「ここなら大丈夫だと思うが……」



船を降りながら、ポツリと呟く。

見つかる可能性が無いとは言えないけど、他の場所と比べたら低いと思う。

ここは桜が一年中咲き誇る島『初音島』

以前、自分が住んでいた場所。

そこに、俺こと相沢祐一は降り立った。















桜からの贈り物

















「いつ見てもデカイなぁ……」



船着場から真っ直ぐに、何故か俺は巨大な老木の下に来ていた。

とても大きな桜の木。

枯れてはいるけど、まだ生きている感じが伝わってきた。

やっぱり自然と触れ合うのは気持ち良いな。

何故だか、すごく落ち着く。

都会では味わえない気分だ。



「ふぅ、こんなにのんびりするのも久しぶりだ……」



荷物を横に置いて、老木に背を預ける。

今の空はとても澄んでいて、気持ち良いくらいに快晴だった。

のんびりするのには、ちょうどいい。

偶には追われていることを忘れて、空を見ていよう。



「はぁ〜……良い天気だ……」





2ヶ月くらい前に、俺の周りで5つの奇跡が起きた。

一つ、重傷を負っていた叔母が、嘘のように元気になった。

一つ、自分自身の力と闘っていた少女が、それを受け入れて普通の高校生へと戻った。

一つ、光となって消えてしまった狐の少女が、再び人として帰ってきた。

一つ、自分の誕生日までしか生きられないと宣告された少女の病が、魔法を使ったかのように治った。

一つ、7年の間、ずっと眠っていた少女が、その長き眠りから覚めた。

これらのことが起こり、俺は言葉では言い尽くせないくらい喜んだ。

でも、それを境に彼女達は変な風に変わってしまった。

例を挙げるなら、学校の帰りに『百花屋』と言う喫茶店へ行き、俺に食べ物を奢らせるよう強要し始めたのだ。

おまけに、奢らなければ叔母特製の『食べたら天国が見えそうなオレンジ色のジャム』を食べさせると言いながら。

何度も何度も奢らされて、気が付けば貯金が3万程度になっていた。

元々の金額は100万。

両親が何かあった時のために振り込んでくれたものだ。

それが、2ヶ月の間に泡のように消えてしまった。

原因は調べなくてもわかっている。

俺は叔母と話して、旅に出た――と言うか、逃げた。

これで、やっとゆっくり出来ると思っていた。

ところが、彼女達は俺を連れ戻そうと追ってきた。

当然の如く、帰りたくない俺は必死で逃げる。

それを追いかける少女達。

そんなイタチごっこが、ずっと続いて現在に至る。





「ふあぁ……」



ぽかぽかとした陽気の所為で、今までの疲れが浮かんできたのか、あくびが漏れた。

むぅ、本能のままに眠りたいが、もしかしたら眠っている間に捕獲とかされてたら最悪だ。

でも、ここに着いたばかりだし、いくらなんでもバレないと思う。

いやいやいや、あの人の情報網を使われたら、俺がここに居ることがすぐにバレる可能性だってある。

うぐぅ、どうしよう?



「……まぁ、きっと大丈夫だろう」



俺が選んだ選択肢は『ちょっとだけ寝る』だ。

無理しても仕方ないし、今の内に英気を養っておくのも生き残るための手段だ。

……って、俺は戦争でもしてるのかよ。

自分にツッコミを入れた後、俺は荷物を横に置き、老桜に背を預けながら眠りに着いた。















カリカリと、真っ白なノートに文字を刻んでいく。

現在、私こと白河ことりは春休みの宿題に追われていた。

別に急いでやらなければいけないと言うわけじゃない。

けれども、後で一気にやるよりも少しずつ片付けていった方が精神的に楽だ。



「ふぅ……」



動かしていた手を止めて、何気なく時計を見る。

時計の針は午後3時を指していた。

え〜っと、宿題を始めたのが1時だったから、もう2時間も経っちゃったんだ。

やっぱり集中すると、周りに眼が行かなくなっちゃうなぁ。



「良い天気……」



ふと窓から見た空は、とても青く澄んでいる。

雲の一つも無い青き空。

とても綺麗だ。
そうだ。 気分転換に散歩でもしてみよう。

こんなに良い天気なのだから、きっと外に居ても気持ち良いだろう。

それに、何か良いことが待っているような気がする。

私は教科書とノートを片付けて、玄関へと向かった。










気持ちの良い風が頬を撫でる。

風が踊り、桜の花びらが空を舞う。

それはとても美しい光景。

やっぱり外に出てみてよかった。

見慣れているとはいえ、こんな綺麗なものが見られたのだから。



「はふぅ……」



宿題の疲れが出たのか、それともお日様の陽気が原因なのか、思わずあくびを吐いてしまう。

う〜ん、どこかでお昼寝でもしようかなぁ?



