「リンディさん、周囲の傀儡兵、全て倒しました。他の人は次に備えて待機しています」

「ご苦労様、なのはさん。おかげで助かったわ」

 

佐祐理さんから渡されたタオルで額に滲んだ汗をぬぐう。

傀儡兵を他の局員さん達と苦戦しながらも倒し、私は報告のため、そして祐一さんとの約束を果たすためにブリッジへとやってきていた。

 

「それにしてもぱったりと来なくなりましたね。艦長」

「えぇ、もしかしたら私達と同じ考えだったのかもしれないわね」

「ふぇ、どういうことですか?」

「こっちは祐一君達を潜入させるためにアースラを囮にしたわけだけど、向こうは元から彼らとアースラを分断させるつもりだったということですか?」

「アレックス、たまにはいいことを言うわね」

「た、たまには……」

 

座席からずり落ちているアレックスさんを華麗にスルーして話を進める。

 

「元々、向こうの目的は祐一さんの持っているユンカースなのだから、祐一さん達をおびき寄せることが出来ればアースラにはさしたる興味はないってことですね〜」

「理解が早くて助かるわね、佐祐理さん。本当、アレックスの代わりにうちのクルーに欲しいわ」

「あはは〜お褒めに預かり光栄ですよ〜」

 

キーボードの上で涙を流しているアレックスさんを美麗にスルーして話を進める。

 

「それじゃあ、祐一さん達は?」

「今頃、猛攻撃を受けてるかもしれないってことかな?」

「アレックス、そういう言い方は感心しないわ」

「アレックスさん、酷すぎです」

「フェイトちゃん達もいるんだから、そういうことにはならないと思うけどな?」

 

三者三様のツッコミにインターネットを開いて、自殺系サイトに書き込みしているアレックスさんをスルー――するにはあまりにも深刻だったのか、他の局員の人が必死に止めているのをスルーして話を進める。

 

「それじゃ、一刻も早く合流しないと」

「だからといって、正面から入って合流するのは困難よ。

 それが優秀な魔術師であるなのはさんでも同じことが言えることでしょう」

「で、でも……」

 

祐一さんと約束したんです。

絶対に合流するって。

 

「あくまで『正面から』の話だけれどね」

「えっ?」

「エイミィ、艦を要塞の真下へと移動させた後、ディストーションフィールドを発生させて結界に干渉をします。その間にみんなの魔力の特定、急いで」

「了解」

「リンディさん、何をするんですか?」

「転移魔法を妨害しているといっても、所詮は人為的に空間を捻じ曲げている結界。

 だったら、それを更に捻じ曲げることで元の空間に戻すことも可能だと思わない?」

「つまり、水を絞った雑巾を逆に捻って元に戻すようなものですね〜」

 

佐祐理さん、それはわかり辛いと思います。

そんな天然丸出しな発言はともかく、とどのつまり、リンディさんはこの転移を妨害している結界に干渉して無力化させようとしているのだろう。

でもこれだけの規模の結界を無力化させるなんて……

 

「……できるんですか?」

「何も全て無力化させなくてもいいの。ディアボルガが本局でやったように、なのはさんが入れるギリギリの大きさの穴を開ければいいのだから。

 もっとも、ディアボルガみたいに楽々とはいかないでしょう」

 

だからこそ狙い目なのだろう。

相手が結界の力を過信して、私達が中に入れないと油断している今が。

 

「艦長、移動及び、魔力の特定完了しました。どうやら三つに分断させられているみたいです」

「あまり芳しくない状況ね。ここから一番近い反応は?」

「一番下層にいるフェイトちゃん、アルフ、フィアちゃんです」

「なのはさん」

「はい!」

 

大きく深呼吸して、精神を落ち着かせてから私は答える。

傀儡兵が相手だったさっきまでと違い、これから戦う相手は自由意志のある生物。

そう考えるとやっぱりイヤな気持ちになる。

だけど、クロノ君を襲ったあの強大な力が、罪も力もない世界へと向けられるのはもっとイヤ。

あれ以上の悲劇なんてもう見たくないから。

 

