空が暗い青に覆われた月夜の日。
ある大きな建物の、かなり広い部屋でプレシアが足元から魔法陣を出している。
その周りには数多くの機器と用途の解らない物体。
そして彼女の目の前にはカプセルの中で目を閉じている少女。
これから、あの中で眠っているようにしているアリシアという少女を蘇生させる。
この計画には俺の”干渉”する能力が鍵を握っていると言う。
俺の持ってきた道具に記録されている人体蘇生の術式・自動修復機能や実体具現化。
プレシアが調べて判明したこの書物の力に俺が”干渉”して必要な情報のみをアリシアに送り蘇生させる。
果たしてそう上手くいくのか。
不安は尽きないがプレシアの体ももう限界に近い。
今日を逃したらもうチャンスは来ない。
そして、準備が整った。
魔道法戦 R・MIX
第3話「祈願成就後の試練」
「祐一、準備は良いかしら?」
「ああ、大丈夫だ」
プレシアが振り返り確認してくる。
その顔は以前よりやつれていて顔色も悪い。
もういつ倒れてもおかしくない状況だ。
それでも彼女は娘を生き返らせるその一念で立っている。
だから、俺もその思いに答えたい。
「祐一、今までありがとう」
「まだなにもやってない内から何を言ってるんだよ」
「今まで私を支えてくれて」
「…俺はなにもしちゃいない…むしろこっちが助けてもらったさ」
「いいえ、私がここまで出来たのは貴方がいてくれたから…祐一が関係のない私達の為に必死に力の使い方を知ろうと努力してくれたから…それが今まで私を支えてくれた」
淡々と話す彼女の顔は穏やかだった。
そのまま彼女は魔法の行使を始める為に位置に付く。
嫌な予感を振り払うように俺は息を吐いて気持ちを落ち着ける。
「じゃぁ、始めましょうか」
「…ああ」
アリシアの眠るカプセルを一番奥にその目の前の台座に書物をその前にいる俺の直ぐ後ろにプレシアが立つ。
彼女が意識を集中させると、足元からこの広い部屋いっぱいに魔法陣が展開されていく。
それに伴って俺も手を前に伸ばし、意識を集中させて書物とアリシアに”干渉”する。
まずは書物のプログラムに”干渉”してプレシアから教わった人体蘇生に必要な情報を取り出して使用できるようにする。
この時点でかなり辛い。何か詰まり物を引っ張り出す時の様に息が詰まる。腕も攣りそうになる。
その内確かな手ごたえを感じ取ると、俺の頭に幾つもの方式のような情報が入り込んできた。
多分コレでプログラムの干渉は終わらせて大丈夫だろう。
(なんだ?)
「どうかしたの?」
「い、いや…なんでもない」
一瞬妙な感じがして気になったが、気を取り直して作業を進める。
次にアリシアと周りの機器に”干渉”、プログラムの負荷で破壊されないよう注意する。
少しずつ…確実にプレシアの魔力と書物からのプログラムを送りつけていく。
周りの機械が光り出し、アリシアのいるカプセルも強い光を放ち始めた。
「ぐ…ぐぅぅ……!!!」
「もう…少し、がんばって!」
激しい疲労に気が遠くなる俺を後ろからプレシアが励ます。
自分の方が身体は辛い筈なのに…ここで俺が倒れる訳にはいかない!
「ぁ…ぁああああああああ!!!」
――ドックン――
ウ・ゥゥゥゥゥゥンン……
機械から光が収まり、同時に動きを止めるような妙な音が部屋に響いていった。
「ハァ! ハァッハァ!!」
「…祐一」
「ど…どうなっ……たぁ!?」
ドサァッ!!
「な、なんだぁ!? っておおぅわぉ!!?」
突然俺の胸に強い衝撃が響く。
驚いて見ると、裸の女の子が俺の腕で抱かれていた。
思わず抱きとめていたようだが、絵的に美味しい…じゃない! 絵的に俺が犯罪者だ!!
しかも、この子はカプセルの中に入っていたアリシアって子じゃないか?
「え、ええと、、そうだ! プレシア、実験はどうなったんだ!?」
例え身体が戻っても本当に成功したかは分からない。出来れば実験が成功している事を願いたい。
慌てながら周りを見渡すと、プレシアが何も言わずに立ち尽くしていた。
無言っていうのが怖い。
「あり…シア?」
「ん…」
プレシアの言葉に反応するように女の子が身動ぎする。
次第にゆっくりとその瞳が開かれていく。
「おかぁ…さん?」
「…アリシア!」
「アリシアって…それじゃあ?」
俺が答えを聞く前に二人は同時に動いてお互い抱きしめ合った。
「アリシア! アリシア!! 私のかわいいアリシア!」
「おかあさん!」
俺は涙を流しながら強く抱きしめ合う二人から距離を取って見守る。
「…良かった」
「祐一…本当に……ありがとう」
涙で濡れた顔を向けて話す彼女に俺は笑顔で答える。
アリシアもプレシアにつられて俺の方に振り向く。
「ゆういち…さん?」
「おう、ゆーいちお兄ちゃんと呼んでくれ」
「アリシア、祐一は私やアリシアを助けてくれたとても優しい人なのよ」
「おかあさんを助けてくれたの?」
「いや、逆に俺がずっと助けられたよ」
「アリシア、これからはずっと一緒よ」
「おかあさんと?」
「ううん。お母さんだけじゃなくて、アリシアの妹のフェイトや祐一も一緒よ」
「俺も?」
「そうよ、貴方ももう…私の大事な家族なんだから」
「プレシア」
ビシィ!!
