まずはじめに、この物語は相沢祐一君を主軸にしたCCOVの物語です。

そして、この物語は読者様の感想がある一定以上入ってきてから書きます。

それではごゆるりとお楽しみください……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣舞士〜ソードダンサー〜

 

第六話『苛烈……内に秘めしモノ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SYUKAN

 

 

 

 

 

祐一が壁の向こうへと調べに行った後、音夢を含めた少女達はダンジョンの端の方に腰を落ち着けた。

 

音夢と祐一は大した事はないし、ほとんど体力を使っていないが、神官であるちひろはやはり全体から見て一番体力がない。

 

そしてこれから先に何があるか分からない以上、体力は温存しておくに限るのだ。

 

そうして、5分位経過したときだろうか――――

 

ふと、音夢は気配と足音を感じた。

 

しかも、この足音の大きさからして、人間のものではない。

 

次に気づいたのはちひろだった、彼女はその気配がどういうものかであるかを明確に感じ取れたのだ。

 

知覚範囲は狭いが、より正確に感じ取れるのは彼女が神官だからだろうか?

 

音夢は、それがかなり強い気を放つものだということだけは分かった。

 

――――だが、ちひろはそれが何かまで感じ取ったのだ。

 

彼女は、かつてこの気配を身近に感じたことがあった。

 

故に――――彼女は、その瞳に恐怖を宿した。

 

 

 

「ま……茉莉……!音夢…さん……!」

 

「ちひろ!?」

 

「どうしたんですか、ちひろさん!?」

 

 

 

ちひろが視線を向けたのは、今まで彼女達が歩いてきた道の方だった。

 

――――分かる、音夢にははっきりと、そこには強大な魔が居ることは。

 

だが、自分が(たお)せないほどの相手ではないということも分かっていた。

 

 

 

(――――けど、ひどく嫌な予感がする――――?)

 

 

 

――――だが、それはあえて心の片隅に置いて置き音夢は、マジックアームの中から“無頼”を取り出す。

 

腕に、手甲の様に付いてるマジックアームの宝玉が光を放ち、音夢は即座に腰にさす。

 

同様にちひろもマジックアームから杖を取り出し、茉莉は腕に付いてるホルダーのホルスターを外した。

 

 

 

「茉莉さん、ちひろさん、今はともかく――――向こうに居る存在を斃しますよ」

 

「は、はい!!」

 

「う、うん!!」

 

 

 

二人の答えに音夢は満足そうに頷くと、“無頼”に手を添える。

 

――――居合い。

 

香里との戦いの時にはあえて出さなかった、音夢の必殺の一つである。

 

出さなかった理由はさもありなん、この技に関しては、他の技とは違い必殺(・・)である。

 

必殺――――即ち、必ず殺すと書く。

 

故にこの技を音夢が放つということは、相手を必ず殺すと心に決めたということである。

 

気配の数は無数、手加減をしていたら自分はともかく他の二人が危ない可能性がある。

 

いざとなれば、彼女自身の奥の手を出すことも考慮している。

 

 

 

(兄さん……間に合ってくださいよ!)

 

 

 

音夢はそんな事を祈る。

 

――――敵の姿が見えた。

 

予測どおりモンスターである、無数の足音から一体何体の敵が居るのか予測が付かない。

 

 

 

「ッ!……いきますよ!お二人とも!!」

 

「は、はい!」

 

「う、うん!」

 

 

 

音夢の声と共に、彼女の射程に入ってきた愚かな者が真っ二つに斬られる!!

 

放たれた技の名は、横一文字。

 

――――横一文字――――

 

曰く、刀を振っただけで空気に(はざま)が生じ、真空状態を起こす事が可能になり、相手が自分の間合いに入らずとも鎌鼬(かまいたち)の如く掻っ捌ける。

 

音夢は、それほどの技を極平然と放った。

 

そして、そのまま鞘には戻さず自らの刀に闘気を纏わせる。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

斬ッ!!!

 

 

 

闘気を纏った刃は、音夢の“無頼”を放れて後ろに居るモンスターを次々に屠る。

 

 

 

「ちひろ!後ろに下がってて!!」

 

「うん!分かった!!」

 

「――――来て!我が異界の盟友達よ!!召喚!!!

