〜備考〜
この作品は魔法少女リリカルなのは本編→魔法青年本編→今作→A’s辺りです。
次期としてはA’sが始まる少し前くらい。
祐一は海鳴大学に受験する為に勉強中。
あれから、あの事件から既に数ヶ月。
出会った掛け替えのない仲間達。
得たのは大切な絆。
目覚めたのは魔法の力。
―――――大切な人を護り抜く為に俺が振るう力であり、そして、俺が心から愛した少女を護る為に使いたいと願う力―――――
そっと胸に掛けられた魔石を見る。
大義を剣に正義を盾に、そして勇気の心は、この胸に
俺が持つ蒼の魔石、レイバルト・バリアントの起動呪文。
勇気の心は、この胸に…………か。
今の俺じゃあ、多分コイツは俺の声に答えてくれないだろう。
愛する人に想いを伝える勇気すらない俺には。
魔法青年 相沢祐一
Before A.S. 04 If
〜ありえたかもしれない前日談〜
「ふう」
シャーペンを置き、一息吐く。
俺の目の前には今日中に終わらせる予定の参考書が3冊ある。
その殆どが手付かず。
理由は…………まあ、悩める魔法青年の秘密って事で。
敢えて言うなら―――
「―――恋煩い、ですね」
「そうそう…………ってアビス!? 何時の間に!!? というか心を読むな!!!?」
さり気無く隣りに居座るメイド服の少女。
彼女の名前はアビス。
前回の事件で出会った俺の掛け替えのない仲間の一人であり、共に戦った相棒。
空間の制御と操作を得意とし、心を読む能力を持った、対相沢祐一専用の究極のボケ殺し。
そのツッコミはありとあらゆるボケを殺す。
だが、その実態は『守護者(ガーディアン)』であり、魔石ユンカースのNo.1『absolute(アブソリュート)』である。
「訂正を要求します。今の私は新婚生活を満喫する新妻です」
「? 何か言ったか?」
声が小さすぎて聞こえなかったんだが。
「何でもありませんよ。相沢様」
そんな笑顔で言われたら追求出来ないんだが、まあいいか。
ちなみに何故、事件が終わった今もここにアビスが居るかというと。
「はい。これがフィア様となのは様、そしてフェイト様からのビデオメールです」
「そっか。何時も何時もご苦労さん」
「いえ…………これも妻の勤めですから。だからファイト、私」
実はアビスの他にも色々な人が交代で良くここに来る。
他の守護者達も例外ではない。
時空管理局で働くことになったフィアや他の守護者達。
彼女達は定期的にここに来てなのはちゃんやフェイトちゃんとの連絡係りをしているからだ。
宅配便でもいいんじゃないのか? と疑問に思うだろう。
実際、俺も疑問に思ってその事を言ってみようと思った。
だが、彼女達は様々な世界を時空管理局の仕事で飛び回っている為、こういう機会でもなければ会う事は出来ない、とリンディさんに押し切られた。
まあ、そう言った理由ならと俺自身も納得したのだ。
ちなみに俺が住んでいるのは水瀬家じゃなく、時空管理局から与えられた家。
もっと正確に言えば、こちらに来ていたなのはちゃんとユーノ君が使っていた家のお隣りさんでもある。
…………隣りの家の表札が『高町なのは』のままなのは気のせいだと思いたい。
それに、リンディさんとかも良くここに訪れる。
―――仕事はどうしたんですか? リンディさん。
―――逃げて来た? そうですか。
―――でも程々にして下さいね、クロノ君から愚痴言われるの俺なんですから。
なんてやり取りがあったのは記憶に真新しい。
そういえば、何か挙動不審だったなリンディさん。
これも未来の娘と義理の息子の為なのよ、とか何とか。
「どうぞご休憩なされてはいかがですか?」
「あ、ありがと」
スッと差し出された紅茶を飲んで一息。
確かにここ数時間ずっと座ったままだった。
休憩するのもいいかもしれない。
「大変な物ですね。受験勉強というのも」
「まあな」
それでも、時空管理局で働く為に必要な試験よりは簡単なものだろう。
…………多分。
「名残惜しいですが、私はこれで」
「ああ。気をつけてな」
さて、勉強を再開しますか。
この次期は受験生にとっても追い込みなのだ。
本当の意味での修羅場、追い込みではないが、俺自身としては少しでも学力を上げて置きたいのである。
気を遣ってくれたアビスに心の中で礼を言いながら俺は再び机に向かった。
「ふう」
体が火照る。
……こら、そこ変な想像しない。
事件が終わって数ヶ月。
