それは突然の再会でした。

夢のようで、私の身体に走る痛みが現実だと語りかけてくれている。

私の親友と大切な人。

まるで白馬の王子様を描いたような演出に、寒さとは違う震えが身体を襲う。

 

「……守らなきゃ」

 

頑張って私。目の前で王子様がピンチなんだよ。

お話の中の無力なお姫様とは違う。お姫様が王子様を守るお話があってもいいじゃない。

だって私には王子様を守れる力があるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年相沢祐一ねくすて

64幕『蒐集』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはちゃん?!」

 

祐一が落としてしまったビルの屋上。そこになのはは立っていた。

ダメージが蓄積されているはずの足はしっかりとコンクリの床を踏みしめ、真上にレイジングハートを構えたその姿は、戦乙女という例えが堂にいっている。

祐一はそんななのはに神々しさを、ヴィータは言い知れぬ威圧感を感じていた。

 

「祐一さんから離れて!」

 

Divine Shooter.

 

なのはの指示に従ったレイジングハートが祐一とヴィータの間に桃色の魔力弾を滑り込ませる。ヴィータはおとなしく後ろへ退き、二人の距離を更に広げさせた。

 

「祐一さん、援護は任せてください」

「私が剣士を、アルフが獣人をやる。祐一はなのはと連携して赤い魔導師を抑えて」

「よしきた」

 

フェイトの指揮に従い、それぞれが担当の相手と戦うべく持ち場へ移る。

いくらフェイトといえど、あの剣士と対峙させるのは危険ではないかと祐一は考えていたが、味方の中で彼女を抑えられる可能性が高いのはフェイトであることも事実である。

彼女を好き勝手に大暴れさせるわけにはいかない以上、フェイトちゃんに抑止力を期待しなければならないなと祐一は自分を納得させた。

今は目の前のことだ。人の心配をして自分が落とされては元も子もない。

それでも、先程よりは祐一の気持ちは幾分は楽であった。

なのはを守りながらの戦いではなくなったことに加え、そのなのはが戦力として背後から援護してくれる。背中を預けられる存在はそれだけでも戦いに安堵感を与えてくれるものだ。

 

「……あの白の魔導師の実力は遠目ながら見ていた。敵に塩を送るわけではないが、

 ヴィータと互角にやりあえる実力ならば、双方の援護も可能なはずだが?」

「なのはに無理はさせたくないから」

「そうか、優しいのだな」

 

フェイトに追いついた剣士はそう言葉を漏らすと、レヴァンティンを正眼に構えなおす。

対するフェイトもバルディッシュから魔力刃を生やし、大鎌のように構える。

 

「名を聞こうか?」

「フェイト……フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ」

 

Nice to meet you.

 

「テスタロッサ、それにバルディッシュか。

我が名はシグナム。守護(ヴォルケン)騎士(リッター)剣の騎士。そして炎の魔剣レヴァンティン」

 

Nett, Sie zu treffen.(はじめまして)

 

「私には為すべきことがある。仲間のため、そして我が主のために。

 貴様を殺さずに済ませる自信はない。この身の未熟を許してくれるか?」

「構いません。私には守るものがある。なのは、アルフ、祐一、みんな大切な仲間で友達。

 その為なら命も賭けられる。それに――」

 

バルディッシュを地と平行に構え、フェイトは腰を低く落とす。

シグナムはレヴァンティンを微動だにせずに構え続けている。

 

「――勝つのは、私ですから」

 

フェイトの言葉を合図に、互いの魔導師は弾けるように更なる高空へと飛び上がる。

今、両陣営一の実力者同士の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、うざってぇ!」

 

