「つ、ち、みぃぃぃぃぃぃっ!!」
「AB班は校庭から回り込め! CDE班は上の階から、F班はこのまま突撃ぃ!!」
今日も国立バーベナ学園に、怒声と小さな揺れが起こる。
学園の半数の男子生徒が一人の男の子を追いかける為に。
「今日も揺れてるね〜」
「そうですね。声から考えて、一階の辺りでしょうか?」
追いかけられているのは、ボクの腐れ縁にして後輩の土見稟ちゃん。
幼馴染の楓に、神界の王様の一人娘のシアちゃんと魔界の王様の一人娘のリンちゃん、神界と魔界の共同で計画した……えーと、名前は忘れちゃったけど、その計画で生まれたプリムラちゃん。
神にも魔王にも凡人にもなれる男の子の異名が付けられるほど……モテモテの子。
「稟ちゃんも、いい加減に誰か決めちゃえばいいのに」
「まぁ♪ まままぁ♪ 亜沙ちゃんと稟さんが〜」
「あー、またスイッチ入っちゃった」
トリップしている親友に、諦めながらも背を押して歩みを進めていく。
そう、実はボクも稟ちゃんが好き……今はどうなんだろう。
楓達を見ていると、ボクはあそこまで積極的になれない。
弟な気分もするし、ね。
怒声と小さな揺れは今も続き、どこからか稟ちゃんの悲鳴も聞こえる気がするよ…
「あぁ、亜沙ちゃんそんな、大胆です〜」
「いったいボクは想像の中で、なにをしてるの?!」
カレハの漏れ出した想像に、つい振り向き……階段から足を踏み外した。
やっちゃった……そう思いながらも側の手すりに掴まろうと手を伸ばすが、カレハの分スペースを空けていた為、手すりにはあと少し届かずボクは、背中から踊り場へと落ちていった――――あれ?
「痛くない?」
「いっ……足元には気をつけろ」
声に急いで振り向くと、床のボクの間には男の子が。
冷たい床に落ちた痛みはなく、ボクは落ちる前に一人の男の子に抱きとめられていた。
「っおい、とっとと退け」
「あ、ごめんね」
彼の痛そうな声に慌てて飛び退く。
そうだよね、ボクを庇い間に入っただから痛いに決まっているよ。
起き上がって改めて彼を見ると、彼が持っていたノートやファイルが周りに散らばっていて、それを放り出してボクを助けてくれたのが分かった。
「あ、拾うよ」
「稟、さん?」
「え――稟、ちゃん?」
カレハの声に振り向くと、口に手を当てて驚いているカレハ。
そんなカレハの姿に驚きと疑問を持ちながら、改めて助けてくれた人の顔を見る。
稟ちゃん。ボクを助けてくれた彼は稟ちゃん……違う、稟ちゃんじゃない。
ボクを助けてくれたのは、稟ちゃんそっくりの人。稟ちゃんと違って、前髪が目元まであって髪の色もちょっと違う。
でも……助けた時に髪が崩れ、見えた顔は稟ちゃんそっくり。
「……あんたらか」
ボク達を改めて見て、まるで不運だとばかりに見る。特に、ボクを見て……嫌な奴に会ったみたいに。
すぐに周りの散らばっている物をぐしゃぐしゃっと適当に順番も関係なく集め、最後にボクの持っていたのを奪うように取って、胸にぶら下がっていた鎖付きの眼鏡を、ボクを受け止めた時に割れちゃったにも関わらず掛けて、もう用はないと階段を上って行った。
「今の……稟さん、では無いですよね? もちろん」
「うん、稟ちゃんならあんな態度とらないよ。それに、ボク達……嫌われているのかな? すごく嫌そうにしてたよ」
「初対面ですよね? ……それなら何もしてない筈ですよ?」
「うーん、それならなんで嫌われているだろ。よし、カレハ」
「調べるのですね」
「もちろん! 理由も分からずに嫌われているなんて嫌だもん。助けてくれたお礼も言ってないしね」
魔法による彼氏獲得法
その後、すぐにボク達は行動開始。彼のことを調べたんだ。
「実際に調べたのは、私なのですよ」
「あはは、それは置いといて。どうなの?」
お昼休みの屋上。
向こうでお弁当を食べている稟ちゃん達から離れ、反対側の屋上の端で麻弓ちゃんもあっちの輪から引っ張り、ボク達は彼のことを聞くのでした。
「まぁ良いです。お探しの人は相沢祐一。先輩方と同じ3年生で、夏から転校してきた人なのです。成績優秀ですが、性格は地味に暗い人がクラスの人達の話です。あ、それと……転校前の学校では別人みたいな人だったらしいのです。明るくて人付き合いも良くて、クラスのムードメーカーで、学校内で知らない人はいないほどの」
「だけど彼にも悩みがあって、こっちに来たんだよ」
「「「魔王様!!」」」
いきなりの会話に入ってきた魔王様。いつの間に、ここ学校ですよ。
