少年の誓い
〜魔法少女リリカルなのはAs〜
SルートgT「時に非情な初デート?」
『俺は、お前に楽しんで欲しいんだよ』
『さっさと言えよ。心配掛けたって良いじゃないか、…………心配、させろよ』
れをおこいは神
です金めけたの
かまくらにとじ
いせられええゅ
けるいてのてう
つなでい意言じ
せらこる味えか
よそと 。がばに
。』
教会の人々は、この事態にどうする事も出来なかった。
だがその時、何処からともなく二休探偵が現れたのだ。
彼は十字架とその手紙を見詰め、数瞬後……
「そうか……。皆さん、神父さんの居場所が分かりました」
その後、神父は無事に保護され犯人も逮捕された。
二休探偵の言葉通りに、全てが上手くいったのだ。
――一体、彼はどのようにして神父の居場所を突き止めたのか?
映画を鑑賞後、俺達は駅前をぶらぶら歩いていた。
隣の少女は右へ左へ視線を動かし、時折何かに反応したりして見ていて面白い。
お嬢様然としている普段より、年相応の少女らしくて純粋に良いと思った。
「それにしても、さっきの映画面白かったね」
「あぁ、期待以上だったな」
すずかからの言葉で思い起こす、先程一緒に見た映画の内容。
探偵が事件を華麗に解決する、オムニバス形式の映像作品。
それぞれの事件が冗長的でなく、かと言って急ぎ足で進む訳でもない。
解決の為のヒントは常に出て来てるし、難し過ぎるトリックも使用していない。
ミステリーとしては初心者向けでありながら、見せる作品としては一級の素晴らしさがある。
「最初の事件だっけ、ラストが衝撃的だったなぁ」
「確かに、あの見せ方は素直に上手いと思ったな」
閉鎖された島内で、画面には二休探偵のみ。
そして『犯人は私ではない』と言う言葉と共に、彼は画面の先を指差した。
――犯人は貴方です――
突如その場から体をずらす探偵、そこには姿見が鎮座している。
映るのは――――カメラを抱えた1人の男。
つまり俺達が見ていた映像を撮っていた者こそが、犯人であると。
「途中、聖君が『あっ』なんて言ってたから何かと思ったけど、確か食事中の場面だったよね?」
「あぁ、画面の手前にも皿が並んでたからな。撮ってる映像が独立したものじゃ無いって気付いてな」
「凄いよね。二つ目の事件も、レントゲン写真のシーンで何かに気付いてた」
「不自然な破片があれば、誰だって気になるだろ?」
二つ目の狙撃事件。
弾丸が見付からない理由は、正に写真にあったのだ。
砕けた骨の破片の中に存在した、小さい弾型のナニカ。
それは、紛れも無く『骨』だった。
つまり弾丸自体が骨であり、故に見付ける事が出来なかった。
探偵の『木を隠すには森の中』という言葉が良く分かる事件である。
「でもお前だって、三つ目は気付いてただろ?」
「アハハ、やっぱり分かっちゃう?」
三つ目の事件、神父の居場所は手紙の中に隠されていた。
普通に読んでも見付からないが、そのヒントが十字架だったのだ。
上から三行目を横読み、そして真ん中の行を立て読みする。
十字架のように読む事で出て来る言葉が『かまくらにとじこめられている(鎌倉に閉じ込められている)』
つまり攫われた神父は、鎌倉に居たのだ。
ついでにすずかは、手紙がアップで映った辺りで気付いたらしい。
そして俺はというと、その後に探偵が十字架をマジマジと見詰めた時にピンときた。
他に幾つもの事件はあったが、その度に俺かすずかが答えを導き出していた。
内容にのめり込むのは良かったんだが、何処か競争してるような気がする。
