戦うという事。

 それは命と命、意地と意地とのぶつけ合い。

 見出すは恐怖でしょうか、それとも歓喜かでしょうか。

 私は知ってみたい、感じたい。

 ――進むために

 ――諦めないために

 ――――辿り着くために






魔法少女リリカルなのは Rookie

episode.2
その人、戦闘狂バトルマニアにつき





 自室から訓練施設へと向かう通路、窓の外をみると自然の緑と建物が見える。
 前方に視線を戻すと楽しそうに話しながら歩いている女性の局員達。
 すれ違いざまに少し視線を感じたけど、気にせず歩いていく。
 というより、気にしている余裕が無かった。

 高町さんとの演習から数日後、私はある出来事に頭を悩ませていた。
 悩ませていたというか疲れていた。

 原因は言うまでも無く、アルテ先輩の猛特訓。
 通常の倍以上に増やされた訓練メニュー、それだけでなく休憩時間をも削っての模擬戦闘。
 いつも休憩時間は何かしらの訓練をしていた私も、さすがに体力の限界だった。
 というよりアルテ先輩がありえない。
 高町さんの事を化け物だと言っていたけど、あの人だって十分に化け物だ。
 他の先輩に激を飛ばしながら、ひたすら動きまくっている。
 あのスタミナはありえない、総魔力量はそこまで高くなかったはずなんだけど……。

 と、そこまで考えて足元に落としてた視線を前に戻すと白い壁。
 しかもすぐ近く、接触一秒前みたいな……って!


「へぶっ!」


 そのまま壁にキスをした私はしりもちをつくように倒れる。
 は、鼻が痛い……。
 しかも転んだショックで抱えていた資料が辺りに散らばり、私を中心にちょっとすごい事になっている。
 幸いな事に周りにあまり人はおらず、通行の邪魔にならずにはすんでいるが。


「と、とりあえず拾わないと……」


 まだ痛む鼻をさすり、資料を集め始める。
 その一枚一枚はとても細かい文字が書かれており、図やグラフも所狭しと描かれている。
 これはアルテ先輩に頼み、わざわざ用意してもらったものだ。

 内容は高町さんの戦闘記録、そしてその親友といわれているフェイト・T・ハラオウンさんとの模擬戦闘のデータ。
 こういったものはあまり気軽に見れるものではないが、高町さんの了解もちゃんと得られたので大丈夫。
 まだ全てに目を通したわけではないけど、改めてあの人が化け物だという事を知った。
 魔力の高さ、コントロールは言うまでも無く、戦いにおける判断力もすごい。
 なにより相手に対して容赦がない、全く無い、これっぽっちも存在していない。

 そしてハラオウンさん、この人もすごい。
 高町さんと同じかそれ以上の魔力、近接戦闘では局内でもトップクラスだと思う。
 それでいて遠距離に疎いわけでもなく、中距離でも相手に遅れを取る事はない。
 二人の交戦データでは、さすがに距離をとられると高町さんが有利になっているが、それをなかなか許すハラオウンさんでもない。
 はっきりいって私とは別次元の話で、参考になるかと言われれば……素直に頷けない。
 だけど意味が無いというわけでもなく、休める時間が少なくなった今でも暇を見つけては読んでいる。

 ちなみに、なぜ記録媒体が紙なのかというと、その理由は簡単。
 私はどうも機械類が苦手で、支給されている端末だとまともに情報が見れないどころかそれ自体を壊してしまう。
 この短い期間でも既に二個、そのせいでアルテ先輩はあきれながらも結局は私のために紙で用意してくれる。
 つまりは私もアルテ先輩に迷惑を掛けまくっている隊員になっているわけで……現在、頑張って操作を覚えようとしている、成果はないけど。

 考えているうちに落としてしまった資料の約半分は集まった。
 だけどかなり豪快にぶちまけたらしく、順番などはバラバラ。
 後で整理するのに結構な時間がかかるかも知れない。
 その事実にちょっと気分を沈ませながら残りを集めていると、少し離れたところにある資料が誰かの手が拾い始めていた。


「あの、手伝います」

「はぇ?」


 間抜けな声を出してしまった事に少し恥ずかしい思いをしながら、手伝ってくれている人を見てみる。
 真っ赤な髪をした、年はおそらく私よりも下ぐらいだろうけど、見た目的には同じくらい……の女の子。


「あ、ありがとうございます」


 すこしの間呆けていた私は気を取り直し集め始める。
 さすがに二人だと作業はすぐに終わり、手伝ってくれた子は集めた資料を私へと差し出す。


「ちゃんと前見て歩いた方がいいですよ」

「あはは……そうですね」


 どうやら先ほどの場面を見られていたらしい。
 小さい子供でもわかるような事を注意され、少し恥ずかしかった。
 ……まぁ年齢的、身体的にみてもまだ私は小さな子供だけど。
 差し出された資料を受け取り、改めてその子をよく見てみる。
 全体的には幼い印象に、少し勝気な雰囲気。
 赤い髪は三つ編みを二つにわけお下げにしている。
 耳が長く白い動物をデフォルトした顔がプリントされたシャツを着ていて、幼い印象をさらに強めている。


「それじゃ、気をつけてください」

「あ、はい。どうもありがとうございました」


 そういうと彼女は歩き出していった。
 その先には数人の人がいて、その中の一人が手を振っている。
 応えるように彼女は走り出し、最後に私の方を顔だけ向けると手を振ってくれた。
 ちょっと戸惑った私だったけど、すぐに手を振り返した。
 彼女は先にいた人達と合流すると通路を曲がりすぐに見えなくなる。


「家族の人、かな? だけど……」


 見えた人達は全員女の人、その誰もがあの年頃の子供を持つには若すぎる気がする。
 姉妹、というには似ていない。
 なら親戚か、もしくはただの知り合いかなと結論を出し、私も歩き出す。


「あ、折角だから名前聞いておけばよかったかな」


 また会えるとは限らないけど、名前を聞く事によって何かしらの縁を作りたかったなと思う。
 ここだと同じ年頃の子と会うのはあまりないので、友達とまでいかなくても知り合いくらいには、と。
 その事を考えていて、ふと前方を見れば壁があり――


「あだっ!」


 数分前と同じ事を繰り返した。








「お、来たかレイ。……鼻が赤いがどうした?」

「うぅ……気にしないでください」


 アルテ先輩は心配するような素振りで声を掛けてくれる。
 だけど顔が笑っている、どうしようもなくにやけていた。
 あれは絶対にこのネタでからかう気だ、間違いない。
 なら尚更、同じ失敗を二度続けてしまったあの事は絶対に知られるわけにはいかない。