リンちゃんに、ここにいると分かると話の邪魔になりますから、ばれないでくださいね。
「分かっているよ。だから、それは置いてといて」
そのセリフ、どこかで聞いたことがあるよ。
「話は聞いたよ。祐ちゃんを調べているだってね。私としては彼を調べるのは止めて欲しいのだけど……うん、彼にも側にいてくれる人は必要だよね」
一人、なにかを納得している魔王様。
どこで話を聞いたのかは知らないけど、彼のことを知っているし。
「祐ちゃんは、元々ネリネちゃんに匹敵するほどの魔力の持ち主なんだ。でも、それだけ強大な魔力は操ることが出来ず、ただの魔力を溜めているだけの器。たまにいるんだよ……魔力が高いけど、使うことのできない子が」
「ちょっといいでしょうか。相沢祐一さんは、魔族の方なので?」
「祐ちゃんは人と神族のハーフだよ。この症状は、特にハーフに多いんだ。彼の見た目は人よりだけど、神族の血が濃くて魔力が大きい。けど、人の血が魔力を抑えているらしくて、魔力を使えないんだ。それで子供の頃、目の前で怪我をした友達を助けらなかったことがあるんだよ」
いつもの魔王様と違い、シリアスな魔王様。
なんでそこまで彼のことを知っているのか、怖いけど…
「だから君達に嫉妬しているんだよ。魔法の使える君達にね」
……もしかして、あの時の視線はボク達に問題が合って向けていたじゃなくて、単純にボク達が魔法を使えるから向けていた?
「それに……あ、ネリネちゃん達に気づかれたみたいだ。最後に一つ教えてあげるよ。祐ちゃんなら、放課後図書室にいるよ」
最後に、何か言おうとして本当に煙と共に消える魔王様。
結局その後は、ネリネちゃんに変なことを吹き込まれなかったか聞かれて、話の続きは出来なかった。
それで放課後、カレハと一緒に図書室へ行って直接本人に確かめることにしようとしたんだけど、カレハはフローラでのアルバイト。
図書室にはボク一人で行くことに……誰か一緒に行ってもらおうかな?
……事情を話せる人は、みんな断られたよ。
なんで今日に限ってみんな忙しいんだろ……まさか、魔王様の策略とか?
「うわ、本当にそう思えてきたよ…っと、ここだよね」
戸の上のプレートには、図書室の文字。
うん、ここ……失礼しまーす。
「珍しいですね、ここに人がくるなんて。なにかお探しですか?」
図書室に入ると、すぐ横に在ったカウンターにいた受付の人、司書さんから声をかけられた。
意外と広い図書館の中には今入ってきたボク以外いないから、僕に対して言っているだよね。
どうしよう……他の人に声をかけられるなんて、考えて無かったよ。
「ひ、人を探しているのですよ……相沢祐一君って言うですけど」
動揺のせいで、麻弓ちゃんのような口調になっちゃった。
「本当に珍しいです、探し人が彼とは……奥の準備室にいますよ。ついでに、これも渡しといてくれます? 仕事があるので」
「は、はい、分かりました」
受付の人から本を受け取り、逃げるように奥へと歩く。
あの人……威厳があって真面目で冗談が通じそうに無い人、ボクの苦手のタイプだよ。
最後に、一度だけ本棚の影から覗いてみる……どこでだろう、どこかで会ったことがあるんだよね…
「あ、いた」
「……時雨? なんでここに」
図書室の奥にある準備室。
魔界や神界のボクには訳の分からない本ばかりの、本の物置と呼ぶような場所。
その部屋の中、入り口から一番遠い所に彼はいた。
「まず、これ。受付の人から」
本が山積みになった間を抜けて、足場が塞がっている所は本を退かしたり跨いだりして彼の近くへと歩いていく。
側の棚には、本が一杯に詰め込まれるように入っていて、今にも崩れそう……あそこ、すでに崩れてるや。
「さっき頼んだ本か、助かったよ時雨。それで、お前自身は何のようなんだ?」
「助けてくれたお礼を言いたくて。あの時、言ってなかったから」
ありがとう、ボクがそう言うと小さく笑みを浮かべる彼。
なんだかその笑みが綺麗で、あの時ボクに対して向けていた視線が嘘みたい。
でも、すぐに笑みは消えて、無表情に変わる。
視線は持っていた本に向けて、もう用はないと態度を表す。
「それと、単刀直入に言うよ。ボクを嫌っている理由を知りたいんだ」
「本当に、言葉通りだな」
「それがボクだよ」
疑問に思っているなら解決しないと、夜も眠れないよ。
それに、一方的に嫌われるなんて嫌だもん。ボクが悪いことをしたなら謝りたい。
だから、
「ボクは嫌われている理由を知りたい」
「……ここにいるって、誰に聞いた?」
