ねぇ、祐一。魔法ってなんだと思う?

 

火が出せることかしら?

空を飛ぶことかしら?

 

剣を作り出すことか?

それとも違う世界から生き物を喚び出すことか?

 

いいえ、全部はずれです。

 

相沢様、魔法っていうのはですね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

第58幕『魔法青年』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔石は煌き、光は体を包んでいく。

この感覚、覚えている。

あゆと。

名雪と。

真琴と。

栞と。

舞と。

すべての奇跡が起きた時、俺は確かにこの感覚に似たものを体に感じていた。

そうだったのか、お前が助けてくれたのか。封印されても尚、溢れだしていたその力で。

お前の力があいつらを救ってくれたのか。奇跡を起こしてくれたのか。もしもそうだと言うなら礼を言うぞ。

礼代わりじゃないが、お前に名前を付けてやる。

No.21なんてかたくるしい名前なんて捨ててしまえ。

そう、今日からお前の名前は――

 

 

 

「力を貸してくれ、『miracle』!」

 

 

 

レイバルト・バリアントから全ての魔石が放出される。

散らばった魔石は俺の中に埋め込まれ、新たな杖を、衣を、力を与える。

杖は一本の剣へ、衣は鎧のように硬質化する。

 

「レイバルト・バリアント、ミラクルフォーム」

 

全身に散りばめたるは21個の魔石。

胸に輝くは勇気という名の輝石。

これが21個のユンカースを束ねた最強の姿。

 

「行くぞ、満月。お前が手に入れようとしたこの力で……俺は止める!」

 

『speed』

 

魔石を使用する前提条件だった『魔石の名前を叫ぶ』という行為が簡略されたのだと気付いたのは、俺が既に速度の魔石を使って満月に飛び込んだ時だった。

俺がspeedと口に出す前に魔石は発動しており、俺の体は全くの違和を感じずに飛び込んでいた。口よりも体が先に動いたとでも言うのだろうか。

 

「いくらNo.21だろうと所詮は魔石です」

 

無詠唱発動に驚きつつも、満月は慌てずにこちらに杖の照準を合わせ、支配の能力を行使する。

たしかに魔石の支配ができるのであれば、俺を止めることができるかもしれない。

 

 

「無駄だ」

 

だがそれも俺が能力を把握していなければの話だ。

不可視の支配の鎖は俺の体に届くことなく、霧散する。

慌てて俺の突撃を避ける満月。そこには既に余裕の表情はなかった。

俺は盛大に砂埃を立てて停止すると、体を反転させて満月の方に向きなおす。

 

「支配の力が効かない?」

 

満月の顔に浮かんでいたのは戸惑いと驚きの中に納得が入り混じった不思議な表情。

それは満月だけではなく、周囲の面々も同じような表情を作っていた。

 

「俺はお前の力を拒絶した。それだけだ」

「拒絶……やはりホープの支配の力ではNo.21に通用しないと?」

「ああ。想いに魔力が乗ればできないことなんて何もない。

 それが奇跡――『miracle』――の力だからな」

 

miracleの能力はユンカースを束ねることでも、無詠唱で魔石を発動できることでもない。

 

――思い描いたことを全て現実にすることができる能力。

 

事象変換。これがmiracleの真の力、そして現存しうる魔法の最高峰。

ユンカースを束ねることも、魔石を無詠唱で発動できるのも、この能力のおかげなのだ。

我ながら反則だと思うが、確かにこの力なら世界の一つや二つは簡単に改変することができると実感できる。

触って改めて解らされる。こいつは最凶だ。

 

「魔法っていうのは、想いや願いを力に変えるおまじないみたいなものさ。

 俺達が願うから魔法は成立するんだ。逆に言えば願わなければ成立しないのが魔法。

 その想いを操ることができるのがこの魔石だ」

 

――いい、ムーン。魔法というのは想いがなければ存在できないの。

――想いがなければ魔力は魔法に変わってくれない。

――私は想いと魔法の架け橋になる何かを作りたいわ。

 

