「誰かそこの醤油取って〜」

「はい、どうぞ藤村さん」

「ほい、セイバーお代わりだ。祐一もいるか?」

「いただきます……ありがとう、士郎」

 

 差し出したお茶碗にご飯が山盛りになって戻ってくる。

 うまうま。いつ食べても、シロウのご飯は美味しい。

 

「相変わらずこの家の食卓は騒がしいですね」

「そうね。迷惑極まりないわ」

「一時期から一気に増えましたから……」

 

 む、これは桜のですか……腕が上がっていますね。

 味の染み具合も良い。得意の洋食ではないが、シロウの味に近づいている。

 

「……そろそろ食べ終わるわね」

「そうですね。汚れるのだけ退けて置かないと……」

 

 あぁ! 納豆がもう無い。

 三杯目は納豆で食べようと思っていたのに……

 

「アルトリア、俺のいるか? 卵付きだけど、量は一緒だぞ」

「おお、感謝します。祐。変わりに、私のご飯を」

「……あれ?」

 

 祐から差し出される納豆の入りのご飯。

 私と違い卵がけご飯になっているが、同じタイミングでお代わりした為ご飯の量は同じ。

 交換ですね。問題ありません。

 

「……まっいっか。ご馳走様〜って――」

「桜!」

「ライダー! そっちの退けて!」

「――また増えてるぅ〜〜っ!! しかも今度は男の子ぉ〜〜! 士郎がホモになっちゃたよぉ〜!」

 

 ……ハッ!

 

「はぅ!」

 

 うるさいです、タイガ。

 

「祐は私の客です。士郎とは知り合ったばかりで、関係ありません。それに、祐はホモではありません」

「あー、セイバー? 聞こえてないと思うぞ」

 

 ……ふむ。手刀とはいえ、少し強くやりすぎましたか。タイガなら平気だと思ったのですが……

 茶碗を持ったまま倒れてしまいました。まぁ、痙攣はしていませんし、大丈夫でしょう。

 

「ねぇ桜、昔の相沢君って確か……」

「そこは言わないお約束ですよ、姉さん」

 

 

 

王との誓い

〜時を越えた約束〜

 

 

 

「――ある日のこと。

 正義の味方セイバーことアルトリアは、悪の幹部「駄嗚〜」の魔の手に落ちていた幼馴染相沢祐一を救い出した。

 しかし悪の手から助け出した時、相沢祐一は……幼き頃の記憶を忘れていたのであった」

 

「凛。なにを語っているのですか?」

「そうね……セイバーと相沢君の物語。言うなれば、聖剣物語?」

「そうですか。シロウに、凛が祐にからかわれてアタフタしていた時のことを話します」

「うっ。ゴメン、それだけは勘弁して」

 

 祐がシロウの家に来て、一週間が過ぎました。

 祐の事情は分かりませんが、ほぼ前の家から逃げてきた形になったそうです。

 ただ、祐自身はあのような形ではありましたが、家を出ることが出来てよかったそうで、感謝を言われました。

 こちらの生活も、持ち前の性格なのか……凛をからかったり、桜をからかったり、シロウをからかったりと、この家にいてもすでに違和感がありません。……からかってばかりいる気もしますが、仲良きことと考えれば思わず笑顔が浮かびます。

 一つだけ、ふと考えてしまうこともありますが……しかし、今のことを考えればそれも些細なこと。

 

「でもね、セイバー。別にふざけて言ってる訳じゃないのよ」

「……何が言いたいのですか、凛」

「相沢君のこと、どうするの? 迎え入れた士郎も士郎だけど、連れてきたセイバーにも責任はあるのよ」

 

 っ! 言わなくても分かっています。祐を連れてきたのは私。

 人一人の未来を動かした責任は大きい。それに、凛は言わないが……私のわがままのせいだ。

 ふと、そのことを考えてしまう。隠しているつもりでしたが……やはり分かってしまいますか。

 

「ただでさえ、藤村先生を始めに、桜、ライダー、バゼット、カレン。一応お金は入れてるけど、私にイリヤ。もう赤字よ、あ・か・じ」

「凛はいれていませんよ。しかし、考えればシロウに大きな負担を……かなり食べますし」

「ねぇセイバー。あなたはどうしたいの? 今の相沢君の側にいたいの? それとも、過去のユウを相沢君に重ねてるの?」

 

