それは悪行。数々の生物を襲い、最悪の兵器を復活させようという悪夢。

それは善行。大切な人を守るために全ての悪を背負い込む忠誠。

善と悪はコインの表と裏であり、絶対に交わることはないけれど。

二つの模様を知ることはこんなにも重いことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一 ねくすて

68幕『鍋』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月9日

 

今日も平日。なのはちゃん達も学校へ行ってしまい毎度のことながらも暇つぶし。

昨日はクロノに付き合って訓練なんぞに明け暮れてみたが、きついのなんの。

向こうは向こうで何を過大評価したのか本気でぶつかってくるし、敵にやられる前に味方にやられるかと思った。

とまあ昨日は体を思い切り苛め抜いたので今日は訓練も休憩。体と心の安息を得るべき手段はないかと思考する。

そこで頭に思い浮かんだのは先日忍さん達と共にすずかちゃんを迎えに行った図書館だった。

普段は本なんて滅多に読まない俺ではあるが、平穏を求めている体に図書館の静かな環境はうってつけだし、受験生でもある俺にとっては大量の資料もあり、非常に勉学のしやすい環境でもある。

というわけでフェイトちゃんが登校したのを見てから家を出て、道を尋ね、地図を睨みながら進み、なんとか見覚えのある神殿風の白い建物を見つけることができた時には既に時間がお昼に差しかかろうとしていた。

……俺がこの街にまだ慣れていないせいだろう。そうだと思いたい。

内装は白を基調としつつ、日の光が差し込んでくる高い天井に、きれいに磨き上げられた床、フロアの真ん中に設置されている二階へと続く階段と、それを囲むように大小様々なくもりガラスの扉がまず目に入る。扉にはそれぞれシール文字で行き先の説明がなされており、文字を追っていくと目的地である開架図書室は俺から見て手前の右角の辺りにある大きな扉だとわかった。

扉に軽く力を入れて部屋の中に入ると、ほのかな暖房の熱気が出迎えてくれる。

冷えきった体には最高だろうが、それまで歩いていた俺にはちょっと鬱陶しいくらいの暑さだ。

図書館によく行くわけではないので、図書室の大小なんて全くわからない俺だが、ここの図書室は俺が第一印象で広いと感じられるほどには広い図書室だった。少なくとも俺の高校の図書室よりはでかい。

外からの光を取り入れるように設計されたのか、図書館の入口側の片面は全てガラスで構成されてあり、置いてあるソファーに座って差し込む日光で日向ぼっこをしながら新聞を呼んでいる爺さんもいる。

本棚を挟んだ逆側は長机と椅子が向きあわせでいくつも並べてあり、俺のように自習が多くなった高校を休んだ受験生があくせく勉学に励む姿や、それとは対照的に厚めの本をゆっくりと読んでいる姿もあった。

平日の昼間のせいか人は当然少ない。静かなことにこしたことはないので嬉しいことだが。

早速机の一箇所に持ってきた鞄を置き、着ていたコートを椅子にかけ、本の海へと飛び込む。

受験シーズンだからか、参考書の本棚は受付の近くに文理どちらも集められており、探す手間もなく参考書を揃え終えて陣取った机に戻ろうとすると、本棚の上の方を見上げている車椅子の少女の姿が見えた。高いところに欲しい本があるのだが、届かないのだろう。

 

「どれを取りたいんだ?」

 

車椅子の少女に声をかける。

見てしまったのも何かの縁。助けてやれるのに手を伸ばさないのも馬鹿らしい。

決して勉強する時間を一秒でも減らそうとか考えてないよ? 本当だよ?

 

「あの一番上のなんですけど」

 

声をかけられた少女は一瞬驚いたが、すぐにこちらの意図を汲んで欲しい本の場所を指差しと独特のイントネーションで教えてくれた。俺の身長よりも高い位置にその本はあり、車椅子でなくても少女が届く高さではなかったようだ。

俺は受付から脚立を借りてくると棚の前に置いて上がると、目的の本を棚から抜いて降りる。厚めの本だからか抜いた時に意外に重くてバランス崩しそうになったのは秘密だ。

 

「はい、これ」

「わあ、ありがとうございます」

 

本を渡すと、またあの独特のイントネーションでお礼の言葉を言ってくれた。

テレビで見たくらいの知識しかないが、これはたぶん関西地方の喋り方だろう。

 

