バアァン!!
――その炸裂音が、俺の視界を閉ざした。
――憶えてるとしたら、腹部の強烈な痛みと、アリサの呆然とする表情。
――分かってしまった。
――男は銃を使って俺を撃ったのだと言う事を。
――高を括っていた、奴等は銃を使わないだろうと。
――だがそんな事はあり得ない。
――どんな人間であろうと、窮地に陥れば何でも出来てしまう。
――計画が壊れてしまうなら、全て壊してしまえばいい。
――既に奴は、人としての道を外れたのだ。
――そして、俺もそろそろ人としての道から転げ落ちるのだろう。
――自分1人で大丈夫だと、調子に乗ってこのザマだ。
――少なくとも、天国へ行けるなんて期待はしない。
――地獄で後悔し続ける、それが愚かな俺には相応しい。
「聖、お前は諦めるのか?」
――師父……。
「好きになった子を助ける事も出来ないまま、お前はそのまま終わるのか?」
――俺には分不相応だった。
――誰かを守るなんて、誰かを助けるなんて。
――人として当然の行為でさえ、俺には荷が重すぎたんだ。
――ほら、俺には何も出来ないじゃないですか。
「……」
――月村も、ノエルさんも分かっていたんだ。
――俺なんかじゃアリサは救えない。
――だから恭也さんを呼んだんだ。
――彼女を確実に助ける為に、最良の方法を取ったんだ。
――なのに俺は、意地になってそれを無視した。
――自分1人で大丈夫だと言って、挙句の果てに返り討ち。
――俺、滑稽ですよね?
「……」
――誰も言わないんですよ、俺が不要だって。
――何の力も無い俺を、あくまで拒絶しないんですよ。
――それが優しさだと言うのなら、俺はそんなもの要らない。
――そんなモノを押し付ける位なら、最初から俺の立つ場所を作らないでくれ。
――そうすればきっと、俺は諦められた。
――アリサを守ろうなんて思わなかった。
――冷静で居られた、彼女を悲しませずに済んだ。
――俺の存在は、唯の無意味でしか……
「誰かを守りたいと願い、実行する事。それをお前は、滑稽という言葉で嘲笑うのか?」
――えっ?
「好きになった子を守ろうと思わなくて、お前はそれで後悔しないのか?」
――でも現実は、俺では超えられなかった!!
「出来る事が全てか? 出来なければ全てが無駄か?」
――それは……。
「有り触れた言葉だが、『出来るか出来ないかじゃない、やるかやらないかだ』というのは的を射ている。やると決めたその意志こそが、人が生きるという事そのものなのだから」
――それでも、出来なければ駄目なんですよ!!
「だったら出来るまでやり通せばいい。1度が駄目なら2度、それでも駄目なら3度。諦めの悪さがお前の美徳だろう?」
――でも、俺はもう死んだ……。
「何だ、お前は自分が死んだと思えば死ぬのか?」
――えっ?
「だったら生きると思えばいい。お前はまだ死んでない、これからも大切な人を守りながら生きていくのだから」
――俺が……
「そう、お前が『聖』である限りな。お前は誰よりも、自分の想いに聖しく生きていくのだから」
――そうだった。
――師父が俺にくれた名前の意味。
――何よりも忘れてはならない、大切な意味。
「お前の想いは何を願う?」
――後少しだけ動く体が欲しい。
「お前はそれで、何を行う?」
――自分が聖しいと思う事をします。
「ならば願え、自分自身に願え。まだやりたい事があると、まだ終われないと」
――前を向いて、ゆっくりでも進む。
「自分が聖しいと思う事を成せ」
――そうだ、自分自身の正義を、聖義を貫く。
――聖しいと思う義を貫く。
――それが、俺自身に込められた願い。
――諦めるなんてお門違い。
――例え泥水を啜ろうが、腹に穴が開こうが、俺は前に進む事を諦めてはいけなかった。
――体なんてモンは、意地で何とかすればいい。
――ボロボロになる事なんて、今までに腐る程あったんだから。
――要は心の問題なのだ。
――諦めの悪さがあったから、今の俺がある。
――だったら今更、悪足掻きの一つや二つ程度じゃ大した苦にはなりはしない。
――だから、もう少しだけでも頑張るのだ。
――本当に師父は凄いな、さっきまでの俺が酷くくだらなく見えてしまうんだから。
――師父、ありがとうございます。
――俺、貴方の息子として誇れるよう、もう少し頑張ってみます。
――自分が納得出来るように、やり通して見せます。
《Then, let's hold out.(では、頑張りましょう)》
――それは、1人の少年の誓い――
――少女の求める、たった1人の王子様になる決意――
少年の誓い
〜魔法少女リリカルなのはAs〜
AルートEnd「アリサ〜王子様へ至る道〜」
〜Interlude〜
事件は終わった。
エンハンスグループの極一部の人間による『アリサ・バニングス誘拐事件』。
世間を揺るがすであろうスキャンダルである筈が、公に広まる事は無かった。
大事になる前に沈静化した事で、ニュースとして大々的に取り上げられず、これまた極一部の人間のみが知るだけのものとなったのだ。
故にその事件を解決した者が、被害者の少女と同年齢の少年だという事実も、当事者以外は知る由も無い。
もしその事実が世間に広まれば、一体どうなるであろう?
