「祐一さん、祐一さん」
暦の上では夏といっても、北の方にあるこの街では夏本番にはまだまだ程遠い。
そんな日、三毛猫モードなフィアが俺に話しかけてきた。
「祐一さん、今日は何の日か知ってますです?」
「今日か?」
カレンダーを見る。
めくるのを忘れていたのか、先月分になっていたのでそれをめくって改めてカレンダーを見る。
「カルピスが初めて販売された日か?」
「個人的にそれはそれで気になるですけど、もっとメジャーな記念日です」
「じゃあ、ハワイがアメリカに併合された日だな」
「それは祐一さんにとってメジャーな日です?」
「すまん、調子に乗ってた」
さて、おちょくるのは止めて真剣に答えてやるか。
「7月7日、七夕だろう」
「そですです。今日偶然テレビ見て知ったですけど、何する日ですか?」
まぁ、誕生日にお祝いをするって言った時も驚いていたから、比較的そういう文化的な行事はやらないんだろう。
ましてや七夕なんて日本くらいでしかお祝いなんてしないから、知らなくても当然だろう。
「ま、簡単に言えば、笹に短冊って言う願い事を書いた紙を吊るせば願い事が叶うって言われてる行事だな」
「そ、そんなすごい行事ですか?!」
「実際叶った人なんて極わずかだと思うけどな」
実際、俺もいろんなことを短冊に吊るしたが、叶ったことはなかったしな。
祭りごとをなんでもそういうことに結びつけるのは日本人の性だと思う。
「七夕、やってみたいですぅ」
「といってもなぁ……」
気分だけ乗っても笹を取ってこないと話にならない。
こういう行事が好きな秋子さんに頼めばなんとかしてくれるだろうけど、そうしたら姿を隠してるフィアは猫としてでしか参加できない。
フィアが七夕に参加するには問題が山積みだ。
「祐一さん、電話が着ていますよ」
「あ、はい。今行きます」
秋子さんの呼ぶ声にまだぶーたれてるフィアを置いて俺は下に降りる。
「モテモテですね。祐一さん」
「へ? あ、ありがとうございます」
受話器を受け取ると、秋子さんは洗い物があるのか台所の方へと消えてしまった。
人間形態じゃ多分無理だけど、後で七夕の話でもそれとなく振ってみるか。
猫の姿でなら参加くらいはできるかもしれない。
そこで思考を一旦打ち切って受話器の応対に切り替える。
「もしもし替わりました」
『祐一さん。佐祐理です』
「あ、佐祐理さん。どうしたんです?」
『祐一さん、今日の夜はお暇ですか?』
「えぇ、多分ですけど」
『それなら、フィアちゃん達と一緒に七夕をしませんか?』
「いきます」
即答だ。
佐祐理さんからのお誘い。それを蹴る奴なんて罰当たりだろう?
それにフィアも七夕をしたがっていたし、一石二鳥とはこのことだ。
『それじゃあ、7時くらいになったら家に来てもらえますか?』
「肯定であります、大佐殿」
『ふふっ、楽しみにしてます軍曹さん。ではまた夜に』
軽くボケあってから受話器を置く。
相変わらず佐祐理さんはノリが良いよな。
屋上の時もノリノリでボケに付き合ってくれたし。
だから決して今の某アニメのネタを即答で切り返されても、佐祐理さんはオタクっ娘ではないと信じたい。
「……さて、じゃあフィア達にこの朗報を聞かせてやるかな」
俺はこのことを伝えるために階段を上がる。
意味は無いけれど気分が良かったので、普段よりも一段多く階段を抜かしていた。
独占欲 ―魔法青年相沢祐一 A.S.07―
by.JGJ
というわけで呼ばれた倉田邸で、俺達は魔法使いの身内のみの七夕パーティを満喫しているわけだが。
「さーさーのはーさーらさらーです」
「機嫌が良いな。フィア」
「そりゃそうです。だって七夕ですよ? さらさらーですよ?」
折角なので教えてあげた七夕の歌を口ずさむほど、ご機嫌なフィア(人間形態)に尋ねるとこう返ってくる。
しかもご丁寧にも佐祐理さんが用意してくれていた淡い緑色の浴衣姿だ。
――フィアの言っている意味はよくわからないが、とにかく興奮してるんだろう。
子供の頃ならともかく、今の俺には到底抱けない感情だ。
こういう姿を見てると佐祐理さんの浴衣姿を想像して興奮とかしてる俺がなんか心の汚い人間に思えてくる。
え? フィアの浴衣には興奮しないのかって?
いや、俺、ロリコンの気はないし。そんな浴衣を邪な目で見るなんて最低だろ?
