星は太陽の光を浴びて美しく輝く。

 

 

 

 太陽が照らしてくれるからこそ、より美しくあろうとする。

 

 

 

 そして、太陽もまた星があるからこそ強く輝く。

 

 

 

 星の輝きに負けないように、自らの輝きを強くする。

 

 

 

 しかし……。

 

 

 

 輝くことを止めた太陽にとって、星の光はどのように写るのだろうか

 

 

 

 

 

 

SHININGHERAT

第一話

『はじめまして、高町なのはです』

 

 

 

 

 

 

 長い人生、いつ、何が起こるか分かったものじゃない。

 

 特に、ロクでもないことはいつも唐突だ。

 

 相沢祐一は今までの経験からそう判断している。

 

 何がぶつかってきたかと思えば食い逃げ犯の少女だったり、夜中の学校で不可視の何かに襲われたり、いきなり襲いかかってきた記憶喪失の少女が実は狐だったり。

 

 まあ、その経験のためか、並大抵のことでは驚きを感じなくなっていた。

 

 何故こんな前置きがあるのか。

 

 それは……。

 

「祐一、明日から海鳴に行きなさい」

 

「は?」

 

 思わず祐一の思考がフリーズする。

 

 いきなり呼び出されたかと思えば、何を言っているんだろうか。

 

 そんなことを思いながら、目の前にいるこの事態を引き起こした張本人、祐一の母、相沢棗を祐一はじっと睨んでいる。

 

 しかし、当の本人は何処吹く風。

 

 のんきにお茶なんぞ飲んでいる。

 

「はあ。えっと、海鳴っていうと、あの海鳴?」

 

 祐一は諦めたように溜息を吐くと、とりあえず質問を始める。

 

 大学云々について聞かないのは、おそらく既に手続きは取ってあるだろうと簡単に想像できるからだ。

 

「何処の海鳴を考えているか知らないけど、あの二大事件が起きた海鳴よ」

 

 やはり。

 

 祐一の予想通り、目的地は七年ほど前に、ロストギア関連の事件が連続して発生した街らしい。

 

 その後、両事件とも問題なしというわけにはいかなかったものの無事に解決。

 

 現在ではAAAランク級魔導師が最低三人いるはずである。

 

 普通ならこれ以上の戦力は必要ない。並大抵のことなら解決できてしまうはずである。

 

 しかも、解決した事件は『プレシア・テスタロッサ事件』『闇の書事件』

 

 それを解決した人員がいるのになんの不安があるのか。

 

「そんなところに、俺が行って何が出来るっていうんだ?」

 

 祐一は先程より強く棗を睨み付ける。

 

 しかし、棗はそれに全く動じる様子を見せない。

 

 まあ、元時空管理局提督であり、優秀な魔導師でもある彼女がそんなぼろを出すとも思っていないが。

 

「あんたねえ、自分の立場くらい分かってるんでしょう?そして私の性格も。あんた以上に適任がいるなら、そっちに回しているわよ」

 

「はっ、いまさら十年もまともにデバイスにすら触っていない人間に、どうしろって言うんだ?」

 

 思わず自嘲的な笑みが浮かぶ。

 

 しかし、祐一の言っていることは事実でもあった。

 

 祐一は【あの時】から一切デバイスなど、魔法、時空管理局に関する事柄に関わっていない。

 

 自分の親友たちにすら連絡も取っていない。

 

「問答無用。こっちだってそれくらい計算に入れているわよ。それでもあなたに頼るしかないの」

 

「ったく、しょうがない。どうせ今更反論したって行くように手続き取ってあるんだろう? 行くだけ行ってみるよ」

 

 祐一はそれだけ言うと立ち上がり、この部屋からすぐにでも出ようと扉に手を掛ける。

 

「祐一、あなたは太陽なの。それだけの資質は持ってる。それは私が保証する」

 

 背中越しに秋子の言葉を聞いた瞬間、祐一はその動きを止めた。

 

「俺が太陽……ね」

 

 いや、動きは止まっていない。

 

 部屋の外に移動しないだけで、祐一の体は動いている。

 

「俺は」

 

 祐一の体で唯一稼働している部分、彼のその手が強く扉のノブに手を握りしめる。

 

「決して太陽なんかじゃない」

 