映画を純粋に楽しむという点では、何か違うのかも知れない。
まぁ、でも……
「楽しかったね」
「あぁ」
隣を歩く少女の笑顔には、発される想いが偽りで無い事が理解出来る。
純粋に喜んでくれている事実が、今の俺には途轍もなく嬉しくて堪らない。
「さ、行こっ♪」
「おっ、おう……」
徐に掴まれた手も、彼女を受け入れている。
少し恥ずかしいけど、それ以上にこの時間をもっと楽しみたいと思ってしまったから。
彼女と、すずかと一緒に居られる時間を……。
今俺達は、海鳴の臨海公園に来ている。
映画の後、散々歩き回った挙句、彼女は何も買う事無く此処に至った。
だが当の少女は至って満足しており、これで良いかなと感じてしまう。
本当、不思議である。
そして俺が両手にクレープを持ってる姿も、本当に不思議である。
「ほい、すずかの分」
「ありがとう」
ベンチに座る彼女にブルーベリーチーズクレープを渡し、俺はその隣に座る。
残ったフルーツミックスクレープを手に、すずかに視線を移す。
甘い匂いに頬を緩ませ、彼女は顔を綻ばせている。
口には出せないが、素直に可愛いと感じてしまう。
――ヤバい、顔が熱くなってきた。
「どうかした?」
「あっ、いや……何でもない」
恥ずかしさを隠すように、自分のクレープに齧り付く。
その様子に、すずかはクスクスと静かに笑う。
……何だろう、何故か分からないけど負けてる気がしてきた。
悔しいので、思い切り齧り付いてみた。
うん、色々なフルーツの酸味が甘さと混じって美味い。
あのクレープ屋、侮れん。
「あっ、美味しい」
「こっちも中々イケる」
「本当?」
「あ、あぁ……」
あのぉ、すずかさん?
何ですか、その羨ましそうな目は……。
俺のクレープを見るその目の真意は一体、何ですか?
もしかして……
「食べたい、のか?」
「えっ、良いの!?」
「あ〜ぁ、…………うん」
「ありがとっ♪」
師父、勝てません。
すずかのあの瞳には、どうやっても勝てません。
「それじゃあ貰うね」
既に俺が口を付けたクレープ、そこまでなら良いだろう。
だが、この後の彼女の行動が問題だった。
クレープを持っている俺の手に自分の手を添え、口許に寄せる。
はむっ、と小動物のような可愛らしい食べ方で一口。
「んっ、……これも美味しいねぇ」
取り敢えず言える事は、――――俺が食った所を食わないでくれ……。
しかも本人気付いてないし……。
「どうかしたの?」
「何でもねぇよ」
気付いてないなら、敢えて言う必要は無いだろう。
つーか、そんな事を馬鹿正直に言える筈も無い。
恥ずいっての……。
手に持つクレープには、自分のと比べて小さい食べ跡。
…………意識せずにはいられない。
だが買って来た以上、食わない訳にもいかない。
此処は恥を忍んで、一気にいくしかない。
南無三っ!!
口の中に広がる酸味と甘味、そして良く分からないナニカ。
自分の中で頑なに守ってきたモノが崩壊した気がするのは、決して間違いではないだろう。
「美味しいね」
「あぁ……そうだな」
確固たる何かが瓦解した俺に、既に羞恥心など存在しない。
何の躊躇いも無くクレープを食していく。
「んむ、美味い……」
潮風を感じる公園で、一つのベンチに座る一組の男女。
2人の間には少しの距離、きっと傍から見れば不自然な隙間だろう。
でもそれは、俺が図りあぐねているだけだ。
彼女との距離、月村すずかとの距離を……。
一体、今の俺達はどれだけ近い存在なのだろう?
隣で嬉しそうにクレープを頬張る少女は、どれだけ俺に近付いてくれてるのだろう?