「手の届かない所の本が欲しくなったらまた呼んでくれよ。今日は一日ここで自習してるから」

「なんか、すみません」

「いいって、困った時はお互い様だ」

 

お礼を言われて少しいい気分に浸りながら、床に置いた参考書を持って机の方に移動しようとすると少女に呼び止められた。

 

「わたしもこれは借りないで机で読もうかな思ってたところなんです。

 よかったら隣で読んでもええですか? それならお兄さんを探す手間も省けますし」

「それは構わないぞ。隣であまり騒がれると困るが」

「そんなことしませんて、図書館で騒いだら司書さんに怒られますよ」

 

言われてみればそれもそうだ。その静寂が欲しくて図書館に来たわけだしな。

 

「じゃあ、こっちだからついてきてくれ……えーと?」

 

そういえば名前を聞いてなかったなと、俺は目の前の少女の呼び方を悩んでいると、考えを察してくれたのか彼女のほうから自己紹介をしてくれた。

 

「わたし、はやてっていいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、祐一お兄さんは大学の下見に海鳴にきたんですか」

 

俺の表向きの事情を話すと、はやてちゃんは心底楽しそうになのはちゃんの髪よりも深い茶色のショートを軽く揺らして相槌をうった。

勉強をしていたつもりがいつの間にかはやてちゃんとのお喋りになってしまったのは、俺の集中力のなさのせいか、それとも出会ったばかりのはやてちゃんのことをもう少し知りたいと思ったせいか。

 

「はやてちゃんは関西出身か? こっちじゃ聞き慣れないイントネーションだけど」

「はい、生まれが関西でこっちに移うてきたんです」

「そうなのか、こっちへ来たのはやっぱり両親の都合とか?」

「わたし両親はいないんです。ちっちゃい頃に亡くなってしもて」

「そ、そうか、ごめんな……」

 

少し仲良くなったからと言って踏み込みすぎたかもしれない。

無神経なことを言ってしまったと俺が頭を下げると、はやてちゃんは気にしないでと手を前に振る。

 

「そんな気にしないでください。確かに両親はもういませんけど、わたしにはそれに代わる以上の大切な人達がいますから」

「そうだとしたって、聞かれたくないことを聞いちゃったんだからな。ここは黙って謝られてくれ」

「ふふ、祐一お兄さんはええ人ですね」

 

頭を上げると微笑んでいるはやてちゃんの顔。

歳の離れた女の子にいい人って言われるのもなんか複雑な気分だ。

 

「ところで祐一お兄さん、お昼はまだですか?」

 

そういえばここに来るまでに必死すぎて朝食から何も食べていないことを思いだした。

はやてちゃんの言葉に首を縦に振ると、はやてちゃんはちょうどよかったとばかりに顔をほころばせた。

 

「よかったら一緒に食べませんか? ここには購買もあるんです」

「そっか、じゃあそうするかな」

 

勉学という名の雑談を一時止めて荷物をまとめると、はやてちゃんの案内で俺はその食堂とやらがある場所へと移動する。

途中で大変そうだったのではやてちゃんの車椅子を押してあげると、ちょっと戸惑ってからありがとうと返してくれた。

購買のコーナーは奥にあったエレベーターで二階へ上がった目と鼻の先にあった。

広くはないが、日当たりのいいフロアに机とテーブルが数セット置かれている。

俺ははやてちゃんにスペースを確保してもらうと、購買の方へ移動する。

駅のホームにありそうな売店形式で所狭しと商品が置いてある

俺は適当に菓子パンとカップ麺を買い、自販機で缶ジュースとコーヒーを買ってはやてちゃんの所に戻ってきた。

 

「はい、オレンジジュースでいいか?」

「あ、お金は……」

「いいさ。さっきの詫び代わりにでもしてくれ」

「じゃあ、いただきます」

 

俺からオレンジジュースを受け取る。

礼儀もなっていて凄くいい子だ。もしかしたらあの境遇がそうさせたのかもしれない。

……いけないな。無神経にこういう風に首を突っ込むのは。

 

「ん? はやてちゃんはお弁当なのか?」

「はい、今日は一日図書館で過ごそう思うてたので」

 

可愛い柄の布に包まれたお弁当箱を見て尋ねるとそう返ってきた。

もしかして手作りだろうか?

