※郁乃の性格が変わってるとかそんなこと言う人嫌いです。

 

 

 

 

〜妹〜

 

「あ、河野君」

「ん? あぁ、小牧か……あれ隣にいる子は?」

「うん、妹なの。この前まで入院してたんだけど、無事完治してね。うちの学校に通うことになったから、今日は挨拶して帰ろうと思って」

 

小牧がそう言うと、脇にいた小牧と同じ色の髪を一つに纏めた少女がこちらを見る。

その後小牧の方を見る。仕草から紹介しろと言っているようだな。

 

「紹介するね。こっちは妹の郁乃、彼はクラスメートの河野君って言うの」

 

郁乃と呼ばれた小牧の妹さんは特に何を発するともせずに、黙ってこちらを見る。

な、なんか品定めされてるような目だな。正直、落ち着かない。

 

「よろしくな。小牧―――じゃ、お姉さんと被るか。じゃあ、郁乃って呼ぶな」

 

郁乃は何も喋らずに黙ってこちらを見続けてる。

その澄んだ目は全ての悪事を見通してるような気がして、悪いことをしてないのに何故か罪悪感に駆られる。

にしても、どうして喋らないんだ?

 

「あ、ちょっとトイレに行ってきます。その間、郁乃を見ていてくれませんか?」

「あ、あぁ、わかった」

 

とことことトイレへと向かった小牧を見送り、俺は郁乃と向かい合う。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

く、空気が重い……

向こうが全然喋ってくれないし、俺自身女の子が苦手な性分だから、雄二みたいに進んで話せる人間じゃないし……

だけど話さないと相手のことがわからないし。

 

「……」

「……ね、ねぇ」

「……?」

「な、なんで喋らないのかなぁ……って、い、嫌なら答えなくてもいいんだけど」

 

言った。言ってやったぞ。

当分は絞る勇気は無さそうだ。

郁乃は一瞬きょとんとした顔をしたが、小さく口を開けた。

 

「……お姉ちゃんが」

「小牧がどうしたの?」

「お姉ちゃんが、男の人と話したら取って食われてしまうって言ってたから」

「あ、あ〜、そ、そうなんだ」

 

コクンと頷く郁乃。

そういう人も世の中に入るよな。多分。

 

「……あと、男の人はいつも懐に麻縄を忍ばせてて、近づいたら縛られちゃうよって」

「あ〜、それはないから安心して」

 

一体、どんなこと吹き込んだんだよ。小牧。

というか信じる郁乃も郁乃だが。

 

というか黒い姉の妹は真っ白ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒マナ3外伝 白い郁乃さん、略して白イク3

〜ToHeart2 ショートショート〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜例外〜

 

「でも、それならなんで小牧は俺と話してるのを黙認してたんだ?」

「お姉ちゃんは特別に男の人と話していい神に選ばれた人間だって言ってたから」

「それもまぁ……なんとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜○○○〜

 

「お待たせしました、二人とも」

「おう」

「……」

 

トイレから帰ってきた小牧に手を挙げて答える。

郁乃はまた黙り込んでしまった。

 

「それじゃ、ヤクドに行きましょう」

「随分と唐突な」

「郁乃を見ててくれたお礼です。奢っちゃいます」

 

とニコニコ顔でおっしゃる小牧。

なるほど、それならお言葉に甘えようか。

 

「……やだ」

「ん? どうしたんだ、郁乃」

「ヤクドはやだ……ヤクドだけは……」

 

男の人の前とかそんなことお構い無しにいきなり怯え始める郁乃。

うわ言にヤクドだけはヤクドだけはと言っている。

 

「ど、どうしたの? 郁乃」

「だって……ヤクドって、○○○の肉をハンバーガーに使ってるって!

「そ、そんなことないって! な、なぁ?」

「そ、そうよ、郁乃。ヤクドは○○○の肉なんて使ってないって、せいぜい犬とか猫とか―――」

 

それでも十二分に嫌だな。

というかちゃんと牛肉使ってるって!

 

「嘘っ! だってあたしテレビで見たもん!!

 ヤクドは○○○の肉を使っていたって!」

「都市伝説の特集番組を真に受けるなぁ!」

 

俺の言葉もなんのその。取り乱してロックバンドのボーカルみたいに頭をぶんぶん振る郁乃。

結局ヤクドに寄らずに、近くの喫茶店に行くことになった。

やべ、俺も小牧達の呼び方が伝染したか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ヤクド〜

 

「そういや、郁乃もヤックのことをヤクドって言うんだな?」

「……だって、お姉ちゃんがヤクドこそが全国どこでも使われる通称だって言うから」

「本当、純粋だな。姉に見習わせたいよ」

「河野君、ちょっと一緒に来てくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜コーラ〜

 

「じゃあ、注文何にしますか?」


メニューを開き、小牧が聞いてくる。



「俺はコーラにしようかな?」

「こ、コーラって飲むと歯とか骨が溶けるって前にテレビで―――」

「言ってないから安心しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜恋愛〜

 

「でもこんなんじゃ、郁乃と付き合う人なんか苦労しそうだよな。

 こうなんでもかんでも鵜呑みにするような性格じゃ、さ」

「河野君は郁乃のこと、どうですか?」

「まぁ、嫌いじゃないかな? たしかに苦労しそうな性格だけど」

「……」

「……」

「……」

「これから郁乃をよろしくお願いしますね。河野君」

「……不束者ですが」

「飛躍しすぎだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜流行〜

 

 

「べ、別に、あんたのことなんか全然好きじゃないの!

 で、でも、あ、あんたがどうしてもって言うなら、つ、付き合ってあげたっていいわよ?」

「い、いきなり、どうした?」

「最近流行ってるって雄二に聞いたから」

「よし、雄二、殺す」

 

ちゃんと「グッジョブ」ってお礼を言ってからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜姉の感想〜

 

「にしても本当、純粋だよな。郁乃って」

「物心ついた頃から病院に通ってて、学校なんてほとんど行ってなかったから、少し世間知らずなところがあるかもしれないですね」

「ただの世間知らずで済ますのか?! これ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

愛佳が黒なら郁乃は白だ。

決して下着の話じゃありません。

どうも、中一くらいまでコーラを飲むと骨が溶けるという都市伝説を信じてたJGJです。

そんな安易な考えから書いてみましたが、白って難しいですね。

なんか黒に染まっちまった自分には純粋な郁乃を書くのは不可能のようです。

 

 

 

 

 

2006年2月27日作成