あっちもそっちもそっちもこっちもうきうきうぉっちんな日曜日。

世の中には休日出勤と肩を落としながらも会社へ向かう人もいるが、学生である俺にはそのような憂鬱なものは文化祭や体育祭くらいしかなく、それらが憂鬱なイベントかと言われれば、十人中一人二人はいそうだが、概ねの一般人は首を横に振るであろう。

とどのつまり、学生には休日出勤もとい休日登校なるものは滅多になく、今日はその日に当たらないということだ。

であるので俺は月曜日に提出期限が迫っている現代文の宿題を頭の隅に止めをしながらも体を起こすことをせず、存分に惰眠を貪っている。

 

「祐一さん、起きて下さい」

 

秋子さんとも、真琴とも違う少女の声。

柔らかで、どこか他人行儀な感じを受ける声だ。

ちなみに名雪は前提条件として夢の中であるから論外。

もし何もない休日に名雪が俺より早く起きていたら、寝ている真琴に秋子さんの甘くないジャムを食わせてやってもいい。

インディアン嘘つかない。だから俺も嘘つかない。命かけてもいい。

それに合わさって一定のリズムでゆっくりと体を揺らされる。

二つは見事に組み合わさり、幼少の頃眠るときに母親が歌ってくれた子守唄を彷彿とさせてくれる。

半覚醒の状態の俺にはちょうどいい睡眠薬のようなもので、段々と意識が遠く――

 

「お、起きてください祐一さん! いい天気ですから起きてください」

 

自らの行為が逆効果だということに気付いたのか、揺りかごのようだったそれが、バーテンさんのシェイカーのような激しい揺れへと変わる。

 

「起きてください! 起きてください! 起きて――きゃっ?!」

「んぁ?」

 

俺の意識がまどろみから復活するのと、悲鳴は同時だった。

大きく揺らしすぎたためか、バランスを崩す声の主。

その体は吸い込まれるように布団の方へと倒れこみ、危険を察知して逃げようと布団を跳ね上げるが、どう考えても間に合わず。

 

「?!」

 

見事、俺の腹部に直撃した。

まぁ、それはどうでもいい。いや、本当はどうでもよくないがこの際どうでもいい。

問題は反射的に手をつこうとしたのか、まっすぐ伸ばされた腕がピンポイントで俺の金的部分を捉えてあったために起こった、この多少残った眠気をぶっ飛ばす程の激痛だ。

 

「※☆#×?!」

 

あまりに痛すぎて声にならない。女の人にはわからないと思うが、男ならわかるだろう? あの激痛だ。

 

「あ、ああっ! 申し訳ありません。だ、大丈夫ですか?

 も、もし腫れてたりしたら……ちょっと見せてください!」

「い、いや大丈夫! 大丈夫だ」

 

非常に慌てた様子でパジャマのズボンを脱がそうとする彼女と、まだ痛みの残る下半身を鼓舞して抵抗する俺。

男のプライドにかけてこの一線は守らなければならない。まさに俺の最終防衛ライン。

 

「祐一、早く起きなさ、い、よぅ……?」

 

そんな一枚のズボン(男のプライド)をかけた戦いは唐突に現れた真琴によって終了する。

ベッドの上。俺に倒れこんでいるように見える少女。半分脱がされ気味なズボン。

抵抗するために少女の頭を掴んでいる俺の両腕。

これだけの物証があって、今ここで何が起きていたか、もしくは起きようとしていたかを察せない奴は名雪か名雪くらいなものだ。

ん? 今、名雪って二回言ったかな……いいか、本当のことだしな。

まぁ、はっきり言って完全な誤解であるが、そうは問屋は卸してくれないだろう、それが真琴だ。

 

「は、話し合おう真琴。もしもこれを見ていたのが名雪なら恥ずかしがるし、秋子さんならあらあらと言いながらも黙認してくれるだろう? 真琴はお淑やかな女の子だからもちろん俺の言いたいことがわかるよな? わかるだろ? わかってくれ! つまりだから、真琴もどちらか一方と同じような対処をとってくれると助か――」

