「ふぁぁぁぁっ……」

 

水瀬家に大きなあくびが一つ鳴る。

そのあくびの主はベッドの上で大きく伸びをして自らのベッドから降りる。

 

「よく寝たですぅ〜やっぱり平日のごろ寝は最高です」

 

そう呟くと時計を見上げる。

―――9時。

微妙な時間である。起きるには勿体無く、二度寝するには遅すぎる。

 

「しょうがないです。二度寝は諦めるとするです」

 

少し勿体無いかなと思いつつも、ここで寝たらおそらく起きたときには昼過ぎだと、寝起きのゆるゆるな頭で考えた彼女はよろよろと動き出す。

 

普通、平日の9時までごろ寝をするような人間にロクな奴はいないだろう。

休日ならごまんといそうなそれも、平日というだけでそれはかなり限定される。

大抵は水商売やニートのような昼間に時間の束縛を受けない人達だ。

 

でもご安心を、彼女は水商売でもニートでもない。

だって彼女は―――

 

 

「さて、秋子さんが用意してくれたキャットフードでも食べてくるです」

 

 

―――猫、だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年相沢祐一A.S.06

〜魔法青年のいない魔法青年〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜たらふく食ったです〜」

 

一階に用意されてあった朝食をたいらげ、満足な様子で自らの部屋……正確には祐一が居候をしている部屋に帰ってきた縞模様の猫。

器用に前足でぽんぽんと満腹なお腹を叩いている。

この猫。名前はフィア・クラッセといい、実は言うと魔法の世界から来たメルヘンな『人間』である。

まぁ、見た目はどう見てもただの猫。

それは名雪がフィアを見た瞬間に猛禽類が大好物のネズミを見つけたかのような目で襲い掛かったところからも十分、いや、十二分に証明できるだろう。

ただ今のような仕草―――お腹をぽんぽんと軽く叩きながら二本足で歩いている―――を見ると、どんなに彼女が猫っぽくても、彼女が猫だという自信がなくなるのは火を見るより明らかなのだが。

 

「今日は祐一さん達は学校、秋子さんは仕事って言ってたですから夕方まで暇ですね。

 さて、どうやって時間を潰すですか〜?」

 

腕を組んで考えこむ猫……もといフィア。

はたから見ると不気味な光景かもしれないが本人は至って真面目だ。

 

「そです。折角だから守護者達と遊ぶのもいいかもしれないです」

 

何かを思いついたか、ぽんと手を広げた上にもう片方の手を乗せる仕草をしてフィアは祐一の机によじ登って一段目の引き出しを開ける。

 

「…………」

 

……中には一冊の本が入っていた。

しかも表紙は白い戦闘服を着たツインテールの魔女っ子という、フィアにとって、最悪のポイントが全て集結した、まるでフィアを怒り狂わせるために作られたかのような代物。

 

「……」

 

無言で引き出しを閉じる。

もちろん中に入っていた例のフィアキラー本(今命名)は取り出してだ。

 

「ぁ、ばかぁ〜!」

 

叩き付けた。

しかも何故か金○先生風に。

芸が細かい猫である。

 

「……あとでわざと飲み物こぼしてやるです。

それも熱々に煮えた梅こぶ茶を溢してやるです」

 

さり気なく黒い言葉を吐いてから、本をそのままに一段下の引き出しを開ける。

そこには蒼く光り輝く宝石―――レイバルト・バリアントと1、2、4、5と刻まれた宝石があった。

 

「こんな所に置くなんて祐一さん、本気でユンカースが狙われてることを考えてないんですか?」

 

やれやれとため息をつくフィア。

 

(でも、それだけみんなを信頼してるからかもしれないですね。

 そして私を信頼してくれてるから、祐一さんは安心して学校に行けるですね)

 

「そうだと決まったら不肖、このフィア・クラッセ!

