始まるは、剣士と騎士の戦い。

 

 騎士は己の主のために。

 

 剣士は自分の道を切り開くために。

 

 既に言葉に意味はなく、互いの剣だけがものを言う。

 

 

 

 

 

 

SHINING HERAT

第三話

(守るさ。それが今の俺に出来る唯一のことだからな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 踊る。

 

 踊る。

 

 踊る。

 

 二つの影が優雅に、しかし激しく舞い踊る。

 

 壁、床、天井。

 

 その空間を構成する全てを用いて踊っている。

 

 それは剣と刀の円舞曲。

 

 剣が舞えば刀が止め、刀が閃けば剣が受ける。

 

 一挙動ごとに火花が散り、舞台を明るく照らす。

 

 その灯りが空間内に所狭しと生まれ続ける。

 

 なのははそれをただ呆然と見ていた。

 

 それは、命を削るほどの戦いのはずなのに。

 

 ただの模擬戦なのだから、ここまでする必要は無いのだから、危なくなったら止めよう。

 

 さっきまでそう思っていたはずなのに。

 

 完全に魅入られてしまっていた。

 

 この二人の……夜天の王に仕えし騎士と、再び舞い戻った魔導剣士の戦いに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何者だ、この男は!?)

 

 シグナムは剣を振るいながら、戸惑いにも似た感情を抱いていた。

 

 こちらの剣がことごとくかわされ、弾かれ、受け流されていく。

 

 しかも、攻撃に転じて来たときは、どの一撃もかなり早く、重い。

 

 祐一の回避は絶妙だった。

 

 剣線を見切る目も凄いが、避けきれないものについては、もっともダメージが少ない場所で受けている。

 

(驚いたな、これが十年も魔法に触れていないものの力か?)

 

 間合いの取り方も、攻撃を見切る目も、こちらの隙を突く能力も。

 

 全てにおいて高いレベルでまとまっている。

 

 クロノ提督が認めていることだけはある。

 

(だが!!)

 

 シグナムは一旦やや強引に間合いを空ける。

 

「レヴァンティン!!!」

 

【Schlangeform】

 

 すぐさまカートリッジを消費して刃を連結刃に変える。

 

 おそらく、彼に中、遠距離攻撃手段は無いとふんでの選択だ。

 

 そして、そう簡単に接近できないように、自分との間にも刃を這わせる。

 

 少しばかり卑怯な気もするが、目的を果たすためにも手段は選んでいられない。

 

 なのはやテスタロッサという、かつての戦友たちが参加している任務、しかも第一級ロストギア事件に相当するであろうものに、自分たちや我が主が参加できないのは歯がゆい。

 

 しかも、そこに何処の馬の骨ともしれず、また十年以上ブランクのある人間が参加するなど、納得のいくものではない。

 

 だから……!!!!!!!!!

 

「行け!!」

 

 シグナムは刃を操り、全方位から祐一に襲いかからせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

「クロノ君!? どういうつもりなの? シグナムさんが相手だなんて」

 

 なのはは思わずクロノへと食って掛かっていた。

 

 いくら何でもこれは常軌を逸している。

 

 十年のブランクのある人の相手に、シグナムの相手は厳しすぎる。

 

「落ち着け、なのは」

 

「私は落ち着いているよ!!」

 

 自分でも落ち着いているとは思えないが、熱くなるのを抑えられない。

 

何故そうなるかは分からないが。

 

「まあまあ、なのはちゃん。良いから中を見てみて」

 

 みなもが声を掛けてきたので、言われたように中を見てみる。

 

「えっ……」

 

 その瞬間、なのはは思わず絶句してしまった。

 

 祐一がシグナムと善戦、いやむしろ押している光景に。

 

 あの時自分の親友があれほど苦戦した相手が、十年ぶりに魔法の力を手にした年上の少年に押されている光景に。

 

「だから言っただろう? 祐一は大丈夫だと」

 

「で、でも、なんで……」

 

 あまりの光景にうまく言葉が出てこない。

 

「これが、相沢さんの実力です」

 

 彩の淡々とした説明が聞こえる。

 

「あの人は街一つを覆い尽くす第一級ロストギア事件を、たった一人で解決したことがあるのですから」

 

「え!?」

 

 信じられない。

 

 そんな大規模な事件をたった一人で?

