D.C.O.G. ダ・カーポ オリジナル・ジェネレーション

 

 

1−Aでキョウスケと杉並が賭けを行っている同時刻、風見学園本校1−Bの朝の風景。

こちらは1−Aと違い、至って普通だ。各々が友人と談笑する者、ホームルーム前の貴重な睡眠時間を無駄にしないよう机に突っ伏している者……だが、そんな普通に見えるB組にも有名人は多かった。

 

「へぇ、みっくん。ついにお兄ちゃんさんに告白したんだぁ〜」

 

「……」

 

「はいはい、ご馳走様。あ〜あ、相手がいる人はいいなぁ〜……」

 

一人目は二人の友人と会話をしている『学園のアイドル』こと『白河ことり』。

赤みがかったストレートへアーと学園指定のベレー帽がトレードマーク()

容姿端麗、成績優秀。誰にでも優しく洞察力にも長ける為、気配り上手。その評判は一部では『心が読めるのでは?』との噂もある程だ。(実際、相手の心を読む力があるわけだが)甘いものに目が無いため、別名『甘味王』とも呼ばれている。

 

「うにゃ〜、朝から皆でもみくちゃにするなぁ〜っ!?

二人目は多数の女子生徒に囲まれている少女。

ツインテールの金髪に碧眼の小柄な帰国子女『芳野さくら』。

その小柄さは彼女を小学生に見せてしまう程だ。

その小柄さも相まって主に可愛いもの好きの女子に人気がある。

もちろん男性ファンもいるにはいるが、ことり程ではない。

 

だがしかし、このクラスにはこの有名な二人を足しても足りないくらい有名で、学園一存在感のある人物がいる。それも・・・生徒ではなく教師で、だ。

 

午前八時半。始業ベルが鳴り、その名物教師が戸を開けて教室へ入室する。

すると、それまで賑やかだった教室の雰囲気は一変、室内が奇妙な緊張感に包まれる。

先ほどまでそれぞれ別々の場所で談笑していた生徒達は既に席に着いていた。

 

「……」

見る者を瞬時に圧倒する気迫を纏ったがっしりとした体躯。後ろへ流した銀髪。服装はう紅い軍服のような格好で、背中には竹刀袋を背負っている。

 

この漢(おとこ)、名をゼンガー・ゾンボルト。

B組担任にして『風見学園のラストサムライ』の異名を持つ男である。

 

その異名の通り、剣術を嗜みその腕は達人級。

校内に不審者が現れた際にはその腕を遺憾なく振るい文字通り叩き伏せてきた。

その際の前口上『悪を断つ剣なり!』は本校生徒の間では語り草である。

 

僅かな隙も油断も無い足取りで教壇へと立ち、教室全体を見回す。

 

本人にとっては普通に見回しているだけなのだがその鋭い眼光の灯った瞳や、その身体同様に気迫を纏った表情は傍から見れば怖い。

未だにこの担任に慣れきっていないクラスの大半は、萎縮してしまっている。

 

(今日は何かいいことがあったんでしょうか? ゼンガー先生……)

 

大半が萎縮している中、相手の心を読み取れることりは珍しくゼンガーの機嫌が良いことを察しているようで、周りほど緊張はしていない。

このゼンガーという人物はその性質上、好かれるか煙たがられるかがはっきりとわかれている。

ことりは前者で、同年代の男子たちと違って『学園のアイドル』と自分を特別扱いしない彼を信頼している。特別扱いしないのは、当然と言えば当然かもしれないが。

 

「では、出席をとる!」

 

朝にしては大きすぎる声量でもってゼンガーは宣言した。

 

「さて近頃、我が校の近隣で変質者が目撃されていると言う旨が警察より届いた。なるべく早い時間に複数で帰るように。ここまでで質問があるものはいるか?」

 

ここまで一息で言った後、再び生徒の様子を見るべく教室を見回す。一部を除いて皆顔は固いものの、何か質問があるわけでは無さそうなのでそのまま話を進める。

 

「校内に侵入してきた場合については、手出し無用。俺か近くに居る先生に言え。決っして自分でどうにかしようとは思うな」

 

「そうだよねぇ〜、オヤブンがいれば大抵の悪人は病院送りだし」

 

ゼンガーの発言に物騒な回答を以って同意するさくら。

ソレに対して無言で首を縦に振るクラス一同。

 

