「今日もお疲れ様、レイジングハート」

Thanks your for effort. Muster.

 

何事もない一日の終わり。疲れた身体をベッドに横たわらせる。

あの事件が終わってもう半年も経つ。魔石を集めて、世界を変えようとする人たちと戦って、その人がわたし達の知り合いで……

辛くて大変なこともたくさんあったけど、皆と笑いあえた日々はそれ以上に楽しくて、優しくて。不謹慎にもあの日々が戻ってきて欲しいとも思えてしまうほどに、事件は様々な影響をわたしに与えてくれた。

家に帰ってきて、お兄ちゃんに『向こうで何かあったのか? 見ないうちにすごく成長したな』って言われるまで全く自覚できなかったことだけど。

でもそれだけじゃない。わたしにはあの日々以上に影響を与えてくれた存在がいる。

その人のためにわたしは頑張れる。一つでも上を目指して成長し続ける。

 

「あと三ヶ月、かぁ……」

 

それがわたしの頑張れる理由、祐一さんの受験が終わるカウントダウン。

指を折って三本。日にすると九十日。短いように見えてとても長い。

会おうと思えば、冬休みに容易に可能だけれど、受験生にとっての冬休みは一番の追い込みどころ。その時期をわたしが邪魔をすることはどうにもはばかられた。

祐一さんは優しいから、わたしが来たら『しょうがないなぁ』って言いながらも笑顔で迎えてくれる。でもそれじゃあダメ。わたしはいつまでも定位置から抜けられない。

祐一さんに迷惑をかける『妹分』じゃダメ。祐一さんが信頼してくれる『恋人』がわたしの目標なんだから。今は相応しい女の子になる為の準備段階。

でも……すべて終わったその時は、わたしも積極的になっていいですよね?

もしかしたらちょっとだけ迷惑かもしれないけど、ちゃんとわたしの気持ち、受け止めてください。

 

「えへ、えへへ……」

『……』

 

だめだよぉ……勝手に顔がにやけちゃう。

『おさなづま』っていいよねぇ〜、レイジングハート。

でも祐一さんと釣り合って見えるくらいの大人なわたしも憧れる。

わたし的には皆にも二人は恋人さんって見て欲しいけれど、わたしがそこまで成長するまでなんて待てない。

はぁ、早く大人になれたらいいのに……

 

master.

「……結界?」

 

レイジングハートの呼びかけと、違和感にわたしは未来計画から意識を戻した。

既に身に染み付いてしまったこの感覚は結界だ。魔法使いが魔法の素養を持たない者と、持つ対象者を隔てる隔壁であり、この中で行われることに関して、外の持たざる者は全く感知することができない。例えそれが激しい戦闘であってもだ。

だけどこの結界、今までの結界とは少し違う……?

 

Caution. Emergency.

「こっちに来る?」

 

結界の中に入ってはっきりと感じ取れた。

遠くから魔力が一つ、まっすぐにこちらへと近づいてきている。

目標は間違いなく、わたし。

 

「レイジングハート」

All right, my master.

 

正体不明の敵に無自覚のうちに不安を感じているせいだろうか、わたしは唯一無二の相棒に話しかけていた。

ユーノ君も、フェイトちゃんも、フィアちゃんも、祐一さんも、いない。

だけどわたしだって、フェイトちゃんの事件と、祐一さんの事件の二つを乗り越えてきた。

戦いが終わった後も、魔法の訓練だけは欠かさずにし続けて来た。

成長したっていう自負だってある。

でも――

 

「出会っていきなり武器を取って戦うなんてこと、したくないよ。

 お互いを知れば、話し合うことができるかもしれない。

 甘い考えかもしれないけど、そうできたらいいよね?」

As the master thinks.(マスターの思う通りに)

「うん」

 

レイジングハートが応えてくれる。今はその言葉に何よりも励まされた。

敵だって決まったわけじゃない。一縷でも話し合う余地があるなら縋りたい。

それでも戦わなきゃいけなかったら、その時は……

頬を叩く、勇気が出てきた。

 