少なくとも当事者はそれを望まず、闇に葬れる事ならそうするべきと判断した。
エンハンスの代表者も、バニングスグループの代表者であるデビット・バニングスの許を訪れ直接謝罪した模様だ。
当分の間は精力的な活動を自粛し、自らが犯した過ちを忘れずに行くと申した。
デビット氏もその言葉を信じ、今回の事件を大衆に公開しないと宣言。
自分の娘が誘拐されたというのに、器が大きいにも程があるとは、誰かの言。
しかし、だからこそグループを率いていく存在となり得たのだろう。
デビット・バニングス、彼は偉大なるトップであり、偉大なる父親だった。
〜Interlude out〜
「はっ!!」
腰に溜めた力を使い、横に薙ぎ払う。
だがその一撃は、相手の片腕によって軌道をずらされた。
更に一歩踏み込む。
相手も此方の動きを先読みしていたらしく、ほぼ同時に後ろへ下がる。
そこへ振り切った腕を返し、地を砕くような踏み込みと共に一撃。
しかし今度は両腕で防御、完全に押さえられた。
「くっ……!」
拮抗する刃と刃。
ギリギリと軋むような音が、異常に大きく聞こえる。
目の前の相手に負けじと歯を食い縛り、力を前面に押し出す。
目線の先の表情は、対峙し始めた時から変わらず真剣そのもの。
だが俺と圧倒的に違うのは、そこにある余裕。
俺はこの状況に精一杯で、焦りすら生まれている。
だが相手の顔に、そのようなモノは存在しない。
たとえどれだけの策を弄そうが、冷静に確実に対処してくるだろう。
その対応力が、何よりも脅威だった。
「っ……!」
――――どうする?
拮抗する鍔迫り合いの最中、次なる手を思考する。
相手が相手だけに、二手三手先を読んだ程度では意味は無い。
隙を生み出すなら最低でも十手、もしくはそれ以上が絶対条件。
だがこの状態では、頭の回転など上がりはしない。
完全な手詰まり、このままでは俺が押し切られて負けるだろう。
しかし……それが揺るぎないものでも、せめて裏を掻く何かを――
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!
突然、けたたましい鈴の音が鳴り響く。
まるで目覚まし時計の音色。
それを耳で感じ取った俺達は、お互いを見合わせ競り合いの態勢を解いた。
互いに間を空けて、一礼。
「「ありがとうございました」」
声を揃えて、試合の終わりを告げる。
顔を上げ緊張を解くと、俺は――――ぶっ倒れた。
恥も外聞も無く、自分の体から発される悲鳴に素直に従った。
「あ゙ぁ〜〜〜っ」
先程まで持っていた木刀は、既に地面に零している。
いや、もう握力が限界だっての……。
その場で大の字になり、肺に空気を送り込む。
その様子を、傍らの男性は穏やかな表情で見守っていた。
「流石の聖でも、今回の長丁場はキツかったか?」
「えぇ……かなり、疲れましたよ」
男性、恭也さんの言葉に息を切らしながら答える。
ったく、この人の体力は無尽蔵か?
