未来の為に、世界の為に、友達の為に。

それは俺の誓いで信念。

その為に戦う準備も、笑う準備も、泣く準備も俺はできている。

 

さあ、始めるぞ。

この世界を賭けた大勝負。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

第56幕『狙い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、祐一さん、やっぱり戦うのは……うにゃ?!」

 

戦うのはやはりダメだと主張するなのはちゃんの頭に軽く手を添える。

なのはちゃんはやさしいからな。知り合いと戦うのは心苦しいと思うし、こういう複雑な世界を知るにも不相応な歳だ。

俺は頭を優しく撫でながらなのはちゃんの目線に合わせる。

 

「なのはちゃん。これは戦いじゃないぞ? これはちゃんとした『話し合い』の手順さ。

何が何でもこっちの話を聞いてもらわないといけないから、ちょっと手荒な真似をしてでも聞いてもらうんだ」

 

話し合おうと声高に叫ぶことで戦いがやむのであればこの世界に戦いはない。

話し合いを行うにはそれなりの武力を見せる必要もある。

思いだけでも、力だけでも、意見は通らない。

 

「で、でも……」

「いいか、なのはちゃん。相手にも目的や信念がある。

 話し合えればそれは素晴らしいことだけど、相手が必ずしも話し合いに応じてくれるわけじゃない。そういう時はこっちも心を悪魔にして、力ずくでも聞いてもらうんだ」

「悪魔、に……?」

「優しさも必要だけど、時には非情になることも必要。

 殴り合って解り合う関係だってあるわけだしな」

 

でもそういうのって今時じゃ青春ドラマにしかなさそうだよなぁ……

と、少々誇大に言い過ぎたかと反省したが、なのはちゃんの方はどうやらそれで納得がいったようだ。

 

「わたしもフェイトちゃんと全力で戦ったから、今の関係があるのかもしれません。

 わかりました、全力で満月さんと戦います!」

 

まさかなのはちゃんがそんな青春ドラマの王道的なことをやっていたとは。

人は見かけによらないな。俺が想像しているような血生臭いものではないとは思うけど。

 

「それでいいのです。互いが譲れないのなら、そうするしかありませんもの」

 

満月もこちらの答えに満足そうに口を開く。向こうは準備万端のようだ。

 

「『fire』、『chain』、『wing』、三つの魔石の力を融合し今、新たな魔法として生まれ変われ!」

 

先に動いたのは俺。

相手はラスボスと言っても遜色ない存在――そんな相手に小技なんて通じない。

今俺の出せうる一撃必殺の最大の技、それ一本だ。

 

「アカシィィィィィック クラッシャアアアアアアアア!!」

 

鎖を振り回すことで遠心力を加えた杖が獲物に喰らいつかんとする野鳥の如く、満月に襲い掛かる。

条件下でないと出せないアウロラバスターカノン、残っている魔力の問題で使えないネビュラスドライバーを除き、おそらく一番の威力を誇る魔術だ。

 

「ぬるいです」

 

満月がくるりと一回転をすると、衝撃波が全方位に放たれ、それを弾き飛ばす。

まるで作業のように、表情すら一片たりとも変えずに弾き返す様は俺の魔術など歯牙にもかけていない。それだけでも力量の差がひしひしと感じ取れる。

 

「この程度では私を止めるには力不足――」

「いや、そうでもない」

「……上?!」

 

気付いた時には遅い。

既に上空にはディアボルガとフェイトちゃんが飛んでおり、叩きつけるようにそれぞれ拳と得物を振るう。

バルディッシュによって防御壁を切り裂かれ、ディアボルガの一撃を腕部で受け止めようとする満月。

だが威力は折り紙つきだ。俺はさっき嫌と言うほどくらったから解る。

威力を殺しきれなかった満月の体は後ろへと引っ張られるように下がる。

 

「同時攻撃なんてアジな真似しますね」

「人数で攻めるのは戦いの基本だ。我々がこいつらにやってきたようにな」

 

砂埃をあげて後ろへ下がるも完全に体勢を崩すまでには至らない。

赤くなっている腕部を見る限り、多少なりともダメージはある。

それでもその痛みを引っ込め、表情を完全に崩さないのは、強い精神力を持っているからなのだろう。

 

