「祐一さーん!」
夜の帳に包まれた森を抜け、砂浜沿いに歩いていると、前から片手にライトを持ったフィア達が歩いてきているのが見えた。
どうやら本当に満月の言う通り、ここは無人島では無かったらしい。
―――満月
あの強大な魔力を纏った少女は何がしたかったのだろうか?
満月は俺を封じたかったはずだ。
なのに、あの誘惑が敗れたとわかるとあっさり逃がしてくれる。
謎だ……全く持って謎だ。
「祐一さーん!」
「おーい! ここだ!」
俺を捜す声に叫んで返す。
その声に気付いたフィア達はこちらに走ってきた。
「よかった……祐一さん」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、悪いな。心配かけて」
「本当にね。まったく、一体どこ行ってたのよ?」
なのはちゃんやユーノ君の言葉に笑顔で返していると、エレナさんが尋ねてくる。
……本当のことを言うべきだろうか?
でも誘惑されたとか言ったら後が……具体的になんとはわからないけど嫌な予感がする。
それに満月を知ってるのはこのメンバーじゃなのはちゃんと学校の話を聞いているならユーノ君くらいなもの。
教えたところでピンとくる人物が少なく、教えたら嫌な予感がする。
……お、教えない方がいいな。う、うん。
「いや、少し散歩してたんだけどな……道迷っちゃってな」
「方向音痴の癖に一人で出歩くからです」
俺の言い訳にフィアが呆れた様に呟く。
失礼な。俺は方向音痴なんかじゃない……と思いたい。
「それじゃあ、祐一さんも見つかりましたし、帰りましょう」
ぽんと手を合わせ、笑顔で佐祐理さんがこの場のお開きを宣言する。
佐祐理さんにも迷惑かけちゃったよなぁ……
「ごめんなさい。佐祐理さん、わざわざ……」
「いえ、気にしないでください。元々『泊まり』の予定でしたから」
「あ、そうだったんですか。『泊まり』ですかぁ〜」
……待て。
今、俺の耳がおかしくなければ非常に甘美で、理性に対する宣戦布告な言葉を聞いた気がするのだが……
「しゃ、しゃゆりしゃん?」
「そんな呂律の回らないような口調でどうしたんですか?」
「い、いま、俺の耳がちゃんとリスニングしたなら、『泊まり』なんてそんな嬉し―――
いや、嬉し―――いやいやだから、嬉し―――思わず三回も間違えたけど、
とんでもない言葉を聞いた気がするんですけど」
「はい、ですから今日は泊まりですよ〜」
「……」
まぁ、沖縄に来たって時点でそういうことがあるんだろうなぁ……っていうのはわかってたさ。
だけど、予想してたって実際に起これば誰だって驚くだろ?
「……ふぇ、ダメですか?」
「いやっ! ぜんっぜん!! OK、OKですよ! 佐祐理さん」
「妙に力が篭ってますね」
ユーノ君、妙に力が篭ってるとかいうな。
俺だって男の子だもん。女性、それも美人と一緒に泊まりとか言われれば嬉しくない訳ないだろう?
「……下衆、ですね」
「モノローグに突っ込むなと幾ら言えばわかるんだ? absolute?」
「出来れば一生、私のそばで囁いてもらえると嬉しいですね」
「……切り返しが本当、巧くなったなぁ」
「主人が相沢様ですから」
「……否定できないわね」
ぐすん、absoluteとdreamが苛めてくる。
「それじゃあ、早速、コテージの方へ―――」
「―――なんだ、あれ?!」
いきなり眩い光によって金色に輝く海を指差して叫ぶ。
月の光じゃない……これは人工的に照らされた光。
つまり人工的に作られた何かがここに光を照らしているということ。
「一体、なんなんだよ。敵か?」
「いえ、この光はきっと―――」
徐々に光が収束していく―――
「これって……」
「はぇ〜 大きいです」
光が収束すると、そこには見覚えのある外装をした戦艦が宙に浮いていた。
時空管理局の誇る戦艦、アースラだ。
というか佐祐理さん。驚くところを間違えていると思います。
『祐一君、無事?!』
戦艦から放送が流れる。
艦長のリンディさんの声だ。
「はい、無事です」
『よかった……他のみんなも大丈夫?』
「はい、特に何もなかったです……どうかしたんですか?」
『事情は後で話すわ。まずはこちらに乗ってくれないかしら?』
「わかりました」
ユーノ君の言葉に真剣な様子で返すリンディさん。
一体、どうしたんだ……?
