「そういや、美里さんもこの種目に出てるんだったよな……」

 

タマ姉の実力に一通り驚いた後、美里さんの姿を探す。

もう既に走り終わった後なのか、残っている人の中にはそれらしい人は見えない。

今度は視線を走り終わった方へ向ける。

 

「あ、あれかな―――えっ!?」

「どうした? うー」

 

思わず大声をあげてしまったので、るーこが不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んで来る。

その姿に少しだけドキッとしてしまったが、すぐに先程見た光景の驚きの方が勝ってくる。

 

 

「み、美里さんが、な、なんで―――」

 

 

 

―――なんで、三位以下の人が集まるところに座っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

―走れ、走れ―

第十話「嵐を呼ぶ体育祭の幕間」

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の休憩時間。

俺は美里さんを探していた。

 

理由は勿論、なんで100m走で一位を取れなかったのだろうか? ということを聞きに行くためにだ。

 

「……どうしたんすか? 河野先輩」

「うおっ!? ってなんだ、南海か」

「で、どうしたんすか? 誰か探してるみたいっすけど」

「あぁ、み―――守屋先輩を探してたんだ」

 

相変わらず、淡々とした印象を受ける南海に、別に話して都合が悪くなることではないので、正直に話す。

 

「守屋先輩なら、さっき校舎に入っていくとこを見ましたよ。大きい包みを持って」

「そか、サンキューな南海」

「……いえ」

 

お礼を言うと、そういうことに慣れていないのか、南海は顔を背けてしまう。

なんか、近年稀に見る初々しさだ。

 

ま、そんなことよりも、美里さんはどうやら校舎内に入るみたいだし、俺も行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「いたいた、おーい、美里さん」

「……た〜くん?」

 

校舎に入ってからも人づてに美里さんの行方を聞き、俺はここ屋上に来ていた。

案の定、美里さんは屋上にいて、どうみても一人分じゃない量の重箱弁当に一人寂しく立ち向かっていた。

 

「凄い弁当ですね」

「うん、ちょっと作りすぎちゃってね」

 

中にはおいしそうなおにぎりやから揚げといった定番な料理が並んでいる。

この前のサンドイッチといい、料理は基本的に得意分野なのだろう。

俺は美里さんの横に座ると、今朝このみから貰ったお弁当箱を開ける。

中には美里さんの弁当にも負けないくらいおいしそうな料理が敷き詰められていた。

 

「おいしそうだね。た〜くんのお弁当」

「春夏さん、めちゃくちゃ張り切ってるな」

「春夏さん?」

「春夏さんというのはこの前話したこのみのお母さんなんですよ。俺の家、今誰もいなくて、こういう時にはお弁当を作ってもらってるんです」

「ふーん」

 

途端に興味がなくなって、再び視線を自分の重箱に移す美里さん。

俺も自分の弁当に箸をつける。

うむ、相変わらずの美味しさ。さすがは春夏さんだ。

 

「そういえば、今日はどうしたんですか? なんか調子が悪いみたいですけど」

 

俺の一言で、それまで黙々と食べていた美里さんの箸が止まった。

……もしかして地雷を踏んだ?

 

「……」

「……」

 

き、気まずい……気まず過ぎるぞ、この雰囲気。

もしかして、なんか訳があって話せないのか?

 

「す、すいません。言えないなら、言わなくても」

「ねぇ、た〜くん? た〜くんって、付き合ってる人って―――いる?」

「へ? いませんけど?」 

 

いきなり、何を言うかと思いきや。彼女なんて、むしろ欲しいくらいだ。

 

「この前言ってた、このみちゃんとか、環さんとかとも?」

「えぇ、付き合ってませんよ」

「そうなんだ……」

 

そう言った美里さんの顔は明らかに安堵の表情に満ちている。

 

「……集中できなかったの」

「え? 集中?」

「うん、頭の中にね、さっきのこのみちゃんや環さんと仲良くしてるた〜くんの映像がこびり付いて離れなくて、走って誤魔化そうと思っても、走れば走るたびにそれが大きくなっていって―――

ボク、何が何だかわからなくなって……どうしたらいいの? た〜くん」

 

やっぱり、今朝感じた気配は美里さんだったのか。

大方、この弁当も俺の為に大目に作ってくれたのだろう。

 

「美里さん、コレ」

「これって……ぼ、ボクのハンカチ!?」

 

俺は今朝拾った白のハンカチを美里さんに渡す。

美里さんが動揺したことから、確実めいた予測は確信に変わる。

 

「今朝、俺の家の近くに落ちてたんです……迎えに来てたんですね?」

「う、うん……なんか無性にた〜くんの顔が見たくなって、足の調子を聞きに行きがてらた〜くんの家の近くまで行ったよ」

 

美里さんが怒られた子供のようにしゅんとしながら答える。

別に責めてるわけじゃないんだけどなぁ……

 

「でも、た〜くんがこのみちゃんと楽しげに話してる所を見たら、無性に悲しくなって、寂しくなって……でも、こんな感情初めてだから、よくわからなくって、気付いたら逃げてたの」

「それで、その拍子にハンカチを落としたのか……」

「で、お祝いの言葉をかけようと思って、た〜くんの所に行ったら、環さんと楽しく話してるた〜くんがいて……また何が何だか解らなくなって……気付いたらそればっかり考えてたの」

「美里さん……」

「でも、今、た〜くんの話を聞いたらホッとした……ありがと、た〜くん」

 

よかった……元気が出たみたいだ。

美里さんの顔を見ながら、俺はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

そして、いよいよリレーが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

後二回。

正直、障害がありまくりましたが、後二回で最後。

いよいよ、リレー本番です。

 

いやあ〜、どうも貴明に敬語を使わせてると変な気分になります。

キャラが壊れてそうで(汗

 

 

 

2005年7月18日作成