ヴィータが祐一へ鉄球を四つ打ち出す。

しかし間髪入れずに地上から飛んできた桃色の魔力弾に、全て正確に撃ち抜かれた。

うぜぇし、ムカつくけど、あいつらの連携はうめぇ。ヴィータは心の中で悪態をつく。

遠距離から祐一へ向けて攻撃すれば、誘導魔力弾がそれらを打ち落とし、

接近戦を挑もうと突撃をすれば、その動きを察知したなのはが魔力砲を撃つ。

威力よりも速射性と正確性を持った攻撃。数発当たったところで致命傷になるようなものではないが、わざわざ当たって隙を作ってやる必要性はない。

目の前に祐一という隙に追撃をかけられる存在がいるのだから尚更だ。

だからといって逆に地上のなのはを狙えば、祐一が牽制に氷の刃を飛ばしてくる。

一方がもう一方を守る連携。ヴィータはものの見事に行動を縛られていた。

 

「でもだからってやられっぱなしじゃ守護騎士の名が廃るんだよ!」

 

グラーフアイゼンに装填されているカートリッジは先程の一発で既に使い切ってしまっている。手元にカートリッジはあるが、装填する隙など与えられるわけがない。

 

Schwalbefliegen.

 

しかしヴィータは迷わない。

鉄球を四つ生み出すと、グラーフアイゼンで祐一の方へ打ち出す。

なのはは発射体勢を取ろうとして、それが先ほどとは違うことに気付いた。

 

「うおらあああああああっ!」

 

ブレーキなんて知らないかのような急下降。

ヴィータがハンマーを振りかぶった状態でなのはの立つビルの屋上へ突っ込んでくる。

祐一も気付くが、飛んでくる鉄球に邪魔をされて動けない。

フォローをしあっているからこそ気付きにくく、互いをフォローしあうが故の弱点。

互いが互いのフォローをするということは、自分のことを一方に任せるということであり、自分の危機には対応が遅れてしまう。その点を突く同時攻撃はこの戦法に対するメタの一つだった。しかしヴィータがその考えに至って行動したわけではない。ただ無心にこの状況を打破する為の選択肢として、違う責め方をしたに過ぎなかった。

それでも、彼女は戦闘においては特に聡明であった。

 

(行ける!)

 

この攻め方が間違いではなかったとわかれば、あとはただ殴り飛ばすだけ。

上空から一気に急降下をして勢いのついた体躯は、カートリッジを使わなくとも十分すぎる加速がついており、目の前にいる白い魔導師は自らの戦法が破られたことに対する動揺があるのか動いていない。あと数m。この勢いであれば、数秒もかからない。

 

「くたばれ――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、ね?」

 

Flash Move.

 

 

直前だった。なのはの姿が幻影のように掻き消える。

完全に捉えていたはずのヴィータのグラーフアイゼンの一撃は空を切り、屋上の床を叩く。

ビル全体が揺れる衝撃とコンクリが割れる音。

そして勢いをそのままに飛び込んできたヴィータがビルに激突する音。

ビルの床を破砕音と共に何度もぶち破り、ビルのてっぺんから中腹まで大きく貫通した穴を開けて、ヴィータの身体はようやく止まることができた。

 

「読まれてた……あたしがこういう手段に出てくるってわかってただと?」

 

咄嗟に防壁を展開したが、激突の応酬に最後まで耐え切ることはできず、最後の激突は生身で受けてしまった。その衝撃も防護服が多少守ってくれたが、その姿はなのはのようにボロボロになっていた。

 

「カートリッジ、装填しねぇと……あたしはまだ、戦えるんだ」

 

よろよろと立ち上がると、帽子を拾い上げ、防護服から予備のカートリッジを取り出す。

 

「まだ神様はあたしを見放しちゃいない。あたしが頑張れば、はやてだってきっと……」

 

幸運にも飛ばされなかったそれを見て、ヴィータはそんな予感めいたものを感じていた。

 

『ヴィータちゃん、大丈夫? 意識があれば返事をして?』

 

カートリッジを装填し終わった後。ヴィータの元へ念話が届いた。

 

「シャマル?」

『ああ、無事みたいで良かった』

 

シャマルと呼ばれた念話の主は安心したかのように声色を和らげる。

 

