視界に写るのはアカい風景。
 木も建物も全てを飲み込むアカ、地面を覆い尽くすように広がるアカ
 私はただ呆然と、その場を動くことなく、その風景を見つめていた。

 本当ならここは、透き通った青空と、豊かな緑、そしてほんの少しの家が並ぶ静かな村だった場所。
 だけど、今はもう見る影も無い。 
 ここには既に滅ぶのを待つだけの、絶望しかなかった。

 何もできずに、その場にいた私の前に誰かが現れた。
 さっきまで誰もいなかったし、近づいてくる様子も無かった。
 なら空間転移か何かかもしれない。
 私はそれだけを考え、なにも反応を示さなかった。
 それ以上考えるのがもう、つらいだけだったから。

 その人は何かをしゃべる。
 きっと私に何か尋ねているのだろうけど、私にはなんて言っているのかわからなかった。
 しばらく問いを繰り返していたその人は痺れを切らしたように、手に持った剣のようなものを振りかざす。
 かざされたそれは、一言で言えば変な形だった。
 剣としての役目を放棄しているように捻じ曲がった刀身、そして柄には生き物の眼球のようなものが埋め込まれている。
 どう見ても気分のいいものではない。
 その人は私に何かつぶやくと、剣に魔力を収束させていく。

 あぁ、きっと今のは最終勧告かなにかだったのだろう。
 つまり、それに答えない私の未来は一つだけという事だ。

 収束された魔力が放たれようとして――しかし突然、その人は私から離れた。
 その人がいた場所へと放たれたのは射撃魔法、そして放たれた方向を見れば数人の人。
 それぞれが杖を持ち、剣を持った人に何かを言っている。
 私を庇うように二人が、剣を持った人に立ち向かうように四人が立ちはだかる。

 だけど次の瞬間、視界はまた赤い色に染まる。
 私の体にも降り注いだその赤は、生暖かく…肌にまとわりつきとても不快だった。
 髪を伝って目に入りそうだったが、それを拭う動作すら面倒に感じてしまい結局放っておいた。
 気付けば、その場に立っているのは私と先ほどの剣をもった人だけ。
 その代わりに周りにはいくつかのカタマリ。
 それはさっきまで生き――

 駄目、理解してはいけない。

 それが何なのかを理解してしまったらまた私は私でいられなくなる。
 だから私は再び思考を捨てる。


「へぇ、これだけの地獄をみて動揺しないのか、なかなかの度胸だ……あん? なんだ、既に正気じゃないな」

「…………」

「悪く思うな、はこちらの勝手の都合か。だが、【閃光】と関わりを持つ貴様らが悪い。迷わず逝く事だ」


 再び収束する魔力、それに歓喜するように柄の眼は蠢く。
 私はただ、それを見つめている。
 不意に、目が合う。
 眼球しかないはずのそれに、私は確かに感じた。
 それは――嘲笑。
 散り逝く私に向けられた、とても……不愉快なものだった。
 
 だけど、私は何もせず、何もできず――

 放たれた魔力が肉を切り裂くのを感じた。





魔法少女リリカルなのは Rookie

episode.1
新人武装局員の苦労




「いやぁーーーッッ!!」


 生々しい感覚に、ベットから飛び起きる。
 呼吸は荒く、動悸も激しい。
 とてつもなく嫌な気分だった。
 さらに着ていたパジャマは汗によってかなり濡れて、不快感をさらに高める。


「はぁ…はぁ……また、……あの夢…なの」


 未だ覚醒していない頭でぼんやり考える。
 先ほどまで見ていた夢、よりにもよって悪夢そのものであるアレを見るなんて最悪だ。
 ここ一年は見ることも無くなっていたはずなのに、なんで今頃になってまた……。
 憂鬱な気分を振り払うように頭を振り、それにあわせて桜色が視界を横切る。
 それは私の髪、長さはおそらく身長と同じくらいの、唯一自信がもてる物だ。
 しかし、それも今は乱れきっていて、とても自慢できるものではない。


「顔……洗お……」


 そう考え私はベットから降り、ふと自分の部屋を見渡す。
 最近引っ越してきたばかりのこの部屋は、まだほとんど最初の状態、必要最低限の家具しかない。
 これからいろいろ飾りつけようかなと思い、洗面所へと向かう。