面倒で長い裁判もほとんど終わって、後は結果待ち。
クロノ曰く「裁判は勝ったも同然」なので、私はさほど心配はしていない。
「……んぅ」
アースラに宛がわれた私室にあるベットの上でそっと寝返りをうつ。
アースラ内部を自由に行き来出来るけれど、私のやることは少ない。
起きて朝ご飯を食べて、裁判の記録を見て、祐一やなのはのビデオメールを見て、そしてお昼を食べて、祐一やなのはのビデオメールを見て、お昼寝して、リンディ提督と一緒にお茶をして、クロノやアルフと訓練して、晩御飯食べて、祐一やなのはのビデオメールを見て、寝る。
時空管理局の仕事がない日はこう過ごしている。
駄目人間の典型的な生き方だけど、数ヶ月も同じ所で暮らしていれば自然とやる事は少なくなる。
娯楽に飢える、と言っても言いだろう。
少し前の私からではとても想像出来ないだろうけど。
たまに、なのはの家に遊びに行く事もあるけど今日はその日じゃないし。
「……はぁ」
疼くように、体が熱く火照っている。
それに心も。
なんだろう、この気持ちは。
「……祐一」
その名前を口にするだけで、今まで以上に疼き、ざわめく。
数ヶ月前に出会った一人の青年。
私にやさしく微笑みかけてくれた人。
彼の、祐一の事を想うだけで頬が熱くなる。
そして胸も本当に火がついているのじゃないか、と思うくらいに熱くなって……もやもやする。
これって、『恋』なのかな?
このもやもやが『恋』だとしたら、辻褄はあう。
だとすると……私は祐一の事が……
再び、頬が熱くなる。
今の私の顔はきっと真っ赤なんだろう。
自覚した以上、この想いを告げよう。
やっぱり、このままここに居るのは私らしくないよね。
「………よし」
思い立ったが吉日、って言葉があるってなのはも言っていたし。
さっそく祐一を呼ぼう。
そして、祐一に想いを告げよう。
祐一の事を慕っている……ううん、好きな人はきっと沢山居るから。
フィアやなのは……それにアビスとかエレナとかの『守護者』たち。
ライバルは多い。
だから、はやく想いを告げないと先を越されるかもしれない。
でも、どうやって祐一を呼ぼう。
……気が付けば、私の視線は一つのディスクに注がれていた。
海鳴臨海公園。
そこに俺は居た。
本来なら、少しの時間でも机に向かい勉強していなければいけないのだが、今はそんな事すら微細な事に思えた。
「少し約束の時間より早かったかな」
そっと腕時計を見る。
呼び出された時間まで、まだ少し時間があった。
「散歩でもして暇潰すかな?」
この海鳴には始めてきた訳ではない。
元々俺が目指していた大学が、この海鳴にある大学で下見として何度か訪れた事があった。
海鳴がなのはちゃんの故郷でもあるという事を知った時はそれなりに驚いたのだけれど。
今日、ここに来たのには理由がある。
先日のビデオメール。
フィアやなのはちゃんのは殆ど何時も通り、毎日何をやっているのか、何があったのかとか、そんな内容だった。
密かに「まるで、交換日記みたいだな」って思ったのは秘密だ。
まあ、それはともかく。
フェイトちゃんのビデオメールは何時もと違っていた。
要約すれば「直接話したい事があるから来て欲しい」みたいな内容だった。
俺も、伝えなきゃいけない事があったから、その誘いにOKを出してここに来た訳だ。
「祐一」
「……ん。ああ、フェイトちゃん。ごめん、少し考え事してた」
本当なら、約束の時間までまだ数十分ある。
だけど、俺よりもフェイトちゃんの方が早く来ていたようで、約束の時間まで散歩して暇を潰そうとしていた事をフェイトちゃんに伝えたら「せっかくだから一緒に歩こう」とフェイトちゃんが言うので、こうして歩いている訳だが…………
「…………」
「…………」
…………か、会話が続かない。
無言で二人して歩き続ける。
な、何か話題を見つけないと。
辺りを見回し、何か話しのネタになりそうな物を捜す。
「フェイトちゃん」
「……ん?」
「あそこで何か食べない?」
俺が指さす先には一軒の屋台。
看板にある絵からして、鯛焼きの屋台だろう。
「……うん」
誤魔化している。
自分の想いから、目を背けている俺は臆病者なんだろう。
「はむ」
祐一に買って貰った鯛焼きを食べる。
でも味なんて全然判らない。
せっかく、買ってもらったのに。
これじゃあ、買ってくれた祐一に悪い気がする。
やっぱり隣りに祐一が居るからなのかな?