 

「祐一さんは、ただ魔法を使うわけではないんです。全ての基本である魔力、それのみを扱う技術に長けているんです」

 

「魔力のみを……扱う技術」

 

 なのはは半ば呆然と呟くと、祐一たちの戦いの方に視線を向けた。

 

 だから、真の呟きはその耳には届かなかった。

 

「だけど……祐一さん。腕が鈍ってるな。それに、甘くなってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(成る程、さすがは夜天の騎士。予想以上の技量だ)

 

 祐一はエクスダムでシグナムの攻撃を裁きながら、その技量の高さに感心していた。

 

 縦横無尽にこちらを攻め立てる剣の嵐。

 

 少しでも気を抜けば手痛い一撃を受けてしまうだろう。

 

 さすがは『剣の将』と呼ばれるだけはある。

 

(しかし、俺も腕が鈍ったか)

 

 以前より体のキレが落ちているのを感じる。

 

 いまいち思った通りに体が動かない。

 

 狙ったとおり刃が走らない。

 

 魔力が通わない。

 

 そしてエクスダム。

 

 専用デバイスといっても、さすがに自分で作った“あれ”ほど手に馴染むわけではなかった。

 

 どこか違和感というか、ズレを感じる。

 

 そんなことを考えていると、シグナムが突然間合いを空ける。

 

 次の瞬間カートリッジを消費し、その刃を連結刃へと変えた。

 

「ふむ……」

 

 おそらく、中距離からの攻撃に切り替えたのだろう。

 

 祐一は警戒を強める。

 

 どう来られても良いように、集中する。

 

 すると、連結刃がこちらの周囲でその長さを持って空間を浸食し始めた。

 

「なっ!?」

 

 いくら剣線を見切る目があっても、避ける空間がなければ意味をなさない。

 

 さすがにこれには祐一も動揺した。

 

「行け!!!!!!!」

 

 シグナムの叫びと共に、その破壊の刃群がいっきにこちらへと迫ってきた。

 

 さすがにこれは、ただ切り払うだけでは全てを受け止めきれない。

 

(ならば手段は一つ!!)

 

 ここで祐一は初めて両手で柄を握った。

 

 剣を只下げただけの“無行の構え”から両手で刀を持ち、床に着くぎりぎりまでその切っ先を下げた“下段の構え”へと。

 

「はあああ!!!!!」

 

 気合いと共に、その体から濃密な魔力が迸る。

 

 次の瞬間、祐一のいた地点で爆音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 シグナムは目を見張った。

 

 祐一のいる地点で突然、青い光の渦が巻き起こったからだ。

 

 しかもそれは、高密度の魔力によるもの。

 

 その渦に祐一に襲いかからんとしていた連結刃が吹き飛ばされる。

 

(あれが奴の魔法か?)

 

 シグナムはそれを引き戻しながら、何か来ても対処できるよう構える。

 

 そして、いつでも突撃できるようタイミングを計る。

 

 しかし、光が収まったとき、そこに祐一の姿はなかった。

 

 予想外の状況に一瞬固まるも、すぐに気を取り直し周囲に気を配る。

 

 その時、突然背筋が凍るような感覚と共に、本能が警鐘を全開で鳴らすのを感じた。

 

“コノママココニイタラヤラレル”

 

 そのイメージに突き動かされ、とっさにその場から弾けるように飛び退く。

 

 次の瞬間、たった今までシグナムがいたはずの場所に、強烈な斬撃と共に、弾丸のような勢いで祐一が飛び込んできた。

 

 結界によって守られているはずの実験室の床に、巨大な亀裂が生まれる。

 

 常識外れの威力だ。

 

「驚いたぞ、あれがお前の魔法か」

 

 正直な賞賛。

 

 まさか、シュランゲフォルムによる全周囲攻撃を弾かれるとは思わなかった。

 

 しかし……。

 

「あれが俺の魔法?」

 

 その亀裂の中心から立ち上がった祐一の顔に笑みが浮かぶ。

 

「まさか、あれは只魔力を放出しただけさ」

 

「な……に?」

 

 祐一の言葉が理解できない。

 

 いや、理解したくない。

 

 特殊な効果を持った魔法ではなく、単なる魔力の放出に、自分の一撃が止められたという事実を。

 

 そして気付いてしまった。

 

 あれだけの魔力を放出してもなお涼しい顔をしている、祐一の潜在魔力の多さに。

 

(化け物か……!?だが!)