「ま、無傷じゃねぇけど。一応五体満足で動く」

『ある程度なら私でも治すこともできますけど、大怪我はすぐには治せません。

それにはやてちゃんに心配をかけさせてしまいます』

「わかってるって、はやてに心配なんてさせたくない」

『そう思っているなら、さっきのような捨て身の特攻は自重して欲しいんですけど』

「わ、わかってるって……」

 

シャマルの怒りが伝わってくるのを感じ、ヴィータはたじろぎながらも了解の念を送る。

 

『わかればいいです。それで酷かもしれないけれど、まだ動けるかしら?』

「動くなって言われても動く気だったけどな」

『もう!』

「ははっ、冗談だって。はやてに心配はかけねぇって言っただろ」

 

ヴィータはけらけらと笑い、グラーフアイゼンを軽く振る。

小さく立つ風を切る音。痛みはもうなかった。

 

『ヴィータちゃんは時間を稼いでくれればいいわ。特に男の人の方の目を惹きつけて』

「りょーかい。さて、あいつらにこの服をボロボロにした借りを返さねぇとな」

『くれぐれも私達の目的を忘れないで』

 

膝を軽く曲げて、地を蹴り上げる。

ヴィータの身体はそれだけで宙へ浮き上がると、先程自らの手で開けた穴をくぐって上空へと目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったか……?」

 

ヴィータの猛攻を凌ぎきった二人はビルの屋上に集まっていた。

先程のような戦法が二度通用する相手だとは思えない以上、離れるのは賢い選択とは言えない。そう考えたからの結論だった。

 

「ダメージはあるはずです。少なくともすぐに動いてくるとは思えませんけど」

 

祐一の問いに、なのはが答える。

捨て身にも近いあの加速度で突っ込んできたのである。ダメージがないわけがないとなのはは考えていた。

祐一もなのはと似たような意見らしく、なのはの考えに特に返事をするわけでもなく、上空を見上げた。

 

『祐一さん、この結界の性質結果が出ました。この結界はどうやら術者の思った通りに結界内への出入りを操作することができるみたいです』

 

祐一の脳内にオペレータであるマリーの報告が届く。

出入りが操作できる結界。敵側がバカでなければ、なのはが素直に出られる訳がない。

この隙になのはちゃんを連れて結界外への逃走を図ろうとしていた祐一は、一番順当な行動案が潰されたという結果に顔をしかめるが、逆に言えば確かめる時間のロスが無くなったともとれると楽観的に自分を納得させることにした。

 

『もっと詳しく調べてみないとわかりませんが、魔術体系はミッドチルダとは明らかに違う体系ですね。検索しますか?』

「ああ、すまないけど頼む。マリーさん」

『はい、遠慮せず。今の私は祐一さんのパートナーで言わば一心同体ですから、どんどん指示を出してください。それがこのスタイルの強みでもあるんですから』

 

マリーの実力は確かだと思うが、不明の魔術体系の検索がすぐに終わるとは期待していない。しかし今後の対策の役には立つかもしれない。そう考えての指示だった。

とにかく現状で取れる対策は取れるだけ取っておこうと祐一は考える。

 

「普通に出ることができないのなら、取る手段は二つだな。術者を探し出して倒すか……」

「結界を破壊するか。ですよね?」

「ははっ、さすがなのはちゃんだな」

「えへへ、ありがとうございますっ!」

 

意見として挙げてはいるが、術者を探し出すのはあまり現実的ではない。

広大なフィールド内で、たった一人の術者を探し出すことは決して容易じゃないし、それ以前に結界内に術者がいなければ成り立たない策である。

そうすれば、取れる策など必然的に決まっていた。

 

「ベストはこの結界の破壊か。口にしたら簡単だが、実際やるとなったらなぁ」

「そうですね。でも私達ならできるかも、レイジングハート!」

 

No problem.

