剣閃――――!
輝く一撃は、かくも美しく命を削り取るほどに苛烈であった。
剣閃――――!
憎悪に染まりしその一撃は、翻るほどの芸術品
剣閃――――!
されど、受ける男はその攻撃を流し受け、弾く。
それは芸術的なまでに洗礼され、錬磨された一つの技の究極系である。
二刀を操る男は、その二刀を持って目の前の、音速を超える速度を出す少女の刃を受ける。
「ハァァァァァァァァァッ!!!」
「――――ッ!!!」
ガアァァァァァン!!!
振るわれた刃は、苛烈なる殺意となって男へと向かっていった。その一撃は、男の刃を大きくそらし弾く。
男は、刀こそ落とさなかったがそれは音夢にとっては、いや戦うものにとっては大きな隙に見えた。
――――そう見えたのだ。
「ッ!!!」
その隙に、彼女は渾身の力をこめて刃を振るう。
怒りをぶつけるため、憎しみをぶつけるため、その心の叫びをぶつけるために――――!
だが、それは意図して作られた隙であった。
冷静な音夢であれば気付いたであろう、普段の彼女であるのならば気付けただろう。
彼女にできたのは唯一つ、驚愕の表情を作ることだけであった。
いくら速度が乗っていても、いくら速かろうとも――――この男の前では、音夢の腕力など身体に入らなければ大した意味はないことを。
ましてや、この男の正体は――――
故に、それは必然、故にそれは運命――――彼女の腹部に刃が迫ろうとしていることも、彼女の剣がすでに受け止められていることも。
(ああ……私、死んじゃうんだ……)
―――――その時、一陣の風が吹いた。
聖剣舞士〜ソードダンサー〜
第七話『相沢祐一、推参!!』
「オラァァァァァ!!」
「グゥゥゥゥ!!」
グガァァァァァァァン!!!
音夢の腹部に吸い込まれるはずだった刃を、俺は力いっぱいに右手の獅子の剣で弾き返す。
その一撃は、魔闘気を纏った激烈に凶悪な一撃だった。男は、思いっきり弾き飛ばされるが空中で回転し地面へと音もなく着地する。
――――強い。
感じたのは、怖ろしいほどの鬼気だ――――これ程の物を出し得るものは――――SSSランクの中にそうは居ないだろう。
俺は、油断なく男に対して気配を配ると音夢の前に立ちつつ睨み据えた。
着流し風の男もまた、俺を睨みつけていた。その口から、秘められた怒りの言葉と共に俺へと殺気が放たれる。
「――――無粋な、尋常の殺し合いに手を出すとは」
「うるせぇ、自分の妹が殺されるって時にそんなこと言ってられるかよっ――――だが、この続きは俺が引き継ぐぜ」
俺は、そう言うと音夢の方を見る。
この男は、なぜか俺には今は攻撃してこないと確信できた。
奴も俺がこの場から去ろうとしない限りは攻撃をしてこないつもりであろう。
――――今の音夢は、茫然自失としていた。こんな音夢を見るのは本当にしばらくぶりだ。
その表情は、全くなにも理解していないようだ。
「――――兄、さん……?」
「ああ……たく、何をやっているんだよ、お前らしくもない――――悪魔が相手だからって、あんなに感情的になって」
「――――けどっ!!」
「黙れ!!!」
言葉をつなげようとした音夢に一喝をして黙らせる。発せられた俺の声は、迷宮の隅々まで響くのではないのかと言うほど凄まじいものだった。
――――俺は、ここに来て初めて大きな怒りを感じていた。
普段は賢いくせに、こういうときにだけ馬鹿になってしまう妹に!!!
そして何よりも――――音夢がこうなる前に止められなかった――――俺自身に!!
「お前―――― 一体この四年間、薫さんの元で何をやっていたんだ!? お前が教わったのはこんなことなのかよ!?」
「――――ッ!!」
神咲 薫――――音夢の師匠にして、神咲一灯流の現継承者。
あの人は、人を救うために刃を磨いていた、あの人が――――音夢に授けたものは、けして彼女の憎悪を磨くためのものではないはずだ。
それは――――我が師であり、兄でもあるあの人が、俺に授けてくれたものと同じものを授けてくれたはずだ。
俺達は、それを授かった者としてそれを授けられたものとして……真摯に受け止めなければならない。
「――――これ以上は言わないぜ? 分かっているだろう、音夢?」
「――――ごめん、なさい」
ぽたりと音夢の眼から涙が零れ落ちる。
――――それは誰に対して言った言葉なんだろうか?