 

「はい、と言っても残り物詰めただけですけど」

 

苦笑しながらそう謙遜するが、元はといえばその残り物をはやてちゃんが作ってるわけで。

カップやきそばですらまともに作れなかったことがある程の料理音痴な俺からすれば、料理スキルを持ってる人はそれだけで羨望の的だ。

はやてちゃんが弁当箱のふたを開けると、色とりどりのおかずがぎゅうぎゅうに詰められている。

おかずはどれも美味しそうで、見てるだけでもおかずになりそうだ。

 

 

「へー、うまそーだな」

 

カップ麺はあと1分ちょっとは待たないと出来上がらないので、先におかずを見ながら菓子パンの袋を開けて頬張る。

おかずになるかなと思って咄嗟にやったことだが、意外にもいつもの菓子パンよりも美味しく頂けた気がするのは気のせいじゃないと思う。

 

「もしよかったら、少し食べます?」

「へ? いいのか?」

「ええですよ。お弁当もいろんな人に食べてもろた方が幸せですから」

 

それなら構いなくと、俺は黄身と焦げがちょうどいいバランスで美味しそうな卵焼きをつまんで口の中に放り入れる。

口内に甘みが広がり、外見だけではなく味も十分その姿に伴っていた。

 

「合格」

「な、なんのですか?」

「俺の嫁に」

「ほなら、立候補しようかなぁ? 祐一お兄さんは優しいええ人やし」

「……」

「ど、どないしましたか? 祐一お兄さん」

「いや、やるなぁ……って思わず感心してしまった」

 

アリサちゃんの時も少し思ったが、俺のボケスキルはもう時代遅れなのだろうか?

いくら関西出身とはいえ、年下にこうも軽くボケを流されると軽くヘコむ訳だが。

 

「関西の人ってみんなこうなのか?」

「まあ、わたしも長く関西にいたわけやないですけど。

関西出身やからってお笑いにみんな強いわけやないと思いますよ。多分」

「じゃあ、はやてちゃんがお笑いに強いってだけか」

「そういうわけやないと思いますけど……」

 

どちらにせよ俺のボケセンスじゃまだまだ関西は狙えないということか。

別にお笑い芸人になりたいわけじゃないが。

 

「ふう、ごちそうさん」

「わたしもお腹一杯やー」

「それにしてもはやてちゃんの料理は美味かったな」

「あはは、おだてても何も出ませんよ?」

 

お互いに食事を終えて、程よく満たされたお腹をさすって一満足。

その後勉強も忘れて、はやてちゃんとその場で親睦を深めていたら、時間は既に4時を回ろうかとしていた。

 

「あ、はやてちゃん、今日はここにいたんだ」

 

日も傾き、窓にも夕日が差す頃合。

そろそろ帰る時間かなとはやてちゃんに話しかけようとしたとき、背後から聞き覚えのある声がする。

振り向くと、恭也さんの彼女の忍さんの妹でなのはちゃんの親友でもあるすずかちゃんがこちらに歩いてきていた。

でも何故にはやてちゃんのことを知ってるんだろう?

 

「すずかちゃん! 紹介するんよ、この人は今日会った――」

「あれ、祐一さん?」

「おお、すずかちゃんじゃないか」

「……もしかして二人とも知り合い?」

 

俺からすればはやてちゃんとすずかちゃんが友達だっていうのにビックリなんだがな。

でもこの前ここに来たのはすずかちゃんを迎えに来た時だし、すずかちゃんがこの図書館に頻繁に通ってるのなら、同世代のはやてちゃんと友達になってたって可笑しくはないか。

 

「ああ、すずかちゃんの友達と俺が友達でな。その繋がりで」

「そうやったんですか」

「祐一さんもはやてちゃんと知り合ってたんですね」

「知り合ったのは今日だけどな」

「へぇ、知り合ったばかりとは思えないくらい仲が良さそうです」

「良さそうやなくて、仲がいいんよ。な? 祐一お兄さん」

 

手を取って俺に同意を求めるはやてちゃんと、その光景を見て笑っているすずかちゃん。

まったく、なのはちゃんといい、フェイトちゃんといい、俺は小さい子に懐かれやすい体質なのだろうか?

