D.C.O.G. ダ・カーポ オリジナル・ジェネレーション

 

第四話

WOMAN THE COOL TEACHER

 

梅雨の到来を直前に控えた、五月の末日。午後最初の授業で、白河ことりは頭痛を訴え、保健室へ赴いていた。

 

ことりの目の前には保健医で、姉の友人であり自分にとってもう一人の姉のような存在でもあるヴィレッタ・プリスケンがなにやら書類を書いている。

 

書類を書いている最中であるため、今は組んでいないが、そのスラリと伸びた両足をなんら不自然なく組んで座っている姿を見るたびに、ことりは大人の女性への憧れを目の前の女性へと抱いてしまう。

 

「待たせてしまったわね、ことり。さっき渡した薬はもう飲んだ?」

 

「うん、ちゃんと飲んだよ。お陰でさっきよりは落ち着いたかも」

 

ことりがそう言うと安心したのか、軽く微笑を浮かべるヴィレッタ。

本当にことりを心配していることが伺える。

一見すると冷たい印象を与える顔立ちなのだが、こうした笑顔を見ると温かみが出るのだから不思議である。

 

「ことりはよく頭痛でここに来るけど、原因に心当たりは? 例えば夜更かしをしたとか悩みがあって精神的に参っていたりとか。他にはそうね……環境の変化に敏感だったりしない?」

 

ヴィレッタの言葉にことりは内心驚いていた。

完全に当っているわけでは無いが、自分の頭痛の原因を遠からず言い当てているのだ。

 

「やっぱりヴィレッタお姉ちゃんには隠し事はできないッスね。夜更かしはしてないけど、それ以外は当たりッス」

 

「そう……判ったわ。とりあえず授業が終わるまでここで寝てなさい。放課後は一緒に夕食でも食べに行きましょう。もちろん私のおごりで」

 

「えっ? 悪いよ、そんなの。ちゃんと自分の分は自分で払うから」

 

突然のヴィレッタの提案にあわてて手を振りながら遠慮する。

そんなことりに対してヴィレッタは軽くため息をついた。

 

「まったく…少しは年上を頼りなさい?ことり、遠慮するのも大事だけれど、大人しくおごられるのも礼儀の内だと思うわ。それと夕食の席でことりの悩みも聞くから、そのつもりで」

 

「え、あのちょっ、ヴィレッタお姉ちゃん!?」

 

「前にも言ったけど、学校内ではヴィレッタ先生と呼びなさい」

 

これで話は終りと言外に述べているかのように、イスを回転させ再び書類仕事に没入するヴィレッタ。

本当は医者としての腕一流で、大病院からのスカウトも来るのに何故、学校の保健医などをやっているのだろう、とことりは常々思っているのだが、恐らく聞いても教えてはくれないだろうと大人しくベッドへ向かう。

 

その時、コンコンと言うノック音と共に間を置かず扉が開く。

 

入ってきたのはウェーブがかった蒼く長い髪がトレードマークであるイングラム・プリスケン数学教諭、その人である。

副業で何かやっているらしいともっぱらの噂だ。

 

ちなみにヴィレッタとは血を分けた兄妹である。

 

「あ、イングラム先生。こんちわっス」

 

「ことりか…また体調でも崩したのか?」

 

ことりが軽く敬礼しながら挨拶をすると、彼女の体調を気にしつつ片手を上げて挨拶の代わりとする。

 

この男、怜悧なナイフのような印象を抱かせる見た目からは想像も付かないほど、生徒や知り合いを大事にする人間で、生徒から……特に女子生徒から絶大な人気を得ている。

 

見た目と中身のギャップが激しい人間が多いこの学園の中で、『人は見かけによらない』と言う言葉の代表例と言っても過言ではない存在である。

 

「大丈夫ですよ。ヴィレッタ先生にも寝てれば問題ないって言われてこれから寝るところですから」

 

心配をかけさせまいと勤めて明るく答えることり。

先ほどヴィレッタに注意された為か、呼び方も『ヴィレッタお姉ちゃん』から『ヴィレッタ先生』に変更されている。

 

「それじゃあ、私はお休みさせてもらうッス!」

 

そう言い残し、ことりはベッドに潜り込む。

しばらくすると安らかな寝息が二人の耳に届くようになった。

 

「……で、イングラム。何の用? 今は授業中じゃなかったかしら」

 

ことりが寝付いた頃を見計らって会話を開始するヴィレッタ。

 

「生憎と、今は空き時間でな。少々眠気を覚えたので仮眠を取ろうと思ってきたのだが……」

 

「却下よ。ベッドの空きがないわ。空いていようと健康な人に使わせる気なんて猫の額ほども無いのだけれど」

 

書類から目を離さず、実兄を冷たくあしらうヴィレッタ。

そんな妹の態度に多少傷つきながらも表面的には何事も無いように続けるイングラム。

 

「そうだな。今はそれよりもことりの頭痛の原因の方が重要だ。原因はわかったのか?」

 