 

 

返答はこの場にプロがいたら絶賛してスカウトに来ること間違いなしの、鮮やかなドロップキックだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫の奉仕活動 〜真琴は一流の姑さん(はーと)〜

by.JGJ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、申し訳ございません。私のせいで」

「あー、気にしなくていいって、いつつ……」

 

真琴のドロップキックで文字通り叩き起こされた俺は居間で手当てを受けていた。

秋子さんは用事で夕方まで帰ってこないと昨日言っていたし、真琴はそのまま怒ってどっかへ行ってしまったらしい。名雪は確実にまだ寝てるだろう。

というわけで、救急箱から湿布を取り出しながら謝っているのは、先程のハプニングの元凶の少女――頼子である。ちなみに苗字はまだない。

ひょんなことから俺に懐いてしまった『猫』だったはずの彼女だったが、秋子さんのアレによって人間へと姿を変え、俺に恩返しがしたいとそのまま住み込みで水瀬家のメイドさんになったという現代版鶴の恩返しを地で行くような人(猫)である。

アレについては黙秘権を行使する。例え秋子さんが留守中でも、アレを口に出すと飛んできそうだ。

自分でも何が言いたいのか支離滅裂な上、非現実的すぎてちとわかりづらいかもしれないが、これは紛れもない事実だ。

それは彼女の頭についている二対の『本物』の猫耳がそれを証明している。

恐るべし、秋子さんマジック。

本当に某プロ野球の監督さんも、大手ファーストフードの赤髪白塗りのおっさんもびっくりだ。

 

「今日は秋子さんが留守をしている分、私が家事をするんです」

 

秋子さんから支給されたらしい紺色のメイド服に、腰を黄色いリボンで結んだ姿で頼子は嬉しそうに言う。

……不安だ。この上なく不安だ。

何度も言うが、頼子は元にゃんこなわけであって、人間が使うような電化機器を扱うことが果たしてできるのだろうか?

 

「頑張ります!」

「……ほどほどにな」

 

だが、猫耳をぴこぴこと揺らしていかにもやる気満々なご様子の頼子を目の前に、そんなこと言えるわけなく。

秋子さんが使い方を教えてくれていることを願って、暫く様子を見てみるとしよう。

 

「じゃあ、朝食にするか。痛みもひいてきたことだし」

「あ、はい。用意しますね」

 

ご機嫌な様子をそのままに頼子はキッチンへ向かう。

まさかこれから料理を作るのだろうかと考えていると、ラップに包まったお皿を数枚運んできた。

 

「秋子さんが作って置いてくださいましたので、冷めてますがとっても美味しいと思います」

「なんだ、これから作るんじゃなかったか」

「本当は私が作って差し上げたかったのですけど、折角作っておいていただいたものですし」

 

なるほど、ほっとしたというか。頼子の手料理を食べられなくて残念というか。

俺は早速料理に箸を付けることにした。

 

「……ん? この料理」

「どうかしましたか? 祐一さん」

「いや、この料理温めなかったのかなって」

 

料理は冷めたままで、口に入れると少しひんやりとした感触があった。

どうやら、冷蔵庫に入ったままの状態の料理をそのまま出したみたいだ。

 

「そ、それは、その……」

「電子レンジは使わなかったのか?」

 

昔ならともかく、家電社会の今では電子レンジを使えば小学生でも温められる。

いくら頼子が元猫だとしても、秋子さんに教えてもらっていれば操作は簡単だろうし、気付かないわけがないと思うのだが。

 

「あ、あれはダメですっ!」

「だ、ダメって」

 

俺が電子レンジの話をすると、急に落ち着きをなくし顔を険しくして叫ぶ頼子さん。

まるでというかどうみても電子レンジを嫌悪しているようなのだが、何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

 

「私の友達が昔言っていたんです。『昔、とある国で電子レンジの中に入れられて殺されてしまった猫がいるって』」

 

