漆黒の騎士(ザ・ナイト・オブ・ダークネス)

 

騎士団(ナイツ)と言われるパーティネームのリーダーである。

 

経歴・本名・その他の情報は一切不明で分かっているのは騎士団のリーダーであることと、あることを追っている事……そして、その位階である。

 

ランク・SPM(スペシャルマスター)

 

ランクが創られてここ二世紀余り、誰もが一度もそこに行き着くことが無かったと言われる、伝説の称号である。

 

本来なら海鳴にいる、祐一の師匠である、彼が貰い受けるべきだった称号は、その本人と水瀬秋子により、急遽‘漆黒の騎士’に譲渡されることになった。

 

経緯は不明だが、強い発言力を持つこの二人と、そして漆黒の騎士の今まで功績を考えてみればその称号はまさに彼に相応しかった。

 

無論、この二人だけが彼がその称号を持つことに賛同したわけではない。

 

最凶の魔眼を持ちし月下の王 ‘遠野志貴’

 

かの大災害を日本で二度防ぎ、それを越えた隊長によって鍛えあげられた巴里華劇団の団長 ‘グラン・マ’

 

この世界において平行世界へと行く奇跡を魔法と言う形で成し得た初めての存在。 万華鏡 ‘キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーク’

 

神界を収める神王と魔界を統べる魔王……Etc……etc

 

超一流と呼ばれるこれほどの人物達が、彼にはその称号が相応しいと認め、称えた。

 

だがこの者たちを含めて、彼に力を貸してもらい、彼に助けられた者達は彼のことを決して喋ろうとはしなかった。

 

恩義があるから、約束だから、そして、正体が隠匿されているから――――理由は様々だが、それ程のことをされる彼は一体何者なのだろうか? 一体どのような人物なのだろうか?

 

現在、彼のことを知るための方法は考えられる限りでは三つである。

 

一つは、偶然知りえてしまうこと。 だがこれはほとんどありえない、騎士団の面子を知っているものからすれば尚ありえない。

 

二つ目は、前記したが情報を集めることだが――――これは、実質上不可能といえるだろう。

 

そして三つ目――――彼と敵対し戦い、生き残ること。

 

何よりも、アスタロスは漆黒の騎士のことを知っていた。

 

――――ならば、その正体はアレでしかありえない――――

 

 

 

 

 

――――因縁だろうか?――――

 

それは、師から弟子へ、弟子から弟子へと渡り継がれた戦いの始まり。

 

――――因縁だろうか?――――

 

それは、御神という名の宿命を背負った者の因縁だろうか?

 

――――因縁だろうか?――――

 

それは、魔闘鬼神流という最強にして幻の力を持った皮肉だろうか?

 

 

 

 

 

今宵、迷宮最後の物語の幕が上がる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣舞士〜ソードダンサー〜

第八話『巻きますか? 巻きませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔ける、翔ける、翔ける――――!

 

風を超え、疾風を引き裂く一陣の風刃となりながら俺は駆ける。

 

前に見えるのは、怠惰の‘原罪(オリジナル・シン)’を背負いし男‘アシュタロス’。

 

その男が向かっていく方向へと俺は駆けて行く。

 

奴の疾さはまさに一級、冗談抜きで俺が追いつけるか分からない――――!

 

魔闘気の濃度を上げ更に加速、だが、意識を逸らさぬようにして更に俺の中の力を引き出していく。

 

だが、奴は着いて来られるか? と、言わんばかりに速度を更に上げて行く。

 

 

 

「冗談きついぜ――――!」

 

 

 

ああ、くそ! 俺はどっちかって言うと力と技に徹しているんだよ!

 

ほとんど言い訳に近いが、俺とアシュタロスとでは明らかに速力に差がある!

 

恐らくは力はこちらが上だが、速力では負けているだろう。 そして、動きからして、僅かに技術にも差がある。 剣ではなく純粋な体術で。

 

――――逃げに徹されると本気で厄介だな。

 

心の冷静な部分がそれを告げる。 理解はしていた、だから先程の戦いの時も奥の手(・・・)を残しておいたのだが――――

 

翔ける――――曲がる――――走る――――飛ぶ――――

 

ありとあらゆる方面に動きながらも、その動きは流麗なダンスのように洗礼されている。

 

奴の動きには、筋肉の一つにいたるまで全く無駄がなく巧い。

 

師匠ならアレを超えた動きをすることもできるだろうが、俺にはまだ僅かに届かない。

 

ならばその部分を補うのは――――!