……何故だろう、正論を言ってるはずなのに胸が痛い。
「でもあたしにはわかるわね。フィアの気持ち」
「そうですね、そういった行事をしたことはおろか、見たこともないですから。
実は私も密かに興奮しているんですよ?」
「百聞は一見に如かず。こういう独特の文化は本を読むよりも実際に見たほうが早いもの」
「私も七夕は初めてなので、興奮していますわ」
とは、エレナさん、アビス、リム、ミナの弁。
聞いてみたら七夕というものに興味を持ったらしく、こうやって一緒に連れてきたのだ。
もちろん姿は佐祐理さんから借りてきた浴衣姿。
服装は自在に変えることができるので、はじめは断っていたらしいのだが、なにやら鼻息の荒い佐祐理さんに押し切られたらしい。
「それにしても、このユカタってやつ? なんか変な感じよね。意外と身体のラインが出てるし」
「あなたが言っても皮肉にしか聞こえません。このエロテロリスト」
「激しく同感ね」
「私は普段から着慣れてますから、あまりそういうのを気にしたことはないですわ」
浴衣って着るときに下着を着けちゃいけないとか、必要以上に体のラインを見せるとかで見る人にとっては水着よりも扇情的だからな。
みんな出てる所は大きくも小さくも出て、引っ込むところは引っ込んでいるのだけれど、、エレナさんのそれは特にICBMも真っ青の破壊力だった。
「祐一さーん、準備が出来ましたので、短冊を飾りませんかー?」
「わかりました。俺はトイレ行ってくるから先行っててくれ」
「わかったです」
フィアたちを先に行くように促し、俺は未だ白紙な短冊を持ってトイレに行くことにする。
場所は覚えているから迷わないで行けるだろう……多分。
そういえば、佐祐理さんの家に入るのはミナと会った時以来だな。
その時もたしかトイレに行った帰りにこの廊下を通っていたら、なんか不思議な子に会ったんだよな。
「あぁ〜祐一様だぁ〜」
そうそうこんな感じの声の……
「え?」
「絵? 絵がどうしたのぉ?」
「って、うおっ?!」
さっきまで遠くで聞こえていた声が急に真下から聞こえてきたので驚く。
首を下に向けたら、俺の腰に抱きついて、無邪気な笑顔を浮かべる水色の髪の少女がいた。
おいおい人間技じゃないだろ、今の。
「えへ、お久しぶりね。祐一様ぁ」
相変わらず現実世界ではあり得ない敬称で俺を呼ぶ少女。
あの時は「様」付けされて驚いたのを覚えてる。
今は周囲にそういうやつが増えたから慣れてしまったけどな。
……本当、慣れって怖い。
「あ、あぁ……えーと――ルドラだったっけか?」
「覚えてくれてたのぉ? う、嬉しいぃ……」
抱きつきを強くして喜びを表現するルドラ。
その姿はお気に入りのぬいぐるみを決して離さない子供のように見える。
どうでもいいけど、段々ベアハッグになってきている気が――
「って、痛いから痛いから痛いから!」
「えへ、えへへ……祐一様ぁ〜」
声と裏腹にどんどん強くなる締め付け。
さ、さすがに息苦しくなってきたかも……
「ちょ、ちょっ! 苦しっ! 苦しい!」
「……ぇ?」
さすがに限界だったので無理やりルドラを引き剥がす。
ふぅ、もう少しで呼吸困難に陥るところだった。
ルドラの方を見ると、叱られた犬のようにシュンとなっていた。
「ご、ごめんなさい、祐一様ぁ……」
「いや、別に怒っちゃいないんだけどな」
「ほ、本当?!」
「ああ」
目じりに涙を浮かべ、鬼気迫った勢いで俺に問いかけてくる。
それはまるでお仕置きを待ってる子供がお仕置きされたくなくて一生懸命謝っているような印象を与えてくれる。
別にルドラに悪気が合ったわけじゃないんだし、たかがこんなことで怒るほど、俺の器は小さくないつもりだ。
「ル、ルドラのこと見捨てない?」
「見捨てないって、大体ルドラは悪いことしてないだろうが」
「ほ、本当?!」
「ああ」
「ル、ルドラのこと見捨てない?」
「見捨てないって、大体ルドラは悪いことしてないだろうが」
「ほ、本当?!」
「ああ」
「ル、ルドラのこと見捨てないぃ?」
「見捨てないって、大体ルドラは悪いことしてないだろうが……ってこれじゃ、エンドレスだ」
「ほ、本当?!」
「だから続けるなって」
