タッタッタッ……

 

 

「タカくーーーん!!」

 

放課後の校庭で、背後から聞こえてくるこのみの声。

俺はその声から逃げるように走っている。

 

「ねぇ、タカくん、なんで逃げるの? 私はタカくんと一緒に帰りたいだけなのに」

「このみと一緒に帰ったら、体が幾つあっても足りやしない!」

 

この前の日曜なんか凄かった。

このみが言うには、偶然、買いたい物があって、偶然、その道が店への近道だったらしくて、偶然、その道がラブホテルが乱立する地帯で、偶然、このみが具合が悪くなって、偶然近くにあったラブホテルで休憩したいと言ってきた。

当然、最後の時点で俺は風になった。

あのリレーの時なんかとは比にならないくらいの速さで。

 

組別対抗リレー ―――俺の生活を一変させたあの出来事は、2週間経った今でも俺の記憶に色濃く残っていた。

あれからのこのみ、タマ姉、美里さんの3人娘の猛攻が凄い。

正直、たった二週間なのに、俺の体はへとへとだったりする。

 

「タカ坊」

「うわっ!?」

 

そんな考えに思いを巡らせていると、正面にタマ姉が立ち塞がっているのが見えた。

後ろからはこのみが追いかけてくる。

まさに、前門の虎、後門の狼状態だ。

 

「さっ、これで終わったわね。タカ坊。このみの所に行くか私の所に行くか……賢明なタカ坊なら、わかるわよねぇ?」

「タカくん、私の所に来てくれるんだよね? だよね? ね?」

「ううん! た〜くんはボクの所に来るんだよっ!」

「……っ!? 美里さんまで来たのか!?」

 

左側から出てきたのは、バスケのユニフォームを着たままの美里さん。

ってか、美里さん。部活はどうしたのですか?

 

「た〜くんのピンチには必ず駆けつける―――それが守屋美里だよっ!

「さいですか……」

「ちょっとあなた! 途中からしゃしゃり出て、部活はどうしたの?」

「大丈夫。た〜くん攫ったら戻るから

「そ、それはよくないでありますよ〜」

 

相変わらず、俺の意志など何のそので話が進むよな……

でも、三人が言い争いになったのはラッキーだ。

今の内に逃げることにしよう。

 

「あでゅ〜」

 

6月下旬。

俺は、今、別の意味でRUN RUN RUNな日々を送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RUN RUN RUN!! 〜外伝〜

「貴明とクマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ……自分の頭の回転のよさがたまに怖くなるな」

 

先程までいた校庭を離れ、俺は校舎の中にいた。

ん? 何故、外に逃げなかったのかって?

そりゃ、外に逃げたところで、俺なんかよりも格段に足が速いタマ姉達だ。

すぐに追いつかれてしまうことだろう。

というわけで裏をかいて、3人が外へ探しに出た後にゆっくりと外に出ることにしたのだ。

さて、もう行ったと思うから、外に出てもいいんだろうが……何分、相手はあのタマ姉達だ。もう少し遅めに出た方がいいだろう。

こういう時は本でも読んで時間を潰すか。よし、図書室だ。

 

 

グラグラグラグラッ!!

 

 

俺は足を図書室に向けようとして、足が止まる―――いや、止まらざるを得なかった。

突然起こった地震によって、足元からグラグラと揺れる。

辛うじて立てるところから、震度はそこまで高くは無いのだろう。

揺れが収まると俺は改めて、図書室へと足を進めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

コンピューター室の前を通りかかった時、誰かの視線を感じる。

立ち止まり、振り向いても誰もいない。

気のせいか……

 

 

クイクイ

 

 

今度はズボンを引っ張られる。

視線をそのまま下に移すと、俺のズボンを引っ張っているクマのぬいぐるみがいた。

 

『……』

「なんだ、クマ吉か」

『……』

 

クマのぬいぐるみ……クマ吉は俺の言葉に反応するように両手をあげて挨拶らしきものをする。

クマ吉―――本名は違うらしいのだが、クマ吉とは後輩である姫百合珊瑚ちゃんのつてで出会った高性能ロボット。

クマのぬいぐるみは仮の姿で、本当は人型らしいのだが、なにやら諸々の事情でボディーが完成して無いらしい。

それで、なんというか、俺に凄く懐いているらしく(珊瑚ちゃん談)、俺を見かけるとトコトコと可愛らしく近づいてくる。

 

『……』

「よっ、と……クマ吉、お前、少し太ったか?」

『……!!』

 

クマ吉を持ち上げて一声。正直な感想をあげてみる。

 

 

ぎゅうぅぅぅっ!

