結局最後にものを言うのは権力と言うお話

by.JGJ






















「祐一」

 

隊舎を歩いていると、ふと誰かに呼び止められる。

歩みを止めて振り返れば、ヴィータがこちらへ歩み寄ってきていた。

ここは管理局内なのだから制服を着ているのが普通なのだが、ヴィータにおいてはどこか違和感があるのはきっと俺だけじゃないはずだ。

制服に着られているというのか、やっぱり背とか小さいからか?

 

「おい、なんか今不当にバカにされた気がする」

「な、なぜそれを?!」

「本当にしてたのかよ!」

「……冗談だ」

「……まぁいい。祐一、暇なら付き合え」

 

ヴィータは俺の様子に少しいぶかしんでいたが、深く詮索せず話を進めてくれた。

 

「付き合う? 悪いが俺はつるぺったんに興味は――ぶほっ?!」

「ば、バカ野郎! そういう意味の付き合うじゃねぇ!

 そ、それにプログラムさえ書き換えられればあたしだってシグナムみたいに……」

 

顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒るヴィータ。

まぁ、俺もある程度の報復は承知の上でやっていることだが、何も本気で殴ることはないだろう。

 

「冗談冗談。ヴィータが俺にそういう意味で言うなんてありえないもんな」

「はっきり言われるとなんか腹が立ってくる」

「なんか言ったか?」

「なんにも言ってねぇよ! ま、そういうわけだ。訓練付き合ってくれるか?

 最近はデスクワークばっかで体がなまってしょうがねぇ」

 

ヴィータの言葉になるほどと心の中で納得する。

そういえば最近は大きな出動をした記憶がない。

出動しても小競り合いですぐに終わってしまうし、現場で動いた時間よりも、報告書を書いた時間の方が長かったなんてよくある話だ。

世間的には平和で何よりなんだけど、現場の俺達からすればデスクワークばかりだとストレスが溜まる。

体を動かしてストレスを発散させるのも悪くない。

 

「いい考えだ。お手柔らかに頼むぞ」

 

そういえば他のメンバーも書類とにらめっこばかりでストレスが溜まっているかもしれない。誘ってみようか……?

 

「よっし、じゃあすぐ行こう、さっさと行こう、とっとと行こう」

「おいおい、腕を引っ張るなって。そんなに訓練が好きかね……ったく」

「とっとといかねーと。あいつらに見つかったら面倒だしな」

「何か言ったか?」

「だからなんもいってねぇよ!」

 

空耳が多いのはやはり歳のせいなのだろうか。

俺の問いに答えたヴィータは口調と裏腹に凄く嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、じゃ始めっか!」

 

防護服に変身した俺達は間を空けて対峙する。

地上の俺が手を上げて準備完了の意を伝えると、空中のヴィータは口の端をにぃっと上げた。

 

「アイゼン!」

Explosion.

 

ヴィータとその相棒――グラーフアイゼンの一言が開始の合図だった。

アイゼンから薬莢が吐き出される。開始早々いきなり大技を撃って来るか。

 

Raketen hammer

 

ヴィータがハンマー投げのようにぐるぐると回転を始める。

記憶が確かなら回転で生み出した遠心力を利用した打撃技だったか。

さてこの攻撃を受けるか、避けるか。

受ければダメージを受ける可能性が高いが、受けきれば距離が詰まっているので反撃がしやすい。

逆に避ければ高確率で無傷だろうが、間合いが開く為追撃は難しいだろう。

俺は数瞬で判断し、行動に移る。

 

『shield』

 

選択した行動は……防御。

ダメージを受けない前提なら回避が妥当だが、折角の大技の隙を突けないのは惜しい。

まだ始まって間もないし、体力は有り余っているのだ。一発くらいのダメージなら受けきることくらいは出来るだろう。

俺は前方に魔力の壁を生成するべく動く。

既に俺の頭の中ではヴィータの攻撃のことは考えておらず、この後どう隙を突いて反撃を試みるかを考えていた。

……あの音を聞くまでは

 

 

 

すぽっ

 

 

 

そのあまりにも不吉すぎる音に、ヴィータの方を見る。

汗か何かで滑ったのか、すっぽ抜けたグラーフアイゼンが真っ直ぐこちらへと向かってきていた。

って、おいおい! これは洒落にならん!