魔法青年 相沢祐一
39幕『決戦』
「リンディさん!」
「来たわね」
本局が襲撃された時に会議をした部屋に俺達が入ると、リンディさん、フェイトちゃん、スコールを始めとした、たくさんの局員が既に集結していた。
「どうしたんですか?」
「なのは、緊急事態なんだ」
「えっ?」
「みんな揃ったようね。それでは、始めます―――エイミィ」
「はい」
リンディさんは脇にいるエイミィに状況の説明をするよう促す。
「先程の話ですが、異常な魔力を感知しました。
その魔力を追尾したのですが、最終的にある場所で反応が消失したんです。
魔力の残滓を調べあげたら、それはここオキナワから出ていて、反応が消えた場所には大きな移動要塞が出現していたってわけ」
……既に俺の中では完全にパズルが正しく出来上がってる。
これは100%満月だろう。
そして、俺達を誘ってる。
自らの本拠地である移動要塞に。
ユンカース争いの決着をつけるために。
「向こうが決着を付けたがってる……そう考えるべきなのだろうな」
「えぇ、そう考えるべきでしょう」
スコールやリンディさんも相手の言わんとしていることが大体わかっている感じだ。
「でも、罠かもしれない」
「そういう可能性もたしかに一理あるわね」
慎重論なのはフェイトちゃんにdream。
たしかに罠の可能性も拭えないだろう。
だけどこれは罠じゃないと思う。
根拠はないが、わかる。
「罠ってわかっててわざわざ飛び込むのは得策じゃないよねぇ。やっぱ」
「でも、相手の懐に踏み込む絶好のチャンスでもありますよ」
「うん、リスクは高いけど、このチャンスをみすみす逃す手はないよね」
アルフが慎重派でユーノ君が積極派、なのはちゃんは積極派よりの中立派か。
うーむ、意見が二分してる。
「祐一君はどう出るべきだと思うかしら?」
「俺?」
「えぇ」
リンディさんに聞かれる俺。
途端に周囲の目が俺に注目する。
やっぱり、ユンカースを所持してる立場としての意見を聞きたいのだろうか?
「俺は打って出るべきだと思います。
罠だという可能性も捨て切れませんけど、俺の勘が言うんです。
ここで決着を付けるべきだって」
「「……」」
みんなは黙ってる。
やはり、ユンカースを所持してる俺の意見はそれなりに影響があるみたいだ。
「……はぁ〜、しょうがねぇですね〜
リンディさん。私達だけそこに転送してくださいです」
「フィアちゃん?! な、何を言ってるの?」
「元々、ユンカースの問題は時空管理局には関係のない話です。
わざわざ罠かもしれないような場所に行かなくてもいいです」
「ふ、フィア?」
俺が呼ぶと、フィアは俺の方を見る。
その目には決意がありありと漲っている。
「私は行くですよ。約束したです。
どんな決断であれ、私は祐一さんに着いていくです」
「フィア……」
俺はフィアの言葉が嬉しかった。
どんな決断を下しても俺に着いてくれるって言ってた言葉は嘘じゃなかった。
……いや、別に信じてなかったわけじゃない。
だけど不安だった。
あの時の言葉はもしかしたら俺を安心させる為に言った言葉なのかもしれないって。
だけど、フィアは着いて来てくれるって言ってくれた。
ありがとう……
恥ずかしくて口には出さないけど、俺はフィアに最上級の感謝をする。
「……何言ってんのよ」
「エレナさん?」
フィアの言葉を聞いて、エレナさんが立ち上がる。
「あたしも約束したでしょ?
あなたが力が欲しいというのなら……あたしが貴方の『守護者(ガーディアン)』になってあげるってね」
「それを言ったら私もですわ」
「そうね。なら私も行くわ」
「ミナ? dream?」
続いて立ち上がったのはミナだ。
「仕える者は常にご主人様の近くにいるものです。
例え、ご主人様が拒否しようと、無理やりでも私は着いて行きますわ」
「あなたなら、正しい道を選んでくれるはずだわ。
私も勿論、着いていってもいいわよね?」
三人とも……
「三ではありません四です」
と、俺のモノローグに突っ込みを入れてくるabsolute。
も、もしかして、absoluteも着いて来てくれるのか?
「愚問です。お嫁さんは夫に奉仕するものです」
absoluteの能力ははっきり言って切り札的な存在だからな。
来てくれるだけで本当にありがたい。
だから今回だけはモノローグに突っ込んだことは怒らないことにする。
「というわけで、俺達はそこへ向かいます。正確な座標位置はわかりますか?」
「ずっと停滞しているから座標位置はわかるけど……危険すぎるわ」
「構わないです。スコール、お前はもし俺達に何かあったときに魔法界に連絡を頼みたいんだ」
「嫌だね」
俺の頼みを即答で切って捨てるスコール。
くそ、なんでこんな時に天邪鬼振りを発揮するかね? お前は。
「僕も行こう」
「いい加減にしろ。お前、こんなところで我侭言ってんじゃ……は?」
「僕も行こうと言ったんだ。文句はあるかい?
