「全員、用意はいいかーー!!」

 

目を閉じる―――いよいよ始まるんだ。俺の一週間の成果が今ここで。

 

「位置について―――よーい」

 

 

パァァァァン!!

 

 

ついに、勝負の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

―走れ、走れ―

最終話『RUN RUN RUN!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァッ!!

 

 

『始まりました、体育祭の最後にして最大のイベント! 組別対抗リレー!! 各選手一斉にスタートしました』

 

一斉に駆け出す選手。

その中で一人飛びぬける、一際目立つピンク色の髪の少女。

―――そう、るーこだ。

 

『おおっと!! B組のきれいなそら選手の素晴らしいスタートダッシュだぁ! 他の組を突き放していく』

 

そのまま突き放しにかかるるーこ。生憎と他の選手もスピードが付き始めているので、あまり突き放す事はできなかったが、それでも堂々の一位だ。

 

「頼んだぞ、うーかい」

「……まかしとけ」

 

 

ダッ

 

 

『一位はB組、続けて少し遅れてA組とC組、最後尾のD組が今、バトンタッチ!』

 

南海が先頭を走り、その後を上級生の二人が追う。

 

『B組の南海選手、トップを維持しています。後方のA組の横山選手、C組の進藤選手が追い上げますが、差が縮まりません』

 

すごいな、南海。上級生を相手に引けを取らない。

むしろ、勝ってる。

 

『中間地点の第三走者。一位は依然B組、それを先程と同じ位の差でA組、C組。少し離された所にD組の順でバトンを受けます』

 

「先輩」

「任せろ!」

 

南海からバトンを受けた黒須先輩が走り出す。

さすがは黒須先輩、綺麗なフォームで地を蹴る。

 

『B組の黒須選手、さすが陸上部の主将。見事な走りです。この第三走者は三年男子のエースが揃っていますが、全く歯が立っていません』

 

既に差は10m位。

D組においては15mは離されている。

 

『第四走者、トップはB組、遅れましてC組とA組、D組は早くも優勝戦線離脱か?』

 

「瑠璃ちゃん! 頑張って!」

「貴明に応援されるのは嫌やけど、まかしとき!」

 

四番目の走者は瑠璃ちゃん。スピードは黒須先輩達のそれには遙かに敵わないが、それでも順調に走る。

 

結果、差は少し縮まってしまったようだが、トップを維持した状態で第五走者の美里さんにバトンを渡そうとしている。

 

「そろそろ走路に出た方が良さそうだな」

 

俺を始め、アンカーの人達がたすきを受け取り走路に出る。

B組は一番なので俺は一番イン側だ。

 

「頑張れ、うー」

「負けるな、河野。あの赤髪の女は強敵だ」

 

俺はタマ姉のほうを見る。

タマ姉はどこかのIT社長のような余裕の篭った表情。

まるでこれくらいの差、ハンデにもならないって言ってるようだ。

一方のこのみは若干苦しい表情はしているが、そこまで絶望した表情じゃない。

 

第五走者の付ける(アドバンテージ)が勝負に大きく左右されるだろう。

いくら痛みが無いとはいえ、全快じゃない足なのだ。

差はあるに越した事は無い。

 

『第五走者にバトンタッチです。トップはB組、続いてC組、A組。D組は相当離されました』

 

「タッチや!」

「うん! 任せて―――あっ!?」

 

 

瑠璃ちゃんの手から受け渡されるはずのバトンがポロリと地に落ちる。

慌ててそれを拾う美里さん。

たったそれだけのミス。

それなのに―――たったそれだけなのに―――

 

 

『あぁーーっと! B組ここで痛過ぎるミス! 守屋選手、バトンを落としてしまった!

 その間にC組、A組が近づいてくる!』

 

普通、こういう状況になるとミスを続けざまにしてしまうものだが、そんなことは無く、美里さんは冷静にバトンを拾い、走る。

しかし、差はすっかり縮まってしまい、ほとんど差が無い状態になってしまった。

 

『さぁ、いよいよ最終走者、トップは依然としてB組ですが、すぐ後ろにC組、A組が迫ってきている!』

 

「ご、ゴメンね! た〜くん!」

「気にしなくていいですよ」

 

嘘だ。本音を言えば相当きつい。

この差も無い状況で、このみ、タマ姉と争うなんて、勝率は限りなく低い。

だけど、俺は勝たなければいけない。

 

そうしないと、貞操が奪われる。

 

だから、俺は言ってやった。

 

「これくらいへのかっぱっぱですよ!」

 

 

バッ!!

 

 

『A、B、C組に今、ほぼ同時に最終走者にバトンが渡ったぁ!!』

 

 

ワァァァァァァッ!!

 

 

アンカーの番になり、一際大きくなる歓声。

三チームが揃い踏みとなれば当たり前だろうが。

 

俺はその歓声の横を全力疾走する。

 

『さて、先頭はA組の向坂選手、続いて、B組の河野選手とC組の柚原選手が並んで追走しております』

 

くそっ! やっぱり速い!

スピードをこれでも最大限に上げてるというのに、追いつかないなんて……

揃ってカーブに入るが、俺もこのみもたった1mちょっとの差が縮まらない。

カーブには俺に少し分があると踏んでいたのだが、それは大きなお門違いだったようだ。

 

「くっ……」

 

歯茎を血が出るんじゃないのかって位食いしばる。

残り50mを切った。

やっぱり、タマ姉には勝てないのかな……

 

勝負を諦めようとしたその時―――

 

 

 

 

 

「た〜くん!! 頑張ってー!!」

「!?」

 

この声―――美里さん!?