「えへ、だってぇ、楽しくなってきたんだも〜ん」
俺が怒らないって事をわかってくれたようで、ルドラは再び屈託のない笑みを浮かべる。
そこで俺は手に持っていたものを思い出した。
もしかしたら知っているかもしれないけど、念のために聞いてみよう。
「そうだ、ルドラは七夕って知ってるか?」
「タナバタ? ……んーと、えーと、ごめんなさい、わからない……」
「あー、わからないならわからないでいいんだ。別に俺は怒らないからな」
「本当、えへへ……祐一様は優しくて、ルドラは幸せだよぉ」
ルドラに再び影が差しそうになったので慌ててそう付け加える。
この程度で反応されると、彼女の過去に何があったんだろうと思ってしまうな。
いくら様付けされていても、会うのが二回目の俺にはそれを詮索する権利も資格もないんだけどな。
「七夕っていうのは、この紙に願い事を書いて笹に吊るすんだ。
そうすると、お星様が願いを叶えてくれるっていう海老で鯛を釣るようなイベントだ」
「へぇ〜、すごいイベントなのぉ。
ルドラも、ルドラもその短冊に願い事を書いてみたいの!」
「そっか、それじゃあ短冊を……っと、あ……」
ちょうど何も書いてなかった短冊とペンを一緒にルドラに渡す。
だけどそこで短冊を一枚しか持ってきてなかったことに気付いた。
おいおい、凡ミスにも程があるだろう、俺。
「一枚しかない……それじゃあ、ルドラは書けないよぉ……本当はやってみたいけど、ルドラはいい子だからガマンするぅ」
「いや、俺がガマンすればいいだけの話だし、これはルドラが書いていいぞ」
最悪、無くしたとかいってまた貰ってくればいいしな。
「うーん、でもぉ〜」
「いい子だったら遠慮はするな。ルドラはいい子なんだろう?」
「うん、ルドラはいい子だよぉ」
「ならいいよな。ほら」
我ながらトンデモ理論でルドラに短冊を押し付ける。
一度提案したものを引っ込ませるのは俺の美学に反するからな。
「あ、ありがとぅ……そ、そうだよぉ!」
「どうしたんだ?」
「えへへ、こうすればいいんだよぉ。ルドラはいい子で、おりこうさんだったんだぁ〜」
「こうすればって、なんか思いついたのか?」
とても馬鹿な感じに自画自賛してるルドラに尋ねる。
いい子とおりこうさんってなんか被ってる気がするのは俺だけだろうか?
「一緒にお願い事を書けばいいんだよぉ〜」
「へ?」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、短冊に一緒のお願いを書けばいいのぉ。
そうすればルドラも祐一様も書くことが出来るのよ」
「いや、そんなことしなくても俺がもう一枚持ってくれば――」
「わざわざ祐一様にそんなことさせられないもの。
それに一人で書くよりも祐一様と同じ短冊に一緒に書くほうがルドラは嬉しいのぉ」
両手を軽く握り胸に軽く押し当てながら微笑むルドラに不覚にもくらっとする。
子供っぽい印象がするルドラが一瞬だけ、大人びて見えた。
「祐一様はルドラと一緒じゃ……嫌?」
「嫌ってわけじゃないが……」
別にもう一枚短冊を持ってくるのは対して苦ではないんだけどな。
まぁ、ルドラがいいって言っているんだから、構わないか。
「わかった。じゃあ書くぞ、ほら」
「うんっ!」
まずは俺が、ルドラから短冊とペンを返してもらい、願い事を書く。
願いは、そうだな……これからも皆と一緒にずっといられますように、と――これでいいか。
あまり丁寧とはいえない字で、それを書くと、ルドラにペンと一緒に短冊を渡す。
「……別に魔法処理とかされているわけでもないのに、願いが叶うなんて不思議ですぅ」
「ん、なんか言ったか?」
「な、何も言ってないですよぅ。それじゃあ、ルドラも書きますねぇ」
ルドラは短冊に向かい合うと、既に願い事は決まっていたのかすらすらと書き始める。
だけど、少し書き始めて、ルドラは唐突に筆を止めてしまった。
「……むぅ」
「どうした?」
「なんでもないですぅー」
ぷいっと首を背けるルドラ。
口をアヒルみたいにして、いかにも不機嫌オーラを漂わせている。
こういう面を見ると、まだまだ精神的に幼いと思う。
子供な一面と大人な一面を併せ持つ、これくらいの年だとこんな感じなのだろうか?