そんな悪態を吐きたかったが、余計に疲れるから止めた。
「しかし、最初の頃と比べれば随分と上達したな」
「いや……この状況、を見てそれ、言いますか?」
どんな賛辞を貰っても、こんな情けない姿では素直に共感出来ない。
恭也さんの言葉は事実だろうが、やはりそれを受け入れるにはまだまだ時間が足らないのだ。
「2ヶ月……。お前が俺達と鍛錬を始めて、それだけが経った」
「そう、ですね……。時間が経つのは、早いもんです」
2ヶ月、俺が恭也さんに師事し始めてからの月日。
そして、あの事件が終わってからの月日でもある。
あの事件で、俺は自らの弱さに痛感せざるを得なかった。
アリサを守れず、自分も大怪我を負う始末。
仕舞いには家族や皆を必要以上に心配させてしまった。
誰が見ても自業自得、反論の一言も出ない。
どれだけ意気込んでも、どれだけ想いを貫こうとも、力が無ければ想いを照明する事は難しい。
俺には、想いを照明する為の力が必要なのだ。
それには今までの鍛錬だけでは足らない。
今までにした事の無い、自分を変えられる何かを……。
これからも真っ直ぐ歩いていく為に、後悔しない道を選べるように……。
「だったら、家に来るかい?」
――自分の家の道場で、稽古をしないか。
偶々、俺の見舞いに来ていた士郎さんの提案。
あまりにも唐突だったが、それ以上に嬉しかった。
目の前の人の辿ってきた道筋、それに少しでも触れる事が出来たなら……。
俺はまた、新しい一歩を踏み出せると思ったから。
「はい、お願いします!!」
躊躇う事無く、俺はその提案を受け入れた。
しかし士郎さんは喫茶『翠屋』のマスター。
あの人無しで店を回すのは、かなり難しい。
そこで俺の鍛錬を買って出てくれたのが、息子である恭也さんなのだ。
あの事件の事もあり、少しばかり苦手意識のようなモノがあったのだが……。
恭也さんの熱心に指導する姿勢を見て、そんな気持ちは吹っ飛んでいた。
まぁ、当人は俺の気持ちなんぞ気付いてないだろうけど……。
そして、訓練が始まった。
正直な所、基礎的な鍛錬は問題無いのだが、実践訓練になると話は別だ。
恭也さんが使う流派、『永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術』。
長いから恭也さんは『御神流』と呼んでいるそれが、俺の想像の遥か上を行っていた。
文字通り、二刀流を用いる流派なのだが、それは主な武器でしかない。
本当の御神流では、飛針や鋼糸等の暗器を用いる殺人術である。
だが今の恭也さんは、まだ小太刀二刀だけでの戦術で俺を圧倒する。
最初の頃と比べれば多少は手心を減らしてくれているが、まだまだ本気の恭也さんには程遠い。
本気のこの人の相手が出来るのは、いつになる事やら……。
「はぁ……遠いなぁ」
「今は着実に進むしかないだろう?」
「えぇ、分かっています」
今は難しくとも、生涯本気の恭也さんと戦えなくとも……。
自分が変われる何かを掴めるのなら、きっと後悔は無い。
「……ずっと気になっていたんだが」
「ん、何ですか?」
「聖、お前は御神流を習いたいと思った事はあるか?」
御神流、小太刀と暗器を用いる殺人術。
この人や士郎さん、それと高町の姉である高町美由紀さんが体得している流派。
比類なき力を持つそれを、恭也さんが習いたいかと問う。
もし俺がそれを得られたら、確かに強くなれるかも知れない。
でも――
「別段、習いたいとも思いませんね」
――俺は、違うと思う。
「それは、御神流が殺人術だからか?」
「俺は御神流を、人を殺すだけのモノとは思いません」
殺人術、それは否定出来ない事実だろう。
その上で恭也さんは、その技術を守る為に使うと言っていた。
『守る』為に、『殺す』覚悟を持つ事。
それはきっと、想像を絶する苦悩の先にあるものだ。
矛盾だと知りつつも、正と負を抱えて生きる。
「守る為の殺す覚悟は、今の俺には抱え切れません」
まだ俺は、その境地へ至っていない。
否、至ったとしても手にする事は無いと思う。
「今の俺は、自分の意志を貫き通すだけの自信が欲しいんです」
過ぎた力は破滅しか呼ばない。
今の自分自身を支えられる力こそが、必要なんじゃないだろうか?