 立派に祐一さんのいない家を守って見せるですっ!!」

 

 

固く前足を握り、高らかに宣言するフィア。

※家主は秋子さんです。

 

 

『もう何いきなり大声で叫んでるのよぉ、フィア〜』

『……眠れません』

『安眠妨害ならよそでやってくれる?』

『あ、いけませんわ。もうこんな時間じゃありませんか』

 

そんなフィアの姿を見てぽつりと漏らすのは1、2、4、5という数字が刻まれた宝石達。

上からNo.5『time』ことエレナ。

No.1『absolute』ことアビス。

No.4『dream』ことリム。

No.2『power』ことミナである。

『守護者』と呼ばれる彼女達はただの宝石ではなく、それぞれ独立した意思を持ち、人の姿になることができる。

さすがに人間形態でここに住んでいると、主人である祐一の社会的な地位に甚大なる被害を与えかねないので、この家の中では彼女達は宝石の姿がデフォルメになっている。

 

『で、なに高らかに叫んでるの? フィアは』

 

エレナがフィアに話しかける。

猫に話しかける宝石というのも見てみれば非常にシュールな光景だ。

 

「今日は誰もいないですから。私が留守をしっかりと守らなきゃいけないって決意表明をしてたところです」

『決意……表明?』

『別段、そのようなこと決意表明する必要、ないと思うのだけれど?』

「まぁ、リムの言うとおり、決意表明したから何が変わるというわけじゃないですけど。

 そういう決意をしたい気分だったです」

『気分……ねぇ。私には理解しかねるわね』

『私はわかりますわ。

 たしかに決意したから何するというわけでもないのでしょうけど、決意をすることで自分の身が引き締まるというか、新しい自分に生まれ変わる感覚になりますもの』

「ま、そんなことはどうでもいいです。

 みんなには私の暇つぶしに付き合って欲しいです」

『まぁ、別にいいんだけど……』

 

エレナの宝石が光り輝き、一つの人型を形作る。

腰まで伸ばした金髪、丸みを帯びた体、そして頭から生えている犬のような耳。

 

「トランプもUNOもみーんなやりこんじゃったじゃない?

 今更なにをやろうっていうの?」

 

完全な少女となったエレナはその続きの言葉を発する。

 

「というより、アビスの能力で明らかに面白くないのよね」

「そうですわ。人の心を読むなんて卑怯で、卑劣で、汚いですわ!」

「……そう言われても」

 

エレナに続き、次々と人の姿に変化していく守護者達。

 

「それじゃあ、どうするです?」

「どうするって……」

「それなら今日はお掃除しませんか? 日頃のご主人様への感謝も込めて」

 

突然、ミナがそう提案する。

掃除は日頃から秋子がしているのだが、最近は仕事が忙しいのか、物の少ない祐一の部屋でも細かい所や角にはほんのりと埃が積もっている。

それがミナの『ご奉仕精神』の琴線に触れたのだろう。

 

「秋子様達もご主人様がお世話になってる方々。

 ご主人様がお世話になっているのであれば、秋子様達にもご奉仕すべきだと思いますわ」

「……そうですね。私も常日頃、戦い以外で相沢様のお役に立ちたいと思っていたところです」

「私は肉体労働は性に合わないのだけど」

「あたしもちょーっとね……そういう細々とした作業って苦手だし」

 

半々に意見が分かれる守護者達。

スコールに仕えていた頃から様々な家事をしてきたアビス。

半分が奉仕の心で出来ているミナは目を輝かせて張り切っているが、元々研究者肌のリムや掃除のような細々とした作業が苦手なエレナはあまり乗り気ではなく、ちょっと渋い顔をしている。

 

「これで2対2ですか」

「フィアの意見でやるかやらないかが決まるわね」

 

4人の視線が一斉に縞模様の猫に注がれる。

その当の本人―――もとい当の本猫であるフィアは腕を組んで考える。

 

「う〜ん……どうしようですか……」

「……相沢様へのポイント稼ぎ」

「よし! 早速やろうです!」

 

アビスの呟きが終わるか終わらないかの絶妙な速さでフィアが即決する。

 

「結局、あたし達も参加……するのよね?」

「じゃあ、早速分担を決めましょうか?」

「……ってリム、あんたさっきまで乗り気じゃなかったでしょ?

