―――ワァーッ!!

 

 

大歓声が包む校庭。

風で砂埃が舞い上がり、目に入りそうになる。

 

「全員、用意はいいかーー!!」

 

目を閉じる―――いよいよ始まるんだ。俺の一週間の成果が今ここで。

 

「位置について―――よーい」

 

 

パァァァァン!!

 

 

勝負の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!!

―走れ、走れ―

第一話「事の発端」

 

 

 

 

 

 

「みーんなー!! 静かにしてぇ〜」

 

栗色がかった髪を後ろで留めた一人の少女が黒板の前で叫ぶ。

このクラスの委員長である小牧愛佳である。

そのほわほわとした声が教室に大きく響き渡るが、注意を受けた所で静かになるなら最初から騒がしくはならない。

小牧の注意はただ虚しく騒々しい声にかき消されてしまった。

 

「み〜んなぁ〜……ぐすっ、静かにしてよぉ〜」

「やばっ! いいんちょが!」

「みんな静かに!! しーずーかーにー!!」

 

小牧が涙ぐむとクラスはまるで魔法にかかったかのように静まり返る。

 

「こほん、それじゃあ今から九日後の日曜日に迫った体育祭の出場する種目を決めたいと思います」

 

小牧は一通りみんなを見回すとまた話し出す。

 

「では、まず組別対抗リレーの選手から決めちゃいます。ここはとっても重要な種目ですから、立候補じゃなくて推薦のみ受け付けます……誰かいませんか?」

 

下手に推薦なんかして友情を壊したくないのか、誰も手が―――いや、一人だけ手を上げていた。

 

「はい、向坂君」

 

指された男、向坂雄二は立ち上がると後ろでぐーすか眠っている一人の男子生徒を指差す。

 

「俺は、河野貴明を推薦するぜ」

『おおーーーっ!!』

 

クラス中から感嘆の声が漏れる。

 

「んぁ?」

 

その声で眠っていた顔を起こし、周囲から向けられている視線に訳がわからずに辺りを見回し始める貴明と呼ばれた男子生徒。

 

「でも、河野君って速いの?」

「あぁ、速い。持久力は少しねぇけど、トップスピードなら陸上部レベルだと思うぜ」

 

いつも寝坊している幼馴染とのダッシュの成果だということは、貴明のメンツを考えて敢えて言わなかったが。

 

「それじゃ、河野君で決定。ということで」

 

 

パチパチパチパチ……

 

 

「?」

 

異議無しの代わりに拍手が巻き起こる。

こうして、河野貴明は組別対抗リレーに出場することとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

六月。

LHRだと油断して熟睡していた為に親友に裏切られ、体育祭において一番厄介で責任重大な組別リレーの選手にさせられた当の本人―――河野貴明はこの季節には似合わない、重く冷たいため息をついた。

ちなみに裏切った親友には既に天誅を食らわせてあったりする。

貴明達の通うここの学校行事は、そのほとんどが夏休み前に行われるという異例な高校である。

高校側の思惑としては、受験生の為に追い込みの時期である九〜十二月をなるべく勉学の時間に割いてあげようというものがあるらしいのだが、こちらからすれば三ヶ月に行事が集中しすぎて、てんてこまいだったりする。

特に二年生は修学旅行の休みのすぐ後に体育祭の準備だ。どんなに勉強嫌いで、行事が好きな人もこのハードスケジュールは嫌になってくること請け合いだ。

 

それはさておき、そんな高校二年である貴明はそれが更に拍車をかけてかなりの鬱な状態になっていたりする。

 

「タカく〜ん。元気がないけどどうしたの?」

 

そんな貴明に声をかける黒の髪の左右をリボンで留めた少女―――柚原このみは、幼馴染の勘からか、貴明の気持ちの落ち込みように気付いたようだった。

 

「いや、組別対抗リレーに選ばれちゃってな」

「えっ、ホント!? やたー!!」

 

貴明が鬱な理由を説明するといきなり両手をあげて喜び、跳ね回るこのみ。

 

