前書き

rk「今回は、ある謎の人物の視点と、夜一さんの視点二つが混ざり合っています」

祐一「しかも、二人とも似たような喋りなんだよな」

rk「その為に、少し分かり難いかも知れませんので、ご注意ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐一くん〜」

 

 砂煙をあげて駆けてくる一つの影。

 名前を呼ぶと共に少し先を歩いていたこやつへと……

 

「〜〜うぐぅ!?」

 

 飛び――避けられ、地面へと……熱烈のダイブを果たした。

 

「うぐぅ! 祐一くんが避けた!!」

「あんな速度で飛びつかれたら避けるに決まってるわ!!」

「飛びついたんじゃないよ! 抱きついたんだよ!」

「うぐぅ!」

「うぐぅ! 真似しないでよ! ってあれ、そういえば祐一くん……どうしてここにいるの?」

 

 今更と言わんばかりに、こやつがいることに疑問が浮かぶあゆ。

 あゆの言うとおり。歩いているのはあゆが勤める四番隊の総合救急詰所近くである。

 こやつの勤める隠密機動第六部隊(かん)空隊(くうたい)の詰所がある場所ではない。

 

「卯の花隊長に報告とお礼。あゆは?」

「あぁ! ぼく、先輩に呼ばれてたんだ。じゃぁね祐一くん」

 

 突撃してきた時のように、砂煙をあげて走り去っていくあゆ。

 

「死ぬ前に鍛えた食い逃げの逃げ足を活かし、曲がり角もスピードを極力落とさずに駆けていく…」

「食い逃げじゃないよ〜!!」

「ちっ、聞こえてたか」

 

 

 

 

翼を持つ死神

〜BLEACH an angel of a sword wing

 

 

 

 

「さて、今更だが……考えないとな」

 

 自分の部屋へと戻る途中、今までの自分を振り返っていた。

 今から前のことを……こっちに来てから、そして現世にいた時から…

 

 ――俺の名は相沢祐一。

 流魂街の、まぁ治安は悪いけどそこに住む人達は人情に厚く、喧嘩は日常茶飯事。

 だけど、理由は友の為とか弟分の為とかで喧嘩している場所の生まれっていうかこっちの言い方で、そこに振り分けられた。

 それからしばらくして、霊力の素質があるらしく真央霊術院(しんおうれいじゅついん)と呼ばれる学校へと入る。

 そこで、卒業寸前にあいつ等と出会う……入学してきたあいつ等、全員と。

 出会いはまだ良い。それより問題なのは、場所だ。ここは数少ない霊力の素質がある人が来る場所だ。なのに、

 

「なぜ、全員なんだ。しかも、ここ尸魂界(ソウル・ソサイティ)に来る前、死ぬ前の記憶を持ったまま。俺を含む全員が」

 

 頭を抱え、さらに深い悩みへと沈んでいく。

 

 ――現世の時の記憶を持っているのは、たまにいるそうだ。

 しかし、こんなにも現世で関わりを持っていた人物同士が同時に持っているのは珍しいらしい。むしろ、天文学的確立。

 おかげで、調べさせろと十二番隊の隊長に迫られたり(事務的な仕事を手伝って、観察程度で押さえてもらった)。

 過半数が美人に含まれる女性だった為に男共に迫られたり(貴族出身者には陰口とか叩かれたが、同じ流魂街出身者には友情たるリンチをくらった……救護を主体とした四番隊を目指している人には練習が出来て嬉しいと喜ばれた)。

 香里や舞のツッコミが半端なく強力になってたり(無意識に霊力を纏った攻撃の為、威力が増大。ちなみに香里が斬魄刀を手に入れた切欠

でもある)。

 前と変わらずに接してきて、俺は記憶が曖昧なのに……いい迷惑だ。

 まったく、いったいなぜだ?

