「ここなのぉ」
傷ついた久瀬達と共にユーノ君をアースラへ返したあと。
ルドラに案内された場所は近代的な要塞には似つかわしくない巨大な石門だった。
今時テーマパークか観光名所にでも行かないと見られないような荒削りな石門はそれ自体が意思を持って俺達に立ち向かってくるのではないかと想像してしまうほどの不気味な威圧を持っている。
――体が震えている。
それは機械で囲まれている所にある石門が異様なオーラを放っているせいなのかもしれないし、俺がディアボルガ、そして満月との再会に体を硬くしているせいなのかもしれない。
でも俺はこう思うんだ。
「ルドラすっごいのっ、成長したのっ、ここまで初めて迷子にならないで辿り着けたの。
祐一様、ほめてほめてぇ〜」
この震えは、ルドラの案内でこの場に無傷でいられたことによる感動の震えなんだろうって。
魔法青年 相沢祐一
52幕『ドッペル』
さすがのルドラもいくらなんでも自分の本拠地の案内くらいちゃんとできるだろう。
そんなことを考えていた時もあった。といっても数分前の話だ。
門に着いた時にルドラが嬉々とした表情で「初めて迷子にならないでここまでこれたのぉ!」と俺に話しかけてきた時には、普段はロクに信仰もしない神様にありがとうと祈った。
もしかしてここまでの行程で罠にひっかからなかったのも、敵よりルドラの方がひっかかる可能性が高いから罠を張ってないんじゃないかと勘繰ってしまう。
それはそれでラッキーだからいいのだが。
そういった意味もこめてルドラの頭を撫でてやると、はぅ、と風呂に入った時にでそうな息をついて目を気持ちよさ気に細めた。
「……そこ、これから決戦だってわかっているかしら?
そんな『兄妹』みたいなオーラ出してないでさっさと行くわよ」
「まあまあtime、自分で言っているではないですか。
相沢様にとって、彼女は『妹』みたいなものなのですから」
「そうですよ。わかったらとっとと離れなさいですわ、このぽんこつ魔導師」
「あぅ、こわいのぉ……」
守護者の怖い視線に萎縮しているルドラの盾になるように体を移動させてから宥める。
「そうよ三人とも。今はこんなことに目くじらを立てるよりももっと重要なことがあると思うのだけれど?」
そんな中、リムがルドラの肩に手を置いて援護してくれる。
よかった。どうやらリムは三人と違って冷静で――
「わかったら、さっさと案内、してもらえるかしら?」
「わぅっ、か、たっ、いたいのぉ、肩、いたいの!」
――冷静、だよな?
ルドラは半分涙目で俺から離れると、石門の前へ移動してなにやら呪文を唱え始めた。
聞いたことのない言語。頭が良いとはいえない俺にはそれは確実に日本語ではないってことくらいしかわからない。
ひたすら、ただ一心に呪文を唱え続けるルドラ。
ルドラのような見た目幼い少女でも、呪文を唱えるだけで何かオーラのようなものを纏っている様に錯覚してしまうのはきっと俺だけではないだろう。
そんなことを考えているうちにルドラの詠唱も終わりを迎えようとしていた。
「――デ、ヴィル・ヴィオ・レーン」
「ヴィルヴィオレーン……向こうの言葉で『勝者と敗者の門』か。
あたし達は果たしてどっちになれるかしら?」
「……当然、勝者になってみせるさ」
堅く門戸を閉じていた石の扉が地響きの音を立てて、ゆっくりと開かれていく。
徐々に拡がっていく隙間から中を見ようとしたが、うっすらと暗くてよく見えない。
まあ、今見えなかったところで、これから中に入れば嫌でもわかることだ。
そう自分で納得して既に半分以上開かれていた門をくぐる。
――例えるなら落ち目に入った国の王の間、もしくはRPGのラスボスが待ち構えていたりしそうな部屋とも言えそうだ。
