「スコール、無事でいるといいんだけどな」
俺は今まで通ってきた道を振り返って一人ごちる。
スコールに入場門を任せ、一本道になっている廊下を駆け抜ける俺達。
九人がマラソンのように走ってもまだ広い廊下はまだ続いているように見える。
「……大丈夫。スコールは弱くないよ。祐一」
「そです。それに祐一さんがそんなじゃ皆の士気にも関わるですよ」
「……ありがとうな。フェイトちゃん、フィア」
隣を並走するフェイトちゃんと俺の後ろについていたフィアがしっかりと前を見据えて言う。
俺のように決して振り向かない―――そこには短い付き合いながらも全幅の信頼を置いているというのがありありと見えた。
そうだ。だから俺達はそのスコールの想いを踏みにじっちゃいけない。
必ず、ディアボルガ……満月を止める。
「見てください祐一さん!」
「通路の出口のようですね」
フィアとユーノ君の言葉に前を向きなおす。
見ると少し前に通路の出口のようなものがある。
「よし! 行くぞ!!」
「「了解!」」
俺達は出口に向かって更に進む速度を上げた。
出口にあるのは天国か、地獄か。
いや、ここが敵の本拠地な以上、確実に待ってるのは地獄。
なら出口に待っているのは地獄か―――
―――更なる地獄か。
魔法青年相沢祐一
42幕『大地の竜』
「ここは……?」
出口の先にあった場所は100m四方のドームのような場所だった。
前方に通路があるのが確認でき、床は今までの近未来的な金属床ではなく、原始的な大地が広がっている。
俺達はそれぞれ移動を止め、大地に降り立った。
「何もないようね」
「えぇ、でも敵の罠かも知れませんわ。ここは早目に抜けるのが得策と考えますが?」
「そうねぇ。行き止まりってわけじゃなさそうだし」
上からリム、ミナ、アルフの意見。
俺を含む他の面々も同じ意見らしく、早々にここを抜けるべく移動を開始しようとしたその時。
ゴゴゴゴゴゴ……
「な、なんだ?! 地震か?」
「ゆ、揺れるですぅ〜!」
「何が起こって―――」
声と同時だった。
俺達が立っていた地面が見事に消え失せ、大きな穴となって俺達に襲い掛かる。
「うわぁぁぁっ?! 『wing』!」
大急ぎで上空に飛び上がる。
俺の足に掴まっているリム。
自力で飛行しているのはフェイトちゃん、ユーノ君、狼形態のアルフ。
その上に乗っているのはエレナさん。
アビスは空間の力で空を飛べるのか自力で空を浮き、その背中にはミナが抱きついている。
……ん? なんか一人足りないような。
「あぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇですぅぅぅぅぅぅ?!」
「ふぃ、フィア!!」
「助けてです〜〜〜!!」
空を飛べるやつに掴まり損ねたのか、真っ逆さまに落ちていくフィア。
フィアって空飛べなかったんだな。
「なんて悠長なこと考えてる場合じゃない!」
この位置から追いつけるか?!
『wing』の白い羽をはためかせて追いかけるモーションを取ろうとする俺の横を風切って追い越していく黒い影。
「フェイトちゃん?!」
「スピードなら……!」
そこまでは聞こえたがそれ以上は離れすぎてしまって聞き取れなかった。
大きく空いた穴に吸い込まれるように入っていくフィアとフェイトちゃん。
二つの影は穴の暗さに紛れて見えなくなる。
「フェイト!! 祐一こいつ頼むよ!」
「へ? わっ?! お、おい!」
アルフも俺の腕に自分の背に乗せていたエレナさんを移し、フェイトちゃんの後を追っていってしまう。
俺も追いかけたいが、二人分の重みを持った状態では追いかけることは不可能だ。
三人が突入した穴も立ち往生している間に消滅してしまっていた。
「とにかく安全な場所へ移動しよう。それから三人の救出を考えるんだ」
穴があった場所を見つめながら、俺は残りのメンバーにそう指示したのだった。
「フィア、大丈夫?」
「……わ、私、生きてるですか?」
目を開けると暗がりに映えるフェイトさんの白い顔があった。
欲を言えば祐一さんの顔がよかったけど、命を助けられた手前、心にしまっておく事にする。
それにしてもここはどこだろう?