音夢の師である、神咲薫さんか、それとも俺か――――あるいは、その両方かもしれない。
くしゃくしゃと音夢の頭を撫でてやる。
「ちひろちゃん、茉莉ちゃん、ごめん。 音夢のことを頼むわ。 聞きたいこともあるだろうけど――――後で、全部話すから今は頼むよ」
「あ、は、はい!」 「う、うん」
苦笑しながら言った俺の言葉に、戸惑いながらも二人で音夢を抱えて戦場から離脱する。
――――しかし、本当に派手に壊したものである。
周りを見て、苦笑を消し顔を引きつらせて俺は思う。
先ほど、やばい位に無茶苦茶な魔力が開放されたと思ったが、これは音夢の古代魔法だな。
雷の焼け焦げた後、真空の通り過ぎ、粉砕された壁――――おそらく、雷帝の力を借りた上位の古代魔法って所か。
さて、と……
「悪いな、待たせて」
「気にすることはない――――待たされた分は、今から請求する故に、な」
刀を抜かず、静かに両手を剣の柄へと落とす、目の前の男。
抜刀術――――それに、二刀の刀によるそれがこいつのバトルスタイルか。
その顔に浮かぶの喜悦、分かる――――この男は戦いにしか生きられない男だ。
俺もまた、同様に構えを取り相手を身構える。
強い――――こいつはマジで強いな。
良いだろう、面白レェ……
神速の抜刀術――――それも互いに二刀どちらの流派が、技が上か――――
「「――――勝負!!!」」
互いに弾丸の如く速さで敵へと迫る。
――――俺は知らないが、先程の音夢との戦いとは逆のスタイルで相手は俺に対峙していた。
即ち、それは俺が本気を出すに足る存在だと認めた証だった。
「セェイ!!!」
「甘いぜッ!!!」
迫り来る凶刃の勢いを己が刃を持って勢いを殺す。
一閃、二閃、三閃――――!
刃は無数の閃光となって互いを蝕まんとする。
ガァン!ギィン!!グギィン!!!
刃が合わさった瞬間、火花が散る。
獅子座の剣が、麒麟が、奴の二刀が俺達の領域を蝕もうとする!!
十閃、二十閃、三十閃――――!
重ねて行く度に、互いの刃は重くなり、重ねて行く度に互いの刃は速度を上げる――――!!
「ウラァァァァァァ!!」
「チェェェェェイイ!!」
グァァァァァァァン!!!
渾身をこめて放たれた二人の二刀の刃は互いの主を吹き飛ばした。
チィッ!!
思わず舌打ちをすると、体制を整えて地面へと着地する。
それは、相手も同様のようだ。
互いに遠距離から睨みあい、構えなおす。
「――――御主等、何者だ? 御主ほどの使い手はこの国では水瀬秋子位であったと思うが……」
「残念ながらあの人は俺よりも強いぜ? 第一、あんただって名乗れって言われて名乗れるのか?」
「――――ふっ、そうであったな。この問いは、現状においては無粋であったか」
そう言うと、男は自らの持つ刀を十字に交差させた。
――――来る、な。 今までで最強であり、最速であり最悪に重い攻撃が。
「さて、と。お互い準備運動はもう十分だろう?」
「無論」
その言葉に短く答える。
俺は、刀を鞘に納めて――――抜刀の構えを取る。
それと同時に、普段纏っている量とは明らかに違う量の魔闘気を纏う。
今の俺は、端から見れば黄金に輝く魔闘気に包まれているように見えるだろう。
そう、今までの戦いはあくまで互いの実力を確信する為の前座でしかない。
そして、互いが互いに理解しあった為に――――全力を持って屠ることを確信したが故に、俺達は互いの内側に秘められた力を解放する。
「――――感じるぞ、強大な力を……」
「――――俺も感じるぜ、半端じゃない鬼気をな」
その言葉が最後であった、以後、語る言葉は必要ない。
これより先に語るのは、我が手に在りし凶刃と今まで錬磨した技だ。互いにそれ以外の方法は必要ないと理解していた。
(――――先手、行くぜ!!!)
