剣士はいつかの罪の結果を知る
それは喜劇か
それとも悲劇か
幕は既に上がった
後はシナリオ通りに進むのみ
そして、新たな役者が舞台へと上がる
SHINING HERAT
第四話
「私は時空管理局執務官フェイト=T=ハラオウン」
「で、今回の任務の内容は?」
祐一はクロノの前に来るなりそう切り出した。
僅かだが刺々しい口調になってしまっている。
近くには一緒に詳しい説明を受けるためになのはも居るというのに、それを隠そうともしない。
まあ、事前に相談もなしに、クロノの考えの元踊らされているような状況にあってはそれくらいの言葉も出てくるだろう。
「ああ、これを見てくれ」
そしてそれにはクロノも気付いているはず。
しかしクロノは敢えてそれを意図的に流し、手早く任務の説明へと移り、ある二つの映像を流す。
祐一はクロノの態度に眉をひそめるも、映し出された映像を目にした瞬間、はっと息を呑んだ。
そのうち一つは巨大で、威厳な様な物を備えた桜の木。
しかし、その地面には文字が書かれていた。
只の文字ではない。
血。
夥しい量の血液で描かれた血文字だった。
そこに書かれていた言葉はただ一つ。
『Give the punishment、Give the grudge of the leiphone』
それはあまりに重く、辛い言葉。
過去の傷跡。
消えることのない十字架。
頭の中が真っ白になる。
同時に何かが語りかけてくる。
【貴様、よくものうのうと……! 絶対に許さない、必ず思い知らせてやる!!】
蘇ってくるのは、あの時の記憶。
あの時の言葉。
「……さん、祐一さん?」
祐一はなのはの呼びかけには我に返った。
どうやらしばらくの間呆然としていたらしい。
「大丈夫ですか?顔、真っ青ですよ?」
なのはの心配そうな表情。
「あ、ああ。大丈夫だ」
無理矢理顔の筋肉を動かして笑顔を作り、なのはに笑いかける。
だが、それはあくまで表面上のもの。
祐一は内心動揺していた。
いや、していたというどころではない。
完全に呑まれてしまっていた。
自分の過去に。
自分の罪に。
「……続けるぞ。祐一たちの任務は、この桜の木の調査とこの人物の護衛だ」
クロノがもう一つの映像を示す。
そこに映し出されていたのは、金色の長い髪の二カ所を軽くまとめた、見たところ十代の容貌の少女だった。
「な、まさか“幻想の魔女”!?」
血文字に気取られていたせいか、それともあまりの動揺のためか、祐一は声が大きくなるのを抑えられなかった。
なのはが隣で不思議そうな顔をしている。
「そう、“幻想の魔女”芳野さくら。年齢は不詳だが、時空管理局のインテリジェントデヴァイスの開発の第一人者であり、希代の、そして“ロイヤルナイツ”の一柱に数えられる魔導師だ。まあ、今はもう引退しているがな」
まさかこの人が関わっているとは。
クロノの言葉を聞きつつ、祐一は素直に驚きを感じていた。
“ロイヤルナイツ”
時空管理局最強の十三人を指す言葉で、たった一人で第一級ロストギア事件を解決できるほどの実力者。
その一人に数えられていた程の実力者で、自分の先生の幼なじみ。
一度会ってみたいとは思っていたが、まさかそれが叶うとは。
「彼女は今、初音島の風見学園の園長をしている。よって、祐一となのはにはそこに入って貰う」
「……は?」
今、妙な言葉を聞いた気がする。
風見学園に入る?
「クロノ、俺は一応大学生なんだが」
「分かってる。誰が祐一に学生として入れと言った。祐一は教師として、だ」
ああ、成る程。
というか、いくら何でもそれはなかったか。
「そして、学園には彼女の家から通って貰うことになっている」
「わかった」
まあ、護衛対象の家で暮らすのは当然のような気もするが。
「あの、私の学校は……」
そこでなのはが質問した。
たしかに彼女は高校生。
長期間休むのはなかなか苦しい。
かといってたやすく通うことの出来る距離ではない。
「ああ、学校の方には話は付けてある。向こうできちんと授業を受けていれば問題は無い」
いったいどんな手を使ったのか気にはなるが、関係ないことなのでとりあえず置いておこう。
「あと、向こうでフェイトと合流して任務に当たってくれ」
「はい」
「ああ」
そう返事した後、祐一はもう一度あの血文字を見た。
(まさか、あいつがいたとはな……。しかも先生の住んでいる島に。これも何かの縁か)
祐一は既に失われてしまったものを思い返す。
そんな祐一の顔をなのはがじっと見つめているとも知らずに。
(なんだっていうんだ、いったい!?)