 

 

「おい、祐。小声とはいえ、歩きながらぶつぶつと言うのは止めておけ」

「あ、ども、日番谷隊長。声、出てました?」

「見るからに不審者だったな。それで、またか?」

「いや、今日は珍しく一人だったんで、考えていただけです」

 

 こやつは声をかけられるまで気づかなかったが、目の前にいるのは史上最年少で隊長になった十番隊隊長、日番谷冬獅郎。

 氷雪系最強の斬魄刀、氷輪丸を持つ身長133cmと低いのを悩む人物である。

 彼女達から逃げる時、たまたま十番隊の副隊長に面白半分で庇ってもらい、その見返りに仕事の手伝いをしているときに出会い……いつの間にか、友情が芽生えていた……同情であろう。

 

「そうか……ああ、そうだ。今度の特別戦闘訓練に、頼みどおりお前を推薦しておいた」

「訓練って、今度ある隊長クラスと戦いですか?」

「それ以外になにがある。今回は特別に、お前の望んでいた人物が相手だからな。他にはいないだろうし、お前で決まりの筈だ」

 

 冬獅郎が言っているのは、今度行なわれる隊長クラスへ隊の第三席以下の者が挑む戦闘訓練である。

 それぞれ、隊長か副隊長の計3人以上の推薦で挑む権利が与えられるのだが…

 

「日番谷隊長以外に誰が推薦してくれたんですか?」

 

 それが問題である。

 確かにこやつには応援してくれる人が、手伝いをしたという関係も含め多いが、表立って応援してくれる人は少ない。

 

「六番隊と十二番隊の隊長だ」

「朽木隊長と(くろつち)隊長!?」

「まったく、涅は交流があるのを知っているから分かるが、朽木隊長に推薦されるとは……なにをやった?」

 

 涅の考えは、隊長クラスと戦えば、良いサンプルが手に入ると言う事だろう。

 

「……朽木隊長の所にも逃げ込んで、手伝いを」

 

 それだけで、推薦してくれるとは思わないが…

 現世と違い、場所と衣装が死覇装(しはくしょう)と呼ばれる黒い着物を着ている以外、何の違いもなく時間は過ぎていた。

 学院が終われば、彼女達はこやつのいる場所へとやってきて、現世と同じ時間を過ごそうとする。

 しかし、こやつにとってはその時間は……胃の痛くなる時間であった。

 嫉妬などで見る周りの者達の中には、自分よりも強いものもおり、こやつが悪いわけではないのに攻撃され怪我をすることもあった。

 そしてなにより一番の理由は、こやつには……片思いではあるが好きな人が出来ていた。

 だから、現世と変わらずに接してくる彼女達とは、ここに来てから会っていなかった時間の差と記憶の曖昧な差から、壁が現れていた。

 

「相変わらず、交流関係が広いな……とにかく、伝えたからな」

 

 

 

 冬獅郎と出会ってからしばらく経った後、推薦してもらったことに喜びが湧き出し、機嫌よく自分の部屋へと戻ってきていた。

 

「――で、あの人達はどうすんの?」

「別に、俺は俺のしたいことをしますから……一弥先輩にとってはそれの方がいいでしょ。佐祐理さんに告白できるし」

「なっ! 俺は別に佐祐理が好きな訳じゃ…」

 

 こやつと同じ隊の所属、そして同室のルームメイト、一弥。姓は無いが、彼女達の中の一人、佐祐理の死んだ弟である。

 もっとも、彼は現世での記憶を持っておらず、姉の佐祐理のことは覚えていなかった。

 佐祐理と一弥が出会ったときも、一弥は始めて出合った人物として接していたが、佐祐理は間違いなく弟の一弥だと……涙を流して再会を喜んでいた。

 ちなみに、一弥の方がこちらでの立場と過ごした時間は上である。その為に、こやつは先輩と呼んでいる。

 時たま、こやつの言葉の態度が変わるのもその為だ……いや、一弥に限った訳ではないか。

 

「現世じゃ弟だったけど、こっちじゃ血の繋がりなんか関係ないんだろ」

「いや、でも佐祐理は……ぜったい弟としてしか見てくれないだろうし……って、俺よりもお前だろ! 勝てるのか?」

「うーん、微妙。実際に強さを知らないから、やってみないと分からないですしね」

 

 こやつの言葉に呆然となりながらも、一弥はため息一つ。

 ああ、こりゃ駄目だなと、いろいろと諦めながらも、訓練の日へと時間は進んでいった…

 

 

 

『――第何回かの、下克上訓練大会!! いつもは影で出番の無いような下っ端が、表に出る為に行なわれるこの大会!

 最近じゃ参加条件をクリア出来る人がいなくて、ほとんど行われなかったんですが、なんと久しぶりに参加者が現れました!!