心の中でそう叫び声をあげるとそれと同時に右手を振るい、五本の飛針をほぼ同時に飛ばす。
一閃
その攻撃をなんでも無いかのように片手の刀で振るい叩き落す!
――――だが、その時には俺はすでに二度目に放たれた飛針と共に並走していた!
「ヌゥ!」
「デェイ!!」
片手の剣で飛針を弾き、俺の剣を受けようとするが――――甘い!!
「何ッ!?」
「気付くのが遅いぜ!!」
二度目に放ったのは飛針だけではない、その中には特性の九番鋼糸も混ぜてある!!
俺は、片手で九番鋼糸を操りもう片方の腕で麒麟を振るう。
だが、奴も音夢を倒せるだけの実力の所持者、そう簡単にはいかない。
片腕を封じられようとも、もう片方の腕で俺の小太刀をあっさりと弾いた。
――――重さが全然違いやがる……まさか、俺がこの状態でも付いてくるとは……!
「ふっ!!」
「チィッ!」
九番鋼糸を一閃で断ちつつも、俺への攻撃も同時に行う!
俺もまた、鋼糸を断たれた事によって使うことができるようになった左手を使いその攻撃を流しきると同時に更に一歩前に出る!
俺と男は完全に零距離となった!
魔闘鬼神流――――死海一生――――
零距離からの魔闘気による発剄の一撃。ただしそれは通常の発剄ではない。
発剄とは、気を腕から発することによって相手を吹き飛ばすことや対象を粉砕することができる技である。
この技は、それを魔闘気によって強化するだけではなく“海”の名が入っていることから分かるように水の魔力と気を持っている。
「グォォォォォォ!?」
男はその力の前に、あっさりと吹き飛ばされた。
死海一生は水の圧力を持って相手の内部五と破壊する技。
これならば、気のガードもしづらく、下手に気だけでガードをするのであれば圧力によってその気ごと圧力でつぶれてしまうのだ。
これが、魔闘鬼神流の真髄である。
魔闘鬼神流とは、魔力と気を一つにあわせることによって魔闘気を発生させる。
その真髄は、魔力と気に属性を同時に付与し、二つの全く同じ属性の力をぶつけ倍化させるのだ。
全く同じ属性ではあるが、気と魔力という全く性質の違う二つのものを同じ属性で使うためにその力は数十倍にも及ぶ。
今の死海一生も唯の一撃で、ビルを一瞬で倒壊させるだけの威力を持っている。
――――しかし、俺は理解していた、この程度のことでは大したダメージにもならないであろうことを。
「――――中々の威力、見事、といっておこう」
「おいおい、掠り傷一つなしかよー……受けるにしても、少しくらいはダメージを食らってくれよ」
冗談めかして言うが、死海一生を受けて無傷とはな……
ビルを倒壊というのは洒落でもギャグでもない、実際にやろうと思えば出きるであろう、それほどの威力だ。
おそらくだが、受けた瞬間後ろに飛び、圧力を気でガードしてその後に、水を斬ったのだろう、が。
冗談抜きで、とんでもないな――――この男……
だが、いくらなんでも気による強化だけではそんな事はできないはずだ――――ともすれば、この男、剣術や体術以外の物を持っているのか?
「次は拙者から参る」
「むっ……くっ!!」
思考をとめて、慌てて迎撃の態勢を取る。
神速の速さで動く男に対して、俺は飛針を飛ばすと同時に魔闘気を練る。
――――欠片も掠りもしねぇか!!
飛針なんぞ全くの障害にもならないんだろう、事実それは俺にも理解できていた。
それでも俺は飛針を放ち続ける。
「無駄だ」
「そいつはどうかな、と!!!」
男の攻撃に対して、俺はバックステップで回避すると今度は、反対側に向かってほぼ平行に走り抜ける。
その跡を追うように、奴も俺の方へと迫る!!
俺はそれでも構わずに飛針を放ち――――奴の攻撃を迎撃する!
ガギィン!!!
「グッゥゥゥゥウゥ!!」
「そのような玩具では、拙者を倒すことは敵わぬと理解しているだろう」
「ああ、勿論、なッ!!!」
ガァァァァァン!!!
俺は、奴の剣を起点に自らの身体を刃の返す力によって吹き飛ばす。
奴は、即座にそれを追い俺へと迫ってくる。
チィ、流石だな――――動きが速いだけではなく、対応も早い!!!
――――なら、これならどうだ!!!