少年、桜内義之は夜の帳が落ちた公園を必死に走っていた。
辺りは完全に暗くなっており、既に人影はない。
そんな視界の効かない場所を全速力で駆けている。
いや、気にする余裕もないのだろう。
何故なら……。
義之は“命”を狙われているのだから。
やがて、公園の中心部にある巨大な桜の木の近くまでやって来た。
ちらりと後ろを確認するもそこに追っ手の姿は見えない。
ホッとしたように溜息を吐く。
しかし……。
「やあ、何処へ行くんだい?」
何処からともなく聞こえてきた声に慌てて顔を上げる。
次の瞬間、眼前に紅い閃光が降り注ぎ、爆発した。
義之はそのまま為す術もなく吹き飛ばされ、近くの桜の木に背中を思い切り打ち付けた。
あまりの衝撃に息が詰まる。
それでも何とか閃光の走った場所を見据える。
そこには紅の槍を持った少年が、こちらを見て笑いながら立っていた。
その姿はまるで悪魔の使いか何かのようで……。
義之はあまりの絶望と恐怖を感じてしまう。
それと同時に悟る。
自分の命がここで潰えることを。
それはもう逃れられないのだと。
「あれ、もう終わりかい?」
目の前の少年が詰まらなそうに呟く。
まるで、楽しみにしていたおもちゃがすぐ壊れてしまったかのように。
「がっかりだな……。“幻想の魔女”が目を掛けている奴だから少しは出来るかと思ったのに……」
(“幻想の魔女”?何を言っているんだ、こいつは?)
義之はあまりの恐怖にどこかずれたのか、ボンヤリとそんなことを考える。
「まあ、いいか。こんな奴でも少しは脅しになるだろ」
少年がその紅槍をこちらへと向ける。
それと同時に、血のように紅い光が集中していくのが分かった。
(ああ、これで俺の人生も終わりか……)
脳裏にふと今までの思い出が蘇ってくる。
マダダ
ドクン……ドクン……ドクン
(えっ?)
マダオワレナイ
ドクン…ドクン…ドクン…ドクンドクンドクン
マダオワルワケニハイカナイ
義之の脳裏に自分でない誰かの声が聞こえてきた。
それと同時に自分の鼓動が早まっていくのを感じる。
「じゃあね。恨み言なら“幻想の魔女”か“白銀の刀神”、“夢幻の創造神”にでもいってよ」
少年の言葉がどこか遠くのものに聞こえる。
そして紅い光が解き放たれようとしたその時、
雷のごとき黄色の閃光の束が天空から降り注いだ。
「なっ、何だ!?」
少年の驚きの声がはっきりと聞こえる。
しかし、義之の注意は別の所に向いていた。
(何だったんだ、今のは)
今まで聞こえていた鼓動の音、早さが嘘のように静まっている。
脳裏に響いたあの声も、聞こえなくなっていた。
あまりの出来事に呆然となる。
まるで自分が自分でなくなるような
自分が何かに喰われていくような、そんな感覚。
「何だ、お前は!?」
しかし、少年の声にはっと我に返り、彼が見ている方に視線を向ける。
そこには
月の光を背に受け
その金色の髪をたなびかせる
黒衣の少女がいた。
その姿はあまりに幻想的で
まるで絵画から抜け出してきた戦乙女のようで
危機的状況に変わりはないのに、思わず見とれてしまった。
「お前、管理局の魔導師か?」
少年の警戒心を露わにした声。
その声に篭もる僅かな殺気。
それに我知らず背筋が凍る思いがする。
しかし、少女はそれに全く怯えた素振りも見せず、右手に持つ漆黒の杖を構え、
「私は時空管理局執務官フェイト=T=ハラオウン」
その先を少年の方へと突きつけ、
「今すぐ戦闘行為を停止し、投降しなさい」
声高らかに投降勧告を言い渡した。
「…………………」
「…………………」
二人の間に緊張が高まっていく。
まるで薄氷を踏むような感覚。
周囲の空気が、それによって固着してしまったような錯覚までも覚えてしまう。
それ程までの威圧感を二人は発していた。
しかし、二人とも動かない。
そのきっかけがないから動けない。
闘うことに関しては素人だが、それくらいのことは義之にも分かった。
その時、二人の間に一枚の桜の花びらが舞い降りてきた。
(っ!?まずい!!)