不覚にもタイミングを逸して穴に飲み込まれてしまったから、さっきよりも地下なのだということはわかる。
天井の高さを見る限り、相当高いところから落ちてきたみたいだ。
夜目が効いてきたので辺りを見回す。他は上と似たような空間になっていた。
でも雰囲気はドームというより―――
「まるで大地でできた闘技場、みたいな感じねぇ。
完全に閉じ込められちゃったみたいだし」
「アルフ?」
既に閉じてしまった穴から入ったのか、アルフさんもやってきた。
「全く……よかった、フェイトが無事で」
「わ、私はどうなってもいいですか?!」
「あ〜、いたの? フィア」
「む、むきーですっ!」
「アルフ、フィアを相手に遊ばないで」
「わかってるよ。ただフィアの反応が面白くってねぇ〜」
私を見てけらけらと笑うアルフさん。
そんなに私の性格はからかいやすいのだろうか?
「そ、そんなことよりもです! ここから出ることを考えるですよ」
「アルフ、背中にフィアを乗せてくれる?」
「わかったよ。フェイト」
ゴゴゴゴゴゴゴッ……
私がアルフさんの背中に乗ろうとしたとき、再び地響きが起こる。
「な、なにです?!」
「フェイト!」
「うん、前に……なにかいる!」
『Photon Lancer』
フェイトさんは素早い動作で光の槍を連射すると、前方で爆発が起きた。
「アルフ! 視界を!」
「了解!」
爆発の隙を突いて、アルフさんが周囲に光の球を生み出す。
その光によって、フォトンランサーの直撃を受けた張本人の姿があらわとなった。
『―――――――!!』
「岩で出来た竜ですか?」
「そうみたいねぇ! フォトンランサーじゃ、傷一つ付きやしない!」
「なら、これで!」
『Scythe Form Set up』
『Arc Saber』
鎌へと変形したバルディッシュから放たれた金色の刃が、恐竜ほどの大きさを誇る岩の竜に噛み付かんと飛ぶ。
直線的なフォトンランサーとは違い、不規則な軌道を描くアークセイバー。
ただでさえ図体のでかい岩の竜に回避は不可能だろう。
―――直撃する。そう思った瞬間。
『―――――!』
ドォォォォォン!
岩の竜が人間では真似できない発音で咆哮を上げて体を震わせると、直撃コースをたどっていた攻撃は不自然すぎるほどに角度を曲げ、地面へと叩きつけられる。
大地に触れ、爆発を起こす光刃。しかしこれは囮だ。
「やあぁぁぁぁっ!!」
『Scythe Slash』
アークセイバーに気を行かせての近接戦闘。
まさしく本命はこれだった。
意識を行かせる事は出来なかったが、下に叩きつけられたことにより巻き起こった粉塵は絶好の隠れ場所だ。
フェイトさんはバルディッシュを構えて、岩の竜に切りかかる。
『―――――!!』
「っ?!」
岩の竜が再び体を震わせる。
すると突っ込んでいたフェイトさんの速度が途端に失われ、先程のアークセイバーのように地面に叩きつけられた。
叩きつけられて少し地面にめり込むフェイトさん
『―――』
「フェイトッ!」
「しまっ?!」
叩きつけられて暫し動けないフェイトさんに、岩の竜の屈強な脚がゆっくりと迫りくる。
私は足に魔力をこめて駆け出した。
人間を超えた速さでフェイトさんの下へ追いつくと、振り下ろされる一寸手前で助け出す。
「ありがとう。フィア」
「困ったときはお互い様です」
「アークセイバーの時もだけど、あいつフェイトに一回も触ってなかった」
「なにか不可視の力が働いているということです?」
「うん、なんだか背中に重石を背負わされて、その重みに負けて地面に押さえつけられる感じ」
見えない力で、体が重くなる力……?