「ええ、そういえばそうでしたね。『スペリオル・ホープ』」

「!」

 

満月が一言呟く。それは俺の知る魔石に非常に類似した名前。

するとどうしたことか、ディアボルガが突然苦しみだした。

 

「ディアボルガ?!」

「ぐう、魔石か」

 

ディアボルガの胸元から黄色の光が漏れ出る。

光はディアボルガから離れ、ゆっくりと満月の手へと収まると光を放つのを止めた。

それはどこか見覚えのある形をした黄色の宝石だった。

 

「それならば、私達は祐一さん達がしてきたようにすればいいだけですね?」

 

満月の手中にある魔石は肯くように大きく脈動し、大気を震わせる。

あれがスペリオル・ブレイド、スペリオル・ホーネストと同じ、魔石。

 

「圧倒的な力を持って、敵を制圧する。それだけです」

 

スペリオル・ホープと呼ばれた魔石が再び輝き、形を模っていく。

定着し、光が晴れるとそれは一振りの杖へと姿を変貌させていた。

 

「このスペリオル・ホープはあなた達の姉妹石。

 ですがあなた達の魔石とは一線を画した魔石なのです」

 

杖の形になったスペリオル・ホープを見て、なるほどと思う。

まず思ったのはその大きさだ。

柄の長さは俺達の持つ魔石よりも太く長く、満月の身長ほどある。

その上に付けられてある魔石の部分も球状の外殻に囲まれ、魔石が外側からは見えないようになっており、剥き出しの俺達と違い、魔石の防護に重きを置いているように窺える。

しかし魔石の割いた装甲と反比例するように満月の服は防護服に変化していない。

 

――使用者の安否を考えない、完全に魔石優先の仕様。

 

それがスペリオル・ホープを見た印象だった。

 

「ただでかいだけ、なわけはないだろうな」

「その通り。このスペリオル・ホープはそんな見掛け倒しの魔石ではありませんわ。

 ほら、大は小を兼ねると言うではありませんか」

 

満月は杖を縦のまま真っ直ぐに上げる。

一瞬、魔石を囲う外殻が怪しく光る。

 

「祐一さん! すぐに守護者達を杖に戻すですっ!」

「は?」

「いいから早く戻すんだ! アレが飛んでくる!」

「あ、ああ」

 

俺達が何をしようとしているのかと首をかしげる中、それに反応したのはフィアとスコールだった。

二人の必死な様子に俺は言われるがまま、気絶したままのアビスとミナを杖に戻す。

その直後だった。

満月が杖をそのまま地面に突き刺すと、眩い光の波動が放たれた。

光は俺達をあっという間に通り抜けて行くと、何事もなかったように輝きを治める。

フィア達があそこまで言うのだから、どんな凶悪な攻撃が襲い掛かってくるのかと思っていたら、何事も無かったので拍子抜けだ。

 

「い、一体何が?」

「それでよかったです。『何もなかったこと』が一番良かったことなのです」

「へ?」

「そう、何かあっちゃいけないから、守護者を戻せといったのだからな」

 

フィアやスコールの妙な言い回しに疑問を覚える。

今の攻撃にそんな威力があったとは思えないんだが……

 

「スペリオル・ホープの能力ですよ、祐一さん。

 例外の無い全てのユンカースの支配。勿論他人と契約しているものも含め、です。

これが戦闘能力と引き換えに得たこの子の能力です。

もっとも、消費する魔力も半端ではないですけど」

「は、はぁっ?!」

 

余裕の表れか、満月が丁寧に教えてくれた。

消費する魔力が半端ないと言っている割には大丈夫そうな表情なのだが。

例外の無いユンカースの支配。どんな強靭な能力を持ったユンカースも一瞬でひれ伏す、完全なユンカース殺しか。

……いくらなんでもそれは反則だろう。戦闘力がないことを差し引いてもお釣りがくる。

でもこれでフィア達の言動の意図がわかった。

フィアやスコールが危惧していたのは俺の持つユンカースが相手に渡ることだったのか。

 

「人のものを盗ったら泥棒なのよ?」

「ルドラ、微妙に突っこむところ間違えてる気がするぞ」

「ふふ、別に祐一さんのユンカースを盗もうとしたわけではありません」

 