 あ、申し遅れました。実況は、十番隊副隊長の美人お姉さまこと、松本乱菊と』

『戦闘解説を担当させてもらう。十三番隊隊長、浮竹十四郎でお送りする』

 

 湧き上がる声。

 いつもなら人っ子一人いない筈の双極の丘には、一部の者を警備に残してほとんどの死神が集っていた。

 ってか、浮竹さん……あなた体が弱いのだから、こんな所いては駄目だろう。

 

『時間も惜しいので、とっとと選手の紹介に入ります。今回、隊長クラスから出るのは、なんと!!』

「ワシは、もう隊長ではないのだがのー」

『そう、この人! 元・隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長にして、四大貴族が一つ四楓院家の22代目当主! 

 最近は猫の姿がお気に入り! 四楓院夜一!!』

 

 湧き上がる歓声……耳が痛いほどに。

 今回ばかりは、耳が無くてよかった。

 

『そして、その四楓院夜一に挑むのは、たった三人しかいない隠密機動第六部隊(かん)空隊(くうたい)所属! 

最低5股はかけている 「かけてねぇー!!」 基本、皆知っていますからスルー。

瀞霊廷を駆け巡る姿で有名になった、祐ちゃんーー!!』

「本名で紹介しろ!! 祐一だ祐一! 相沢祐一ぃ!!」

 

 先ほどの歓声以上の声で登場する。ただその紹介の仕方に、周りからも笑い声の歓声が上がる。

 その中に、「え、あいつ祐ちゃんが本名じゃなかったのか」とか、「5股って本当だろ」などの声も混ざっており、どんどんとこやつの怒りのボルテージは上がっていく。

 聞く限り、その中にあの日番谷隊長や朽木隊長などの隊長クラスの人々の声も聞こえているのだが……彼らも知らなかったのか。

 確かに、祐一ではなく、祐と呼ばれていたな。ちゃんづけではないので、こやつも何も言わなかったが。

 

『さて、一通り弄ったところで、さっさと進みましょう』

 

 とっとと行けと、マイクを押さえて声が響かないように言われ、渋々夜一と共にもっと奥へと歩いていく。

 

『では、お二人に開始前のインタビューでも。戦闘開始位置にいる、ルキアさ〜ん』

「こちら、戦闘開始位置で待たされていた、朽木ルキアです。まったく、何で私がこんなことを」

『御託は良いですから、聞いて下さ〜い』

「はぁ〜。夜一様、今回の戦いなぜをお受けになったのですか?」

 

 ため息と、諦めの境地を覚えたルキアによって夜一へ差し出されるマイク。

 

「単なる暇つぶしと、お茶菓子の差し入れがあったからじゃ。どうやらわしに、こやつと戦わしたい奴がおるようでの」

「だそうです、乱菊さん」

『おおっと! 祐ちゃんを支援する謎の人物が発覚! いったい誰なんでしょうか、その人物は。

 何の目的で祐ちゃんを支援しているのか、謎です。本当は、知っていますけど

私もだ。もっとも、お茶菓子の差し入れをした人物については知らないが…

 

 暇つぶしと言われ落ち込む。

 さらには、乱菊さんに祐ちゃんと言われ、さらに落ち込む。

 これ以上は、やめて欲しい……戦う前から気合が減る。

 

「さて、祐一。今回、あなたがこれに希望したのはなぜですか?」

 

 今度は、こやつへと差し出されるマイク。

 

「ああ。おれがこの大会に出るきっかけは、あることを代表してだ」

 

 とりあえず、気合が減ったことは無視。

 ルキアからマイクを奪い取り、ビッシと夜一へと指差しながら宣言する。

 

「俺はここに宣言しよう! 日陰で目立たないザコ役でも、やり方しだいで強く、そして目立てることを!!

 その為にも夜一!! 俺はここで貴様に賭けを挑む! もし俺が勝ったら……」

 

 静寂が双極の丘を包む。

 先ほどの騒ぎはどこにやら、今は誰もがこやつの言葉を待っていた。

 なにを言うんだ、と。

 

「俺と結婚を前提に付き合ってください! これで俺が勝てば、身分なんて関係ないことが証明されるんです!!」

 

 どこからか、慌しく音がする。

 

「よく言ってくれた相沢! お前があれを始めてから、俺はお前をやる男だと思っていた!」

「先輩! 俺言いましたよ! これで、みんなが大手を振って活動できますよね!」

 

