちください」

 

店員さん(未亡人)は丁寧に頭を下げて、奥の方に入っていった。

間違い無い。 あの人は……エースだ」

 

「エースってことは、あの人は兄が技術屋で妹が変なMAのパイロットな兄弟に仕えているような人なの?」

「その可能性は無きにしもあらずってところだな。 つーか、いきなり背後から話しかけるな」

「だって、いつもは驚かせられてる側だから、偶には驚かせてみようかと思ったんだよ」

「そうか……」

 

これはどういうリアクションを取るべきなのだろうか?

う〜む、何も浮かんでこない。

僕には……無理だ……

 

「お待たせ致しました」

 

某仮面ストーカー風に黄昏ていると、先ほど奥に行ったエースな店員さんが帰って来た。

いつの間に来たんだ? 全く足音がしなかったぞ。

それはさておき、店員さんが持って来たのは透明な箱に入っているイヤリング。

雪の結晶を模ったもので、透き通るくらい綺麗だ。

 

「……綺麗」

「そうだな。 これって何で出来てるんですか?」

「水晶です。 確か10年くらい前に作られた物ですよ」

「10年も!? そんなに時間が経ってるのに、こんなに綺麗なんだ……」

「すごい……」

 

目の前にあるモノをよく見てみる。

それはとてもキラキラと輝いていて、とても10年も前に作られた物だとは微塵も感じさせない。

こんな綺麗な物は初めて見た。

 

「でも、何で売れ残ってるんですか? こんな良い物だったらすぐに売れそうなのに……」

「実は、このイヤリングは特別なのですよ」

「特別?」

「はい。 昔、これを作った人が私に『貴方が気に入った人だけに、これをあげてください』と言われました。

 それ以来、私はこれを大事に保管しておりました。 そして、貴方様達にならば、差し上げてもよろしいと思ったのです」

「えぇっ!? な、何でですかっ!?」

「貴方様達の瞳はとても澄んでいます。

 それに互いをとても想い合っていますから、きっと大事にしてくれるだろうと思ったからですよ」

 

店員さんは俺達を真っ直ぐ見つめる。

その姿は、まるで待ち望んでいたものがやって来たかのようだった。

10年間、ずっと護られていたイヤリング。

それが俺達に……かぁ。 これは責任重大だな。

 

「わかりました。 確かに貰い受けます」

「ありがとうございます。 あと、これはお二人で一組ですので、お二人で分けてお付けになってください」

「あ、はい。 えっと、俺が右に付けるから、名雪は左に付けてくれ」

「うん」

 

俺達がイヤリングを付けている間、店員さんはずっとこちらを見ていた。

なんというか、微笑ましそうな表情だ。

う〜む、この人って何者なんだろう?

これを預けられるくらいだから、かなり信頼がある人なんだろうな。

 

「お二人とも、よくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます」

「あの、これの御代――」

「御代は結構でございます。 これは店の商品ではありませんから」

 

俺の言葉を遮って、店員さんはそう言った。

その表情はとても嬉しそうで、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

 

「それじゃあ、俺達はここらで失礼します。 あと、これを作った方に『ありがとうございました』とお伝えできますか?」

「請け賜りました。 そのお言葉、必ず製作者にお伝えしておきます」

 

店員さんに向けて頭を下げた後、俺と名雪はデパートの出口に向かった。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

「なぁ、ちょっと寄って行かないか?」

 

水瀬家に帰る途中、祐一は公園がある方向を指差す。

名雪は少しキョトンとした後、ふんわりと微笑んだ。

 

「良いよ。 でも、変だね。 いつもだったら『寒いから早く帰ろう』って言うのに」

「ま、まぁ、偶には良いかなぁ〜って思ったんだ」

 

痛い所を突かれたのか、歯切れが悪い祐一。

心の中では、どうしてこういう時だけ鋭いんだと、思っていたりする。 

そんなこんなで公園に到着。

辺りは音一つ無く、明かりは街灯だけ。

もちろん、人も居ない。

 

「静かだね」

「そうだな」

 