「貴方も本当に心配性ね、イングラム。そうね……頭痛の要因は様々なんだけど強いて言えば心因性に因る所が大きいのではないかしら?」

 

「そうか。……『あの男』には連絡を入れたのか?」

 

「えぇ、今彼に渡すための紹介状を書いているわ。ことりを夕食に誘ってあるからその時にでも渡すつもりよ。だから、イングラム。夕食は……」

 

ヴィレッタに全て言われるまでも無いと言わんが如く、席を立ち上がり入り口のドアに手をかける。

 

「それではヴィレッタ、よろしく頼むぞ。彼女は俺にとっても家族のようなものだからな」

 

そう言うと扉を閉めて去って行った。

 

 

放課後、約束通りにヴィレッタとことりは初音島中心部のとある飲食店に来ていた。

所謂チェーン店のレストランで安い上に味も安定しているので、朝倉兄妹もよく利用している。

 

「さて、宣言通り悩みを聞かせて? ことり」

 

運ばれてきた料理を食べながら本題に入るヴィレッタ。

 

「悩みって言ってもコレと言って大したことはないんだけど。強いて言うなら恋愛関係……かな?」

 

『本当の悩み』は胸の内に秘め、もう一つの『悩み』であり、ある意味では本当の悩み以上に『重大な懸案事項』をヴィレッタに持ちかけることり。

多少、この姐貴分を騙すことになる罪悪感を抱きつつ、この問題に関してもその内相談しようと考えていたので調度良いと判断したのだ。

 

「恋愛関係ね。……もしかして相手は一年A組の朝倉純一かしら?」

 

「えっ!? 何で知ってるの! まだ誰にも話してないのに……」

 

片思い中の相手を目の前にいる人物に言い当てられ、ことりは動揺してしまう。

その様子を見て温くなったコーヒーを口に含みながら、ヴィレッタは「してやったり」と口の端を吊り上げる。

 

「知らなかったわよ。今、この時までね。ただ鎌をかけてみただけよ」

 

「ひどい……わたしを騙すなんてぇ〜」

 

騙していた事を申し訳ないと思っていたところにヴィレッタからのそれとは知らない反撃が来たことで内心ほっとしつつも、恨みがましい視線をぶつけてしまうことり。

 

「でもあらかじめ予想は付いていたわ。彼と中庭で楽しそうに会話している光景を何度も見ていたから。それに……」

 

「それに?」

 

勿体つけるようなヴィレッタの物言いに、ことりはついつい鸚鵡(おうむ)返しに聞き返してしまう。

 

「暦も薄々感付いてたみたいよ? 何かあったら助けてあげて欲しい、なんてこの間の彼女の結婚式会場で頼まれたくらいだから。その『何か』が恋愛事であれ別の問題であれ、ね」

 

面白いとばかりに微笑を浮かべつつ、推測の経緯を話すヴィレッタ。対して苦笑いとも微笑とも取れる笑みを浮かべることり。

 

「あちゃ〜…お姉ちゃんにまでバレてましたか。心配されないよう気を付けてたんだけど。かえって心配させちゃったな」

 

「姉が妹のことを心配するのは当然のことよ、ことり。まぁ、私の兄は例外だけれど……さて具体的にどんなことに悩んでいるの?」

 

諭しつつ本題を促がすヴィレッタ。

 

「えと……朝倉君との関係が中々良いお友達以上に進展しなくて。鈍感なのもある意味では魅力なのかもしれないけど、こうも進展しないとなるとちょっと自信なくすかも、って……。それに妹の音夢ちゃんと結構仲が良いみたいなんだよねぇ〜〜」

 

胸の前で人差し指をツンツンさせながら、少し恥ずかしそうにその割には怒涛の勢いで相話すことり。

 

「なるほどね。普通、こういう場合は『押して駄目なら引いてみろ』と言う方法があるけれどこの場合に関してはことりの押しが弱いと見ていいかもしれないわね」

 

その細い顎に手を添えて、ことりの言葉を吟味し言葉を選んでいくヴィレッタ。

 

「今までことりは朝倉にそれなりにはアピールしてきたんでしょう? でもそれでは気付いてもらえなかった。なら押しが弱いのではないの? 彼、相当な鈍感なんでしょ?」

 

右手の人差し指を立てつつ、まるで学校の先生のように(実際先生なのだが……)指導をするヴィレッタ。

 

「じゃあ、具体的にはどうすればいいのかな? 今まで色々やってきたつもりだったからいい方法が浮かばないんだけど……」

 

「簡単なことよ。今までよりもできるだけ多くの時間を共に過ごすようにすればいい。その中で自分の魅力を今までより多く見せていく。ある程度親密になったところで思い切って告白してみるのも手ね」

 

「こ、告白ッすか!?」

 

耳まで赤くして叫び、ガタンと音を立てながら思わず席を立つことり。

そのせいで周囲の注目を集めてしまったのでなんでもないと言うジェスチャーをして、咳払いをしつつ座る。

 