 

 思わず内心そう呟く。

 

 しかし、勝負はそれで決まるわけではない。

 

 シグナムはすぐにレヴァンティンを正眼に構える。

 

 戦意は失われず、逆になおも強く燃え上がってくる。

 

 当初の思いを忘れたわけではない。

 

 だが、今はそれよりも……。

 

(闘う!!!そして勝つ!!)

 

 戦士、いや騎士としての精神がそうシグナムを駆り立てる。

 

 まったく同じ武器を持つ者同士の戦いに、シグナムは全身の血がたぎるのを感じる。

 

 祐一もそれに反応したのだろう、先程の笑みは消え失せ、構えはなくとも臨戦態勢に入っているのがひしひしと伝わってくる。

 

 祐一から発せられる闘気が、全身でしっかりと感じられる。

 

「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はヴォルケンリッターの騎士の一人、剣の将シグナム」

 

「俺は相沢祐一だ」

 

 名乗り合いながらも、二人の間には緊張と闘気が高まっていく。

 

「いざ」

 

「参る」

 

 その瞬間、二人は再び突撃していく。

 

 今度は先程とは違い、掛け値なし、遠慮なしの全力のぶつかり合いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び始まった剣士と騎士が織り成す円舞曲。

 

 その一撃一撃が必殺の威力を秘めているのにも関わらず、二人の動きは変わらない。

 

 速く、激しく、しかしどこか踊っているかのような動き。

 

 散る火花は、まるで風に吹かれた花びらのように。

 

 それは、あまりに幻想的な光景だった。

 

 例えそれが、命をかけたものだとしても。

 

 そして、その動きの調和を乱したのは祐一だった。

 

「そろそろ、剣での戦いは終わりにしようか」

 

 一旦互いの間合いのぎりぎり外まで離れると、祐一はそう切り出す。

 

 それは提案。

 

 決着を求める戦士の決意。

 

 そろそろ体力も心許なくなってきた。

 

 この辺りで勝負を付けた方が良い。

 

「いいだろう」

 

 その申し出を、シグナムが毅然とした態度で受ける。

 

「では、こちらから行くぞ!!! レヴァンティン、カートリッジロード!!!!!」

 

【Explosion】

 

 シグナムの叫びに呼応し、レヴァンティンの刀身が炎に包まれる。

 

 そのままそれを振り上げ

 

「紫電一閃!!!!!!」

 

 声と共に、まっすぐ祐一へと振り下ろされる。

 

 祐一は限界ぎりぎりまでそれをじっと見つめる。

 

 そして……。

 

「……エクスダム」

 

Yes,master(了解です)Recording”Completion(記憶、完了)

 

「即時起動、紫電一閃(・・・・)!!!!」

 

 その一瞬の間に、祐一の魔法が行使される。

 

 それは、祐一の使っていた魔法。

 

 自身の切り札の一つ。

 

 その効果により、一瞬でエクスダムの刀身に炎が宿り、二つの炎が激突、そして炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!?」

 

 二つの紫電一閃によって巻き起こされた爆風と衝撃に揉まれながらも、シグナムはどうにか体勢を立て直した。

 

 それらによるダメージはさほど大きくはない。

 

 だが……。

 

(私の紫電一閃をコピーしただと!?)

 

 まさか自分の技を返されるとは思わなかった。

 

 さすがにこちらほどの威力では無かったものの、その事実による動揺は抑えきれない。

 

 次第に爆煙がはれ、視界がはっきりしてくる。

 

「なん……だと……」

 

 シグナムは自分の声が震えるのを抑えることが出来なかった。

 

 信じられない。

 

 確かに威力はこちらが上だったと思う。

 

 そうでなければ、この程度のダメージでは済まなかったはずだ。

 

 しかし、目の前にいる祐一には……。

 

 傷一つ付いていなかった。

 

「やれやれ。だいぶ鈍っていたようだな、俺も」

 

 のんびりとそう呟く祐一。

 

 しかし、シグナムにとってそれは、あまりに強大な存在に感じてしまった。

 

「さて、まだ続けるか?」

 

 肌で感じる祐一からの闘気。

 

 思わず自分の手が震えてしまうのを感じる。

 

 久しく感じなかった、恐怖が浮かび上がってくるのを自覚する。

 

(だが……!!!!)