「…………」
どうしてなのか、気付けばそれを考えていた。
自分でも持て余すこの感情は、一体……。
「あれぇ、どっかで見た事ある顔じゃん」
「――っ!?」
風に乗って、芯の無い声が耳を突く。
何の重みも想いも感じられない、ただの音波でしかないモノ。
思考の海を漂っていた俺を、急速に引き上げる不快な声。
そして何よりも、――――それには聞き覚えがあった。
「おいおい、まさか……」
声のした方に振り向けば、4人の少年の姿。
俺よりも少し上だろう、学校指定の夏服に身を包んでいる。
だがその身形は、お世辞にも良いとは言えない。
正直、相対する俺からすれば不良としか言い様が無い。
目付きも姿勢も人に向けるには不躾過ぎる。
それもあって隣のすずかは、少しだけ顔を強張らせているのが見て取れる。
「何だよ、知り合いか?」
「あぁ。昔、何度も俺達に喧嘩仕掛けて、ボロボロになってる馬鹿みてぇなガキだよ」
「あぁあぁ、思い出した。弱いくせして無駄に吠えるんだよな」
目の前でゲラゲラと大笑いをかます奴等。
不快極まりないが、此処でキレても仕方が無い。
過剰に反応すれば、相手が付け上がるだけだ。
依然としてこの状況を理解し切れていないすずかの手を引いて、ベンチから立ち上がる。
「行くぞ」
「えっ、あっ……」
ニヤニヤと気味悪い笑いを止めない奴等を放って、俺達はその場を後にする。
こんな手合、構っていくだけ無駄だ。
さっさと別の場所へ行こう。
「おい待てよ」
だが空気の読めない男衆は、俺の肩を掴みながら止めに入った。
クソっ、邪魔するなっての。
心底にある嫌悪感を視線に込めて、奴等の主格である男を睨む。
「何?」
「久し振りに会ったってのに、そんな顔すんなよ」
「何だよコイツ、こっち睨むなんてムカツクぜ」
「先輩を敬う気持ちってのは無いのかよ」
未だ表情を崩さず、グチグチ言葉を吐き捨てる。
見ていて本当にイラつく。
それに、こいつ等を見てから左腕が疼いて仕方が無い。
「まずは敬うって言葉を勉強し直すと良い」
「んだと、テメェ」
俺の言葉に集団の1人が急にキレだし、胸倉を掴んできた。
怒りに歪んだ表情が眼前に迫るのだが、見苦しい顔にしか見えない。
心の嫌悪を更に深め、俺を掴む腕を本気で握り返す。
「痛っ、イテテテテテっ!?」
突然の痛みによって振り払われ、俺の体が解放される。
その様子に、他の奴等も此方に敵意を向けてきた。
4対1、劣勢にはならないが、面倒な事この上ない。
「お前さぁ、また俺等にボコられたいワケ?」
「本気でやっちゃおうぜ」
公園の一角、今はあまり人気が無い場所。
そんな穏やかな風景が、こいつ等、そして俺によって崩されようとしている。
きっと望んでない、俺もすずかも。
力を誇示するだけの行動は、師父の教えに反する。
それでも、やらなければならないなら……
「下がってろ、すずか」
「う、うん……」
やるしかないだろう。
自分の背後に少女を下げて、俺は全神経を研ぎ澄ます。
「今から謝ったって、許してやらねぇからな!!」
1人が右腕を振りかぶり、踏み込む。
腕の位置から叩き込まれる拳のスピードを把握し、掌を使って受け流す。
そのすれ違い様に腹に一発、握り拳を当てて弾き飛ばした。
次の敵は…………もう来てる。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
声でタイミングを掴ませるとは三流以下。
顔面に迫る拳を掴んで自分の横に引き付ける。