ルドラが特殊すぎる性格の持ち主とも考えられるが。
「そぅだぁ……これをこうしてっと……」
「ルドラ?」
「はぃ、祐一様。お待たせしたのぉ」
ペンと短冊を俺に返却してくる。
どうやら裏側に書いたらしく、少女らしい丸みを帯びた字で『祐一様と幸せに暮らせますように』と、なんとも恥ずかしいことが書いてあった。
「よし、じゃあ飾りに行くか!」
「……えっと、ごめんなさい、祐一様。
ルドラね、ちょっと用事があって、一緒に行けないのぉ」
「そうか」
「本当にごめんなさいぃ、ルドラ、行きたいけど行けないのぉ……
行きたくないわけじゃないのぉ……だから、祐一様ぁ、ルドラを嫌いにならないで……」
「あー、用事なんだからしょうがないさ。俺は別にこんなことくらいでルドラを嫌ったりなんかしないぞ?」
たかだか誘いを断られたくらいで腹を立てては人付き合いなんて円満に進むわけが無い。
ましてやルドラはこういうのに敏感だしな。
俺はルドラの頭に手を乗せて優しく撫でる。
「俺はルドラのことを嫌ったりしないから、ほら、安心して用事を済ませて来い」
「ほ、本当に?」
「あぁ、祐ちゃん、冗談はつくけど嘘はつかないんだ」
「じゃあ、約束」
「あぁ、約束だ」
差し出してきた手をぎゅっと握りしめる。
手を離してもその約束だけは離れぬように。
「それじゃあ、短冊を飾るです〜!」
未だハイテンションを貫いているフィアの掛け声で、それぞれ短冊を飾り始める。
フィアの短冊を覗き込むと、前半はよく見えなかったが、後半には「一緒にいられますように」と書いてあった。
大方、俺と同じように皆と一緒にいられますようにとかそんなところだろう。
「てっぺんの方に飾るわよ。その方が先に願いを叶えてくれるかもしれないし」
「バカとなんとかは高いところが好きとはよく言ったものですね」
「というかそれ普通、隠す方が逆じゃない?!」
「……さすがにバカでもバカの意味はわかりましたか」
「にゃーーーーっ!!」
「猫カレーって美味しいんでしょうか?」
毛を逆立たせて、威嚇するエレナさんに、冷静に物騒なことを言ってるアビス。
エレナさんの短冊には「あの無表情メイドに一泡吹かせたい」と書いてあり、アビスの短冊には「相沢様がメイド属性に目覚めてくれますように」と書いてあるのが見えた。
エレナさんの願いは当分の間、叶えられることはなさそうな気がする。
アビスの願いには……もしバストが2サイズくらい大きくなったら、すぐにその夢は叶うぞ、アビス。
「1……2……3……4……」
「な、なにしてるの? absolute」
「夢のための努力、とでも言っておきましょうか」
「この前お昼の醤油顔の奥様のカリスマ司会者が言ってましたわ、それは豊胸体操ですね」
「胸を大きくするためには大胸筋を鍛えるのが最良ね。
その点では、あの運動は大胸筋を上手く鍛えられるから多少の効果はあるんじゃないかしら?」
いきなり豊胸体操を始めたアビスに、リムとミナがコメントする。
そういう二人の短冊には何が書いてあるのだろうか。
「そういえば、短冊には何を書いたのですか?」
「私はこういう非科学的なことは信用しないから、あまり期待してないことを書いたわ。
そういうあなたは何を書いたのかしら?」
「はい、無病息災、家内安全、泥棒猫排除、まぁ、皆さんが書くような当たり前の願いですわ」
……最後のは明らかに当たり前ではないと思うのだけど、反論が怖いので聞かなかったことにしておく。
「祐一さーん」
「あぁ、佐祐理さん。今日は招待ありがとうございます」
次々に笹に短冊を飾り始めたので、俺もそろそろ動こうかと思ったら、浴衣姿の佐祐理さんが俺の近くへと来る。
「いいえ、気にしなくてもいいですよ。ところで短冊になんて書きました〜? 佐祐理は「世界が平和でありますように」って書きました」
いかにも佐祐理さんらしい短冊だ。
天然だからというのもあるけど、物欲が少なさそうだもんな。
欲しいものはなんでも手に入りそうだし。
「俺は月並みです。「みんなとずっといられるように」って」
「祐一さんらしいですね」
「ははっ、そうですか?」
俺が笹に短冊を括り付けると、自分たちの分を括り付け終わったフィア達がやってきた。
「で、祐一さんはどんなお願いをしたですか?