 

 

 

「風よッ!

シルフィードフェザー!!」

 

 

 

風の精霊が俺にその力の加護を与える!

 

簡易な精霊魔法だが、使い勝手がよく僅かな差を埋めるのには十分だ。

 

――――力で敵わぬのなら技を使え、技が敵わぬのなら罠を張れ、罠が効かぬなら全てを使って倒せ――――

 

師匠……あなたから教わったことは本当に多いです。

 

だから、俺は魔闘鬼神流の技術をフルに生かすッ!

 

 

 

「魔闘鬼神流・風の章

 ――――風月――――!」

 

 

 

シルフィードフェザーによって得た速力が更に上がる。

 

――――風の章・風月――――

 

元よりある風の力を魔闘鬼神流の基礎にして奥義‘魔闘気’を持って風の属性として同調させその力を増幅させる。 これによってその力はありとあらゆる事に使える万能なる風の力となる――――!

 

風の力を持ちながらも、風の速度を超える力を持って俺は速度を上げる。

 

これは魔闘気という、通常よりも遥かに濃度の高い力のおかげだ。

 

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 

アスタロスにとっては驚くべきことだろう。 先程まではギリギリだったのに今ではその速度を余裕で越している! もう、逃がしはしない!!

 

構え、魔闘気を展開――――! 一気に仕掛ける!!

 

 

 

「オオオォォォォォッ!!!」

 

「甘い!」

 

 

 

強烈なアスタロスの一喝と共に、奴は一瞬で反転する。 アスタロスは駆けていた足を止め、その二刀を持って俺の攻撃を防がんとする。

 

だが、俺とてただ仕掛けるだけじゃない!!

 

片手にある獅子座の剣(レオ)を抜刀、シルフィードフェザーの力を腕に集め展開する(・・・・・・・・)!!

 

 

 

「甘いのはお前だなッ!

魔闘鬼神流――――風嵐!!」

 

 

 

集まった風の力を本来強化だけの力を集中させ強烈な嵐にする。

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

 

よっし! ここで畳み掛ける!!

 

風の力を展開したために速力は落ちているが、それでもここからのタイミングなら、俺のほうが速い!!

 

展開した魔闘気を瞬時に復活――――展開!

 

俺は、アスタロスに対して追い討ちを駆けようとして――――

 

ゾクリ

 

――――悪寒。

 

これは間違えなく命の危機、最悪なまでの予感だ。 俺は、即座にバックステップで飛びのくが――――

 

ヒュッ

 

ありえざるタイミング、ありえない方向からの風を切る音がした。

 

頬に走る赤い痕――――刀傷。 ありえざる三撃目に俺は一瞬目を剥いた。

 

身体が動いたのは奇跡と言ってもいい。

 

 

 

「――――避けたか、偶然か必然か。 拙者の攻撃を見切られるとは、な」

 

「くっ……!」

 

 

 

俺は静かに構えるが相手はそれを無視して走り出す。

 

――――チィッ!

 

僅かに焦り、俺は奴を追いかける。

 

――――冷静になれよ、俺――――

 

精神を集中し、焦り猛る気持ちを静かに落ち着ける。

 

同じ手にはかからないが、はっきり言って今のをもう一度見切るのは結構きつい。 相打ちではないが下手をすれば重傷だ。 それに俺達の目的は、けして奴を倒すことではないことも忘れてはいけない。

 

ならば――――

 

 

 

「ハァァァァァッ……!」

 

 

 

刃に魔闘気を通しその力を増大させていく。

 

――――加速ッ!

 

一足の元走り抜けると、普通ならば射程の外である技を放つ。

 

 

 

魔闘鬼神流・小太刀二刀術・御神流・奥義之弐・射抜・改

 

 

 

「射抜――――翔!」

 

 

 

放たれた射抜を超えて放たれる高速の刺突。

 

射抜・翔

 

魔闘気を纏わせる事によって、射抜の超射程を更に上げたのがこの技である。

 

ただし、俺にとってはこの技未完成であり、余り効率よくポンポン使える技ではない。

 

だが、使えばほぼ確実に相手を仕留める事ができる技の一つだ――――!

