ワァァァァァァッ!!

 

 

「……」

「どうしたの? た〜くん」

「いえ、少し緊張していて」

「貴明、武者震いなんてらしくないで」

「そ、そうか?」

 

瑠璃ちゃんがそんなことを言ってくる。

俺は普段、緊張とは無縁の男と見られているのだろうか?

 

「……ま、そういうことです」

「るー」

「そこ、納得するな。されたらされたで無性に腹が立つから」

「ははは、ま、河野の緊張云々はともかくだ。とにかくこれが最初で最後の本番だ。

きれいなそら、スタートは任せたぞ。

 南海、次に繋げる様に全力で走れ。

 黒須、お前はこのチームの要だ。

 姫百合、抜かれても良い、自分のペースが重要だ。

 守屋、何も考えるな、ただ河野につなぐ事だけを考えろ。

 そして、河野! 足はどうだ?」

「はい! 大丈夫です、壊れてでも走りきってみせます」

 

壊れてでもと言った時に美里さんが少し顔を顰めたが、それが俺の覚悟なんだとわかっているからか、口を挟んでこなかった。

 

「いい返事だ。練習みたいに転ぶなよ? 今度転んだらそこでリレーは終わりと思え?」

「わかりました!」

「目指すは優勝だ。みんなの幸運を祈る。行くぞーー! B組―――」

 

『ファイ・オー!!(るー!)』

 

 

円陣を組み、声を揃えて叫ぶ。

 

 

A組―――

 

「ふふっ、楽しみにしてるわよ。タカ坊」

 

C組―――

 

「タカくんのチーム、凄いチームワークだね〜」

 

D組―――

 

「くそっ、脇役の意地を見せてやる!!」

 

 

 

『プログラムNO.35 全校選抜選手による組別対抗リレーです』

 

 

 

 

それぞれの思惑を胸に、リレーの幕が上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

―走れ、走れ―

第十一話『本番直前』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽快な音楽と共に、放送がグラウンド中に鳴り響く。

 

『いよいよ、代表者による組別対抗リレーです。組の代表者がチームの威信をかけて戦います。それでは、選手の入場です!』

 

 

ワァァァァァッ!!

 

 

いよいよ入場だ。

緊張が高まってくる。

 

「貴明さーん!!」

「る〜☆」

「あ、草壁さん」

「さんちゃん!」

『……』

 

 

自分に向けられた声の方へ目を向けると、草壁さんと愛佳、珊瑚ちゃんにその肩に乗ったクマのぬいぐるみの格好をしてるが、実は高性能のロボットのクマ吉、それに愛佳の妹の郁乃がいた。

 

 

「貴明も瑠璃ちゃんも頑張ってな〜」

「貴明さん、頑張って下さいねー!!」

「河野君、頑張って。郁乃も応援してるって!」

「ちょっ! そんなこと言ってないわよ!」

『……』←手をブンブン振っている。

 

「さんちゃん、ウチ、頑張ってくるなー!」

 

俺も返事の代わりに無言でぐっと拳を作り、親指だけ出して前に突き出す。

向こうにはそれだけでわかったようで、珊瑚ちゃんとクマ吉は腕を振り返し、草壁さんと愛佳はにっこり笑って答え、郁乃は赤くなってそっぽを向いてしまった。

 

 

『まずはA組の入場です。選手は一年、田中君、佐野さん、二年、横山君、緑川さん、三年、高山君、向坂さん』

 

放送にあわせてA組の選手が出ると、A組の応援席からどっと声援が上がる。

所々で「お姉様――!!」という声援が聞こえてくるが、きっと気のせいだろう。

予行練習で勝ってるからか、幾分余裕の表情だ。

よし、次は俺達だ。

 

『続いて、B組です。選手は一年、南海君、姫百合さん、二年、河野君、きれいなそらさん、三年、黒須君、守屋さん』

 

今度はB組から歓声。

これが自分達に向けられている物だと思うと、少し照れくさい。

応援席の横を横切ると、さらに声援が大きくなり、所々で励ましの言葉が聞こえてくる。

俺達はその横を通過して、センターコート内に入る。

 

『三番目はC組です。選手は一年、大塚君、柚原さん、二年、田中君、進藤さん、三年、加藤君、佐藤さん』

 

続いてC組。他に漏れずここからも大歓声。

予行の時は二位だったが、それはこのみの使い方を見誤った結果ともいえる。

その対策を立てたというのならば、その実力はA組にも匹敵するだろう。

 

『では以上の三チームで―――』

 

「「ちょーーっと、待てぇぇぃ!!」」

 

『おっと、最後にD組が残ってましたね。まぁ、やられ役はやられ役なりに頑張って下さーい』

 

「「あの放送の奴、あとでオロす……」」

 

D組……なんか酷い扱いだな。

まぁ、別段同情もしないが、やられ役というのがなんか当てはまってるし。

 

 

『それでは、リレーを開始します。各選手は所定の位置についてください』

 

選手全員がセンターコートに入ると、放送が入ったので、俺は言われた通りにアンカーの位置へと移動することにする。

 

「あら、タカ坊にこのみ?」

「あれ、タカくんにタマお姉ちゃん?」

「おろ、タマ姉にこのみ?」

 

 

―――タマ姉達もこっち側なのか。

 

そう言葉にしようとした瞬間、俺は凄い悪寒に襲われる。

そして、それは現実のものとなったのだった。

 

 

「まさか、タカ坊がアンカー……な、わけないわよね?」

「そうだよね。タカくんがアンカーなわけがないよね」

「いや、俺がアンカーだけど?」

 

俺がそう答えると、タマ姉とこのみは目を丸くさせ、

 

「「えっ!? タカくん(坊)、私と一緒なの!?」」

「……へ?」

 

ま、まさか、A、C組のアンカーって……この二人?

おいおい、こりゃちょっとヤバいんじゃないか?

 

「ま、これで正真正銘の『直接対決』ね。タカ坊、前を走ろうと、後ろを走ろうと私の前は走らせないわ」

「このみも気持ちは同じくでありますよ。このみはタカくんに勝てるなんて思ってないけど、絶対負けないんだから」

 

うわ、やる気満々ですよ、この人達。

……仕方ない、腹を括るか!!

 

 

『さぁ、いよいよスタートです』

 

 

―――ワァーッ!!

 

 

大歓声が包む校庭。

風で砂埃が舞い上がり、目に入りそうになる。

 

「全員、用意はいいかーー!!」

 

目を閉じる―――いよいよ始まるんだ。俺の一週間の成果が今ここで。

 

「位置について―――よーい」

 

 

パァァァァン!!

 

 

ついに、勝負の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

後書き

いよいよ次が最終回です。

あまりにも長引きすぎました。

D組にはヒロインはいない予定ですので、ただのやられ役です。他意はありません。

不快な思いをした方がいらっしゃりましたら、ここで謝罪します。

 

2005年7月19日作成