 声のする方、観ていた死神達を見ると、その半数が着ていた死覇装の上にそれぞれオリジナルの半被を、手にはそれぞれファンクラブの人物の名前が入った団扇を持っていた。

 そう、彼らはこの尸魂界にある、隊長や副隊長、女性隊員などのファンクラブの会員達。

 その者達から起こる、祐ちゃんではなく祐一で起こるコール。

 何度も何度も祐一と繰り返されるコールにおだてられ、今まで下がっていたこやつの気力が上がっていく。

 その脇で、何人かの者達に取り押さえられている五人の者がいるが、些細なことだ。

 

「それで夜一……返答は? 受けるのか、逃げるのか」

「いろいろな意味で、下手な挑発じゃが……まぁよい、受けてたとう。勝てるはずがないからの」

「おおっと! 賭けが成立だ!! それでは、ガン○ムもとい! 死神ファイト、レディー」

「「「「「「「GO!」」」」」

 

 謎の掛け声と共に響き渡るゴング。

 

(てん)(くう)()(もの)に (ひろ)(つばさ) 【(とう)(ちょう)(おう)

 

 腰の後ろに差してあった唾の無い小太刀の斬魄刀――刀鳥王を一気に鞘から抜き、空へと掲げる。

 刀鳥王が太陽の光を受けて大きく輝くと、光の羽となってこやつの背へと集り翼と成す。

 形となった翼は、銀刃をいくつも重ねた鋭利なフォルムを持つ姿となった。

 翼を動かすごとに、刃の擦れる高い音が不気味に響く。

 これこそこやつの心。

 翼の形のとおり、空を自由自在に飛ぶことの出来る能力を持っている、尸魂界に片手の指の数しか確認されていない斬魄刀である。

 

「ついでだ。瞬神の名も頂いてやる!」

 

 一度、翼を大きく広げ羽ばたくと同時、夜一へと翼から刃の羽根が風を切り裂き、飛んでいく。

 その羽根の後を、自身も瞬歩による高速移動でついて行く。

 しかし、相手も瞬神の名を持つ夜一。

 最低限にして最小限の瞬歩で羽根を避け、逆に迫ってくる。

 

白雷(びゃくらい)

 

 向かってくる夜一へと牽制を目的とした破道を放つ。

 瞬歩のスピードに付いていける様、速さのある雷撃系の技を選択するが、その速さでさえ瞬神の前にはただの攻撃にしかすぎない。

 向けられる指先を読まれ、さらに速さの上がった夜一にかわされ、懐へと入られる。

 だがそれも、考えていたこと。

 

「なっ?!」

 

 夜一から繰り出された右の蹴りを右腕で受け止め、左の拳を左腕で受け止める。

 そして、お返しとばかりに……地へと頭が、空へと脚が向いている“逆さま”の状態から、夜一の頭へと膝を振り下ろす。

 牽制目的で放った白雷によって出来た、本来の目的……一瞬の視界が閉じる隙をついて相手の考えもつかない行動を取ることで、さらに大きな隙を作る。

 そこへ、肘や膝を使った急所への必殺の一撃。

 だが、それさえも受け止められている腕と脚を力任せに前へと弾き、その反動を使って後ろへと離れ、かわされる。

 逃がすな! 離れれば時が開く!

「分かってる! 赤火砲(しゃっかほう)

 

 振り下ろした“脚”から無詠唱で破道の三十一【赤火砲】を放つ。

 本来なら腕から放たれるものだが、こやつにとっては違う。

 斬魄刀の始解が出来、翼を知ってからこやつに、手と脚の差はなくなった。

 地面に脚をつけておく必要がなくなった為、手同様に両脚をも攻撃に使えるようになった。

 

「おぉっ!!」

 

 翼を羽ばたかせ、脚を振り下ろす縦回転から体を無理矢理横回転へと変化。

 赤火砲を後ろへと体を傾けることでかわした夜一へと、さらに追撃をかける。

 翼の先から突き刺すように回転しながら、翼、腕、脚と反撃をさせずに連続で攻撃を仕掛ける。

 いや、反撃の隙を与えてはいけないと本能で悟り分かり知り、反撃をされた時が自分の負けだと、連続で攻撃を仕掛ける。

 

(攻撃に対応出来ていない今のうちに、一撃……強烈な一撃を撃ち込む。だから、攻撃を休めるな!)

