「了承」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年相沢祐一 ねくすて

66幕『そして海鳴へ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月4日

 

電車に乗って、乗り換え2回、待ち時間含め約2時間と半分の旅。

俺は海鳴市へとやってきていた。

 

「それにしても、まさか一言で承諾されるとは思わんかったなぁ……」

 

個人的には秋子さん達の説得に数日はかかると踏んでいたのだが。

前回のように一日程度で帰ってこられるのならいいが、今回は犯人を突き止めるまで何日かかるかわからない。さすがの秋子さんもこれには渋い顔をすると思ったし、俺は少し時間がかかっても必ず説得しきってみせると気合を入れていたのだが、まさか話して数分で説得に成功するとは思わなかった。

 

「まあ、名目が名目だしな。なのはちゃんが最優先だが、そっちも疎かにしないようにしないと」

 

説得するとは言っていたが、秋子さんに理由を正直に話すわけにはいかない。

というわけで名目として俺は他県の大学の見学を材料として挙げていた。

近場だけではなく、違う県の大学もこの目で見て、未だ先が見えない進路の参考にしたいと秋子さんには伝えてある。

まあ名目上の理由ではあるが、その言葉には嘘偽りはない。

俺は環境を変え、視点を変えることで、進路に対するいい考えが思い浮かぶかもしれないとも考えていた。高校三年の後期の授業なんてあってないようなもの、自習同然の授業を休んでも教師は特に咎めない。

……正確には『進路が決まっている生徒には』と前に付くかもしれないが、センター試験を直前に迎えている生徒でも授業を休み、塾の自習室にこもって勉強する奴もいる。

悪い目で見られることはあれど、怪しまれることは微塵にもなかった。

秋子さんもそこは口裏を合わせてくれると約束をしてくれたので心配することはない。

その代わり、向こうに行ってもちゃんと勉強するようにと約束させられてしまったが。

以前のワガママ放題をしていた頃の反省か、あの事件の後から身勝手な束縛をしないようになった名雪達も行って欲しくないという表情は見せたが、特に口出しをしてくることもなかった。

 

『祐一の将来だもん。わたし達のワガママで邪魔しちゃいけないよね』

『真琴達だって成長したんだから! 祐一は好きなだけ見学してきなさいよ!』

『でも、祐一君がいないと、いざとなったらボク達が名雪さんを起こさなきゃいけないんじゃ……』

『あ、あうー! 祐一、早く帰ってきなさいよね!』

『二人ともひどいよ。最近はちゃんと起きてるもん……』

 

三人との昨日のやり取りが脳裏に浮かぶ。

……真琴、あゆ、お前らには苦労をかけるな、おみやげ買ってくるから許してくれ。

 

「祐一!」

「祐一さん!」

 

木陰にかかっている駅前のベンチにバッグを降ろして座っていると、こちらに駆け寄ってくる二人の少女。

腕時計を見れば時間ぴったり、俺の待ち人、フェイトちゃんと……なのはちゃん?

なのはちゃんとは彼女が意識を失ってから、帰る時間ギリギリまで看病をしたっきり会っていなかったが、様子を見る分にはどうやら大きな外傷もなく、無事に目が覚めてくれたようだった。

 

「なのはちゃん。身体は大丈夫なのか?」

「はい、少しの間魔法は使えないって言われちゃいましたけど、日常生活を送る分には大丈夫って本局のお医者様にもお墨付きをもらいました! それにしても……待たせてしまいましたか?」

「そんなには待ってないぞ。二時間くらい待たされる覚悟は常にしているんでな」

「にゃはは、この季節に限らず、そんなに待たせる人なんていませんよ」

 

俺の軽口にも疑いのない笑みで返してくるなのはちゃん。

……一応ノンフィクションなんだがな。名雪の今の頑張りに免じて言わないでおこう。

 

「さっ、祐一さん行きましょう! 『わたしの』家に」

「な、なのはの家じゃなくて、祐一が泊まるのは私達の家だから、ね?」

「別にわたしの家でも構わないんだけどなぁ?」

「え、えっと、リンディさんが決めたことだから……」

「大体、わたしの意識がない時にそういう大事なことを勝手に決めちゃうなんてズルいよ……こういうことはわたしの意見も聞いて欲しかったなぁ」

「ご、ごめんね、なのは……」

「だったら祐一さんをわたしの家に泊めてもいいよね!」

「それとこれは……」

 

二人の声にベンチから立ち上がってバッグを肩にかけると、何やら微笑ましい言い争いをしながら前を歩く彼女達の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、祐一君。ゆっくりしていってちょうだい」