 あんたもまさかポイント稼ぎ?」

「……ここで借りを作っておけば後々役に立つかと思っただけよ。

 そう、決して、祐一が、喜ぶため、じゃないわ」

 

その無表情な顔を少しだけにやけさせ、そう一言一言区切りを付けて答えるリム。

どうみても説得力は皆無に等しいのは火を見るより明らかだ。

 

「な、なんか変なところで区切ってるのが怪しさ爆発だけど……まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」

「そういうことも何もそれが唯一絶対の私が掃除をする理由だわ」

 

でもそうはわかっていたとしても、深くは追求しない優しいエレナ。

 

「それじゃあ、私とtime、powerとdream、フィア様で組になりましょうか?」

「それでいいですわ。その代わり人数が多い私達が一階を担当させてもらいますわ」

「そうね。それが一番合理的だわ」

「た、大変そうです」

「まぁ、大変なのはどこを掃除してもそうですわ。行きましょう? 二人とも」

 

ミナを先頭にフィアとリムが一階に下りる。

 

「……行きましたか。それではtime。まずはこの相沢様のお部屋からです」

「はいはい、とっととやりましょう」

 

 

こうして祐一へのポイント稼……げふんげふん、水瀬家の大掃除が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一階〜

 

「とりあえず大まかなところは秋子さんが綺麗にしているみたいね」

「そうですね。じゃあ、フィア様は窓の方を掃除してもらえますか?」

 

と言ってミナが人に戻ったフィアに渡したものは―――

 

「……古新聞です?」

「そうですわ。濡れた古新聞で拭いた後、乾いた古新聞で拭くと綺麗に掃除が出来るのです。なんでも新聞のインクが汚れを吸着してくれるらしいと、佐祐理様の家のメイド長さんが教えてくださいました」

「わかったです」

「リムは和室の方をお願いできますか?

 畳は水で薄めたお酢の中に布巾を浸けて拭いて下さい。

 障子は大根おろしの絞り汁をはけで塗ると綺麗になります」

「……お酢や大根はどうするのかしら?

 古新聞なら減っても特にいいものだけど、勝手に食べ物を使うのは―――」

「はい、リム」

 

いつの間に用意したのか、ミナの右手には某有名メーカーのお酢、左手には真っ白な形のいい大根。

 

「……どこから出したのかしら?」

「……え、普通に袂、からですけど?」

「……袂?」

「袂です」

「もしかして古新聞もかしら?」

「はい、それが何か問題でも?」

 

―――問題ありありだろう。どうやってあんな小さな所から取り出したのよ。

 

いつもならそう間髪入れずに突っ込みを入れるリムなのだが、ミナの発する

『世の中には知らない方が幸せなこともあるのですよ』オーラのおかげで突っ込むことが出来ないリム。

 

「二人とも、そんなところで突っ立ってないで早く始めようです!」

「え、えぇ……」

「そうですね。早く終わらせてしまいましょう。

時間が余りあるわけじゃありませんし」

「ふふっ、祐一さんの喜ぶ姿が目に浮かぶですぅ〜」

「本当です」

「……」

 

こうしてリムの中に新たな疑問が芽生えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜二階〜

 

「えーと、これはここに置いてあったわよね。

 あと、この本は……アビスー! これどこに置いた方がいいかしらー?」

「それはベッドの上でいいと思います。

 あと、布団を干してもらえますか?

 それが終わったら次は名雪様のところへ行って同じようにして下さい。

 私もこれが終わったらあゆ様と真琴様のお部屋に行きますので」

「わかったわ。本当、疲れるわね〜」

 

尋ねるエレナに掃除機かけるのを一旦止め、そう答えるアビス。

エレナは手に持っている目覚まし時計をベッドの脇に置くと、その細腕に余りあるほどの大きさの布団を持ち上げてベランダに干す。

 

「それじゃあ、あたしは名雪の部屋に行ってくるわね」

「……」

 

仕事を終えたエレナがアビスに話しかけるが、アビスからの返事がない。

見ると、アビスは一冊の本をまじまじと見つめ、微動だにせずに固まっていた。

 