「え?」
「なんだ?」
突然響いた音に俺とアリシアは首を傾げて周りを見渡す。
その瞬間、プレシアがハッとした表情をしてある一転を凝視した。
「?! 二人とも逃げなさい!!」
ドン!!
―ドバチィイイイイイイイイイイイイン!!
プレシアが動いた一瞬後に、機械に収められていた書物がガラスが割れる様に砕け散る。
その破片に混ざって幾つかの色違いの光の線が光速で飛び散った。
そして、光の線の一つがプレシアの身体を貫いた。
「うっ!」
「ぁ!?」
彼女が倒れていく様子が妙にゆっくり感じられた。
けれど、俺の手は彼女を支える事が出来なかった。
まるで糸の切れた人形の様に、彼女は仰向けに倒れた。
「ぇ…なに……が?」
「プレシアァア!!」
状況が飲み込めていないアリシアは呆然と呟く。
俺もなにが起こったかは分からない。
すぐに動けたのは彼女より人の死に直面したからだろうか?
けどそんな事はどうでも良い。
「プレシアしっかりしろ!」
「ゆう…いち」
「待ってろ、すぐに治療できる場所に連れて行く!!」
そう言って抱き起こそうとする俺の手を握り、彼女は首を振って抑えた。
「無駄よ…私の体は……とっくに限界を超えているのだから…も…ぅ…助からない」
「諦めるな!! やっと…やっと自分の子と再会出来たんじゃないか!
あの子を一人にする気か!?」
「おかあさん…」
俺の言葉にプレシアは首を動かしてアリシアを見る。
不安と悲しみが入り混じった表情でいるアリシアを安心させるように彼女は優しく微笑み、また視線を俺に戻す。
「大丈夫よ、貴方がいるから…私は安心していける」
「もう一人の…フェイトって子に謝りには行かないのか!?」
「…そう…ね……最後に…それだけ…が……心残…り…ね」
段々と力が無くなっていく。
大切な人がいなくなる。
何度も巡り合ってきたこの感覚。
何も出来無い無力感。
それが堪らなくて…俺は泣いた。
「俺だって…あんたにまだ……なにもしちゃいない!!」
「そんな事…ない……貴方の御陰で…娘にまた会えた」
そう言ってアリシアの顔に触れるプレシア。
アリシアもその手をしっかりと握る。
「ゴメンなさい…アリシア」
「大丈夫だよ…おかあさん………ごめんね……わたしの所為でこんなに苦しんで」
「ううん…大丈ッ!? ゴフッ…グフ…ッ…!!」
「プレシア!!」
「……もう…時間が無いのね……祐一」
「なんだ?」
「最後に…私の頼みを……アリシアの…とを……まも…フェイトに……伝えて…私の…言葉…」
「…わかった。約束する」
「いい…の? 羽根は……一枚しか…使ったら…あ…なた」
「…構わない。今までのお礼だと思ってくれ」
全然足りないけどな。
そう言って返すと、プレシアは泣き笑いの表情で「「ありがとう」」と呟く。
いや、彼女だけでなくアリシアも同じタイミングで俺にお礼の言葉を掛けていた。
「アリ…シア…プレゼントがあるの……再会のお祝い………私からの」
そう言って彼女が取り出したのは銀色の三角形の装飾品。
プレシアはそれをアリシアに手渡す。
「これ…デバイス?」
「それが……あな…た……を…護ってくれる……わ」
「でも、わたし…魔法は使えないよ」
「大丈夫………それには―――」
―キィン―
「なんだ?」
「ぅう!!」
「おかあさん!?」
バシュン!!
「なっ!?」
「きゃぁ!?」
突然プレシアから一枚の札の様なものが飛び出し、回転しながら空中に留まる。
「あれは…?」
アリシアはプレシアに寄り添い、俺は警戒しながら札に視線を送る。
次の瞬間、札から徐々に銅色の光を放ち始め、続いて地面が少しずつ揺れていく。
地鳴りが続き、徐々に建物が裂け崩れて砂煙を撒き散らしていった。
それらが全て一点に集まるように、瓦礫や床が山形に持ち上がっていく部分がある。
それは、中空に浮んでいる札に向かってだった。
それ等は、やがて札を覆い隠し形を変えていく。
それは正に岩石の怪物。ゴーレムという存在へと形を変えた。
象さえも踏み潰せそうな巨体を前に、身体が勝手に震えてしまう。
『フウイン…戻す!!』
「な、喋れるのか?」
ゴーレムから何か声の様なものが聞こえた事に少し驚く。
喋った時に眼と思える場所が点滅するのはこういうやつ等の特徴なのか?
ウィイイイイイイン・・・
と、思っていると不意に妙な音が聞こえた。
例えるなら、巨大ロボットが腕を振り上げるような・・・?
『ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「ちょ…待て、冗談だろ!?」
巨体を大きく唸らせて、突然現れたゴーレムは俺たちに向かってその豪腕を振り下ろした。
直後、俺達のいた場所から爆発でも起こったかのような音が鳴り響いた。