中はサッカーのコートより少し大きいくらいの広さで、それはこの部屋が戦闘を前提に作られている為なのだろう。
側面に設置された照明代わりの光球が人魂のように揺らめき、ぼうっと周辺を照らしているが、この広さでは明らかに照度不足であり、壁際は明るいが中心に近づくにつれ段々とほの暗くなっていっている。
「祐一」
「ああ、わかってる」
エレナさんの言葉に頷く。
部屋の真ん中だ。そこに誰かが居る。
暗がりで姿を特定することは出来ないが、この魔力は確実に奴である。
「待ちくたびれたぞ。人間よ」
「悪いな。いろいろと邪魔があったもんでさ」
「歓迎の証だ」
「いやな歓迎だ。少なくともここがホテルなら俺は宿泊拒否するね」
影が笑う。釣られた訳じゃないが俺も笑った。
そして一仕切り笑いあった後、俺は本題へと移る。
「似てない物真似をするなら、そこをどいてくれると助かるんだが。
お前もそう思うだろう? copy」
「……ふふん、成長しているようですね」
例え声や肉体を真似たとしても、ディアボルガとこいつじゃ魔力の総量が違いすぎる。
俺が恐怖したディアボルガの魔力は、ユンカースが取りついた一般局員のそれなんかとは比べ物にならない。
影――copyは多少驚きつつもすぐに体裁を整えて、初めて出会ったときと同じような、皮肉めいた調子で話しかけてきた。
他の面子も影がディアボルガではないとわかっていたためか、さしたる驚きもないようだった。
「んー、そうですねぇ。私としてもここからすぐにでも退いて差し上げたいのは山々なのですがね。そうは問屋が卸してくれないのですよ」
「まあ、そう言うと思っていたさ。だから力で通らせてもらう」
杖を構え、copyの下へ駆けようとした時、俺の前をアビスの腕が遮った。
邪魔をするなとアビスを睨みつけようとしたが、その前にアビスが小声で口を開く。
「相沢様、落ち着いてください。いくらマスターのディアボルガが指示したことはいえ、こんな無謀な事にあれが律儀に従っているとは思えません」
「……向こうがこっちを誘っていると?」
黙って首を縦に動かすアビス。
確かに俺達を前にした向こうの余裕といい、腑に落ちない所がある。
もしかしたら、こちらが攻めてくるのに合わせて罠を張っているのかもしれない。
copyから距離をとり、杖を改めて構える。
そんな俺の様子を見て、copyは肩を竦める。
「残念、失敗ですか。今のあなたなら引っかかってくれると思っていたのですが」
「ま、そう簡単に引っかかる訳がないってことさ」
「……アビスがいなかったら確実に引っかかっていたけど」
リムよ、それを言われるとシリアスなムードがぶち壊しなんだが。
「引っ掛かってくれれば私の労力も少なくて済んだのですが。仕方ありませんね」
……妙だな。
罠が見破られて、向こうはいっぱいいっぱいのはず。
それなのにこのcopyの余裕はなんなんだ?
「本当、残念です――」
『――起きなさい』
「?!」
copyの一言と同時にcopyの両側から強力な魔力が湧き上がる。
どういうことだ? さっきまで微塵も感じ取れなかった。
伏兵がいたのかとも考えたが、すぐにその考えを否定する。
そいつが魔力をどれだけ抑えて隠れていたとしても、手ですくった水がどうやっても下にこぼれてしまうように、漏れ出る魔力を完全にシャットすることは不可能だ。
それくらいは魔法に触れてまだ間もない俺にだってわかる。(というかなのはちゃんやユーノ君に教えてもらったことなのだが)
だから目の前で起こっていることは人間技じゃない。
ならば残りのユンカース?
しかし、あれは発動した時に独特の信号のようなものを発する。
確たる裏付けがあるわけじゃないが、今までもユンカースが発動してきた時はそうやって判断してきた。
「あはははっ、驚きますよねぇ?