「魔王様」
「口止め、しておくんだった」
読んでいた本をため息と共に閉じ、諦めた様子でボクを見る。
ボクはその目をしっかりと受け止める。本当に聞きたいのか、その視線に逸らさず、聞きたいと視線で訴える。
「どこまで聞いた?」
「ハーフのことと、魔力が多いけど使えないこと、子供の時に友達を助けられなかったこと」
「聞いてないのは、一番の理由だな……ここに転校してくる前にいた場所で、五つの奇跡とも言えることが起きた」
近くのファイルの山から、一枚のファイルを取り出す。
これって、新聞を切り抜いて纏めたもの……冬の街で五つの奇跡。
街の病院に入院していた患者五名が奇跡とも言える回復を……これって、魔法じゃないの?
「魔法じゃないのって顔だな。魔法だよ、俺の魔力を使ったな」
「どういうこと? 魔法は使えないじゃないの?」
「俺は、な。他人が俺の魔力を使ってそれをやったんだ。そこに書いてある七年間寝ていたって子が。おかげで、俺は助けてくれたヒーロー扱いだよ……どんなことでも叶えてくれる奴って感じでな」
やれやれと呟きながら…
「願いを叶えないと喚かれるは泣かれるわ、見ている側としては召使い扱いだ。魔法を使えない俺は、子供の時にいじめられていたのにさ。今度は魔法を使った……俺じゃないっての。ほんと、使えてたらどれだけ良かったか」
「それで、ボクを嫌うのは……魔法が使えるのに魔法を嫌って使わないから?」
「ああそうだよ。醜い嫉妬さ……俺が望んでいるものを、嫌がっているのがムカつくんだよ。時雨のことは魔王様に聞いた、俺と同じような人はいないかって。娘さんのことを褒めたら一発だ」
魔王様……絶対にネリネちゃんに話してやる。
「こうやってここに閉じこもっているのも、自身で魔法を使える方法を探す為……魔力を取り出す方法は、あいつが使ったみたいにすれば良かったからすぐに解決したけど、まだまだ先は遠い」
悲しげじゃなくて、寂しげな声。
今も自分は何も出来ていない……魔法が使えないまま。
それが嫌で、辛くて、変われない自分にムカついている。
「……自身で魔法を使える方法が見つかるまでは、時雨に対しての態度は変わらんよ。諦めるんだな」
「そんなに、自分を責めるように言わないで…」
君は、何にも悪くない。だから自分を責めなくても良いんだよ。
言っている言葉とは違い、重く辛い口調の声は……聞いているボクの方が辛く悲しくなる。
自分を傷つけようとしないで、自分に優しくしてほしい。
「責めてなんて、いないさ……もう良いだろ。悪いが出て行ってくれ」
ひょいっと、首根っこを捕まれて準備室から猫みたいに放りだされる。
後ろでは準備室の戸は閉められ、鍵までも掛けられる。
拒絶……されたかな? 今日はもう駄目だね。はぁ、仕方ないや……明日から地道に頑張ろう。
「――頑張ろう。そう、決めたのは良いですけど……会ってもすぐに顔を逸らされて、喋ってもいないんです」
「皮肉なものね……こんなに近くにいるのに。たった一枚の板に阻まれているなんて」
「嬉しいことと言えば、私達が作ったお昼を受け取ってくれていることでしょうか?」
「「「はぁ〜」」」
あれから一週間。
次の日、カレハに相談して出来ることを探した結果、やっぱりボク達なら得意の料理を使った作戦。
お弁当を作って渡して仲良くなろう大作戦……成果は、お弁当は受け取ってくれたけど一緒には食べてくれない。
代わりと言っちゃなんだけど、祐ちゃんとではなくて受付のお姉さん。司書さんと仲良くなれたよ。
苦手のタイプなのは変わらなかったけど……話してみると、とても良い人。
「最近は、家にも帰らないであそこに住んでいるし…」
「えぇ?! 家に帰ってないの?」
「前の日、私が帰るときにはまだいたし、次の日朝早くに来たら、あそこで寝ていたわ」
「そういえば……クラスの人の話では、授業も出ていないそうですよ」
もし朝と夜のご飯を食べてないなら、その分も作ってこようかな…
でも、そんな生活していたら絶対に体を壊すよ……なんで、そんなに自分を酷使するの。
「止めないと……あのままじゃ、いつか本当に倒れちゃうよ」
魔王様の話だと、魔力を使わないでも体に問題は無いらしいけど、ボクみたいに大変なことになるよ。
「……ピッキングするから無理矢理引きずりだす?」
「司書さんなら、鍵を持っているのじゃありませんか?」
「あの中」
準備室を指す。
なるほど、祐ちゃんが持ってるんだね……むしろ、奪われた?