脱落したとはいえ、僕だってユンカースの関係者だからな」
「……さんきゅ。スコール」
「ふん」
まぁ、なんにせよ。これで六人。
「よろしく……お願いできますか? リンディさん」
「ダメよ。幾らあなた達が強くても危険すぎるわ」
頑なに教えてくれないリンディさん。
そりゃそうか。幾らなんでも死地と言ってもいい所に仲間を向かわせるわけにはいかないもんな。
「リンディさん、私も行きます。だから、祐一さん達に座標を教えてあげてください」
「な、なのはさん!」
「私一人が入ってどうなるわけじゃないかもしれないけど……
罠だからってじっと待ってるなんてやっぱり出来ないんです」
「ということはユーノ君も、かしら?」
リンディさんは呆れた風にユーノ君を見やる。
ユーノ君は聞かれると苦笑いをしながら答える。
「あはは……はい、僕はなのはのパートナーですから」
「それじゃあ、私達も参加しないとねぇ〜」
「うん、そうだねアルフ。なのはも祐一も私の大切なお友達だもんね」
フェイトちゃん達も参加表明して頭を抱え込むリンディさん。
……なんか悪い気がしてきたかも。
「あ、あなた達まで……わかった、わかったわ」
「じゃ、じゃあ!」
「その代わり、私達も行くわ」
「へ?」
「もういちいち、罠だとか罠じゃないとか考えるのが面倒くさくなっちゃったわ」
そう言って右目をウインクさせて笑うリンディさん。
そ、それでいいのか? アースラ艦長。
「それに私個人としてはクロノのことがあるから。
どうやら、私は強い人間じゃなかったみたいね。
一応言っておくけど、艦長としての私なら絶対反対よ」
「そ、それじゃあ……!」
リンディさんがみんなを見渡せる位置まで歩く。
「まず、ごめんなさい。私は組織の一員としては最低のことをしてるのかもしれない。
だから私は平和の為なんて偽善は言わないわ。クロノの仇、みんなに取って欲しい。
あなた達の命。私と祐一君に預けてもらっていいかしら?」
深々と頭を下げるリンディさん。
その姿は決して情けなくなんかない。
一人の子を想う親の姿を見た気がする。
俺も親になったら同じように思うのだろうか……?
「頭を上げてください。艦長」
「エイミィ……」
「私達の心はただ一つ。あのにっくきディアボルガを叩きのめすことだけなんですから!」
歓声が上がる。
どうやらみんな罠だとか罠じゃないとか考えるのが面倒くさくなったみたいだ。
……ってそんなわけないか。
「ありがとう。さて、それじゃあ早速作戦を説明するわ。
みんなこっちに近づいてきて」
リンディさんの指示に従って、部屋中の局員が民族大移動のようにリンディさんの下に近づいてくる。
「まず、私達を三つに分けようと思います。
一つは先陣切って突入してディアボルガを殲滅する係―――これは祐一君を隊長に、なのはさん、フェイトさん、スコール君、フィアちゃん、ユーノ君、アルフさん、守護者チーム。
残りの人たちはゴートンさんを中心に、やって来るであろう敵襲から戦艦を守る係をしてもらいます」
メンバーを見る限り一つ目は完璧にエース級で揃え、二つ目はそういう何かを守るように戦う経験が豊富な局員でまとめたって感じかな?
「祐一君。今度は冷静に対処してね?
