「ん?」

 

帰り道、歩いていると前方に茶光りした何かが落ちていた。

駆け寄るとそれは円形をした10と書かれた金属の板――なんて不思議なことはない、言わずと知れた日本国で現在も使われている10円玉硬貨である。

このミッドチルダじゃ珍しいと共に懐かしい。

ミッドチルダじゃ使えないから金銭的価値はないはずだし、お金のコレクターが落としでもしたのだろうか?

親指と人差し指でつまみ上げると、夕日に照らされて鈍く輝いた。

俺は首を右に左にキョロキョロさせる。周囲には誰もいない。

それを確認すると、俺は無言で10円玉をポケットに入れる。

い、言っておくが、ネコババじゃないぞ?

これはだな、もし、もしも、俺が交番の近くを偶然通通りかかった時にだな?

この10円玉を公務に勤しんでいる真面目な警察さんに届け出ようとだな?

……俺が言い訳がましいのは決して財布の中を寒風が吹き抜けていて、猫の手ならぬ10円の手も欲しいからではないと思いたい。

というか10円玉一枚でここまで自己弁護する俺はなんなんだろう。

なんだか少し自己嫌悪になる。

それにしてもラッキーだ。

値段の高低はともかく、お金を拾うなんて滅多にはない幸運だし、こんな幸運なら大歓迎だ。

……も、もちろん! 交番に届け出ればお礼がもらえるからだからな? 本当だぞ?

俺は先程まではなかった薄っすらとした幸福感に包まれて家路を急ぐ。

今思えば、思わぬささやかな幸運に俺は柄にもなく舞い上がっていたのかもしれない。

もう少し考えていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと思うと、ささやかな幸運の代償にしてはあまりにも重すぎなんじゃないかって思う。

そんな未来のことを知らない俺はこの羊の皮を被った狼を前に、明日もいいことがあるといいなと、のんきにも鼻歌交じりで小さくスキップなんぞしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝目が覚めたらバーローになってたというお話

by.JGJ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ん?」

 

朝。いつもとどこか違う感覚で目が覚める。

普段よりも目覚めがよかったのか、心なしか体が軽い。

目が覚めてしまってはしょうがない、俺は起き上がる。

軽いと感じた体とは真逆になぜか布団は重く感じたが、えいやっと勢いをつけて跳ね上がる。

起き上がるときに気がついたが着ているパジャマが少しぶかぶかだ。

おかしい。昨日まではきっちりぴったり俺の体躯にフィットしていたパジャマが一晩で伸びてしまうわけがない。

いや、ずっと引っ張り続ければ一晩でも伸びきるかもしれないが、寝ながら自分のパジャマを引っ張り続けるだなんてどんな器用な寝相だよ。

そんな自身の異変に自分の手に視線を移せば、パジャマの裾からちょこっとだけ出ている指は今までの俺のものとは思えない程に小さく細い。

これはまるで子供のような……子供?

 

「って、まさか?!」

 

慌てて洗面所へと駆ける。

だぼだぼのズボンに足がもつれそうになったので、脱いできてしまったが今はそんなことは問題じゃない。

 

「は、はは……」

 

鏡の下のほうににょきっと映る俺の顔はずっと幼い。

どうやら俺の悪い予感とやらは的中してしまったようだ。

つまり、俺は一晩のうちに身長が縮んで幼児化してしまったということだな。

はっはっ……

 

「はっ、はあああああああ?!」

 

開いた口がふさがらないというのはこのことを言うのか。ひとつ勉強になった。

それに対する代償としてはあまりあるものだが。

それにしたってなんということだよ。

ぱっと見、小学生くらい? の姿になるなんて。これから仕事とかあるんだぞ?