 

 

 

「ぬぅ……!?」

 

 

 

超超高速で放たれた射抜は奴の身体を貫くべく翔ける。

 

アスタロスはこれを受けるのは得策ではないと判断したのか両方の刃を盾にしつつ身をひねって辛うじてかわす。

 

パキィン!

 

辺りに響く甲高い音、アスタロスの持っていた名も無き二振りの刃は射抜を受け二つに折れる。

 

――――だが。

 

 

 

「なっ!?」

 

「――――追」

 

 

 

ズシャリ、と、奴の腹には刃が生えていた。

 

――――射抜とは、超高速で放たれる刺突から派生する事ができる技(・・・・・・・・・・)なのだ。

 

御神流の奥義――――見誤ったな。 アスタロス!

 

 

 

「ぐぅ……ふっぐ……」

 

「俺の勝ちだな――――アスタロス!」

 

 

 

奴は血を吐き出し、辺りの床にぶちまける。 俺はその様子を無感動な瞳で見ていた。

 

この戦いは今終わったのだ。

 

――――刃が折れ、一撃を貰ったこの男には勝つ手段がない。

 

そう、思っていた――――

 

ザシュ……

 

 

 

「――――なっ」

 

 

 

俺の肩に食い込むように入った――――3本目の刃を目にするまでは。

 

呆然と、三本目の刀を見る。 そこから伸びるのは――――

 

 

 

「見誤ったのは、貴殿だったな……」

 

「ぐ……がぁ……っ!」

 

 

 

――――アスタロスッ!

 

声にならない悲鳴を俺は上げる。

 

俺は、力が入らない腕で必死に力を入れると全ての力を注ぎ込んでアスタロスの三本目の刀を弾き飛ばし、奴の腹に叩き込んだ獅子座の剣を抜き取り後方へとバックステップで大幅に回避する。

 

それと同時に、魔闘気の濃度を回復の方へと押し上げる。

 

――――チッ、確かに見誤ったのは……俺か!

 

 

 

「ふっ……貴殿の相手を勤めるのは楽しいが、拙者にも任務がある。 悪いが、勝負は預けさせてもらおう」

 

「チィ、逃がすかよ!! ぐっ……」

 

 

 

相手も悪い体勢ではなったせいか、俺の心臓までは刃を通すことができなかったようだが……ギリギリだな。

 

俺はそれを理解して尚、走り始めた。 今止まれば、俺達が奪われてはいけないものが持って行かれる……!

 

傷を癒すのに力を持っていかれているが、それは奴も一緒だ。 ならば、双方スピードは落ちるが……追いつけないことはない筈だ。

 

それを証明するように、アスタロスの速度は先程とは全く違い速度は落ちていた。

 

――――だが、同時に見えてしまった。 今までとは明らかに違う扉がある場所が。

 

 

 

「まさか!?」

 

 

 

思わず声を荒げる。 そう、そここそが俺達が最終目標地点としていた場所――――宝物庫!

 

幾つもの魔法障壁と、物理的に分厚い扉。 材質も恐らく希少金属(レアメタル)神の金属(オリハルコン)だろう。

 

頑強な扉だが……アスタロスに通用するとは思えない! なぜなら、奴はこの程度の仕掛けがあることを見越して送られてきた男。 それならば、対処法ぐらいもっているであろう。

 

俺のその考えを証明するようにアスタロスは懐に手を入れて、一本のナイフを取り出した。

 

そのナイフから感じる、凶悪なまでの魔力――――!

 

アスタロスはそのナイフを投合し扉にあっさりと突き立てた。

 

 

 

「――――」

 

 

 

奴がボソリと何かを言った瞬間、ナイフから凶悪な雷の洗礼がほとばしり頑強であるはずの扉をあっさりと打ち砕いた。

 

――――それは、ありえないことだった。

 

例え、俺やアスタロスでもアレほどの力と障壁を持った扉をあっさりと打ち砕くことなどできない。 それは絶対だと言い切れる。

 

予測していたとはいえ、あっさりとこじ開けられたその扉に思わず奥歯を噛み締めた。

 

 

 

「くそっ! 待てよッ!!」

 

 

 

声を荒げて叫ぶが、奴は止まらない。 俺もまた、慌てて扉の中へと入った。

 

扉の中には古今東西の宝物がありとあらゆる場所に安置されていた。

 

黄金・魔法剣・魔法のかけられた鎧・陶器等々そこにはありとあらゆる宝物があるといえるほどに立派だった。

 