 過去のユウを今の祐に重ねるのは侮辱に当たる。

 なら、今の祐の側にいたいのか、と聞かれると……はいと頷けない。

 私は迷っている、分からない……そのどちらでもない。たぶん、両方が正解なのだろう。

 過去のユウに重なる今の祐に出会い、魅かれた。そして、話したことで……恋に落ちてしまった。

 騎士として、サーヴァントとしてこの時代に呼ばれた身として、可笑しな話だが……ユウは唯一、そんな私を一人の女性として接することが出来た人物であったから、好きになった。

 

「ああもう可愛いわね! じゃなかった。煮え切らないわね! それじゃ、まずは相沢君がユウなのか、それを確かめましょ」

「はっ?」

「そもそも、相沢君がセイバーの言ってるユウなのかなんて、ハッキリしていないんだし。この際、ハッキリさせれば良いのよ」

「り、凛? そんなことどうやって……?」

「セイバー。私は魔術師よ。それに、この家にはどれだけの優秀な魔術師が揃っていると思う? それぐらい、やって見せるわ」

 

 そう宣言する凛の姿は、あの聖杯戦争の時の凛と同じだった。

 ユウの魂に呼びかけ、祐の体を借りて一時的に話をする――口寄せ。魔術的に言えば、交霊術。

 霊を自分に憑依させて、霊の代わりにその意志などを語ることの出来る術で……魂だけかの違いで、サーヴァントと同じ。

 厳密にいえば、違うことばかりなのでしょうが……凛曰く、分野が違う為にあまり自分も知らないそうです。

 それからすぐに桜を呼び、イリヤ、キャスター、子ギルガメッシュと連絡を取り、一時間の間に屋敷には必要な魔術師が集った。

 ただ、キャスターは必要な物を置くとすぐに帰ってしまい、どこかにいったイリヤは最初から連絡が取れなかった。

 ついでに言えば、ライダーとバゼットはバイトです。

 

「キャスターとイリヤがいないのは痛いわね。私と桜だけじゃ魔力が足りないし……あとは、ギルガメッシュのアイテム次第か」

「あまり期待はしないでください。せいぜい、お望みのものに近いものぐらいしか……っと、これなら良いですね、たぶん」

「魔力はセイバーのを使いましょ。宝具一発分ぐらいなら、なくなっても大丈夫だし」

 

 シロウの家の居間で、着々と準備が進められていく儀式。

 すでにユウは凛がガントで眠らせ、シロウはいつもの事だと夕食の仕込み中。

 たまたまギルガメッシュと一緒にいたランサーが付いて着て、カレンに説教されているぐらい……普段とあまり変わらなかった。

 普段と変わらないのは、変なのでしょうが……

 

「あーあ、付いてくるじゃなかったぜ。珍しく嬢ちゃんから呼び出しだったのによ」

「別に、貴方を呼んだ訳ではありませんが」

「まぁそうだな。にしても、あれが噂の男か……ほう、素質はありそうだな。適度に筋肉も付いてる」

 

 出会った時にそれは知っている。あと……実は実際に手合わせして、確かめた。

 祐……稽古で汗を掻いたからと言って、平気でシャツを脱ぐものですから……いえいえ! 思い出してなんかいませんよ!

 ……この時代では驚きの身体能力。シロウのように、鍛え続けて出来た体ではないが……そのポテンシャルは高い。

 これで剣を使えるなら、この出会いは偶然ではなく必然だ。

 

「――よしっと。セイバー、後は魔力を送り込むだけよ。そうすれば、魂が下りてくるわ」

「大丈夫ですか姉さん? 降霊術なんて…」

「大丈夫だいじょうぶ。聖杯戦争は過去の英霊を呼んでるのよ。それに比べれば簡単じゃない。さぁ、セイバー」

「……分かりました」

 

 小さな躊躇いを胸に抱きながら陣のギリギリに座り、陣の中にいる祐へと手を伸ばし体に触れる。

 息さえしていないのでないかと思うぐらい、動かない祐。だが……触れれば小さく脈打ち、血が通っているのが感じられる。

 そんな祐を見ていると……最後にユウと別れた後、ユウはいったいどうなったのかと、思ってしまう。

 兵士たちに殺され死んでしまったのか。それとも、生き延びて村の人たちを見つけることが出来たのか。

 私は……知りたい。そして、もう一度ユウに会って話がしたい!