とりあえず管理局に有給が取れないか連絡しようと、脱げたズボンを履きなおし、洗面所を去ってリビングへ向かうと、ドアベルの音が鳴った。

 

「祐一さーん、『あ・な・た』のなのはがお迎えにきましたよ〜」

 

ドアの向こうから声が聞こえる。

どうやらなのはちゃんが迎えに来てくれたようだ。

とはいってもこんな姿、例え友人であるなのはちゃんだとしても見せられない。

というか友人だからこそ見せられない。

 

「祐一さん? 祐一さーん?」

 

ドアベルの音と共にドアをどんどんと叩く音が聞こえる。

我がボロアパートでは強く叩かれればたちまちに玄関が開門してしまう。崩壊的な意味で。

 

「あー、なのはちゃん? すまんが今日は仕事を休もうと思ってな」

 

そんなことになれば俺はこの姿を見られるという意味でも、弁償という意味でもとても大変な事態になってしまうので、今日は休むという旨をなのはちゃんに大声で伝える。

 

「……あれ? 祐一さん、普段よりも声が高くありませんか?」

「ぎくっ?! あ、えーとだな。どうやら季節に似合わん風邪をひいてしまったようでな。

 今日は一日寝ていようかと思ったんだ、げほげほ」

 

妙に鋭いなのはちゃんの言及をなんとか紙一重でかわす。

ちょうどいい、このまま風邪ということで有給をもらってしまうことにしよう。

せっかくある有給なのだし、使わねばもったいない。

 

「へぇ〜、そうなんですか、ならわたしも休みます。

 こういう時に一人でいるのって心細いですもんね。

 ちゃんと襲い――げふんげふん……看病してみせます!」

「ちょっと待て、今なんて言いかけた?!

 べ、別に気にしなくていいんだぞ。ほら、なのはちゃんの有給を俺なんかの為に勝手に使うなんてよくない、うんそうだ絶対によくない、だから帰ってくれ!」

「自分をなんかって言うのはよくありません!

 祐一さんも辛かったら人を頼っていいと思いますっ!

 それにわたし、有給が余っちゃってたのでちょうどいいです」

 

今は確かに辛いけど、人を頼れない辛いことなんだけどな。

祐ちゃん、見守る優しさっていうのも大事だと思うんだよ?

俺がそんなことを考えている内にも、なのはちゃんの優しさは大暴走していく。

 

「も、もしかして、祐一さん。

風邪じゃなくて、予想以上に重い病気を患ってしまったとか……?」

「い、いや、れっきとした風邪だぞ? げふんげふん」

「なんか咳の仕方もわざとらしいし……祐一さん、一緒に病院へ行きましょう!」

「ちょっ、待て! 落ち着け! だからただの風邪だと……」

「開けないんだったら力ずくでもこじ開けます!

 レイジングハートオオオオォォッッ!!」

「って、待たんかー!!」

 

俺はほとんど反射で玄関の扉を開けていた。

この時点で『ドア>羞恥心』という方程式ができてしまうのは少し悲しいことだが、背に腹は変えられない。いくらなんでも弁償はさすがに勘弁だ。

 

「ふぇ? ゆ、祐一さん……?」

 

案の定、俺の姿を見て、目を丸くするなのはちゃん。

はぁ、やっぱり事情を説明しなきゃいけないんだよな。

 

「えっと、ここは祐一さんの家で、祐一さん似の子供が出てきて、その、え、ええ?!」

「あのな、なのはちゃん。これは――」

「もしかして!」

 

俺が説明しようとするとなのはちゃんが遮る。

よかった、なんとなく事態を察してくれたみたいだ。

それなら管理局の方へうまく言っといてくれないかと頼もうとすると、再びなのはちゃんが口を開いた。

 

「ももももしかして、祐一さんの隠し子?!

 そんなっ! 祐一さんには悪い虫がつかないように厳戒態勢でストーカ……げふんげふん、監視していたのに、いつの間に?!」

 

そんなことをしてたのか。どうりで最近視線を感じると思ったんだ。

 

「こうなったらその泥棒猫を滅殺して、祐一さんの目を覚まさせて……」

「だから待てと言ってるだろーに! 俺は俺だ。祐一だよ、なのはちゃん!」

 

そんな居もしない目標を滅殺しようなんてものなら、絶対とばっちりが出てくる。

こうと決めたら見境なしに攻撃するから余計にたちが悪い。

 

「ふ、ふふっ……ママが大切なのはわかるけど嘘はいけないんだよ?」

「嘘も何も本当に俺なんだって! 知らないけど目を覚ましたらこんなんになっちゃってたんだよ!」

 

ありのままの真実を語るが、未だ疑惑の目を外さないなのはちゃん。

うう、昔はあんなに純粋だったのに、どこで擦れちゃったんだ。

仕方ない、この手だけは使いたくなかったのだが。

 