「火炎陣――――纏い!!!」
「なんだと!?」
奴は驚愕し自らの身体にまとわりつく炎にあわてる!
火炎陣『纏い』
――――音夢の特性が、雷ならば俺の特性は紛れもなく炎とそして水である。
理由はいえないが、俺は二つの属性――――それも異なる属性を同時に操る才能を持っていた。
これは俺の技の中でも、かなりの高位の技である。
火炎陣はその名の如く、相手に対して陣を引き動きを封じるためのものである。
これを始動させる為には、条件が二つある。
まずは、当然ながらその陣の中に相手を誘い込むことである。
そしてもう一つは、ある一定の動きをすることである――――つまり、先程走り回っていたのはこの陣を安定させるためだったのだ。
「ふっ……俺だって伊達に走り回っていたわけじゃあないんだぜ!!」
「くっ……確かにこれは拙者の油断か! だが、この程度の陣など即座に断ってくれるわ!!!」
奴はそう宣言し、刃を振るう。
その力は、魔闘気で編まれた陣ですらも吹き飛ばしかねない。
――――だが、俺には奴が結界を破る時のそれだけの時間があれば良いんだ
「魔闘鬼神流――――水ノ技――――大螺旋!!!」
「ヌゥ!!!」
奴も気付いたのだろう、俺のやろうとしていることに、だが、結界を破壊してからでは――――遅いぜ!!
ダイ・グリズリーに放った魔闘鬼神流の技――――だが、今度のは前のとは威力も、そして目的も違う!!
大螺旋は剣に水の魔闘気を纏うだけではなく、その力を、即ち水を刀の周りに螺旋の如く回転させる。
そして、俺は同時に獅子座の剣を解放する!!
「魔闘鬼神流――――炎ノ技――――火焔流!!!」
「なにぃ!?」
火と水、同時に扱えない二つの属性を同時に扱う。
魔闘気を纏っているのだからできないだろうと思っている人間は多いが、実は違う。
魔闘気が変質しているのは、あくまで使用している部分だけ。それ以外は通常の魔力と気だけなのだ。
――――獅子座の剣の名を持つことから分かるようにこの剣の属性と特性は炎、故にその力は炎を纏う時に最高のものを発揮する!
俺は、奴に対応するために魔闘鬼神流の技を刃に込め、中に収めてから小太刀を鞘に納めなおし抜刀術の構えを取る。
奴は結界を破壊することよりも、俺の技に対処することを選んだようだ。
とてつもない気を刀に編みこんでいるのが分かる――――!
「ハァァァァァァァ!!!」
「グゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
放たれる一撃は、強大――――俺と奴――――二人の剣鬼が己が技をぶつける!!!
――――水火融合・抜刀術――――
――――小太刀二刀御神流 奥義之六・変則――――
――――薙旋・炎刃水刃乱舞の太刀――――
――――無形技・刃閃乱舞――――
視点:SYUKAN
「す……すごい……」
茉莉はただ呆然とそう言うしかなかった。
その一撃の見事さ、その一撃の疾さ――――先程の音夢との攻防など全く児戯とも言えるほどである。なにせ、二人の攻防は見えないのだ。
だが、先程の音夢との攻防とは違うところがいくつかある、二人は怖ろしく疾く、怖ろしく重い攻撃を放ちながらも一度も周りへと被害が出ていないのだ。
その攻防のレベルの高さは言うまでもない、そして茉莉と同様にちひろもまた驚愕していた。
――――ちひろは、彼女は祐一の強さを理解していたと思っていた。
とてつもなく、底が見えないほどに強いとも理解していた。だが、それでも――――実力を見て驚かされ、自分の認識がまだ甘かったことをはっきりと理解した。
(今の私の眼では追えない――――なら)
ちひろは、自らの瞳の力――――知覚の魔眼を使用する。
知覚の魔眼――――その力は、全てのものを認識する魔眼である。
それは、ちひろが持って生まれ持った特殊な魔眼であり、かつては忌み嫌ったものである。
この魔眼は、物凄く稀少で、尚且つかなり強力な魔眼である。認識したいものを心に描けば、彼女はこの魔眼である程度の未来ですら認識することができる。
(これが――――相沢祐一さん!)