「勝負は決まった。降参……してくれないか?」

「お断りします」

 

人数差。戦力差。そして何よりも勢いの強さ。

どれをとっても俺達のほうが圧倒的な差をつけている。

それでも満月は首を縦に振らない。

スペリオル・ホープの外殻が罅割れ、破片となって空中をふわふわと漂う。

なるほど、それがホープの戦闘形態か。

 

「あなたと私は似ているかもしれません。

 これだけ絶望的な状況でも、まだ諦めきれない私がいるんですから」

「……満月」

「だから、戦うしかないんです。

互いに諦めないのならば、私と祐一さんの意見は決して交わりませんから」

 

『ブレイクショット』

 

満月が杖を降ると、破片が高速で俺の周辺を回りはじめ、その破片を反射鏡にして、一度に数十もの魔力弾が襲い掛かって来る。

反射させることで軌道を読ませないその攻撃は360度どこにも死角は存在しない。

それは見事と言わざるを得ない、素晴らしい攻撃だった。

だが、それでも、あいつの攻撃が完璧だとしても、今の俺には届かない。

完璧を超えた完璧な存在にただの完璧な攻撃が当たる訳がないのだ。

 

『absolute』

 

俺が念じるとすぐに効果が表れた。

魔力弾は俺に近づけば近づくほどに勢いをなくし、威力が激減する。

慣れない能力だからこんなにたくさんの魔力弾全てを相殺はできないが、痛くない程度に威力を削ることくらいならできる。

攻撃を全て受けきり、こちらの反撃――!

 

「はあああああああああああああっ!」

「――ちっ!」

 

突っ込もうとした時、濃厚な魔力が膨れ上がるのを感じ取る。

しまった、今の攻撃は晦ましの弾幕か!

満月の本命の砲撃がこちらへ向かってくる。

ボルツネェイの能力じゃでかすぎて相殺しきれない、なら!

 

「力を借りるぞ、ミナ!」

 

『shield』、『power』

 

「ドレインシールド!」

 

淡い緑の光に包まれた盾を生み出し、砲撃を受け止める。

緑光は衝撃を吸収し、その魔力も取り込むと、エメラルドのような緑が一層輝く。

 

「この魔力、使わせてもらう!」

 

『sword』、『power』

 

「Ticket To The Heaven!」

 

吸収した魔力の全てを剣に乗せた一撃を飛ばす。

すまんな、俺はやられたことは倍返ししないと気がすまないタチなんだ。

しかし放つ直前、剣に帯びた魔力が掻き消え、俺の技は空振りに終わる。

 

「ふふ、一つの魔法に集中している時なら、完全にとはいえませんが、私の支配の能力も通じるようですね」

 

前に立つはホープを構えた満月。

なるほど、魔石を操作することで俺の一撃を抑え込んだのか。

やはり強い。No.21を前にこれだけの戦いをしている満月。

あいつにこの魔石を渡していたら、俺程度では太刀打ちできなかっただろう。

 

「一進一退です」

「うん、隙を見せた方があっという間に負けちゃう」

 

薄氷を歩くような戦いは戦況を一向に傾かず、魔力と集中力だけを磨耗させていく。

もう互いに限界が近い。おそらくこれがラストアタック。

 

「……ありがとうございます」

「へ?」

 

満月が突然頭を下げる。俺は何がなんだかわからなくて慌ててしまう。

彼女の思惑を邪魔した俺に恨み言ならさておき、お礼なんて言われる筋合いがなかった。

 

「私にNo.21をかけなくて、ってことです。

 そのおかげで私はこうやって戦えるのですから」

「そんなの――」

 

こいつなら無理矢理思考を変えることは当然できる。

それは満月も無傷で、世界も救われる一番簡単な方法だ。

だけどそれは満月と同じだ。人の心を弄くって自分の目的を達成する。

俺と満月では状況が違うのは解っている。だからこそ否定した満月と同じ方法は取りたくなかった。ただそれだけだ。

俺がそう伝えると、満月は笑った。

 