「ほ、ほんとうなんだよぅ……しんじてくれよぅ……」

「うぐっ?!」

 

疑惑で塗り固められていたなのはちゃんの瞳にひびが入った。

よし、あと一息だ。俺は視線に真摯な心を乗せてなのはちゃんを見つめ続ける。

この状況を信じてもらうためなら、俺は『なのはお姉ちゃん』とも『なのはママ』と言うことも全く躊躇わない所存だ。

いや、それだと逆効果か。

 

「み、見ないでえっ?! そんな子供の瞳でわたしを見ないでえっ!」

 

頭を抱えて悶絶しているなのはちゃん。

説得がこの方向性で合っていたのだろうかと果てしなく不安になるからそういうリアクションは止めてくれ。

 

「わ、わかりました、はぁはぁ、祐一さんの言葉を信じます、はぁはぁ。

 でもなんで小さくなってしまったんですか? 昨日何かしてしまったとか? はぁはぁ」

「いやそれがな、心当たりがないんだ。

 昨日は仕事が終わった後は真っ直ぐ帰ったし……」

 

語尾の四文字がものすごく気になってしまうが、そこは無視しておくことにする。

君子危うきに近寄らずというやつだ。

それにしても本当に謎だ。

昨日はお金拾ってラッキーとばかり思っていたのに、次の日にこんなことになるとは……

 

「……まさかな」

「祐一さん?」

「いや、そういえば昨日道に落ちてた10円玉を拾ったなって。

 この世界じゃ珍しいけど、いやまさかそんな……」

「ゆ、祐一さん……」

 

なのはちゃんの目が少し哀れんでいるように見えるのはきっと気のせいだ。

気のせいに決まっている。

 

「と、とにかく、その10円玉は怪しいです。

 管理局で調べてもらった方がいいのでは?」

「やっぱりなのはちゃんもそう思う?

休暇届出すのも自分で行った方がいいし、一度管理局で調査してもらった方がいいか」

「そうですね。それじゃあ一緒に行きましょう」

 

と、外出が決まったところで、はたと気付く。

俺が今着ているのはぶかぶかのパジャマ。昨日まではサイズが合っていたものであり、当然家にある服は多少のサイズ違いはあれどそれに準拠している。

つまり――

 

「着ていく服が、ねぇ……」

 

そういうことだ。

さすがにぶかぶかの服を着て外を歩き回るわけには行くまい。

どうしようと考えていると、玄関のなのはちゃんと目が合った。

なのはちゃんは何も言わずに腕を両側いっぱいに広げる。

 

「はぁ〜い、祐一さ〜ん、わたしの胸に飛び込んできてくださいね〜」

 

それはなんていう幼児プレイだ。

ああ、今の俺の体は幼児そのものだったか。

そんな馬鹿げているくせに現状で一番の正論を、これ以上ないってくらいにイイ笑顔でなのはちゃんが提案する。あー、その、涎垂れてるぞ?

 

「祐一さん、恥ずかしがらなくてもいいんですよ?

 今の祐一さんは子供なんですから、お姉さんが抱っこして悦に浸ってる姿を一般市民が見たとしても、微笑ましい親子のスキンシップにしか見られませんって」

 

いやそれは確実にショタコンのお姉さんが何も知らない子供をさらっている図にしか見られないと思う。具体的に言えば悦に浸ってる姿という部分が。

というか警察呼ばれるぞ。

 

「あ、祐一さん! もう一ついいアイデアがありますよ」

「それを早く言ってくれ、で、なんだ?」

「着替え用のヴィヴィオの服がありますから、それを着て――」

「わーい、なのはお姉ちゃんに抱っこしてもらうお〜!」

 

言うな。俺だって安くてもプライドはある。

女装するなら子供になりきった方が精神的にもマシなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確実にその10円玉が原因ですね」

 

ある意味屈辱な体勢(抱っこ)で管理局へとやってきた俺が、周囲の同僚の視線に晒されながらも例の10円玉を調査してもらって一時間弱。

シャーリーが読み上げる報告に俺はやっぱりかと肩をがくっと落とす。

 