的が微妙に外れたルドラの質問にも律儀に答えてくれた満月は視線を俺の隣へ移す。

 

「……なるほど、つまり君は『こういうこと』をしたかったというわけか」

「ええ、察しが良い男の子は好きですよ。スコール」

「お前に好かれても僕は嬉しくない」

 

いち早く満月の意図に気が付いたのか、満月に確認の意をこめて問いかけているスコール。

あー、どういうことなんだ? 俺は満月やスコールの視線の方向へ目を移す。

そこにはディアボルガがいた……はずだった。

 

 

「……え?」

 

 

しかし、そこにはディアボルガの姿は無く、ただ一つ輝く宝石がぽつんと転がっているだけ。

近寄り、拾い上げる。宝石には『No.3 collapse』と彫られてあった。

コラプス……たしか崩壊という意味を持つ単語。

崩壊……ああ、まさかそんなことだったのか?

ここでようやく俺も彼女の意図に気づいた。

 

本局に進入してきた時の手段。

俺と戦ったときに言っていた「魔法を破壊した」という発言。

そして何よりもユンカースのことを知っており、リムの能力も把握していたという点。

 

全ての点をつなげてみれば、納得ができる。

彼は『破壊する能力』を持ったcollapseと呼ばれるユンカースの一員だったんだ。

元より満月の本命はこちらだったのだろう。

このメンバーの中で一番の戦闘力を有しているディアボルガを無力化させたかったんだろう。

でも一つわからない。

 

「魔石の支配が出来るのであれば、ディアボルガを味方につけてこちらに差し向けることも出来るはず。何故それをしなかった?」

「言ったでしょう? 私はあなた達に幸せになってもらいたいのです。

 私があなた達に攻撃をする理由などありません」

 

あくまで俺達を幸せにする為だと言い張るつもりなのか。

満月は姿に似合わない重厚な杖を手に持ったまま微笑む。

 

「それに駒は全て揃いました。もう私を止めることは不可能です」

 

満月がとんと杖で地を叩くと床にぽっかりと穴が開く。

思わず身構えてしまったが、落下特有の浮遊感が無い。

どうやらこれは穴を開けたのではなく、下の様子を映し出す為に床を透明化しただけなのだろう。

視線を下へ向ける。そこには――

 

 

 

「俺達の、街……?」

 

見覚えのある道。

見覚えのある学校。

見覚えのある商店街。

確実に見たことのある家。

そこには俺達が住んでいる街の姿が広がっていた。

既に時刻は深夜を回っているのだろうか、街に灯る光の数は極少数であり、何事も無い日常を完全に演じきっていた。

 

「何故ほとんどのユンカースがこの街に集まるのか。不思議ではありませんでしたか?」

「……?」

「ユンカースは事故で世界に放たれたわけじゃないってことですわ」

 

唖然とするしかなかった。

満月の言葉に今までの俺達の持っていた前提が次々に崩れ去っていく。

 

「どういうことなんだ? フィア、スコール」

「『魔法界の遺産であるユンカースが何者かの手によって解放された。君達はそれらを封印し、持ち帰ってくることが任務』

こう言われて、僕達が捜索任務に当たったのは保証する。間違いない」

 

それだと満月が言っていたことと真っ向から矛盾するわけなんだが……

 

「わ、私達にもさっぱりです。事故じゃないってほんとにほんとですか、ムーン?」

「ユンカースは事故で放たれたわけではなく、意図的にこの世界に『送り込まれた』ということか?」

「そんな……何の為にそんなことをフィアちゃんの世界の人達がする必要が?」

 

なのはちゃんの問いに満月はその質問を待っていたかのように顔を綻ばせる。

 

「そう、それはユンカースがこの街に集まった理由と関係があるのです」

 

