「フィア! みんな!」

 

三人が飛び込み、既に塞がってしまった穴に向かってむなしく叫ぶ。

なのはちゃん、スコール、そしてフィア、フェイトちゃん、アルフ。

最初は十一人いた突入部隊もその半分近くとはぐれてしまったということになる。

敵地での部隊の分散ほど怖いものはない。

みんな無事でいてくれればいいんだけどな。

 

「相沢様。三人を助けたいとは思いますが、ここは――」

「あぁ、わかってるさ」

 

アビスの言いたいことはわかる。ここは三人を信じて先へ進もう、と言いたいのだろう。

フィアたちが飲み込まれた後、俺たちは徹底的にこのフロアを捜索した。

けれどフィアたちは愚か、飲み込まれたフロアに通じていそうな隠し通路すら見つからない始末。

これ以上、時間を割けば本作戦の方に影響が及んでしまうだろう。

 

「俺たちが今すべきことは、ここで悲嘆することでも、三人の安否を心配することでもないってことだろう?」

「はい、今の私達にできることは、彼女達の分までひたすら前に進み、作戦を完遂することです」

 

俺たちがやることは例え傷ついた仲間を踏み台にしてでもディアボルガを倒すこと。

そしてこのような少数での襲撃で、同じ場所に長く留まっているということは、敵を集め、あまり得策とはいえない。

それでもこうやって捜索の時間を割いてくれたのは、人間である俺とユーノ君への彼女達なりの心遣いだというのは言うまでもない。

――でもさ、もう少しだけ。

あと数秒でいいから彼女達の無事を祈らせてくれないか?

 

これで、『優しい』は終わりにするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

44幕『至高にして究極の力』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが次のフロアか」

 

長い廊下を抜け、次のフロアに入る。

先程の落とし穴フロアと同じように、周囲を銀の機械的な壁で包み、床は無骨な地面が広がる。

前方にはぽつんと一つだけ入り口が口をあけていて、他に入り口のようなものの痕跡は見れない。

 

「何もないですね。早急に通過することをお勧めします」

 

アビスの進言はもっともだ。俺は一も二もなくそれに頷くと、出口までまっすぐに歩き出そうとする。

しかし――

 

 

ヴゥゥン!

 

 

「な、なにこれ?!」

 

突如現れた光の壁が、俺、アビスと他のメンバーの間に隔たりを生み出す。

どうやらここにも罠が仕掛けられていたようだ。

 

「くっ、ずいぶんと頑丈な壁ね。……強引に破るにはちょっち厳しいわ」

「ミナやユーノ君の能力で消滅させられないのか?」

「無理ですわ。この壁には、この要塞の魔力炉と直結しているのか、絶えず魔力が流れています。奪い去ったところから、次々に魔力が補充されていきますわ」

「バリアブレイクでも難しいです。流れている魔力がなければ、この程度なら楽に破れるんだけど……」

 

リムはこういうのは専門外だし、転移魔法が使えない以上、これを破る手は持っていないだろう。

つまり内側にいるメンバーではこれをやぶることは不可能ということか。

 

「私が空間魔法を使えることが出来れば、このような障害……」

「できないことを責めるつもりはないって……しょうがないさ」

「相沢様、お心遣い感謝します」

 

アビスは申し訳なさそうに俺に頭を下げる。

しかし、アビスにはそう言ったものの、本当にどうしようか。

いくらなんでも二人――しかも一人は事実上結界で能力を無力化させられている状態で、ディアボルガと戦うことは自殺行為に等しいだろう。

 

「――待っていたよ」

「ったく、もう少し早く来いって話だよな?」

「っ?!」

 

奥の入り口から聞こえてきた声。

待て、あいつらがなんでここにいる?

そうだ、きっと声が似ているだけの他人に違いない。

そうでなければ、俺が知るうえでは何の接点も感じられないあいつらがここに揃っている理由がない。

 

「暫く振りですねぇ」

「待ちくたびれたぜ。本当によ」

「ほ、本当に久瀬と斉藤だっていうのか?」

 

これが俺への精神的な攻撃だと言うのなら、見事に成功しているとしか言いようがないだろう。

俺の問いにいかにも悪役と語っている顔を卑屈な風に歪ませる久瀬。

友達に会ったときのような極々平凡の笑顔を浮かべる斉藤。

肯定の意味も含まれているその表情を、俺は見続けることが出来なかった。

 