「いこう、レイジングハート。ここを戦場にするわけにはいかない」

 

すぐに外出の準備を済ませ、わたしはレイジングハートを掴んで部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年相沢祐一 ねくすて

61幕『半年振りの再会』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月2日

 

「へぇ〜、じゃあ裁判は終わったのか?」

「うん、前の事件に協力したことが考慮されたのか、少し早めに終わったの」

 

俺は艦長室まで先導してくれているフェイトちゃん達と互いの近況を話し合っていた。

フェイトちゃんの裁判は優先的に行われたらしく、判決も特に波乱といった波乱もないままに無罪となった。それが今から数日前のお話。

そして今はここ時空管理局・巡航L級8番艦『アースラ』で、嘱託の魔導師としてお手伝いをしているとのことである。(フェイトちゃんの話では裁判中から似たようなことをしていたらしい。保護観察とはいえ、管理局も人手不足なのだろうか?)

もしかしたら管理局が裁判を早めたのは、前事件で大活躍したフェイトちゃんという戦力を早く局に取り込みたかったからかもしれないな。まあ、本人は管理局勤務を希望しているし、それはそれで互いに好都合だろう。

 

「ま、それだけあの事件は、管理局のお偉いさんには衝撃的だったってことさね」

「うん、アースラも終結後は特別な待遇を受けているらしいよ。

私やクロノみたいな過大な戦力の保持が認められているのもそのおかげだって」

「そのおかげでいざとなったら最前線に送られそうだけどねぇ」

「お、そういえば、クロノは完治したのか」

 

 

「ああ、おかげさまで。ピンピンしているよ」

 

 

噂をすればなんとやらである。

俺がクロノの治療状況をフェイトちゃんに尋ねると、廊下の先からやってきた本人が代わって答えてくれた。

 

「よっ、久しぶりだな」

「話は聞かせてもらったよ。僕が離れてからは大活躍だったってね」

「そんなことないさ。あれはみんなのおかげだ」

 

黒い魔法衣を纏った少年との再会を喜ぶ。

前回の事件では俺をかばったせいで大怪我をしてしまい、長期離脱を余儀なくされていたが、この様子なら特に後遺症も残っていないようで安心した。

 

「謙遜しなくていい。相沢さんは立派に戦ったと艦長からも聞いている。

 ……うちの艦長を始め、管理局の様々な部署が欲しがるほどにね」

「それだよ、それ。息子のお前からも言ってくれ。俺は管理局に入るつもりはないってさ」

 

ちょうどその話題になったので、ここの艦長であるリンディさんの息子でもあるクロノにダメもとで頼んでみる。

それにしても仕事の途中だったからか、仕事モードが抜けきっていない。

公私をちゃんと分ける真面目なこいつは、仕事中は実の母親を艦長と呼ぶからな。

 

「無理だよ。艦長の性格はわかっているだろう?

 それに僕としても君と一緒に仕事ができたらいいなと思っているしね」

「俺はしたくないがな」

「そうつれないこと言わないでほしいな。ほら、フェイトからも何か言ってくれ」

「フェイトからも言ってくれよ。俺はそんな気は全くないってさ」

「わ、わたし?」

 

お互いが退かないのであれば、結論は第三者に求められるわけで。

俺とクロノが同時にフェイトちゃんに言い寄る。

フェイトちゃんは困惑した様子で俺達を交互に見た。

ん、どうして俺の方を向いて申し訳なさそうに目を伏せるんだ?

なんで「ごめんなさい、フェイトは自分の気持ちに正直になります」って小さな声で呟いているんだ?