こうしてB組のホームルームはA組のソレに比して、普通に……だが生徒たちに圧倒的なまでの精神的疲労を強いながら進行する。

一年B組生徒諸君にとっては気の毒な事ではあるが、こればかりは早い内に慣れてもらうしかない。

 

「ホームルームはここまで。一時間目の準備を怠ることのないように」

ホームルームが終了し、自分の本拠地であるグラウンド脇にある体育教官室へ向かおうとするゼンガーに後ろから駆け寄ってくる者がいた。

 

「親分〜! 待ってよ、オヤブ〜ン!」

 

特徴的なブロンドのツインテールを揺らしながら小走りに近づいて来たのはさくらだった。

彼女はゼンガーをやたら慕っていて(断っておくが恋愛感情ではなく憧れである)、ゼンガーのことをオヤブンと呼ぶ。

 

「ん、芳野か。どうした?」

 

そんなさくらに気が付いたのか後ろへ振り返るゼンガー。

自分を慕い、義娘であるイルイにも良くしてくれる為、さくらとは話す機会が多い。

さくら自身がゼンガーをオヤブンと呼ぶように、二人は本当に親分とその子分と言うオカッピキのような関係に見える。

 

「今日、イルイちゃんくるかな?」

 

「昼には何時も来ているが……何か用事でもあるのか?」

 

「ううん? 用事って程でもないんだけど、たまには一緒にお昼でも食べたいなぁ〜って」

 

遠慮がちに上目遣いで哀願するさくら。

その属性の人間にはクリティカルヒットであろう仕草だが生憎とその方面の趣味など欠片も持ち合わせていないゼンガーには通用しない。そもそもそういった感情をこの少女には持ち合わせていないのだ。よって、気にもとめず普通に会話を進める。

 

「む……学食で、となるとまた騒ぎになるな。ならば昼休みに職員棟の屋上へ来い。俺が話を通しておくから、エルザムや水越たちの鍋を食べるといい。イルイもそこに来るのでな」

 

さくらの頼みに一瞬苦い顔をするも、すぐに手段を導き出す。そして、いつもの表情で答える。

 

ゼンガーが以前、学食でイルイやさくらと食事をした際に色々と騒ぎになった為、それ以降はイルイを屋上へ連れて行き、そこで昼食を取るようにしていた。

そこで屋上で鍋をやる姉妹……水越萌と眞子と知り合い、それ以降は鍋のご相伴に預かっているのだ。

 

「やった! ありがとう、オヤブン」

 

飛び跳ねながら全身で喜びを表すさくらを眺めつつ、ゼンガーは左腕の時計に目をやる。

すると一時限目の開始時刻が迫っていることに気付いた。

 

「芳野、そろそろ時間だ。教室へ戻れ」

 

「ガッテン承知!」

 

正に時代劇の子分が言うだろうセリフと共に去っていくさくら。

ゼンガーは彼女の元気な後姿を微笑ましく思いながら(決して顔には出ない)自らの居城(体育教官室)へと足を進めた。

 

 

 昼休み。ゼンガーに言われたとおり職員棟屋上へとやってきたさくらの目に映ったのは異様な光景だった。

屋上のど真ん中に、『昔ながら』と言う言葉がしっくりと来るちゃぶ台が置かれ、その上にはどこから持ち込んだのだろうかガスコンロが置かれている。

そしてその上ではグツグツと煮立っている鍋がある。

学校の、しかも屋上で展開される光景としては非常にシュールであり現実感に乏しいモノだ。と言うか普通はこんな事はしない。

 

「うわぁ〜、本当にやってるとは思わなかったよ」

 

「おっ、来たわね、芳野さん。ゼンガー先生から話は聞いているわ。はい、コレ」

 

驚きながらも着席するさくらに箸を渡す眞子。

その眞子から少々申し訳なさそうな顔で箸を受け取るさくら。

親しい仲だと遠慮はしないさくらだが、眞子たちとは直接的な付き合いではなく純一を通じて付き合っている間柄な為、多少遠慮している部分があるのだ。

 

「ゴメンね、眞子ちゃん。私のわがままで混ぜてもらっちゃって……」

 

そんなさくらに笑顔で迷惑ではないと言う事をアピールしつつ、眞子は答える。

 

「全然気にしなくてもいいよ。それに、鍋は大勢で囲んで食べた方がおいしいに決まってるから。ねっ、お姉ちゃん!」

 