そのまま勢いを殺さず、縺れた足を自分の足で引っ掛けた。
数瞬後、「ぐえっ」と情けない声を上げて地面に倒れ伏す男。
ソレを尻目に、残りの2人に目を向ける。
「なっ、何だよ!?」
まるで見た事無いようなモノを見たような目で、俺を見ている。
……無様だな。
そこには既に、先程までの余裕は微塵も無い。
それも当然だ。
お前等の知ってる俺は、もう2年前に置いてきたのだから。
「二度と目の前に現れるな、俺に関わるな」
威圧を込めて言葉を紡ぐ。
自分の本心を嘘偽り無く、あるがままにぶつける。
折角のすずかとの時間を、こんな奴等に壊されては堪らない。
「さっさと消えろ」
今まで溜めに溜めた澱みを吐き出す。
語気は荒げず、それでいて意志を支配する怒りだけは留めず……。
視界に映る2人、地面に伏す2人に向けて射殺すように突きつけた。
即座に恐怖に慄く表情へと変わり、そして――――――――風向きが変わった。
「っ?」
分からない、一体何が変わったのか。
分からない、自分が優位に立っている筈なのに。
分からない、目の前の奴等がニヤリと笑みを浮かべた事に。
そしてそれは――――
「きゃっ!?」
背後の短い悲鳴で、否が応にも知る事となった。
「っ、すずかっ!!」
刹那の時を以って背後を振り返ると、すずかが囚われていた。
見知らぬ1人の少年、恐らく奴等の仲間の1人だろう。
全くの予想外、まさか援軍なんてものがこの状況で起こるなんて……。
計画的なものでは無いだろうが、それでもタイミングが悪過ぎる。
「何だよお前等、こんなガキにやられちゃって」
「うっせーよ、これからが良い所なんだよ」
「へいへい。…うおっと、あんまり暴れるなよ」
「止めてっ、離して!!」
力を振り絞って振り払おうとするが、所詮は少女の足掻き程度。
一回り大きい体格の男には、勝てる道理は無かった。
その様子を目の当たりにし、彼女の許へすぐさま飛び出す。
「動くな!!」
「――っ!?」
だが、その警告によって自身を止めざるを得なくなった。
それは、頭で理解していたからだ。
こいつ等の言葉に従わなければ、今以上に立場が悪くなる。
それだけは、避けないといけない。
すぐにでも駆けつけたい衝動を理性で抑え付け、先程の2人に向き直る。
卑下た笑いは深くなり、無用心に俺との間合いを詰めてくる。
もしこんな状況でなければ、すぐにでも張り倒すのだが……
「さっき、なんつったけ、なぁ!?」
「っ!?」
「聖君!!」
数瞬後、右頬の痛覚が訴えてきた。
殴られたようだが、幸いだったのはたたらを踏む事無く体勢を保てた事だ。
無様に倒れてしまう姿は、こいつ等に晒してはならない。
それは、すずかにも……。
「消えろ、だっけか!!」
今度は腹。
息を飲み込み、声を漏らさないようにした。
するともう1人が俺の体を後ろから羽交い絞めし、完全に固定する。
「よくもまぁ、俺等に偉そうな事言えたよな!!」
次は左頬。
「テメェは、俺等に殴られるだけの癖して!!」
右肩。
「何カッコ付けてんだよ!!」
左肩。
「ウザいだけなんだよ!!」
「くっ!?」
顎にアッパーを決める。
ヤバい、脳が揺れる……。
視界がブレて、焦点が定まらない。
これは拙い、このままじゃジリ貧だ。
何とか突破口を開いて、状況を変化させないと。
その為にはまず――――絶対に意識を手放してはいけない。
そう意気込んで、俺はこんな奴等に負けてやらないと心に誓った。
「おらぁ!!」
あれから、どれだけの時間が経っただろうか?