「少しの間ですけどお世話になります」

「ふふ、少しといわずに末永いお付き合いをしたいわね。管理局的に」

「欲を言えば、是非ともうちの研究チームに来て欲しいね」

「まあ、この二人の言っていることは話半分でいい。改めて協力に感謝するよ」

 

案内されてやって来たところは住宅街の中でもちょっと奥にはいった閑静な地区の一画にあるマンションの一室だった。

トレイに載せた紅茶を俺の前に出しながら懲りずに勧誘活動を続けるリンディさんと、一人用のイスに座って茶請けのクッキーをかじっているノイルさん、やれやれと言った表情でそれのフォローをするクロノに苦笑いをしながら、置かれた紅茶を口に含む。

そういえば、三人とも私服だ。まあこんなところで管理局の制服を着ていても違和感しかわかないが。

 

「ぶふっ?!」

「……母さん、あの紅茶に何杯砂糖を入れたんだ?」

「あ、あら? クロノに自重しなさいって言われたから砂糖は4杯しか入れてないんだけど、甘すぎたかしら?」

「……それって自重したのかい?」

 

迂闊だった、すっかり忘れてた。

いやいや、自重してってそれ普通に糖尿病になる量ですって。

しかもあなた自重しなかったらこの一杯の紅茶にどれだけ砂糖を突っ込むつもりだったんですか?

 

「あ、祐一さん!」

「わん? おー、祐一じゃないかい!」

 

そんな甘すぎる紅茶をちびりちびりと飲んでいると、隣の部屋から懐かしい顔がリビングにやってきた。

俺がカップをソーサーに置き、挨拶代わりに右腕を軽く挙げると、彼……ユーノ・スクライアはぺこりと丁寧な辞儀でこちらに応えてからこちらに近づいてくる。

 

「おお、ユーノ君、半年振り」

 

改めて見ると、ユーノ君は服装はこちらの世界でもよく目にするような薄緑ベースの胸元に濃緑の一本縞をあしらったセーターを着ており、肩にはこちらの世界じゃ珍しい赤毛の犬のような生物を連れている。ユーノ君の世界の生物か? それにしてもどこかでこれに似たのを見たことのあるような無いような。

そういった意味で犬のような生物の方に視線を巡らせていると、それに気付いたのか、犬の方が反応を示した。

 

「あははっ、そういやこの姿は初めて見せたもんねぇ。ほら、あたし、アルフだよ。

新形態『こいぬフォーム』! さすがにあの姿はこの世界じゃ目立ちすぎるからねぇ」

 

わんこ姿のアルフはユーノの肩からシュタッと降りると、二本足で立ってビシッとポーズを取る。ああ、なるほど。あのライオンみたいな容姿じゃ外にも出られないしなぁ。

それにしてもアルフもわんこにしては妙に芸が細かい。あいつの影響を受けたのだろうか?

今は違う世界で小さな身体で頑張っているだろうあいつ。

あいつらも今頃元気でやってるのだろうか?

 

「祐一さん?」

「ん、おお、悪かった。そういやユーノ君はアースラにはいなかったけど……」

「はい、調べものがあって本局にいたんです。そこで治療中だったなのは達と合流してこっちに戻ってきました」

「調べもの?」

「そのことについて今から話があるわ。ちょうど全員集まっていることだし、さっさと始めちゃいましょ」

 

リンディさんがぱんぱんと手を打ってこちらに注目を集める。

俺もユーノ君との会話をやめ、振り返っていた身体をリンディさんの方へ向き直す。

俺が居住まいを正していると、右隣にフェイトちゃんが子犬アルフを膝に乗せて座り、左隣になのはちゃんが座る。どこか間隔が近い気がするのは暖房の効きすぎによる錯覚だろうか?

 

「では今回より正式に協力してくれる二人のために、今回の事件の詳しい話からするわ。

 ここ数ヶ月にわたり、様々な世界の生物のリンカーコアから魔力が抜き取られるという事件が相次いで発生しているの」

「リンカーコアについての説明はいる?」

 

エイミィの言葉に俺は首を横に振る。

なのはちゃんも当事者として別に説明を受けていたのか、俺と同じように横に振った。

 

「その被害者には勿論、管理局の魔導師も含まれているわ。

幸い、魔力を抜き取られた以外の外傷はなく、誰一人殺されてはいないけれど、管理局はこれを由々しき事態と受け止めて、解決のために前事件でも実績のある私達を解決にあたらせたの」