 

 自身へと言い聞かせながら、翼を何度も羽ばたかせ、一度たりとも脚を地へと下ろさない。

 上下左右からの腕と脚に加え翼も使った、普通の相手では体験することのない攻撃に夜一が対応出来る前に、一撃を入れようと間を入れずに攻撃を続ける。

 こやつにとっては、たったの数秒が数時間。数分が数日と、かなりの時間が過ぎたかのように感じ覚えるほどの時間。

 だが、それさえも瞬神夜一の前には、たったの数十分の時間で対応されてしまった。

 

「――やりにくい攻撃じゃが、そろそろこちらからも」

白雷(びゃくらい) 散在(さんざい)する(けもの)(ほね)! 尖塔(せんとう)(こう)(しょう)鋼鉄(こうてつ)車輪(しゃりん) (うご)けば(かぜ) ()まれば(そら) (やり)()()(いろ)虚城(こじょう)()ちる!

「おぉ?! 話ぐらい聞かんかっ!」

()(どう)の六十三 雷吼炮(らいこうほう)

 

 聞きたくないと言わんばかりに、腕を向けて破道を放つ。

 白打による攻撃を繰り出していた至近距離での破道が、夜一を飲み込んだかのようにこやつ、我からは見えた。

 しかし、それも白き閃光と衝撃に消え去った。

 

 

 

 <視点変更>

 

『――うわ、瞬閧(しゅんこう)。あれは、痛いじゃ済まないわ。下手したら死んでるんじゃ』

『それだけ、夜一も焦っているのだろう。私も、今の祐一君の攻撃を手加減して防ぐことはできないと思う』

 

 その通りじゃ。

 あやつの白打(はくだ)は、すでに隊長レベルに届くか届かないかの段階まで、出来ておる。

 それに加えて、斬魄刀の能力が合わり総合じゃと、隊長レベルの上の者でも、あの攻撃に成れていなければ十分に戦える。

 あれだけのことを言い張れるわけじゃの。もっとも、経験も足りとらんし、隊長レベルの力を引き出せるのもほんの少しの間だけか…

 

「今は、お主の負けじゃ」

 

 まだまだわしに勝つのは早い。もっとも、瞬閧に吹き飛ばされ、転がって気絶しているから聞こえてはおらんか。

 ……吹き飛ばされ、転がって? 待て。手加減をしたとは言え、あの威力じゃと断崖の外まで余裕で吹き飛ぶ筈じゃ。

 しかし、まだそこに……

 

「――そうか、翼を盾に防いでおったか」

「ああ。ま、まだだ。まだ終わってねぇ」

 

 翼から、僅かに残っていた羽根を飛ばしてくるのを、体をほんの少し逸らすだけで交わす。

 額、腕、脚。体中から血を流しながらも、あやつは力を振り絞り立とうとする。

 息を荒げ、動くたび血が流れ、このまま戦えば死の体へと変わると言うのに、

 

「なぜ立ち上がるのじゃ。負けは見えておろう」

「……理由は三つ。一つ、あんたに一撃も入れてない。二つ、負けが見えていても、俺はまだ戦える。そして、三つ」

 

 確かに感じられる、戦うと言う意志。

 防いだ時に吹き飛んだか、砕かれたか……先ほど飛ばした羽根で残りはすでに無く、骨だけとなった翼が空を舞おうと大きく広がる。

 そしてなにより、あやつの目にはまだ戦う意志の光が宿っておる。

 

「旅禍の事件の時は、まだ院にいたから欠片も参加できなかった。その後も、隊に入ったばかりの時は観空隊も作られてはいなかった」

 

覚悟は決まったか

 

「出来たのはごく最近。まだ数十年しか経ってない。だから観空隊が出来て、そこへの就任が決まった時、俺は決めたんだ」

 

 意志の高鳴りに霊力が反応する。

 あやつの中にある霊力が高まり、眼に見えるほどに体の外へと漏れ出していく。

 

そうだ。もっとだ。すべての霊力を

 

「たった一度見たあの死神の背中。ただ、あの強さになりたいと誓った……誰の為でもない――ただ俺の――魂に!

 

我を服従させよ! 我を従わせよ! 我を屈服させよ!

汝、祐一。そなたが望むなら力を貸そう。

見せてみろ。そなたの生きる意志、戦う意志、望む意志を!

