エイミィの言葉に艦長室が騒然となる。
高い魔力素質を持つ魔導師の核――リンカーコアを狙いとする敵勢力が、魔法技術の発展が皆無である次元世界の地方都市に出現し、且つそこには高町なのはという高い魔力素質を持った魔導師が住んでいる。
「狙いはなのはのリンカーコアか」
クロノがこの場にいる人々の総意を代弁する。
これだけの要素が揃っていれば、誰でも辿り着ける結論であり、それは逆に言えばそれだけ起こりうる可能性も高いことを示唆していた。
「相手の出方がなんであれ、奴らは魔法を悪用する敵対勢力だ。僕らが出張らない理由はない」
「ちょっと待ってくれ」
クロノの言葉を遮ったのは、このような状況では良い意味では一番にはりきる、悪い意味では一番に出しゃばると思われていた祐一だった。
「正直に答えてくれ。管理局は、俺達が襲われることが事前にわかっていたのか?」
それは小さいながらも拭えなかった疑問だった。
自分が巻き込まれたときのタイミングの良い登場。
今の海鳴市の怪しい反応の確認からの動き。
魔力的発展が皆無のこの世界に管理局が赴いてくるにしては妙に手際が良すぎると祐一は感じたのだ。
それこそ『祐一達が誰かに襲われる』という前提でなければここまで早い対応はできない。
そんなことはないと考えていても、もしかしたら知らないうちに囮にされていたのではないのかと、勘繰ってしまうことを誰が責められようか。
「……さあ、偶然じゃない? ほら、勧誘するには近くから念話しないといけないし。
あなた達を追いかけていたら、事件に巻き込まれた所に遭遇した。ほら辻褄が合うじゃない?」
「ふざけないでくれ。危ない奴らがなのはちゃんの所へ向かっているんだろ?」
飄々と避けようとしたリンディに怒りに任せて喰らいつく。
たとえ任務がない暇な状況だったとしても、そんな風に遊んでいられるほど管理局は暇な組織じゃない筈だ。民間人には局内の事情を聞く権利がないことはわかっているが、例え八つ当たりと言われようとも祐一は怒らずにはいられなかった。
「そうね。今のは確かに不謹慎だったわ。ごめんなさい」
「いや、こっちも八つ当たりみたいになったし……」
不謹慎な言動を素直に謝るリンディを見て、冷静を取り戻した祐一も謝り返す。
「本当のことを話してください。確かに俺は部外者だけど、なのはちゃんは大切な友達なんだ」
「祐一君……」
「友達が危険な目に遭っているのに俺だけ指を咥えて見ているなんてできない。
真実を知るために、管理局に入らなければいけないっていうんなら喜んで入る!
だから頼む……!」
魔石無しでは魔法すら使えない自分の能力などたかが知れている。
半年以上のブランクもある。戦場ではひたすらに的になるだけかもしれない。
それでもその気になれば雑用だってできる。祐一には何もしないという選択肢を選ぶことができなかった。
これがただの自己満足と言われても、友のピンチに何もしない愚者には成りたくなかった。
「わかったわ。エイミィ」
『はい?』
「今すぐ研究室に伝えて、『眠れる獅子が今起きた』とね」
魔法青年相沢祐一
63幕『激戦』
海鳴市。
ベッドタウンとして発展し、中心部にはビル街が、郊外には海と山が広がる。そんな田舎過ぎず、都会過ぎない地方都市。
その上空を二条の光が突き進んでいた。
「おらああああっ!」
『Schwalbefliegen.』
咆哮一声。手に持つ鎚を振り回して誘導弾を繰り出し続けるのは、赤を基調とした服装を身に纏った少女。
銀色の巨大なパチンコ玉を彷彿とさせるそれらの猛攻を凌ぎ続けているのは白いバリアジャケットを纏った少女だ。
追いかける赤が銀色の誘導弾を放ち、追われる桃色はそれを魔力壁で防ぐ。
既に何回にも及んでいる猛攻と堅守のぶつかり合いは互いに五分であり、戦いはこう着状態に移行していた。
「いきなり何? 一体何が目的なの?!」
そんな状況を打ち破ったのは桃色の光だった。
背を向けて逃げの一手を打ち続けていた白いバリアジャケットの少女――なのはは執拗に襲いかかってくる少女に問いかける。