そっと気付かれないように祐一の方を見る。
眼は前髪に隠れて見えないけれど、端整な顔立ち。
「どうかした? フェイトちゃん」
そう言って私に優しく微笑んでくれる祐一。
その笑顔に私の中で眠る“何か”が反応する。
不思議と心が満たされ、暖かくなる。
春の日差しに照らされているみたいに。
それでいて真夏の太陽みたく燃え上がるように熱くなる。
今は秋が終わって、真冬に近いけれども、寒さなんて関係ないって位に。
そっと空を見上げ、辺りを見回す。
上空には淡い光を放つ金色の満月。
周囲には誰も居ない。
……私のこの気持ちを伝えるなら、今かな。
「祐一」
「祐一」
真剣な瞳をこちらに向けるフェイトちゃん。
……少しばかり口元についた餡子が雰囲気をちょっと台無しにしているけれど。
余りにも真剣なので追求せず、こちらも真面目に話しを聞こうと顔を引き締める。
「………………好き」
「―――え?」
その口から呟かれた聞き取れないほど小さな声。
だけど、その声を、大好きな、愛していると言っても過言ではない少女の言葉を正確に俺の耳は捉える。
そして、その言葉に、その意味に俺は硬直する。
タッ
不意に唇に感じる暖かさと柔らかさ。
驚きの余りに目を見開く。
爪先だけで立ったフェイトちゃんが俺の唇に柔らかな唇を寄せていた。
はっきり言うなら、キス。
日本語風に言えば接吻だ。
そっとその感触が唇から離れる。
目線を下に向けると、そこには両手の指をもじもじさせ、顔を完熟トマトよりも真っ赤にさせたフェイトちゃんが顔を俯かせつつ、時々上目遣いだけでこちらを見てくる。
頬が熱くなる。
多分、俺の顔も真っ赤なのだろう。
告白されて、キスされて、その相手が俺が想いを寄せている少女で。
何だか訳がわからなくて。
「俺も、好きだ」
気付いたら、そんな言葉が自然と口から出ていた。
なんだ、以外と簡単じゃないか。
自分の気持ちを相手に伝えるのは。
「え!?」
今度はフェイトちゃんが驚きに目を開く番だった。
「まさか、先に告白されるとは思っても見なかったけどな」
そして、俺はフェイトちゃんに話した。
あの事件の頃から気になり出していた事。
でも、お互いの年齢差とかそういった道徳面で中々踏ん切りがつかなかった事。
フェイトちゃんも話してくれた。
彼女の俺への想いを。
最初、俺が友達を、なのはちゃん遠ざける存在だと思っていたこと。
自分の知らないなのはちゃんを知っている俺に対して嫉妬していたこと。
ぽつりぽつり、と途切れながら独白するフェイトちゃん。
「フェイトちゃん」
「祐一」
愛しい少女のそんな姿を見た俺は彼女を優しく抱きしめる。
今にも壊れそうな繊細な硝子細工をそっと扱うように。
満月の光がそっと二人を照らす。
舞台の上に立つ主役にライトを照らすように。
それは黒衣の少女と魔法青年の新たな物語の幕開けだった。
〜後書き〜
この後A’sに続きますが、本編とはかけ離れたストーリーになる事になるでしょう。
AnotherのIfって事で納得してください。
作中、密かに分岐√が幾つか在ったり。それがIfが混じってる所だったり。前日談―Before―の筈だったんですが、ちょっとIfが混じってます。まあ、出来るだけIfな部分は削除しましたけど。
分岐√は以下の通り。
アビス正妻剥奪、愛人の座獲得、フィア(SEED発動状態)乱入、フェイト大人への階段(お子様厳禁)、他にもジャム入り鯛焼き(とらハ3で普通にチーズ入りとかあった)のせいでフェイトの中で眠るアリシア(記憶というか残留思念というか)覚醒などなど。特にアリシアの部分はかなり無茶な設定。
「二人一緒で……いいですか?」
この台詞を思いついて、それだけを言わせるために途中何度もプロットを大幅に変えた為に、完成が遅れて申し訳御座いません。まあ、私が遅筆なのも原因ですが。書いて見たはいいが収拾がつかなくなったので、本来のプロットで作品を完成させました。
空白が目立つのは、まだ私が未熟なせいですね。
展開が強引過ぎるのは自覚してますし、矛盾があるのも判ってます。
こんなのフェイトじゃない、なんて意見も受け付けておりませんので悪しからず。
では。祐一×フェイト推進委員会切り込み隊長の雷樹改め秋冷でした。