「知り合いなの? 祐一君」

「……高校の友人さ」

「こんな僕を、友人と言ってくれるとは、光栄だよ。相沢祐一」

「じゃあ、俺の大事な人を追い詰めたにっくき小悪党とでも言えばよかったか? 久瀬」

「……それはそれで嫌なものがあるね。なまじ事実だから否定も出来ない」

「だろう?」

 

俺の笑いに釣られてか、久瀬も更に唇の角度を上げる。

たしかに舞の時の久瀬の所業は許せたものとは言い難い。

だけど、長く引き摺ったからって何かいい事があるわけでもない。

なにより、舞自身が久瀬を許している(……というよりも久瀬のことなどどうでもいいと思っているのかもしれない)のだ。

たしかに事件に関わっていたとはいえ、結局は第三者な俺が今も怒り続けるのはお門違いだろう。

 

「で、そのような方々が何故このような場所にいるのですか?」

「ふむ、気付いていなかったのかい?」

 

瞬間。久瀬と斉藤の体が光に包まれる。

光が収まると、そこには緑色の髪の久瀬と、赤色の髪の斉藤が立っていた。

 

「お、お前ら?!」

「あんたらはこの前のっ!」

「エレナさん、知ってるのか?」

「知ってるもなにも!」

「あの方達です。佐祐理様の家を襲撃したXシリーズの持ち主!」

 

姿を変貌させた二人を見て、結界の中のエレナさんとミナが叫ぶ。

まさか、久瀬と斉藤が……?

 

「その通り、僕達は時空管理局の非常勤捜査官。ユンカースを発見したのも、その情報を流したのも僕達さ。

 ま、つまるところ君達の敵というわけなのだよ」

「ま、日常じゃ極力魔力は抑えていたわけだし、わからなくてもしょうがないっちゃしょうがないわな」

「久瀬、斉藤、なんで……」

 

信じられない。その一言に尽きる。

この二人が事件に関与している様子は全然なかった。

でも実際に変身姿を見てしまった俺には久瀬達の語る事実に反論する余地すらない。

たしかに二人とはそれほど親しい訳ではなかった。むしろ久瀬とは対立することが多かった気がする。

だからといって、これはそんなこととは話が別だ。

満月の時に似た感情が渦巻く。

もう迷わないって決めたはずなのに、それでも俺にはそんなことできるはずなかった。

 

「まぁ、四の五の御託をいうのはあまり好きじゃねぇんだ。

こっちも仕事だし、引くに引けない状況だからよ――」

 

斉藤の腕に突如、けん玉の様なデバイスが現れる。

斉藤はそれを振りかぶり――

 

「だから、とっとト終わらせちまおうゼぇ!!」

 

俺達へ向けて先端の球を放り投げた。

 

「きます」

「くそっ、やっぱり戦わないでここを通ることは出来ないってか!」

「……相沢様」

 

飛んできた球を避ける俺達の横から久瀬が迫ってくる。

久瀬の手にも既に銃型のデバイスが握られており、その照準は確実にこちらを狙っていた。

 

「ちぃっ! 『wing』!」

 

久瀬の放つ弾丸を翼で上昇することで回避する。

アビスも先程の落とし穴の時も見せた、空間を凝固させて足場を作る方法で同じように上へ昇ってくる。

しかし久瀬はすぐさま銃口を上向け、追撃の弾丸を次々に放ってくる。狙いは俺のようだ。

 

「攻撃を避けているだけではこちらにダメージを与えることは出来ないだろう?」

「く、ぜぇっ!」

 

弾丸を上手く捌きながら、翼をはためかせてドームを旋回する。

久瀬の射撃技術は正確無比に俺を追い詰めてくる。

 

「逃げて回っていないでかかってきたまえ。相沢」

「じゃないとこっちから行くゼぇ!」

「ご主人様、上ですっ!」

 

俺がミナの声に顔を上へ向けると、いつの間にか飛び上がっていた斉藤が、落下と同時にこちらにデバイスを振り下ろしてくる。

これは避けられない?!