 

 ここでひるんでいてはいけない。

 

(私は、夜天の主に仕える騎士だ。絶対に、負けられない!!!!)

 

 自らの信念を持って、その恐怖心を吹き飛ばす。

 

「まだだ、まだ私は戦える!!」

 

 愛剣をしっかりと構え直し、切っ先を祐一へと向ける。

 

「そうか」

 

 そう呟くと、祐一が八相の構えを取った。

 

 同時に、なのはのエクセリオンバスターに匹敵するほどの魔力が、祐一から発せられるのを感じる。

 

 シグナムもいつでも攻撃に移れるよう神経を研ぎ澄ませていく。

 

 空気が固着していくような錯覚を覚える。

 

 時間の感覚が失われていく。

 

 一分か、十分か、一時間か。

 

 どれくらいこうしていただろうか。

 

 シグナムはただ祐一が攻撃に移る瞬間を待ち続ける。

 

 どんな達人であろうと、攻撃の瞬間は無防備になるからだ。

 

 シグナムの狙いはただ一つ。

 

(紙一重で避け、同時に一撃を加える!!!)

 

いくぞ

 

 瞬間、祐一の魔力が刀身へと急速に収束していく。

 

 そのまま祐一はすっと上段の構えを取った。

 

 今しかなかった。

 

 シグナムは身を沈め、弾かれたように祐一へ向かって駆ける。

 

 一気に間合いを詰め、後一歩で間合いに入る瞬間……。

 

『そこまでだ』

 

 クロノの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前でシグナムが急停止するのを見ながら、祐一は全身から力を抜いた。

 

(やっと終わったか)

 

 既に、エクスダムに集めた魔力は霧散している。

 

 正直、やれやれとしか言いようがなかった。

 

 今回は無事済んだものの、二度とこんな事はしたくない。

 

「なんのつもりだ、クロノ提督」

 

 シグナムが苛立った声をあげた。

 

『言葉通りだ。これはあくまで調整のための戦闘。これ以上する必要はない』

 

「しかし!!!」

 

 シグナムはなおも食い下がる。

 

『それに、もう祐一の実力は分かっただろう。これでも任せるのに不満があるか?』

 

「それは……」

 

 クロノの冷静な一言にシグナムは口をつぐんだ。

 

 祐一はそんな様子を見ながら、エクスダムを待機状態に戻した。

                                       

「それでクロノ、俺はお眼鏡にかなったのか?」

 

『ああ。もう上がって良いよ。任務の内容を説明する』

 

 やれやれ、面倒なことになったものだ。

 

 祐一は軽く溜息を吐きながら、入り口へ向かって歩き出す。

 

「待て、相沢祐一」

 

 突然、シグナムに後ろから声を掛けられた。

 

 ゆっくりと後ろを向く。

 

「正直に言おう。私はお前を完全に信用したわけではない」

 

 そこでシグナムは一旦言葉を切った。

 

 「だが……実力は確かのようだ。だからなのはとテスタロッサを、私の戦友たちの事をよろしく頼む」

 

 一瞬言いよどんでから、シグナムが頭を下げてきた。

 

 思いがけない彼女の行動に、思わず呆然としてしまった。

 

 だが、彼女の行動にはそれだけの真摯さがあった。

 

「……大丈夫だ。何があっても、俺が守る」

 

 だから祐一もそれに答える。

 

「だから、安心してここに残っていてくれ」

 

「……ああ」

 

 シグナムが顔を上げる。

 

 それを確認してから、祐一は再び扉へと歩いていった。

 

(守るさ。それが今の俺に出来る唯一のことだからな)

 

 そう、心に刻み込みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 予定と違って、重要人物を出し損ねましたが……、どうにか第三話終了しました。

 

祐一対シグナムの戦い、如何だったでしょうか?

 

 戦闘描写がかなり難しく、読者の皆様には物足りないものだったかもしれません。

 

 一層精進して参りますので、よろしくお願いします。

 

 次こそは重要人物も出します。絶対です。