 

「【(ばん)(かい)】」

 

 

 霊圧が一気に急上昇し、辺りの風を集め暴風と化す。

 土埃があやつとの間に渦を巻き、その姿が覆われる。

 間違いない、この霊圧……これは――

 

卍解【天光神刀鳥王(てんこうしんとうちょうおう)

 

 

 白い光の翼を生やす、人の姿をした鳥……違う。あれは、ぞくに言う天使。

 手には鳥の足を模った爪の刃。自身の足にも同じ爪の刃。

 翼、羽根、爪、全てが光によって形を作られておる。

 

「名の通り、天に存在する光鳥か!」

「時間が無い。悪いが一分以内に決めさせてもらう」

 

 

 

  <視点変更>

 

「穿て、神刀光羽・散」

 

 大きく広げられる翼。

 始解時と同様に、翼から羽根が夜一へと飛んでいく。ただ、その数と速さの桁が違う。

 両手で数を数えられる量だった羽根が、千を超える量が飛ぶ。

 夜一も、負けずに瞬閧で吹き飛ばすが、すでにこやつは後ろ。

 

「射ろ、神刀光羽・突」

 

 先ほどとは逆に、小さく折り畳まれる翼。

 貫通力のある密集された羽根が塊となって飛んでいく。

 それも夜一は瞬閧で吹き飛ばそうとするが先ほどとは違い、数が減ったとはいえ羽根は瞬閧を貫き夜一へと迫る。

 

「くっ! 次はどこから――」

「舞え、神刀光羽・風」

 

 翼を羽ばたかせ、広範囲に羽根の混ざった大風を暴れさせる。

 瞬閧を発動している状態では、攻撃力の低いこの攻撃はダメージを与えることはできないだろうが、目的は足止め。

 霊力の限界が迫っているからこそ放てる、炎が最後に一度強く燃え上がるように、そこに最大の一撃を…

 

「滅せ、神刀光羽……終」

 

 動きの止まった夜一を中心に、残像によって十三にまで数を増やし囲む。

 それぞれ同時に翼に光を蓄えるかのように、光を多く大きく翼へと収縮し――

 

「終わりの速さ、それは光の狭間に存在する――誓いし想い(こころ)

 

 ――爆発する。

 

 

 

 

 

 試合から一週間が経った。

 試合の熱気は当に冷め、尸魂界は平凡ないつもの日々へと戻っていた。

 そして、その試合の当事者は……

 

「なかなか起きないの」

 

 試合終了と共に倒れ、未だに眠り続けている。

 限界を超えた霊力の発動に加え、初めての卍解での大技の連発。

 体に大きな負担がかかり、強制的休息を求めていた。

 

「勝ったとはいえ、これでは本来の戦いでは何の意味もない」

 

 そう。試合はこやつの勝ちであった。

 最後の大技を防ぎ、その防ぎきった時に生まれる硬直に、本能的に卍解を解いた斬魄刀を首の後ろから突きつける。

 ただ、それだけ……勝敗を決めた。

 

「俺の勝ちだ」

「……負けじゃの。ふぅ〜、少し、慢心しておったか…」

「運が良かっただけ、だ――」

「お、おい……気絶しておる」

 

 たった数秒だけ。

 卍解を解いたことで、霊力が最後まで保つことができた。

 もし卍解のままなら、霊力が切れて夜一が勝っていただろう。

 だが、結果はこやつの勝ち――運が良かったであろうと、偶然であろうと、勝ちは勝ち。

 まったく、さすがと言うべきか…

 

 

 

 こやつが目覚めたのは、さらに三日が経ってからだった。

 傷と言う傷はすでに治されており、大半は霊力が戻るのを待つのみであった。

 寝ている間にも、一般の死神達の見舞いと、今では英雄扱いである……英雄の意味は、いろいろとあるだろうが。

 隊長クラスの人達も、一度だけではあるが様子を見に着たりもしていた。中には、危ない意味で着ていた人物もいた。

 もちろん、戦った相手夜一も着ていた。ただ、他の隊長達とは違い毎日のように…

 それで、現在……起きたこやつは、

 

「あ、あの夜一さん? は、恥ずかしいですけど」

「夜一で構わんぞ。試合のときは、そう呼んでいたではないか」

「いや、あれは今を思えば大胆だったなーと」

「気にしないことじゃ。お主はわしに勝ち、約束どおり結婚するのじゃから」

「!? あれは結婚を前提にお付き合いして欲しいだけで、結婚自体はまだ先で――」

「却下。お主にはどうやら敵が多そうじゃから、手は先に売っておく方が良さそうじゃ」

 

 なにを言おうと、すべて言いくるめられる。年上の貫禄か?