「そうかそうか、まぁ壁に向かって熱烈なキスを、しかも二回もしているような体験なんて話したくはないよなー、うん」

「そうですよ、そんな事知られたらまたアルテ先……輩……は…………な、んで知ってるですかッ!!」


 その問いにアルテ先輩は先ほどよりも楽しそうに、本当に楽しそうに答えた。


「気にするな、そんなんじゃ胸だけ育っても身長のびないぞ♪」

「全ッ然関係ない回答ありがとうございます!」


 一発殴ろう、手加減なしで。
 相手は上官だという情報はこの際カットしよう。
 だけど、掴みかかろうにも私とアルテ先輩との身長差は絶望的だ。
 片腕一本で頭を押され近寄ろうにも近寄れない。


「むきぃーー!!」

「あっはっはー、ほらほらどうしたちびっ子」

「ちびっ子いわないでくださいッ! ――このぉ!!」


 頭におかれた手を両手で掴み、前へと掛けていた力を抜き姿勢を落とす。
 以前のように頭を鷲づかみされてはなかったため、抵抗も無くアルテ先輩の手は離れる。
 押していた私という抵抗が無くなる。
 それによりほんの一瞬、アルテ先輩の体勢が崩れた。
 次の行動は掴んでいた手を捻る事。
 しかし――


「おっとと、危ないな」


 掴んでいた腕が無理やり引き戻され、それにともない私の体が引っ張られた。
 抵抗は一瞬。
 危険を感じた私はすぐ腕を放し後ろへ下がる。
 次の瞬間、さっきまで私の顔があった場所へと掌底が放たれ、鼻先を掠めた。
 さらに一歩下がり、距離を話したところで私は叫んだ。


「あ、あぶないじゃないですかっ!!」

「危ないのはお前だ馬鹿、投げ飛ばそうとしたのはそっちだろ」


 う、それは確かに正論だけど……。
 しかし、顔に向かって掌底放つのは正直どうかと。
 それに――


「元の原因はアルテ先輩じゃ――」

「二人してなにしてるの?」

「――ッッ!!」


 硬直。
 先ほどまでの思考を全て破棄。
 思考は行うべき事柄を最優先で組み立てていく。
 それからの私とアルテ先輩の行動は早かった。
 互いに向かい合って睨みあいの体勢からはじける様に声のした方へと向き直る。
 そこから私は半歩下がり、アルテ先輩は二歩進んで横に並ぶ。
 姿勢は誰が見ても非の打ち所が無いくらいに綺麗に、そしてその人物へとどこかの軍隊のような敬礼をする。


「おはようございます高町さん!」


 刹那のずれも無く声を合わせた挨拶。
 我ながら惚れ惚れするくらい無駄の無い行動だった。
 すごいぞ私、偉いぞ私……それが例え恐怖からくる衝動だとしても!


「……なんでそんな反応するかなぁ〜」


 対する高町さんはなにやら不満そうだった。
 頭痛でもするのか片手を額に当て、ため息をついている。


「な、なのはは慕われてるんだね……あはは」


 その後ろには人がいた。
 高町さんと同じ、管理局の制服ではなくどこかの学園の制服を来た金髪の女の人。
 彼女の言葉自体はフォローだけど、その苦笑した表情にはどこか「自業自得じゃないかな……」といった感情が読み取れる。
 じっと見ていた私の視線に気付いたのか、その人は此方をみた。
 ちなみに敬礼の体勢はまだ継続中、さすがにそろそろやめないと空を飛ばされるかもしれない。
 ……そう思うならやるなと言う意見は黙殺、反射的にやってしまったものは仕方が無いのです。
 とりあえず手を下ろし、その人に向き合う。


「君が新しく配属された子だね。初めまして、かな? 直接会うのは初めてだと思うけど……」

「あ、はい。初めまして、ティーレイ・ラディアルです」

「私はフェイト・T・ハラオウン。君の事はなのはからよく聞いてるよ。久しぶりにい――」

「わーっ! フェイトちゃん何言おうとしてるのっ!!」


 何かを言いかけたその人、ハラオウンさんをさえぎるように高町さんは叫んだ。
 慌てて私とハラオウンさんとの間に入り、両手を広げている。
 どうやら私には聞かれたく無い事があるらしい……一体なにが。
 久しぶりにい……い、の次はなんなのだろう。


「それは内緒だよっていったよねフェイトちゃん!」

「ご、ごめんなのは。そっか、あれは内緒だって意味なんだ……てっきり私は……」


 私とアルテ先輩を完全に蚊帳の外にした二人の会話はしばらく続く。
 二人の世界、そんな言葉が脳内を走った。
 その光景はアルテ先輩にとってはいつも通りなのか、やれやれといった感じ。
 私にはなにがなんだかわからず、ただ二人を見る事しか出来なかった。
 でも、さすがにこれ以上放っておくのはまずいと思う。
 なので勇気を出す事にしよう。


「あの〜……お二人はなにか御用があったのでは?」


 まだ終わりそうも無い二人の会話。
 アルテ先輩は我関せずのスタイルだったので私が疑問に思った事を聞いてみた。
 管理局の制服を着ず、そのまま此方へ来たということは演習関連ではないだろう。
 そしてハラオウンさんも一緒だ。
 先ほどのように私は初対面、アルテ先輩はあの様子からして何度か会っていると思える。
 用があるとしたら私以外の人。
 私の問いに気付いた高町さんは慌てたように此方を振り向き、明らかに誤魔化し笑いだとわかる笑顔をする。


「にゃはは…。えっとね、私は特にないんだけど〜……」

「なのはにはちょっと頼んだだけ、今日は私の用件なんだ」

「用件、ですか?」


 なんだろうか、と疑問に思う私の横。
 アルテ先輩がその顔色を変えていく。
 何かを察した……もしくはハラオウンさんの用件がわかったのか。
 だけど、それで何故顔を青くするんだろう。
 そして私を見る……ものすごい可哀想なものを見る目で。


「そうか、うん……頑張れ」

「はい? が、頑張れってなんでそんな哀れみの目で見つめるんですかアルテ先輩!?」


 私の問いにもアルテ先輩は答えてくれず、ただただ頑張れと繰り返すだけ。
 微妙に涙ぐんでいるのは気のせいだろうか。
 高町さんは高町さんで微妙に生暖かい目で此方を見ている。
 ハラオウンさんだけが、何か楽しそうな……楽しみにしているような輝きをその瞳から放っていた。
 なにがなんだかわからない。