感じたことのない強大な魔力を感知したなのはは家を飛び出し、既に誰もいなくなったオフィス街へと身を移した。そこで目の前の少女の強襲を受けたのである。
「しゃあっ!」
少女はなのはの問いに答えずに、なのはの足が止まったのを好機とばかりに距離をつめて鎚を振り下ろす。
『Round Shield』
「うぐっ……」
即座に反応して防御魔法を展開すると、正面からそれを受け止める。
しかしここは足場のない空中である。攻撃は殺せても勢いは殺せない。
踏ん張りが効かないなのはは地面へと真っ直ぐに飛ばされた――が、間一髪、激突スレスレの位置で体勢を整えた。それを見て更に追い討ちをかけようと少女が飛び込んでくる。
――なのはちゃん。これは戦いじゃないぞ? これはちゃんとした『話し合い』の手順さ。何が何でもこっちの話を聞いてもらわないといけないから、ちょっと手荒な真似をしてでも聞いてもらうんだ。
「話を――」
「!」
だがなのははこれを読んでいた。
あらかじめ射撃モードへと変形させたレイジングハートを構える。
――いいか、なのはちゃん。相手にも目的や信念がある。話し合えればそれは素晴らしいことだけど、相手が必ずしも話し合いに応じてくれるわけじゃない。そういう時はこっちも心を悪魔にして、力ずくでも聞いてもらうんだ。
「聞いて!!」
『Divine Buster.』
ややカウンター気味の魔力砲の一撃だったが少女の反応も早かった。掠り気味ではあるが紙一重で回避する。余波で少女の被っていた兎の装飾が両端に付いた帽子が吹き飛ばされた。
「あ……」
装飾が散り、無残な形になった帽子が風に揉まれてビルの谷間へと消え、少女はその様子を呆然と見続ける。
「て、てめええええええええええっ!!」
帽子が飛ばされると、少女の様子が一変した。
それだけあの帽子が彼女にとっての宝物だったのだろう。
目を見開き、なのはを殺せそうなほどの殺気をこめて睨み付ける。
その怒髪天を突くような激昂振りに、なのはは完全に圧倒されてしまった。
「アイゼン!!」
『Explosion.』
少女の叫びにアイゼンと呼ばれた鎚が応え、仰々しい音と蒸気を上げる。
『Raketen form.』
鎚の形をそのままに、片方にスパイク、片方に円柱状の装置が付けられる。
変形をする武器形態のデバイス。その姿になのはは見覚えがあった。
「インテリジェントデバイス……違う! Xシリーズなの?!」
円柱状の装置から炎が勢いよく噴き出た。どうやらあれは推進装置のようであった。
鎚はハンマー投げのように少女自らが回転することで、更に加速を増し、十二分な加速と共に襲い掛かった。
「ラケーテンハンマー、ぶっとべええええっ!」
「きゃああっ!」
すぐさま防御魔法を展開するなのはだが、遠心力と推進装置で得た加速を味方につけた鎚はそれを容易く破り、ビルの壁へと吹き飛ばす。
轟音と塵煙を撒き起こす建物。なのはの身体は壁を貫通して、ビルの内部にまで押し込まれていた。
「あ、ぐ……」
バリアジャケットの性能と、咄嗟に張った防御壁がクッションになったのか、受けた攻撃の割には比較的ダメージの少なかったなのはだが、『受けた攻撃の割には』というだけの話である。
朦朧とする意識。上手く動かない身体。貫通された際にスパイクで抉られたのか、ボロボロのレイジングハート。
満身創痍というのは今のなのはの為にある言葉だろう。
ピンチなんてありきたりの言葉では括れない。絶望的過ぎる状況だとなのはは感じていた。
「どりゃああああっ!」
そんななのはに無情にも追撃をかける少女。
ぶち破った壁の穴から飛び込んでくると、一気に間合いをつめて鎚を振り下ろす。
意識が、身体が、攻撃に追いつかない。
『Protection.』
少女の一撃を止めたのはレイジングハートだった。
主の意識外で発動した自動防御。
しかし物理防御に優れているプロテクションですら、彼女の勢いは止まらない。