戦慄する、その戦いの内容を知って。そして、彼女は同時に風の精霊の力を借りて知覚できるものを更に上げる。
彼女のもう一つの能力である、風の紋章である。
風の紋章とは、精霊の中でも最上位精霊や古代神、そして失われたと言われている古代の魔王の力を持つ者の証である。
音夢の持つ紋章――――雷帝ヴェルバルガズ
そして、ちひろの持つ紋章――――風神王イリーズィア
雷帝の紋章を持つものは、雷帝を含めたその眷属の力を扱うことができ、同様に風神王の紋章持つものは風神王の眷属や力を使うことができる。
勿論、特性はあったとしてもただでその力を使えるわけではない、それが契約である。
今は失われた古代の力を媒介に、失われた存在と言われている者の力を引き出すことができるのだ。
それは、単純明快に言ってしまえば、それを人間が知覚できなくなってしまっただけと言うことだ。
人が風の恩恵を忘れたから――――風の王は人に悲しみ。
人が炎を恩恵を忘れたから――――炎の王は人に怒り。
人が水の恩恵を忘れたから――――水の王は人を見捨て。
人が土の恩恵を忘れたから――――土の王は人に絶望した。
理由や感情は違えど、他の神もまた同様に人を護る価値のないものと認めた。だが、そんな中で突然変異したものが現れた。
それが、紋章を持ちし者達である。
紋章を持ちし者達は、心に古代神の思いと感情を受け継いでいた。
雷帝の如く――――音夢は怒りという感情を暴走させやすく。
風神王の如く――――ちひろは優しく穏やかである。
無論、音夢の未熟もある。それと同様に、ちひろの元の性格というのもあるであろう。
だが、それと同様に紋章を――――神の欠片を引き継いだ者達もその心に動かされやすいのも事実である。
紋章とは即ち神のかけらである――――そして、神に認められたもののみが契約を行うことができるのである。
そうして得るのだから、紋章と契約の力は凄まじいのである。
そして、ちひろの契約したイリィーズィアは風の王である。その力は、癒し・守りに長け知覚領域を広げることもできる補助的な力が強い。
彼女が行っているのは、まさしくそれの恩恵ともいえよう。
彼女は認識する、その戦いにおけるその一刀に込められたその力を――――
「ちひろ……分かるの?」
「茉莉……うん、本当に凄いよ、祐一さんも――――あの悪魔の人も」
舞う様に、踊るように、まるで美しい舞を見ている気持ちにすらなる。
銀光が閃く、火花が散る、己の鍛え上げた体術が踊る。
――――舞うかのごとくその動きを見て、ちひろは確信する、相沢祐一という存在が誰なのか。
彼こそが――――お告げにあったもであり、あの二つ名を冠するものだと。
「聖剣舞士――――ソードダンサー……!」
「――――ッ!祐一さんが!?」
聖剣舞士――――
僅か二年ほど前から囁かれる様になった二つ名で、舞うかのごとく二刀の刃を持って敵を屠る。
その力である火と水の共演はまさに至高の芸術であり――――同時に、残酷なまでに苛烈。
左手には、炎の聖剣――――
右手には、五の属性を纏め上げた聖剣――――
二刀の聖剣を操り舞うように美しい戦い方から付けられた二つ名は、聖剣の舞い手、即ち聖剣舞士である。
ちひろは、その瞳の力で祐一の持つ剣が強大な力を秘めている二本の聖剣であることに気付いた。
「――――じゃあ、私達は見つけてたんだ」
「うん。――――うん」
彼女達は探していた聖剣舞士を――――この地に現れると言う予言を信じて。
なぜなら彼は――――そう、彼こそが――――
「そならちひろ……手助けを――――」
「――――駄目だよ、茉莉」
「ちひろ!?」
ちひろの言葉に、茉莉は非難の声を上げる。
彼を探していたのだ、彼がここで倒れるようなことがあれば全ては水泡と帰す。
茉莉は、当然ここで力を貸すべきだと思っていた。ちひろもそれは理解しているのではないかと思っていたが――――
「私達があの中に入っても――――足手まといになるよ」
「……………ッ!」
ギシリ……と、彼女は歯を鳴らす。
見れば、悪魔の男は陣に囚われていたが、それすらも悪魔の男は跳ね除けるほどの剣椀を持っていた。
その技量の前に――――自分は何ができる?かえって、足手まといになるのではないのか?