 

「『shield』!」

 

回避が無理と判断し、すかさず盾を生成して杖を受け止める。

しかし落下のスピードが付属された攻撃を、完全には威力が消せなかった。

余剰した衝撃で俺の体が急落下する。

 

「祐一!」

「っらぁ! 『wind』!」

 

体と地面の間に突風を巻き起こして、無理矢理体勢を整える。

そこを狙った久瀬の弾丸を盾で防ぐ。

相変わらず容赦ないな、久瀬。

 

「これで多少はやる気が出ましたか?」

「……どうしてもやりたいのなら――」

 

俺は盾を霧散させると、新しい魔石の名前を口にする。

 

「『sword』」

 

粒子が集まり、白銀の剣を生み出すと、レイバルト・バリアントを腰に括り、それを正眼で構える。

 

「こっちも本気でやってやる! 『speed』!」

 

魔石のコールと同時に俺の姿が掻き消える。

正確には消えたように動く。

動きが早ければ久瀬は照準を捉えることは出来ない。

斉藤のデバイスもちょこまか動く敵には当て辛い武器のはずだ。

 

「スピード、僕がそれを読んでいないとでも思っているのかね?」

 

Splash bullet. (スプラッシュ・ブリット)』

 

久瀬は地面に銃口を向けると、散弾銃化したデバイスを放つ。

強力な衝撃が広範囲に与えられることにより、砂塵が舞い上がる。

 

「うわっ?!」

 

いきなり巻き起こった砂塵に思わず立ち止まってしまう。

 

「立ち止まってもいいのかい?」

「しまっ?!」

「せらぁぁぁっ!!」

 

相手には間合いの広いハンマーを装備している斉藤がいる。

広範囲にぐるりとハンマーを振り回せば――

 

 

気付いた時には遅かった。

横には斉藤の巨大化したハンマーが迫ってきている。

魔術の展開も間に合わない。

いや、もし間に合ったとしても消化しきれない衝撃でバリアを割られるか、吹き飛ばされるのは必至だろう。

せめて頭部は守ろうと腕で抱え込むように防御するしか俺には出来なかった。

 

「相沢様!」

「アビス?!」

 

俺と鉄球の射線上にアビスが立ち塞がった。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

アビスは俺に当たるはずだったそれを正面から受ける。

足と土の擦れる音を立てながらも必死に食らい付くアビス。

やがて、鉄球は威力を失い、アビスの腕の中に納まった。

 

「はぁ……はぁ……」

「あ、アビス?」

「ご無事で何よりです、相沢様。

 残念ですが、私は今ので腕をやられてしまったみたいです。

 申し訳ございません。本当に、申し訳ございません」

 

アビスは涙を流していた。

あの無表情のアビスがここまで顔を歪ませるのを見るには初めてだ。

それは無事を確認しての安堵の涙か。

己の無力に嘆いた涙か。

それとも――

 

「腕……って大丈夫なのか」

「今の私が相沢様のお役に立つ為ならば! 相沢様の無事が守れるのならば!!

この腕など全く絶対無論勿論問題などありませんっ!!」

 

――この戦いで初めて自らの身を役に立てることが出来た歓びの涙か。

 

「すまネぇ、久瀬。あいつがあんな行動に出るなンて思わなかっタぜ」

「さすが守護者、というわけですね。腕をやれただけでも今の奇襲は成功でしょう」

「まァ、この結界を張ってル以上、あいつノ能力は封じたも同然だもンな」

「どちらにせよです。あのメイド女はほぼ無力化しました。

 あとはゆっくりと彼をやることにしましょう」

 

久瀬と斉藤がこっちに近づいて来る。

状況は実質2対1。圧倒的不利な状況だ。

この状況を打破する為には――

 

「……アビス、俺の役に立ちたいって言ったよな」

「はい」

「ならさ、もう少し、力を貸してくれないか?」

「はい、無論勿論絶対無敵です」

 

動かないアビスの手を取り、魔力を送る。

 

「行くぞ、アビス!」

「イエス、マスター」

「「cross in absolute form(クロス イン アブソリュート フォーム)!」」

 

 

そして俺達は光に包まれ、一つになった。

 

「「レイバルト・バリアント」」

 

これが、絶対無比の最強のフォーム。

 

「「アブソリュートッ!! フォォォォォォムッ!!」」

 

白と黒のゴスロリ調の服装をした混沌の使者が、戦場に舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがけ

J「何ヶ月ぶりだ?」

フィ「さぁ? もう、覚えてないくらいです」

J「いろいろあったなぁ……なんか申し訳ない気持ちで一杯だ」

フィ「本当に、いろいろあったですね……」

J・フィ「「本当、よく連載続いたもんだ(です)」」

 

 

 

 

魔術紹介

 

Splash bullet. 術者:男(久瀬)

 

 

散弾銃のように広範囲に魔力弾をばらまく。

今回のように地面に放って砂煙を巻き起こすことも可能。

 

 

 

※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにてよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

2006年12月4日作成