「まぁ、覚悟が無いだけだと思いますけどね。やっぱり臆病なんですよ、俺は……」
「少なくとも俺は、自分を貫く意志を持つ者を臆病だとは思わない」
……あぁ、この人の言葉は師父と似た何かを感じる。
嘘偽り、過大も特別も何も無い、飾らない言葉。
それを聞くと、俺は安心出来る。
「ありがとう、ございます」
目を閉じ、それだけを呟いた。
「それより良いのか? 確か今日は、アリサちゃんと約束があるって聞いたのだが……」
「……………………あっ」
穏やかにたゆたう心の波紋が、その言葉で急に乱れた。
思考が高速回転を始め、彼女との会話を再生する。
『今度の日曜、お昼に駅前ね』
『おぅ。悪いな、時間ずらして』
『別に……、言ったって聖が困るじゃない』
『そっか、ありがとな』
『べっ、別にアンタの為じゃなくて……』
『まぁ、出来る限り早めに行くようにするさ』
…………あったな、週末に。
疲れて倒れていた体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。
はぁ、何で今日に限って15分間も実戦訓練やってんだろ……。
いつもなら10分位で終わるのに、何でだろうな。
……って、弱音を吐くな、さっさと準備しないと。
「それじゃ、俺はこれで」
「あぁ、お疲れ」
「お疲れ様です」
落ちていた木刀を道場の壁に掛け、一礼をしてその場を後にする。
只今の時間、11時ジャスト。
家に戻って、軽く汗を流して、用意して駅前に向かう。
「何と言うヘヴィスケジュールだよ」
鍛錬後にこれはマズいが、そんな事でアリサとの約束を反故にしたくない。
男なら、あの時の誓いを貫き通せ。
心を奮い立たせ、気持ち涼しくなった空の下を駆けていく。
アイツと一緒に居れば、どんな辛さも大丈夫だから。
〜Interlude -two months ago- side:ARISA〜
真っ白な空間に、アタシと聖は居た。
聖はベッドに横たわり、その傍にアタシは椅子に座っていた。
彼は静かに、静かに呼吸を繰り返している。
時折カーテンを凪ぐ風が、前髪を揺らす。
「はぁ……」
その姿で、アタシは心の底から安堵した。
あの時は息の一つもしなかったから、本当に慌てちゃったから。
ハッキリ言って、その後すぐに来たすずか達にも見せたくない位の慌てっぷりだったと思う。
でもそれは当然、目の前で聖が倒れたんだから。
もう今から、3日も前の事だ。
真っ赤に染まる彼の体。
明確な『死』というイメージを前に、アタシは愕然とするしかなかった。
同時に迫り来る、アタシの死。
まだ死にたくない、もっと生きたい!!
声にならない心の叫び、でもそれは誰にも届かない。
筈、だった……。
気付けば両腕で抱いていた感触は消え、視界に映る赤い背中。
それは先程までの死というイメージをかなぐり捨てる、生への執着。
華麗、秀麗、美麗、その全てとかけ離れた無骨さ。
それでもアタシは、その後姿を綺麗だと思った。
だってそうでしょう?