例えレイジングハートが全快だったとしても、結果は変わらないだろう。
それだけの出力の差がレイジングハートと少女のデバイスの間にはあった。
「アイゼン、ぶち抜けえええええっ!」
『Jawohl.』
レイジングハートを弾き飛ばし、スパイクがバリアジャケットを掠める。
胸のリボンが千切れとび、魔力になって霧散する。
なのはの身体も内壁を易々と貫通し、違う部屋まで吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ……」
荒い息をつく少女。
鎚を軽く振ると、大きい蒸気音と共に薬莢を二つ吐き出す。
なのはは完全に意識を飛ばしてしまったのか、叩きつけられた壁にもたれかかったままピクリとも動かない。
「手間、かけさせんじゃねぇよ」
少女は空いている手を背中に回し、辞書よりも少し大きいサイズの本を取り出す。
茶色いハードカバーに金の装飾。見た目幼い少女が持つにはあまりにも無骨すぎて似合わない。
「どうだ、大物だぜ? これであたし達の目的も大分近づく」
少女は本に話しかけ、本は意思を持っているかのように大きく脈動する。
否、それは実際に意思を持っているのだろう。目の前のなのはという高い魔力の塊を見て、昂りを隠せないのだ。
「さて、大分派手にやらかしちまった。早いとこ、リンカーコアを頂いて――っ?!」
言葉を途中で止め、少女は回避行動に移る。
見ると、少女の立っていた位置に氷のクナイが三本突き刺さっていた。
間髪を入れずに氷弾が飛んでくる。
少女はそれを鎚で叩き落とすと、銀玉の誘導弾を飛んできた方へ弾き飛ばす。
弾が壁を粉砕する音が聞こえる。しかし手ごたえはない。
少女はすぐさま敵の位置の把握へと移る。同時にどこから攻撃が来てもいいように周囲への警戒は怠らない。
しかしそんな彼女の警戒は杞憂に終わった。襲撃者はなのはの下へと一直線に移動していたためである。
そんな襲撃者の手際に少しだけ感心する。これは一筋縄ではいかない相手だと少女は目の前の相手の評価を上方に修正した。
残りのカートリッジは心もとないが、目の前の白服の少女のリンカーコアを諦めるのは勿体無い。そう考えた少女は本をしまい、臨戦態勢を取る。
「てめえ、なにもんだ……?」
「人に名前を聞くときはまず自分からって学校で教わらなかったか?」
「生憎とそんな高尚なところには行ってない。だがま、違いねぇな」
襲撃者の軽口にくっくっと少女は笑う。
「ヴィータだ。守護騎士(ヴォルケンリッター)鉄槌の騎士、ヴィータ」
「まさか本当に教えてくれるとは思わなかったんだが」
「うるせぇ。騎士は礼節を重んじるもんなんだよ! おら、てめぇの名前だ」
顔を真っ赤にして反論するヴィータに襲撃者は微笑ましい何かを感じつつ、ここで名乗らなかったら怒るんだろうなと、どこか場違いなことに思いを馳せる。
「俺は相沢祐一。ただの高校生さ」
あとがきききき
短いのですが、ここで止めないとどうにも止まらなくなりそうなのでここで切りましたw
ぽんぽんと場面展開して読み辛くなってそうでちょっと不安。でも、他の人たち出したかったんだよ?
ヴィータさん初登場。なんかすごく漢らしい性格になってまs(ラケーテンハンマー
そしてここでフェイトではなく祐一登場。プロローグ以降のことは次回で明かします。
ここら辺からA‘sの正史を徐々に踏み外れていく予定。最終的には破綻かな?(待て
あと試験的に形式を一人称風な三人称に変更してみました。読み辛そうなら元に戻そうと思います。
魔術紹介
Schwalbefliegen 使用者:ヴィータ
銀色の誘導弾をグラーフアイゼンで弾き飛ばす技。
ラケーテンハンマー 使用者:ヴィータ
ラケーテンフォルムから推進力を得たグラーフアイゼンを相手に叩きつける技。
カートリッジを1つ消費。推進力の維持にその都度カートリッジを消費する。
※感想、指摘、質問がございましたらBBSかmailにてよろしくおねがいします。
2009年1月18日作成