 

「……アルトリア・ペンドラゴンの名において告げる。我と誓いし言葉、その誓いに偽り無いのなら……もう一度、我が元のに――」

 

 魔力を注ぎ込む。

 注ぎ込まれた魔力に反応して、陣が輝きだし……ユウへと光が吸い込まれるように消えていった。

 しかし…………なにも起こらない。

 

「「「「「…………凛(さん・姉さん・嬢ちゃん)?」」」」」

「…………お、おかしいわね? 魔術式も合ってるし、魔力も足りてるから……あ、呼ぶ魂を特定するの忘れてた」

「えーと、姉さん? つまりは…」

「聖杯のような補助がないから限定なんて出来ないし、今は新しく張ったこの家の結界に阻まれて入って来れないって訳で――」

 

 途端、罅割れる音共に……嫌な声が屋敷に響いた。

 

「――手当たり次第、着ちゃった。てへ」

「うっかりし過ぎです! てへって何様のつもりですか! 好感度アップでも狙ってるんですか! また増やす気かキシャー!」

「ちぃ! なんて数だ! ギル、なんか道具出せ!」

「僕はドラえもんじゃないので、そう都合良く出てきませんよ。せいぜい霊的に効く武器ぐらいです! この姿ですし」

 

 ランサーと共に庭に飛び出ると、空一面に飛びまわる――ゴースト。

 ドクロのような顔だけのものや、体までしっかりと存在しているもの。ただ共通するのは、禍々しい邪気とでも言うべきもの。

 それらが、まるで何かに呼び寄せられているのか、屋敷の外と中に張っている結界の割れ目から屋敷の空へ次々とやってくる。

 そして、その一体と……目があった。

 

「――ちぃっ! ハァッ!!」

 

 それを合図に、一斉に私達へと向かって襲い掛かってくるゴースト。

 まるでギルガメッシュの宝具の雨のように、線ではなく面の攻撃。

 

「くそ、俺の槍じゃ効き目が薄い!」

「魔槍だからでしょう! こういった敵には、聖剣のような聖なる加護のある物じゃないと!」

「だから、それならそう言ったのを出せってんだよ!」

「こっちはこっちを守るだけで精一杯です!」

 

 屋敷の中へと視線を向けると、窓に結界を張ってゴースト達が中に入れないようにしている凛達の姿。

 しかしそれも、張り直し張り直しを繰り返し保っている状況下。

 数が重圧となり、結界ごと押しつぶすのも時間の問題。ただでさえ、先ほどの儀式で魔力を使っており――

 

「くっ!」

 

 避けようと下げた足がもつれ、軽くゴーストの攻撃が掠った。

 忘れていた。私自身、魔力を使ったから残りの魔力、戦闘に回す分はほとんど無い。

 

「セイバー! ――投影(トレース)開始(オン)!」

「待ちなさい士郎! あの二人でさえ苦戦してるのに、行っても足手纏いよ!」

「そうですよ先輩! それよりも、カレンさんが!」

 

 ゴーストが現れてから、カレンが苦しそうに胸を押さえて座り込んでいる。

 悪魔に近付くと自動的に霊障を再現してしまう被虐霊媒体質。

 ゴーストも、悪魔と同じって訳ですかっ! ハッ!

 

「聖骸布で包んでなさい! 多少はマシでしょ! ああもう、4つ目の宝石がぁ〜」

 

 ……早く何とかしないと、凛がヤバイですね。終った後のことで――

 

「セイバー!」

「なっ、ぐぅっ!?」

 

 ランサーの声と共に背中に衝撃を受け、吹き飛ばされた。

 く……しまった。周りに意識を向けすぎた。それに、魔力がもう無い。

 鎧が保てず、剣だけが唯一の武器。なぜか、直感までもが鈍っている。くっ、体が重い。

 

「絶体絶命と、言ったところか」

 

 吹き飛ばされた位置も悪い。ちょうど庭の中心で、全方位から攻撃を受けてしまう。

 一分、その短い時間さえ保てるか。……剣を振り、すでにどれだけのゴーストを切り裂いたのだろう。

 怪我らしい怪我は負っていないが、それでも勝算がない。ゴースト達は肉体を求め、ただ一直線に向かってくる。

 屋敷の中では凛が7つ目と叫んでおり、窓の結界の側では外のランサーと中のギルガメッシュが言い合いながらも武器を振るっている。私も剣を振るい続けているが、ゴーストの数は一向に減る気配がない。