 

なのはの呼びかけにレイジングハートの電子音声は淡々と答える。

現在の祐一の火力では難しいが、レイジングハートの火力なら打ち破れるかもしれない。

 

「でも大丈夫なのか? 連戦の後に結界を破壊できるだけの砲撃なんて……」

「平気です。祐一さんが出した案なんですから。

それに折角祐一さんに再会できたんですから、こんなところでノロノロしてる暇なんてないんです!」

 

Yes. We believe Yuichi.(はい、私達は祐一を信じています)

Trust us.(だから私達を信じてください)

 

「レイジングハート……すまん、二人に任せる。

その代わり、その間、お前らは俺が絶対に守ってみせるから!」

「……それだけで十分です! なのははもうそれだけで生きていけます!」

 

一人と一台の決意を聞き、祐一は全てを託す。

自分のことを信じてくれている。その期待を裏切ることも否定することも祐一にはできなかった。

 

「あ! 祐一さん。言い忘れていました」

「……?」

 

ふと、警戒につこうとしていた祐一をなのはが呼び止める。

 

「お久しぶりです。私は祐一さんに会えてとっても嬉しいです!」

 

それはすっかり忘れていた言葉。

もっとカッコいい、もっと可愛い、もっと素敵な言葉を選びたかったのに。

結局こんな簡単な言葉しか思い浮かばなかった。

 

「……はは、俺もだ」

 

そんな自己嫌悪をしていたなのはに、祐一の言葉は不意打ちすぎた。

それは、友達として嬉しかった? それとも――

 

「にゃっ?! そ、それって――!」

 

それを尋ねたかったなのはの言葉を遮り、ビルが大きく鼓動した。

それは唯一にして簡潔な合図。目の前の大穴から、奴が、鉄の騎士が、やってくる。

 

「もう! あの子もこの子も空気を読まなすぎだよ!」

「さあ、最終ラウンドと洒落込もうぜ! ヴィータ!」

「うおおおおらああああっ!」

 

穴から飛び出し、高く飛び上がったヴィータと、屋上に立つ二人の視線が交わる。

ホイッスルは要らない。ハーフタイムを終え、第三ラウンドは唐突に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルディッシュとレヴァンティンが×字に重なる。

雷と炎、それぞれの魔力素質の属性が帯びた得物が、ぶつかり合うたびに火花を散らす。

シグナムが一太刀一太刀正確に追い詰めるように打ち込めば、対するフェイトは自慢の手数でそれらを捌きつつ、シグナムへの反撃を試みる。

熟練者同士による魔導師には珍しい白兵戦。パワーで圧し勝つシグナムも、スピードで翻弄しているフェイトも互いに決め手が足りなければ、場は硬直せざるを得ない。

しかしこの硬直は薄氷の上、どちらかが隙を見せればあっというまに瓦解するくらい脆いことは二人とも認識していた。だから気は緩めない。互いにひたすら打ち込み、相手の綻びを探す。

 

「やるな。テスタロッサ」

「……あなたこそ」

 

気力を削りあう戦い。

互いに顔や口に出す性格ではないが、疲弊の色は隠せないほどに蓄積していた。

 

「この跳ねるような高揚感。久しく感じ取れなかったが、貴様と戦うことで思い出せることができた。感謝する」

「礼にはお呼びません。私も似たようなものですから」

 

永い眠りから覚め、主と共に平和な日常を謳歌していたシグナム。

重要参考人として管理局でひたすら軟禁をされていたフェイト。

共に戦いから離れて久しかったが、強敵との激突で戦いの感覚を取り戻せた。

それは戦闘という行為を通じて、互いのことを認めつつある証拠だった。

 

「今は戦闘狂と呼ばれていい」

「今は戦闘に酔っていると認めてもいい」

「ただ、貴様との戦いは愉しい――!」

「ただ、あなたとの戦いは楽しい――!」

 

 

「「それだけだっ!」」

 

Device Form

 

シグナムはレヴァンティンを鞘に戻し、フェイトは距離を取り、バルディッシュをデバイスフォームへ変形させる。

これ以上のつばせり合いは不毛と考えた結果。互いの渾身の一撃で勝負が決まる。

 

「撃ち抜け! 轟雷!」

Thunder Smasher.