どんなに傷付いても進もうとするその意志が、穢れてる筈が無いんだから。
偉人達の飾られた幾万の名言よりも、たった一つの無言の背中の方が尊いと信じてるから。
悪意からアタシを守ってくれたその背中は、童話の中に居る王子様そのもの。
煌びやかな出で立ちではない、全てを斬り裂く剣を持ってる訳でもない。
でも王子様って言うのは、見た目や力じゃなくてその姿勢なんじゃないかと思う。
最後までお姫様を救おうと苦難に立ち向かう、その姿こそが王子様に足る資格。
なら目の前の少年は、間違い無くアタシの王子様だった。
そして、最後の最後までアタシを守ってくれた彼は、その最後が終わった瞬間に力尽きた。
その背中を何とか受け止めて、ゆっくりと降ろしていく。
気付けばアタシは、その体をギュッと抱いていた。
「聖、聖……」
雫が頬を伝う。
でもそれは、悲しみによる涙じゃない。
『パパ、ママ、アリサのおーじさまは、どこかにいるのかな?』
『きっと居るわよ。いつか、アリサの事を好きになってくれる王子様が』
『それじゃあアリサは、可愛いお姫様にならなくちゃな』
『うん!! アリサ、おーじさまがすきになるおひめさまになる!!』
アタシが小さな頃から求めていた王子様という存在、それが今目の前にあるという事。
アタシはワガママなだけのお姫様なのに、王子様は見捨てないでくれた。
どれだけ傷付いても、守る事を止めなかった。
それが堪らなく嬉しくて、アタシは泣いた。
あの後すぐに、すずか達が来てすぐに対処してくれた。
救急車も呼んでいたらしく、ものの数分後には現場に到着。
アタシは何も出来なかったのに、すずかは状況をきちんと見ていたのだ。
聖が今こうして穏やかに眠っていられるのも、すずかのお陰。
それが何か、悔しい。
誰よりも聖に何かしてあげたいと思ってるのに、何も出来ない。
今だって、傍らに座ってる事しか出来ない。
ベッドの中から彼の手を取り、ギュッと握り締める。
「うん……あったかい」
きちんと生きてる感触が、そこにはあった。
本当に不思議な話だと思う。
3日前に銃で撃たれたのに、昨日には一般病棟に移り、傷も殆んど塞がっている。
弾丸も貫通した事が幸いして、摘出手術も必要無い。
後は――――聖が目覚めるだけ。
たった、それだけ……。
「ねぇ、早く起きてよ……」
アタシより一回り大きい手を、両手で包み込んで呟く。
目の前に居るのに、全然遠くの場所に居る聖。
生きていてくれるだけで嬉しい筈なのに、何故か悲しくなる。
きっとこれは、もどかしさ。
目の前に居る大切な人に逢えない、そんなジレンマに陥っている。
「アンタの声、聞かせてよ……」
少しで良いから、聞かせて。
「アリサ……って、呼んでよ……」
何気無く、恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに、優しく……。
アタシの名前を、呼んで。
「そうしないとアタシ……」
――アンタを巻き込んだ事を、後悔し続ける事になる。
きっと聖もそんな事は望まない。
でもこれじゃ、気にするなってのが無理な話よ。
アタシのせいで聖が傷付いたのは、紛れも無い事実なんだから。
「だから、目を見せて……」
どんな黒より綺麗な黒を。
強い意志を湛えた瞳を……。
今はそれ以上は望まないから、――――お願い。
「アタシの声を、聞いて……」
何も言わずに守ってくれた聖。
だから今度は、アタシがアンタを守るから。
その想いを、聞いて。
「それでも駄目なら……」
そっと、体を寄せる。
彼の寝顔が近付く。
更に寄せる。
もう寝息が髪に掛かっている。
そして、最後の一歩。
「んっ……」
何の躊躇いもなく、自分の唇を聖のソレと重ねた。
「……」
数瞬、数秒、数十秒。
どれだけの時間、そうしていたかは分からない。
カーテンの影が揺らめく姿が、どこか幻想的で……。
まるで、時間が止まったみたいだった。
そしてゆっくりと、アタシは聖から離れた。
何故か恥ずかしさは無い。
寧ろ、少し可笑しかった。
「これじゃ、全く反対じゃない」
永遠の眠りについてしまったお姫様を目覚めさせる為に、王子様はキスをする。
なのに目の前には、眠りについた王子様。
お姫様の事も放っておいて、静かに寝入っている。
本当なら3日でここまで回復したのが奇跡なのだ。
だから、これ以上の奇跡を望んでいる訳じゃない。
それでもやっぱり、もしかしたらを願ってしまう。
だってそれが、女の子だから……。