生物でもない、ユンカースでもない、まったく未知の存在。それがあなた達に牙を剥いているのですから」
ですがね、とcopyは続ける。
「これはそれほどミステリなものでもないんですよ?」
「『shield』!!」
copyの右側から放たれた桃色の光弾を盾で防ぐ。
飛んできた4発全てを防ぎきると、間を入れず今度は左側から金色に輝く槍。
これも盾で受ける。しかし、槍は盾に着弾したと同時に小規模な爆発を起こす。
爆発で盾を持つ手が不用意に上がり、不安定な体勢になる。
続けて右側からの砲撃。これはさすがに防げない。
これはアビスが前に出て、空間に穴を開けることで無力化した。
「ありがとう、アビス」
「いえ」
「にしてもこの攻撃は……」
桃色の誘導操作弾に、金色の高速直射弾。
俺はこの組み合わせの魔法を使っている少女達を知っている。
だけど彼女達が裏切った? そんなこと考えられない。
でも今の魔術は確かに彼女達のもので。
一体、あれはなんだっていうんだ?
「――杖以外の形状で魔法を行使する事を前提に作られたXシリーズの最高傑作にして完成型。ご紹介しましょう。これが人型デバイス、通称『ドッペル』」
壁に設置してあった光球が照度を上げたからか、部屋が一気に明るくなる。
copyの両隣に立っていたのは、なのはちゃんくらいの身長をしたアンドロイドぽい人形だった。
肌は濃い灰色をしているし、関節の部分も人形のような球体関節でできている為、どこか機械的な印象を与えるが、体の線はまるで人間のような柔らかな曲線を描いており、このギャップが存在感を上手い具合に引き立てている。
それと身長の割に出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる所から考えて女性型なのだろう。
……なのはちゃんやフィアよりもスタイルがいいと思ったのはここだけの秘密だ。だからお前も口外してくれるなよ、アビス。
「わかりました。さすがに私も相沢様の丸焼きは見たくありません」
なんかしっくり来ないけどとりあえず礼は言っておくよ、アビス。
「で、これがXシリーズの完成型だっていうのか?」
「ええ、傀儡兵よりも高貴で美しく、ただの武器よりも強力。
これが管理局の強硬派が目指した最高のデバイスです」
ちらっとドッペルの方へ視線を向ける。
ドッペルはcopyが説明している間も直立不動で立ち続けていた。
その姿には一縷の隙も無い。完成型と呼ぶのも頷ける。
「奪った設計図を元に作り上げたものですが、設計図通りの性能を発揮してくれていますし、そして何よりこの二体には――」
「――なのはさんとフェイトさん、二人のデータが入っている。違うかしら?」
「ご明察。さすがdreamと言っておきましょうか」
「褒められた以上、礼は言っておこうかしら」
ぱちぱちと癪に障る手拍子を打つcopy。
リムはそれを気にしない風にあしらう。
ドッペルの性能云々の詳しくはわからないが、つまりはなのはちゃんや、フェイトちゃんが使っている魔術と同じものをドッペルが使えると言うことなのだろう。
なのはちゃんの実力は折り紙つきだし、フェイトちゃんもそれに並ぶ実力者だ。
更にそれに輪をかけて、copyとルドラがいる。
数の上ではこちらの方が辛うじて上回っているが、戦力的には伯仲している。
苦戦は免れないだろう。
「こりゃ、苦戦するな」
「大丈夫なのよ。祐一様はルドラが守ってあげるのぉ」
「へ?」
そんな懸念はルドラの一言が完膚なきまでにぶち壊した。
呆然とする……よし、落ち着いた。
状況を冷静にまとめようじゃないか。
ルドラは俺を慕っているとはいえ、立場的には俺達の敵に当たる。
いくら頭の弱―げふんげふん、ちょっとだけドジっ子なルドラでも、そんな基本的な設定を忘れているとは思えない。
「ルドラは祐一様の味方なのぉ。それにcopyは意地悪するから嫌いなのよ」
と言うと、ルドラはcopyに向かってあっかんべーをする。
どうやらルドラにとっては組織云々の関係よりも、個人への好感度を優先するらしい。それでいいのかと思うが、自分達に有利になることなので敢えて突っ込みはしないことにする。