も、もしかして、いたいけな三毛猫と永久に一緒にいたいとか書いてくれちゃったりしてくれてたりしちゃいますです?」
「妄想は大概にしとけや、バカ猫」
「ぱ、power?」
「はい?」
「……なんでもないわ」
「で、祐一は何を書いたのかしら〜――?!」
飾られた俺の短冊を見て、エレナさんが動きを止める。
何事かと覗き込んだ他のメンバーも同じように動きが止まる。
なにか文字でも間違えたか?
「ゆ、祐一、この短冊に書かれていることは――」
「ん、そのままの意味だが?」
「そ、それじゃあ、この後ろに書かれている――」
「あー、それは俺の知り合いに一緒に書こうって言われて。
やっぱり、一つの短冊に二つの願いはまずかった……か?」
ルドラのことは当たり障りない感じで言ったつもりだ。
それなのにフィアやらアビスやらの視線が怖いんですけど……
まさか俺、知らない間に地雷でも踏んだ?
「そですか。それじゃあ、どうやら私は知らなかったよですから説明してもらうです。
その一緒に過ごせますようにって『お互い』にお願いする人を」
「そうねぇ、私も聞きたいわねぇ」
異様な気配を発しながら、ジリジリと近寄ってくるみなさん。
だから思わず俺が後ずさりをしてしまったとしても、それは自然の摂理に反しない正しい行動だと思う。
いや、そうでなくちゃいけない気がする。
「自然の摂理に沿うことしかできないというのはロボットと同じですよ?
相沢様、だからきりきり白状してください」
「そうね。アビスがなんでそんなこと言っているのかはわからないけど、摂理というのは逆らうためにあるのよ?」
アビス、思考を読むな。リム、それに意味もわからなく賛同するな。
「ご主人様のことを知るのは仕える者の義務。お覚悟なさいませ」
「え、えーと……」
殺意に近い視線を浴び、足を後退させながら俺は、自分で書いた短冊を見る。
そこには『これからも皆と一緒にずっといられますように』の『皆で』の部分がペンで黒く塗りつぶされ、『二人で』と書き換えられてあった。
そして裏には女の子特有の丸みを帯びた文字。
――あぁ、そうか。ルドラがいたずらに書き換えたんだな。
「って、ちょっと待てぇぇぇっ!! これは誤解だ、六階だ!」
「6回も何をしてたです! キスです? キスなんです? それとももっとすっごいとこまで逝っちゃったですかぁ?!」
「うん、まずそれがものすごい誤解だな」
って冷静に突っ込み返している余裕はなさそうだ。
『「speed」、逃げ切れるか?』
『うん、無理』
『限界超えろ。お前なら出来る』
そう聞こえてきたような気がするspeedの心の呟きを一刀両断して、俺はspeedを発動させ風になる。
「に、逃げたですっ!」
「守護者相手にただのユンカースが通用するとでも思っているのかしらね」
「さて、狩りのはじまりですね……speedは後でお仕置きでもしておきましょう」
「そうね。紙やすりでごっしごっしとね、power」
「はい、ごっしごっしと、ですわ、dream」
その瞬間、speedの速度がギアをトップからローへギアチェンジしたかのようにがくっと遅くなる。
おい! 『speed』!! 捕まったらお前もただじゃすまないだろうが!!
「ふふふふっ……捕ま〜えた」
「ひぃっ……」
ふと気付けば肩にかかるエレナさんの手。
もう、無理だ。逃げられない。
「い、いやああああああああああああああああああああああああっ!!」
俺の絶叫と共に笹に吊るされた短冊が風に煽られて揺れた。
「ふんふふ〜ん」
「あン? 機嫌がよさそうダな、ルドラ。偵察中にイイコトでもあったカ?」
暗がりの部屋に調子っぱずれの鼻歌が聞こえる。
そんな帰ってきてから終始ご機嫌なルドラに、アグニが尋ねてきた。
「うん! 今日はね、タナバタってゆーのをやったのぉ」
「タナバタだぁ? あンな子供だまし信じてンのかヨ。
魔法があればンなモンしなくても大抵のもンは叶うダろ」
「ぶぅ……アグニはいじわるだよぉ……でもね」
「あン?」
「たまにはそういう子供だましを信じてみるのもぉ、楽しいものだよぅ?
……それにいろいろと役に立ったしぃ、ね?」
ルドラは無垢な笑みでそう呟いたのだった。
あとがき
今、何日だ?
え? 7月? 七夕ネタにはぎりぎりセーフかね?
というわけでリクエストの七夕で守護者かルドラを出す作品でしたー。
製作期間、3週間くらい……かな?
久々に書いた気がするルドラに、少々戸惑いをw
だからストーリーも影響受けて、ダメぽな感じになっていくんだとよくわかった。
それだけが今回、得られたことw
こんな感じでどうでしょうか?
2006年7月31日作成