それはおばあさんが猫を乾かそうとして電子レンジに入れたら猫が死んでしまったとかいうお米の国の都市伝説だろう。

 

「そ、そうだったんですか?」

 

俺がそう解説すると頼子は落ち着きを取り戻したようで、驚いた様子でそう答える。

 

「あぁ、たしか猫はなかったはずだぞ?」

「そうだったんですかぁ、私てっきり――」

「人なら一回あったって聞いたことがあるけどな」

「へぇー、そうなんですかぁ。人間だと一回あったんで、す、か……?」

 

あ、頼子の顔が見る見るうちに青ざめていく。

 

「ゆ、祐一さん。に、人間ならあるって?!」

「言葉通りだ。人には悪いことをした子を反省代わりに電子レンジに閉じ込めてしまうという風習があってな。その時に誤って――」

「そ、そういえば、昨日もお皿を三枚割ってしまいましたし、その前も配膳中に転んじゃいましたし、その前の前も――

わ、私、悪いことしたら、レンジ、入れられちゃうですか?!」

 

恐怖のあまりに涙目のカタコト言葉で俺の肩を揺すっている頼子。

心なしか揺すっている腕もかくかくと震えている。

ふむ、少し冗談が過ぎたか。

 

「冗談だ」

「ふぇ……冗談、ですか?」

「あぁ、少し意地悪しすぎたな、すまん」

 

明らかに安堵したような溜息をつき、俺を責めるような目で見る頼子。

この表情がちょっと可愛くて見てみたかったからからかってしまったのは秘密だ。

 

「さて、ごちそうさま。俺は宿題してくるから、何かあったら呼んでくれよ?」

「うー……わかりました」

 

食器をシンクに運び、俺は二階に上がることにする。

はてさて、本当に頼子は無事に家事をすることができるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐一、大変だよっ!!」

 

宿題もなんとか終わり、体を解しながら残りの限られた休息の時間をどう使おうかと考えていると、名雪が慌てた様子で部屋に入ってきた。

 

「どうしたんだ、名雪」

「どうしたもこうしたもないよ、一階が凄いことになっちゃってるんだよ!」

 

名雪に連れられて一階に降りる。

一階は床が水浸しになっており、独特な洗濯用の石鹸の匂いが充満していた。

 

「なんじゃこら?!」

「ゆ、祐一さぁん……」

 

洗濯機がある方から頼子がやってきた。メイド服はびしょびしょになっており、髪や猫耳にも降りかかったのか、泡がついている。

どうやら石鹸と水を入れる量を大幅に間違えたようだ。

 

「頼子さん、とりあえず、タオル持ってくるね」

「申し訳ございません名雪さん、申し訳ございません祐一さん」

 

ひたすら謝りっぱなしの頼子。

猫耳も濡れているせいだけでなく、反省しているという意味でもうな垂れている。

 

「もう何やってるのよぅ! 頼子」

「ま、真琴さん……」

 

どうやらこの騒ぎは真琴も呼び起こしたみたいだ。

真琴は階段を下りてくると一段目のところで止まって、びしょ濡れの床をしきりに眺めている。

 

「まったく、だめのだめだめじゃない!

 こんなんでよくメイドなんて威張れるわねっ!」

「真琴、言いすぎだぞ?」

「ふん、この本当のことを本当って言って何が悪いのよぅ。

 メイドていうのは家のお手伝いをする人で、お邪魔する人じゃないでしょ?」

 

そりゃ確かに真琴が言ってることは珍しくも正論だが、しきりに反省してる頼子にそこまで追い討ちをかけるほど俺は鬼畜じゃない。

 

「そうだとしてもだ。頼子は反省してるんだから、そこまできつく言う必要もないだろう?」

「……ふん! わかったわよ」

 

不機嫌な様子を隠さずに踵を返して階段を上って行く真琴。

 

「うぅ……ほんとうにすみません」

「それはこっちの台詞のような気もするが……真琴があんな態度とってしまったし。

とりあえず秋子さんが来るまでにどうにかしよう。名雪にも手伝ってもらって」

「反省していますから、電子レンジにだけは入れないでください」

「それはもういいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、なんとか拭き終えた」

「うん、もうくたくただよ」

「お二人とも本当にありがとうございました」

 