 そんな私の疑問はこの後すぐ解決する事になった。
 あまり喜ばしくはない方向で。








 あれから約三十分後、私は結界装置がある演習場にいた。

 私の手には待機状態から通常状態へと移行した【ルー】が握られている。
 白い柄の先に二重の金色の台座、その中心には核となる虹色の宝玉がある。
 それが私のインテリジェントデバイス。
 ちなみにバリアジャケットは他の局員と同じもの。
 その私の前には漆黒のバリアジャケットに身を包み、金色の髪をツインテールにしたハラオウンさん。
 手に持つのは【ルー】とは反対の色、そしてバリアジャケットと同じ漆黒のデバイス【バルディッシュ・アサルト】。
 つまり、戦闘準備万端いつでもかかってきなさい的なわけでありまして。


「そっちの準備も終わったかな? 終わったならそろそろ始めよう」

「あ、あのっ、なんで私とハラオウンさんが模擬戦闘する事になっているのでしょうか!? しかも一対一で!?」

「えっと……つまりこれが私の用件、なんだ」


 とても可愛らしい表情で微笑みながらそんな事を口走る。
 私にはその笑顔が子悪魔のそれにみえたのは言うまでもない。
 用件と言われてもこっちはわけがわからない。

 ……いや、嘘はやめよう。
 さすがにここまでくれば大体はわかる。
 ハラオウンさんは私との戦いを望んでいる。
 理由はわからないけど。


「難しい事は考える必要はないよ。今はこの模擬戦闘に全力を出してくれればいいから」


 笑顔から一転、戦う者の表情へと変わるハラオウンさん。
 放たれる気迫、それはこの人が歴戦の戦士なのだと嫌でもわかってしまう程――強い。
 このままでは無謀な一対一での模擬戦闘が始まってしまう。
 この状況を他に例えてみるなら、そう……格闘チャンピオンに憧れて格闘技を習い始めた子供がそのチャンピオンに戦いを挑まれている、といった所かな。
 何が言いたいのかと簡潔にまとめてしまえば――私に死ねと言ってますかこんちきしょー。


「全力って言われても……私はランクCですよ? ハラオウンさんに敵うわけが……」

「ランクだけがその人の強さを表すわけじゃない。ランクDの【戦塵バトル・クウェイク】は私達と戦っても互角だったし……潰したけど」

「潰っ!? やっぱり駄目ですストップです私は棄権しますーー!!」

「君はまだ知らないみたいだけど、この部隊は強いよ。アルテさん、そして他の隊員だってね。そこに配属されたって事はレイは十分に素質があるって事だよ」

「うぅ、スルーですか……。だ、だけど、その話と私が強いって事には繋がらないと思うのです、けど……」


 確かに、この部隊の人達は強い。
 アルテ先輩はその隊をまとめる人だ。
 ランクこそAAだけど、実際はAAAと同等ぐらいだと、以前高町さんから聞いた事がある。
 その高町さんに瞬殺されたけど。
 本人曰く、苦手意識だとかなんとか。


「私には……ハラオウンさんのような速さもないですし、高町さんのような強固な守りも重い砲撃もないんですよ」

「だから、君は諦める? 勝てないと思って、挑戦もせずにただ怖がっているだけで、本当にいいの?」

「ですけど……私は……」


 私は、本当に弱いんだ。
 武装局員としてなんとか合格する事はできた。
 それだってギリギリ、神様の気まぐれじゃないかと思うくらい幸運が重なって。
 本来なら私のような低ランク、ましてや碌に魔法を使えない者が所属されるわけながない。
 入隊が認められたのは、私のデバイスがある意味特殊であるという事、そして……あの事件の事も、全くの無関係ではないと思う。


「私はレイの事、なのはから聞いているだけでそんなに詳しくは知らないよ。だけど、これだけは言える。君は私と戦うのが怖くて、このまま逃げたら絶対に後悔する」

「それ、は……」


 どう……なんだろう。
 私は、私とハラオウンが戦っても意味がないんじゃないかって、ただハラオウンさんに迷惑がかかるからと思っていた。
 だけど、それは違うのかな。
 ただ本当に、怖がっていただけかもしれない。
 ハラオウンさんの強さは、資料でもらった程度には知っているから。
 それが全部ではないことはわかっているつもり、だからこそ怖い。
 あのデータだけですら、私にとっては雲の上の存在だから。
 戦いもせず、確かめもせず、今の自分には絶対に無理だからと、勝手に限界を決め付けて。

 だから、私は弱いんだ。

 だから、私は躊躇していた。

 だから……私は逃げようと、してたんだね。

 ――だからこそ


「――――泣き言ばかりいってられない……よね」


 散々駄々をこねたけど、心のどこかではこの事に喜んでいる自分がいるはずだ。
 もちろん、ハラオウンさんには勝てないと思う。
 だけどそれで諦めちゃ駄目なんだ。
 だって、私には目標があるんだから。
 決して諦めるわけにはいかない、私が私であるための意味が。
 それにはいずれ通らなければならない道があったはず。
 そのうちの一つが、強者との戦い。
 先日の高町さんとの演習、そして今から始まる模擬戦闘。
 私のような新人武装局員にはあまりない機会が、幸運にも向こうからやってきたのだ。
 それはいくら無謀な事だとろうと無駄になることはない。


「準備、できたみたいだね」


 此方の様子を伺っていたハラオウンさんはデバイスを構えながら私に問いかける。
 どうやら私の準備が終わるまで待っていてくれたらしい。


「はい。それでは、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」


 交わす挨拶は友達のように軽く、それを切欠に戦闘は始まった。








「行きます!!」


 相手は此方の何倍もの魔力と技術、そして経験がある。
 なら下手な様子見など意味がない。

 簡易強化魔法を自分に施し、ハラオウンさんへと走る。
 相手の間合いに入る直前に更に踏み込む。
 瞬間的に速度を上げ一気に近づく。
 その速度のまま下からすくい上げる様に両手でルーを振り上げた。
 あわせるようにバルディッシュがルーへと叩きつけられる。
 デバイス同士がぶつかり合う激しい衝撃、それはルーを伝い私の腕に響く。

 私はすぐにルーを引き、そのまま体を一転させ横薙ぎに殴りつける。
 だけど当たる寸前、ハラオウンさんは身を引き、矛先がほんの少し届かない。
 空振りした私に迫るのは袈裟切りの軌道を描くバルディッシュ。
 それは身を地面すれすれまで低くする事により回避する。