「……」
それに、何となくだけど……。
確信、みたいなものがあった。
「……ぅ、…んぁ……」
きっと聖は、アタシの傍に居てくれるって。
理由は無いけど、そう思っている自分が居た。
「……ぃサ?」
寝ぼけ眼が此方を見る。
ちょっと薄目だけど、そこに佇む黒はやっぱり綺麗。
いつものようなキリっとした表情とは違う、無防備で緩々な顔も可愛い。
そして何よりも、誰よりも待ち望んでいた声を聞いて……
「うん……おはよう」
満面の笑顔と共に、一筋の涙を流した。
〜interlude -two months ago- out〜
風呂上り後の秋風は、何とも言えぬ心地良さがある。
でもそれにばかり現を抜かしてる暇は無い。
一応、約束をしたのだから破る事だけはしない。
兎に角目的地まで、走る、奔る、疾る。
恭也さん達との鍛錬のお陰か、体力は必要以上に上がってる。
そう簡単にはくたばってやらん、元から疲弊状態だが……。
アリサが待ってくれているのなら、どんな体でも頑張れる。
――――俺にとってアリサは、掛け替えの無い大切な人なのだから。
あの事件の後、俺とアリサの関係が少し変わった。
世間一般で言う所の、その……『恋人』という関係。
その想いを告白したのは、果たしてどちらが先だったか。
あまり憶えていない。
俺の勘違い、アリサの意地っ張り、その2つが原因となったすれ違い。
お互いに自分の言葉を止め切れず、暴走した結果が事件の一端に繋がった。
善く善く考えると、俺とアリサは似た者同士だ。
だからだろうか、それを認識した時、かなり恥ずかしい思いをしたのは……。
2人揃って、己の未熟さを痛感したものだ。
でも、それを後悔したりはしない。
惹かれ合って、意識し合って、意地になって、すれ違って、そして認め合って……。
きっとその過程は、俺達の想いを強く結ぶ為に必要だったと思う。
だからこそ俺はアリサを好きでいる事を誇れるし、アリサもそう思ってくれている。
まだ始まったばかりの俺達だけど、これから何度も喧嘩するだろうし、その度に仲直りすると思う。
だって俺達は他人だから、趣味嗜好は違うし、感性も思考も違うんだから。
主張がぶつかるなんて、当然であり不変の事実だ。
実際、学校で言い合いになる事だって少々あった。
それでもその行為は、お互いを分かり合う為の大切なもの。
相手の分からない部分を、一つ一つ理解していく。
相手を受け入れて、相手に受け入れて貰って、俺達は進んでいく。
それは妥協ではなく、最善を探す為の歩み。
ゆっくり確実に、時間を掛けて積み重ねていく想い。
俺はアリサと、そういう風に並んで歩きたい。
「あっ……!!」
駅前、初めてアリサとデート(っぽいもの)をした時の待ち合わせ場所。
同じ場所に、少女は立っていた。
あの時は日差しを避けていたが、今は普通に陽の下へ。
まぁ、最近は随分と過ごし易くなったからな。
あっちも俺の姿に気付いたようで、表情から笑顔が咲く。
何度見ても綺麗だと言える、アリサの心からの笑み。
気付けば疲れは吹っ飛び、こっちこっちと手を振る彼女の許へ。
「悪い、遅れちまったか?」
「まだ10分は余裕あるわよ。疲れてるんだから、ゆっくり来れば良いのに……」
俺の言葉にアリサは、ムスっとした顔で答える。
先程の笑顔とは天地の差があるが、これは俺を気遣っての事だと理解している。
自分が心配げに反応すれば、俺が気を遣わせたと思うから。
だから敢えて、怒ったように反応するのだ。
まぁ、こうして分かったら意味は無いと思うけど……。
それでも最近、気を遣われるのも悪い気はしなくなってきた。
それだけ俺の事を想ってくれてるのだから、それに負い目を感じてしまうのは駄目なんじゃないかと思うから。
「それで、どうだったの今日は?」
「いつも通りに滅多打ち……は防げたが、まだまだだな」
「と言う事は、追い着くにはまだ程遠いって事ね」
「手厳しいな、本当の事だけど……」
そして今日も、アリサからの辛口コメントを頂く。
最近になってだが、俺の訓練についてよく聞いてくる事がある。
真意は分からないが、隠すことでも無いからきちんと話してる。
「それじゃ、もっと頑張らないとね」
「当然。まだまだ納得出来るモンじゃない」
今の状態の恭也さんに一撃でも与えられれば、少しは自信がつくだろうけど、それすらも今は難しい。
正直、今日みたいに時間一杯まで守り切れただけでも珍しいのだから。
しかし、何でコイツはこんなに聞いてくるんだろうか?