「お願いします。リンディさん」

 

だから私は武器を取って、みんなの所へ行く。

約束と、使命を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

43幕『白と黒と緑』

 

 

 

 

 

 

 

「なの、は?」

「うん、遅れてごめん。フェイトちゃん」

 

岩の竜とフェイト達の間に突如割りこんだ白い魔術師は、呆然と呟かれた言葉に笑みと共に返事をした。

フェイト達はその姿を確認するとなのはの元に駆け寄った。

 

「生きてたのね。てっきりやられたもんだと思ったわ」

「あはは、フィアちゃん」

 

舌打ちを小さくしてからそう答えるフィアにいつもの苦笑いで答えるなのは。

彼女自身、それが本気ではないということがわかっているからだろう。

 

「なんか、キャラが変わったね。フィアちゃん」

「これが地よ……って、そんなことどうでもいいのよ。

 どっかの自由みたいな登場の仕方をしたんだから、あいつをさっさとボコりなさい。

 じゃないと、私があんたをボコるわ」

「うん、そうだ――っ?!」

 

横薙ぎに払われた岩竜の尾をそれぞれの回避方法でかわす。

 

「長く話しすぎたわ。あんたがどうやって来たとか、そういう野暮ったいのは後回し!

 まずはこいつを殺る!!」

「でも、あの理不尽な防御、一体どうやって突破するっていうんだい?

 物理攻撃も魔法も届かないんじゃあ――」

この世の全ての物には必ず穴がある。だよね? フェイトちゃん」

 

この世の全ての物には必ず穴がある……そこをつけば強硬な装甲も紙に等しいの

フェイトは本局での戦闘の時に自身が発した台詞を思い起こす。

不思議な気分。たった一人、なのはが入っただけなのに、さっきまで見せられていた圧倒的な能力差が、あっという間に縮まった気がする。

だから、彼女は自らの最良の友にこう答えたのだった。

 

「勿論だよ、なのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん」

「なのは、私達が時間を稼ぐから、合図をしたらスターライトブレイカーをお願い」

「わかったけど、く、崩れないかな?」

 

なのはが岩の天井をちらちらと心配そうに見る。

スターライトブレイカーの衝撃で崩れる可能性、今後の戦闘を考慮すれば、ここで大技を使うのは得策ではない。

しかしフェイトには考えがあるのだろうか、なのはの問いを否定する。

 

「もし危ないと感じたら、なのはの方で調整をして。

……アルフ、フィア、時間稼ぎをするよ」

「あいよ。任せといて」

「わかったわ!」

「うん」

「それじゃ、散って!」

 

各メンバーに指示を与えたフェイトはなのはを守るように竜の正面、アルフは右端、フィアは左端に移動する。

 

「といっても懐に飛び込むわけには行かないし――

私が牽制をするから、フィアはその間にあいつに攻撃しな!」

「明らかに私の危険度が高い気がするんだけど、それしかなさそうね。

 ヘマしたら毛皮にするからね、バカ犬」

「はんっ! そっちこそヘマったらタダじゃおかないよぉ!」

 

右端のアルフが炸裂するフォトンランサーで牽制し、直撃したところにフィアが打撃を入れる。

 

『――――!』

 

「うわっ!」

「くっ!」

「バルディッシュ!!」

 

Photon Lancer.

 

フィアを振り払った岩の竜にフェイトが放った光の槍が直撃する。

しかし、頑強な鎧のような皮膚には傷一つ付かない。

 

「くっ! 怯まないで行くよ。バルディッシュ!」

 

Yes sir.

 

フェイトの周囲に光球―フォトンスフィア―が数個生成される。

 

Photon Lancer Multi shot Full auto fire.