「疾ッ――!!」


 その体勢から弾かれるようにハラオウンさんへと接近。
 力を乗せた鉄肘を叩きこむ。
 感じるのは衝撃。
 しかしそれは人の体を打った時のものではない。
 私の攻撃はギリギリのタイミングで届かず、展開された障壁に阻まれていた。
 けど腕に痛みは感じない、だからそのまま次の行動へ。
 密接距離クロスレンジから近接距離ショートレンジへと下がろうとする、がそれを許してはくれなかった。
 後退する私に合わせたバルディッシュの突きが迫る。
 ルーをその矛先へ合わせ、方向を斜めへとずらし、受け流そうとした。
 しかしその突きは予想以上の威力を持っていた。
 完全には流しきれず、衝撃が私を襲う。
 私は更に後ろに跳ぶ事により、その衝撃を和らげる。
 結果、予定よりも距離が離れてしまった。
 私はもう一度近づく事を諦めさらに後退する。


「光よ集え、撃ち祓う弾丸となりて我が敵を貫け!! 『Taslam Replica』!!」


 その間にデバイスを通さず、己の詠唱で魔法を構築。
 使用するのは下位の術、本来デバイスを使用しているなら呪文は不要となる程度のもの。
 だけど、私はこの工程を飛ばすことはできない。
 そして詠唱だけでなく、右手を剣指の形にし、横になぎ払うように腕を振るう。
 反応するように周囲に出現した淡く光る魔力球が三つ、それぞれがハラオウンさんに向けて高速で迫っていく。


「バルディッシュ」

『Haken Form』


 ハラオウンさんは慌てる素振りを全く見せず、落ち着いた声でデバイスの形状を変化させる。
 リボルバータイプのカートリッジシステムが稼動し、薬莢が一つ排出されるのと同時に金色の魔力刃が発生。
 その刃の動きが見えたのは一つ目の光球が切り裂かれた時のみ。
 後には金色の軌跡を残す瞬刃があり、気付けばその他の光球は既にその存在を残してはいない。
 牽制にもならなかった。
 だけど、驚いている暇は無い。
 私とハラオウンさんの実力差は明確、これくらいは当たり前と考えろ。
 だから少しでもハラオウンさんとの距離を取らなければ――――そう思った時には、既に視界にはその姿はなく


「こっちだよ」


 声は背後から。


「――ッ!?」


 私は感じる悪寒から逃れるためだけに倒れこむように前へ跳ぶ。
 直後、私がいた場所へと繰り出されるのは死神の鎌。
 まともに直撃したのなら魔力ショックによる気絶は免れない。
 前方へと投げ出した体を片手を地面につけ、無理矢理体勢を整え滑るように後方へと向き直る。
 そこにはバルディッシュを振り切った状態で此方を見ているハラオウンさん。
 近すぎる。
 そう思った私は後方へ跳躍、距離を稼ぐ。
 ハラオウンさんの追撃は不思議となかった。
 バルディッシュを元の形に戻し、こちらを静かに眺めている。


「うん、いい反応だ。思い切りもいい」

「うわ……物凄く楽しそうなんですけど」


 その表情は微笑みを形作っていた。
 私が今の攻撃を避けたのがそんなに嬉しいのだろうか……。


「だけど、まだ甘いよ。それはわかってるよね?」

「……はい、もちろんです。わざわざ教えてくれまし」


 先ほどの攻撃は、本来なら回避できないものだった。
 だけど攻撃の直前にハラオウンさんが此方に声をかけた。
 こっちだよ、と。
 戦いにおいてわざわざ攻撃するタイミングを教えたりしない。
 ましてやハラオウンさんは一度此方の視界から消えるように動いているのだから。


「それじゃ、そろそろ次……行くよ」

『Plasma Lancer』


 此方の返答を待たず、打ち出されるのは雷撃の槍。
 数は五、回避は間に合うかどうか、微妙な所。
 なら、と私は一つの行動をとることにした。
 それは――


「一点突破ぁぁぁ!!」


 術式構成無視、魔力による純粋な加速。
 正直に言えば構成している暇がなかったのだけど、この際気にしていられない。
 前方を確認、距離と位置関係を把握する。
 この軌道で当たる可能性があるのは二つ。
 その二つだけに狙いを絞り、前に進む。
 このまま行けばあの槍に貫かれる。
 もちろん、そんな事にはさせないけれど。
 だから私は魔力をルーに伝え、槍のように構え突き出す。


「砕ッ!」


 そして此方に向かってくる二本の槍の軌道上、その矛先から少しずらした部分だけに魔力を炸裂させる。
 起こるのは魔力衝撃。
 それにより若干、槍の軌道が私が進む道から逸れた。
 生まれた隙間、そこに向かって突き進む。


「それはアルテさんの……なるほど、頑張ってるみたいだね」


 耳に届いたのは感嘆の声。
 次に聞こえたのは空気を切り裂く槍がすぐ横を過ぎ去る音。
 そして前にはバルディッシュを構えたハラオウンさんがいる。
 このまま直進……と行きたいところだけど、そんな事をしたらあっけなく切り裂かれるね。
 だから私は、さっきはそのままで放った魔力に変化を加える。
 私を形作る一つの姿へ。
 私の属性と言われたその力へ。
 詠唱は必要ない、ルーの助けも借りずにすむ、ただ単純な属性変換。
 それは――


「はぁぁぁあーーー!!」

「そのまま突っ込んでくるつもり? その反応は期待はずれだよレイ……ならこれで――」

「終わらせません!!」


 瞬間、当たり一面の色が失われる。


「なっ!?」


 正確には一つの色に塗りつぶされた。
 それは白色、視覚を麻痺させる程強い――閃光。


「てぇぇりゃああああ!!」


 生まれた隙に、私は行動を起こす。
 ここまでに得られた速度を込めた一撃を叩きこむために。
 ルーを上段に構えハラオウンさんめがけて振り下ろした。
 ハラオウンさんは未だに目を瞑むっている。
 当たる、とそう思った瞬間―ー


『Blitz Rush』


 その場に残ったのは声の残照。
 振り下ろし、ハラオウンさんに当たるはずだったルーには何の手応えも無い。
 避けられた。
 そう思うと同時、頭上から迫り来る気配を感じ取る。
 見上げる暇なんて無い。
 回避する時間も無い。
 故に、自分に許された限界速度で障壁の展開をする。