聞く事じゃないと思うけど、少し気になる。
「聖……」
と、突然俺の前に立つアリサ。
赤みが差した顔で真っ直ぐにこちらを見ている姿が、可愛らしい。
そんな目で見られると、こっちも恥ずかしいんだが……
「アタシの理想は高いわよ――――――アタシの王子様」
突如、心臓が爆発するように拍動した。
一気に跳ね上がる鼓動、全身を暴走するように駆け巡る血液。
頭が沸騰しそうになる、あついアツイ熱い暑い厚い。
ヤバい、腹の傷が開くかも……。
そんな冗談でも言わないと、全く落ち着いてくれない心。
アリサは卑怯だ。
お前はいつだって、突然そんな言葉を投げ掛ける。
俺は知ってる、そっぽを向いてるお前の顔が、俺と同じ状態になってる事を。
だから――
「俺もだぜ――――――俺のお姫様」
――これがお返しだ。
完熟したトマトのような顔を見合わせて、手を取り合う。
ギュッと握られたそれは、決して離れる事は無い。
だって、俺とアリサは離す気は毛頭無いのだから。
それに万が一、離れる事があっても――
「行こうぜ」
「……うん」
――何度だって、繋ぎ直すから。
Boy's oath.
少年の誓い
It is the one like a young, poor fantasy.
それは、幼く拙い幻想のようなもの。
Only person's fantasy is the most honorable and however, brilliant.
しかし人の幻想こそが、最も尊く輝かしいもの。
The boy will multiply the life completely.
少年は生涯を掛けて貫くだろう。
To become a prince who can defend the girl.
少女を守る、王子様になる為に……。
少年の誓いAルート Fin
―――――――――――――――
あとがき
どうも、清々しくおはこんばんちはです。
まずはAルートが遂に完結しました――――!!
制作期間は実質1日、根気を振り絞って作成しました。
推古はしましたが、粗が見付かった時はご連絡を……。
兎も角、ここに来て漸く一区切りつき、これ程嬉しい事はありません。
まだ複数ルートの内の1つですが、まぁ塵も積もればってやつです。
この調子で、次のSルートも頑張りたいと思います。
では、今話について話しましょう。
視点変更が何度もある、という点が少々気になりましたね。
最終話なので聖とアリサの心情というのを突き詰めたかったのですが、少しやり過ぎたかもしれません。
それでも、自分的にはここまでやれて良かったです。
エンディングの迎え方に関しては、ギャルゲーにあるような感じにしてみたのですがどうでしょう?
本当は2人が会話する前で締めようかとも思ったのですが、やはり最後の会話はあった方が良いかな? と思ったので入れさせて貰いました。
2人がお互いの存在を認め合う大切な台詞だと、自分で思ったので……。
そして何よりも問題となっていたのが、アリサのツンデレ分でした。
最後までツンツンさせまくるか、それとも少しだけ変えるか……。
結果的に、少しだけツンを減らしてみました。
やっぱり関係が変化した事で、彼女の心象も同じように変わっていったという事です。
アリサはツンツンしてなきゃヤダ!! という人は御免なさい。
まぁ内面はデレデレっぽかったですが……。
アリサ・バニングスというキャラクターを動かすのは、僕にはここまでが限界です。
英文は翻訳サイトを使ったので、再翻訳しても文が変になるだけだと思います。
なので、ニュアンス的なものを感じ取って貰えれば充分なのです。
Fateのエピローグの5行くらいある英文と同じ扱いで構いませんよ。
それでは、次は日常編S(すずか)ルートとなります。
運命編(なのは、フェイト、はやて)をお待ちの方は、もう暫く辛抱してくれると助かります。
一応僕の中では、Sルートは3話で終わると思っているので、Aルート程は長くならないと思います。
これからも精進致しますので、お楽しみに待って頂けるとこれ幸いです。
今回はこれにて、締めとなります。
感想や意見、その他諸々は掲示板や拍手でお願いします。
それでは〜。