「あはは、世界の存亡がかかっているのに、そんなことに気を遣っている余裕なんてないはずでしょう? 普通なら手段は選ばないです」

「そ、そうか?」

「そんな祐一さんだからこそ、私は好きだったのかもしれませんね。

 祐一さんが魔法使いでなければ、じっくり落としにかかっていたのに、残念です」

 

そう話す満月の顔はとても清らかで、見惚れるほどに美しくて。

……ちょこっとだけ改変されてもいいかな――。

 

「……祐一さん、そんなにあの女の胸がいいんです?」

 

ちょ、ちょこっとだけだからな。ほ、本当だぞ?

だからフィア、そのバナナで釘が打てそうなほどの冷気を持った視線で俺を見ないでください。

それと何故俺の考えていることがお前にはわかるのかお兄さん知りたいな。

 

「ふん、ムーンなんてとっととやられちまえですっ!」

「うう、満月さん綺麗だし、私なんかじゃ……」

 

ま、まったく、俺の動揺を誘う作戦に何故お前らがうろたえるんだか。

お、おれはべつにうろたえてなんかないぞ?

 

「さあ、行きます、祐一さん!」

 

先に動いたのは満月だった。

外殻が俺の周りを囲むように浮遊し、再び攻撃を仕掛けようとしている。

また先程の全方位攻撃だろうか。

しかしボルツネェイの能力でそれは効果がないと立証したはずだ。

それに続いた奇襲も一度目は通したが、二度目を通すつもりはない。

俺は再び奇跡に念じる。満月へ最高の魔術を放つために相応しい姿へと。

 

D.S.M. set up

 

剣が砲身へと姿を変える。

dream formの時とは形態は違うが、それ以上のものをこの剣から感じ取れる。

これなら撃てる。copyの時よりも、ディアボルガの時よりをも超える最高の一撃を。

取り込んだ魔力が循環し、様々な色の魔力が剣に生み出された排出口から漏れ出る。

 

「『キャノンショット』」

「アウロラ・バスター・カノン! シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥトっ!!」

 

奇襲時に放った砲撃と同じ大きさの魔力弾がブレイクショットのように反射し、一点に集中させたものが巨大な球となって襲い掛かる。

こちらにゆっくりと向かってくる最中も次々に魔力弾を食らい続け、その巨大弾は際限なく大きくなっていく。

それを迎え撃つは俺の虹色の濁流。

満月もこの一撃に全てをかけてきたのか、支配の力で掻き消すこともしない。

何の邪魔も入らない純粋な魔力と魔力のぶつかりあい。

発射タイミングは同時。魔力の内臓量もほとんど対等。ならば勝負になるのは――

 

「うおおらああああっ!」

「キャノンショットが……弾かれる……!」

 

押し切る。そのイメージだけを持って、魔力を放出し続ける。

応えるように虹色の光筋が一回り大きくなる。

それと同時に均衡にあった二つの全力のぶつかり合いは徐々に動き始めた。

 

「ホープ!」

「バリアント!」

 

しかし完全に押し切らずに止まる。やはり魔力の続く限り肥大する魔力弾を完全に押し切るには遅すぎたか。

だとしても押し切る。押し切ってみせる!

 

「限界まで極彩に輝け、レイバルト・バリアント。

 俺の魔力を曙光に変えて、撃ちだせええええええ!」

 

 

爆発。

二つの強大な魔力がぶつかりあった結果はエネルギーの暴発。

爆風が巻き起こり、砂埃が立つ。

迷わず俺は満月へと突進をかける。

見えないけどわかる。おそらく満月も俺と同じように突っ込んできているはずだ。

剣へと姿を戻したレイバルト・バリアントを下段から振り上げる。

満月の振り下ろした杖とぶつかる金属音が響き、その衝撃波で砂埃がぶわっと吹き飛び、視界を明るくする。

揃った様にバックステップ。振りかぶって第二撃――!