 確かに、敵は多い。こやつは気づいていないが……まったく、自分のカリスマ性に気づけ。

 

「それと、卍解を使った為に、お主に隊長への任命が来ておる」

「えぇっ!?」

 

 予想はしておったが……あの一件以来、未だに隊長の席が開いている隊があるからな。

 他にも卍解を使える者もおるが、断る奴が多いと聞く。

 

「まぁ、早すぎると思ったから辞退すると言っておいた」

「そうですよ。いくらなんでも俺が隊長だなんて…」

 

 そうだな。実力はギリギリ届くか届かないか。

 まだ早い。まだまだ強くなってからでないと、他の隊長方に申し訳がない。

 

「お主もそう言うと思って、代わりにわし自身が育て上げてから受けると返答した」

「へ?」

砕蜂(ソイフォン)にも手伝ってもらう約束はした。他の隊長方も、暇があれば手伝うと言っておったからの。まぁ、楽しみにしておくことじゃ」

 

 それは聞いていなかった。

 しかし、これもなにかの天命だろう。

 この際、思い切り扱いて貰え。

 

「は、ははは、はっ――」

 

 夢への逃走を計る。

 もちろん、そんなことを夜一が許すはずも無く、頬を抓ることで引き戻した。

 見るからに、その顔が楽しそうに笑っているのは、気のせいではないだろう。

 態々、あぐらをかいた状態の上にこやつの頭を乗せ、変形がたの膝枕とでも言う状態なのも、からかっているから。

 もしかしたら、隊長の件も自身が楽しむ為か……こやつも大変な人に惚れ込んだものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

「のぉ、砕蜂」

「はっ、何でしょうか夜一様」

「お主は、祐一のどこに惚れたんじゃ」

「!?」

 

 お茶を運んできたお盆が手から滑り落ちる。

 今の今まで訓練をしていた、夜一は汗を少し掻く程度だが、肝心のこやつと言えばわしを吹き飛ばされ、さらに一撃貰い気絶しおった。

 だから休憩としているのだが…

 

「隠さんでもよい。お主の態度を見ていれば一目瞭然。それで、理由はなんなのじゃ?」

「いや、夜一様? 私がそんな下級の奴に惚れるなんて有るわけ無いじゃないですか。

確かに、こいつは夜一様に勝ったぐらいですから魅力もあるでしょうし、他の隊長の方々にも気に入られているみたいですが……私が?

そんな訳がないです。いつもいつもどこかにふらつき歩いていて、詰所にはいないし、複数の女性に囲まれていますし、それに…」

「それに?」

「犯罪予備軍の域にいるやつですよ。いつもの行動に、あの時事故だとは言え、着替えを覗かれるなんて…」

「素っ裸を見られたのか?」

「なっ!? 下着は着ていました!!」

 

 聞いておると、先ほどから自爆ばかりの気が。

 わしはこれだと、好意を持っているのか持っていないのか分からないが、付き合いの長い夜一には分かるのであろう。

 

「まぁ、それでも見られたことには変わりない。本当にこやつは面白いのぉ〜」

「夜一様? 分かってくれましたか?」

「ああ。砕蜂はこやつが大好きなんじゃろ。大丈夫じゃ。お主になら側室を任せても構わん、安心するが――」

「違います!! なにを言って、大体夜一様――」

 

 あとから聞いた話だが、お茶菓子を持ってきたのは砕蜂だったらしい。

 

 

 

 

  おまけ弐

 

 言い忘れておった。

 こやつの所属する隊。隠密機動第六部隊(かん)空隊(くうたい)は、空を飛べる者や、遠くを見ることの出来る能力を持つ観測を目的とした部隊。

 そして、まぜこやつがファンクラブの者達に慕われているかと言うと…

 

「日番谷隊長のブロマイド五枚!」

「こっちは乱菊さんのを十枚だ!!」

「俺は、此間の戦闘のDVDだ!」

「はい、まいど!」

 