「ど、どうしたんだ? このみ」

「それ、このみも出場するんだよ。えへ〜タカくんと一緒でありますよ」

「へー、そうなのか?」

 

幼馴染も出場するとわかったからか、幾分立ち直った口調になる貴明。

 

「うん、LHR寝ちゃってたんだけど、いつの間にかリレーに推薦されてて決まってたんだ。ラッキーだったよ」

 

どうやら貴明と同じような経緯でこのみも決まったらしい。

反応はまるで光と影だが

 

「にしても、このみは足が速いからいいけど、なんで俺がリレーの選手なんかに……」

「みんながやっとタカくんの実力を認め始めたんだよ。きっと」

「なわけないだろ。このみは買い被りすぎなんだよ」

「あら、そうでもないわよ? タ・カ・坊」

 

突然二人の背後からかけられる声。

二人はこの声に聞き覚えがあった。

 

「タ、タマ姉!?」

「あっ、タマお姉ちゃん!」

「もう、タカ坊を迎えに行くって言ったきり帰ってこないんだもの。心配して来て見たら……」

 

やれやれといった感じでため息をつくタマ姉―――もとい向坂環。

彼女もまた貴明の幼馴染で、貴明をリレーの選手に引きずり込んだ元凶、向坂雄二の実の姉だったりする。

 

「あ、ゴメン、タマお姉ちゃん」

「それよりタマ姉。『そうでもない』って……?」

「言葉通りよ。タカ坊はそこら辺の男性よりかはずっと速いってこと」

「それが信じられないんだよ。俺は年下で女の子のこのみにも勝てないんだぞ?」

 

 

ギュムッ

 

 

無言で貴明の頬を抓りはじめる環。

 

「あーら、タカ坊は年齢や性別で人の実力を決めちゃう子だったのかなぁ〜?」

「いひゃいいひゃい、いひゃいいひゃいってひゃまねぇ!!」

「このみは別格よ。速すぎるの。むしろ、あの速さに追いつけるタカ坊の方がすごいのよ」

 

よく速い人と一緒に走るとその人に引っ張られるように走るから、続けると自分も足が速くなってるっていうやつかしら? と環は続ける。

 

「そ、そんなものなのか……?」

「えへーこのみに感謝するでありますよ」

「本来なら目覚めなくてもよかった能力だけどな」

 

おかげでリレーに出される羽目になったのだから、貴明としては恨みこそすれ感謝されるいわれは無いらしい。

 

「たしか、タカ坊はB組よね。このみはC組、で、私はA組だから……三人とも別チームね」

「えっ、タマ姉も出るの!?」

「当然、こういうの嫌いじゃないしね」

「タマお姉ちゃんも一緒なの?」

「えぇ、お互い敵同士だけど、頑張りましょうね」

 

環の一言で無邪気にはしゃぐこのみと、開いた口が塞がらない貴明。

環の運動神経はこのみ以上といわれているので、少し考えればリレーの選手に選ばれることくらい解るようなことだが、それでも驚きは隠せないようだ。

 

「タカ坊も、頑張りましょうね」

「あっ!? あ、あぁ……」

「それじゃあ、帰りましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、タマ姉まで出るとはねぇ……」

 

帰り道で誰と無く貴明が呟く。

 

「どうしたの? タカ坊」

「いや、俺がリレーの選手ってのがどうにも不釣合いな感じがして」

「全く……自信過剰はよくないけど、ここまで自信持たないというのも問題ね」

 

環は本当に呆れた風に呟くと、続けてこういったのだった。

 

 

 

「なら、私達と勝負しましょうか?」

 

 

 

 

 

 

後書き

魔法青年とかファントムサマナーとかのプロットを考える為の短期集中連載です。

本当は魔法青年29話で書いたTH2の短編だったのですが、なんか想像力が暴走しましてw

で、大体10〜15話くらいの短い長編に延長することになりました。

まぁ、作品に少しムラがあるかもしれませんが、感想や指摘をいただけると嬉しいです。

 

ではでは〜

 

 

 

2005年7月9日作成