「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

ダッ!!

 

 

美里さんの横を通り過ぎると、美里さんがストップウォッチを止める。

 

「はぁ……タイムは?」

「13秒63だよっ! 自己新記録更新!!」

 

俺は声を上げずに腕だけを高々と上げる。

練習を始めて六日、美里さんに協力してもらってから三日、本番である体育祭まであと三日の今日。

今日も俺達はいつもの河原で練習をしていた。

この三日間。俺は美里さんの指導の下、メキメキと実力を上げている(らしい)。

まぁ実際、タイムに結果がでてるから俺も手ごたえは感じてるんだけど。

 

「たいしたもんだよ! こんな短期間にこれだけ結果が出るとは思わなかったなぁ……」

 

やっぱり素材がいいんだよね。と笑いながら付け足す美里さん。

 

「それは、美里さんの指導がいいからですよ」

「へへっ、ありがとっ!」

 

本当、なんでバスケ部なのか不思議でたまらない。

後で聞いてみようかな?

 

「体育祭では200mだけど、言われた通りにジョギングしてるでしょ?」

「ちゃんとやってますよ」

 

そして俺の最大の弱点である持久力についても、美里さんは考えてくれたようで、毎晩一キロのジョギングをするように言われていた。

そのおかげで、今はまだ三日なので付け焼刃な感じはするが、体力も少しだが確実についていると思う。

今、俺は確実に速くなっているのだった。

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

―走れ、走れ―

第六話「真相」

 

 

 

 

 

 

「そういえば、た〜くんって何で練習しようと思ったの?」

「え?」

「そ、練習しようと思った理由」

 

練習の休憩中、美里さんが不意に俺に尋ねてきた。

どうしようか、本当のことを言ってもいいもんだろうか?

 

「……誰にも言わないで下さいよ」

「うんうん」

「実は―――」

 

 

 

 

 

「へぇ……リレーでの賭け勝負ね……」

「はい」

 

俺が掻い摘んで(勝利の時の約束とか貞操云々は伏せて)話すと、美里さんは何処か納得したような顔で相槌を打った。

 

「た〜くんに幼馴染がいるのは知ってたけど、そこまで仲が良かったなんてね〜」

「はい……」

 

お恥ずかしい……

 

「小牧さんと草壁さん……だっけ? あの子達も憎からず思ってるみたいだし……わぁお、た〜くん、モテモテ〜」

「からかわないで下さい」

「あはは、ゴメンゴメン」

 

抗議する俺の視線もなんのそので笑い飛ばす美里さん。

なんか悔しいので反撃をしてやることにする。

 

「そういう、美里さんだって何で陸上部に入らないでバスケ部なんかに入ってるんですか?」

「……えっ?」

「こんなに指導が上手いのに、陸上部に入ってないなんて勿体無いですよ」

 

この時、美里さんが纏ってた空気がガラッと重いものに変わった。

 

「……本当にそう思う?」

「えっ?」

「ボクが指導が上手い人だなんて、本当にそう思う!!」

「ちょっ、どうしたんですか!? 美里さん」

「た〜くんはボクの上辺しか知らないんだよ……だからそんなことが言えるんだ!!」

「落ち着いて! 落ち着いてくださいよ、美里さん!」

 

いきなり激昂する美里さんの肩を揺り動かす。

 

「……っ!?」

「美里さん!!」

「ご、ごめん……」

「一体、何だっていうんですか?」

 

そう、ただ俺は何故陸上部に入っていないのかを聞いただけなのに―――今の言葉に美里さんが怒るようなほど不愉快な所があっただろうか?

 

「ごめん、ちょっと取り乱しただけ。もう大丈夫だから」

「で、でも……」

「大丈夫だから」

 

まだ心配だったのだが、美里さんは力強い目で俺の言葉を拒絶するように言った。

 

「……わかりました。それじゃあもう少し練習しますか?」

「ううん、今日はこれでおしまいにしよう。夜はいつものように一キロ走りこんでおくんだよ」

「わかりました」

「うん、じゃあ……」

「あっ、美里さん!!」

 

スポーツバッグを担いで帰ろうとする美里さんを俺が呼び止める。

 

「俺は……俺は、美里さんの指導はすごいと思います。過去に何があったかは知りません。

だけど、俺にとっては美里さんは素晴らしい指導者で、俺の恩人です」

「……」

「そして、俺は指導に従ったことに後悔してません」

「……ぁ」

「だから、元気を出して……ね」

「……ありがと」

 

美里さんは今までの元気な彼女とは一味違う、薄っすらとした笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、貴明。今日もお昼どうだ?」

 

昨日は、作戦失敗した為か今日も雄二が昼食に誘ってきた。

 

「今日か? うーん……」

「どうした? 昨日よりもノリが悪いぞ」

 

そりゃ、あんなこと(愛佳の自爆事件)があった昨日の今日だぞ?