「あぐっ!!」


 直後、最優先に展開していた頭部付近の障壁に衝撃が奔る。
 展開途中の障壁はたやすく破られ、直接の打撃が来た。
 一瞬のブラックアウト。
 次の瞬間、更に奔る衝撃は腹部。
 そして弾き飛ばされる浮遊感。

 数瞬後、硬い地面に叩きつけられた。
 そのまま数メートル転がった所でルーを地に突きたて、勢いを留める。
 飛ばされた方角を見て、視界にハラオウンさんの姿を捉える。
 距離は約十二メートル。
 ハラオウンさんと対するにはあまり意味のある距離ではない。
 けど、追撃をしてくる様子は感じられない……と思う。

 私は自分の現状を把握するために、体の各部に意識を走らせる。
 頭部は痛みはあるものの、許容範囲……急ぎの障壁も無駄ではなかったみたい。
 それよりも腹部の痛みがまずいかも知れない。
 バリアジャケットによる軽減が効いてはいるけど、あまり楽観できない……かな。
 魔力も少し怪しいかも……少し無理矢理な事やっちゃったからね。
 やっぱり、改めて思い知らされた。
 今現在、私とこの人ではどうやっても埋めようのない力の差があり、それでも尚ハラオウンさんは手加減をしている。
 もともと勝ち目なんて無いけど、さすがにここまで来ると笑いすらこみ上げてきそう。


「三十点、目眩ましで虚を突くのは良かったけど、行動がまだ遅いよ。一挙一動をもっとスムーズに」

「は、はいっ! あ、あのでも…今の、結構一杯一杯なんですけど」

「そんな事ない、レイはまだ頑張れるはずだ。光の変換物質なんて珍しいし、もっと上手く使えばきっと凄く強くなれる」

「うぅ……確かに珍しいらしいですけど、目眩まし程度にしかならないんですよ、これ」


 そう言い、手に魔力を集中させ、変換させる。
 さっきみたいに強烈な閃光ではなく、室内ライト程度の光。
 やる事為す事不器用な私が、唯一苦もなく出来る事がこれ。
 魔力を光へと変える。
 ただ、それだけ。
 昔話や、御伽噺にあるような聖なる力なんてものは一切無い。
 変換物質の中では比較的ポピュラーな炎や雷のように付加能力があるわけでもない。
 本当に光らせるだけの力。
 暗い場所で物を探すのが便利だったり、携帯ライトなどが不要になる程度が関の山。
 戦闘で手段の一つにするには心もとない……というかなすぎる。
 さっきの閃光レベルもそう何度もできるほど、私の魔力総量は多くは無いし。


「そうだね、まだ実践じゃ使えるレベルじゃないかも。なら、君は諦めるのかな?」

「――まさか、ですよ」


 ちょっと不敵な笑みをしてみる。
 こんな私にも一応、切り札というか……奥の手っぽいものはあるから。
 でもそれは、制御しきれるかさえわからない。
 今までの成功率はほぼ一割、それも十分に集中した状態で行った結果なんだ。
 さらに失敗なんてしたらその場で魔力を全て使い切ってしまう、そんなどうしようもない問題を抱えている。
 だからこそ、まだやらない。
 まだまだ試す事はいくらでもあるし、きっとハラオウンさんも早急な決着は望んでないと思うから。


「いい返事だ」


 バルディッシュを片手に持ち変え、微笑みで此方を見ているハラオウンさん。
 それがこちらの考えを肯定しているように思え、私は苦笑する。
 さっきの痛みはある、だけど気にしないでおこう。
 そんなものは後でメディカルセンターにでも行けば治る。

 ルーを片手でバトンのように数回転、自分の思考を仕切り直す。
 体勢を落とし、いつでも動けるように。
 ハラオウンさんは動かない、どうやらこっちが仕掛けるのを待っているみたい。
 なら、遠慮せずぶつかって行こう。
 私に出来るのは、それだけなんだから。










 二人の魔導師が戦っている場所から少しはなれた所。
 そこにはレイが所属する部隊のほぼ全員が集まっていた。
 結界装置によって発生した境界の外、彼らが何をやっているかというと……


「さぁ盛り上がってまいりました!! 状況は以前ハラオウン選手の圧ッッ倒的有利!! 対するラディアル選手は健闘していますがこれはもはや結果がみえてしまったかぁ!! そこらへんどうでしょう解説の影のうっすい無限書庫司書長ユーノさん!!」

「ちょっと待て!? 影の薄いってどういう――」

「なるほどわっかりましたー!! やはり新人ルーキーのラディアル選手では執務官エースであるハラオウン選手には敵わないのですね!! ですがこのままハラオウン選手の勝利では面白くありまっせん!! そうは思いませんか出番なんてもうないかもしれないフェレットモドキのユーノさん!!」

「誰がフェレットモド――」

「おーーーっとぉお!! ここでまたしてもハラオウン選手の一撃が入ってしまったーーー!! 追い討ちを狙いラディアル選手に肉薄していくぅぅ!! この試合もここまでかぁぁぁああって眩ッッしーー!! またしてもラディアル選手得意の太○拳炸裂、観客に実況できなくなるだろ私に対する挑戦状かこのロリキョニュウがぁぁ!! 胸があるからって調子のってんじゃないわよーー!!」

「本音でてるよ君……」


 お祭り騒ぎをしていた。
 解説席のような場所には机に足を乗せ、マイク片手に絶叫している女性局員がおり、その隣の席には眼鏡を掛けた大人しそうな少年が座っていた。
 周りには結界内で戦う二人をみて騒いでいる局員達。
 数人の額には鉢巻が巻かれており、そこには「フェイトちゃん☆LOVE!!」と書かれていた。
 また他の数人の額にも鉢巻があり、「ラブリーレイちゃん!!」とも書かれていた。
 色々な意味で重症な連中である。


 そんな騒ぎから少し外れた場所、なのはとアルテは結界内を眺めていた。
 結界の外で起きている出来事なんて気にもせず戦う二人の姿を。
 付かず離れずの距離で戦い、レイは果敢にフェイトへと迫っていた。
 そのたびにアルテは拳を握ったり、本人にしか聞こえない小さな悲鳴を上げている。
 二人の距離が離れた時、ようやくアルテは一息つく。