 

「た〜くん!! 負けないで!」

「頑張れ! 河野!」

「先輩! こんなとこで負けるような人だったんですか?」

「貴明! ここで負けたら後で死なす!!」

「一人じゃないぞ、うー。るー達がついてる」

 

 

―――みんな!

 

 

「……ありがとう」

 

 

―――俺は、まだ走れる!

 

 

「うおおおおっ!!」

「「!?」」

 

『ここでB組の河野選手がスパート!! 一気にC組の柚原選手を突き放し、A組の向坂選手に肉迫する―――!!』

 

「いけぇーーーっ!! た〜くん!!」

 

 

あと残り40―――30―――20―――10―――追いついたっ!

 

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

 

『ぬ、抜いたぁ!! B組の河野選手、A組を抜いて今トップに立ちました!!』

 

 

 

 

 

「……私の負けね」

 

 

 

 

 

通り過ぎた時、タマ姉からそんな呟きが聞こえてきたような気がした。

 

 

 

 

 

『ゴーーーーーーーール!!! 一位はB組! B組の劇的勝利です!!』

 

 

俺は一位でゴールテープを切る。

続けてすぐにタマ姉、その後をこのみ、かなり離されてD組がゴール。

 

「はぁ……はぁ……やった」

 

 

勝った……俺は―――いや、俺達は勝ったんだ。

 

「負けたわ、タカ坊」

「あ〜あ、タカくんとくんずほぐれつしたかったのになぁ……」

「そこ、何気に危ないことを言わない」

「ふふっ、それだけ、このみも残念だったってことよ」

「そ、そうでありますよ〜」

 

……目が泳いでるぞ、このみ。

 

「そ・れ・に、タカ坊は私達に対して『なんでも一回言う事を聞かせることが出来る権』があるんだから……」

「あ、それなんだけど―――」

 

 

 

 

 

「た〜くーーーん!!」

 

向こうから駆け寄ってくる声。

 

「やったね! ボク達、勝ったんだよね?」

「はい、これでわかってくれましたか? 美里さんの指導は正しかったんですよ」

「うん……ありがとう。た〜くん、本当にありがとう」

 

俺は駆け寄ってきた美里さんを抱きとめる。

そして、俺達は自然に顔を近づけ―――

 

 

「……先輩?」

 

「「!?」」

 

「今、うー達は何しようとしたのだ? うーるりよ」

「そ、そんなんウチに聞くな!」

「ふむ、これも青春というものか」

 

声に振り返ると、ニヤニヤ顔をしたチームメイト達。

自然と顔が赤くな―――

 

「……タカ坊」

「……タカくん」

 

りはしなかった。

なぜなら後ろから猛烈に殺気に近い物を二つ感じたから。

 

「タカ坊、今ドサクサに紛れて、何をしようとしたのかしら?」

「タカくん、今、何をしようとしたのかな?」

 

このプレッシャー―――タマ姉はともかく、このみもか!?

さすが、春夏さんの娘、このみもこんなに成長してお兄さん嬉しいよ……ってそんなボケしてる暇は無い。

 

「ストップ!! 止まれ! 止まってくれ!!」

「「却下」」

「な、なら、お願いをここで行使する! 二人とも止まってくれーー!!」

 

「「!?」」

 

 

よしっ! 隙が出来た!

チャンスは今しかない!

俺は180度体を反転させて思いっきり走ろうとする。

 

「逃げる! るーこ、なんか適当に理由を付けといてくれ!」

「了解したぞ、うー」

「逃がさないでありますよ〜!!」

「タカ坊、逃げたらどうなるか……わかってるわよね?」

 

お、追いつかれたら、殺される……

もっと速く走らないと―――

 

 

ガクン

 

 

「のうわっ!?」

 

先程の激戦の疲れもあって、足の痛みが再発する。

膝ががくっと崩れ、前に倒れる。

 

 

むにゅっ

 

 

「ぁ……」

「「あぁ〜〜〜っ!!」」

 

 

倒れた所は固い地面ではなく、柔らかい何かの上。

上を見上げると美里さんの顔。

つまり、俺は今、美里さんの胸の辺りに顔を埋めていたりするのだ。

 

「わ、わわわわわわわわっ、ご、ごめんなさ―――」

「……」

 

幾ら最近女の子との接触に慣れた俺でも、さすがにこれは不味い。

というわけで、美里さんから離れたかったのだが、後頭部にやんわりと乗せた両腕がそれを邪魔する。

 

「……へ?」

「もう少しこのまま……ね?」

「……くっ、胸なら私の方があるのに」

「タカくん、やっぱり胸が大きい方がいいのかなぁ……」

 

そんな呟きをよそに、俺は為すがままにされている状況だ。

……雄二が見たら羨ましがる光景なのだろうが、あいにく俺にはきついものがある。

 

「え、と、向坂さんに柚原さん……だっけ?」

「……何?」

「何かな?」

 

美里さんは今にも引き剥がさん勢いのタマ姉達を呼び止める。

 

「どうやら、ボクもた〜くんのことが好きになっちゃったみたい、だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人には負けないよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、俺の受難はもう少し続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

やっと、終わりましたね。

最終的にこんなうやむやな感じになってしまってすいませんでした。

最後に、このSSを書いての総評みたいなのを書き添えておきましたので、興味のある方はご覧あれ。

 

では、また次回作、魔法青年、P.S.、ホテカノ、新作短編のどれかでお会いしましょう。

さよーならー

 

 

 

2005年7月20日作成