我が家の雑巾をフル活用して数十分ちょい。なんとか水の拭き取りを終える俺達。

結局、水は他の部屋の床にも浸食していて、全体的に雑巾がけをするはめになってしまったため、とてつもなく疲れた。

絨毯が水を吸い込んでいなかったのがせめてもの救いだ。

 

「じゃあわたしは宿題をしてくるね。祐一は?」

「俺は宿題も終わったし、居間で頼子の作業の様子を見ることにするよ」

 

この子からは一時も目を離してはならない。

俺が頼子さんに家事をやらせるに至って悟った教訓だ。

これに気付かせてくれたという意味では、この洗濯機事件は無駄な作業ではなかったのかもしれない。

 

「うん、わかった。何かあったらいつでも呼んでね」

「あぁ、助かった。名雪」

「頼子さんはうちの家族だもん。当然だよ」

 

どうやら頼子さんは立派な水瀬家の一員として認められているみたいでよかった。

拾ってきた俺としては本当に喜ばしいことだ。

俺は少し水を吸っている雑巾とバケツを戻すために洗面所に向かう。

すると――

 

「うおっ?!」

 

きちんと俺と名雪と頼子で拭いた床が何故か波打っていた。

正確には床の上に液体が広がっている。

まぁ、つまるところ洗面所が水浸しになっていた。

 

「あっ……」

「真琴?!」

「ふ、ふん!」

「おい真琴!」

 

俺の横から洗面所を出る真琴。

追いかけて叱ろうと思ったが、まずは目の前のびしょびしょの床からどうにかしないといけないだろう。

木製の床はあまり水を吸うものじゃないだろうし。叱るのは後でもできる。

 

「はぁ、また拭くのか」

 

溜息をついて床を見る。それだけで拭く量が減ってくれれば本当に嬉しいのだが。

……おそらくというか確実に真琴がこれをやらかしたというのはわかるのだが、何故なのかはさっぱりわからん。

俺はもう使わないはずだった雑巾を床に置いて、作業を再び開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー、これで終わったか」

「あ、祐一さん。ちょうどよかったです」

 

洗面所を再び元に戻して居間に戻ると、頼子がぱたぱたと近づいてくる。

 

「掃除はちゃんとできたみたいだな」

「はい、掃除の仕方は秋子さんに教えていただきましたから」

 

どうやら掃除機に振り回されて家具損壊という危険はなかったみたいだ。

個人的には洗濯よりも危惧していたことだったから一安心か。

 

「偉いぞ。頼子」

「ありがとうございます、それで祐一さん。

お昼ごはんを作りましたので、名雪さんたちを呼んできてもらえますか?」

 

そういえばもうそんな時間か。

さっきまでずっと拭き掃除をしていたからかお腹がぺこぺこだ。

 

「わかった呼んでくる」

 

俺が名雪たちを呼んで食卓に行くと、そこには豪華なおかずとは程遠い茶碗が人数分置いてあった。

 

「祐一、これって――」

「言うな。さすがにそれは安易すぎるだろう」

「……?」

 

そうだまさか頼子さんが元猫だからって、さすがに作る料理がこれはないだろう。

 

「あの、鰹節とお味噌汁どちらがいいですか?」

「……祐一、これって――」

「言うな。たしかに認めるのは簡単だ。だけどそこは敢えて否定しようじゃないか」

 

名雪の言いたいことはわかるが、それを黙殺する。

昔の人は言っていた。

『自分が信じたものは最後まで、あきらめてはダメ』と、だから俺はこれはアレでないということを信じ続けたい。

いや、どこからどうみてもアレなんですが。

 

「あ、あの、お気に召しませんか? 私の一番好きな食べ物なんですけど」

 

俺達がなかなか席につかないせいか、少々不安げな顔で俺達の顔を見る頼子。

 