「いつの間にか予備のまで無くなっているし、一応貴重な資料も有るから壊すのも、ね――開いたわ」
手馴れたって言うのも変だけど、戸の鍵穴にヘアピンを差し込んで簡単に鍵を開ける司書さん。
かっこいい……女泥棒さんがぴったりだよ、ヘアピンだけで開く鍵もどうかと思うけどね。
それに、イメージ変わった? ピッキングが出来てするような人には全然見えないだけど…
「それじゃ、亜沙……あとは任せるわ」
「何かあったら、悲鳴を上げてくださいね。微笑ましく聞いています――まぁ♪ まままぁ♪ 亜沙ちゃん、そんな大胆ですわ〜」
「え、ボク?! それに悲鳴って、なにがだよ!? トリップしてない――」
回答も無いまま準備室へと押され、戸を閉められる。
ボク……大丈夫だよね。
「……よし。祐ちゃ〜ん……祐ちゃん? あれ、いない」
別のことの覚悟も決めて、祐ちゃんの名を呼ぶけど……準備室の中は相変わらず本の山で、見渡す限りに祐ちゃんの姿はなかった。
部屋の出入り口は一つで、司書さんがずっといたんだから出て行った筈はないんだけど……祐ちゃんの姿は見えない。
本でまた塞がった道をなんとか歩いて奥へと進んでいく。
すると、一番奥で何かが動いた。
「――寝ちゃってる」
手前の本の山から顔を覗かせると、本と本の間の狭いスペースに上着をかけて寝ている祐ちゃんの姿が。
そんな姿に、ボクの中のいたずら心が思わず手を伸ばし、祐ちゃんの頬をちょんと突く。
だけど祐ちゃんは、くすぐったそうに頬を歪めるだけで、ぐっすりと眠ったまま起きそうにない。
せっかく覚悟を決めたのに…
「部屋の中に男の子と女の子が二人きりなんだぞ――ってボク、なにを言ってるの?! カレハの影響かな? あれ?」
祐ちゃんの胸の辺りに散らばっていたレポートのいくつかに、紅い染みが付いているレポートが在るのに気がついた。
このレポート、魔力と血の……って、この染み血?!
「祐ちゃん怪我してるの?!」
慌てて祐ちゃんの体にかけてあった上着を払いのけ、怪我をしている部分がないか調べる。
すると、シャツの右腕の部分に赤黒い染みを見つけた。
急いで、でも優しくシャツを……ああもう、血が固まっていて捲くれないよ。
仕方がなく、ボタンを外してシャツを脱がせる……本当に仕方がなく、だよ。
「……こんな時は、魔法に感謝だね」
傷口に手を当てる。
それだけで、光が傷口に集り傷を治していく……うん、出来た。
祐ちゃんの腕を両手で握りながら、傷のあった部分を撫でる。
傷は消えたし、あとも残ってない。嫌だと言ってる割には、ちゃんと使えてる。
魔法を使ったことになんとも言えない気持ちを感じながらも、ボクは祐ちゃんの傷が治ったことに安心していた。
「魔法、嫌いなんだろ」
ふと、握っていた手を握り返される。
ゆっくりと、瞑っていた目を開けると、今にも泣きそうな表情の祐ちゃんがボクを睨んでいた。
「自分は人だ、だから魔法は使わない……なのになんで、なんでただ知っているってだけの奴の為に使う?!」
祐ちゃんの言っていることは、確かにその通りだ。
ボクは人……魔法を使えるけど人、人でありたい。魔法を使わなければ人でいられる。
だからボクは魔法を使わない。だから、ボクは魔法が嫌い。
だんだんと溢れてくる魔力で壊れていく体を知りながらも、ボクは魔法を使わなかったぐらい。
カレハや稟ちゃん達に説得されるまで魔法は使ってない。ううん、今でさえ魔法はぎりぎりまで使ってない。
それほど、ボクは魔法が嫌いだ。
なのに、ボクは魔法を使った。だって、ボクにとって祐ちゃんはただの知っている奴じゃない。
「ほっとけないもん。ボクは、君のことが気になるから」
「……なんで、なんで俺なんか」
「祐ちゃんは、もう少し自分に優しくしてあげて」