「あーもう、レイの奴……見ててハラハラする戦い方するなよなー……」

「ふふ、アルテさんは相変わらず心配性なんだから」

「いや、心配性ってわけじゃ……ただじれったいと思ってるだけで、決して心配してるってわけじゃ」


 なのはに指摘された事をアタフタしながら否定するアルテ。
 そんなアルテに微笑みながら、なのはは再び距離を詰めて戦い始めた二人を眺めながら呟く。


「そういえば、さっきのはアルテさんが教えてあげたの?」

「あぁ、アレですか。えぇ……まぁ一応は。あいつはどっちかって言うと無意識に魔力を変換するタイプだから、やめとけって言ったけど聞かなくて」

「でも頑張ったから使えたみたいだよ。まだまだアルテさんのには及ばないみたいだけど」

「そりゃ一ヶ月かそこらで使いこなせたら私が困りますよ」

「ふふ、そうだね。……でも」


 そこでなのはは表情を変えた。
 微笑から、憂いの表情へ。


「やっぱり殆どあの子を使ってない……ううん、使えない、みたいだね」


 その言葉にアルテは直ぐ反応できなかった。
 少しの間動きを止めていたアルテは、近くにある壁に静かに寄りかかり、結界に視線を向ける。
 見つめる先はただ一つ、レイが持つインテリジェントデバイスの【ルー】。
 虹色の光沢を持つ宝玉、だがほんの少しくすんで見える。
 そしてそれは、この戦闘が始まってから一度も音声を発していない。


「まぁ……未だに仮契約のようなものですから、まともに使えるのは基礎だけですし」

「それでも戦いたいって、あの子は言ったから……だったね。正直、私は反対だったんだ」

「何に、ですか?」

「武装局員になるって事」

「……え?」


 アルテはおかしな事を聞いたような表情をした後、なのはに問いかける。


「高町さんが? だ、だって、あの時にレイを推薦したのは」

「うん、私。そしてアルテさんの部隊に配属されるようにお願いしたのも私」

「反対なら、何故そんな事を……」

「どうして、かな。私もよくわからないんだ。でも、あの時のレイちゃんの必死さを見ちゃったら、動かずにはいられなかったの」


 だけど、となのはは続ける。


「その事に、ほんの少し後悔してる自分がいる。それに気付いたのは、あの子の空っぽの笑顔を見てからなんだ」

「空っぽの……笑顔、ですか」


 それはアルテにも覚えのあるものだった。
 時折見せる、自分を誤魔化している笑い方。
 明るいと感じるわけではない、暗いとも感じるわけでもない。
 本当に、何も感じないられない、そんな笑顔。
 顔の形だけが笑みの型を作っているだけの、悲しい表情。


「私にはこの子レイジングハートが居てくれた。それに、フェイトちゃんやはやてちゃんにも出会えたから。全部ってわけじゃないけど、私は恵まれてたと思うの。だけどレイちゃんは――」

「あいつのデバイスはあの通り、そして……」


 アルテは再び、戦う二人に視線を向ける。
 正確にはレイ一人に、だ。
 憂いを帯びた瞳は、現在だけでなく、過去を見ている。
 見つめる先の彼女が、全てを失ったあの時を。


「理解してくれた人と、心を許していたあの子は……既にこの世に居ない、ですか」

「うん、そうだね……レイちゃんはあの事件で全部なくしちゃった。それでも挫けずにいるのは凄いと思う……でも」


 なのはの視線の先、自分よりも強い相手にがむしゃらに向かっていくレイの姿は、いつかの自分を思い出させる。
 だけど、その直向きさは危うい、となのはは感じていた。
 あの時の空っぽの瞳、それを見てしまったのなら尚更に。
 今はただ強さを求めているレイ、強さだけを求めてしまっているレイ。
 それはまるで復讐者のようだと、なのはは思う。
 真っ直ぐすぎて、他にはなにも求めていない彼女は一体どこへ行こうとしているのか。
 そして――


「でも、ちゃんと悲しむ事ができないのは……辛いよね」


 普段は明るく、誰とでも楽しそうに話しているレイ。
 なのははアルテやリンディ提督からそう報告を受けていた。
 でもそれは偽りだと、分かってしまった。
 遠くから見ているだけでも感じてしまう。
 昔、自分の父が重症を負い、周りに誰もいなかった頃のあの時。
 構って欲しいと、思っていた。
 淋しいと、訴えたかった。
 だけどそれは迷惑になるからと、我慢していた。
 その時の自分に、どことなく似ていると、思ったのだ。

 あの事件の時からずっと、一度も泣く事も無く、誰にもその胸の内を明かさずにいるレイの姿が。


「まだ……間に合いますよ。あいつだって少しずつ変わっていると思います。だってあいつは――――」


 その次にあるはずの言葉を、なのはは聞き取れなかった。
 理由は近くで騒いでいた局員達がすさまじい叫び声をあげたからだ。
 話に集中してたため気付かなかったが、どうやらレイがフェイトに一撃を当てる直前にまでいったらしい。
 もともとこういったお祭り騒ぎが大好きな連中が集まった問題児の集団。
 騒ぐときはとことん騒ぐらしい。
 しかし、それは愚かな行為だったのかもしれない。
 彼女は先ほどと同じような頭痛を抑える仕草の後、その声を静かに響かせた。


「ちょっと、静かにしようね?」


 それはいかなる魔法か。
 辺りに訪れるのは、数秒前の騒がしさが嘘のような静寂。
 誰もが体を硬直させていた。
 その場にいる誰一人の例外もなく、恐怖に支配された完全なる沈黙。
 騒がしかったあの実況も、片手を突き出した体勢で固まっている。
 なぜか隣にいた大人しい少年も額に脂汗を浮かべながら止まっていた。
 氷結空間を作り出した本人は満足そうに笑みを浮かべ、再び結界内を見つめる。

 そんな外野の事などお構いなしにフェイトとレイの戦いはより一層激しさを増していた。
 二人の戦いはやはり近接戦闘が主になっていて、射撃魔法などは二人とも牽制程度にしか放っていない。
 しかしこの戦いの勝敗は既に明らか、レイは誰から見ても体力の限界、対するフェイトはまだ余力を残している。
 それでも最初の頃のような手加減は減っているかにみえる。
 しかしその様子を見て、なのははしまったなぁ、と一言こぼす。