たまには美由希さんみたいな同世代の女の子とも……なんか寒気がした。考えるのは止めておこう。

 

「そや! もしよかったら晩御飯も一緒にどうですか?」

 

突然、はやてちゃんがそう提案してきた。

聞けばすずかちゃんや俺との親睦会も含めて、手料理を振舞いたいのだとか。

はやてちゃんの料理の上手さは先程食べたお弁当だけでも十分理解してるし、リンディさんには連絡でも一本入れておけば大丈夫だろう。

すずかちゃんの方を見れば、はやてちゃんの手料理が楽しみと、今にも携帯で連絡をつけそうな具合に行く気満々のようだ。それでも図書館だから携帯を使用しないところはやっぱりよく教育されたいい子だと思う。

 

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「私も家に連絡してきます」

「ほな、もうそろそろ迎えがくると――」

「はやてちゃん、探しましたよ」

 

はやてちゃんを呼ぶ声の方を見れば、金髪にライトグリーンのセーターを着た女性と――

 

「主はやて、我々にあまり心配をかけないで――!?」

「!?」

 

紫の髪を黄色いリボンでポニーに結び、白いジャケットの下には髪よりも淡い紫色の服を着こなす女性……シグナムの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! 今日は鍋や! すずかちゃんも祐一お兄さんも遠慮しないでどんどん食べてください」

 

招かれたはやてちゃんの家のリビングで、俺とすずかちゃんははやてちゃんの『家族』と共に寄せ鍋を囲んでいた。

 

「はい、すずかちゃんも祐一さんもたっぷり食べてくださいね」

「ありがとうございます。シャマルさん」

 

はやてちゃんを迎えに来た金髪の女の人……シャマルがご飯をよそって前に置いてくれた。

 

「うめー! やっぱはやての作る飯が一番だな!」

「もう、ヴィータ! お客さんの前なんやで」

「だ、だって、今日は動き回って腹減ってるんだもんよ……」

 

目の前でがつがつと鍋の具を食べている赤い髪を三つ編みにした女の子がヴィータ。

記憶が確かなら鬼神のような強さで俺やなのはちゃんを圧倒していた子だが、はやてちゃんに叱られてしおれているその姿は相応の子供らしさを持った少女といった感じである。

そして――

 

「なあ、どうしてこの前対立したばかりの俺達が鍋を囲んでるんだろうな?」

「主はやてに友人が出来るのは嬉しいが、まさかお前だとはな……」

 

俺の隣で鳥団子を食べているシグナム。

アルフが戦ったっていう獣人タイプのムキムキの男がいないが、なのはちゃんや俺達を襲ったメンバーが勢ぞろいしている。

まさか……まさかはやてちゃんがこいつらのボスなのだろうか?

 

「ほらほら、祐一さんも一杯食べてください。みんなで囲む鍋は一種の戦争や!

 食うか食われるかの弱肉強食なんよ!」

「あ、ああ……」

 

はやてちゃんに促されて自分の取り分を口に運ぶ。

白菜にだしの味が染みてて美味しい。

鳥団子もよく煮えていて、はやてちゃんの料理の腕はやっぱり本物だと再認識した。

 

「お前が我らの敵だろうと、今は主の客人だ。今だけは休戦と行こう」

「賛成だ。美味い飯も不味くなるしな。せいぜいもてなしてくれ」

 

こっそり耳打ちするように提案されたシグナムの案を受ける。

こいつらが主だと言っているはやてちゃんはわからないが、すずかちゃんは魔法も何も知らない一般人だ。そんな彼女を巻き込んでまで魔法なんて使うわけにはいかない。

向こうもそれくらいの常識と礼儀は持っているみたいだな。

だがポケットに隠しておいた護身用の魔石の起動準備は怠らない。口約束の停戦協定くらいで警戒を緩めることはしない。

俺一人でここのメンバーとまともに戦えるなんて思っちゃいないが、時間稼ぎくらいはできるだろう。

そんな俺の警戒を杞憂というように、鍋パーティーは終始和やかな雰囲気で進む。

俺がヴィータが育てていた肉を横取りしたり、ヴィータが仕返しに練り辛子をたっぷりかけられた鳥団子を俺の口に大量に突っ込んだり、それを笑いながらはやてちゃんが嗜めたり、一部骨肉を争う鍋戦争があった気がしないでもないが、そこには敵味方なんて関係ない、穏やかな時が流れていた。

 

「ん、みんなぎょうさん食べたな。作った方も満足や」

「片付け手伝うよ?」

「今日の主役にそんなことさせるわけにはいかんよ。座ってて」

 

手伝おうとするすずかちゃんを押しとめてキッチンへと向かうはやてちゃん。

一人で大丈夫なのだろうかと心配して見るとキッチンは車椅子のはやてちゃんでも使えるように工夫されてある。

そういえばこの家自体が車椅子のはやてちゃんが一人でも生活できるような作りになっている。この家に来た時から一人でやり慣れていたのか。

 