「魔力を凝縮して、マジックアイテム化したものと見て間違いないです。

 効果は祐一さんの姿を見る分ではたぶん若返りでしょうね〜。

姿が10円玉なのは、魔法に馴染みのない世界で売り物にするための偽装工作でしょう。

たまにあるんです。もちろん犯罪ですけど」

「なんというご都合主義だ」

「あ、でも、10円玉本体は『幸運にも』本物ですから。

 魔力も解きましたからお返しします。よかったですね」

 

シャーリー、こんな状況でそんなこと言われても気休めにもならないぞ。

まあ、落ち込んでいてもしょうがない。俺は本題を切り出すことにする。

 

「で、この姿は治るのか?」

「はい、すぐには治らないですけど、大体2、3日あれば」

「はぁ、その間仕事は休まないといけないな」

 

いくら有給で賄えるとはいえ、憂鬱だ。

その間はこの子供の姿でいなければならないし、子供の姿で白昼堂々と一人で外出なんてすれば、たちまち警察やらなんやらが来て、行動を制限されてしまうだろう。

そして何より、周囲の視線がきつい。

なんというか熱っぽいというか、ねちっこいというか。

一度触れたら最後、食虫花のように食われてしまうような身の危険というか。

特にスバルなんかあからさまにそれが出ており、口からはとめどなく涎が漏れている。

もしかして、これがカニバリズムっていうやつなのだろうか?

 

「祐一さんはその間どうするんですか?」

「そうだな、どうせどこにも行けないなら、秋子さんの家に里帰りしようかなって」

 

シャーリーの問いに少し考えてからそう返す。

本当の故郷ではないが、一番思い出深い高校時代を過ごして来た街だ。もう俺のもう一つの故郷といっても過言じゃない。

あの人のことだからどうせ一秒で了承だし。事情も察してくれるだろう。

それにたまには名雪達にも会いに行きたいと思っていたからちょうどよかったかもしれない。

 

「それはあかんよ。そうなると本当にいざという時に応援頼めんし。

 できる限りこの世界にいてもらわんと」

「う、やっぱり駄目か?」

「駄目。それはまた今度の機会やね」

 

たしかにいざという時になったら、姿がこんなんでも出動しなければならないだろうし、違う世界にいるよりもこっち側にいた方が何かと都合がいいのだろう。

ともあれ、職場の責任者にこう言われてしまったらどうにもならない。

水瀬家行きは諦めるとするか。

 

「うーむ、それじゃあ三日間家に缶詰だなぁ……」

「そこで私に一つええ考えがあるんよ」

 

はやてちゃんがいい考えが浮かんだとばかりにぽんと手を合わせる。

なんだろう、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 

「子供の姿の祐一さんが外に出られないのなら、外に出ても別に違和感のない状況を作ればええと思うねん」

「そりゃ確かにそういった状況が作れば、外出くらいはできるけど、具体的にどういうことをすればいいんだ?」

 

外出できるのとできないでは大きな差がある。当然、外へ出られるのなら歓迎したい所だが。

 

「子供一人で出歩くのが不審に見られるなら、『保護者』をつければええっちゅう話や。

 つまりママさんやパパさんの代わりに誰かが一緒についていてあげるっちゅうことや」

 

はやてちゃんの言葉にこの部屋に居るほとんどのメンバーの眉が一瞬上がった気がする。

 

「祐一さんっ! 私、祐一さんのためにママさんやりますっ!

 大丈夫です、ヴィヴィオで経験してますから、子守には自信があるんですよ」

 

最初に声をかけてきたのはなのはちゃんだった。

強く握っているためか、手をかけている両肩が痛いし、心なしか鼻息が荒い。

 

「待って、なのは。それなら私だって保護責任者をしてたんだよ?

 ううん、寧ろ経験なら私のほうが上。それなら私がお母さんをやった方が効率がいいよ」

「ねえねえ、祐一さん。お姉ちゃん欲しくない? 欲しいよね?

 あたし、前から弟が欲しかったんだぁ」

「こら、スバル。そんなこと無理やり……」

「あれ、もしかしてティアもお姉ちゃんになりたいの?

