相沢祐一17歳。
初めての経験でした。
母さん…俺…汚されちまったよ。
寝台から降ろされた俺は、イスに座りながらぼんやりと隣でぶっ倒れている女性を見た。
床に夥しい程に広がる赤い液体…これは血だ。
興奮しすぎたプレシアが「ゲブフォ!!」と口から大量の血を吐いてぶっ倒れたのだ。
身体に飛びついた血を拭いながら、取り合えず応急処置が出来無いかと辺りを見渡す。
けど、いくら探しても目ぼしい物は見つからない。
仕方ないからトマトジュースを飲ませる事にした。
魔道法戦 R・MIX
第二話「魔道入門」
十分後・・・
「ふーん、そう言うこと」
「…なにか、分かったのか?」
かなり変な方向に話しが進んでいたが、気を取り直してプレシアに問いかける。
これで何も分からなかったなんて言ったら俺…泣くぞ?マジで。
なんと言ってもトマトジュースで一命を取り留めた後、再び検査が始まって地獄を見たからな。
やんなきゃ良かったか?
「そうね。貴方と貴方が持ってきた道具について面白い事が分かったわ」
「ちゃんと調べてはいたんだな」
「茶化さないの。まずここにこれた理由はこの羽根の力のようね」
「それか…そう言えばいつの間にか一枚無くなってるな」
「多分これは一度使ったら消滅するのよ。それと使用すると時空を跳躍する時に必要な分だけ使用者の何かを奪うようね」
「何かってなんだ?」
「貴方、最初個の世界に来たとき、身体に違和感とかなかった?」
「いや、別に…?」
言いながら身体を見渡してみると、心なしか少しだけ縮んでいるように思える。
なぜ分かるかって?それは簡単。
ピッタリだった服が少しブカブカになっていたからだ。
「使った分若返るのか?」
「さあ、それは分からないわ。ただ言えるのは、こっちの本と同じ様に…素人が使えば命を取られるという事だけ」
「どういう事だ?」
「この本には数々の魔術や術式が施されていて…かなり高い魔力を持った者でないと魔力を吸われて消滅させられるでしょうね」
「そんなに危険なものなのか?」
「発動さえしなければそれ程危険は無いわ…で、貴方の方はちょっと面白いものを持ってるわね」
「ぅぅ…汚された」
「貴方のその手の甲にある紋章…それが特殊な力を持っているみたい」
「…無視ですか」
そこから先は専門用語みたいな言葉が出てきたりして混乱したが、根性で纏めてみた。
プレシアが言うには俺の手の甲に(いつの間にか)浮んでいる紋章が”干渉”するという能力を持っている事。
漠然としていて分かり辛いが、俺の意思によって物質や空間に”干渉”して物を破壊したり作り変えたり出来るらしい。
その能力と持ってきた書物を使えば、研究中の生命蘇生の秘術を成功させる事ができるかもしれないと言う事だ。
「お、俺に…そんな大層な力があったのか?」
「多分違うわね」
信じられない事態に困惑していた俺の言葉をプレシアはアッサリ否定した。
ちょっとヘコむんですけど…
「その力…何ていうか、貴方に全然馴染んでないのよ」
「それは使ってなかったからじゃないのか?」
「使っていなくても、自分の体内にあるなら多少は体と合う筈よ…でも貴方の場合、後から無理やり継ぎ足したみたい」
継ぎ足し…という言葉で、俺がこの世界に来る直前に出会った黒いフードの男を思い出す。
そう言えばアイツの手で光ってた紋章がこんな形だった気がする。
ふと気が付くとプレシアが真剣な面持ちでこっちを見ていた。
「ねえ、貴方に頼みたい事があるの」
「分かってる。今の話しに出てきたアリシアって娘を生き返らせるんだろ?」
「そんなに簡単に答えて後悔しないのかしら?」
「後悔なんてとっくにし終わってるよ…それに、俺の力で誰かを救えるなら喜んでも後悔なんてしない」
そう答えると、驚いたような表情をしていたプレシアはフッと微笑んだ。
「そう、ありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いって、俺はまだこの力の使い方すら知らないんだからな」
「魔法の使い方なんて簡単なものよ…手取り足取り骨の髄までミッチリ叩き込んであげるわ」
そう言ったプレシアの眼は怪しく輝いていた。
これは生き生きしてるのか、地獄の底から蘇えろうとしているのか微妙な姿だ。
どっちかと言うと後者の方があってる気がする。
「お、お手柔らかにお願いします」
「大丈夫よ。そう簡単には壊れない身体に改造しておいたから」
「人の体を勝手に改造するなぁああーーーー!!!」
「冗談よゴボファ!!」
俺の絶叫にプレシアが吐血で答える。
本当に大丈夫なのか?