「アビス、どしたの?」

「……」

「その本、祐一のよね? その本がどうかしたのかしら?」

「time、聞きたいことがあります」

 

本の中身を覗き込もうとしたエレナにそれまで固まっていたアビスが声をかける。

 

「何かしら? あんたがあたしに聞きたいことなんて珍しいじゃない」

「相沢様は……ロリコンなのでしょうか?」

「ぶっ?!」

 

いきなりの爆弾発言に対応する間もなく吹き出すエレナ。

―――アビスの顔に。

 

「……汚いです。time」

「いいいいいきなり何言うのよ! 祐一がロリコン?」

「はい。だってほら」

 

アビスがエレナに見せたのは先程フィアが梅こぶ茶を溢してやると宣言した例の『フィアキラー』

たしかにここまでピンポイントのターゲット層を狙った本だと、祐一がロリコンではないかと思うのは至極当然のことなのだろうが。

 

「でも、一概にこれだけで決めてしまうのはどうかと思うわよ?

 もしかしたら祐一の一時の過ちってやつかも知れないでしょ?」

「time」

「そうよ、祐一がロリコンなはずないわ。きっと友達から押し付けられて仕方なく仕方なく……」

「time、何故そんなに熱く語っているのですか?」

「……え?」

 

アビスの一言に今度はエレナが固まる。

エレナの視線がアビスと自分の胸に行く。

 

アビスの胸―――容姿のバランスにあった小振りなもの。

エレナの胸―――容姿のバランスにあった大きめのもの。

 

「別段、私は気にはしないのですが……寧ろこれが本当なら私にも多少は勝機が見えてきますし。

でもtimeのそれは―――ふっ、大きすぎますね」

「にゃ、にゃにゃにゃ……」

「今のtimeの言葉はまるで『自分自身に言い聞かせてるみたい』に聞こえるのですが?」

 

にやりという擬音が聞こえてきそうなくらい意地悪な笑みを浮かべるアビス。

普段の無表情な彼女からは想像もつかないのだが、これも祐一の教育(?)の成果なのだろう。

対してのエレナはその犬のような耳に反して、猫のような呻き声を上げている。

 

「にゃ〜〜ぁ〜〜」

「さて、反論は? time」

「べ、別に祐一のことは……」

「相沢様のことは?」

「た、確かに好きだけど、それは仲間としての好きで―――」

「それじゃあ、timeは無関係ですね」

「そ、それは……」

「もっとも、相沢様はロリコンのようですから、いくら『巨乳』のtimeが頑張ろうと、興味も向けられないでしょうが……ね」

「そ、そんなことないわ!」

 

アビスの挑戦的な発言にエレナが素早く噛み付く。

言ってしまってからしまったと感じるエレナだが、既に後の祭りであった。

餌に食いついたとばかりにアビスの目がきらりと光る。

 

「相沢様が異性として好きならばともかく、ただの仲間として好きなだけのtimeに相沢様の嗜好がどうであろうと関係のない話だと思いますが?」

「な、仲間だからこそ祐一の怪しい嗜好が心配なのよ!!」

 

祐一はロリコンというのが確定済みなのが少々悲しいところだが、エレナが慌てて取り繕う。

 

「……決めたわ! あたしが祐一のその歪んだ嗜好を叩きなおしてあげる!!」

「time?」

「そうよ。これは祐一のために必要なことなのよ。

べ、別に私にとってはぁ、祐一はただの……本当にただのよ? ただの仲間だけど、その仲間が間違った方向に進もうとしてるのなら、それを正すのも仲間の使命よね。うん!」

「time、なに一人で自己正当化しようとしてるのですか?」

「見てなさい! 祐一を真っ当な道に進ませてあげるんだから!」

 

「強がらずに、素直になればいいんですが……timeならいいライバルになると思うのですがね」

 

アビスの突っ込みも聞く耳持たず。

ゴーイングマイウェイ、我が道を行く。

そんな少々空回りをしてる感じがしないでもないエレナをよそに、アビスが呆れた風にぽつりと呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ、ただいま……」