「奇遇ですね。私も頭が弱い人は嫌いでして」
「頭弱くないもん! 『ルドラはバカだな』ってアグニが言ってたもん!」
それはあまり意味が変わらないような気がするが。
斉藤は絶対に褒めたつもりはないだろう。
「さて、無駄話はここまでにしましょうか。『レプリカ』」
copyは手元に二本の杖を作り出し、それをドッペルに持たせる。
デバイスにデバイスを持たせるというのはなんともシュールだと思うのは俺だけだろうか。
だけどcopyがただのカッコつけで杖を複製したとは考えづらい。あの杖には何か仕掛けがあるはずだ。
copyの能力では外見はともかく中身はオリジナルの性能を持たせることは出来ないが、それでも魔力を増幅、強化させるくらいのことは出来るのだろう。
「やりなさい」
命令と同時に俺達との距離を詰めてくるドッペル。
それに合わせるように俺達も臨戦態勢をとる。
「ここはあたしがやるわ」
一歩前に出たエレナさんが指を鳴らす。
ドッペル周辺の時が止まり、途端に色を無くす世界。
その中を唯一つ駆け抜けるのは金の暴風。
振り回された腕はすれ違うドッペルを巻き込み強烈な打撃を加えると、そのままの勢いでcopyのもとまで駆け寄り、動かないcopyの首を掴んで壁まで運び、叩きつける。
止まっていた時が再び刻み始めると、ずしんと部屋全体に振動が走る。
遅れてやってきた痛みに顔を歪ませるcopyと、積み上げた積み木のようにあっさりとバラバラに成るドッペル。
「ぐ、う……」
「あっけないもんね。これが自慢の秘密兵器ってわけ?」
文字通り『時間をかけず』に二体と一人を制圧したエレナさんは、余裕と皮肉の混じった笑みでcopyを嘲る。
「そう、ですねぇ……」
「?! エレナさん!」
エレナさんの背後から敵が飛び出てくる。
伏兵はエレナさんに向って光刃を振り上げて襲いかかる。
copyだけに気を取られて過ぎていたためか、エレナさんの回避は間に合いそうにない。
俺は即座にspeedを発動させて、エレナさんの助けに入るべく駆け出す。
しかし――
「きゃあっ!」
さすがに距離が離れていたため、初撃は間に合わず、エレナさんは敵の横薙ぎを腕と腹部にもろに食らってしまう。
「エレナさん! ちっ、これ以上はやらせるか!」
これでとどめと振り下ろされた追撃の刃がエレナさんに当たる直前、何とか間に合った俺が間に割って入り、移動中に発動させておいたshieldで斬撃を防ぐ。
剣と盾の衝撃を殺しきれず体勢を崩した敵をshotで射抜き、破壊する。
「大丈夫か、エレナさん?」
「う、うん……なんとか、致命傷は免れたみたいだけど……」
敵を気にしながらも俺はエレナさんに声をかけると、気丈な言葉が返ってくる。
しかし吐く息は荒く、傷口も開いている。
血が出ていないことがせめてもの幸いかと思ったが、元々彼女たちには血が流れていないことに気づき、認識を改める。
ここまで傷口はリアルなのに、一滴も血が流れていないというのはなんとも不思議な光景だと思ったが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
これは想像以上に重傷のようだ。少なくとも、戦闘の要である腕部も片方やられている、戦闘は難しいだろう。
「大丈夫ですか? time」
「いたそーなのぉ」
「だいじょーぶよ、あたしは、丈夫なのが取り柄なんだから」
他の守護者達やルドラもこちらに駆け寄ってくる。
四人もエレナさんについた非現実的な傷を見て、目を見開いた。
「でもその傷……」
「こんなの、かすり傷。ほら、だって、ほら、血も出てないでしょ?」
「私達に血は流れてないわ」
「……あう」
リムの冷静な突っ込みにエレナさんはしまったという顔をする。
他の面々ももちろん理解しているだろう。
エレナさんは今、すごく無理をしているということを。
だから、俺はエレナさんに言ってやらないといけない。
それがユンカースの、エレナさんの主としてできることだから。
「休んでくれ。エレナさん」
「へ……な、何言ってるのよ! まだあたしはやれ――」
「アビス、エレナさんが回復するまでどれくらいかかると思う?」
エレナさんの抗議を無視して俺はアビスに尋ねる。