 

「シュートッ!!」

 

スフィアから同時に放たれた数十、数百のフォトンランサーが襲いかかる。

 

『―――!!』

 

向かっていった光の槍はおよそ5割。

その全てを上に下にと重力の力で防ぎきる竜。

残りの5割はというと、全く見当違いの方向へ飛んでいき、岩壁を切り崩していく。

 

「嘘っ! 全部防いだ?!」

「これくらい予想済みだったけど、実際に見るときっついわね」

「なのは、チャージは?」

「うん! 行けるよ! フェイトちゃん」

「なのは、撃って!」

「レイジングハート!」

 

all right. Starlight Breaker Stand by.

 

「これが私の全力全開…………の半分!!」

 

Starlight Breaker.

 

「シューーーーーートッ!!」

 

フェイトの合図に合わせて、レイジングハートから極大の光が放たれる。

しかし――

 

『――――――――――!!』

 

「えっ?」

「スターライトブレイカーが……曲がる?!」

 

 

ドゴォォォォォォォ!!

 

 

岩の竜が今まで以上に巨体を震わせると、スターライトブレイカーの軌道がかくんと下向きになり、手前の地面に直撃して土の華を咲かせる。

半分の威力とはいえ、それでもフォトンランサーやディバインバスターよりも強力なそれも岩の竜の能力の前には無力と化していた。

 

「まだ、まだだよ。ここまでは『想定済み』」

 

 

ぴしっ

 

 

「……?」

「この音……」

 

上から聞こえた小さな音。

それはフェイトがわざと外すように放ったフォトンランサーが作った小さな芽。

 

 

ぴしっ……ぴしぴしっ

 

 

その小さなきっかけが、スターライトブレイカーの衝撃という名の太陽と、それを防ぐために発生させた異常重力という名の水を浴びて――

 

 

ぴしぃぃっっ!!

 

 

一つの美しい大輪となる。

 

「これならっ!」

 

天井から雪崩のように襲い掛かる岩のかけら。

完全に不意を突かれた形になった岩の竜。

 

『―――!!』

「これでもダメなの?」

 

これも自らの重力の力で封じ込めようと動く竜。

頭上を中心に発動させた重力波は、落ちてくる岩片の全てを呑み込み、直撃を抑え込む。

その刹那の隙。

頭上の落下物に気を取られ、下へ意識が向かなかった一瞬。

 

「チャージ完了っ! あんたに見せてあげるわ、私の真の力って奴をねぇ!!」

 

両拳と両足が緑に淡く光る。

フィアは前で両手を組むと、自らの直線上に竜が来るように照準を合わせる。

 

『翔 ―キッキング―』

 

爆発するような魔力を滾らせている緑髪の魔術師が動いた。

否、動いたのだろう。

何故なら、その動きはその場にいた誰にも捕らえられることのできないスピードだったのだ。

神の如き速さで岩の竜に肉薄。

魔力強化した腕で竜の腹部に大きな風穴を開け、着地。

その数秒後に力なく竜の鎧がただの岩と化し、崩れ落ちていく。

 

「ふぅ、なまったかしらね。最近、本気出さなかったし」

 

手をひらひらさせながら笑うフィア。

その手には青く光る魔石。『earth』が握られてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

J「すくねぇ」

アビス(以下ア)「久々の癖にこの様ですか」

J「傷口を抉るな。塩を塗りこむな」

ア「でも事実です」

J「だからそっとしておいてほしいこともあるだろう」

 

 

 

 

 

魔術紹介

 

 

翔 ―キッキング― 術者:フィア(覚醒状態)

 

四肢に許容量を超えるほどの魔力を充填させ、見えないほどの速度で突撃をする。

まぁ、ぶっちゃけヘルアンドヘ―(検閲削除

フィア(覚醒状態)でないと使用不可な魔術の一つ。

 

 

 

 

 

※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにてお願いします。

 

 

 

 

 

J「フェイトの使用した『Photon Lancer Multi shot Full auto fire.』は半オリジナル魔術です。いや、こういう技も原作では出なかったけど出せるのかもなぁと思いまして」

ア「マルチショットの速射版ですね。ファランクスシフトの縮小版とお考えください」

 

 

 

 

 

2006年6月25日作成