恥ずかしくて顔を合わし辛いと雄二に伝えると、

 

「それなら顔を合わせなくてもいいぜ。俺はその間に二人とよろしくやるからよ。なぁ?」

「……」

 

知らない方が幸せなこともあるもんだ。

とりあえず、あの事件(自爆事件)のことは黙っていよう。

バレたら俺が殺されるかもしれないから。

 

 

「た〜くん」

「あっ、美里さん」

 

後ろから呼ばれる最近聞き慣れた声。

振り返ると、美里さんが何故か俺の教室の入り口に立っていた。

昨日の夕方とはうって変わって元気なご様子―――どうやら吹っ切れたみたいだ。

 

「で、なんでここに?」

「うん、昨日のお礼にね、今日はた〜くんにお弁当を持ってきました〜〜!!」

 

元気一杯、大声でそう答える美里さん。右手には少し大きめのバスケットが握られている。

そのことに関しては、嬉しいんだけど、周りからの目が痛い。

特に愛佳や草壁さんからの視線は痛いレベルをゆうに超えていたりする。

 

「おい、貴明! 誰だあの元気な女の子? 知り合いか?」

「あ、あぁ、リレーのチームメイトの先輩で守屋さんっていうんだ」

「くぅ〜〜っ!! やっぱ年上特有の大人の色気か? 姉貴とは違っていい子そうだしよ!」

 

以前、年上はダメだとか言ってなかったっけか? 雄二。

 

「それで、た〜くん。お昼食べよ?」

 

「「た〜くん……」」

 

「うわぁーっ!! これはただのニックネームであって決して美里さんと付き合ってるからとかそういう意味じゃなくてだな―――」

「河野君……自爆してるよ?」

 

「……あ」

 

愛佳の一言で我に返る。

周りを見てみるとクラスメートの視線、視線、視線。

美里さんはなんか顔を赤くして俯いてるし……

 

「み、美里さん。早く、お昼を食べに行きましょう!!」

「へ? で、でもどこに―――」

「とにかく行きましょう!!」

「わ、わかったから! 背中を押さないで〜〜〜」

 

美里さんを無理矢理押して教室の外へ移動する。

 

 

「あっ、逃げた!」

「お幸せに〜」

「お姉さまに殺されるなよ〜」

「くそーっ、俺がリレーの選手になりゃ良かった」

 

……後ろから羨望だか、励ましだか、手向けやら様々な言葉を浴びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ここまで来れば大丈夫ですよね」

「全く、勝手に押してかないでよ〜」

「ごめんなさい、でもさすがにあの状態であそこで昼食を食べる勇気は―――」

「た、たしかに、無いよね」

 

美里さんを引っ張ってやってきたのは中庭。

最初、屋上にしようかと思ったのだが、この状況をタマ姉やこのみに見られでもしたら、間違いなく誤解されるだろう、よって、中庭となったわけだ。

 

「はい、じゃあお待ちかねのお弁当タイム〜」

 

ドンドン、パフパフ〜みたいな音が聞こえそうなテンションでバスケットを開く。

そこには、びっしりとサンドイッチが詰め込まれていた。

 

「サンドイッチですか」

「うん、ボクあんまり料理って得意じゃないから……こういう簡単な物しか作れなくて、ゴメンね」

「いやいや、指導までしてもらってるのに、お弁当まで作ってもらえるなんて、なんだか悪い気が―――」

「ううん、気にしないでよ。ホラ、食べてみて」

「あ、はい」

 

俺はバスケットから一つサンドイッチを取り出すと一口齧ってみる。

 

「……うん、美味しい!」

「ホント? よかったぁ〜」

 

まぁ、サンドイッチなんか誰でも作れるだろうという突っ込みはこの際どっかに飛ばしておいて、お世辞抜きにも美味い。

素材の味を殺さず、生かしすぎずの絶妙なバランスで具の量も丁度いい。

 

「うん、これなら幾らでも入る」

「さっ、ドンドン食べて!」

 

息をつくのも忘れるくらい夢中でサンドイッチにぱくつく。

 

「……ぐっ!?」

「どうしたの? た〜くん」

「の、のどに……つ……まった」

「大変!! はい、お茶!」

「あ、ありがと……んぐっ、んぐっ、ぷは〜っ!!」

 

渡されたお茶を一気に飲み干す。

ふぅ、死ぬかと思った。

 

「今度からは落ち着いて食べてね」

「……そうします」

「……」

「……」

 

その言葉から先はどちらも会話が無く食事が進む。

再び口が開いたのは、食事が終わり、一息ついた頃だった。

 

 

 

「……昨日はありがと、た〜くんにそう言われて、嬉しかった」

「そんな、俺はただ正直に自分の気持ちを伝えただけで―――」

「それでもだよ。今までそんな風に言われたことが無かったから」

 

美里さんは空を見上げ、俺も釣られて見る。

空は澄み渡る青空、さんさんと照りつける太陽、初夏では少し暑いくらいの気候である。

 

「ねぇ、た〜くん」

「はい?」

「体育祭、晴れるといいよね?」

 

晴れなければ勝負はお流れになるけれど、俺は美里さんのしてくれたことを無駄にはしたくなかったから、だから俺はこう返したのだった

 

 

 

 

 

「晴れますよ。きっと、だって―――」

 

 

 

 

 

今、こんなに太陽が元気なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

はい、ついに意味解らなくなりました。

オチが自分でも意味不明。

でも、これを改訂する勇気が自分にはありません。

次回からは試合編。まずは予行練習かな?

あと、3、4話位ですので、お付き合いお願いしますね。

 

 

 

 

2005年7月14日作成