「うわ……」


 鏡の前にたどり着き、自分の姿を見て――すぐに視線をそらす。
 とても人に見せられるような状態ではなく、自分でみるのもすこし遠慮したい。
 そして他人に見られたのなら私はとても耐えられないと思う。
 私だって年頃の女の子なのだから当然だ。
 ……とりあえずは、顔を洗おう。

 二度三度洗顔し、汗の不快感は消えた。
 だけど、まだ洗わなくちゃ。
 気のせいだとわかっていても……気持ち悪いから。

 何度も、何度も顔を洗う。
 夢のなかで感じた赤いものの感触が消え去るまで。


「ふぅ〜、さっぱりした〜」


 他人が見たら不安に思えるくらいに顔を洗って、ようやく気分が普段通りになってきた。
 乱れ切った髪も簡単に整え、寝室兼居間となっている部屋へと戻る。
 そこで、壁に表示されている時刻をみて……固まる。


「………………え?」


 時計に表示された時刻は、本来起きるべき時間から既に一時間も過ぎているものだった。
 さらに言えば今日は普段より早めに集合があるとアルテ先輩が言っていた。

 思考すること約十秒。
 それから理解するまでさらに五秒。

 ――結論。


「寝過ごしたーーー!?」


 叫ぶと同時に身支度開始。
 パジャマを脱ぎ捨て、制服に着替える。
 先ほど簡単に済ませた髪の手入れを最速で仕上げ、いつも通り後ろで一つにまとめる。
 化粧などはまだ必要ない、というかあまり興味が無い。
 そして書類がまとめてあるテーブルに置かれた私のインテリジェントデバイス【ルー】をとり、指へと通す。
 待機状態の【ルー】は虹色のような光沢をしている宝石で、指輪にはめ込まれている。
 少し問題を抱えているデバイスではあるけど、これは私の宝であり――目標なのだ。


「っと、今はそんな事考えてる場合じゃないよ!」


 必要な書類を手に取り、ドアへと駆け出す。
 途中、脱ぎ散らしたパジャマや起きた状態のままのベットを見て、無性に片付けたい衝動に襲われた。
 だけど、だたでさえ遅刻なのにそんな事をしていたらさらにまずい事になる。
 片付ける事を諦め、再び玄関へ向かう。
 靴を履き、開かれる扉から飛び出す。


「いってきまーす!!」


 誰に言うでもなく、ただ無償にそう言いたかっただけの朝の挨拶。
 きっとこれも、あの悪夢のせいなのだろう。
 だけど、いつまでもそんな事に気を病む私じゃない。
 それに……今はそんなことなど気にしていられない。
 私の名前、「ティーレイ・ラディアル」と書かれた部屋を後にして、指定された場所へと走り出した。








「遅い、罰として訓練施設の整備一週間だ」

「えぇー、そんなぁ……」


 結局間に合わず、非情の決断が私に下された。
 指定された場所、少し広く感じる会議室には、椅子に座っているアルテ先輩と私しかいない。
 既に他のみんなは訓練施設へと向かったらしい。

 言い渡された罰は訓練施設の整備、はっきり言って生半可な作業量じゃない。
 文句の一つも言いたいところだけど、言えるわけが無い。
 だって、「悪い夢見て寝坊しました」を理由なんかにすれば…………。
 うん、自分が痛めつけられる光景なんて想像するものじゃないね。


「まったく……お前は私の部隊では数少ない真面目なタイプだから大丈夫だと思ってたのに」


 どこか疲れた風にため息をつくアルテ先輩。
 肩辺りで切りそろえられた艶のある黒髪、多少きつい印象を与えるつりあがった目つき。
 だけど、人に聞けば誰もが美人だと答えるだろう容姿であり、身長も女性にしては高い方だと思う。
 本名はアルテ・トトニアといって、私が所属する武装隊の隊長さんだ。
 本当なら階級が上のアルテ先輩は、それなりの呼び方があるのだがけど、この部隊は少し……結構な変り種が集まっている。

 まだ入隊してから数週間しかたってないけど、それは嫌になるくらい味わったから間違いない。
 簡単に言ってしまえば、誰も彼も階級や年の差など気にはしない豪快な人達なのです。
 それに影響され、私もアルテ先輩の事を先輩と呼んでいる。


「うぅ、すいません」


 その疲れた様子に、私は謝る以外になにもできない。
 豪快で気さくな人達、とだけならまだいい。
 その実、問題ばかり起こす人達なのだから。

 命令違反はいつもの事、魔法の過剰使用による被害拡大、その他いろいろある。
 それらの後始末を一手に受けているのがアルテ先輩、疲れるのはしょうがない事かもしれない。