 

 

 

彼女の言葉に答えて、ホルダー……カードホルダーの中から、三枚のカードが彼女の前に召喚される。

 

――――カード召喚術。

 

ミラクルカードと呼ばれる、通常に人々が娯楽として遊ぶカードゲームとは違い、異界の扉となっているカードだ。

 

ゾーンと呼ばれる場所から、カードに記載されているモンスターを呼び出し共に戦う。

 

一般的にサモーニングと呼ばれるモノとは違い、モンスター達と心を通わせることによって始めて使える術である。

 

故に高等な術として見られ、特にミラクルカードを扱うものは少ない。

 

カルロ

 

タイタン

 

スィーリングマン

 

――――この迷宮内ということもあり、人型に極力近いか、人のサイズに近いモンスターを選び出し召喚する。

 

 

 

「みんな!音夢さんに力を貸してあげて!!」

 

「承知!」「ハッ!」「ケェケ!噛み砕いてやるぜェェェ!」

 

 

 

タイタンの巨体が、カルロの拳が、スィーリングマンの牙が次々にモンスターを屠る。

 

 

 

「――――後は!」

 

 

 

ホルダーの中から、カードがまた一枚取り出される。

 

今までとは色が違うカード。

 

――――色とは、それの特色を現すものでもある。

 

故にこのカードは――――

 

 

 

「大山脈に眠りしその力――――私の召喚獣達に与えて!!」

 

 

 

ゴォッ!!

 

 

 

カードに眠りしその力が、召喚獣達の力となる。

 

 

 

「オォォォォォォ!!大地の力!受けよ!!

 アースクエイク!!!」

 

 

 

タイタンの拳が大地に強大な振動を与える!

 

振動は、遂に硬いはずの迷宮の地面を割りモンスターを飲み込む!!

 

――――ひび割れた大地は、音を立てて地面を閉じていった。飲み込んだ、モンスター達ごと。

 

 

 

「我が主より賜りしこの力――――お見せしようぞ!

 爆砕牙ァァァァァ!!」

 

 

 

カルロの拳に溜められた気が放たれる。

 

放たれた気は敵を屠り続ける!

 

 

 

「ケェッ!派手にやってやがんなァ!」

 

 

 

スィーリングマンは、先ほどの位置から一気にこちらに下がってきた。

 

その俊敏さ、なんと早いことか。

 

ミラクルカードより呼ばれし召喚獣達は、無数とも言えるモンスターを前に奮迅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか……ミラクルカードとの使い手だったとは)

 

 

 

音夢自身、義兄の師であり、第二の兄とも言うべき存在がそれを使っているのを思い出した。

 

最も、兄が使っていたのは炎・闇の特性を持つモンスターだが。

 

 

 

「光よ集え、闇夜を照らす荒神よ!

 光の中に一つの道を!

 闇の中に一つの再生を!

 我が前に立ちふさがりし、闇のモノ達を払う聖光となれ!!

聖光荒陣(ホーリーシャイン・グロウ)!!」

 

 

 

(――――光の高位精霊魔術!?)

 

 

 

ちひろを中心に五紡星が描かれる。

 

掲げた杖は魔力の波を発し、その中に進入しようとした愚かな者達は光陣の力によって葬られていく。

 

 

 

(一体この二人――――何者なんでしょう)

 

 

 

力、技量――――どう見積もっても、Sランクの上位クラスは硬い。

 

――――こんな逸材が、なぜ旅人なんてものをしているのかは甚だ疑問だが。

 

音夢と祐一、この二人には目的があった――――秋子に会うという目的が。

 

だが、この二人はこのシティにどうしているのだろう?

 

 

 

「グルゥォォォォォ!!」

 

「ッ!――――ハァァ!!」

 

 

 

斬ッ!!

 

 

 

闘気を纏った無頼で敵を両断し、返す刀でもう一体を屠る。

 

 

 

(――――ともかく、今は目の前の脅威に対抗しましょう)

 

 

 

余計な思考をクリアにし、タイタン達の中に入り刃を振るう。

 

だが、それほどの事をやっても敵が減る様子は見せなかった。

 

――――音夢は思考する、この状況をどうやって打破するかを。

 

刃を振るう、刃を振るう、刃を振るう――――

 

魔術を使う?――――確かに有効的かもしれないが、この数ならば自分が得意とする魔術では付け焼刃なのでは?

 

それに、これほどのモンスターが唐突に現れたとは考えにくい。

 

刃を振るう、刃を振るう、刃を振るう――――

 

ともすれば、これだけのモンスターを従えた者が存在する筈だ。

 

刃を振るう、刃を振るう、刃を振るう――――!

