つまり逆転の発想だったんだよ!
あのゴシップ大好きな烏天狗が人の発言を改変して、まったく出鱈目な記事にするっていうんなら、先にこっちが出鱈目なことをインタビューで法螺ぶいて有耶無耶にしてしまえばいいんだ。
あの烏天狗の戸惑った顔が脳内にくっきりと見えるんだぜ!

「ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて、セクハラで訴えますよ?」
「誰が気持ち悪い笑みを浮かべているか!」
「あやや、元からでしたか。申し訳ありません」
「お、おのれー」

ぐ、我慢、我慢だ。
飛んで火に入る夏の虫。もとい烏の天狗。
ふふふふ、いかんな、笑いを留めなければ。勘付かれたら厄介だ。

「それでは今日もインタビューを受けてもらいますよ」
「はいはい。どうせ俺の言葉なんて半分も聞いてないんだろうが」
「何を言っているんですか。天狗は清く正しく。裏の取れない情報は記事にはしません。
 ただそこに私視点からの解釈といったものが多少混ざっているのは否定しませんが」
「あれのどこが多少だ! どこが!」

この天狗は前回のインタビューで『胸があるのとないのならどっちが好きですか?』という半ば逆セクハラに近い質問に内心恥ずかしくもバカ律儀に『そりゃないよりあるほうがいいけど』と答えたら、翌日の朝刊の一面で――

『○○、貧乳完全否定? 85以下は女じゃない発言』

――と明らかに悪意の篭った改変をしてくさったのを忘れたとでも言うのだろうか?
おかげでその日は萃香に殴られ、妖夢に斬られ、映姫様から問答無用で有罪判決を受けたことは記憶にも身体にも新しすぎる。あの時もし映姫様の説得が上手くいかなかったらと思うとぞっとする。

「ややっ、それは見解の相違ですね。○○さんの多少と、一般大衆の多少は結構な違いがあるみたいです」
「まるで俺が異質みたいな言い方をするな」

まったくこの天狗は。しかしそれも今日までだ。

「それよりもインタビューだろ。さっさと質問したらどうだ?」
「あ、はい。といっても、今日は一つしかないんですけど」

それは珍しいこともあるものだ。
こいつのインタビューというと、根掘り葉掘り一日中ひたすら質問責めに遭うものなのだが。
たくさん出鱈目を吹き込もうと企んでいた俺としては少々肩透かし気味なのが否めない。
ま、一つなら一つでそれに全力で出鱈目を吹き込んでやればいいだけか。

「それで質問は?」
「はい、今日は、あの、その、○○さんの好みのタイプについてお聞きしたいと」
「好みのタイプ?」
「はい! ぶっちゃけると、好きな人ってことです!」

この天狗にしてはかなり踏み込んできたな。
下手に答えれば、この天狗のせいで前回よりも酷い状況になるのが目に見えてくる。
だが、だからこそだ。俺は敢えて出鱈目を言うことにする。
寧ろここで下手に慎重な答えを口にすれば、奴の思う壺。格好の餌食。
ここは適当に出鱈目な答えを出して、奴を混乱させて煙にまくのがベストだ。
そう考えた俺は、夜も寝ないで昼寝して考えた最高の出鱈目をこの天狗に言い放ってやった。

「そうだな。お前みたいなのかな?」
「……はい?」

おお、きょとんとしておる。きょとんとしておる。
こんな表情見たことないから新鮮だ。よし、ここで止めずに追い討ちだ。

「そう、ぶっちゃけ、射命丸文が好みのタイプだって言ったのさ!」

完璧だ。完璧すぎる。
射命丸はきょとんとして呆けているし、これで上手く煙にまけただろう。
ふはははは、俺をおちょくるからこういう目に遭うのだ!
さてと、このまま呆けさせていても面白くない。とどめにネタバレして、とっとと逃げてやるか。

「ふははは、かかったな。実は――」
「その話、本当ですか?」
「へ?」

射命丸の言葉に今度は俺が呆けた。
フリーズから戻った射命丸の顔はどこか赤みが差していて、嬉しそうな表情で……

「嬉しいです。これって両想いってやつですよね」
「え? あ、ちょ」
「この喜び、この場だけにとどめておくなんて勿体無いです。
他の人たちにも共有を、あや、でもでも、二人だけの秘密っていうのもなかなか……
でもでもでも私は真実を伝える記者、射命丸! ジャーナリストとして目の前にある幸せの大ニュースがを報道しないというのは記者道に反しているかも」

俺の言葉を聞かず、どんどん話が暴走していく射命丸。

「結婚は白無垢ですか? それともウェディングドレス?
 白無垢だったら博麗神社に頼むとして、ウェディングドレスはどこで発注すればいいんでしょう?」
「あー、えっと、そのだな」
「わかりました! そこら辺のことは後々二人で決めましょう!
 それよりもこの嬉しいニュースを一刻も早く幻想郷に伝えないといけませんよね!
 ではお名残惜しいですが、暫しのお別れです。書き終わったらゆっくりと将来のことを話し合いましょう。ではっ!」

早口でこれだけ捲くし立てると、颯爽と黒い羽を羽ばたかせて空へと舞い上がっていく射命丸。
さすが幻想郷最速少女。あっという間に姿が見えなくなったな。
これならこのニュースが幻想郷中に広まるのも、瞬く間だろう。
って、まったくよくない!

「ま、待て! あれは、悪戯で! 誤解で! 失言なんだああああ!」

既に姿が見えぬ彼女へ大声で叫ぶ俺。
声は冬の風に巻き込まれ、虚しく掻き消える。
なんとなくだが、このニュースは真実のままに報道される。そんな気がした。





これは後の話だが。
次の日の文々。新聞に――

『○○、好きなタイプは私こと射命丸文と明言! 近日にも婚約か?』

――と、ばっちりそのまま記事に載せられてしまい。いろいろと騒動になったのは、ここだけの話。
その後? 結婚しましたがなにか?