鈍い音と甲高い音と共に中空へと舞い上がるスペリオル・ホープ。

満月の手から弾き飛ばした黄色の魔石を冠した杖は高く、高く、舞い上がる。

もう二度とないというくらいの完全なる隙。

 

「『time』、『power』、『collapse』、『dream』、『absolute』。

 五つの魔石を奇跡の名の下に融合し今、新たな魔法として生まれ変われ!」

 

五つ全ての守護者の魔石を取り込んだ剣が黄金に輝く。

飛び上がる。剣の残光も天を描く流星のように白色の軌跡を描きながらそれに続く。

狙いは外殻を離し、剥き出しになったコア――スペリオル・ホープ。

あれを壊せば、満月は無力になる。そうすればチェックメイトだ。

 

 

 

 

 

「ああ、やはり、No.21には――いえ、違います。

人の『諦めない心』には勝てませんね……申し訳ありません」

 

 

 

 

「ディメンション・ブレイカアアアアアアッ!」

 

 

空間を切断して開けた穴は言わば小型のブラックホールだ。

光をも喰らう漆黒の大穴にぶち込まれれば、例え支配の魔石といえ一たまりもない。

その力は荒々しくも魔石を飲み込み、時空の彼方へと吹き飛ばす。遠い、遠い世界へ。

穴はだんだんと小さくなっていき、収縮したそこには魔石はおろか塵すら残っていない。それを目で確認し、俺は高々と腕を挙げる。

 

「いよっしゃあああああああああっ!」

 

それは勝利の狼煙。

長い……とても長かった戦いの終わりの合図。

 

 

「参りましたわ。私にはもうNo.21を奪う手段はありません。

 例え奪う手段があったとしてもこの腕ではどうすることもできません」

 

杖を握っていた方の腕を押さえながら、俯いた満月が敗北宣言をする。

弾いた時の衝撃に腕が耐えられなかったのだろう。

男の俺ならともかく、体の線が細い満月では骨の一本折れていたって無理はない。

それだけのことが言えるほどに先程の戦いが凄まじかったのだ。

 

「ふふ、責任、とってくださいね?」

「治療費だよな、治療費のことだよな?」

「…………そうです。ええ、治療費のことです」

「その三点リーダ四つ分くらいの沈黙はなんだ?」

 

「祐一さん!」

 

満月とそんな会話をしていると、なのはちゃん達がこちらへ駆け寄ってきた。

 

「これで、これで世界は救われたんですよね!」

「うん、祐一、カッコよかった」

「ま、これくらいは当然だ」

「やったのぉ!」

 

みんな俺にねぎらいの言葉をかけてくれる。

戦いが終わって嬉しいのだろう。ぱっと見落ち着いた性格だと思っていたフェイトちゃんですら、興奮した様子で話しかけてくるのだから、周囲のテンションが低いわけがない。

あろ? そういえばフィアはどこに――

 

「ゆーいちさーん!!」

「ぐふぅ?!」

 

突然、腹部に衝撃。俺は衝撃を殺せずに尻餅をつく。

見ると、フィアが俺の胸に抱きつくようにしがみついていた。

 

「うう、ぐすっ……ありがとうです。本当にありがとうです」

「おいおい、お礼なんかされるようなこと、やってないって」

「そんなことないです。祐一さんはお礼されるようなことしっかりやってくれたです」

 

まっすぐな瞳で俺を見つめてくるフィア。

そう見られると照れてしまうんだが。

 

 

―お前は誰だ?

―わ、私ですか?

―お前以外に誰がいる?

 

 

「見ず知らずの私のお願いを聞いてくれて」

 

 

―……いたいよ

―祐一さん!!

―償いたいよ!! でも、こんな俺が手伝ったところで足手まといにしかならない。

そんな事解りきっていることじゃ―――

―私は周囲がどう思うとかは聞いてないです!!

祐一さんがどうしたいか聞いてるです!!

 

 

「楽しい時も辛い時も二人で頑張って」

 

 

―優しいのは優しいに越したことないんじゃないか?