 金属で出来ているはずのそれが、祐一の握力に呻くような悲鳴を上げる。

 

「それに、俺以上に太陽の輝きを持つ奴はたくさんいる」

 

 自分の口に、自嘲めいた笑みが浮かぶのを止められない。

 

「あくまでそれらは星の輝きよ。太陽の光には絶対に勝てない。それに、周りの星が輝いているんだから、頑張ってみようと思わないの?」

 

 棗の言葉。

 

 こちらを心配しているであろう事がありありと伝わってくる。

 

 それは頭では理解しているが、心がその通りに動かない。

 

「輝くことを止めた太陽にとって、星の輝きは眩しすぎる……」

 

 祐一はそれだけ言うと、リビングから出て扉を閉める。

 

 たった一枚壁とドアを隔てただけなのに、リビングの外の空気は身を刺すほど冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー時空管理局本局ー

 

 長い髪をサイドポニーにした少女が、制服を着込んで本局の廊下を歩いていた。

 

 名前は高町なのは。

 

 七年前に『プレシア・テスタロッサ事件』『闇の書事件』に関わり、その解決に尽力したAAAランク級魔導師。

 

 現在は時空管理局武装隊戦技教導官として後進の指導を行い、有事の際には前線へと出ている。

 

 なのはは指導が終わったとき、時空管理局提督であるクロノに突然呼び出された。

 

「いったいなんだろ? すぐに来てくれなんて、クロノ君らしくもない」

 

 そんなことを考えていると、クロノの執務室に到着する。

 

「武装隊戦技教導官高町なのは、入ります」

 

 なのはは軽くノックをすると、そのまま室内へと足を踏み入れる。

 

「やあ、なのは。悪いね、急に呼び出したりして」

 

 目の前の机には両事件の際に協力して解決に当たった友人、時空管理局提督艦船アースラ艦長クロノ=ハラオウンとその部下である時空管理局管制指令エイミィ=リミエッタがいた。

 

「クロノ君、何かあったの?」

 

「ああ、ちょっとこれを見て欲しい」

 

 クロノはそう言うと、手元の端末を操作し、とある島の映像を映し出す。

 

 そこには、島一面に咲き誇る桜が映っていた。

 

「ここは? あとこれ、いつの映像なの?」

 

 なのはは真っ先に思った疑問から口にする。

 

 今は三月。場所にもよるが、まず桜が咲く季節ではない。

 

「ここは初音島。そして、この映像は今現在の映像なんだ」

 

「えっ?」

 

 一瞬、クロノが何を言っているか分からなかった。

 

 明らかに一般常識から外れている。

 

「ここはね、一年中桜が咲いている島なんだって。もっとも、以前ある時期に枯れちゃって、普通の桜の木と同じになったんだけど、最近またずっと咲いているようになったのよ」

 

 なのはの困惑を見て取り、エイミィが説明する。

 

「でも、この島がどうしたの?」

 

「実はこの島には不思議な現象が起きている」

 

 クロノの説明では、この島では願いが叶うことが時々あるそうだ。

 

 そして、一度桜が枯れる前にも似たような現象があり、桜が枯れたときにはその現象が止まったらしい。

 

「でも、それがどうしたの? 確かに凄く不思議なことだと思うけど」

 

 人間、誰しも似たようなことを考えたことがあるだろう。

 

『こうなればいいのに』『こんな事が出来たらいいのに』

 

 だが、現実はそう甘くはない。

 

 願うだけでは何も変わらないのだ。

 

 しかし、この桜の木に祈れば自分の願ったことが叶う。

 

 こんなに良いことはないだろう。

 

「この桜の木を見てくれ」

 

 そんなことを考えていると、目の前の映像が切り替わり、一本の桜の木が映し出される。

 

 他の木々に比べて非常に大きく、威厳のようなものが醸し出されているのがハッキリと見て取れた。

 

 まるで、全ての桜の主のような、そんな印象を受ける。

 

「この木が第一級ロストギアである可能性が非常に高いんだ。そして、これが願いを叶える力を持っていると考えられる」

 

 クロノは一旦そこで言葉を切る。

 

「加えて、これを狙っている謎の存在も確認されている」

 

 そういうと、クロノは再び手元の端末を操作。

 

 それにより画面を切り替えた映像が見せているものは複数の武装局員の写真。

 

 そこに映っている誰もがAランク級、人によってはAAランク級の実力を持ち、何人かはなのはも面識がある人の姿も見えた。

 

「これは?」

 

「この桜の木、暫定的に『魔法の桜』と呼ぼうか、の調査、場合によっては確保、もしくは破壊の任務に就いていた者達のリストだ」

 

 そして、とクロノは言葉を紡ぐ。

 

 あまりにも信じがたい話を。

 

「彼らは全員重度の傷を負い、現在治療中だ」

 

「え?」

 

 まさか、となのはは思う。

 

 Aランク級の実力者たちが全員?