満月は杖で透明の床をこんこんと叩いて答える。

満月の言っていることは完璧に嘘だと言うことが出来れば楽なんだろうが、俺には断言ができなかった。

ユンカースには強力なロックがかけられているとフィアから聞いている。

『それを管理している者でなければ』一つ破るのですら骨が折れる作業になるだろう。

だがだからといって満月の言葉を妄信する訳ではない。

ユンカースの自演気味の意図的な解放と、ユンカースが俺達の街に大量に出現した理由。

その二つが繋がっていることはわかる。

満月の意見が正しいと仮定するならの話だが、魔法界のお偉いさんが俺達の世界にユンカースを送り込んだ、そして何かの影響でこの街に集まってきたからだろう。だが理由がわからない。

魔法が発達しているどころか、魔法の「ま」の字も日常に出てこない俺達の世界にユンカースを送り込む理由。

それがわからない以上、満月の話を本物と判断するのは尚早すぎる。

 

「彼らは探していたのです。21個目のユンカース。

 強大な力を持つ為に、魔法とは関係のない地に封印されていたNo.21。

 No.21は最初に作られ、最高の能力故に、最後の番号を与えられたユンカース。言わばユンカースの王です。

ユンカースは守るためにNo.21へ惹かれ、No.21は再び活動するためにユンカースを引き寄せる」

 

話が繋がって見えてきた気がする。

状況証拠だから確定的とは言えないが、魔法界のお偉いさんがそれを目的にしていたとしていたのであれば、合点がいく。

No.21の魔石が俺達の世界にあると知っていた魔法界のお偉いさん達は、ユンカースを解放させて自由に歩き回らせることでNo.21の出所を探していた。

そして居場所が解り次第、フィアやスコールにユンカースを回収させようとしていたのか。

その場所が俺達の街だったというわけだ。

 

「祐一さん、それってエレナさんが言っていた、守護者を超えるユンカースのことですよね?」

「ああ、天野の神社で聞いた通りならそういうことになるな」

「エレナやアビスよりも強力な魔石……一体どんな能力が……」

「どーするんだい? アレ以上の能力なんて、もう想像付かないよ!」

「フィアや僕はNo.21の存在は知っていたが、それが封印されていたことは知らなかった」

「それに魔法界が探していたことも知らなかったです。

 そんなもの魔法界が手に入れていたら……」

「確実に戦争が起きるな。それも次元を跨いだ大規模な侵略戦争が」

 

何も知らされないで利用されるのを喜ぶ人間なんてよっぽどの奴隷気質だ。

そんな気質を持たないフィアやスコールは当然嫌悪感を示している。

他の面々も信憑性が上がるにつれ、No.21の脅威という影に怯み気味な状況になっていた。最低でも一つの世界がこれだけ欲しがるものなのだ。怯むなと言う方が可笑しいか。

そして、まだ安心は出来ないのだ。

満月の話した魔法界側の思惑は俺やディアボルガ、それを影で指揮していた満月と言うイレギュラーのおかげでまず潰えるだろう。

フィアやスコールも知った以上は自ら世界の暴走に協力はしないだろうし、満月は元から知っていたようなので論外だ。

時空管理局も次元世界を跨ぐ侵略戦争となってしまえば、秩序を守るために動かざるを得ない。

最低でも傍観は絶対にしないはずだ。

当然俺もそんな馬鹿げたことに協力する気なんて毛頭無い。

この時点で魔法界にこの力が渡る可能性は限りなく0だ。そこら辺の不安要素は解決したといっても過言じゃないだろう。

だが問題は『今の状況』なのだ。

情報を知っている満月が、街の上に要塞を滞空させている。

それは満月が「これからその強大な力を取りにいく」と言っている様に聞こえてならないのだ。

世界を改変しようと考えている奴がそんな強大な力を持つ……小学生でもわかる。

どえらい事になることお墨付きだ。

いや寧ろ、満月はその力で改変を行おうとしているんじゃないだろうか?