―優しさだけじゃ人は伸びないです

―でも優しさがなきゃ人は伸びない

―そんなの屁理屈です

 

 

「そんな今までのこと、全部にありがとうって言いたいです。

 あの世界で初めて会った人が祐一さんで本当によかったです」

「……フィア」

「ふ、ふぇ?」

 

俺の上で涙ぐむフィア。

俺はフィアの前髪をそっと横にずらして――

 

 

 

 

 

 

 

「あう、ですっ?!」

 

――でこぴんをかました。

 

「バカやろう、こんな時に泣くやつがあるか。こういう時は喜べ! 笑え!」

「うう、酷いです。えへへ……ぐすっ」

 

額を真っ赤に腫らし、先程とは違う意味で涙ぐみながらも器用に笑顔を作るフィア。

 

「ふん、でこちゅーなんぞ、フィアには百万年早いわ!」

「そ、そんなに待ってたら死んじゃうです!」

「待つつもりだったのか。それはともかくだ、しかしフィアには散々迷惑をかけたからな。

百万年のところをお客様感謝セールにつき今だけ十年でお届けしてやろう」

「じゅ、じゅうねん……」

 

それでもどこか不満げな顔のフィア。

ええーい、この俺が妥協してやったというのにまだ不満だというか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんか、いい雰囲気だねぇ」

「そうだな。僕たちのこと置いてけぼりにするのは止めて欲しいんだが」

「うらまやしいのぉ。ルドラも祐一様と抱っこしたいのぉ」

「なのは、いいの? 祐一さんのこと……」

「うん、せっかく戦いが終わったんだもん。少しくらい広い心を持たなきゃ」

 

なのははフェイトの問いに頷く。

最終的に勝利するのは自分であればいい。

それ以外で一々目くじらを立ててわざわざ心象を落とす必要はないとおおよそ小学生らしくないことを考えていた。

 

「それはそうと、フェイトちゃんこそいいの?」

「え?」

 

なのはから逆に切り返されてフェイトは戸惑う。

 

「ほら、フェイトちゃんも祐一さんと……とかになると、手強いライバルが登場だなって。

 ううん、別に興味ないならいいの。そのほうがわたしも嬉しいし」

「わ、私は……」

 

フェイトにはわからなかった。

そういう感情を今まで持ったこともないし、戦いの最中ではそんな感情持つこともなかった。

だけど自身をぽかぽかとさせてくれる雰囲気は記憶の中の母親に似ている気がして――

 

 

 

 

「わ、わかった、わかった。でこちゅーしてやるから、そう不満な顔するな!」

「わーいです! ちゅーです!」

 

 

 

 

「ごめん、ちょっとあの猫止めてくるね」

「ひ、広い心を持つんじゃなかったのかい?」

「それとこれは話が別なの。祐一さん、わたし、悪魔になってもいいですよね?」

「なのは」

 

ふふっと怪しい笑みを浮かべるなのはを呼び止めたのはフェイト。

他のメンバーはフェイトなら、フェイトならなんとかしてくれると淡い期待を抱くが――

 

 

「なのは、私も手伝うよ。早く行こう」

 

 

フェイトの一言は周囲をフリーズさせるには十分すぎる威力を持っていた。

フェイトが心中で私、氷結の魔力変換資質は高くないんだけどなぁと考えていると、なのはがぐっとくいかかってきた。

 

「や、やっぱりフェイトちゃんもそうなの?」

「……わからない。そういうこと今までなかったし、なのはみたいなそういう気持ちじゃないかもしれない。でもフィアの姿を見たらよくわからないけど少しムカついてきて。

今はその気持ちを確かめたいから、かな」

「……」

「えっと、おかしい?」

「……ううん、じゃ一緒に止めに行こうか。全力全開で」

「うん、全力全開で」

 

 