「――――お二人は、何者なんですか?」
唐突に、二人の会話に割ってはいる者が居た。
目元を赤くしてはいるが――――そこには先程よりも随分と落ち着いた音夢が立っていた。
ちらちらとも兄方を確認しない所を見ると――――余り心配をしていないようだ。
それは、どうでも言いというよりもむしろ、絶対の信頼が取って見えた。
「音夢さん……!大丈夫なんですか?」
「――――すいません、先程は御迷惑を掛けました。 もう大丈夫です、お二人も――――大丈夫ですか?」
「あ、う、うん、大丈夫……です」
それきり、会話はぷつんと止まる。
なんというか、どちらも気まずい感が残っているのだろう――――
それはそうである、雷帝の力で感情を暴走させやすかったとはいえ、音夢は二人を巻き込む事お厭わずに魔法を放ったのだ。
音夢自身も本当に気まずいだろう。
「――――馬鹿、ですね。 私」
「音夢さん……?」
「薫さんに――――私の尊敬するお師匠様に、教えられたことを……一番大事なことを、忘れるなんて」
自嘲気味にそう言う音夢に、二人は心が痛くなる。
なぜなら、音夢の中に燻っている、その暗黒は――――二人の中にもあるのだから。
「音夢さん……」
「復讐――――ですか」
「!?」
茉莉の囁くようなその言葉に、音夢は一瞬表情をこわばらせる。
そして――――苦笑した。
「……ええ、そうです」
「復讐の為に――――あなたはその刀を取ったんですか?」
「……それは違います。 今、言っても信じてもらえないかもしれませんけど」
音夢は、静かに茉莉とちひろの前に――――刀『無頼』を掲げる。
実際、彼女がこの刀を取った理由はそれではない。
もう奪われない為に、もう奪われないように……音夢はその技術を磨いてきた。
それは奪うためではない。
それは破壊するためではない。
それは――――護る為の刃なのだから。
「だからきっと――――先程私が振るった刃には、きっと力はあっても心が無かった」
「そう、ですね――――復讐なんて、むなしいだけだもんね……」
「――――茉莉、音夢さん」
音夢は直感していた、この二人も自分と同じ思いに囚われていたことがあったのだと。
けど――――それは今話すべきではない、兄が戻ってきてから、この戦いが終わった時に話すべきことであろう。
三人は、それを同時に直感し祐一の方へと視線を向けた。
――――そして、三人の視線は驚愕に固められた。
視点:YUICHI
轟々と、火が燃え、同時に水が当たり一帯に散っていく。
二つの高められた力は、互いに貪りあい互いを消しあった。
――――まぁ、正確に言えば俺の攻撃は奴に多少なりとも命中したが、ダメージには程遠いほどに軽減された。
冗談ではない、あの技は俺の技の中でかなり威力がある技なのだ。 少なくとも、相殺されるとは思ってもいなかった。
それに、先程放たれた技――――おそらく、無数の斬撃をほぼ同時に行うことによりその空間において、無限の斬撃を放つ技だと見た。
多次元積層現象……とどのつまり、一撃を二撃に二撃を四撃に、そうすることによって、次元の断層を創り、小規模の次元震を起こしたって所か。
こいつ……本当に何者だ。
「なるほど――――二刀の小太刀の使い手にしてこの太刀筋『御神』か。お主、漆黒の騎士の手の者か」
「ッ!!」
驚いた、本当に驚いた。
何よりも驚いたのは、師匠の字ではなく漆黒の騎士の字が出てきたことに驚いた。
――――それに、師匠の名ではなくこの字が出てきたって事は、この男……まさか!
全てが符合した、この男の正体がこの男が何者かが……ッ!
「お前……そうか、お前は……!」
「察しが良いな――――だが」
――――その様なことは、この勝負において関係はあるまい?――――
構える、男は構える。
その顔に愉悦をその顔に歓喜と狂喜を灯して――――!
この戦いの最後を望んで……!