 

 

「あっ、痛い痛い痛い!! 謝るから関節は勘弁して!!」

『……』

 

俺のギブの言葉にクマ吉は腕を極めてた関節を解く。

ロボットでも女の子に太ったはやっぱり禁忌か。

クマ吉の方を見ると、少し自覚あるのか少し落ち込んでいる。

まぁ、大方、珊瑚ちゃんに妙な機能を内蔵させられたんだろう。

 

『……』

「まぁまぁ、少しくらい太ったくらい、気にするな。

最近はぽっちゃり系がモテるって言うし、」

『……』

 

クマ吉が俺を見上げる。何となくだが、その作り物の目は『あなたは?』と訴えかけてるように感じた。

 

「俺だって、ほっそりしてるのよりは、ぽっちゃっとした感じの方が好きだぞ。

 何ていうか健康的に見えるし」

『……』

 

俺の言葉に満足したのか、クマ吉は立ち直ったかのように万歳して喜んでいる。

 

「それにしても、なんでクマ吉が動いてるんだ?」

『……?』

 

確か、クマ吉はコンピューター準備室に電源を落とした状態で保管されてる気がしたのだが……

 

『……』

「うーん、何かの拍子で電源でも入ったのか?」

 

さっきの地震のせいかもな。結構激しかったし。

 

『……?』

「落ちたのか? CPUの方は大丈夫か?」

『……』

 

クマ吉は腕をブンブン振り回してる。

どうやら大丈夫みたいだな。

 

「すぐに戻すのも可哀想だしな。散歩でもするか?」

『……♪』

 

クマ吉はご機嫌な風に頷くと、定位置なのか俺の頭までよじ登る。

 

「よーし、それじゃあ出発!!」

『……』

 

腕を前に突き出し、俺とクマ吉は散歩に出かけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン……

 

 

自動販売機からミルクティーのパックを取り出すと、近くのベンチに座らせてあるクマ吉のところに戻る。

 

「ふぅ、たまには校舎の中を宛も無くぶらつくのもいいもんだな」

『……』

 

ミルクティーのパックにストローを刺し、ずずっと飲む。

 

「ここ卒業しちゃったら、めったに来れなくなるもんな……今の内に頭に焼き付けとけってことか」

『……?』

 

クマ吉はよくわからないのか、小首を傾げてこちらを見ている。

 

「そしたら、クマ吉とも中々会えなくなるし―――」

『……!?』

 

俺の言葉を聞くなり、取り乱したかのように俺にしがみつくクマ吉。

 

「うわっ、どうしたんだ。クマ吉?」

『…………』

 

クマ吉は俺の言葉を聞いてるのか否か、構わず俺の胸に顔を擦り付けている。

 

「……クマ吉?」

『……!!』

 

クマ吉の腕の抱き付きがぎゅっと強くなる。

もしかして、俺と離れるのを嫌がってるのだろうか?

 

「安心して、クマ吉。まだ一年くらいあるんだし。すぐには消えないよ」

『……?』

「うん」

『……♪』

「うわっ、クマ吉、苦しい、苦しいって!!」

『……』

「愛い愛い、かわゆい奴め」

 

嬉しいのか、全身で喜びを表現するクマ吉の頭を優しく撫でてやる。

このみとかもある意味では全身で表現してるけれど、クマ吉みたいに安心が出来ないからなぁ(主に貞操、たまに生命)

 

「なんかこんなに安らいだのって久々かもな……」

『……?』

「いっそのこと、クマ吉と付き合っちゃうか?」

『!?!?!?!?』

そしたら、もう追われることも無いし。

クマ吉って女の子だったもんな。

 

『……』

「ん? クマ吉どした?」

『…………』

「おーい」

『………………』

「もしもーし?」

『……………………』

 

 

ぱたっ

 

 

クマ吉はぽーっとどこか上の空な様子で呆けた後、ぱたりと左に倒れてしまった。

 

「どうしたクマ吉! おい、おい!!」

『……』

 

反応が無い。やばい、壊れたか?