祐一達の知らないところで、親友は恋敵へとなる。

近い未来、彼女はきっと強大なライバルになるかもしれないだろうと、なのはは考える。

それでも勝つのは自分だと、なのはは信じている。

だからこそ、今は目の前で不埒な行動を起こそうとしている猫に正義もとい嫉妬の鉄槌を。

フィアの死亡フラグは着実に立ちつつあった。

フィアは転がり込んだ僥倖に嬉し恥ずかし。なのはらはそれを止めるために動く。

ギャラリーはフィアの冥福を祈るように十字を切る。

だがフィアの額に祐一の唇が付く前に、なのは達がフィアの元に辿り着く前に、

それを遮るように要塞全体が唸るように揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 地響き?」

「要塞が崩れるのか?!」

 

天井からぱらぱらと破片が舞う。

どう見ても崩れる予兆だ。

まずい。この要塞が落ちれば、下は虚数空間の海。

どこへ飛ばされるか解らない。いや、それどころか生きていられるかどうかも解らない。

 

「うう、でこちゅー」

「んなもん、後でしてやる!」

 

指を咥えてお預けくらった犬みたいにしょげているフィアはほっておく。

今は満月も連れてここから一刻も早く脱出を――

 

「って、満月は?」

 

 

周囲を見れば満月の姿は既になかった。

俺達がじゃれている間にどこかへ行ってしまったのだろうか?

……あの腕で? ありえない。だが実際にいないものはいない。

傷ついているとはいえ満月は俺以上の魔法使いだ。なんとか自力で脱出するだろう。

今はそう考えるしかない。それよりも人のことを気にしている場合じゃない、俺達も脱出しなければ。

 

「とにかく脱出だ! ユーノ君が向こうにいる以上、自力でアースラまで飛ぶぞ」

「……祐一様、ルドラはここでさよならなのぉ」

 

ルドラが俺を呼びとめる。

ルドラのさよならの意味が俺には薄々わかっていた。

 

「満月のことか?」

「ルドラはアグニたちと違って、かんりきょくの人間じゃなくて魔法界の人間なの。

 落ちこぼれだったのぉ。苛められてたのぉ。でもこんなルドラを拾ってくれたのぉ。

祐一様も大事だけど、あの人にもいっぱいありがとうがあるの」

 

理由が薄々わかっていた俺は決してルドラを引き止めるようなことはしない。

ルドラにはルドラの考えがあるし、少し不安だが、満月を探してくれるのなら、こちらも脱出に専念できる。

 

「……また、会えるよな?」

「もちろんよぉ! 絶対絶対また会うの! 今度は最初から味方でいるのよ」

「それは頼もしいな」

「頼もしいの。それじゃあ、ばいばい」

 

ルドラと別れる。

よし、俺達も脱出だ。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん」

「はい!」

「うん」

 

それぞれのデバイスを天井へと向ける。

 

Divine Buster

Thunder Smasher

『dream』

 

「「トリプル――」」

 

 

 

桃色の杖から、黒い戦斧から、極光の剣から。

 

 

 

「「バスタァァァァァッ!!」」

 

 

完璧な同タイミングでそれぞれの大砲を撃ち出した。

狙いを定めた天井はあっさりと消し飛び、貫通した光が虚数空間を突き抜ける。

よし、これで脱出の経路は作った。

 

『みんな、無事?』

 

穴から光が差し込み、白く崩壊し続けている大地を照らす。

アースラが既にこの場所に気付いてくれて、近くで待機してくれていたようだ。

 

「みんな無事です」

『よかった。それとおかえりなさい。あなた達の居場所、私達が確かに守り抜いたわ』

「……はい、ただいま」

 

光の中へ入ると、浮遊感に襲われる。

上昇し、ぐんぐんと離れていく要塞の姿。

既に半壊以上の姿を晒し、完全に崩壊するのは時間の問題のように見える。

 

 

 

 

さようなら、俺の魔法の日々。

ただいま、俺の平穏な日常。

さあ、帰ろう。俺達の世界へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

J「要塞編完結」

フィ「おつかれです」

「これで一部は残すところエピローグだけとなりました。

あとは遊び心にサブエピソードを数本挟んで第二部でしょうかね」

フィ「遊び心で数ヶ月かからないといいですね。無茶振り祭も終わってないですし」

J「orz

 

今回の解説 兼 いいわけ

 