「とりあえず、気付いてもらえないのなら、気付いてもらえるようにするしかないと思うわ。なんなら今年の文化祭あたりにまたバンドをやるといいわ。確か彼は以前の卒業パーティーの時にマネージャーを引き受けてくれていたはずよね?」

 

確認の問いかけに「うん」と首を縦に振る。

 

「もう一度、バンド活動を通じてアタックをかければいいんじゃないかしら。クラスが違うならこのくらいしないと中々一緒にいる時間は長くは取れないわ」

 

「うん、そうだね。まだ今年の文化祭は先だけど今からやるって伝えておいて打ち合わせするのもいいかも」

 

「どうやら問題は解決したようね」

 

微笑を浮かべながら嬉しそうにつぶやくヴィレッタ。

 

「うん、ありがと。ヴィレッタお姉ちゃん」

 

ことりも一応の解決策が見つかったのか嬉しそうにお礼を言う。

 

「悩みが解決したところで貴女にコレを渡しておくわ」

 

そういうとヴィレッタは脇においてあったバッグから一枚の封筒をことりに差し出す。

 

「なに、これ?紹介状?」

 

「ここ最近、ことりが保健室に来る回数が増えたでしょう? だから、念のため知り合いの医者に診て貰っておいたほうがいいと思ったの。水越総合病院の『ギリアム・イェーガー』という名の医師宛になってるわ。私と暦の大学時代の友人で腕は確かよ」

 

「気持ちは嬉しいんだけど、あまり気は進まないかな? 病院あまり好きじゃ無いし……」

 

あまり気乗りしない表情をしながら自分の通学鞄に紹介状をしまうことり。

 

「まぁ、気が向いたら診て貰いなさい。嫌がるのに無理強いする趣味は私にはないわ」

 

「うん、なるべく行くようにはするよ」

 

にっこりと笑うことりに控えめな笑みで返すヴィレッタ。

 

「さて、時間も時間だし家まで送っていくわ」

 

「うん、ありがと。ヴィレッタお姉ちゃん」

 

言い終わると食事も終えたので二人は席を立つ。

立ったところで……。

 

「「「あっ…」」」

「あらっ?」

 

ある意味、二人の話の中核を成していたとも言える朝倉兄妹と鉢合わせした。

 

「こんばんは、ことり。ヴィレッタ先生」

 

ヴィレッタがいるせいか裏モード全開の笑顔で挨拶する音夢。

 

「こんばんはっす!」

 

ソレに対して何時ものように敬礼じみたポーズをしながら笑顔で挨拶することり。

 

「こんなところでことりと会うなんて珍しいな、どうしたんだ?」

 

純一がなんと無しに聞いてくる。

 

「ヴィレッタ先生にちょっと相談事があったんで……一緒にお茶してたんですよ」

 

なんでもないと言う風を装い、笑顔で純一に答えることり。

 

「悩み? 俺に何かできることがあったら手伝うぞ?」

 

「いや、大丈夫ッス!もう解決しましたからっ!」

 

「そうか、ならいいけど」

 

「兄さん、そろそろ……」

 

楽しげに会話していると横から音夢が小声でつぶやいている。

 

「ああ、そうだな。それじゃあ、ヴィレッタ先生、ことり。俺たちはコレで失礼します」

 

「ええ、帰りは気を付けなさい?」

 

それじゃあ、と一礼して出口へ去っていく純一たち。

 

「さて、私たちも帰りましょうか?」

 

「そだね」

 

ソレを見送りつつ、彼女らも帰宅の途へとついた。

 

余談だが、ヴィレッタの帰宅したプリスケン邸ではエプロンを着た彼女の実兄が包丁片手に台所を戦場もかくやという惨状にしていた。

その惨状にその日、クール・ビューティーの異名を持つ彼女が珍しく激昂し、周囲の住宅を震撼させた事を追記しておこう。

 

後書き

 

お初にお目にかかる方は初めまして。再び読んで下さった方はこんにちは、なトロンベです。

今回はことりとその姐貴分にあたるヴィレッタ・プリスケン(原作での姓はバディム)の関係についてのお話でした。

 

なぜこの組み合わせになったのか?と言うのはスーパロボット大戦をプレイしていて、ヴィレッタと言う人物はクール・ビューティな割に世話焼き、といいましょうか、面倒見が良い姉御的キャラではないか?と思い何かと体調を崩したりすることりの面倒を見る映像が浮かんだので、このような組み合わせと相成りました。全ては妄想の産物です。

 

イングラム・ヴィレッタ双方共に、『スーパーヒーロー作戦』版の設定を参考にしたため、若干性格が異なります。(ヴィレッタは名前とイングラムとの関係だけなのでそうでもありませんが・・・・・・)それを踏まえて何か違和感や不自然な点があれば、感想と共に、指摘していただけると幸いです。

 

では、此度の邂逅は是にて終了。再び会うその時まで、しばしのお別れです。