「それじゃレイも来たことだし、訓練してるところまでいくか」


 そう言って椅子から立ち上がるアルテ先輩。
 こうなると私との差が歴然となる。
 ……頭一つ分以上、身長に差があるのだから仕方ない。
 はたから見れば親子に見えるかもしれない……うぅ、そう考えたら余計落ち込んできた。


「……あー、そりゃ整備の罰は辛いかもしれないが、うちの部隊はこういうのだけはちゃんとやらなきゃならんからなぁ」

「え? あ、いえ違います! あぁでも……違わなく無いんですが……それとは別の事で」


 身体的な事で悩んでいたのをアルテ先輩はどうやら先ほど言った罰で落ち込んでいると思ったらしい。
 確かにそれはそれで落ち込んではいる、けど私が考えていた事は違うことであまり知られたくは……


「別の事……ははぁ〜ん」


 ……ない、のだけど。
 なぜだろう、アルテ先輩の表情がとてつもなく嬉しそうに見える。
 そう、例えるなら……いじめる対象を見つけたいじめっ子みたいな。
 これは、つまり……バレてます?


「気にする事は無いぞレイ? お前はまだ成長期だから望みはあるさ、きっと」

「……そ、それは暗に私がち、ちち小さいと、言ってるんですね……」

「お前がそう感じたなら否定はしないがな、あっはっは」


 笑いながら私の頭を軽くたたくアルテ先輩。
 うぅ、ものすごい屈辱……。
 だ、だけど、いつもの様にからかわれるだけじゃない事をみせなくては。
 そうでなければ、これからもきっとこーゆー扱いが続くだろう。
 それはさすがに遠慮したい。


「ア、アルテ先輩みたいに背が高くても彼氏ができるわけじゃないじゃないですかって痛いです痛いいーたーいっ!!」


 突如、頭に載せられた手のひらに力が込められる。
 握りつぶされそうなくらいの力が込められた手からは、なにか憎しみと言うかそんな感じの感情も篭ってる気がする。
 えー、もしかしてなにか地雷踏んでしまいましたか?
 私は頭を掴まれたまま、無理矢理アルテ先輩と向き合うように顔を上げられる。


「今……なんて……言ったのか……もう一度……よぉく……聞こえるように……頼めるか……ティーレイ?」


 一つ一つくぎられた言葉はとても恐ろしくて、頼まれた事に応じなければこのまま呪われてしまいそう。
 だけどアルテ先輩、私は声にならない悲鳴を上げるので精一杯なのです、本当に頭が割れそうに痛いのです。
 ああ、なにか頭から聞こえてはいけない音が聞こえてくる……ミシミシって感じの。

 何も答えない――答えられない――私に、アル先輩は何かを思ったのか顔を伏せる。
 だけど未だに手のひらからは力は抜かれていない、痛い。


「……いいだろう、お前がそういう態度ならこちらにも考えがある……」

「って、何する気ですかっ!!」


 呟かれた言葉に何か危険なものを感じ取った私は、強引に手から抜け出し距離をとる。
 振り払われたその手はそのまま、アルテ先輩も未だうつむいた状態だ。
 この状況を一言で現るなら、そう

 ――怖い。

 なにか視覚的に訴えてくるホラーではなく、鑑賞する人を想像させることによって恐怖させるタイプな感じ。
 私は一体どこで選択肢を間違えたのだろう。
 今のアルテ先輩だとこの場で引き裂かれるバッドエンディングも考えられる。
 ……はやくも命の危機ですか?


「ふふふ……お前が秘密にしたがっている身体的プロフィール……隊の連中にばらしてやる!」

「……は、い?」


 私はその言葉に固まる。
 それは予想の斜め上あたりのものだったから。
 だけどそれは女性にとって極めて重大なことであり、例に漏れず私もそうだと言える。
 そしてある事実から、他の人に知られる事はすごーく遠慮したい。

 私、ティーレイ・ラディアルは年齢の割りに身長が低い。
 今年で十三になったにも関わらず身長は百四十に届かず、去年と比べて一センチも伸びていない事が判明した。
 それだけならまだ、いい。
 本当はよくはないが、それよりも重要なことがある。

 縦に伸びない代わりに、別のところが望んでもいないのに育ってしまったのだ。
 別に太っているわけじゃなく、体重は身長を考えれば標準より少しあるくらい。
 育ってしまったのは、その……えっと。