 

「せめて、原因さえ解れば……」

「余裕がないんでねっと! 膝を付いてる場合じゃねぇぞ!」

「分かってます!」

「なら動け! せめてこっちにって……おいおい、あの塊は無理だろ」

 

 上空を向けば、ゴーストが飛び交う中に……一際目立つ黒い塊。

 ゴースト同士が混ざり合い固まった集合体。それがまさに……ゆっくりと私へと落ちてきていた。

 

「逃げろ!」

 

 言われるまでもなく、その場から下がろうとするが……他のゴースト達に邪魔をされ、動くことが出来ない。

 あれほどの数が集っていては、斬るだけでは消し飛ばせない。あれを消し飛ばすには!

 

「凛! 宝具を使います!」

「なっ! 待ちなさい、今使ったら動けなくなるわよ!」

「承知の上です! 風王結界、解放!」

 

 剣に纏わっていた風で辺りのゴーストを吹き飛ばし、剣を集合体へと向けて振るう!

 凛の言うとおり、魔力が残り少ない今の私が放てば……もう動けなくなるだろう。最悪、消えてしまうかもしれない。

 けれど、私にはあれを倒さなければならない。あれが狙っているのは祐の体だ。

 こうなっているのも、私がハッキリとしなかったからだ。もし、私がハッキリと言っていれば、今回の騒ぎなど必要なかった。

 祐が危険な目に遭うことも無かった……全部、私の責任だ。

 

「だから、私がこの手で」

 

 決着をつける! それが今の私に出来ること。

 たとえこの身が消えようとも、祐だけは……絶対に傷つけさせない!

 

約束された勝利の(エクスカリ)――なっ」

 

 視界の端。屋敷から凛たちの横を一つの影が通り過ぎ、庭に刺さってあったギルガメッシュが放った剣を抜き、途中のゴーストを一瞬にして斬り払い、私の腕を掴み宝具の解放を止めた影。

 見間違う筈がない。姿は変われど、その眼差しとその剣捌きは間違う筈がない。

 今ここで私の前に立つ者など、彼以外にいるはずが無い――私のピンチに、その誓いを果たす為に。

 

「――ユウ!」

 

 眠りから目覚めた騎士が、私を守る為に……今ここにいる。

 

「亡霊どもが、我が王への行い万死と知れ。来い、未練の塊よ。今一度、お前らの魂に死を教えてやる!」

 

 

Ж Ж Ж Ж

 

 

「――って、えぇ?!」

「相沢くん?! あ、いない!」

「それよりも! 姉さん、今祐一さん、我が王って!」

 

 もう、なにがどうなってるのよ!

 なんか相沢くんがユウとして起きてるし、これじゃ儀式が成功したのか失敗したのか分からないじゃない!

 あれ? ユウとして起きたなら成功なのかしら。でも、大変なことになってるし……

 

「ええぃ! そっちは後回し! 今はこの悪霊を何とかするのが先よ! 士郎!」

「お、おう?」

「屋敷を解析して普段と違う箇所を見つけなさいっ!! 5秒以内!」

「イエス、マム!」

 

 二桁に突入した宝石に涙しながら、窓に張った結界に、魔力をさらに上乗せする。

 ほんと、自分のうっかりが嫌になるわ。今までどれだけこのうっかりで――

 

「あれ?」

「見つかった? どこよ問題点は」

「いや、えと……無いんだ」

「無い? ちょっとヘッポコ、ちゃんと探してるの? そんな訳が無いでしょ!」

「そんな事言っても。新たに遠坂が屋敷に張った結界に穴が開いてる以外は…」

 

 馬鹿士郎。解析は数少ない出来る魔術でしょうが。分からないって、ヘッポコ以下よ、以下。

 

「……先輩、それって。結界の穴が問題なんじゃ。それさえ塞いでしまえばもう入ってこないってことで…」

 

 ……そっか。呼んだのは始めだけで、あとは悪霊同士が引き合ってるのね。

 なら入り口さえ塞いじゃえば増えることは無い。まったく、臭いものには蓋ってね……ちょっと違うか。

 ああもう、何でこんな簡単なことに気づかないのよ。平和ボケしてるわ。

 