 えへへ〜、大丈夫だよ。ティアは親友だもん、一緒にお姉ちゃんやらせてあげるよ?」

「ちょ、あ、あたしは別にそういう意味で言ったわけじゃ……あ、でもそれも悪くないかも……」

 

それに待ったをかけるのはフェイトちゃんで、それに乗っかってきたのはスバル。

それを止めようと口を出してスバルの言葉に真っ赤になって否定するのはティアナである。

 

「駄目ですよ、スバルさん。こういうのは見た目の歳が近い方が傍目の印象も悪くならないし、祐一さんも気を使わなくていいと思います」

「キャロの言うとおりです。それに女の人ばかりだと祐一さんも疲れちゃいますよ。

 こういう時は、お兄ちゃんの方が心強いと思います」

「……って、あんた達じゃ、保護者の意味がないじゃない!」

 

大丈夫ですよ。自然保護隊の保護区画に遊びに行く予定だったので、人の目なんて気になりませんよ〜と本末転倒なことを言っている二人に、頭が痛いとばかりに突っ込むのもティアナだ。天性のツッコミニストってやつか。

周りが(天然)ボケ性質ぽいから苦労しそうだ。

 

「ティアナを一番苦労させてるのは祐一さんだと思いますけど」

「何か言ったか? アルト」

「いいえ、何も言ってませんよ」

 

そう笑顔で返されたら何も言えない。

 

「あー、ちょーっとええかな?」

 

ぎゃあぎゃあと言い争いが続く中、それを制止させたのははやてちゃんの一言だった。

 

「もしかして皆、本気で『三日間も有給が取れる』なんて思っているんやないやろな?」

「「え?!」」

 

冷静な意見を述べるはやてちゃん。さすが責任者というべきか。

皆が皆、有給など取ってしまったら残された職場はガタガタだろう。

それにしても今の皆の反応、まさか本気で有給を取るつもりか?

俺がはやてちゃんの脳内評価を上げていると、続けてはやてちゃんが口を開いた。

 

「有給取るには現場の上司の承諾が必要。

私がそんな職場ダメにするような承諾すると思う?」

「「う、ぐ……」」

「そうや、承諾なんてせえへん。

だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなの替わりに私が責任持って三日間、祐一さんとらぶらぶにゃんにゃんするからよろしゅうな

 

 

 

「「職権濫用だあああああ?!」」

 

今、確実にオフィスが震えた。

合わせてもいないのによく声が合うよなと関係ないことを考えてしまうのは、やっぱり現実逃避なのだろうか。

 

「しかも目的を隠そうともしてないよ、この上司」

「ある意味、スバルより自分に正直過ぎるよね」

 

とは各隊長の弁。無論さすがの俺も驚いている。

まさかはやてちゃんがビーンボーラーだったとは。

危険球すぎて身の危険しか感じない。

 

「主はやて、当然、私達も有給を認めてくださいますよね!」

「馬鹿。はやてなら、ちゃんとあたし達の分の有給も取っておいてくれてるって!」

「私どうしましょう? 急に三日間もお休みがもらえるなんて思ってなかったし……

 でも三日間祐一さんと一緒なら、いろいろやりたいことも……」

「……私は黙ってどこかへ行くべきなのだろうか?」

「マイスターはやて、リインも勿論それに含まれてますよね?」

 

そんな中、一番最初に裏切ったのは守護騎士チーム+リインだった。

いや、はやてちゃんの家族みたいなものだし。裏切ったというよりかは、就く方へ就いたといった方が正しい表現だろう。

勿論、はやてちゃん側からしても守護騎士達に有給を与えない理由もない。

俺と同じ考えなのか、四者四様の反応を示している守護騎士チームだが、皆が皆、急に舞い降りた三日間の連休に胸を躍らせているというのがわかる。

他の面子はというと、しまったとばかりに悔しがっているものがほとんどであり、今からでもはやてちゃんに忠誠を誓って守護騎士にでもなろうかとか、たった三日間の為に人生を棒に振りそうな発言をしてる者も出ている始末である。

 

「なに言っとるんや?