「祐一、これってやっぱり」

「認めたくないが、『ねこまんま』ってやつだろうな」

「ねこまんま?」

「猫が好きそうな食べ物ってことだ」

 

不思議そうに首を傾げる真琴にそう答える。

なんでこういう形態の食事をねこまんまっていうのかはしらないが、多分そんなところから来たのだろう。猫は鰹節とか好きだし。

 

「って、そんなものを真琴達に食べさせよーとしないでよっ!」

「いや真琴、ねこまんまといってもちゃんと人間様も食べる食べ物だから」

「そうだとしてもよ! なんかあからさまに手抜き感ありありじゃない」

「そうですか? ピロさんはとっても喜んでくれたのですけど……」

「そりゃピロは猫だし」

 

最近の高級志向の猫缶に舌を肥やしていないうちのピロには、ねこまんまは大好物だろう。

というよりも秋子さんの料理なら例えねこまんまだとしても、そこらの猫缶には負けないという変な自信もある。

 

「とーにーかーくーよ! 真琴は認めないっ! 認めないんだからっ!」

「お、おい!」

「真琴さん?!」

 

踵を返して自分の部屋に帰っていく真琴。

うーむ、頼子と真琴の間がぎくしゃくしている。

どうにかならないものだろうか。

 

「真琴さん……」

「と、とにかく二人ともお昼食べよ? わたし、ねこまんまなんて久しぶりだからとっても楽しみなんだよ〜」

「そ、そうだな。真琴も腹減ったら勝手に降りてくるだろ?」

「も、もう! 真琴は野山の狐じゃないんだから!」

「そ、そうだよな? あははは……」

「あはは……」

 

名雪の話題転換に便乗して空笑いをしながら席に着く俺達。

多少強引だといわざるを得ないが、あの名雪がしたにしては十分すぎるフォローだと思うし、今はこれが最善の策だろう。

しかし頼子の表情は晴れない。

 

「……やっぱり、私はいらない子なんでしょうか?

 失敗も多いですし、真琴さんにはあまり気に入られてないようですし」

「そ、そんなことないぞ、ただ真琴は天邪鬼なだけなんだ。

きっと頼子と仲良くしたいに決まってる。な? 名雪」

「うん、そうだよ。真琴は人見知りの激しいところがあるから」

 

居候当初の俺もそういえば意味もわからず目の敵にされた記憶がある。

そう考えれば頼子に対する真琴の行動はそれに当てはまってるだろう。

 

「……そうなんでしょうか?」

「そうそう、俺達はここでご飯食べてるからさ。

お昼、持っていってやってくれないか?」

「そうしてあげて? 真琴って強がりなところがあるから」

「お二人とも、真琴さんのこと、よくわかってるんですね?」

「そりゃ当然さ。あいつは大切な俺達の家族だからな」

「もちろん、頼子さんも、ね?」

 

名雪がウインクをしながら俺の言葉にそう付け足す。

そう例え接している日数が少なくても、血が繋がってなくても、実は動物だったとしても、俺達は家族だ。

家族は一緒にいるべきだし、ずっと仲違いしていてはいけないと思う。

頼子さんに真琴の分のねこまんまを渡し、見送る。

俺と名雪は同時に安堵の溜息をつく。

 

「おかず、作る?」

「折角頼子が用意してくれたんだから、わざわざおかずを用意する必要ないだろ?」

「ふふっ、そうだね」

 

ねこまんまを口にかきこむ。

温めたのだろうけれど、やっぱり少し冷めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒々しくドアを閉めて、布団に飛び込む。