「そうですよ〜。鍋は大勢で食べてこそ、美味しいんです。それにエルザム先生は何時も食材を多めに持ってきますから一人増えても問題ありません〜〜」

 

「そういえばお姉ちゃん、そのエルザム先生は? さっき食材をとりに行くって出て行ってから戻ってきていないみたいだけど」

 

「そういえば、オヤブンとイルイちゃんもいないね?」

 

各々がここには居ない人間の事を話し始めた時、屋上への唯一の出入り口である重い扉が開く音がする。

三人がそちらに視線を向けるとゼンガー、イルイ、エルザムが順に入ってきた。

 

「あっ……さくらッ!」

 

さくらの姿を見つけた瞬間、顔を綻ばせながら走り出すイルイ。

そんな姿をみて笑顔を浮かべながらさくらは跳び込んで来るイルイを受け止める。

 

「イルイちゃん、久しぶり〜。元気だった!」

 

「うん。最近会ってないから少し寂しかった……。やっぱり、さくらがいないと時代劇を見てもおもしろくない……」

 

「そっか、じゃ今度また遊びに行くからね」

 

それから数分間、さくらとイルイは時代劇談義に華を咲かせた。

ゼンガーを初め、周囲の人間はその間に、鍋の準備をしつつ見た目的に同年代にしか見えない二人の会話を微笑ましく眺めているのだった。

 

「ところでエルザム先生。そのクーラーボックスは何ですか?」

 

エルザムが抱えてきた少々大きめな箱を指差しながら疑問を投げかけるさくら。

 

「ふむ。コレは今日の鍋に使用するメインディッシュだよ。今日は鴨鍋なので中には新鮮な鴨肉が入っている」

 

「エルザム、そろそろ頃合いだ」

 

「了解した」

 

ゼンガーの報告を聞き、鍋の中へ先ほどまでボックスに入っていた鴨肉を放り込むエルザム。

そこから肉が煮えるまでの間、その場に集まった六人の談笑は続く。

と言ってもゼンガーは話題を振られればそれに返すが、寡黙故、自らしゃべる事はまずなく、イルイもまたさくら以外とは歳相応の人見知りの為に、それほど話は出来ない。さらに普段から壮絶な眠気と格闘している萌は談笑の時でさえ眠ってしまうので、話題を振る側がエルザム、眞子、さくらの三人となるのは自然な流れであった。

 

そして肉が煮えた頃。

 

「うむ。そろそろ食べ頃だな」

 

料理人エルザムが鍋の蓋を開け中を確認しながらOKサインを出す。

 

「そのようですねぇ〜、いい匂いがします〜〜」

 

それに同意する鍋主催者こと、萌。

 

「うん。今日もおいしそう……」

 

鍋を見て素直な感想を述べるイルイ。

 

「そうね、じゃあそろそろ」

 

そんなイルイに相槌を打つ眞子。

 

「ねぇねぇ、オヤブン。早く食べようよ!」

 

待ちきれないのか、ゼンガーを急かすさくら。

 

「うむ、そうだな。それでは、頂くとしよう」

 

両手を合わせ、礼をしながら挨拶をするゼンガー。それに習って皆が挨拶をし、食事を開始する。

 

こうして昼休みのひとときは穏やかに過ぎていく……と思われた。

 

 

屋上で食事を終え、次の授業に備え各々が教室へ戻ろうと階段を下り、職員棟と教室を繋ぐ廊下を歩く。

そして女子更衣室の前に差し掛かろうとした、その時。

中から紙袋を抱えたあからさまに怪しい男が出てきた。

ソレを見てイルイやさくら、眞子を庇いつつ鋭い……殺気の籠った目で不審者を睨むゼンガー。

右手を背中に背負った身の丈はあろうかと思われるほどの長さをした竹刀袋に宛がう。

不審者はゼンガーの視線に晒され、蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなっていた。

 

「……貴様。学園の生徒ではないな? 部外者が白昼堂々、こんな所で何をしている? 返答次第ではこの場で叩き伏せる……。エルザム、皆を頼むぞ」

 

竹刀袋を握る手に力を込め、いつでも振り抜けるよう身構えるゼンガー。

 

「承知した。我が友」

 

ゼンガーの指示にエルザムはイルイらを引き連れて『ゼンガーの技に』巻き込まれないよう距離を取る。

 

「く、くそっ! こんな所で見つかっちまうなんてよっ! オッサン、そこどけよ!!!」

 