 

先に動いたのはフェイト。デバイスフォームから放たれるは雷の砲撃。

高速戦闘を基本とするフェイトが持つ、数少ない、足を止めて撃ち出す直射型砲撃魔法。

対するシグナムは動かない。何かを待つようにじっと目を瞑り、レヴァンティンの柄と鞘に手を添えた状態で立ち続けている。

 

「……来た」

 

シグナムが目を開ける。寸前にまで来ているフェイトの砲撃。

 

「飛竜!」

 

シグナムは居合いの要領でレヴァンティンを鞘から抜くと、サンダースマッシャーに叩きつける。

鞘から抜かれたレヴァンティンはすぐさま連結刃の形態へと姿を変え、サンダースマッシャーへと激突をする。

 

「一閃!」

 

シグナムが連結刃となったレヴァンティンを振りぬく。

魔力が付与された連結刃は、同じく魔力で作られた砲撃を容易く切り裂いた。

 

「っ!」

「はあああああっ!」

 

レヴァンティンを連結刃から通常形態へ戻すと、そのままの体勢でフェイトへ突っ込むシグナム。

フェイトを返す刀で切り裂こうとレヴァンティンを振るう。

 

Jacket Purge.

 

これにフェイトは自らの着ていたマントを爆発させるように分解させる。

爆発によって生まれた衝撃波に吹き飛ばされ、また互いの距離が開く。

 

「見事だ、テスタロッサ。だが戦いは終わっていない!」

 

 

 

「きゃあああああああああああああっ!」

 

 

 

結界中に響き渡る絶叫。

戦いを中断させた二人が見たものは、杖を高々と上に掲げた状態で、胸から手を生やしたなのはの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ……」

 

何が起こったのかわからない。胸から手を生やしたなのはを見て、祐一は当惑していた。

先程まで祐一はヴィータと戦い、なのははこの結界を破壊する為に魔力を充填していたはずだった。

手負いの相手というのもあってか、完璧とはいわずとも祐一はヴィータを押さえており、あとはなのはの攻撃を待つだけ……のはずだった。

しかし現実はなのはは謎の攻撃によって目を見開き、苦しそうに呻いており、思い描いていた図とは全く違う様相を見せている。

なのはの背後には誰もいない。出血もなく、胸は貫通しているわけではない。

 

「ヴィータ、お前何をしたんだ!」

「お前らみたいに援軍を使わせてもらっただけ。

あ、お前らに非難される筋合いはねぇからな。お互い様ってやつだ」

「新手……だと?」

「そんなに気にすんなって。命まで取る気は無いし、あいつのリンカーコアを蒐集したら今日のところは帰ってやるからさ」

 

リンカーコア、先ほども聞いた言葉だと祐一は思い返す。

アルフが言うには魔導師の源。魔力を生み出す器官のようなものだと聞いていたが、それを何故ヴィータ達が集めているのか理由までは聞かせてもらえなかった。

 

「お前らの目的は一体なんなんだよ……」

「それを言うわけには――」

 

 

「あああああああああああああああああっ!!」

 

 

ヴィータの言葉を遮って、なのはの絶叫が響く。

祐一も振り返ると、胸から生えた手には桜色の光の玉のようなものが握られているのが見えた。あれがリンカーコアなのだろう。

 

「なのはちゃん!」

「ゆ、祐一、さ、ん……わた、わたし、祐一さんのこと、しんじてますから……っ!」

「馬鹿っ! 今の状況でそんなこと……」

「れ、いじんぐ、はあとおおおっ!」

 

10…9…8…

 

高々と掲げたレイジングハートに魔力が集まっていく。

 