「傷の度合いから見て、1、2時間もあれば十分かと」
「命に別状は?」
「ないでしょう。そこまで深刻なものではありませんし、デバイス内であれば回復もできますから」
矢継ぎ早にアビスに質問をする。
エレナさんに抗議させる時間なんて与えない。
アビスも俺の意をわかってくれているのか、同じように間を空けずに淡々と質問に答えてくれた。
「ちょっと二人とも話を聞きなさいよ。
あたしはまだやれるって言っているでしょうが」
「強がりはよくありません。ここはご主人様の言うことに従う方がいいですわ」
「言い方は悪いかもしれないけれど、手負いのあなたがこのまま行動していてもただの足手まといね」
「うっ……」
リムとミナも俺達に加勢してくれる。
俺は怯んだエレナさんに畳み掛けるように口を開いた。
「大丈夫、エレナさんはゆっくり休んでればいいって。
俺だって、アビス達だって、そう簡単にやられないってことくらいわかっているだろ?」
「……」
「まだユンカースだって全部集めきってないし、やりたいことだって、守りたいモノだってたくさんあるんだ。こんなところでくたばってなんかいられるか」
俯いて何も言わないエレナさんにそう言い切る。
俺はまだ何も終わらせちゃいないんだ、終わらせる為にもこんな所で倒れるわけにはいかない。
「……だから心配なのよ。祐一は皆を守る為なら自分の身も省みないんだから」
「ん、エレナさん、何か言ったか?」
「『わかったわよ。負けたら承知しないんだからね』って言ったの」
へ? それじゃあ……
きょとんとしてる俺に、にっと歯を見せて笑うエレナさん。
「しょーがないわね。皆がそこまで言うんなら今は休ませてもらおうかしら」
心変わりした経緯はイマイチ把握できないが、どうやら説得が通じたみたいだ。
「time」
エレナさんをデバイスに収納しようとする前に、アビスが呼び止めた。
エレナさんがそれに気付くと、アビスはエレナさんの耳元に口を寄せ、俺には聞きとれないくらいの声量で何やら話し始めた。
「……安心してください。私達がいる限り、相沢様に無茶はさせません」
「当たり前よ。もしあんたらが不甲斐なかったら、体引き摺ってでもあたしは出てくるからね」
「そうならないように努力します。あなたと競うにも賞品が無ければ張り合いがありません」
互いに笑いあう二人。
犬猿の仲な二人が笑いあうというのも珍しいな。
聞き取れなかったから何を話していたのかわからないが、きっと楽しくなる話だったのだろうか。
「何話していたんだ?」
「ふふっ、聞きたかったら生き残ることよ」
エレナさんがこっちにやってきたので、内容を聞いてみるとそんな答えが返ってくる。
むう、なんか上手くはぐらかされたような気がするのは気のせいだろうか。
杖をエレナさんに向けて念じる。
エレナさんの姿が光になると、レイバルト・バリアントの中に吸い込まれる。
簡単だが、これでエレナさんを収納完了だ。
「空気読んでもらって悪かったな。copy」
「いえいえ、感動的なやり取りに水を差すほど、私は無粋ではありませんので。
それにそんなことせずとも私の勝利は揺るぎない」
仰々しく芝居がかった身振りで俺に答えるcopy。
一々癇に障るが、こいつにはこいつなりのルールがあって、そのルールの中で攻撃を止めてもらっていたのだから、俺には文句を言う道理はない。
改めて先程破壊した敵の姿を確認する。
灰色の肌。こいつもドッペルだ。
「まさか既に量産されていたっていうのか?」
「あなたは私の能力を忘れているのですか?」
俺の問いにcopyは疑問で返してきた。
エレナさんが吹っ飛ばされたことも含め、既に間合いは離されている。
戦況は振り出し……いや、エレナさんを欠いたこっちが少し不利な状態になっていた。
copyは不敵な笑みを浮かべると、先程エレナさんがバラバラにしたばかりのドッペルへと視線を移す。
「立ちなさい、ドッペル」
copyの声に連動して、俺が破壊したドッペルが消滅し、バラバラにされたはずのドッペルのパーツが磁石のように引き寄せられ、集まっていく。
完全に胴体と四肢が結合し、人型に戻ったドッペルは再び立ち上がった。
こいつらはター○ネーターか?