 

 ざっと見ただけでも十人以上は見える。

 

 たちの悪い冗談にしか聞こえない。

 

 だが、クロノとエイミィの辛そうな表情を見るとそれが真実だと分かる。

 

「そして、全員がまるで槍のようなもので貫かれたような傷を負っていることから同一犯の犯行だと言うことも分かった」

 

「さすがに本局も事態を重く見て、AAAランク級魔導師の派遣を決めたの」

 

 クロノの説明にエイミィが補足する。

 

 なるほど。これで納得がいった。

 

「つまり、この桜が危険なものかは分からないけど、願いを叶える力を謎の人に奪われるのはまずいから、戦力を増強して、すくなくとも奪われるのは防ごう、ということ?」

 

 それがなのはが呼ばれた理由。

 

 提督であるクロノはなかなか動くことは出来ないので、実績もあり実力も評価されているなのはに白羽の矢が立ったのだ。

 

「その通りだ」

 

「フェイトちゃんにも同じ依頼をしてるから。もっとも、彼女にはちょっと先に行ってもらってるけどね」

 

「そうなんですか。なら私も初音島に行ったら良いんですね」

 

「そう言うことになるな。何があるか分からないから十分注意してくれ」

 

「分かりました」

 

 そう言うと、なのはは部屋の入り口に向かって歩き出す。

 

 あまり状況は芳しくないのなら、なおさら早く行動した方が良いだろう。

 

 自分と同じAAAランク級であるフェイトがいるのならどうにかなるかもしれないが、あまり楽観は出来ない。

 

(それに、なんだか嫌な予感がするし)

 

 なのは自身根拠があるわけではない。なんとなくそう感じたのだ。

 

 だが決して無視して良いものではないと思う。

 

 こういう時のものは大概現実になるものだ。

 

 だからすぐに行動に移した。

 

 しかし、

 

「あ、ちょっと待って。なのはちゃんにはもう一つ頼みたいことがあるの」

 

 エイミィのその一言にその歩みを止めた。

 

 再びクロノ、エイミィの方に向き直る。

 

「実は、一人迎えに行って欲しい人がいるんだ」

 

「迎え?」

 

 クロノは肯くと、一人の少年の映像を呼び出した。

 

 そこには艶やかな黒髪と蒼く澄んだ瞳を持つ少年が映っていた。

 

「相沢祐一。現在21歳。現在は叔母の家から大学に通っている」

 

「ちょ、ちょっと待ってクロノ君! この人、一般人じゃないの!?」

 

 クロノが読み上げる少年の情報を聞き、どう聞いても一般人としか思えない情報になのはは慌てる。

 

 一般人に情報を公開するのは禁止されているはず。

 

「なのはちゃん、心配しなくて良いよ。彼は魔法や時空管理局の事は知っているから」

 

「え?」

 

 エイミィの説明に思わず首を傾げる。

 

 なら先にそう説明しても良いはず。なぜ一般人と間違うような言い方をするのか。

 

「さて、祐一のことを説明する前に。エイミィ、この部屋を完全閉鎖してくれ」

 

「まかせて」

 

 エイミィが手慣れた手つきでコンソールを操作する。

 

「はい、これで良し。 これでこの部屋から会話や情報が漏れることはないよ」

 

 エイミィの言葉にクロノは肯く。

 

「これから話すことは機密事項になる。この事が本局にばれたら、おそらく非常に重い罪になるだろう」

 

 クロノが淡々と、しかしかなり深刻な言葉を口にする。

 

「実は祐一は元時空管理局の局員だ。しかも、凄腕のね」

 

(ん?)