「あの馬鹿っ! 蒐集中に魔法なんて使ったら……!」

「は?」

「蒐集中にそんなことしたら、何が起こるかわからねぇ! それこそ命の危険だって……

 おい、お前はあいつの仲間なんだろう? あいつを止めろ!」

 

ヴィータの言葉に祐一は衝撃を受ける。

嘘かもしれない。だが、ヴィータの焦り具合には嘘の色は全く見えない。

ヴィータが本当に命まで取る気ではなかったという何よりの証拠でもある。

そして祐一も、今のなのはは俺への信頼のせいで暴走をしていると、感じ取れた。

 

「やめろ! なのはちゃん! それを撃つな!」

「えへへ、ゆういちさん、これがせいちょーした、わたしですっ!」

 

祐一の言葉にもなのはは聞く耳を持たない。

蒐集中のショックで正常な判断がつかないのか。それとも既に意識は無く、祐一への想いだけで身体を動かしているのか。

 

「なあ、詠唱に割り込めば……」

『ダメです! この距離じゃ間に合いません!』

「見た目ヤバそうだし、射線上に立ったらこっちがやられちまう!」

「くそっ! でも俺はああああっ!」

「あ、おい!」

『祐一さん!』

 

二人の制止を振り切って祐一は飛び込む。

欠片も無い可能性を信じて。しかし――

 

3…2…1…

 

「なのはちゃんっ!!」

 

0.

Starlight Breaker.

 

無情にもなのはのスターライトブレイカーが発射される。

なのはの目論見通り、粉々に吹き飛ばされる結界。そして祐一は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……揃いも揃って無茶しやがる」

『ヴィータちゃん』

 

スターライトブレイカーから距離を取ったヴィータにシャマルが念話で話しかける。

 

「シャマル、あいつらはどうなった?」

『大丈夫、二人とも生命反応は補足したから、死んではいないわ。

 ただ、私が蒐集した女の子の方はかなり弱っているわね』

「ま、結界が破壊されたんだ。あたし達はこれ以上ここで行動はできないし、すぐに管理局が見つけるだろ」

『それにしても、随分と二人の心配をするのね』

 

シャマルがヴィータに問いかける。

ヴィータはそれにすぐ答えることはできなかったが、暫く考えて。

 

「……あぶなっかしいから、かな?」

『あぶなっかしい?』

「ほ、ほら、貴重な蒐集対象だし、無謀な真似して壊されたらたまんねーんだよ」

『羨ましいんじゃなくて? 信頼しあえる関係を、今まで私達は知らなかったから』

「はっ、ちっげーよ!」

『ふふ、でもヴィータちゃんの言うことも間違ってないかもね』

「は?」

『彼女のリンカーコアから蒐集した魔力で、闇の書が20ページ近く埋まったわ』

「……は? おいおい、馬鹿でかい竜をモン○ンみたいに狩っても3ページいくかいかないかだってのに、あの白いのが20ページだって? どんなミラボ○アスだよ」

『大きさと色的にはキ○ンだけどね。さ、シグナムとザフィーラも戻ってきていますし、ヴィータちゃんも戻ってきてください。はやてちゃんはお友達の家にお泊まりだから、私が腕を振るってお料理作りますね』

「げぇ……なんか食欲でねぇかも、当たり多ければいいんだけどな」

『もう!』

 

シャマルを茶化しながらヴィータは空へ飛び上がり、夜に溶ける。

結界で破壊された箇所も修復されたそこには既に戦場の面影は無く、唯一冷たいビル風だけが変わらずそこに渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

祐一がフィア化しつつあります。あるぇ〜?

あれ、バルディッシュ壊れてないや。もう原作外れ始めてるぞおい。

次回以降はちょこちょこ日常という名の修羅場パート(主に恭也との命のやり取り的な意味で)が疲労、もとい披露できると思います。

あとザッフィーとアルフごめんよ。すっかり空気にしちまった。

 

 

 

 

※感想、指摘、質問がございましたらBBSかメールにてよろしくお願いしますっす。

 

 

 

 

 

2009年5月17日作成