「あの程度の攻撃で完全に破壊できたら秘密兵器の名が泣くでしょう?
それにこれだけで驚いてもらっちゃ困りますねぇ」
copyがドッペルにレプリカを唱える。
ドッペルは青白く輝き、分身の術でも使ったかのようにその姿が二体に増える。
そしてその二体が四体に、四体が八体に、八体が十六体、十六体が三十二体……
気が付いた時には、俺の目の前には百数十体以上のドッペルが存在し、まだ増え続けていた。
「お、おいおい……」
「いっぱい増えるのぉ。わかめみたいなのぉ」
「ははは、いくらあなたと守護者といえど、この数の敵をまともに相手して消耗しないはずがありません。そしてこの子達はまだまだ増える」
copyの言うとおり、レプリカは終わる気配すら見せず、ドッペルの数はまだ増え続けている。
こ、この数とまともに正面からぶつかれっていうのか……?
昔やった武将が兵隊をばっさばっさと切り捨てていくゲームを思い出す。
俺にはさすがにあんなのは無理だ。無双乱舞なんて使えない。
それにあのゲームの中の奴らは雑魚敵らしく一撃二撃であっさりやられるが、こっちの奴らは先程例えたとおり、一体一体の耐久力がター○ネーターだ。
ター○ネーターは一体だからこそ、主人公は逃げ切れたわけで、それが百十数体もいればあっという間に蹂躙されるのは火を見るよりも日に月で明らかだ。
「ちくしょう、民主主義と書いて数の暴力っていうんだぞ! こういうの!」
「先程数で押しつぶそうとしたあなたには絶対に言われたくない言葉ですね」
うう、それを言われると何も言えない。
「さあて、これだけの数の総攻撃。あなた達に受け切れますかね?」
「ぐう……」
copyの右手がすっと上がると、ドッペル達が各々攻撃態勢に入る。
正直言って無理だ。
大型の範囲型魔法をぶっ放したとしてもこれだけの数じゃ打ち漏らすだろうし、何よりレプリカのマスター元を破壊しない限り、レプリカは止まらない。
このフィールド全体に及ぼすレベルの超広範囲魔法なら……ダメだ。他の仲間が巻き込まれてしまう。
「ちくしょう、それじゃ打つ手なしってことか?」
見るも無残な八方塞がりな状況。
神様はこういう絶体絶命な状況に俺を追いやるのが相当好きだと思われる。
……新手のヤンデレか?
そんな諦めにも近い(というか諦め)の感情を俺が浮かべていると。
「祐一君、実験してみたいことがあるのだけれど、一つ乗ってみないかしら?」
最近影が薄かったリムが俺にそんな提案をした。
あとがき
クリスマス だけど今年も 執筆作業(字余り)
頑張ったよね? 自分。
去年の今頃と比べて、いろいろなリリカルなのはSSが増えて嬉しい限りです。
Kanon×なのはは邪道かもしれないし、無印なのはに未だに拘っている魔法青年はカッコ悪いかもしれないけれど、もう暫しお付き合いしていただけると嬉しいです。
ここまで来たら完結させたいですし。
※感想・指摘・質問がございましたら掲示板かメールでよろしくお願いいたします。
2007年12月25日作成