 その能力を使い、隠し撮りをし、販売しているからだ……もっとも、本人達にはばれており、交渉のすえ、公認して貰っているが。

 いくら観測の練習と言っているとはいえ、難儀なものだ。

 ちなみに始めの頃は、照れて逃げるものもおった為、追いかけて撮影しておったが、さすがに隊長クラスになると、追いつけない。

 そのお蔭と言うべきか、瞬歩をマスターし、さらにはスピードも上がり、彼女達からも逃げることが容易くなった。

 そうそう。追いつきさえすれば、撮っても良いと護廷十三隊の総隊長から許可が出ている。

 おかげで、写真を撮ることも公認されたという訳だ。

 それに、こやつの大会以来、すでに五回もの大会が開かれている。それらを纏め、DVDとやらに保存し販売までしている。

 これらは大会だけでなく、一般の戦闘訓練も撮っており、自分や相手のチェックをする人物の為に売られている。

 真っ当な商売もしている。お堅い隊長方も買いに来ておるからの――っと、砕蜂が着たぞ。

 

「なに?! 皆逃げるぞ!」

 

 全部が犯罪とは言えんが、この行為はギリギリの物もあり、ふざけた事が嫌いな砕蜂に怒られまいと逃げ出す死神達。

 こっちは現行犯でないと、意味がないからな。

 たまに、部下に命じて夜一のを買いに来させているくせに……こやつには内緒だが、こやつのも買っておる。

 

「ほら、行くぞ刀鳥王!」

 

 まったく、面白い奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

rk「謎の人物とは、祐一の斬魄刀でした」

祐一「今回は、BLEACHを見てないと分からない用語も出てきたが、大丈夫かな?」

rk「まぁ、結構有名なのしか出してないはずだが……卍解とか、尸魂界とか」

祐一「分からなければ、検索するのも手だな」

rk「あ、ちなみに……隠密機動第六部隊(かん)空隊(くうたい)と現世の記憶を持っている、訓練大会はオリジナルですから」

祐一「実際のBLEACHにはありません。それと、一部のキャラが壊れていると感じる人もいるかも知れませんが、もしもの場合は…」

rk「アニメの終わりにあるおまけの、死神図鑑を参考にしていると考えて。お願いします」

祐一「それじゃ、俺の斬魄刀【刀鳥王】の設定」

 

  斬魄刀の名『刀鳥王(とうちょうおう)』

 始解状態前は、唾の無い小太刀。基本、白打(素手による体術)を使い戦う為、小太刀の状態で使うことは少ない。

 始解時は、羽根が刃となった翼。

 飛行能力を持ち、羽根を飛ばすことも出来る。ただ、羽根は飛ばせば無くなっていき、始解を解かない限り再生することは無い。

 斬魄刀自体の強度はあまり無く、攻撃力の高い攻撃には羽根を砕かれることもある。

 始解するのに必要な「対話」と「同調」率が、他の斬魄刀に比べ飛び抜いて高い。

 

  【卍解】の名は『天光神刀鳥王(てんこうしんとうちょうおう)』

 白い光で出来た形を作られた翼、羽根。始解時には無かった、腕と足に鳥の足を模った爪が現れる。

 すべてが白い光で形を成しており、羽根や爪を飛ばそうと、砕かれようと霊力がある限り再生することが出来る。

 光の速さとまでは行かないが、超高速での移動が可能になっている。

 

  刀鳥王(本体)

 一メートルの種類が分からない鳥。理由は分からないが、性格を除いて夜一と似たり寄ったり。

 「対話」と「同調」率の高さからか、戦闘時になるとアドバイスや指南をしてくる。

 普段も、祐一の許可があれば心の中から外を見たり、具現化し祐一の上空を飛んでいる。

 

  技

 神刀光刃・『散、突、風、終』

 それぞれ、羽根の放ち方の違い。

 散は全面に羽根を、突は一点に集中して、風は翼を羽ばたかせて風と共に羽根を飛ばす。

 終は、羽根に光を集め、光を蓄えた羽根を全方位に飛ばし解放させて爆発を起こす技。決め技でもある。

 

 

rk「途中、一弥が出てきましたが、意味はありません。死後なので、出ても良いだろうと思っただけです」

祐一「他にも言いたいことはいろいろあるが、単なるお茶目だ。流してやってくれ」

rk「これぐらいかな?」

祐一「そうだな」

rk「それでは、また次のでお会いしましょう」

rk・祐一「また〜」