5分、10分、もう分からない。
何せ、もうずっと殴られ続けているのだから。
もうずっと、すずかの悲痛な叫びを聞き続けているのだから。
俺が傷付くのは構わなかったが、彼女のその声だけは我慢するのが厳しかった。
俺はそんな声が聞きたくて、此処に居るんじゃない。
「はぁ!!」
だと言うのに、形勢は全く変動しない。
口の端からは、赤い血が流れているに違いない。
だがどれだけ殴られ続けても、こいつ等は手を緩めようとはしない。
きっと俺が目を逸らさないせいだろう。
何度殴られようとも、焦点がブレようとも、瞳だけは真っ直ぐに向ける。
殴る係は数回の交代を経て、最初の奴に戻っている。
…………そう、何年も前からの因縁に結ばれた男。
俺の大切なモノを悉く傷付けようとする、俺にとっての天敵。
生涯相容れないであろう、最悪の権化。
「ムカつくんだよ、その目がよ!!」
拳が顔面にめり込む。
くっ、今のはかなり効いたぞ……。
殴られ慣れた俺でも、何度、何十度も殴られ続ければダメージは蓄積する。
瞳は真っ直ぐに、それでも視界はボヤけ、焦点が自分の意志に従わない。
辛うじて繋ぎ止めてる意識も、半ば飛びかけてる。
全身にも力が入らず、羽交い絞めにされなければ地面に倒れ伏してしまうだろう。
「おらよっ!!」
そんな姿、誰にも見せたくない。
こいつ等に見せたくない、自分が負けだと思われるから。
すずかに見せたくない、何一つ守れない弱い奴だと思われるから。
俺の力は何の為にある?
そう、大切なモノを守る為だ。
「うらぁ!!」
だったら、此処で倒れるのはお門違いだ。
例え何があろうと、俺はこんな奴等に、自分自身の弱さに負ける訳にはいかない。
守るんだ、負けないという意志を。
守るんだ、大切な少女を。
「これで、…どうだっ!!」
「――っっっっっ!!!」
脳天に振り下ろされた拳は、さながら全てを刈り取る鎌のよう。
俺の想いも虚しく、全神経が俺から離れていく。
完全な脱力は行動不能を意味し、そしてある結末を予感させる。
駄目、なのか……。
また負けるのか、こいつ等に。
守る、その行為すら俺には過ぎたものだったのか?
それ程までに俺は、弱くて卑小な存在でしかなかったのか?
顔が上がらない。
本当に、もう駄目かもしれない。
「す………ず……かぁ」
「っ!?」
ゴメン、ゴメン、ゴメン。
今日一日、絶対楽しい日にしようとしたのに。
守ると決めたのに、結局俺では届かなかった。
半ば無意識に出た言葉は、喉から絞り出た滓みたいに惨めで。
こいつ等に哄笑される程、哀れだった。
「キャハハハハ、何だよコイツ。女々しい声出しやがって」
「何だよ気持ち悪りぃな」
「泣きそうじゃん、ソイツ」
「じゃあ泣きながら言えよ、『スミマセンでした、僕が馬鹿でした、二度と逆らいません』ってよぉ!!」
髪を掴まれ、視線を無理矢理合わせられた。
もう薄目しか開けられない顔は、滑稽でしか無いだろう。
でも、請う事はしない。
もう霞の掛かった世界には、目の前の奴すら視認するのが難しい。
だから凡その見当を付けて、声を振り絞る。
「ま……も…る……から…………」
「あぁん? 何言ってんだよ!?」
「ま…けな………い……から」
男としての意地、それだけが紡いだ言葉。
滑稽でも構わない、自分の意志だけでも貫くって決めたのだから。
だから――
「なっ、テメェ!?」
――――えっ?