 

「わた、私は――」

「おお、祐一君じゃないか。もしかしてフェイトちゃんが連れてきた参考人というのは祐一君のことだったのかい?」

 

「「……」」

 

「ねぇ、祐一君。なんでみんな『空気読めよ。馬鹿野郎』って冷たい視線を僕にぶつけてくるのかな?」

 

さあ? アレックスさん。俺に聞かれてもよくわからないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たわね。管理局に就職しない?」

「……まさか二言目でくるとは思いませんでしたよ」

 

予想外すぎる勧誘方法をとって見せた目の前の人物。

これがこのアースラの艦長であり、隣にいるクロノの実の母親であり、シュガージャンキーであるリンディ・ハラオウンさんだ。

リンディさんはそれまで座っていた革張りの椅子から腰を上げると、目の前の応接用の椅子にかけるように俺を勧める。

勧められるままに俺が着席すると、SPよろしく席の後ろにフェイトちゃん達が立った。

 

「あなたの世界の言葉にこういうのがあるらしいじゃない。『先手☆必勝』って」

「中の☆はいらないです」

 

なんでわかるのかというと、リンディさんが先手と必勝の間を妙に空けたからである。

とりあえず俺には校庭でチアリーディングをやるような酔狂な趣味はないし、メリージェンを歌うつもりもない。

 

「おかしいわねぇ。あなたの世界の映像媒体で流行っていたから取り入れてみたんだけれど。ほら他にも『キラッ☆』とか、『盛るぜぇ〜』とか、『ゆっくりしていってね!』とか」

「あんた絶対に参考資料間違えてるよ!」

 

思わず暴言になってしまう俺を許してください。リンディさん。

 

 

「……艦長。本題に入りましょう。話は後でいくらでもできる」

「そうね。この話はあとでゆっくりしましょう」

「後回しだろうが、ゆっくりだろうが答えは変わりませんけどね」

 

クロノがわざとらしく音を立てた咳払いを一つ立てる。

おっと、これ以上クロノを怒らせるわけにはいかないな。

 

「相沢さん、あなたが出くわした事件について聞きたいことがある」

「わかった」

 

俺は先程出くわした事件について覚えている限りの情報をクロノ達に話す。

紫髪の剣士風の女と、藍髪の変な口調の女が争っていたこと。

その戦いの最中に巻き込まれ、紫髪の女に助けられたこと。

そしてその女が口にしていた『リンカーコア』という言葉。

手がかりになりそうなものから、ならなそうなことまで、俺が現場で目に焼きつけた映像をあらゆる言葉を尽くして説明し終えると、クロノは思案顔で何やら考え事をしていた。

どうやら俺の語った内容に引っかかるものがあったらしいな。考え事を邪魔するのも悪いからほうっておこう。

 

「リンカーコア、その紫髪の女性は確かにそう言ったのかしら?」

「ああ、それが目的なのかって藍髪の女に問いただしていました。藍髪の女も答えははぐらかしていたけれど、似たような目的かもしれない」

「リンディ艦長、やっぱり……」

「ええ」

 

フェイトちゃんとリンディさんが俺を置いてけぼりに話を進めている。

うーむ、俺、一応参考人なんだけどなー、もう少しこっちも見て欲しいなー、なんてなー。

 

「はいはい、あたしが見ていてあげるよ」

「ああ、なんか扱いが雑……っ!」

 

アルフに肩をぽんぽんと叩かれる。モノローグ読まれたとかそんなのどうでもいい。ただ優しさが痛い。な、泣いてなんかないぞ。ホントだよ?

 

「で、だ。リンカーコアっていうのは一体なんなんだ?」

「それをあたしの口から言っていいものかどうかわからないからねぇ。ノーコメントといきたい所だねぇ」

「あとで好きなドッグフードを買ってやろう」

「魔導師の基礎知識だから、あたしが教えたところで機密には何の問題もないか。

 べ、別にドッグフードが楽しみって訳じゃ断じてないからね。うん」

 

俺の一言に見事な掌返しを見せてくれたアルフ。

ふっ、使い魔とはいえ犬っころ一匹、手玉に取ることなんてちょろいもんだ。

 

「魔法使いは呼吸みたいに魔力を外から体内に吸い込んで、貯めた魔力を外に吐き出すことで魔法を発動させることができるってところまではわかるだろ?」

「魔力が空気中にあるってことは昔教えてもらったから、理屈は理解できるな」

 

魔法から離れて半年も経つのによく覚えていたものだと自分で感心してしまう。

それだけあの頃の俺が必死になっていたからだろうか。それとも――

 