J「今回はNo.21『miracle』について解説をしようと思います」

なのは(以下な)「先生、『miracle』の能力ってなんですか?」

J「筆者の解説力不足もたたり、上手く表現できなかったところもありますが、
  簡単に言えば、文中にも出てきました『事象の変換』です」

な「じしょーのへんかん? それってどういうことですか?」

J「例えば、なのはちゃんが2階建ての家のベランダから落ちたとしよう」

な「な、なんか嫌な例えです。微妙に高さも現実的だし」

J「普通ならば、なのはちゃんは地面に激突。大怪我、当たり所が悪かったら死亡してしまう。
  大変なことだな
……それでも生きてそうな気がするのは俺だけだろうか?

な「何か言いました? 今無性にスターライトブレイカー撃ちたい気分なんですけど」

J「何も言ってないぞ! 『高いところから飛び降りれば地面に当たって怪我をする』
  これが一つの事象だ。つまり○○をすれば××が起こるみたいなことだな」

な「なるほど、JGJに魔法を撃てば、JGJが丸焦げになるということですね」

J「恐い例えは止めてくれ。しかしその時、祐一が颯爽となのはちゃんを助けたとする。
  するとなのはちゃんは怪我を追わないだろう? 『横からの要因によって結果が変化する』
  これが事象の変換なんだ」

な「にゃー、祐一さんが助けてくれるなんて――とってもわかりやすいです
   でもそれって横からの要因がなければ起きないんじゃ……」

J「そう、だから『miracle』は魔力によってその要因を作り上げる。
  そしてその要因を使って事象を無理矢理変更するんだ」

な「むちゃくちゃです。法則とか完全無視ですね」

J「それが奇跡たる所以さ。こいつがあれば複数人のルートの同時攻略は勿論、死人や死人同然の人物を生き返らせたり狐を人の姿に戻したり目覚まし時計に愛の告白を吹き込んだりすることもできちゃうということなのさ」

な「最後のは自分でできそうですけど。祐一さんはこの魔石を使って奇跡を?」

J「祐一の魔力が封印されていたそれに反応して奇跡を起こしたと考える方が妥当だな。
  そのおかげで封印が解けかかったという考え方もできなくもない」

な「なるほど、つまりその説明で、とんでも展開も納得しろってことですね」

J「うむ、つまりそういうk――」

「全力全開!!」

 

〜作者フルボッコのため強制終了〜

 

 

 

魔術解説



ブレイクショット 使用者:愛知満月(ムーン)

スペリオルホープの攻撃形態から撃ち出す魔術。
空中に浮遊した外殻を反射鏡に魔力弾を乱反射させることで全包囲攻撃を可能にした。
高度な技術だが、miracleの前には宴会芸に過ぎなかった。




キャノンショット 使用者:愛知満月(ムーン)

同じく攻撃形態から撃ち出す魔術。
乱反射させず、一点に収束させることで巨大な魔力弾を生み出し、手数を犠牲に高威力を実現させた。




ディメンションブレイカー 使用者:相沢祐一

守護者の魔石5つを融合した融合魔術。

空間に穴を開き、そこへ物体を吸い込ませて次元の彼方へと吹き飛ばす。
miracleだからこそ出来る芸当であり、対多数、対個人どちらでも、一度ハマってしまえば脱出はほぼ不可避という強力な魔術である。(もっとも祐一が対人でこの魔術を使うことはほぼないだろう)

 

トリプルバスター 使用者:砲撃系を持つ魔術師3名

それぞれの得意砲撃魔術を同時に一点に放つ合体魔法。
今回は「ディバインバスター」「サンダースマッシャー」「アウロラバスターカノン」の3種で構成されている。類似技にトリプルブレイカーが存在するが、当然ながらこちらの方が威力は低い。

 

 

 

 

 

※感想、指摘、質問がございましたらBBSかMailにてお願いします。

 

 

 

J「うん今回はいつにもまして解説がグダグダ長いな」

フィ「言い訳がましいです」

 

 

2008年8月4日作成