「とりあえず、ランサー! これを結界の穴に投げ込んで!」

「おうよ! ついでだ、これも貰っとけ!」

 

 ゲイボルグが道を開き、結界の穴へと投げ込まれる年単位の魔力が詰まった宝石。

 一瞬にして結界の穴を塞ぎ直し、悪霊が増えるのは止まった。

 よし! 外にいた悪霊もすぐにいなくなるでしょうし、あとはこの中にいる悪霊だけ。

 

「セイバー! あとは…………うわ――」

 

 一言で言うなら芸術。

 あまりの美しさに、初めてセイバーと会ったあの日のように、一瞬……見惚れてしまった。

 セイバーを後ろに庇いながら、大量の悪霊に一歩たりとも引けを取っていない。まさに、姫を守る騎士。

 あのセイバーが、守られているだけ……それほど、相沢君の剣技は凄かった。

 あれ、今は相沢君じゃなくてユウだっけ? まっ、もうどっちでもいいわ……

 

 

Ж Ж Ж Ж

 

 

「――ふっ。数だけ多くても!」

 

 剣によって生み出される斬撃の結界。間合いに踏み込めば、一瞬にして斬り裂かれる。

 人の死角である真上も、私が間に入る後ろも、どこからやって来ようとも……全て斬り裂かれる。

 このまま行けば、全てのゴーストが消えるのも……時間の問題。けど、

 

「あれは剣だけじゃ倒せない」

 

 ゴーストの混ざり合った集合体。個では無く、群。

 どれだけ数が多くても、剣が触れる瞬間はかならず個。斬り裂かれる数は一つ。

 対人攻撃では倒せない。大軍攻撃ではないと……

 

「くっ?!」

「ユウ!」

「体が重い。くそっ、筋肉が悲鳴を上げてやがる」

 

 いくら祐の体が優れていても、剣を振り続けていた訳ではない。

 日常が戦争であった過去と今では、筋肉の質が違いすぎる。

 

「……ユウ! 我が剣を!」

「アーサー王?!」

「我が代わりに振るいなさい!」

 

 今のユウには、私が送り込んだ魔力が蓄えられている。

 なら、聖剣の保持者でないユウの力でも……放てる。

 

「早くっ!」

 

 私の手にユウの手が重ねられる。……まさか、こんな形で同じ剣を握ることになるとは。

 それに、触れ合う手が温かい。それに懐かしい……本当に、ユウだ。

 思わず戦いの最中であるのに、覇気が消えて笑みが浮かんでしまう。

 

「お借りします!」

 

 ユウが剣を構え、まるで私を守るかのように魔力が壁となって周りを包む。

 ああ……これが守られるということか。士郎と共に戦いはしたが、このような一方的に守られるのは初めて。

 守られる安心感。目の前にあるユウの背中が大きく見え、心に在った不安が消えていく。

 

「聖剣よ、俺に力を。……約束された(エクス)――」

 

 振り上げられた剣が真名の解放と共に振り下ろされ、

 

「――勝利の剣ァ(カリバー)ーー!!」

 

 光が黒い塊を貫いた……

 

 

 

 

 

「――ユ、ユウ! 頭を上げてください!」

「いえ! 一時的とはいえ聖剣を託し、さらには真名の解放まで……返す言葉、むしろ言い表す言葉さえございません!」

 

 聖剣の力によって屋敷に居たゴーストは全て消え去り、屋敷の外にいたゴーストもその余波で浄化した。

 結界も凛と桜の手によって直され、屋敷は元の姿と変わらずに今もある。

 変わったことといえば、祐がユウになったこと。

 

「そんなこと! ユウのおかげで我らは助かったのです!」

「……わかりました。王のお言葉、感謝と共に…………ん?」

 

 そして現状は、王の剣を振るったことにユウが……でも、間違いない。ユウだ。私の知っているあのユウだ。

 表面上は普段と変わらないが、内心……嬉しさの涙を流していた。

 

「あれ? アーサー王、ですよね? あれ確か別れたのって森の中でってここ、何処だ? いやそれより眠ったと聞いて、ええ?」

「……ああ! ま、まずは落ち着きなさい、全て説明しますから」

「は、はっ!」

 

 改めて、今の状況に気がついた。

 ユウからすれば、目覚めたばかり……死んだ時から数え切れないほどの時間が経っている。

 聖杯からの記憶もなく、持っているのはあの日々の記憶だけ。魔術的なものは在ったとはいえ、信じられるかどうか……

 

「――いろいろと信じられないことばかりですが……アーサー王――じゃなかった。アルトリアが言うなら、そうなのでしょう」

「では、信じると?」

「はい。少しずつですが、記憶が整理されたのか、昔と今の記憶の両方がハッキリとしてきましたから」

 

 話していると、ユウの態度や喋り方が少しだけ違う。

 アーサー王と呼ぶのを、すでに王ではないと言って名へと変えさせたが……かなり口調がくだけている。

 これは……ユウと祐の記憶が混ざっているからでしょうか?