もう見る事の叶わない背後で、何かが変化した。
どうしてかは分からないけど、また風向きが変わったようだ。
一体、何が……。
「うおっ!?」
「離して……」
俺を締め上げていた力が消え、体がガタンと糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
だが地面の衝撃は来ない。
代わりに柔らかくて温かいものに包まれていた。
何だろう、よく分からないけど気持ち良い。
最後の力を以って、そこに目をやると……
「あ……ぁ…………」
目尻に涙を湛えた、すずかだった。
どうして此処に? そんな疑問は湧かなかった。
唯、そんな悲しげな顔にさせてしまった事が申し訳無くて。
「ごめ……ん…」
その謝罪も彼女は優しく首を振って答えた。
大丈夫だから、と優しく抱き締めてくれる。
抗えない、彼女の優しさに身を委ねてしまう。
意識が………遠く……に。
「今は、休んで」
最後に見た彼女は、穏やかに微笑んでいて……。
その瞳は、例えようも無い位――――――紅く染まっていた。
〜Interlude by:SUZUKA〜
「ごめ……ん…」
必死に絞り出した声は掠れていて、かなり近付かないと聞き取るのは難しい。
でも私にはその声が、この耳にハッキリと聞こえてきた。
それはきっと、彼が何よりも伝えたかった言葉だったからだと思う。
私に一言『ごめん』と……。
全身をボロボロにされて、まともに動く事すら許されないその状態で。
今にも泣きそうな瞳で、私に謝罪を述べてきた。
その姿に、私は彼を抱き締める事しか出来なかった。
「今は、休んで」
涙を流さぬよう、最大限の笑みを向ける。
聖君はそのまま、たゆたうように眠りへとついた。
「……」
これでいい。
今日は聖君のお陰で、本当に楽しかった。
ずっと1人の女の子で居られると、信じれたかもしれなかった。
彼となら、本当の意味で一緒に居られたかもしれなかった。
……でも、もう無理。
私の切なる想いも、目の前の少年達によって粉々に砕かれた。
聖君を傷付けた、最も忌むべき存在。
しかし何よりも私は、――――――自分自身が忌々しかった。
「……大っ嫌い」
「あぁ? 何だよ?」
聖君との時間を楽しむあまり、私は自分が普通 であると勘違いしてしまった。
普通の女の子で良いと、思えてしまった。
でも現実は、それを容易く否定する。
――――お前は人間 じゃない、化け物 なのだ。
どれだけ優しい世界に、優しい人達に出逢っても、結局私は相容れる事は出来ないのだ。
自分を偽り、最後まで線引きをした関係に留まる。
どれだけ絆を深めても、やっぱり何処かで距離を置いてる自分。
生涯、私は誰かを受け入れる事は出来ない。
――お姉ちゃんのようには、出来ない。
「聖君を傷付ける貴方達も、私自身も、大っ嫌い」
もう止まらない、止まれない。
目の前に居る人達を、この手でどうにかしたくて堪らない。
聖君が負った痛み辛みを、やり返したくて堪らない。
壊れ物を扱うように彼を優しく地面に降ろし、立ち上がる。
――もう、我慢出来ない。
「な、何だコイツ、目があか――」
「――黙って」
別に凄みを利かせた訳じゃないのに、彼等は酷く怯える。
あぁ分かってるんだ、自分達がどうなるか……。
私の大切なモノを傷付けた、愚かな大罪人。
――――判決は、この手で下される。
―――――――――――――――
あとがき
どうも、いつの間にやらこんな長くなってしまったTruthです。
色々とネタを詰めたり削ったりしてたら、こんな容量になってしまいました。
『少年の誓い』中、最長のSSではないでしょうか?
しかし僕はこれ以上は削らない、文が崩れるから!!
ハイ個人的な理由です、スミマセン。
ですが、投稿が遅れたのはそれだけじゃありません。
関係のリセット、それが最も比重を占めていました。
Aルートを終え、次はSルートになる訳ですが、自分の中でAルートを引き摺ってる感じがありました。
9XIIからの聖でないと、物語として矛盾が生じてしまいます。
その部分で今回は苦戦致しました。
なので、何処かおかしな点が幾つか存在するかも知れません。
その時は掲示板や拍手でバンバン指摘して下さい。
兎に角、漸く動き出したSルート。
不安は拭えませんが、頑張っていきたいと思います。
今回は以上です。
それでは〜。