「レイちゃん、大丈夫かなぁ……」

「……大丈夫、あいつならきっと乗り越えれます」


 先ほどの続きのようにアルテはそう返す。
 しかしなのはは、そうじゃないよと言い


「ほら、フェイトちゃんって戦ってくとそれに夢中になっちゃうでしょ? レイちゃんみたいなタイプと戦うと余計に危ないかも……」


 その声と重なるように、結界内では変換された魔力――雷鳴が響き渡った。









「――ぁ」


 意識が飛んだ。
 視界が真っ白になり、自分がどういう状況なのかわからなくなる。
 辛うじて認識できたのは、手に持ったルーの感触。
 体が崩れ落ち、膝から冷たい地面に落ちた時に、ようやく意識が戻る。
 急いで現況を把握する。
 ついさっき、私の展開した障壁を紙の様に貫いたのはハラオウンさんの中距離砲撃魔法。
 若干威力が軽減されたとはいえ、私の残り少ない体力と魔力を根こそぎ削り取られてしまった。
 歪む視界には片手を此方に向け、魔法を放った状態のハラオウンさん。
 腕の周りには依然環状魔法陣が展開されていた。
 その事から先ほどの攻撃があって間も無いと思う。

 もう、駄目かな。
 さっきから何度も攻撃を仕掛けた。
 だけど、そのどれもが失敗して、さらには痛い反撃をもらっている。
 さっきの砲撃も、無闇に突っ込んだ私を吹き飛ばしてからの一撃。
 もう勝負はついた、ね。
 きっと距離を詰めて攻撃しても避けられるか防がれる。
 それに続ける体力はあんまり残っていないし、正直立っているだけでも辛い。

 頑張ったと、そう思おう。
 これ以上続けても、意味なんてない。
 もともと勝ち目のない戦いだったんだ、悔しいなんて感じる事が間違っている。
 もう、倒れて楽になりたい……。
 結局一撃もハラオウンさんには届かなかったけど、それが当然の結果なんだから。
 未だにルーから認められてない私じゃ、どうやってもいい結果なんて……。


いつかね、ボクはもっともっと強くなって……君を守るんだ。

そのために、ボクは【光神】に認めてもらう。

絶対に、君を守ってあげるから。



「――――違う、そうじゃない」


 違うんだ。
 私は何を勘違いしている。
 どうしてそんな結論に行きつくのか。


「応えてくれないのは……ルーが悪いんじゃない」


 一撃もいれずに諦めようとしている私。
 そんな弱虫にどうしてこの子が応えてくれようか。
 そもそも、なぜ私は諦めようとしているのか。

 もう動ける体力が残って無いから?
 ――違う、まだ私は動ける。

 ハラオウンさんに通じる魔法が無いから?
 ――そんな事は最初からわかっている。

 私の体術じゃ敵わないから?
 ――もともと俄仕込みだし、期待していない。

 勝てない勝負に意味なんて無いから?
 ――それまでの全てが良い経験になる、次に繋げられる。

 ……ほら、諦める方こそ意味が無いじゃないか。
 なら私のやる事は決まった。
 まだ戦えるなら最後まで戦え。
 それが私の決めた事、あの背中に追いつくために誓った事。


後継者は死んだ、お前が殺した様なもんだ。

だからな、お前にこれをくれてやる。

使うも捨てるも好きにしな。


 私はまだ――――戦える。

 視界は晴れ、体にはほんのわずかな力が沸いてくる。
 無くなったと思った魔力もある。
 それはとても少ないけど、今の私にはちょうどいい。
 リスクばかりの切り札、いちかばちかの奥の手。
 今使わずにいつ使うのか。

 前方を確認すればハラオウンさんはバルディッシュに魔力刃を発生させ、振りかぶっている。
 距離を詰めてこない、ならあれは 『Haken Saber』という魔法だろう。
 容赦が無いと思いながらも、きっと私の顔は笑っていたと思う。
 玉砕覚悟の最後の一撃、もう恐怖なんて一欠けらもないから。
 私はふらつく足に力を込めて、ルーを前面に構える。


「ハーケンセイバー!!」


 直後、金色の刃が射出された。
 三日月の魔力刃は、高速で回転し、円形へと変化する
 速度は十分に速い、それにアレは確か誘導性能があったはずだ。
 なら、回避はしない。
 そもそも、回避する必要なんてないのだから。


「行くよ、ルー……」


 未だに応えてくれないデバイスに語りかける。
 意味はないかもしれない。
 だけど、これからやる事は私一人では決してできないから。
 信頼を得るには、名前を呼ぶ事からだって、高町さんは言っていた。
 だから私はこの子の名前を呼ぶんだ。
 そして、私は前へ――金色の刃へと跳ぶ。


「我が行く末は全て凪――【神舟ウェイブスイーパー】!!」


 私一人では成立しない魔法、その名を叫びながら最後の魔力をルーへと流す。
 もし成功しなかったり、ルーが応えなければ私はあの刃をまともに受け確実に気を失う。
 それだけではなくきっと数日は目を覚まさないかもしれない。
 だけど私は、そんな事を心配する事なんて全くないんだ。
 なぜなら――


『Wave Sweeper』


 短く、小さな声が聞こえたから。
 それは男性とも女性とも思える、中性的な声色。
 久しぶりに聞く声にほんの少しの感動を覚えながら、私はさらに前進する。
 体の周囲に展開された淡い光の膜、それは行く先にある全ての波を鎮める神の舟。
 前方には金色の刃が直ぐそこまで迫っている、けど構わず進む。
 そして光の膜に金色の刃が接触し、それは全く抵抗を感じさせずに――


「――ッ!? 消えた!?」


 そう、消滅する。
 例え強固な防御魔法でも接触した瞬間にその魔法が消滅する事はまずない。
 魔力結合を解除してしまう物はあるらしいけど、それとは少し違う。
 これウェイブスイーパーは、魔力の位相、それら全てを強制的に”零”へと鎮める。
 それにより魔法はその存在を維持できず、周囲に霧散し消滅したように見える。
 簡単に言ってしまえば、魔力によって紡がれた魔法は全て無効化できるという事。


「はぁぁぁあああああ!!」


 そして魔力刃が消え去ったなら、私の前進を止めるものは何も無い。
 最後の力を振り絞り、更に加速。
 対するハラオウンさんは驚愕により硬直したのは一瞬、すぐに体勢を整えバルディッシュに新たな魔力刃を発生させていた。
 私とハラオウンさんとの距離は既に一メートル、今出せる最大の力を込めルーを突き出した。
 それに振り上げる形で迫るバルディッシュ、だけど――私の方が早い。


「いっけぇぇええええッッ!!」

「くっ!?」

『Defensor』


 矛先がハラオウンさんに届く直前、展開されたのは自動障壁。
 初めの頃にはコレによって私の攻撃は届かなかった。
 だけど、今は違う。
 この障壁だって、魔力で編まれたもの。
 なら、ルーの周りにも展開された【神舟】はそれを消し去る事ができるのだから。