 

「どちらの記憶も、私自身のもの。この記憶が植えつけられたものではないのは、他者には解らないものもありますから」

「そうですか、それは良かった……良かった?」

「……アルトリア。俺はこんな形でも、もう一度貴女に会えたことが嬉しいです」

 

 泣いても良いだろうか?

 また会えた嬉しさ。今の言葉を聞けた喜び。騎士として王として、涙など見せないと誓ったこともある。

 けれど……これほどにまで心に響いた言葉を、私は今まで聞いたことがない。

 

「おうおう、俺達空気だな」

「仕方がありませんよ。事実、あれには入っていけませんから」

「むー、私のセイバーがー、宝石がー」

「姉さん、宝石は余計ですよ」

「それに、セイバーのマスターは俺じゃないのか?」

「良い士郎。あなたは私の弟子。つまり、あなたのものは私のもの。私のものは勿論私のもの」

「「「女のマスターってのは、本当に誰もまともなのが居ないな」」」

「どういう意味よ!!」

「私は違いますよ!」

「それって私も含まれて居るのでしょうか? むしろ筆頭だと? ふふふ、これはこれは駄犬共がよくもそんなことを言えますね」

 

 外野が騒がしい。

 理由は分かっていますが、もう少しだけこの夢心地に浸らせてください。

 

「……どっかで聞いたことのある声と物言いだと思ったら、カレンじゃん」

「「はい?」」

「あれ、カレンもこっちに来た訳じゃないのか?」

 

 ユウの言葉に、私とカレンの声が重なる。

 なにやら話がややこしい事になりそうな気がします。ついでに言えば、とっても嫌な予感も…

 

「えーと、知り合いか?」

「前の時代の……一応の妻でしょうか? 妻とすると誓いあった訳じゃないですけど、流れ的にそんな感じで一緒に暮らしてました」

「……ほう」

 

 目が遭いました。バッチリと笑みを浮かべたカレンと目が遭いました。

 あれは間違いなく、獲物を見つけた獣の笑みです。よくシロウが狙われているときの眼です。

 

「幼馴染なんですけど、腕も立つし頭も良くて、よく村の男達を罵倒して叩きのめしていたんですよ。唯一、俺だけが負けない相手で」

「ああ、まさにこいつだな」

「ですね。想像が容易いです」

「まさに男が上位に立つ時代の異端でした。戦争後、村の生き残りを探していたら、カレンの噂を聞いて。ほら、他に居ないでしょう?」

 

 うんうんと頷くシロウ達。

 確かに同感ですけど……ああ、カレンがいつの間にか居なくなってます! くっ、どこへ!?

 

「生き残った村人や他の同じような村の生き残りで新しく村を作っていて、そこで残りの人生を生きていた訳です」

「へぇそうでしたか。そういえば、貴方とはなにか魂が引っ張られるものを感じられますね」

 

 あー! カレンいつの間にユウの背中に! は、離れてください!!

 確かにあの後のユウがどうなったのか知りたかったですが……聞かなかった方が良い気もします。

 

「もしかしたら、ここで会ったのも偶然じゃないのかも知れませんね。神の思し召しかしら」

「あれ、ここのカレンも神教者?」

「ええ。私はシスター。ねぇ、私と貴方はどこまで行ってたのかしら?」

「どこまでと言われても?」

「キスぐらいはしてた? それとも体も預けていたのでしょうか?」

 

 あああ。そんなにユウに引っ付いて!

 ユウもユウです! なぜ引き剥がさない! あなたは私のものじゃないんですか!

 って! 今ニヤって、ニヤって! 明らかにユウに見えないように笑った!