 

 なのははクロノの表情がさっきまでと違うことに気付いた。

 

 まるで、その人のことを知っていて、それを非常に懐かしむような。

 

 ちらりとエイミィの表情を伺うと、彼女も同じような表情をしている。

 

「祐一は最年少執務官になると見込まれ、実際にそれを成し遂げた。実際士官学校時代では、僕は祐一には勝てなかった。指揮力でも、戦闘力でも、魔力でも、すべて祐一の方が上だった」

 

 その時の情景を思い浮かべているのか、クロノは苦笑いを浮かべている。

 

 しかし、なのははそれよりも気になることがあった。

 

 “士官学校時代”

 

 つまり、祐一とエイミィ、クロノは同僚のはず。

 

 それなら名前くらいは聞いているはずだ。

 

 しかも、そこまでの実力を持っているなら先の二大事件にも協力してくれたはず。

 

「だが、祐一は十年前、ある事件を境に管理局を辞めた」

 

 瞬間、クロノとエイミィの顔が曇る。

 

 その時のことを思い出したのだろう。

 

(酷く、悲しそうな顔してる)

 

「そしてその事件と、祐一の管理局内における全情報は抹消され、使用していたデバイスは完全破壊された」

 

「そんな人を呼んでどうするの?」

 

 至極当然な質問。

 

 嘱託、現役ならいざ知らず、既に辞めた人間、しかも十年前に辞めてしまっている人間を連れてきてどうするのか。

 

 第一級ロストギア関連事件となれば、闇の書事件と同等の危険度になる。

 

 どう考えても危険すぎる。

 

「いや、祐一なら大丈夫だ。それは僕が保証する」

 

「ならいいけど」

 

 正直、クロノが何を考えているのか分からない。

 

(でも、それだけその人のことを信頼してるって事だよね)

 

 それにクロノのことだ。その辺りのことも含めて、今回の事件に必要だと考えたのだと思う。

 

「待ち合わせは海鳴駅前に十四時と言ってあるから」

 

「うん」

 

 エイミィに祐一の写真を渡され、なのはは今度こそ執務を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが海鳴か」

 

 あの日から二日後、祐一は海鳴駅の前にいた。

 

 あの後、棗が『迎えに来る人がいるから』といい、この時間を指定してきた。

 

 それからすぐに荷物をまとめ、なんとも釈然としない思いを抱えながらやって来たのだ。

 

「あと十分で十四時か」

 

 腕時計でちらりと時間を確認すると、その辺りのベンチへと座る。

 

 ふと空を見上げた。

 

 目の前に広がるのは雲一つ無い青空。

 

 まるで吸い込まれそうなくらいに青く澄んでいる。

 

 しかし、今の祐一にはただ鬱陶しいくらいの光が降り注ぐ空にしか見えない。

 

「ったく、俺は何をやってるんだか……」

 

 思わず自分の行動に悪態を吐く。

 

 断ろうと思えばいつでも断れたはずだ。

 

 なのにこんな所にいる。

 

 もう、魔法は捨てたはずなのに。

 

(まだ俺は未練があるって言うのか?)

 

 空を見ながら、ぼんやりとそんなことを考える。

 

 その時、祐一の視界にさっと影が落ちた。

 

「相沢祐一さん……ですか?」

 

 声を掛けられ、視線をそこに向ける。

 

 目の前には、長い髪をサイドポニーにした少女が立っていた。

 

「そうだけど、君は?」

 

「はじめまして、高町なのはです。クロノく、いえ、クロノ提督からの依頼で迎えに来ました」

 

 そこまで一気に言い終えると、なのはがにこりと微笑んだ。

 

 まるで、満天の星空のような笑顔。

 

 

 祐一にはあまりにそれが眩しく見え、同時にいつかの自分の姿と重なり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の中で、何かが動いた気がした。

 

 

 

 

 

     

後書き。

 

 お初にお目にかかります。天信と申します。

 

 今回、頑張ってこの作品を書いてみました。

 

 この作品はリリカルなのはと幾つかの作品をクロスさせる予定です。

 

 今のところ決定しているのはKanonとあと二つです。

 

 といっても、しばらくはそのうちの一つは出てきませんが。

 

 私はかなり遅筆なので、なかなか進まないかもしれませんが、よろしくお願いします。

 

 あと、できればどんな指摘でも感想でも良いのでよろしくお願いします。