これが落ちた瞬間二人は動くだろう。
そのとき、おそらくここに途轍もないほどの被害が出るのは容易に想像できる。
しかし、ここで自分が動いてもいけない。
そうすれば、それを合図に二人は動く。
それでは結果が速いか遅いかの違いにしかならない。
もう賽は投げられてしまったのだ。
(俺には……どうすることも出来ない)
次第に花びらと大地との距離が無くなっていく。
もう数秒もいらないだろう。
ひら、ひら、ひらと。
自らに科せられた役割も知らず、桜は舞い落ちる。
そして、それが地面に付くその瞬間……
「……止めた」
少年がフェイトと名乗った少女に背を向けた。
先程まであった驚異的なまでの威圧感、緊張感が一瞬で霧散する。
いきなりの急展開。
ちらりとフェイトの方に視線をやると、あまりのことに呆然としているようだった。
「いくら何でも管理局と……しかも『漆黒の戦乙女』とやり合う気にはならないよ。だから帰る」
「な?……逃がさない!!バルディッシュ、フォトンランサー!!!」
【Yes sir】
男性的な機械音と共に、フェイトの周りに金色の魔導弾が四つ出現し、少年へと複雑な軌道を描きつつ飛んでいく。
「やれやれ。ミレオン」
【Sir】
少年の気怠げな言葉に呼応し、彼の紅槍『ミレオン』が紅い光を発した。
次の瞬間、槍の穂先から無数の紅い光線が生まれ、幾何学的な動きをしながら金色の弾丸へと向かっていく。
赤と金色の魔力がちょうど二人の中間地点でぶつかり合い、爆発した。
その爆風が周囲の桜の木々を揺らし、辺り一面に桜の花びらが満ち溢れる。
「今日の所はこのあたりでお暇することにするよ。管理局の皆さんによろしく、『漆黒の戦乙女』殿」
花吹雪の中、少年の声だけが辺りへと響き渡る。
そして、それが収まったときには、既に少年の姿はなかった。
「ふう……あ、あれ?」
義之は思わず安堵の溜息を吐く。
その瞬間、義之は、体からふっと力が抜けるのを感じる。
いきなりのことで慌てたが、紅槍を持つ少年が消えたことによって緊張の糸が切れたのだろう、持ち直すことが出来ず、そのまま尻餅をついてしまう。
立とうとするが、上手く力が入らない。
そんな時、目の前の桜の花びらがふわりと舞い上がった。
ふと顔を上げる。
目の前に、フェイトがふわりと降り立っていた。
それに伴いフワリと舞う金色の髪。
それが月光を浴び、きらきらと輝いているように見えた。
思わず見とれてしまう。
「大丈夫?」
一向に立とうとしない義之を疑問に思ったのか、フェイトが手を差し伸べてきた。
「あ、うん」
義之は急に差し出された手に驚きながらも、その手を握り立ち上がった。
かくして、戦乙女と夢の少年は遭遇す
二人の前に広がるのは楽園への道か、悪夢への階段か、はたまた別の何かか
それは誰にも分からない
後書き
どうも、天信です。
今回で漸く主要メンバーのほとんどが登場しました。まだ少しは登場予定の人物がいますが、それはまた追々出していきます。
さて、フェイトの二つ名ですが、STRIKERSのものとは違うものになります。情報はあるんですけど、それを使うとややこしくなるので、オリジナルで行こうと思ってます。もちろん、なのはについても同じです。ご了承下さい。
次回も頑張って書かせていただきますので、よろしくお願いします。