「確か最近はお前のような体系をロリキョニュウとか言うらしいな。ある特定の人種にはたまらないらしいが……さて、うちの隊にもそんな奴が一人か二人、いたような気がするぞ」

「な、な……なななっ!!」


 声がうまく紡げない。
 動揺からか、怒りからか。
 もしかしたら両方かもしれない。

 確かに、私は同年代と比べて……む、胸が大きい、らしい。
 他と比べて明らかに背の低い女の子。
 それだけでも武装局員の試験で目立ったのに、その注目がそのまま胸に移動したのは、はっきり言って最悪の気分だった。
 恥ずかしいってものじゃなかったし、この隊に入った初日にはいきなり奇妙な言動で迫ってくる怪しい人もいた。
 先輩だから我慢しようとしたけど、数秒後に断念。
 仕込まれた武術で沈めた。

 つまり、そういう連中に私のプロフィールが流れるのは恐怖以外の何者でもない。
 本当ならこんな陰湿な事はしないはずのアルテ先輩なんだけど……。
 どうやら、さっきの発言には相当なNGワードがあったみたい。


「さて、連中がどんな反応をしめすのか……楽しみだな」


 そう言うとアルテ先輩は会議室を出ようとする。
 すかさず私はドアの前に立ち、両手を広げて通さない様にする。


「や、やめてください! それだけは本当に!!」

「無理、駄目、絶対」


 必死の訴えも即答で断られた。
 しかも単語のみ、話し合う余地なしですか。

 そんなやり取りをしばらく続けていた私達は結局、呼びに来た他の先輩がとめるまで続いた。
 どうやらあまりに来るのが遅かったので様子を見に来たそうだ。








「にゃはは、大変な目にあったねレイちゃん」

「笑い事じゃないですよ〜……」


 私の苦労を笑いながら聞いてくれるのは高町なのはさん。
 長い髪をサイドポニーにしている笑顔の似合うとても素敵な人だ。
 今は管理局の制服を着て、訓練施設の端にあるベンチで私と一緒に座っている。
 この人は過去に立て続けに起きたロストロギア事件、ジュエルシードと闇の書の事件に関わり解決に導いた中の一人で、若干九歳にてAAAランクになった魔導師。
 今は管理局で戦技教導官をやっており、時々私達の演習の相手をしてくれるらしい。
 まだ私は高町さんと手合わせしたことないけれど、その時を楽しみにしている。
 なぜなら、ひそかに私が憧れている人だから。


「必死に謝ったりしてようやく許してくれたんですよ……もうへとへとです」


 体から力を抜きうなだれる事によって、疲れ果てている事を表現。
 いや、実際疲れてますけどね。


「それで休憩してるんだ。いつもなら最初から最後まで頑張ってるレイちゃんがめずらしいなぁって思ってたんだよ」

「あはは……ちょっと朝からよくないこと続きでしたので、いつもより疲れちゃったみたいです」


 あの後、いつもの訓練に合流してからはアルテ先輩との直接訓練、微妙に憂さ晴らしがあったのを感じられずにはいられない。
 それが終わった後はいつも通りの訓練を始めるものの、体の調子がよくないのでいったん休憩させてもらう事にした。
 そしてベンチに行ってみると高町さんがいて、現在の状況となったわけで。


「って、あれ? いつもならって……なんで知ってるんですか?」


 高町さんはまだ学生で、毎日管理局にいるわけじゃない。
 規模の大きい事件の時や前もって集合がかかった時、学校が休日の時などに来ていると聞いた気がする。
 それなのに、なぜ私が訓練を時間一杯までやっている事を知っているのだろう。


「うーんとね、実はレイちゃんの事は管理局に入ってくる前から私は知ってたんだ。理由は……任務だったから言えないんだけどね。それから少し気になっちゃって……リンディさんとかクロノ君、そしてアルテさんに頼んでレイちゃんの事聞いてたの」