 

 

 

(ならば、その存在を、葬るだけです!!)

 

 

 

考えは纏まった、後はそれを実行に移すだけ。

 

 

 

「――――茉莉さん!ちひろさん!!」

 

「はいっ!」

 

「なんですかっ!」

 

 

 

二人もまた、同様に魔法で召喚獣で敵を葬りながら答える。

 

 

 

「これだけの軍勢……どう考えても、迷宮にしては不釣合いです!!」

 

「――――あっ」

 

「で、でしたらこれはやはり――――悪魔の仕業!?」

 

「あく――――ま?」

 

 

 

思考が止まる。

 

音夢は刃を無意識に振り続けながらも、ちひろの言葉の意味を飲み込む。

 

 

 

(悪魔――――あく、ま――――ッ!)

 

 

 

浮かんできたのは一瞬の恐怖、だが、それが洗いながらされた時、音夢の中に激しい憎悪が滾る。

 

そう悪魔は――――

 

キッと先を睨み付ける。

 

無数のモンスターの先に悪魔が居る。

 

そこには居るのだ――――悪魔が。

 

自分の、そして兄の大切な  を した――――悪魔が!!

 

 

 

「破壊の雷、雷帝ヴェルバルガズよ!

 汝が力を我に与えよ、我は雷の紋章を持つ存在(もの)なり!

 その御力をもって、我が敵を葬る大いなる一陣の雷となれ!

 ディ・レイティア・スリサーク・フロム・ルバル・レイン・ディス・ヴェルバルガス!!」

 

「ッ!!高位古代魔法(ハイ・エンシェント・マジック)!!茉莉!!急いで、召喚獣を下げて!!!」

 

「えっ?えっ!?」

 

「早く!!!」

 

 

 

ちひろの言葉に、茉莉は戸惑いながらも三体の召喚獣をカードへと戻す。

 

 

 

「風の精霊シルフィードよ!

 我は風の紋章を持つものなり!!

 汝が優しき守りの力にて我らを護る盾となれ!

 アム・シィ・ティル・ウォーネス・ティ・ダグラ・シルフィード!!」

 

 

 

ちひろは知っていた、彼女の唱えた呪文の力を。

 

ちひろは知っていた、それがもたらすであろう滅びの力を!

 

 

 

雷帝滅嵐刃(ライトニング・ディストラクション・スラッシャー)!!!」

 

風護絶壁陣(シルフィード・フォース・フル)!!!」

 

 

 

ズガァァァァァァァガガガガガァン

 

 

 

「キャアアアアアアアアア!!」

 

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

 

 

音夢の放った斬撃は、雷と嵐を同時に引き起こし辺りに荒れ狂う。

 

全てを飲み込み、全てを破壊するその力はまさに雷帝の力を借りているに相応しい破壊力だった。

 

古代魔法(エンシェント・マジック)――――

 

今は、存在はしているがほとんどの一般レベルの魔術・魔法使いにはすでに失われた最高位の破壊力や回復力を持つものである。

 

今はすでに失われたと言われている精霊王・魔王・神に語りかける呪文(スペル)難解さその他複雑な契約等、余りにも解読に手間がかかる。

 

だが、その力は前述した様に絶大。

 

音夢が使った雷帝滅嵐刃(ライトニング・ディストラクション・スラッシャー)はその中でも、古代の神・魔王・精霊王等の力を借りて刃を媒介にし発動する。

 

その威力は全てを飲み込む雷と嵐が示している。

 

故に最上級の呪文(スペル)――――高位古代魔法(ハイ・エンシェント・マジック)

 

また、同様にちひろが使ったのも古代魔法(エンシェント・マジック)である。

 

中位古代魔法――――風護絶壁陣(シルフィード・フォース)

 

絶大なる風の壁を持って、全ての攻撃を防ぐ。

 

その防御力は、古代魔法(エンシェント・マジック)の中でもトップクラスである。

 

――――しかし、その力を持ってしても雷帝滅嵐刃の直撃を防ぐことは不可能である。

 

――――直撃なら、であるが。

 

今回のそれは余波である、しかし余波ですら――――

 

 

 

(音夢さんの属性――――それに魔力の量がこれほどなんて!)

 

 

 

タガが外れている、そう、外れているのだ。

 

――――理性なんて不要

 

――――善意なんて無意味

 

――――殺す殺す殺すコロス殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺ス殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺ス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス……

 

――――殺す!!!