二人は近くにあったベンチに座る。

名雪は居たって普通の態度だが、祐一は動作がどこかぎこちない。

少々間が空いた後、緊張した面持ちで祐一は話を切り出した。

 

「……名雪」

「なに?」

「俺達が付き合い始めて1年だよな?」

「そうだね」

「もうすぐ高校を卒業して、多分、大学生になるよな?」

「祐一、多分じゃなくて、絶対だよ」

「そうだな」

 

名雪の前向き思考に、祐一は思わず苦笑してしまう。

しかし、彼女の言い分にも根拠はある。

先日、彼らは担任の石橋先生に『お前達の学力なら、手を抜かなければ合格出来るだろう』と言われたからだ。

だからと言って必ず合格するわけでもないのだが。

 

「それで……だ」

 

祐一はポケットの中から、一つの箱を取り出す。

手の平に収まるくらいの小さな箱。

それを名雪に手渡した。

 

「開けてみてくれ」

 

言われるがままに、名雪は箱を開ける。

そこに鎮座しているのは、蒼く煌く宝石が付いた指輪。

 

「ゆ、祐一……これって……」

「……名雪、高校を卒業したら…その………俺と結婚してくれ」

 

名雪の眼が大きく見開かれる。

それと同時に、公園を一陣の風が通り抜けた。

 

「……いきなり、だね」

「……すまん」

「でも、嬉しいよ」

 

名雪の頬には涙が流れている。

だけど、表情は笑顔だった。

 

「それじゃあ、わたしからも言わせて」

 

そう言って、名雪は静かに立ち上がる。

そして、祐一に満面の笑顔を向けた。

 

「祐一、わたしと……結婚してください」

 

今度は、祐一が眼を見開く番だった。

呆然としている祐一を尻目に、名雪は指輪が入った箱を彼に手渡す。

 

「えっ……」

「祐一に付けてもらいたいな」

「……わかった」

 

名雪の言葉に祐一は微笑み、箱から指輪を取り出す。

そっと名雪の左手を掴んで、その薬指に指輪を填めた。

それを見て、名雪は微笑み、祐一も微笑む。

その時、二人の間に真っ白な何か落ちてきた。

 

「雪?」

 

彼らが夜空を見上げると、空から真っ白な雪が次々と降ってきている。

見慣れているはずなのに、その光景はどこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

「帰ろうか……」

「うん……」

 

雪が降る中、二人は家路に着く。

寒くないよう、お互いに寄り添いながら……

 

 

 

 

 

――祐一

――何だ?

――不束者ですが、よろしくお願いします

――こちらこそ、よろしく

 

 

 

 

  

Fin

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

シ「名雪誕生日SS完成!!」

祐「ほぉ、ちゃんと完成させるとは驚きだ」

シ「ふっ、私が本気になればこれくらい出来るさ」

祐「いつもはダメダメだけどな」

シ「だまらっしゃい」

祐「さて、今回はプロポーズだったが……何故?」

シ「告白の話とかデートの話は前に書いたから。 同じことを書いても面白くないでしょ?」

祐「そりゃそうだ。 ところで、あのイヤリングに関しては何かあるのか?」

シ「全く無い。 単に書きたかっただけ」

祐「またテキトーだな」

シ「いつものことだろ?」

祐「おいおい。 ところで、ちょっと気になったんだけど、どうして『適当』じゃなくて『テキトー』にしてあるんだ?」

シ「だってさぁ、『適当』とは『よくあてはまっていること。 ちょうどよい程度』と言う意味なんだぞ?

  あと、『いい加減』って意味もあるけど、本文中の『テキトーにぶらつく』に当てはめると『いい加減にぶらつく』となる。

  なんか変じゃないか? いい加減にぶらつくって意味わかんねぇよ」

祐「なるほど。 つまり、間違った日本語だから『テキトー』としたわけか。 この表示もどうかと思うけどな」

シ「そこら辺はお気になさらず。 んじゃ、説明も終わったことだし、そろそろあとがきも終了だな」

祐「そうだな。 それでは最後に……」

 

二人「名雪、誕生日おめでとう!!」

 

 

完成日:2004年12月23日