「そこで僕達は君達の世界、正確にはなのはと相沢さんに目星をつけて、重点的に張り込みをしていたというわけ。魔法文明が全く発達していない世界に、強力な魔力を持つ魔導師が二人もいるんだ。絶対にここを狙って来るだろうってね」

「そのことについてはこの場で謝らせていただくわ。ごめんなさい、あなた達をダシに使うような真似をしてしまって」

 

謝罪の言葉と共に俺達の方に体を向けて頭を下げるリンディさん。

最初は感情的に怒りもしたが、時間を置いて考えればこの方法が闇雲に探すよりも効率的であることは理解できる。これが結果的に被害を小さく食い止められるのかもしれないのなら、それで俺はいいと思っていた。

 

「謝る必要は無いですよ。こっちじゃ警察に協力するのは市民の義務みたいなもんです」

「結果的に無事だったわけですから、頭を上げてください。リンディさん」

「二人とも、ありがとう……」

「それにしても、目的が掴めないな。なんで敵はリンカーコアの魔力を欲してるんだ?」

「それにあいつらが使ってたデバイス。あたし達のとは明らかに違う種類のデバイスだった」

「それに関してはこのフェレットモドキから報告がある」

「フェレットじゃない! 僕はれっきとした人間だ!」

「だからモドキって付けてあげているじゃないか。何をそんなに怒り狂ってるんだい?」

「むっきぃぃっ!」

「ま、まあ、ユーノ君落ち着け、クロノもそんなに煽るな」

「……祐一さんに免じて今回は許してやるけど、次は無いからな!」

「覚悟しておくよ。淫獣」

「しゃああああっ!」

「ああ、もう!」

 

この二人は仲良くならんものなのか。いくらなのはちゃんを巡るライバルとはいえ、こういう時くらいは団結して欲しいものだ。

 

「鈍いってそれだけで死刑だと思うんだよねぇ」

「う、うん……(これでチャンスが少しでも広がると……いいなぁ……)」

「こほん、それでさっさと説明してくれないかしら?」

 

憤怒の聖母という題名が似合いそうな新ジャンル綺麗怖い笑顔を浮かべて二人に話を促すリンディさん。あの、普通に怖いです。アルフが恐怖でリアル子犬モードになっちゃってますから。

 

「はい、まず今回の一連の騒動は『闇の書』と呼ばれるロストロギアが関わっている可能性が高いと思われています」

「……」

「闇の書?」

「研究室で名前は聞いたことはある。第一級捜索指定を受けているロストロギアだったかな?」

「はい、闇の書はその身に貯めた魔力を破壊の力として使用することが出来るロストロギアの一つです。ですが闇の書が第一級指定を受ける理由はそこだけではありません」

 

神妙な面持ちで語るユーノ君。

たしかに破壊の力を使えるだけでは第一級指定は受けない。

話を聞く分には次元震を起こすと言われるジュエルシードの方が危険なものだと思える。

 

「闇の書の本当の恐ろしさは無限転生、無限再生の機能にあります。

 破壊してもそれ以上の速さで復元し、永劫の時にわたって転生し続ける……

 このことから闇の書は完全破壊をすることは不可能とされています」

 

一発限りの強大な力も脅威だが、長期にわたって使用できる力も脅威だ。

ましてや破壊不可能となると、永久的に世界に脅威を与え続けるということ。

なるほど一級捜索指定の理由には十分すぎるな。

だが、今になってそんなロストロギアが出てくるとは、今まで身を潜めていたのだろうか?

 

「なのは達が戦闘を行った彼女達は、ベルカ式の魔術の使い手だということが判明しました。魔力の蒐集行為といい、同系統の闇の書との関連性は非常に高いと思われます」

「ベルカ式?」

「ミッドチルダと違って近接戦闘を主体にした魔術体系です。

 扱いがミッドチルダよりも難しい為、現在はそこまで繁栄しているわけではありません」

 

あの武器のような形状のデバイスは近接戦闘を主体としているためだからなのか。

だがヴィータと名乗った少女の使っていたデバイスのパワーは俺達のデバイスのそれを上回っていた。魔術体系や戦闘レンジが違うといってもああもパワーの差が違うものだろうか?