 

音夢の中にあるのは、ただそれだけ。かつて、蹂躙された自分たちの  のように……私も奴らから、奪ってやる!!!

 

音夢は先を睨み付ける。

 

――――苛烈なる憎悪を持って。

 

音夢は先を睨み付ける。

 

――――悪魔を屠れる悦びを持って。

 

ダッと一足、すでに力のセーブなど等に記憶の片隅だ。

 

少女は跳躍する、狩人となって獲物を屠る為に――――

 

魔物達は怯える、その苛烈な憎悪を受けて立ちすくむ。

 

 

 

「邪魔ですッ!!!!」

 

 

 

音夢の一太刀には悪魔の如く力が宿っていた。

 

 

 

ゴゥン!!!!

 

 

 

ただの一太刀――――されど、その一撃には雷が纏われ空気を侵し、魔物を蹂躙した。

 

すでに、魔物達と音夢の立場ははっきりしていた。

 

狩る者と刈られる者……そこには、埋めようもない差があった。

 

 

 

「きゃあ!!」

 

「ね……音夢さん、ダメェェェェェ!!!」

 

 

 

ちひろは叫ぶ、喉から、心から搾り出してでも叫ぶ……!

 

全身全霊をこめて叫ぶ。

 

それは間違えだと、それはいけない、と。

 

――――あの時の過ちを繰り返してはいけない、と。

 

茉莉の  である、  の時と同じ間違えを。

 

しかし、届かない、音夢には届かない――――なぜなら、彼女と音夢は出会ったばかりだから――――届かない。

 

 

 

「――――ほう、面白いな、これ程に苛烈な憎悪をこの身に受けたのは久しいな」

 

 

 

男、だった――――着流しの和服を着た、侍風の男であった。

 

――――轟、とちひろは風が鳴るのを感じた。

 

それは悲鳴だった、風が男の登場に、その存在に悲鳴を上げているのだ。

 

――――そこに居るな、そこに居てはいけない、止めてくれ、ここに居るな、早く消えてくれ――――

 

風が悲鳴を上げている、男の存在がまるで風を冒すものだと言わんばかりに。

 

 

 

「――――悪魔ッ!」

 

「――――ふっ、確かに拙者はそう呼ばれる一族の者」

 

 

 

男はそう言うと、二刀の刀を抜く。

 

音夢は自らが持つ『無頼』を構えると、弾丸の如く速度で地を蹴った。

 

 

 

ゴゥッ!!

 

 

 

その速さ、その力強さまさに弾丸、迷うことなく進む。

 

それは、ちひろと茉莉では眼ですら追えない速度だった。

 

――――だが。

 

 

 

(――――いけない! よく分からないけど……でも、ダメ!)

 

 

 

「ちひろ? ……まさか何か視えたの!?」

 

「茉莉! このままじゃ、このままじゃあ音夢さんが……死んじゃう!!」

 

 

 

茉莉は見る、弾丸の如く速さを持って放たれた最速の一撃を。

 

侍風の男はその攻撃にただ受けに回るだけである。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「むぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 

放たれる憎悪の一撃!

 

穿たれる像王の牙!!

 

それは暴虐となって辺りを蹂躙する。

 

――――だが。

 

 

 

「当たらない……?」

 

 

 

そう、その一撃は地を削り、命を奪うその一撃はまるで男に届かない。

 

だが気づかない、音夢は気づかない。

 

怒りに我を忘れているから、憎悪に心を染められているから――――そうしないと、

 

 

 

(そうしないと、心が壊れてしまうから……!)

 

 

 

茉莉にも分かる、あの時  を  を助けられなかった自分には。

 

そして、気付く、男が嗤った――――嗤ったのだ、そして、その口元が動く

 

 

 

――――未熟――――

 

 

 

 

勝負は一瞬だった交わしていたのから、そこから刃が振るわれただけ――――

 

音夢に比べれば、遅く――――そして、音夢の刃に比べればとてつもなく重いその一撃は、音夢の腹部へと吸い込まれるように放たれる。

 

驚愕の表情を浮かべる音夢、彼女は死ぬだろう、間違えなく死ぬだろう。

 

その身は二つに別れて。

 

 

 

(奇跡でも起こらなければ、音夢さんは――――)

 

 

 

――――その時、一陣の優しい風が吹いた

 

だが、それは優しくもとても心強い風であり、茉莉をちひろを安心させる風だった――――