圧倒的不利な状況にありながら、自身に残ったちっぽけなプライドを奮い立たせ、叫ぶ不審者。

ダッとその場から駆け出し、ゼンガーに向かって突進する。

この男のこの判断は正しい。

この時間、職員棟にいる教師はほとんどなおらず(授業に向かう為)ゼンガーの後方にある階段を降りれば誰にも出くわすこともなく、よほど運が悪くない限りは裏門から逃げ出せるからだ。

だが男は一つのミスを犯した。

それはよりにもよって目の前にいる人物・・・・・・『風見学園のラストサムライ』であるゼンガーに見つかってしまったというミス。

この場に置いてそれはあまりにも、致命的であるミスだった。

 

「一意専心ッ!!」

 

その咆哮とも言える声と気迫に、本能的に恐怖し足を止める不審者。

 

その時間にして三秒と経たないうちに彼は竹刀袋から、身の丈程の長さの木刀を引き抜き正面……正眼に構える。そして吼える。自分が何者であるかを。この学園の守護者たる自らの名を。

「我が名はゼンガー。ゼンガー・ゾンボルト! 我は……」

 

第二話

 

『悪を断つ剣なりッ!!

 

 

「犯罪にその手を染めし愚か者よ! 留置所への案内、つかまつるッ!!!」

 

巨大木刀を構えし武神によって不審者への裁きの宣言がなされる。

 

「この切っ先に、一擲を成して乾坤を賭せん!はああああっ!!!」

 

力の限り木刀を振り上げる。この瞬間、気を取り戻したのか不審者は逃亡を再開する。

だが遅い。あまりにも遅すぎる。その遅さが命取りだ。

そして、この空間の間合いは完全にゼンガーが支配しているのだ。

この状況で彼から逃れるなど愚の骨頂!!

 

「でぇいやぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

声と共に駆け出し、一気に不審者との距離を零にする。

 

「チェストォォォォォォッ!!!」

 

その瞬間、目にも留まらぬ速さで不審者の体へ木刀が振り下ろされ、彼の意識を刈り取った。

 

「我が斬艦刀に……断てぬもの、なしッ!!」

 

勝利宣言と共に再び竹刀袋に戻される、斬艦刀こと超巨大木刀。

理由は不明だが、ゼンガーはこの身の丈ほどの長さを誇る巨大木刀を『斬艦刀』と呼称し、愛用している。

今までその名の由来と使っている理由を問う者は数知れず存在したがゼンガーは誰にも教える事はなかった。恐らくこれからもそうだろう。

 

「さっすが、オヤブン! 『風見学園のラストサムライ』だね!」

 

「……うん!」

 

完璧な一撃を決めたゼンガーに賞賛を送るさくらとイルイ。自分たちの好きな時代劇のサムライが、今まさに目の前に立っており、多少興奮している。

嬉しそうにはしゃぐ二人に先ほどまで場を支配していた緊張感は消えていた。そして、ゼンガーは先ほどとは違う暖かい目で、イルイとさくらに軽く微笑んでいる。

しばらくしてエルザムに向きかえると、表情をいつもの気迫を持った物へと戻しながら事後処理を問う。

 

「エルザム。警察に連絡を頼む。この男の引渡しをしなければならん」

 

「フッ、もう連絡はつけてある。今、水越君に他の教師への伝令をお願いしたところだ。直に皆が駆けつけてくるだろう」

 

携帯電話片手に心配無用と微笑む親友の姿にゼンガーも控えめに笑う。

 

こうして今日も風見学園の治安はゼンガーによって護られるのであった。

 

つづく

 

後書きとお詫び

 

 

こんにちは、二度目の登場であるトロンベです。今回、構成段階で相当悩みました。

なにせ親分ですからねぇ……人気キャラなんで下手なものを書いたら読者様が離れていってしまうかとヒヤヒヤでして。(いや、何時もそうなんですがね?)

 

ククルを出そうとも思ったんですが、この話にエルザム、イルイと出てきていて、この二人を含めた展開を思いつかなかった為、次回以降に持ち越しと相成りました。

 

また、今回も駄文にお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。文体や表現がおかしかったり、誤字脱字がある部分がございましたら感想と共にご指摘のほどよろしくお願い致します。また、出して欲しいキャラクター等御座いましたらリクエストお願いします。出来うる限り反映させて頂きたいとおもいますので・・・・・・。

 

それではまた次回にお会いいたしましょう。