「リンカーコアってのは、それを行うのに必要な器官の一つ。簡単に言っちまえば魔導師の核みたいなもんだね。持っているか、持っていないかが魔導師と一般人を分けるくらい重要な器官さ」

 

つまり魔法を使う為に大切なものってことか。

じゃあ、それを求めていた奴らの目的ってことは……

 

「……魔導師狩りか?」

「いいいきなり何を言い出すのさぁ?! この話は終わり! 違う話しよ、違う話!」

 

怪しい。すげぇ怪しい。

俺が何気なく口から落とした一言にこれだけ慌てているアルフ。急に話題を変えようとするなんてベタな誤魔化しにも程があるだろう。

無論、これが演技という可能性もあるが、お世辞にも嘘が得意といえる性格ではないアルフだ。その線がないとまでは言い切れないが限りなく薄い。

だがまあ、積極的に首を突っ込みたいわけではない。この話はここで区切ってしまった方がいいだろう。

 

「そうだな。俺の考えすぎか」

「そうそう、それよりも進路の首尾はどうなんだい?」

「進路?」

「祐一はそれで管理局へ入らないんだから、それくらい聞かせてもらっても罰は当たらないだろ」

 

ああ、そういうことか。

本当の理由とは少し違うが、大学受験をしたいから管理局に入らないと理由をつけて断っていたことがあったからな。

 

「まあ、ボチボチかな」

「ボチボチ、ねぇ」

 

アルフが呆れた表情でこちらを見る。

うぐぅ、だってまだ試験まで3ヶ月くらいあるんだもん。ボチボチとしか言えない。

 

「ま、頑張りな。あたしには向こうの世界のことはさっぱりわからないけどさ、未来っていうのはどんな世界でも共通で大切なものだろ? よく考えな」

「あ、ああ」

 

まさかアルフに諭されるとは思わなかった。

でもそれだけ俺のことを心配してくれているってことなのだろう。

少しだけ嬉しくなった。

 

「それにほら、受験が終わったら管理局に入ってくれるんだろ?」

 

前言撤回。やっぱ管理局の人間は皆同じだった。

くそ、人間不信になるぞ。こら。

 

 

「まあ、こんなところかしらね。祐一君はまだこちらに入ってくれないみたいだから」

「だから俺は入らないと言っているでしょうに」

「ツンデレね。わかるわ」

 

わかってない、全然わかってないよ。この人。

 

「それじゃあ、祐一君は元の世界に――」

 

リンディさんの言葉が終わる前に甲高い音が艦長室に鳴り響く。これは通信の呼び出し音か。

 

「エイミィ、どうしたの?」

『例の反応が現れました! 祐一君の件があったのでヤマを張っていましたが、大当たりです!』

「?!」

 

場の空気が一気に緊張する。

例の反応……紫の方か藍の方かはわからないが、いずれかの勢力のことだろう。

確かに犯人は現場に帰るとは言うが、この早さは少し勇み足なのではないか?

それとも、それだけの危惧を冒してでも求めるものがあるのか。

奴らの求めるリンカーコアが魔導師の核だとはわかったが、それ以上の価値を見出せない俺にはさっぱりわからない。

しかし現実として奴らが出没しているのであれば理由があるのだろう。

 

「そう、それで場所は?」

 

通信の先にいるエイミィは即答をせずに一拍置く。

それが話の重要性を再確認させ、更に場の緊張感を高める。

 

「海鳴市です。なのはちゃんが住んでいる街の……」

「「なんだって?!」」

 

エイミィの言葉に再びの緊張が艦長室に張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがけん

久しぶりです。いよいよ月刊小説家になってしまった感が拭えないw

投稿も溜まっているし、感想も書いてないし、拍手の返事もできてない。

やばい、やることいっぱい多すぎだよorz

 

リンディさんはマジでニ○厨! というと漏れなくアルカンシェルが自宅に発射されまs(対消滅

 

 

 

 

 

※感想、指摘、質問はBBSかmailにてよろしくお願いします。

 

 

 

2008年12月7日作成