「それって『重力』ってこと?」
「人一人をあのスピードで叩き落とす重力ってどんな重力ですか」
「でも当てはまってると思う。
人くらい重い物体をも動かすことが出来る異常なほどに強力な重力。
それが―――」
「っ?! 来たですっ!」
フェイトさんの言葉を遮って私達は動く、その数瞬後に岩の竜の巨大な尾がその場を掠めた。
やはり体が岩なので動きは遅い。
素早さに関しては平均以上の私やフェイトさん、アルフさんならまず当たらないだろう。
だが、一撃の威力に乏しい。
バルディッシュから放たれる光槍は全て重力の壁に叩き落され、偶然入った一撃もその文字通り岩の鎧の前では大したダメージも与えられない。
アルフさんも牽制気味に魔法を撃っているが、同じような結果だ。
私はというと専門外であるところの遠距離魔法を持っていないので、その戦いを指を咥えて見ているしかない状況だ。
「フィア、フェイト! 右!」
「うん」
「です!」
右側から来た、当たれば必死確定の尾の攻撃を下がって回避する。
重力の壁に巻き込まれないように距離を空けているので、相手もこれくらいしか攻撃手段が無いのだろう。
「このままじゃ、そのうち追い詰められちゃうです!」
「そんなこと言って、向こうに攻撃が通らないこの状況でどうしろって言うのさ!」
「……手はあるよ」
「ほ、ホントですか?! フェイトさん」
「うん、確証は掴めないけど」
フェイトさんの言葉に一筋の光明が見えた気がして、士気が一気に上がる私達。
そんな喜びムードの中で敵が奇怪な行動に移っているのを認識することができなかった。
『――――!!』
「?!」
竜の雄たけびによって、戦闘中という現実に引き戻される私達。
竜は尾を振り回してくるでもなく、ただじっとそこで体を震わせている。
『―――――!!』
ゴゴゴゴゴゴ……
「ま、また地震です?!」
「見て、天井が―――」
「それだけじゃあない。床も見なよ」
竜を中心に、天井が割れ、床が割れ、幼児一人分より少し小さい位の岩塊が浮き上がる。
「す、すごいです……」
「敵さんに感心するのはどうかと思うけど、こんな芸当見せられちゃあねぇ」
「うん」
先程まで叩きつける方の重力にしか関心が行かなかったけれど、重力には無重力のように物体を浮かせるマイナスもある。
この竜は今、その両方を発動させているのだ。
そして岩塊はみんな均等な大きさに揃えられてある。
「この能力、『earth』です」
「ユンカース?」
「なるほど。それなら納得してもいいかもねぇ」
「だけどユンカースがここまで出来るなんて聞いたことないです。
封印されたとしても、主の力が余程強くないと―――」
「それだけディアボルガが強いってことねぇ」
「……勝てるのかな? 私達」
「さぁねぇ。ただ言えることは」
『――――!!』
「この攻撃を捌かなきゃ、その前に死ぬってこと!」
叫びと共に竜はまるで超能力のように岩塊を飛ばす。
これは重力の力ではなく、『earth』本来の大地を操る力のものだろう。
私は拳に魔力をこめてそれに真っ向から立ち向かう。
「フィア?」
「フェイトさんはこの作戦の要です!」
「こんなところであんなやつ相手に―――」
―――私の頭の中で何かが弾けた。
「無駄に魔力を使わせるわけにはいかないのよっ!!」
まず一番に先行してきていた岩塊を殴りつけて砕く。
続けて足に魔力をこめ、二つ目の岩の上に飛び乗り、思い切り蹴り抜く。
蹴り抜いた力で岩塊は地面に叩きつけられたのを傍目に見ながら、私は空中で三つ目の岩を抱え込み、四つ目の岩にぶつける。
脇に反れた岩塊は目もくれず、ただただ直撃コースに来たものだけを捌いていく。
さすがに数十個も捌けば体が疲れ始めてきたが、それでも攻撃が途切れない。
「フィア、伏せて!」
『Thunder Smasher』
私が伏せたと同時にフェイトさんの強力な砲撃魔法が放たれる。
技を放っている最中の隙を狙った攻撃。
飛来する岩石をも呑み込みながら、なお勢い衰えることなく岩の竜へ一直線に向かう。
『―――!』
しかし砲撃魔法は結合を解き、直撃部分に自ら穴を開けるという荒技で岩の竜にかわされる。
完全に攻撃が通過した後、その部分に分離していた岩が戻り、元の姿に戻る竜。
「う、嘘ぉ?!」
「こんな反則技、認められるかぁ!!」
『―――!』
「しまった?!」
岩の竜の回避行動に一言ぼやいたのが失策か。
完全に回避という言葉を忘れてしまった私達に岩石の群が襲い掛かる。
直撃する――――?!
ドドドドドォォォォォォン!!
―――目を開ける。
体はどこも痛くない。意識も明瞭。
完全に直撃を受けたとは思えない状態。
後ろを向く。
フェイトさんも先程のダメージ以外にはそれっぽいのは見られない。
アルフさんも同じく、ダメージを受けた様子は無い。
二人とも呆然とした姿で前を見つめている。
前を向きなおす。
目の前に立っているのは紅の宝石を掲げた杖を持つ白い妖精。
その姿はまさしく―――
「大丈夫? 三人とも」
「なの……は?」
まさしく出撃前に別れた、永遠のライバル―――高町なのはだった。
あとがき
J「今回はフェイトチーム対ユンカースをお送りしました!」
フィ「なのはさんに助けられるなんて……一生の不覚です」
J「まぁまぁ」
フィ「にしても二回目の覚醒ですか。くふふ、これで私の見せ場が増えたら嬉しいですよぅ〜」
J「まぁ、所詮、肉体でしか戦えないフィアがどんなに覚醒しようと見せ場なんてありはしないけどな」
パァァァァァッ
覚醒フィ「そんなこという存在はこの存在かぁぁぁ!!」
J「ぎゃあああああああっ!!」
※感想・指摘・質問がございましたらBBSかmailにてお願いします。
2006年4月11日作成