アスタロスはその宝物庫の中心に立ち辺りを見回していた。

 

 

 

「アスタロスゥゥッ!!」

 

「――――チィ!」

 

 

 

御神流・奥義之六・薙旋

 

 

 

俺は納めていた二振りの小太刀を即座に抜刀しアスタロスに放つ。

 

アスタロスは先程折れた筈の二刀ではなく新たに空間転移か何かしらの方法で取り出した二刀を持って俺の斬撃を受けようとする。

 

放たれた四連撃はアスタロスの身体を肉塊に変えるべくその凶刃を向かわせた。

 

迎え撃つは二振りの刀――――だがッ!

 

 

 

「ウォォォォォォ!!!」

 

「ツェイッ!!!」

 

 

 

ガキィンッ!! ギギィン!! ガッガァン!!!

 

 

 

「同じ技は通じぬ!」

 

「くそっ!」

 

 

 

放たれた神速の四連撃は奴の持つ二つの刀によってやはり受け止められる。

 

薙旋は既に見切られてるってのか……!

 

――――くそ……まだ、だ――――!

 

転じて即座に俺は視界を灰色に染めていく! 自らの視界がモノクロになりその空間内では全てが緩やかに動き始めた。

 

その空間の中で、唯一つ俺のみが通常どうりに動く。

 

 

 

御神流・奥義の歩法・神速

 

 

 

自らの感覚神経を引き伸ばし、知覚領域を広げることによって自らの限界を引き出す御神流の奥義――――

 

この奥義の歩法を持って俺は奴に対峙する――――!

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 

放たれる斬撃に、奴は反応――――してきた!

 

神速の領域に入った俺に動きにすら付いてくるというのか――――! なんて奴だ……!

 

だが先ほどと違い完全には防いでいない、僅かずつだが傷を負わせられているようだ。 しかし、決定打には程遠い。

 

返しにと放たれた攻撃に、俺は一気に後退した――――が、それがいけなかった。

 

奴はそれを見届けることもなく、一気に振り返るとさらに奥へと向かって行った。

 

――――やべっ!

 

そう思ったときには、俺もまた一気に加速し中へと向かう。 そして――――

 

 

 

「――――悪いが、拙者の勝ちだ」

 

 

 

奴は一つの鞄をその手に抱えていた。

 

それは、俺達にとっても目的のもの。

 

――――ローゼンメイデンの入った、鞄だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴はそれを手に取ると自らの持つ剣を地面へと突き立てた。

 

一瞬で奴の周りは強力な闇の力に覆われた。

 

――――俺をして、踏み込むのを一瞬躊躇わせる程の凶悪な力が奴の周りを覆った。

 

アスタロスも驚いたのだろう、その剣から放たれるその力の強大さに。

 

一瞬眉をしかめたものの同時に納得した表情になる。

 

――――なんだ?

 

 

 

「ふむ、流石はあのお方だ。 宝物庫に一時的とはいえ点を穿つとは」

 

「――――そうかッ!」

 

 

 

宝物庫には簡単に出入りできないように壁と強力なジャミング結界があるようだ。 魔法は使えるし気も使えるが、だが、同時に転移系の術もキャンセルされるようになっている。 だが、それに一時的に穴を開けることが出来れば――――

 

 

 

「その範囲だけなら転移が出来るってことか!」

 

「然り。 ――――貴公との戦いかのアーカムの戦士との戦いの如く胸が躍った、出来ればまた手合わせを願いたいものだ」

 

 

 

アスタロスは本当に楽しそうに微笑む。

 

――――だが、次の瞬間にはその瞳を凶悪な戦士の物へと変化させた。

 

俺は、とっさに奴に対して構えを取る。

 

 

 

「戦士よ――――最後に貴公の名を聞こう。 我が魂に刻むために」

 

「俺の……俺の名は相沢祐一!