「……?」



公園の前を通りかかった時、何か不思議な感じがした。

公園を見渡して見たけど、別に何かあるわけじゃない。

……もしかしたら、あそこに何かあるのかもしれない。

そう思った私は、公園内に足を踏み入れていた。

そこから、まるで見えない糸に引かれるように、私はある場所に進んで行く。

大きな大きな桜の木がある場所へ向かって、早足で歩いていった。

何だろう、この感じ……すごく…心が惹かれるような……そんな感じがする……

そんな気持ちが胸に一杯になりそうな時に、私は目的の場所へと辿り着いた。

以前は見る人を圧倒するくらい咲き誇っていたけど、今はもう枯れてしまっている。

ジッと見てみても、特に変わった様子は無い。

さっきのは、私の勘違いだったのかな。



「……あれ?」



何気なく上を向いていた視線を下げたら、木の根元に何かあることに気付いた。

よく見ると、誰かがあそこで眠っている。

誰…だろう?

なんとなく気になって、私はその人に近づいていった……















まどろみの中から、意識が浮上していく。

まだ眠気がある所為なのか、目蓋がものすごく重い。

必死で眠気を抑えて眼を少し開けると、誰かがこちらに近づいてくるのが見えた。

拙い、もう見付かってしまったのかっ!?

でも、あいつらなら走ってくるか、忍び足で来るはず。

それなのに、近づいてくる足は普通の足運びだ。

地元の人なのだろうか?



「あの……」



聞こえてきたのは、少女の綺麗な声。

ふと顔を上げてみると、そこには声を掛けたであろう少女が居た……



「あ……」
「あ……」





――ふと、少女と眼が合った。
――ふと、少年と眼が合った。





――柔らかな雰囲気を持つ、可憐な少女。
――暖かな雰囲気を持つ、儚い少年。





――彼女の柔らかな瞳に映る、慈愛の輝き。
――彼の暖かな瞳に映る、力強い意思。





――その輝きに……
――その意思に……





――俺は……
――私は……





――どうしようもなく、見惚れていた……
――呆然と、見惚れていた……





「君…は……」
「あなたは……」





――上手く言葉が出ない。
――口が上手に動かない。



――どうしてだろう、心が安らいでいく……
――どうしてだろう、心に何かが埋まっていく……



――それが何故かは、わからないけど……
――それがどうしてかは、わからないけど……



――すごく美しいものだと感じた……
――とても綺麗なものだと感じた……





枯れた桜の下で彼らは出会った。

それが何を意味するかは、彼らにしかわからない。

これはきっと贈り物。

桜達からの……ささやかな贈り物……















あとがき



シ「いえー! JGJさん、5万Hitおめでとうございます!」

祐「無駄にテンションが高い作者は置いといて、5万Hitおめでとうございます」

シ「何を言うかっ! こんなめでたい時にテンション上げずに、いつ上げると言うんだっ!?」

祐「そんなことは知らん。 えっと、今作ヒロインの白河ことり嬢、どうぞ〜」

こ「ちっす。 JGJさん、この度は5万Hitおめでとうございます」

シ「皆の者! 大いに騒げぇぇぇっ!!」

祐「お前は関係ないだろう、このド阿呆めが」

シ「がはっ! くぅ、祐一が冷たいぞことりさんっ!」

こ「わ、私に振らないでくださいよっ!」

祐「いいから、とっとと本文の説明をしろ」

シ「うぃっす。 KanonはAllEnd後、要するにご都合主義万歳なEndです。

  一方、D.C.は……テキトーに想像してください」

こ「そ、そんなテキトーで良いんですか?」

シ「特に決めてないからね。 とりあえず、純一はことり以外の誰かとくっついたってことでお願いします」

祐「俺はみんなから追われている設定なのか」

シ「うん。 BadEnd後でも良かったんだけど、何だかイマイチだったんだ」

祐「つーか、こんな終わり方でいいのか? すごく微妙だぞ?」

こ「私としては、続きを書いてほしいです」

シ「認可」

こ「えっ?」

シ「だから、『認可』と言ったのだ。 私としてもこの終わり方は微妙だと思っていましたし」

祐「ふ〜ん……まぁ、書くと言ったからには書けよ」

シ「もちろんです。 んじゃ、今回のあとがきはこれで終了です。 それでは〜♪」



シ「あっ、そういえばこれってKanonとD.C.とのクロスSS第二段だ」

祐「今ごろ気が付いたのか?」

こ「遅すぎですね」

シ「そ、そこまで言わなくていいじゃないか……」


完成日:2005年2月2日