「……チィ、確かにな……だが、俺が勝ったら喋ってもらうぞ……!」
「良かろう――――その時は、好きに」
奴がそう言いかけた時だった。
当たり一体が凍りつくほどの邪悪な気に、魔力に包まれた。
俺も――――目の前の男も、その気と魔力の前に凍りつく。それ程に、壮絶なまでに凶悪な力が辺りに充満していた。
だが、例えそれであろうとも、俺とこの男を止めるには至らないだろう。
俺達を止めたのは――――それは、原初から来る感情に突き動かされたためだ。
人はその感情を、恐怖と呼ぶ。
その恐怖を振りまくであろう者の声が辺り一体に響く。
『何をしておる、アスタロス』
「……ハッ」
『余の命はどうした?』
凍りつく、動けない――――否、動いたら殺される。
とてつもなく美しい声だった、だが、ひどく怖ろしい声だった。
それは、目の前の男――――この声の通りに言うのであれば、アスタロスという男は跪きただ言うがままになっている。
だが、この声を、この気配を感じればおのずとそれは理解できる。
――――なぜなら、師匠の本気と同等の圧力を掛けられているのだから。
「――――直ちに、遂行いたします」
『ふむ、まぁよい。戯れるのは構わぬがアスタロス、貴殿には次の任があることを忘れるな』
「……御意」
もう確信した、この男はアスタロスと名乗っているがそうではない可能性のほうが高い。
なぜなら、俺が予測している組織ならば同じ称号を与えられているくらいがあるからだ。
――――そして、あの声の男が何者なのかも。
男――――アスタロスは、俺の方を向くと失笑する。
「――――けりは、何れつけようぞ」
「ッ!?待てッ!!」
ダッと走り抜ける――――それは迷宮の奥の方だった。
秋子さんの話が本当ならば――――奴の目的は俺達と一緒のはず!!
俺は、慌てて三人のほうを見て、一声掛ける!!
「音夢!ちひろちゃん!茉莉ちゃん!悪いが先に行くぞ!!」
「分かりました!」「は、はい!」「う、うん!」
俺の言葉に三人は素早く頷く。
――――だが、それを確認している暇は無い!!
俺は、魔闘気を先程と同じ濃度で固定し、見失わないようにアスタロスを追いかける。
――――ここに、この迷宮最後の争いが始まった。
座談会
祐一:どうも、祐一だ。
ちひろ:た……橘ちひろです。 よ、よろしくお願いします。
茉莉:えっと……ちょ、ちょーっと緊張するかな? 渋柿茉莉ですよろしくお願いします。
音夢:私は慣れました……相沢音夢です、皆さんよろしくお願いします。
作者:(ビクビク)……ど、どうも、作者の魔龍ですぅ……よ、よろしくお願いしますぅ……
魔龍:って、どうしてそんなに初めから屁っ放り腰なんだ作者(汗
音夢:……まぁ、今回は話の内容上仕方ありませんから、何もしませんよ。
祐一:あははは……まぁ、それはともかくとして、今回は告知があるんですよね?
魔龍:ああ。なんでも、とあるキャラクターの姓を考えて欲しいそうだ。
ちひろ:とあるキャラクターの姓……? オリジナルキャラクターですか?
茉莉:あははは……ちょーと話を聞いた感じだと微妙なんだけどねー
祐一:あれ? 茉莉ちゃんもう話を聞いているのか?
茉莉:あ、はい。 なんでも、やられた時の司会進行を頼まれたので……
一同:(汗)
ちひろ:そ、それはともかくとして――――なんていうキャラクターなんですか、作者さん?
作者:はい、キャラクターの名前は『アキステ』……彼の姓を考えて欲しいんです。
魔龍:マテ
作者:……大体言いたいことは分かりますが、なんでしょう?
魔龍:アキステって……某友人のペンネームだったな?
音夢:そ、そういえば……(汗)
作者:問題なしです! むしろ私よりも友人の方が乗り気です!!て、言うか仕掛け人の一人です!!!(ぉ
一同:(滝汗)
作者:では、どういうキャラクターかを。
アキステ
余り積極的には動きたがらない、良く言えば受動的な男で悪く言うと面倒くさがりや。
許婚の土御門沙綾と相棒であるホムンクルスのwork274と良くパーティを組んでいる。
使用メイン武器は銃だが、本来の武器は手に持っている傘である。
実は体術の方が得意だが、一番最初に書いたことが理由で銃を好んで使う。
祐一とは知り合いらしい。
祐一:……なるほど、で、当選したら何かあるのか?
作者:はい、今回は『恭也の受難シリーズ』のリクエスト権を出そうかと。
魔龍:リクエスト権?……具体的には?
作者:カップリングを好きに書いてもらうということです、例えば恭也×シグナムとか、恭也×ヴィータとか。
音夢:あは……あははは……(汗)
茉莉・ちひろ:それはともかく、皆さんよろしくお願いします!!