「はぁ……」

 

後片付けはいいから回復に専念するように言われた俺は、一人いつもの道を歩く。

 

 

『お前がこのチームで一番遅い。俺達が距離を稼ぐから、河野はアンカーをやってくれないか?』

 

 

先程言われた言葉が頭の中を反芻する。

……リレーでアンカーをやることになるとは思わなかった。

 

「でも、これでリレーに出ることは決定だな……もう、後には引けないぞ、河野貴明!」

 

パシッと自分の頬を叩く、強く叩きすぎたか、ほんの少し痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

第八話「決戦前夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン……

 

 

「ん?」

 

回復に専念する為、早く飯を食って寝ようと家で考えていると誰かがチャイムを鳴らす。

誰だろと痛い足を引きずりつつドアを開けると

 

「は〜い、タ・カ・坊♪」

「えへ〜、お邪魔するでありますよ、隊長」

 

なぜか制服姿のタマ姉とこのみが立っていた。

 

「二人とも、どうしてここに?」

「タカ坊、リレーの時に転んじゃったでしょ?」

「だから、タカくんのお見舞いなのでありますよ〜」

「お、お見舞い? いや、タマ姉、『リレーで決着が付くまでは敵同士』じゃなかったのか?」

 

雄二がそんなようなことを言ってたから、わざわざ昼食も食堂で食べていたというのに。

 

「あら? 私はそんなこと言ってないわよ? わ・た・し・は」

「また、雄二か……」

「そうでありますよー。お昼ずっと待ってたのに、タカくん全然来てくれないんだもーん。

タマお姉ちゃん、頭から角、生やしてたんだよ?」

「ご、ごめん! 二人とも!」

 

こういう時は素直に謝るに限る。

人間誰だって自分の身が大事なものだし。

 

「ま、今回は許してあげる。敵からの施しを受けないという心意気はいいことだと思うし」

「ほっ……」

 

どうやら、命だけは助かったみたいだ。

 

「でもその怪我じゃ、リレーの賭けは無理みたいね」

「残念だけど、しょうがないよね」

 

少し残念そうな顔で二人は言う。

そうか、俺は怪我したから二人とも出場しないと思ってるんだ。

 

「いや、俺は明日出るよ」

「え?」

「えぇっ!?」

 

俺の予想通り、このみとタマ姉の顔が驚きに染まる。

なんか新鮮だな。タマ姉の驚いた顔。

 

「た、タカくん!? それって本気なの!?」

「あぁ、本気だとも」

 

聞き返してきたこのみに即答する。

俺は美里さんに間違っていないということを証明しないといけないんだ。

 

「タカ坊、それがどういうことかわかってるの?」

 

タマ姉はこのみと正反対に冷静な様子で―――いや、冷静になろうと努めながら言った。

 

「あぁ、わかってるさ」

「わかってないわ。タカ坊、怪我が軽症だとしても数日は安静にしてるものよ?

そんな足で走ってご覧なさい、良くても悪化、最悪だと歩けなくなるかもしれないのよ?」

「覚悟の上さ」

「……」

「……」

 

しばしの沈黙。それを打ち砕いたのはタマ姉の口だった。

 

「……わかったわ。それなら何も言わない」

「タマお姉ちゃん!!」

 

さすがにこのみは反対しているのだろう、今にも食って掛かろうともせん勢いでタマ姉に迫る。

 

「このみ、タカ坊はちゃんと考えて答えを出したのよ」

「でも―――」

 

タマ姉の言葉なら大体納得するはずのこのみが反論をする。

驚いたタマ姉といい、今日は珍しいものを結構見ている気がする。

 

「私は嫌だ! 私はタカくんがそんな体になるなんて絶対に嫌だ!! 

このまま走ったらタカくんの足は悪化するかも知れないんでしょ? タマお姉ちゃんは、タカくんがそうなってもいいって言うの!?」

「このみ―――」

「いいわけないじゃない!!」

 

タマ姉が大声でこのみに答える。

二人の目にはうっすらと涙を浮かんでいた。

 

「いいわけ……ないじゃない」

「タマ姉……」

「私はタカ坊が何で怪我を押してまで走ろうとしてるのかわからない。

だけどタカ坊は覚悟してる。例え足が動かなくなろうともやり遂げようとしてる」

 

タマ姉の独白を黙って聞く俺とこのみ。

 

「だったら私達が出来ることは、タカ坊の気持ちを汲んでやること。それしか無いの……」

「……」

「このみ、俺からも頼む、俺は走らなきゃいけない理由があるんだ。だから、頼む……」

 

精一杯の誠意を乗せて俺はこのみを説得する。

このみは少し俯いてからポツリと呟いた。

 

「……ズルいよ、タカくん」

「え?」

「このみ、タカくんにそういう風に頼まれたら断れないよ……」

「それじゃあ、私達がすることも……わかるわよね?」

「うん!」

 

このみは力強く頷くと、俺の方を改めて向きなおす。

 

「タカくん!!」

「タカ坊!!」

「は、はいっ!?」

 

その語気の強さにおもわず畏まって返事をしてしまう。

 

「タカ坊が怪我を押して走るからって私達は手加減しないわよ?」

「ふっふっふ〜、リレーに出たことを後悔させてあげますでありますよ。隊長」

「お……おう!」

 

俺達は互いに手を出し合い、手を握り合う。

 

「勝負は本番一本勝負!」

「勝っても負けても、恨みっこなしだよ!!」

「ちょ、ちょっとは手加減して欲しいなぁ……なんて」

 

俺の今の言葉に二人は目を合わし、ふふっと微笑んだ後にこう言ったのだった。

 

 

「「却下(であります)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

短っ!?

今回はとりあえず幕間みたいなものとでも。

というか、そう思ってください。(汗

 

 

 

 

 

 

2005年7月16日作成