リインやシグナム達は私がいない間は職場で私の分まで頑張って貰うに決まっとるやん」

「へ?」

 

はやてちゃんの一言に、すっかりその気になっていた守護騎士はきょとんとする。

かく言う俺も、いやこの場にいるメンバーが全員驚いているだろう。

はやてちゃんと守護騎士の絆の強さはこの場にいる全員が納得している。

そんな中、その絆の崩壊にも取れそうなはやてちゃんの発言に一同が驚くのも無理はない。

 

「私らは家族なんやから、家族は協力せなあかん」

「便利な言葉だよ、家族って!!」

 

なるほど家族なら協力し合おうということを言いたかったのか。

はやてちゃんと守護騎士の家族という枠組みが崩壊するようなことはなくてよかった。

その代わり、別の大事なものが壊れそうな気がするが。

 

「ヴィータ、私は守護騎士失格だ。今、一瞬だけ主に殺意が芽生えてしまった。

 そんな私でも仲間といってくれるか?」

「気にすんなって、あたしでも一瞬そう思っちまったから。同志だ同志」

「妙な気の回し方は要らなかったということか、まあ、私にはどっちでも関係はないが」

「ひ、独り占めなんてズルいと思うですよー!」

 

(一部を除き)がっくり来ている守護騎士+αチームだが、主の命令には逆らえない。

そして反抗できるものもいなくなり、このままはやてちゃんの一人勝ち。

俺のデッドボールもとい身の危険も確定かと思われたその時。

 

「あれそういえば八神部隊長、明日は教会との会談があるとか言ってませんでした?」

「……」

「……?」

 

グリフィスの何気ない一言にはやてちゃんが石のように固まった。

もしかして忘れてたのか……?

 

「キャンセルっていうのは……」

「できないでしょうね。相手の信用もがた落ちですよ」

 

がくりと膝をつくはやてちゃん。

順番待ちをしていて自分の一歩手前で惜しくも逃してしまう気分というのはこういう感じなのだろうか。

いや俺は当事者ではないからわからないんだけどな。

 

「そ、それなら、その会談に一緒に連れて行くのは……」

「ダメに決まってるじゃないですか」

 

それでもなんとか理由をつけようとするはやてちゃんだが、ことごとくグリフィスに蹴散らされる。

 

「往生際が悪いよ。はやてちゃん」

「そうだよ、私達と一緒に『お仕事』頑張ろうね」

「いやや! いやや! いやや! せっかく一人勝ちのチャンスなのにいいい!」

 

妙にいい笑顔のなのはちゃんとフェイトちゃんに両腕を掴まれ、宇宙人みたいにずるずると引っ張られていくはやてちゃん。

誰も同情しないところははっきり自業自得だと思う。

 

「……こほん、それじゃどうするかな」

 

とりあえず話を戻すことにしよう。それがいい気がした。

だから聞こえない。隣の部屋から『全力全開!』だとか『今宵のバルディッシュは血に飢えているよ?』とかもう見えないし、聞こえない。

 

「あ、それなんですが、母がまた我が家に来て欲しいとか。

 それでついでと言っては何ですが、三日間くらいなら我が家で過ごしていただくのはいかがです?」

 

と、有難い申し出をしてくれたのは先程はやてちゃんの野望をばっさりと斬って捨てたグリフィスだった。

 

「まあ提督の料理は美味しいし、喜んでお邪魔させてもらうけど……いいのか?」

「ああ、気にしないでください。

母も前々から祐一さんに泊まっていって欲しかったらしくて『三日くらい泊まっていってくれないかしらね。それだけあれば十分なんだけど』とか言っていましたから」

 

……妙な言い回しな気がするが、向こうが歓迎してくれているなら別段断る理由もない。

周囲を確認すれば、現時点では最低でもはやてちゃんよりかはレティ提督の方が信用があるようで、「まぁ、人妻だし」やら「何かあったらグリフィスさんが止めてくれるだろうし」やらで特に反対意見も出ていない。

 

「それならお邪魔しようかな」

「あ、ありがとうございます。母も喜んでくれます!







……それとごめんなさい、本当ごめんなさい

 






 

というわけでレティ提督の家に三日間泊まることになった俺なのだが、

その間に子供になった俺を見て母性本能がくすぐられたのか、妙に子ども扱いして可愛がってくるレティ提督やら、リンディ提督が乱入してきて、同じく可愛がるせいでレティ提督と争いが起こったりと、いろいろあって三日間全然休むことができなかったのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

力尽きた。というわけで第三弾、『幼児化』のお話。

幼児化って難しい。なんというか過程は簡単なくせにオチが難しいとか反則だよね。

尻切れトンボなのはいつものことと開き直れる勇気を誰かくださいorz

あと関西弁は自分の永久の宿敵になると思う。

 

 

 

2008年5月25日作成