☆ ☆ ☆
言い知れぬ不安を感じながら、俺とプレシアの師弟生活が始まった。
最初の内は俺の身体や”干渉”する力の出し方を調べたり、病床のプレシアの看病をするだけだった。
時間が過ぎて俺が力の使い方を知り始めると、プレシアは実際にその力を使う特訓を始めようと提案してきた。
そして、研究場から少し離れた川原に辿り着く。
そこにはあちこちに大小様々な岩があり、プレシアはその内の一つに歩み寄り俺を呼んだ。
「じゃあ始めるわよ。まずは力を使ってこの岩を破壊するの」
「明らかにでかくないか?」
プレシアがポンポンと叩く岩は、二階建ての家くらいの高さがある巨石だ。
普通に考えても人の力だけでどうにかなるものとは思えない。
「心配しなくて良いわ。私がいくらか手伝うから、貴方は強く岩が壊れていく様子をイメージして」
「…分かった。こう見えても俺は幼稚園の頃、先生からクラッシャー祐一と呼ばれた男だ。これくらい一発でクリアしてやる」
「ふふ…本当に可笑しな子ね」
その時微笑んだプレシアの顔は、まるで自分の子供の話しを聞く母親のようだった。
なんだか良く分からないけど家族の事が頭に浮かんだ。
何も言わずに来ちまったからな…みんな心配してるかな。
「どうしかしたの?」
「いや、何でもない。早く始めよう」
そう言って岩肌に掌を当てると、プレシアも俺の背中に手を当てる。
「準備は良い?」
「ああ、いつでも良い」
短く答えて岩肌に意識を集中させていると、段々身体の奥から何かが湧き上がるような感覚が沸き起こる。
鼓動が早くなる…身体が熱い…嫌に汗が流れ出る気がする…目眩がする…これが魔法を使うと言うものなのか?
「落ち着いて、無理に制御しようとしないで…身体全体に行き渡るような流れをイメージして」
プレシアの助言を背に意識を集中・言われた通りのイメージを作ろうと目を閉じる。
客観的な自分達の立ち位置を思い描き、プレシアから俺に向かって光が水の様に流れていく様子をイメージ。
その流れを少しずつ掌に掻き集めていくと段々と掌が暑くなり、何故か触れている岩の部分にある亀裂が頭に浮かぶ。
そして、心臓の鼓動が一際高く鳴り響いた気がした瞬間、その切れ目を押し広げるように俺の中に止まっていた流れを押し込む。
「………ハッ!!」
カッと目を見開き、気合を入れて手を岩に押し込む。
自分の中ではドンッという音と衝撃が響いた気がする。
目の前の岩を見る。
変化は…
ない。
「失敗…か」
「いいえ、大丈夫」
「え?」
ビキィ!!!
ビキッ バキッベキ…ビキビキビキ…………!!!!
振り返ると手を当てていた部分から、徐々に小さな音と共に大きな亀裂が入っていく。
次第にヒビは大きくなって岩全体に広まっていった。
「お、お・お…お…ぉぉぉ……?」
ガゴォォォオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
そして、次の瞬間。
轟音と共に岩は自重に耐え切れなくなって一気に崩れ落ちてきた。
そう、俺の直ぐ目の前で。
ん?
目の前…ってちょっと待て! このままだと俺達生き埋めになるんじゃないか!?
そう思いながらプレシアに振り返ると、彼女はは何時の間にか遠くの安全な所まで離脱していた…アンタ鬼か?
「うぉおおおおオオオオオオ!!」
俺は全速力で駆け出し、何とか無事に崩れ去る岩から逃れる事ができた。
「やれば出来るじゃない」
目の前でプレシアが微笑みながら語りかけてくる。
天使の様な悪魔の笑顔ってこんな感じなのか?
そう思った直後、俺は過度の疲労によって気を失った。
☆ ☆ ☆
その後の検査や修行で分かった事だが、どうやらこの力は俺の精神力によって出来る事に制限があるみたいだ。
何回かその力でプレシアの病気を治そうと試してみたが、病が俺の精神力を上回り失敗に終わった。
自分の非力に悔やむ俺にプレシアは優しく微笑み、気にしないよう話してくれる。
それでも、悔しかった。
力を手に入れても…また、ただ見ている事しか出来無い自分が堪らなく不甲斐なかった。
その後もプレシアは俺の持ってきた書物を調べ上げ、合間に俺に魔術についての知識を色々教えてくれた。
俺はアリシアを甦らせるのに必要な精神力を身につける為に修行(と言っても初日のやり方を少しずつアレンジしてるだけだが)を行う。
他に何も出来ない事が申し訳なく思うが、とにかく今はこの力を扱えるようにならないと…本番では失敗なんて許されないんだ。
プレシア、彼女にはもう時間が残されていない。
もし実行するなら多分、最初で最後の賭けになる。だから…絶対失敗できない。
例え俺に何があっても成功させてみせる。
そう、絶対に…
そして、月日が過ぎた。
プレシアが調べた、この世界で大気に存在する魔力素が最高に充実する日。
満月…と言うには妙に青い光を放つ月?が空に上る時。
その日、アリシアの蘇生を行う事が決まった。
そして…運命の日がやってきた。