「……できない」
いつの間にか突き放そうと祐ちゃんはボクの腕を掴んでいた。
でも、その手は震えて、弱弱しく力が篭っていない。
「なら、ボクが優しさをあげるよ。だから自分を傷つけることはしないで」
頬に手を当てて微笑む。
「……うん」
涙を流しながら、頷く。
それを見て、思わず笑みが浮かぶ。
「おいで」
小さく頷き、ボクの差し出した手を握ってくる。
その手を引っ張れば、ゆっくりと近づいてくる。
さらに抱き寄せれば、ボクの腕の中へ。
「もう少し、寝ててもいいよ」
言葉をかけるだけで、すぐに寝息が聞こえてくる。
泣きつかれたのか、ただ本当に眠かっただけなのか……どっちでも良いよね。
「可愛い寝顔……お昼になったら、お弁当一緒に食べようね」
気がついたことがある。
「――あ、カレハ……亜沙、いますか?」
「ええ。亜沙ちゃ〜ん、旦那様が」
「カレハ! 二人の時はいいけど、こんな所で言わないで。ほら、いこ祐ちゃん」
放課後、教室まで毎日迎えに来てくれる祐ちゃん。
始めはクラスの友達にからかわれて恥ずかしかったけど、迎えに来てくれるのは凄く嬉しかった。
手を繋ぎ、家まで一緒に帰る。
家の方角が一緒なのは、後から知ったこと。
「――いつも迎えに来てくれて、ありがとね祐ちゃん」
「べ、別に亜沙の為に迎えにいっている訳じゃ……そう、ただの礼だ。お昼をご馳走になってる」
ボクがお礼を言うと、いつもそっぽを向きながら否定する祐ちゃん。
言い始めはハッキリと喋っているのに、終わりになるにつれて小さくなる声。
祐ちゃんはボクの周りにいなかったタイプ……ツンデレキャラであることに、ボクは気づいたんだ。
「たまに晩飯までご馳走になっているし、お返しなんてこれぐらいしか思いつかなくて」
「祐ちゃん……ねぇ、今日はどうする? ボクの家で食べていく?」
「今日は実験がしたいから、遠慮する」
「それじゃボクが作りに行くよ。調理器具とか調味料は、大丈夫?」
いつもはボクの家に招待しているから、まだ祐ちゃんの家には行ったことがない。
一人暮らししていても、一通りはあるよね。
「たぶん、ある……ただいま」
「たぶん? お邪魔しまーす」
「お帰りなさい、二人とも」
ちょうど祐ちゃんの暮らしているアパートに着く……って、あれ返事が、
「今日は亜沙も一緒なのね」
「し、司書さん?」
「別に服装が違うだけよ、分からないかしら?」
図書館で会っていた司書さんが、部屋の中にいた。
え、なんで?
「……あ、もしかして言ってなかった?」
「俺の母さん」
「えぇ?! 祐ちゃんのお母さん!?」
「それで、今日はどうしたの?」
「ご飯作ってくれるって」
「それは助かるわ。さすがに冷凍やコンビニは飽きたからね」
頷きあっている二人を横に、ボクは驚いたまま思い出していた。
そういえば初めて司書さんに会った時、どこかで会った気がしていたことを……神族を隠している変装を外した祐ちゃんに似ているんだ。
階段で受け止めてくれた時、眼鏡が外れて髪も崩れて隙間から見えていた耳。
麻弓ちゃんのようにオッドアイで、ちょっとだけ尖がっている耳……うん、目の前で比べてみると、確かに似ている。
「神族の人だもん、若い姿のままだよね」
気づかされたこともある。
あとがき
rk「亜沙先輩による祐一攻略SS」
祐一「別に、題名に意味はありませんので、深く考えずに読んでくれよ」
rk「そうそう。ただの思いついたのを勢いで書いただけだから」
祐一「その勢いが、ローゼンとかリリカルへと行けば良いんだがな」
rk「……両方、作成進行率が0だもん。無理無理」
祐一「ははは」(苦笑
rk「あははははは!!」(高笑い
祐一「武装錬金! ……臓物をブチ撒けろ!」(怒
rk「うぎゃぁぁぁ―――」(切断