「それじゃあすずかちゃん、私の方を手伝ってもらっていいですか?」

「はい、わかりました」

「こら、シャマル! お客さんにそんなことさせちゃあかんって!」

「はやてちゃん、気にしないで。私が手伝いたいんだけだから」

「むう……あんまきついこと頼むんやないで?」

 

そんなすずかちゃんはシャマルに呼ばれて手伝いをしに違う部屋へと離れる。

リビングに残ったのは俺とヴィータとシグナム。

 

「少し外に出よう」

 

シグナムが俺にそう提案したので、俺は無言で頷く。

そう、もう和やかな時間は終わりだ。

暖房の効いていた中と比べると、外はやっぱり寒かった。

外にはシグナムとヴィータ、シャマル、アルフのような姿をした濃い灰色の毛並みの大型獣、そして俺の5人。

 

「あなたの連れの女の子には暫く魔法で眠ってもらいました。後遺症もありませんので安心してください」

 

シャマルが俺にそう告げる。

すずかちゃんに用事を頼んだのはそういうことだったのか。

 

「さて、ここには魔法を知らぬ者はいない。心置きなく話すことが出来るな。相沢祐一」

「そうだな。俺も聞きたいことがあるし、ちょうどいい」

 

状況は相手が4の自分が1。どう考えても有利なんて言えない。

とにかく状況打破のためにも時間を稼ぐ必要がある。

……相手がそれを許してくれるならの話だがな。

 

「聞きたいこと……か、それは何故我々があんな行動を取っているかについてだろう?」

「ああ、その通りだよ。お前らがなのはちゃんにやったことは許せない。

 だけど、今日、はやてちゃんと接してるお前らを見ると、ひどい悪者に見えない」

「……」

「だから何か事情があるんじゃないかってな。具体的にははやてちゃんと何か関係が――」

「てめえに言うような事情なんてねぇよ。事情を知って敵であるお前が何してくれるってんだ?」

 

ヴィータが噛み付くように俺に厳しい言葉を浴びせる。

ヴィータの言葉はもっともだ。どんな事情を知ったって、こいつらがやってる行動を許すことが出来ない俺には、こいつらの協力なんてできはしない。

だけど……

 

「今日知り合ったばかりだが、俺ははやてちゃんと友達になれたって思ってる。

今日一日中話して、はやてちゃんの家庭の事情も、はやてちゃんの料理がすげぇ美味いことも、あんたらをどれだけ大切にしてるのかも、いろんな部分を知って、いろんな部分を話した。

だからこそはやてちゃんに……友達に何かあるなら、手伝ってやりたいって思うんだよ」

 

たしかに俺はシグナム達の敵ではあるが、はやてちゃんとは友達なんだ。

友達のために何かしてあげたいのは当然じゃないか。

綺麗ごとだって言われようが、なんだっていい。目の前で友達に何かあるのに手も差し伸べない奴なんて最低だ。

 

「……わかった。お前を『敵』としてではなく、『主の友』として我々が何をしているか話そう」

「シグナム! 正気か!?」

「但し、これは他言無用だ。誰かに話した場合、問答無用でお前を斬る。

それでいいなら話してやる」

「わかった、はやてちゃんとの友情に賭けて約束は守る」

 

俺の言葉を聞いてシグナムは語りだした。

はやてちゃんと、闇の書の関係を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な……」

 

シグナムの話を聞き終わった俺は、ただ呆然とそれだけしか口に出来なかった。

それじゃあ、このままいけばはやてちゃんは……のか?

 

「お前がなんと言おうと、これは本当のことだ。

だから我々はリンカーコアを一刻も早く集めなければならない。だから――」

 

だからこそ、そんな話を聞いてしまったからこそ、反応が遅れた。

俺の鳩尾には高速で懐に飛び込んだシグナムの拳が力強く突き刺さり、空気と意識を刈り取る。

 

「我々はどんな手を使っても、成し遂げなければならないんだ。

 それが例え騎士の行動から外れるものだとしても、な」

 

意識を失う直前、シグナムがぽつりとそう言葉を落とした。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

苦心に苦心してようやく書き終わった。

授業中にこっそりルーズリーフで書き溜めたものがなんとか形になって本当よかったわ。

今はそれだけ。更新めちゃくちゃ遅れて申し訳なかったです。

 

 

 

 

 

※質問、指摘、感想などがございましたらBBSMailにて

 

 

 

 

 

 

2010年2月10日作成