「そ、それは初耳です……だけど、そっか。高町さんはあの事件にもいたんですね……」


 言葉の最後は呟くように……きっと高町さんには聞こえていないだろう。
 あの事件、四年前に起きた――




「逃げて……君は生き延びるんだ」


「貴方は我々の希望であり象徴だった。それに心を痛めていた事も知っていた。だから今……それを償わせてくれ」


「お母……さん?」

「まだ……私を、母と……呼んでくれる…のね。……優しくて…強い子、貴方なら……きっと」





 視界が赤く染まる。
 こみ上げてくる不快感、そしてどうしようもない虚脱感。
 震える体を抱きしめるも、この感情は止まらない。

 違う……これは違う、錯覚だ。
 夢で見たから思い出しているだけ、後悔はとっくに済ませたんだ。
 そう自分に言い聞かせる、そうしなければ……また……。

 私が私で……なくなって……


「レイちゃん? どうしたの…ってわわ、顔真っ青だよ!」


 隣にいる”誰か”が話しかけてくる。
 この服は……管理局の……それなら……この人は……て――

 ――――違うっ、そうじゃない!

 ”誰か”なんてわからない人じゃない。
 彼女は高町なのはさん、私の憧れる人。
 あの人達とは違うんだ。

 だから怖がっちゃ駄目、ここは大丈夫なのだから。


「ぁ…ぅっ……いえ、大丈夫です。すこし…体調が悪いだけみたいですから」


 頑張って笑顔をみせるけど、高町さんは変わらず心配そうな顔だ。
 だけど本当に大丈夫、少しずつ気分も落ち着いてきた。
 抱きしめていた体はもう震える事は無く、これなら問題は無い。

 大丈夫……視界は良好、私は私。


「本当に大丈夫? 今からの演習は休んだほうがいいんじゃないかな?」

「大丈夫ですよ。私は丈夫さには結構自信あるんですから……演習?」


 演習……さまざまな事態に対応できるように部隊などが練習する事。
 ではなく……今日演習があったなんて私は聞いて――


「あ……まさか、朝の会議ってそれに関してだったのかな」


 そう考えるとつじつまは合う。
 本来ならそういう事は少し前に知らされるが、アルテ先輩はそういう事を直前になって伝える事が多い。
 まだ短い付き合いだけど、先輩達の話を聞くとそうらしい。


「レイちゃんは聞いてなかったんだ。この後、十三時からの予定で、今回は私がお相手するんだけど……」

「大丈夫です、もう元気一杯なので問題などありえるはずがありません」


 いきなり語気を強めて話す私に、少し引き気味の高町さん。
 いけない、少し興奮してしまったらしい。
 一度高町さんから視線をはずし、深呼吸。
 ……うん、落ち着いた。


「えっとですね、実は私――」

「各員集合ー!」


 憧れている事を伝えようとしたらアルテ先輩の集合がかかる。
 それぞれ距離をとって訓練していた隊のみんなが集まりだす。
 どうやら先ほどいっていた演習が始まるのだろう。
 もう少し話をしていたかった私はちょっと残念な気持ちになる。
 そして高町さんを見ると、ベンチから立ち上がり、こちらに手を差し出していた。


「確かに元気みたいだから、今日はよろしくね。レイちゃん」

「……はいっ!!」


 差し出された手を掴み、元気よく立ち上がる。
 いつも願っていた高町さんとの演習、私は先ほどの発作の事など忘れて舞い上がっていた。
 とても、とても楽しみにしていた。

 そう……全ては過去形。
 時間は二度と戻らない事、そして自分の無知を改めて知る事になった。








 演習開始――ニ分後。

 そこは戦場ではなく、処刑場だった。


「いくよレイジングハート! ディバイーンバスターッッ!!」

「ぎゃーーー!!」


 馬鹿みたいな魔力が篭った砲撃魔法が放たれ、数人まとめて空を飛ぶ。
 余波が後方で待機する私のところまで届き、その威力の高さに恐怖する。


「次っ!」

『Accel Shooter』

「シュートッ!!」

「のわーーーっっ!!」


 高速で迫る誘導弾、シールドを前面に展開すれば後方から襲われる恐怖。
 全方位に展開しようものなら数秒も持たず破壊される。
 高町さんに容赦なんて言葉はない、そう確信した。


「こ、このぉ!!」

「甘いっ! そんなんじゃ実戦を生き残れないよ! 出直して――」

『Accel Fin』

「来なさーい!!」

『Accel Impact』

「うぎゃーーー!!」


 高速機動からの魔力を込めた打撃、高町さんは砲撃魔導師だと聞いたいたのだけど……
 攻撃をかわされ体制が崩れたところに、まともに高町さんの攻撃を受けた先輩は地面に叩きつけられる。
 ……既に非殺傷とかあまり関係ないような気が。