ランクL(レジェンド)・第五階位にして二つ名は聖剣舞士(ソードダンサー)だッ!!」

 

 

 

その言葉にアスタロスは驚いた表情をした。

 

そして、その顔が愉悦にゆがむ。

 

瞳に浮かぶのは超狂気的な悦び。 それは紛れもなく暗黒の深淵にいるものの笑みだった。

 

――――修羅

 

やはり、先ほど俺が思ったことは正しかったらしい。

 

 

 

「よかろう、貴公のその名、我が魂にとくと刻んでおくとしよう! そして我が真の名も貴公の魂に刻むがいい。我が名は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突き刺されていた剣からは力が完全に失われていた。

 

それと同時に特異点は完全に消え去り結界は完全な力を取り戻していた。

 

俺は、アスタロスが居た辺りのである裁断をただ睨み付けていた。

 

――――奴の真の名――――それを聞いて俺は確信した、今回のことを仕組んだ敵のことを。

 

だが敵は強大すぎる、俺一人では――――いや、この日本にある自治区全てをあわせても、奴等との戦いには勝てないだろう。

 

 

 

「くそっ……!」

 

 

 

――――だが、俺は一人じゃない。 さっき音夢に言ったように俺は一人じゃないんだ。

 

音夢が居る。 ちひろちゃんが居る。 茉莉ちゃんが居る。 秋子さんが師匠が――――みんなが居る。

 

だから、こんなところで落ち込んでる暇はない、失敗したなら次に同じ間違えをしなければ良い。

 

そう、凹む必要なんてない。 第一、相手がどんなに強大だろうともどんなに恐ろしいからとも負けられないんなら負けない。 そう師匠に教わっただろう!?俺ッ!

 

 

 

「御神の剣は無敵にして最強の剣。 魔闘鬼神流は全てを超える武(なり)……」

 

 

 

囁き、俺は心にその言葉を刻みつける。

 

誓いと共に――――

 

 

 

「兄さーん!」「祐一さーん!」「祐一さーん!」

 

 

 

俺は振り向いた、後ろから聞こえてくるのは音夢とちひろちゃんと茉莉ちゃんの声だった。

 

すでに魔闘気による肉体修復で完全に体の傷は治っていて痛みはない。

 

――――さて、と、どう言い訳するかな?

 

 

 

「こっちだー!みんなー!!!」

 

 

 

俺は、言い訳を心の中で考えながらも皆が無事であったことを心の底から安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宝物庫内で、俺達一同は全員の無事を確認して安堵した。

 

そして、アスタロスに持っていかれてしまったローゼンメイデンの事を簡単に説明した。

 

――――実際、奴があんなにあっさりとこの扉を破ってしまうことはかなり驚いていたがそれでも納得できるところがあったのだろう、一同はそこには何も突っ込みを入れなかった。

 

ただ、それでも何も見つけられないのは嫌だったのでアスタロスが鞄を取った場所を調べようとして――――

 

 

 

「あれ!?」

 

「どうしたんですか!?」

 

「み、みんな、これ!?」

 

 

 

調べ始めようとした矢先に茉莉ちゃんがそれを発見した。

 

それは、折りしもアスタロスが持っていったものと同じ鞄だった。 薔薇をあしらった飾りが付いてある鞄――――

 

間違えなく、秋子さんが言っていたローゼンメイデンの鞄だった。

 

――――まさか、アレは偽物か?

 

だが、あれほどの使い手が間違えるのだろうか?

 

ともあれ――――

 

 

 

「開けてみるか」

 

「――――は、はい!」

 

 

 

音夢は待ちきれないのだろう、ローゼンメイデンの鞄をすぐに開けた。

 

中から出てきたのは、サイズで言えば俺の腰くらいの高さくらいの身長の人形(ドール)

 

長い髪の毛に白い被り物をしている。 服は全体的に緑色で清楚な感じがする。

 

――――紛れもなくこれがローゼンメイデンだろう。 その意匠の見事さに俺は一瞬見ほれた。

 

なんと言うか――――こう、凄い。 人形には詳しくはないがこの人形には間違えなく一流の芸術品であり魂の篭った一品だ。

 

俺は、人形から目を放すと鞄の中を見る。 すぐに目に入ったのは。

 

 

 

「――――螺子、か?」

 

「みたいですね」

 

 

 

俺の言葉にちひろちゃんが答えてその螺子を俺に渡す。

 

――――え? なんで俺に渡すんだ?

 

螺子を渡された途端、みんなの視線が集まる。

 

「え? もしかして?」

 

「はい」

 

「うん」

 

「(目線をそらす)」

 

 

 

そういうことらしい――――

 

俺はため息を吐くと、ローゼンメイデンの人形を鞄から取り出した。

 

そして、手に持っている螺子を――――螺子の穴に当てた。