「祐一さん! 帰ってきたんですね!」

 

夕方、いつものごとく百花屋で奢らされた祐一が帰ってくると、秋子が慌てた様子で玄関にやってきた。

ちなみに名雪達はまだ百花屋で食事中で、祐一は先にお金を渡して帰ってきていた。

 

「どうかしたんですか? 秋子さん。そんな血相変えて?」

「それが、家に空き巣が入ったみたいなんです」

「えぇ?!」

 

靴を乱雑に脱ぎ捨て、慌ててリビングに入る祐一。

 

「そ、それで、なにを盗まれたんですか?」

「それが……何も盗まれてないんですよ」

「へ? それじゃあ、なんで空き巣が入ったって?」

 

祐一の指摘に秋子は更に困った顔になる。

 

「それが、部屋が綺麗に掃除されていたんです。

 最近、仕事で忙しかったので細かいところまで掃除はしてなかった筈なのに、まるで大掃除したみたいにぴっかぴかになっているんです」

「それでですか……でもそれって空き巣って言わないんじゃないんですか?」

「そうなんですよ。特に何も盗まれていませんし、家もピカピカになっているので警察に通報はしないことにしたのですけど、どう考えても不思議で不思議で……」

 

そう言うと頬に手を当てていつものポーズで考え込む秋子。

その姿はとても妙齢の女性とは思えないくらいの美しさを纏っている。


(ま、まさか!)


祐一は真相を確かめるため、未だ考え込んでいる秋子に二階に行っていると伝え、自室に戻ることにした。

 

 

ガチャッ

 

 

部屋に入る。

祐一の部屋も不思議な空き巣の例外ではなく、日中ずっと日光を受けたのか、ふかふかに盛り上がった布団、綺麗に掃除された塵一つない床、光が反射して自分の顔が見えるのではと思わせるくらいに磨かれた窓と、まるで未使用の部屋なのではないかと思わせるくらい綺麗に掃除されてあった。

唯一この場に誰かが住んでいるという証拠になってるのは、整えられたバスケットの中ですやすやと眠っている縞模様の猫、フィアだけだ。

 

「な、なんか俺の部屋じゃないみたいだな。ま、綺麗なら綺麗な分、気分はいいけど。

ってそんなことよりも!」

 

彼女達が掃除をしたとすればおそらくあの本は―――

昨日、北川に押し付けられた本の安否を確かめるべく、祐一は慌しくそれを入れておいた机の引き出しを開ける。

 

「……やはりか、ということは!」

 

そこに置いておいた本は姿形なく消え失せていていた。

 

引き出しを閉めずにまっすぐゴミ箱へと駆け寄る祐一。

これは決して祐一があの本を気に入っていたわけではなく、北川からの借り物を無くしてしまったらいけないから探しているということを理解して欲しい。

まぁ、傍から見れば、どう見ても前者にしか見えない行動ではあるのだが。

 

「あった!」

 

案の定、その本はゴミ箱に打ち捨てられてあった。

とりあえず親友から押し付けられたとはいえ、借り物を無くさなくて済んだということに安堵する。

そして、彼女達への追求を考える前にその本をゴミ箱から取り出そうとしたその時、彼は異変に気づいた。

 

「……ん?」

 

湿っている。しかも薄っすらとだが熱を帯びている。

そしてほのかに香る梅の匂い……

 

「って、ぬ、濡れてるのか?! しかも梅こぶ茶で?」

 

 

 

 

後ろで眠っていたはずの縞模様の猫がいつの間にか起き上がって、
戦闘態勢でにやりと笑っていることに、まだ祐一は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

少し修正。

甲羅さんのリクエストで「祐一のいない魔法青年」でしたー

どうでした? 満足していただけましたでしょうか?

ま、まぁ、最後に祐一が出てきたのは気にしないでください。

あぁもしないと終わらなかったのですからw

にしても、最近のリクエストは結構悩むネタが多いなぁ……まぁ、それだけ書きがいがあるけど。

 

事実上、これが免許取る前で最後の魔法青年になる予感。

 

 

 

2006年1月30日作成