と、とりあえず、コンピューター室へ持っていかないと!

 

「みっちゃーん。どこ行ったん〜」

「……この声は」

「あー、貴明。る〜☆」

「あ、る、るー……じゃなくてっ! クマ吉が!」

「あー、こんなとこにおったん? ダメやろ、勝手に出歩くなんて」

「そんな悠長な! クマ吉がなんか壊れちゃったんだよ!」

「安心や〜、クマ吉はちょっとCPUの熱が上がって、機能を一度停止しただけや」

「へ?」

「今、再起動してるみたいやから、その内―――」

 

 

ビコォォォォォォン……

 

 

『……』

 

クマ吉の目がMSみたいにカッと光り、再び動き出す。

 

「ほらな?」

「な、なるほど……」

「DIAはデリケートなんや。ドキッとしたり、ビックリすると、処理の為に機能が一時停止することがあるんや。」

「つまり、俺がクマ吉と付き合うみたいなことを言ったから、クマ吉の機能が停止しちゃったということか」

「わぁ〜、貴明、そんなこと言ってん? みっちゃんと貴明、らぶらぶや〜」

『……』

 

ばんざーいと両手を挙げてそんなこと言う珊瑚ちゃんと、それにシンクロするように両手を挙げるクマ吉。

 

「さっ、そろそろ帰るで? みっちゃん。

おっちゃんがみっちゃんの新しいボディーを作ったて言うてたし」

『……』

 

珊瑚ちゃんの言葉にクマ吉は無言で頷くと俺の前までやってくる。

 

『……』

「少し、しゃがめ〜やて、貴明」

「え、こう?」

 

珊瑚ちゃんに言われた通り、少し屈んで低くする。

クマ吉がトコトコと近づいて来て―――

 

 

ちゅっ

 

 

「…………は?」

「みっちゃんが、ありがとーやて。それじゃーな、貴明」

『……♪』

「あ、そうそう。貴明、みっちゃんは貴明のため言うて胸を3cmも大きくしたんやから……大事にしてやってなぁ〜」

「……」

 

フリーズしてる俺をよそに、手を振りながら去っていく珊瑚ちゃん達。

へ? り? お? ぽ? り? す?

い、今、俺の頬に、頬にき、キスしたよな。クマ吉。

 

「ぬいぐるみからのキスって、キスにカウントされるんだろうか……」

 

俺の静かな問いに答えてくれたのは夕方の少し冷えた風と―――

 

「そう、タカ坊ったら、私達が必死に探してる時にぬいぐるみなんかと戯れていたの……」

「ひきっ……!?」

「タカくん、ぬいぐるみなんかに手を出すほど鬼畜じゃないよね。よね? ね?」

「うぅっ……た〜くんのはじめてのキスはボクが奪おうと思ってたのにぃ……」

 

 

怒れる少女達

 

「い、いや、あのぅ……に、逃げる!!」

『逃がすか!!』

「頬だよ! 頬!! ほっぺにちょっとだけちゅってされただけなんだってば!!」

「酷いわ、タカ坊。 ちょっとだろうがなんだろうがキスはキスよ。

 そんな女の子の気持ちをわかってないタカ坊は私がお仕置きしてあげる!」

「あー、タマお姉ちゃん! ズルいよ!」

「そうだよっ! た〜くんは環さんの物じゃないんだから!!」

 

 

もはや、聞く耳持たず。

これは捕まったらヤバい。

脳内信号がレッドシグナルがくるくる回っている。

 

「たーすーけーてーぇー!!」

『待ちなさーーい!!』

 

 

 

 

 

こうして、俺は今日も走っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

頑張ったよね。自分、頑張ったよね!!

もう、これは自分のプライドを賭けて書きました。

というわけで、本当の20万Hitの氷砂糖さんのリクエスト作品でございます。

 

もぅ、RUN×3の設定なんかお構いなし。自分の書きたいようにクマ吉を書きました。

 

クマ吉分の足りないやつぁ〜手ぇ〜挙げろぉい!!

 

 

 

 

2005年8月31日作成