「くっ、ばらばらに攻撃するなっ! 生き残ってるものは三人で組め! 体制が整い次第いっせいに――」

「そんなの待つわけが……」

『Divine Buster Full Burst』

「しまった! 各員散れー!!」

「ないでしょーーー!!」

「いやーーー!?」


 この演習は、私達の部隊と高町さんのと対戦だった。
 こちらは数十人いて、対する高町さんは一人だけ。
 最初、私は「いくらなんでも戦力差が」とかなんとか言っていた気がする。

 その時の私に是非言いたい。
 そんな心配なんて全くの無用、むしろ自分の心配をしろ……と。


 演習開始――十分後

 残存戦力は初参加と言う事で後方に待機していた私と、指揮をしていたアルテ先輩、そして二人の先輩のみ。
 対する高町さんは……土煙の上がる向こう側、ゆっくりとこちらへと歩いて来て……ダメージを負っているのかはわからない。

 だけど――なぜだろう。
 この、言いようの無い絶望感は。


「うん、これで大体終わったかな?」


 土煙が晴れると、そこには……一汗かいてすっきりしたーって感じの高町さん。
 ……ダメージなんて確認できません、むしろ最初より調子が上がっているようにも見えます。


「あぅ……あぅあぅ……」


 対する私はショッキングな出来事により震えるしかできない。
 情けない事この上ないけど、怖い物は怖い。
 人間素直が一番なのですよ、あははははー。


「レイっ、気をしっかり持て! 高町さんは倒れたって手加減なんてしないんだぞ!!」


 気が付けば横にはアルテ先輩。
 他の人とは少し違うストレージデバイス【ランページ】を手にもち、切羽詰まった様子で話しかけてくる。
 い、いけない、戦場で我を失うことはそのまま死ぬ事になるのに……。


「す、すいませんアルテ先輩……もう、大丈夫です」


 起動した【ルー】を握りなおし、頭を二度振る。
 こんな事で放心していたら、目指すべきところになんていけるわけが無い。
 そう言い聞かせ、そして再び高町さんの方を見て……愕然。
 えぇっと、さっきまではアルテ先輩の他に二人いたはずなのですが。


「ちっ、全員鍛えなおしだな……」


 その声には微妙に悔しさが込められているように感じた。
 確かに、いくら相手がAAAランクの魔導師と言っても、こうまでズダボロにやられては隊を預かる者としては屈辱だと思う。


「残りは、アルテさんとレイちゃんだね。それじゃ……楽しませて


 放たれる殺気、嫌でもわかる魔力の高まり。
 そして手に持ったデバイス【レイジングハート・エクセリオン】から排出されるカートリッジ。
 間違いない……高町さん、いや……あれは――殺る気だ。

 なら、こちらも覚悟を決めなければ駄目。
 死ぬ気で……あの人を倒さなければ、私達に明日は無い。
 アルテ先輩も覚悟を決めるように、魔力を高めていく。
 私もそれに習うように、魔力を集め【ルー】へと伝わせる。

 準備は終わり、覚悟は決まった。
 だけど……その前に一つだけ、どうしてもこれだけは言いたい。


「これ演習ですよね! なんで生死の狭間にいるような状態にっ!!」

「諦めろ、それが高町さんと戦うって事だ」

「答えになってない気がするのですけどっ!!」


 その叫びが最後、戦闘は始まり――終わった。
 結果は言うまでも無く、私達の惨敗。

 抵抗なんて言葉すら当てはまらないくらい、あっさり負けてしまった。
 それは私自身のせいでもあるし、実力不足なのは認めている。
 なによりも、未だに【ルー】と私が抱えている問題は解決していない。

 だけど、悔しい事に変わりは無い。
 だから私は努力する。
 目指したあの場所へたどり着けるように


 ――冒してしまった罪を償えるように。


 翌日、筋肉痛ではない痛いが全身を駆け巡る中、アルテ先輩による猛特訓が始まりを告げた。







 〜あとがき〜

 今回の作品は祭り用として書いていたものを改訂したものです。
 祭りにしては暗いと思い省いていたレイの過去を中心に、オリジナルを増やしました。

 まぁ次から最後あたりまでシリアスなんてほとんどないんですけどね。
 全六話を予定、完結できるよう頑張ります。

 あと作中に出てきた【Accel Impact】、これはなのはが以前使っていた【Flash Impact】の名前を変えただけです。
 特に意味は無いのですけどね。

 それでは、遥か彼方でした。

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