 抵抗は感じない。
 障壁は光に触れた瞬間、その存在が嘘のように消え去った。
 もう阻むものはなにもない。
 最初で最後の一撃が――


「あぐっ!!」


 届いた。


「やった!」


 この戦いを通じて、ようやく入った一撃。
 その事に喜びを感じていた時、焦りの色を含んだ声を聞いた。


『Warning』

「――え?」


 それはルーのものだと、気付いたときには既に遅く、既に回避しようのない出来事へとなっていた。

 バルディッシュの勢いは止まっていなかった。
 その持ち主のハラオウンさんの表情にも全く衰えが無い。
 避けられない。
 そう思うのと同時、魔力刃は障壁に触れた。
 刃は光に触れた瞬間に消滅したけど、デバイス自体は止められない。


「が――!!」


 脇腹へと食い込み、何かが砕ける音……それでも勢いは止まらず私ごと横へなぎ払われる。
 地面を二回、三回とバウンドするように私は数十メートルほど飛ばされたところでようやく停止する。
 息が、できない。
 今自分がうつ伏せなのか、仰向けなのかさえ把握できない……ただ鮮明に感じられるのは脇腹の痛み。


「ぅ……かはっ……あぐっ」


 さすがに今のは効いた。
 今後しばらくはまともに動けないんじゃないかと思うくらい、体は動かない。
 瞼をあけるのさえとても億劫だ。
 だけどこの症状は……多分、さっきのダメージだけじゃない。
 魔力が枯渇しているんだ。
 つまり【神凪】は制御し切れなかったわけで……。
 一応は効果が現れたし、あのハラオウンさんの魔力刃を無効化できたのだから上出来すぎるのだけど。

 そこまで考えて、目に差し込む光に気が付く。
 ゆっくり瞼をあければ高い場所に見える照明、そして無骨な天井。
 つまり私は仰向けに倒れているのか、と理解する。
 ぼやける視界を左右に動かすと、右の方から黒い人影が歩いてくる。
 考えるまでも無く、ハラオウンさんだろう。
 先ほどの接触は相打ち、じゃないね……私が押し負けたわけだけど、ハラオウンさんにも多少のダメージはあるはず。
 なんだけど……歩みに全くそれが感じられないのは大したダメージではなかったのだろうか。
 こっちは未だに体が起こせないくらいの重症なんだけどな。


「レ、レイ……大丈夫、かな?」


 私のそばまで来たハラオウンさんは心配そうに声を掛けてくれる。
 徐々に回復してきた視界にはバルディッシュともう一つのデバイス、ルーを持って気まずそうに此方を伺う姿。
 そういえば手には何も持ってない。
 きっと殴り飛ばされたとき落としてしまったんだと思う。


「大丈夫…って、言いたいところです……けど……正直、大丈夫じゃないです」


 しゃべることも辛い。
 もともと体力が尽きかけてたし、魔力を回復させようと体が無理矢理休もうとしている。
 こうしている間にも意識が沈んでいくのがわかる。


「ごめん……ちょっと、やりすぎたかもしれない」

「……謝らないでください、ハラオウンさん。私は……うれしかったですよ」

「え?」


 私の答えにキョトンとするハラオウンさん。
 確かに散々痛めつけた相手にお礼を言われるのはあまりない経験かな。
 それでも、私は感謝しているんです。
 全力とまではいかなくても、最後は手加減をせず戦ってくれた事に。
 今の自分がどれほど未熟で、弱い存在なのかを再確認することができたのだから。
 これは高町さんにもいえることなんだけど、あの人の場合本当に容赦がないから感謝よりも恐怖が先に来てしまう。
 そんな事を口走れば何をされるのかわからないので絶対に言わないけれど。
 だから、私は強くなることで応える。
 そう決め――


「……うん、そっか。レイはやっぱり虐められるのが……す、好きなんだ……」


 た……の、…………………イマ、ナントイイマシタカ?


「暇な時には模擬戦の相手になるけど……その、そういう趣味目的なら……ちょっと遠慮したいかな」


 待って。
 ちょっと待って。
 この人は何を口走っているのか。
 その微妙に紅潮した表情は、可哀想な人を見るような瞳は、ほんの少し距離を取ろうとするその姿勢は!!
 一体何がどうなってハラオウンさんにそのような情報が流れたか。
 そもそも私が虐められるのが好きってガセネタにも程がある。

 ああ、駄目……違う意味でのショックで意識が遠ざかる。
 思い切って否定したいけど体が言う事をきかないしもう声を上げることすらできなそう。
 だ、だけどここで何も言わず気絶してしまったら確実にハラオウンさんは勘違いをしたままになってしまう。
 もしこれが局の人達に知れ渡りでもしたら最悪だ。
 おそらくハラオウンさんはそんな事を言い振らすような人ではないと思うけど。


「今からメディカルセンターに連れてくね。私も、一応検査しておきたいし」


 微笑むように私に話しかけるハラオウンさん。
 きっとさっきの一撃はちゃんと効いているよと言いたいのだろう。
 それはそれで嬉しいけど、その前にまず誤解を解いてくださいと切実に願う。
 だけど私の意識は迫り来る眠気に負け、最後に見えたのは聖母のように微笑むハラオウンさんの横顔だった。









 〜あとがき〜

 うーん、前回のあとがきに殆どシリアスなんて無いとか書いておきながら結構な量のシリアスっぽい展開。
 プロット段階ではあまりなかったはずなんですけどね……いろいろ付け足したらこんな感じになりました。
 それで、今回はフェイトとの戦闘が中心のお話。
 だけどバトルマニアっぽさをあまり表現できませんでしたけどね……。
 やはり対等な相手でもないと、ただの弱いもの虐めにしかならなかったもので。
 それ以前に戦闘描写が難しかったせいもあるのですがorz

 さて、今回の最後にでてきた魔法の【神舟】ですが……思いっきりAMFと効果似てますね。
 一応StrikerSが始まる前から考えていた魔法なので、パクリではないのですが、今となっては説得力皆無。
 まぁこれはそこまで強くないのですよ。
 AMFと同じように直接打撃にはあまり意味ありませんし、もう一つ欠点もあります。
 それについては後々書きます。
 そしてもう一つの魔法、『Taslam Replica』は普通の直射弾なので説明は省きますね。

 それでは遥か彼方でした〜。

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