慌てて回避行動に移る。威力相応の魔力壁を張るには時間が足りないと判断したからだ。

速度はあるが直線的な動きだ。これならかわせないわけじゃない。

俺は難なく回避に成功する。直後、後ろで轟音と共に粉塵が巻き起こる。

ふぅ、危なかった。

俺は大きく安堵の息を吐く。

……が。

 

「うわあああ、祐一、どけ! どけってえええ!!」

 

上空から声が聞こえる。そう思って上を向いた時には既に遅し。

反応する間もなく、バランスを崩して落下してきたヴィータの踵を脳天に喰らい、俺は意識を根こそぎ刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

気が付いて最初に感じたのは額に感じる冷たい感触と、後頭部に感じる温もりと柔らかさだった。

 

「めぇ、覚めたか?」

「ヴィータ?」

 

目の前には心配そうに、でもどこか優しそうに見つめるヴィータの顔。

どうやら俺の顔を横から覗き込んでいるようだ。

 

「気持ちが良いくらい綺麗に踵が入っちまったから、死んじまったのかと思ったぜ」

「ああ、なんとか無事だ」

 

起き上がろうとすると頭にずきりと痛みが走る。

 

「痛いならまだ寝てろって。訓練よりも体の方が大事なんだし」

 

痛みが顔に出ていたのだろうか、ヴィータが俺の肩を押し留める。

再び後頭部に温かくて柔らかい感触。

……ん? これってもしかして。

顔を横に向けると投げ出されたヴィータの足が見える。

や、やっぱりこれって。

 

「ひ、ひざまく――あぅ?!」

「学習能力ってもんがねーのか? まったく……」

 

俺はヴィータの膝の上に頭を乗せた状態、いわゆる膝枕という状態だった。

慌てて起き上がろうとして、また痛みが肥大する。

ヴィータは呆れながらもゆっくりと俺の頭を自らの膝に乗せ、撫でた。

心なしか頭の痛みが和らいだ気がするから不思議だ。

 

「あ、あたしのことは気にしなくていいからな。

 こうなったのもあたしのせいだし、償いじゃねーけど、せめてこれくらいはさせてくれ」

 

ヴィータの顔が赤く染まる。

やっぱり恥ずかしいのだろうか?

 

「ん、ごめんな。折角誘ってくれたのに」

「だからお前が謝ることじゃねーって、悪いのはあたしなんだしさ。

 祐一は黙って言葉に甘えてりゃいいんだよ」

「ん、そうすることにする」

「少し落ち着いたら念のためシャマルに診てもらおう。

それまではゆっくり休めって」

 

荒々しい言葉の中にも優しさがにじみ出ているヴィータの言葉に頷くことにする。

まだ頭が痛い。もう少し休ませてもらおう。

俺はまた意識を闇の中に沈み込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝ちまった、か?」

 

 

 

もんもん

 

 

 

「ほっぺにちゅーとかしてもばれねーかな?」

 

 

 

もんもん

 

 

 

「……やめとこ、こういうのなんか卑怯な感じがするもんな。

ベルカの騎士は卑怯なことはしねーんだ」

 

 

 

もんもん

 

 

 

「で、でもちょっとだけなら、いいかな」

「何がいいんだ?」

「うわっ……て、なんだシグナムかよ」

 

急に声をかけられて驚くヴィータだったが、相手がシグナムとわかり冷静さを取り戻す。

さすがに祐一を見て悶々としていましたとは言えない。

対するシグナムはヴィータの膝に乗っている祐一を見て、眉を顰める。

 

「ヴィータ、長時間も乗せていて重くないか? よければ代わってやるが」

「遠慮しとく。別に辛くねーし?」

「でも薄っぺらい座布団よりもふかふかのクッションの方がいいこともあるだろう?」

「……どういう意味だ? シグナム」

「……どういう意味だろうな。ヴィータ」

 

質問に質問で返し、答えをはぐらかしているシグナムだが、視線はヴィータの胸と膝へと交互にいっている。

つまりそういうことなのだ。

 

「とにかく! 余計なお世話だ。これはあたしがやんなきゃ意味がねー!」

「……そうか」

「そうだ」

 

そう言うとシグナムはどこか残念そうな顔で訓練をしてくると背を向けて行ってしまう。

今日の訓練は荒れるだろうなぁ。と勝ち誇りながら思うヴィータ。

シグナムなんかに枕させたら、絶対に比較される。

それだけは避けたかった。

ヴィータは自分だけの特権を死守できたことで頭が一杯だった。

だから気付かなかった。

 

 

「おー、ヴィータや。こんなとこでなにしてるん?

 ……ところで薄っぺらい座布団ふかふかのクッション、枕にするならどっちがええと思う?」

 

 

その特権も所詮三日天下だったということを。

主には逆らえない。本当は逆らいたいけど、後が怖い。

だからヴィータはこういうしかなかった。

 

 

 

 

「……ふ、ふかふかのクッション」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとかいとけ

まだ第一弾の方の修正していないという罠。

というわけで無茶振り祭り第二弾『ヴィータに膝枕〜』でした。

これは意外とすんなり書けた。

久々じゃないかしら、製作に3日かからなかったのって。

 

 

 

 

 

 

2008年4月27日作成