そいつは拙い。授業中盤の尿意の100倍拙い。

それだけは絶対に止めないといけない。

皆も同じ結論に至ったみたいだ。満月の方を向き、得物を構える。

 

「ふふ、構えたところで無駄です。

先程言ったはずですよ、『駒は揃った』と……!」

「?!」

 

満月が魔石を拾い上げる。

守護者が向こうの手に渡ったことに少なからず焦りを覚える。

ただでさえ強い満月に、先程まで激闘を繰り広げていたディアボルガが敵に回れば苦戦は必至だ。

しかし満月はそんな俺の予想とは反する意外な行動を取った。

 

「……へ?」

「さあ、これであなたは20個の魔石を束ねた王様です」

 

満月はぞんざいにぽーんと俺の胸元にそれを投げてきたのだ。

慌ててキャッチした呆然状態の俺に、彼女はそんな言葉をかける。

 

「……ムーン、どういうことだ? 敵に塩を送ったつもりか?」

「私はあなた達を敵と思ったことはないし、そんな殊勝なものでもないですわ。

ただこの方が楽なだけです」

 

俺がディアボルガの魔石を握り締める。

……これで20個。残るのは話に出ているNo.21だけだ。

 

「ええ、『器』なんて差し上げますわ」

 

俺が魔石を受け取った後、突然、レイバルト・バリアントを中心に魔法陣が形成される。

こ、これはいったい?

地面が、壁が、天井が揺れる。

地響きは大きくなり、ついには俺達は耐え切れずに膝をつくほどの激しさになる。

 

「私は『中身』があれば、それで十分」

 

下に見える俺達の街が黄金に輝く。

黄金は中空に集まり、一つの玉を象る。

まるで太陽みたいに照らすそれは魔法使いだからこそわかる。

いや、魔法使いじゃないとわからないだろう。強大な魔力の塊だ。

 

「ありゃ、なんだい? なんかヤバイ匂いしかしないんだけど」

「すごく綺麗……だけど、すごく怖い……」

「こんなすごい魔力、感じたことありません」

 

なのはちゃん達の言うとおり、あの球体が放つ魔力は異質だ。

圧倒的な魔力の中に暖かみがある。その暖かみが不自然で、同時に不気味だった。

 

「No.21の封印は解けました。20個のユンカースをまとめた者の下へと参じる為に」

「それじゃあ、あれがNo.21?」

 

俺が光を指差すと、満月が首を縦に振る。

No.21。最強のユンカース。

そう言われても納得できるだけの存在感をあの光は持っていた。

つまり満月はその封印を解くために、故意に俺に魔石を渡したのだ。

確かに俺から19個奪い取るよりも、そのほうが効率がいいのは認めよう。

だが、彼女は大きなミスを犯した。

 

「ふふふ、馬鹿ムーン、ツメが甘いです。

まとめた者の下へ参じる、ということは、No.21の主は祐一さんなのですよぅ!」

 

フィアが言ったとおりだ。

もしNo.21が魔石を20個集めた者の前に現れるのであれば、その正当な後継者は当然魔石を20個集めた者になる。

つまり言えば、今の正当な主は俺であり、満月は面倒でも俺から魔石を19個奪い取らなければ、奴を従わせることはできない。

当然、俺も世界を変えようとしている奴に素直に所有権を譲るわけもない。

形勢逆転。

相手のミスではあるが、あっさりと俺達は不利な立場から逆転を果たしたのだ。

しかし――

 

「ふ、ふふっ……」

「どうしたですムーン。自分の馬鹿さ加減に笑いでもこみ上げてきたですか?」

「やはりお馬鹿はお馬鹿ですね。フィア」

「どういうことです? あなたの野望は私達が粉々にしたはずです」

 

満月は笑って……嗤っていた。

ムーンはフィアの問いに答えるでもなく、ちらりと、俺に自らの杖を……杖を。

 

――そ、そうだったのか?! だとしたら本当に大馬鹿なのは俺達だ!

 

そうだ。そうだよ。それがあったんだ。

 

さっき目の当たりにしたばかりじゃないか!

 

なんで忘れてしまっていたんだ!

 

 

「祐一さんは気付きました?

忘れるわけないですよね? No.21がいくら強大でも所詮は魔石。

私の杖の特殊能力である魔石の完全支配に勝てるわけがないってことを」

 

 

 

 

満月は正当な方法じゃない。いや、正当な方法で手に入れる気なんて更々なかった。

そう、あいつは『スペリオル・ホープ』というチート気味な裏技で、No.21を横取りする気だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ちょっと区切れ悪いけどここで止めとく。

次はもっと早く書きたいよ。

 

はやく無茶振りも書かないといけないのに、何やってるんだろうね。自分。

 

 

 

 

 

 

 

2008年6月9日作成