 

「そこもベルカ式の特徴といえます。カートリッジと呼ばれる魔力を圧縮したものを消費することで、一時的に強力な能力を得ることができるものです。ベルカ式がミッドチルダ式よりも純粋なパワーが上だという要因の一つでしょう」

 

丁寧にユーノ君がそのベルカ式の特徴について教えてくれる。

そういえば彼女達が凄まじいパワーを発揮する前には必ず何かを吐き出していた。

あれがカートリッジと呼ばれるものだったのか。

 

「えっと、ユーノ君。つまりそのベルカ式を扱う魔導師が、闇の書を悪用する為に魔力集めをしているってことでいいの?」

「うん、そう考えるのが妥当だね」

 

なのはが意見をまとめ、ユーノ君が同意するように頷く。

 

「あと闇の書の性質として、一度蒐集した魔力は蓄えることが出来ないことがわかったから、なのはが今後襲撃される危険性は皆無だよ」

「そうなのか、よかったな、なのはちゃん」

「はい……護衛名目で一緒にいてもらう作戦が潰れちゃったの」

「でも依然、祐一さんは彼女達の有力なターゲットとして認識されているでしょう。

 警戒は強めて置いた方がいいと思います」

「可能な限り、生活の邪魔にはならない形で監視させてもらうわ。我慢してくれる?」

 

自身の安全の為だ、多少の不自由なんて訳はない。俺は首を縦に頷く。

 

「わかったわ。それじゃあこれで話はおしまい。

 祐一君は自分の部屋に荷物を置いてきたらどうかしら?」

「あ、はい」

「手伝いますっ!」

「私も手伝うよ」

「僕が案内します。それに男手もあったほうがいいでしょうから」

「ああ、すまんな」

 

俺はドア脇に置いてあった自分の荷物を抱え、なのはちゃん達を連れて部屋を出た。

 

 

 

 

 

「母さん」

「……闇の書、終わらせられるといいわね」

 

 

後ろで交わされた会話はその時の俺の耳には入らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで多くなかった荷物の紐解きも終わり、部屋で一休み。

用意された部屋はこのマンションの大きさなら十分過ぎるほどの広さだった。

部屋にはベッドと簡素な金属製のデスク、洋服たんすが備え付けてあり、ベランダに続く大きな窓からは陽の光が差し込んでくる。

 

「そうだ、祐一さん。近くですし、よかったらうちにも来てみませんか?」

「なのはちゃんの家?」

「はい! 実は祐一さんの話をしたら、是非一度会ってみたいって」

 

ベッドに座っていると、なのはちゃんが話しかけてくる。

そういえばなのはちゃんも同じ地区に住んでいると案内の途中に言っていたな。

これから交流がないとは言い切れないし、向こうも会ってみたいと言うのなら挨拶だけはしておいても損はないかもしれない。

 

「なら挨拶に行くか」

「それなら私達も挨拶に行きましょうか?」

 

ベッドから立ち上がると、リンディさんが扉を開けて入ってきた。

リンディさんは荷物を置き終えた部屋を一通り見回してから、俺の方にやってきた。

 

「どうかしらお部屋は? 気に入った?」

「はい、想像していたものよりも」

「よかったわ。うちの子は部屋の模様に頓着する子じゃないから、わからなかったの。

 欲しいものがあったらなんでも言ってちょうだい。可能な限り揃えさせてもらうわ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ準備をして行きましょうか」

「あの、リンディさん、私も……」

「ええ、フェイトさんも一緒に行きましょう」

 

リンディさんが部屋から出る。

服は……これでいいか。じゃあ特に準備することもないな。

 

「じゃあ部屋を出るか、三人とも」

「はい」

「僕はフェレットでついていきます」

「うう、折角二人で行けると思ったんだけどなぁ……」

 

何故か渋い顔しているなのはちゃんと、何故かちょっぴり嬉しそうな顔をしているフェイトちゃん、フェレットになって俺の肩の上に乗っかるユーノ君を引き連れ、俺は高町家へと挨拶に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、この度近くのマンションに引っ越してきました。今後ともよろしくお願いします」

「あら、そうなの。こちらこそ、この前はなのはがお世話になって」

「いえ、なのはさんは本当いい娘さんですね、私達の方が助けられたこともあるくらいで」

 

大人の女性が二人揃うと、それだけで取り留めのない話でも盛り上がるものらしい。

リンディさんとなのはちゃんの母親の桃子さんはその法則に当てはまったようで、先程から特に内容のない話で華を咲かせている。

この桃子さんもリンディさんに負けず劣らずの秋子さんスキルを持った人で、なのはちゃんはおろか、大学生の息子を持つ母親とはとても思えない若々しい容姿である。

とても口には出せないが、一体いくつなのだろうか?