今回はあなたが隊長なんだから」
「はい、わかってますよ。
もう誰も傷つけさせやしません」
リンディさんの言葉に俺ははっきりと答える。
仲間が傷つくところなんて見たくない。
その為に俺の身が朽ちても惜しくなんてない。
俺は固く拳を握り締め、ひっそりと誓った。
「それで、質問なんだけど」
「はい?」
「緊急事態だったから敢えて聞かなかったんだけど、あなたの後ろでおろおろして周囲を見渡してる彼女は誰かしら?」
「は?」
リンディさんが指す方を見ると、そこには目に毒な水着の上に白い上着を軽く羽織った佐祐理さんが立っていた。
「って、佐祐理さん?!」
「はぇ〜 祐一さん、佐祐理はどうすればいいんでしょう?」
「というか着いて来たんですか……」
「はい。だって皆さんこの戦艦に行ってしまったら、佐祐理が一人ぼっちじゃないですか?」
「そ、そりゃそうですけど……」
拗ねた表情でそう呟く佐祐理さんに強く出れない俺。
……情けないとか言うな。
「佐祐理さん……でいいのかしら? 私はこの戦艦の艦長をしてるリンディ・ハラオウンです」
「はい、倉田佐祐理です。こちらこそよろしくお願いしますね」
「倉田……佐祐理、そう、あなたがこの前の報告にあった」
とどこか納得したような表情で頷くリンディさん。
どうやら以前の報告で名前は聞いているみたいだな。
「この前は事件に巻き込んでしまってごめんなさい。
時空管理局の代表として謝罪するわ」
「いえ、気にしないでください」
「それじゃ佐祐理さん帰りましょう。
別荘まで送って行きますから」
リンディさんと挨拶してる佐祐理さんの手を取って引っ張っていく。
まずい。この展開はなんとなくまずい。
「ふぇ? なんでですか? 佐祐理も一緒に行きます」
「佐祐理さんは一般人でしょう?」
「祐一さんも立派な一般人ですよ?」
「そ、それはそうですけど……って、揚げ足を取らないでください!
佐祐理さんは魔法の力を持ってないでしょう?」
「でも、祐一さんは佐祐理には魔力があるかも知れないって……」
「たとえ佐祐理さんに魔力があったとしても、戦闘力のない佐祐理さんは正直……言いたくないですけど足手まといなんですよ」
少々突き放すように言う。
これでいいんだ。こうでも言わないと、佐祐理さんが納得しないだろうから。
「そ、それなら、佐祐理は、力を付けます!!」
「そんなすぐに力が手に入るわけないじゃないですか!
ゲームじゃないんだよ! 戦いは!!」
「……?!」
俺の一喝にたまらず黙り込んでしまう佐祐理さん。
その目には光るものが溜まっていた。
……少し言い過ぎたかもしれない。
周囲の人たちも先程までの騒ぎを止め、こちらに注目している。
「……ごめん、佐祐理さん」
「いえ……ぐずっ……わかって……まずから……
祐一さんは、ぐずっ、いじわるじて、言ってるわけじゃ……ないって」
落ちてきた涙を上着の袖で拭き取りながら佐祐理さんは答える。
それでも気丈に振舞う佐祐理さんに胸の奥がちくっと痛む。
抱きしめてあげたい。そんな衝動に駆られたけど、俺はそれを押さえ込む。
俺が泣かしたんだ。
俺にはそんな資格はない。
暫くすると、佐祐理さんは落ち着きを取り戻したみたいで涙声ではなくなっていた。
「でも、みんなの役に立ちたいんです。何かしたいんです。
佐祐理、また指咥えてみてるしか出来ないなんて嫌なんです。
お願いです。祐一さん、雑用でも掃除でもなんでもやります。
だから、佐祐理も連れて行ってください」
今にも土下座せんばかりに深々と頭を下げる佐祐理さん。
視線が俺に突き刺さる。
はっきり言って今の状況はほぼ100%のアウェイ。
……そりゃ、平凡な容姿の俺と、美少女といってもなんら遜色の無い佐祐理さんならどっちを味方にするかなんて決まりきってるが。
「……どうしましょ? リンディさん」
「あら、私は一向に構わないわよ?」
「は?」
あっさりと許可するリンディさんに顔が埴輪になる。
俺としては、ここでリンディさんが不許可をだして万々歳で終わりという予定だったのだが。
「言ったでしょ? 人手不足なの。
戦闘はたしかに無理かもしれないけど、
彼女、何でもやるって言ってるしね。それに―――」
「それに?」
「いざとなったら祐一君が守ってくれるんでしょう?」
「うっ……」
さっき誰も傷つけやしないと誓った手前。
嫌だと言えない……まぁ、ここまできたら言う気なんてさらさら無いんだけど。
「……わかりました。佐祐理さん、よろしく頼むな」
「ありがとうございます! 祐一さん。佐祐理、頑張っちゃいますね!」
……ま、後方で雑用とかしてれば大丈夫か。
笑顔で俺の手を握ってぶんぶん振り回してる佐祐理さんを見て、俺はそう思い直すのだった。
あとがき
J「……眠い」
フィ「お疲れ様です」
J「なんか、最近マジで投稿多いなぁと」
フィ「書いてる暇が全然無かったですもんね」
J「でも、やっぱり自分が頑張らないと、管理人として……な」
フィ「作品としてのレベルは大して変わらないですけどね」
J「いーうーなーよー」
※感想・指摘・質問はBBSかmailにてよろしくお願いします。
P.S.
J「とりあえず魔法青年を完結できるように頑張ります」
フィ「ファイトだおー」
2006年3月7日作成