お腹がくぅーと情けない声をあげたけれど、そんなの無視した。

あいつのご飯を食べるくらいなら餓死した方がマシよ。

最初はあんなことから始まったけど、あたしの後輩が出来たみたいで内心ではとても嬉しかった。

同じような匂いがして、親近感も沸いた。

だけどあいつはみんなと仲良くなって、すぐに溶け込んじゃって。

真琴の最初の頃とは随分と違って。

そうしたら真琴が置いてきぼりを食らっているような気がして。

居場所がなくなっていくような気がして。

――また捨てられてしまう気がして。

真琴は頼子みたいに家事が出来るわけじゃないし、もしかしたら真琴はいらない子なんじゃないかって考えてしまって。

そうしたら自然と頼子の邪魔や愚痴を言っていた。

自分でもわかってる。それは間違いだし、真琴はインケンなことをしてるって。

だけどやめることが出来なかった。

それを止めた瞬間に、真琴の居場所が完全になくなってしまいそうだったから。

 

「真琴さん」

「……頼子」

 

背後からあいつの、頼子の声が聞こえる。

一体何しに来たというのだろう?

 

「何しにきたのよぅ」

「お昼を運んできたんです」

「いらないわ。そんなの、だからさっさと部屋から出て行きなさいよぅ」

 

そう、真琴があなたを傷つけないうちに早く出て行って欲しかった。

だけど頼子が部屋を出て行く気配は微塵にも感じられなかった。

 

「なによぅ! ご飯を持ってきたなら、それ置いて祐一の所へ行けばいいじゃないのよ!」

「それはできません」

「なんでよ!」

「そこには真琴さんもいなければいけないはずですから」

「――っ?!」

 

振り向くと、頼子が真剣な目でこっちを見つめていた。

 

「祐一さんが言ってました。真琴さんはただ天邪鬼なんだと。

 名雪さんが言ってました。真琴さんは少し強がりなところがあると。

 お二人が言ってました。真琴さんは俺達の、わたし達の、大切な家族なんだと」

「……あたしが?」

 

あれだけのことをした今でも、真琴を家族といってくれる。

頼子の言葉は胸が熱くなって、目から何か出てきそうで。

なんでかはわからないけれど、とっても心に響いた。

 

「さっ、真琴さん。お昼一緒に食べましょう?

 祐一さんと、名雪さんと、もしよろしければ私と」

「……そうねぇ、頼子がそこまで言うなら、特別に真琴も一緒に食べてあげるわ」

 

真琴はどうやら考えすぎてたみたい。

真琴が考える以上に、真琴の家族はとっても優しくて、暖かくて――

 

「あ、でも……」

「?」

「祐一さんは私のご主人様ですから、いくら『家族』といっても手を出したら許しませんよ?」

「だ、誰があんなへっぽこなんかに手を出すのよぅ!

 別に真琴は祐一のことなんてこれっぽっちも――」

「……」

「ふ、ふん! そっちこそ、祐一に手を出したら許さないんだからぁ!」

 

――とっても嫉妬深かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

「祐一、あ〜ん」

「いくらなんでもあ〜んはないだろ。

 誰かに見られたらどうするんだ?」

「二人とも二階に行ってるんだし、見てる人なんて誰もいないよ」

「そうは言ってもだなぁ……」

 

 

 

 

 

「真琴さん」

「あぅ?」

「どうやら真の敵は名雪さんのようです」

「敵の敵は味方ということ?」

「そのようです」

「いいわよ。ただ名雪を倒した後は頼子の番だって覚えておくのよぅ?」

「交渉成立ですね」

 

こうして知らぬうちに名雪包囲網が着々と組まれていたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

あとがき

というわけでリクエスト作品、『猫の恩返しの続編』でしたー

正直、時間空きまくってごめんなさい。

なんか久しぶりに長く書いた気がします。

 

ついでにいろいろ報告という名の言い訳を。

死亡説が流れそうなくらい自作の更新速度が遅くなっていますが、自分は地味に執筆しています。たまにネトゲに現を抜かしながら(ぇ

投稿作品は最近は週一くらいで確認してます。これからはもっと間隔を短くしたいです。

……大学の講義中ってあんなに小説書きやすい空間なんですね(勉強しろ

    次は魔法青年書いて、PS書き直して、ネタ新作を投下する予定です。

    トウカ可愛いよトウカ(ぉ

 

 

 

というわけでお納めください。

 

 

 

 

 

 

2007年5月3日作成