 

「カレン! いい加減ユウから離れてください!」

「あら、時を越えての再開よ? 別に良いではありませんか」

「偶然かも知れないではないですか!」

「偶然もここまで重なれば必然では? ねぇ、アーサー王」

 

 うぅ、確かに私とユウが出会ったように必然かも知れませんが!

 

「だ、だったら私も同じです!」

「ふぐっ。あ、アルトリア?」

 

 負けじと私も抱きつく。

 後ろから抱き着いているカレンと違って、真正面から抱きついているのですが……ふと、振り向いたユウと視線が合う。

 …………近い。近いです。近すぎです。まともに顔が見れません。

 

「あなたと違って、ユウは私に誓ってくれました! ずっと側に居るって誓ってくれました!」

「……でも、キスもしたこと無いですよね。体だって……ねぇ」

 

 ぐっ。そりゃ、あの時は……女であることを隠していましたし、そんなことをしている余裕もありませんでしたし。

 って、近いちかい! なんですかその距離は! わざとらしくユウの頬を撫でてまで!

 

「あら、どうしました?」

 

 距離にしてわずかに3cm以内。吐息など、すでに当たっている距離だ。

 後ろだったのに、いつの間にか反対側の膝の上に座っていますし……むぅ!

 

「い、今からすれば良いんです! そうです、時間ならこれからたっぷりあるんですから!」

「……良いでしょう。こちらも、負けるつもりはありませんから」

 

 その宣戦布告、確かに受け取りました。

 このアルトリア・ペンドラゴン、勝負で負けるつもりはありません!

 手加減も油断もなく、全力で行かせていただきます!

 

 

 

Ж Ж Ж Ж

 

 

 

「さて、カレンはどこまで本気なのやら」

「さぁ? 私としては、セイバーの可愛らしい姿が見れるから良いけど。桜、お茶頂戴」

「俺としては、あの中で平然としているあの坊主が信じられないぜ。あ、俺もくれ」

「まぁ、あのマスターに付き合っていた人物ですからね。僕もいただきます」

「私としては、被害が無ければ良いですけど。あ、はい。お湯沸かしてきますね」

「手伝うよ桜。とりあえず、相変わらず賑やかな日々だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

rk「奇跡の発掘。まさか、消えた筈の書きかけのこれが見つかるとは…」

祐一「あれからどれだけ経ったっけ?」

rk「正直、覚えてない。今回だって、偶然ゲームのセーブデータ置き場を探していたら見つかっただけだし」

祐一「いまいち、掃除の仕方とか知らんからな。下手にして、消えちゃいけないのも消えるとやだって理由で」

rk「まぁ、見つかったから良いじゃん」

祐一「で、内容としては……俺の前世が復活か」

rk「凛のうっかりは時間をも超越する! うん、ネタとして使いやすい。以下簡易設定」

祐一。セイバーの呼び方として、現代が祐。過去がユウ。

話の中では一応、士郎と同い年だが居候ってことで丁寧に話す、凛とセイバーは別。。

過去との融合?後は、カレンも別となるが、逆にセイバー王であるから丁寧に。

カレン。過去ではユウの同じ村の幼馴染。性格はそのまま。

戦争後、再開したユウと共に村を作る。その後、村の同じ家で暮らすが婚約はせずユウと共に余生を過ごす。

祐一「セイバー対カレンとは。なぜにカレンはこのポジション」

rk「Fateキャラの好きなランキングがね、一位セイバーで二位がカレンなんだよ」

祐一「だから高待遇か」

rk「カレンってSもMもいけるっしょ。いやー、攻略しがいがあるじゃないか!」(どS

祐一「お前、三位は凛だろ。S的な意味で」

rk「うん。Sなのを屈服させるのが良いじゃないか。自分色に染めるって感じで」

祐一「つまり、それがrk自身のキャラ設定って訳か」

rk「まぁね。基本自分が作った自身を反映させるのって、そっちキャラが多いみたいだし」

祐一「で、ヤンデレでも在ると」

rk「らしい。Sもヤンデレも、言われて気がついたからな」

祐一「(誰だ、言った奴。某所の管理人とかに謝れ!)」

rk「さて、本当に長い間待っていた方がいるならゴメンなさい! 長らくお待たせしました」

祐一「楽しんで頂けたなら、rkは跳んで喜びます」

rk「それでは、またどこかで」

 

rk・祐一「「それでは、また〜」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

rk「このやりとりも、久しぶりだな」

祐一「書いてないからだ、馬鹿」