 

「へー、フェイトちゃんって言うの? あたし美由希って言うの。よろしくね」

「は、はい、よろしくお願いします」

「可愛いなぁ。もう! フェイトちゃんにはなのはと違う別の可愛さがあるよ〜

 いやー、なのはのお友達とも知り合えたし、ユーノは帰ってきたし、今日はいい日ね!」

「きゅっ?」

 

フェイトちゃんや、フェレット形態のユーノ君と戯れているのは、桃子さんの娘さんでなのはちゃんのお姉さんである高町美由希さん。俺の一つ下で地元の高校に通っている高校二年生だ。

眼鏡に黄色いリボンを結わえた一本三つ編みと、俺の周囲にはいない大人しそうな雰囲気の人だが、これでもお兄さんから剣術を学んでいるらしく、決して運動神経が悪いわけではないらしい。

この人も中々の美人さんで、妹のなのはちゃんも大きくなったらこんな感じになるのかもしれないなぁと思う。

 

「君が祐一君か。なのはから話は聞いているよ」

「なのはがよくしてもらったようだな。兄として礼を言う」

 

そして俺を挟んで左右に構えているお兄さん方が、なのはちゃんの父親である高町士郎さんと、お兄さんである恭也さん。これで高町一家全員らしい。

それにしても――

 

「それで、祐一君は、うちのなのはとどういう関係で知り合ったのかな?」

「うちのなのはをどうやって誑か―げふん、親しくなったのは聞いておきたいところだな」

「あー、えっとぉー」

 

魔法使いをやっていたら知り合いましただなんて口が裂けても言えん。

いや言ったとしても、なにこの頭がぱらっぱらっぱーな人って思われること請け合いだ。

あと二人ともにこやかな笑顔で殺気を振りまかないでください。掴まれている肩がめちゃくちゃ痛いです。ぎりぎり痛いです。

しかも回りはそんな空気にこれっぽっちも気付いてない。

俺はこの二人が暗殺者稼業をやっているって言われても納得できる自信があるぞ。

 

「祐一君は私の知り合いで、なのはさんが参加したイベントにボランティアで協力していただいたんです。その接点でなのはさんとも親しくなりまして。

 今回は祐一君が海鳴市の大学研究を行いたいということで我が家に招待をしたんですの」

「ああ、そうだったのですか」

「そうだな、そうでなければこんな馬のげふんげふん、高校生の祐一と小学生のなのはが知り合うことなんてないだろうな」

 

そこでようやく二人の拘束が解ける。

ふう、これでようやく他の人にも挨拶が……

 

「でもいいかい? 君は良識のある人物に見えるから心配は要らないと思うけど、

 もしもなのはを泣かせるようなことをしたら……わかるね?」

「まあ、俺にとっても貴重な同年代の男友達だしな。仲良くしよう。

ただしなのはに手を出したら、わかるよな?」

 

最後に肩をぽんと叩いて耳元で囁く二人。いやだから洒落になってませんから。それ。

なのはちゃんに手を出すとかなんとか言っているけど、俺がそんなに幼い子に手を出すような危ない人に見えるのだろうか? それはそれでいろいろ考えさせられるんだが。

まあ、二人のことだからなのはちゃんが心配で言ってるんだろうけど。

 

「みんなから愛されているんだな。なのはちゃん」

「えへへ……」

「そうよー、なのはは高町家のアイドルなんだからっ! それに、ねぇ……?」

「お、おかーさん!」

「そうよねぇ、なのはがアレだけ話していたからどんな子なのかと思ったら、これまたどうして……」

「お、おねーちゃんも!」

 

どこか含みのある笑みを浮かべてこちらを見やる桃子さんと美由希さんを真っ赤な顔で止めているなのはちゃん。

むう、家族でそんな噂になるほど話されていたとは、慕われて嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちだ。

 

「よーし、お姉ちゃんも立候補しちゃおうかな〜?」

「だめぇ! だめなのっ!」

 

そんななのはちゃんの家族の姿を見て、顔が自然と綻んだ、俺の海鳴の初日だった。

……それにしても、一体何に立候補するんだか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ごめんなさい。就活マジで終わってないんです。

とりあえず祐一の海鳴初日の出来事をつらつらと。高町家への挨拶まで終わらせたかったので若干駆け足な感じでしたが(ぁ

次回もこれくらい間隔開きそうで本当怖い。できる限り早めに書きたいですけど。

 

次回はアリサとか出したいな!

 

 

 

 

 

※感想、指摘、質問などはBBSやmailにて。

 

 

 

 

 

2009年7月12日作成