「ぜぇ……ぜぇ……どう、です、か!」

「まだっ! まだ終わらないよ!」

 

荒く息をつきながら互いににらみ合うフィアとなのは。

二人の脇には高々と積み上げられた砂の山が聳えている。

 

「これで私の方が高いですっ! いい加減降参するですよぅ!」

「砂山は高さだけじゃ勝負は決まりません。安定性が重要なんです!」

 

高さを追求したのだろう、華奢ながらも自らの身長を悠に越える高さを誇る砂山に手をかけ誇らしげに語るフィアに、フィアの作ったそれよりも高さは低いが、麓がどっしりと構えられ、安定性においてはフィアの山よりは優れている砂山を作り上げたなのはが反論する。

例えるならばフィアの砂山はエレベスト、なのはの砂山は富士山といったところだろうか?

 

「ふ、二人とも……どうしたの?」

「あ、ユーノ君、ちょうどいいところに」

 

そこへ祐一たちの護衛に当たって、周囲の把握をしに行っていたユーノが通りかかった。

 

「今、『祐一さん争奪 砂山作り大会』をしているところなのです」

「す、砂山?」

「そうです! 一番高い砂山を作った人が今日一日祐一さんと甘いひと時を過ごすことが出来るです!」

「ちょっと待って! 一番素晴らしい砂山を作った方が祐一さんと過ごせるんでしょ?」

「だから『素晴らしい=高い』砂山です!」

「高いからってその砂山が素晴らしいとは限らないじゃないですか!」

「大は小を兼ねる。何事も大きいことは素晴らしいですぅ!」

「最近は小型でも素晴らしいものだってあります!」

 

でかいものはみな素晴らしいというアメリカ人的な理論を展開させるフィアと、典型的な日本人な考え方のなのはが言い争っているのをユーノは苦笑いでしばらく眺めていたが、そこで異変に気付く。

 

(……あれ?)

 

周囲を見渡す。

……いない。二人の言い争いの渦中にいる肝心の彼が、だ。

 

「ねぇ、祐一さんは……?」

「「ふぇ?」」

 

ユーノの言葉に途端に冷静になった二人は周囲を見渡す。

……いない。ユーノが言っている肝心の彼が、だ。

 

「フィアちゃん……い、いた?」

「い、いないです。そっちはどですか? なのはさん」

「いたら、フィアちゃんに聞くと思う?」

「そですよね」

「じゃ、じゃあ……」

 

―――敵に拉致された?!

 

震えながらユーノが小さく呟く。

途中で聞こえなくなったのは、その事実を認めたくないからか。

しかし、語らずとも二人にはその意味が十分に伝わったようだ。

 

「み、皆にも協力してもらって、祐一さんを捜しに行こう!」

「う、うん!」

「合点承知の助です!」

 

少し経ったらここで落ち合うと約束し、彼女達はそれぞれ祐一を捜しに散っていく。

それは祐一が無人島に流れ着いて一時間後の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

38幕『孤島の上に輝く満月』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ……というかこれは天井でいいんだろうか?」

 

目を覚ましていの一番に視界に入ってきたのは岩壁だった。

たしか船が転覆して避難し損ねてこの無人島に流れ着いたんだよな。

それで島を探索をした結果、丁度いい洞窟を見つけたから、とりあえず疲れた体を休めることにしたんだっけ。

洞窟の入り口を見ると、とっぷりと時間が過ぎてしまったようで夕方になっていた。

 

「今日はもう活動するのは無理そうだな」

 

起き上がろうかと思ったが、外の状況を見て起き上がるのを止める。

夜の森には危険が一杯だ。

あまり出歩かない方がいいだろう。

夕食は食べれなさそうだけど、まぁ、一日抜いたくらいでは死なないだろう。

隣に視線を移すと、夢の中で俺を突き落とした張本人であるところの満月がすやすやと眠っている。

その姿がどこか色っぽくて、どぎまぎしてしまう。

 

「むぅ、ふ、ふぁ……っ、おはようございます。祐一さん」

「お、おう、おはよう」

「……?」

 

俺の視線に気がついたのか、満月が目を擦って起き上がった。

 

「どうかしたのですか?」

「いや、もう暗くなっちゃったから、今日はもう出歩かない方がいいなと思っただけさ。

 だから今日は夕食は無しになるけど、それでいいか?」

「えぇ、構いませんよ……ところで祐一さん?」

「ん?」

「明日から……どうするのですか?」

 

どうするっていうのは、やはり今後の活動方針のことだろう。

 

「どうするって、そりゃ決まってる。一刻も早く助けを呼んで脱出するんだ」

「そうですか……」

 

俺の言葉に思案顔で俯く満月。

何か俺の言葉にひっかかるところがあったのだろうか?

 

「やっぱり、私とここで一緒に過ごしてはくれないんですか……」

 

口を尖らせる満月。

あぁ、そのことか。さっきもそう言えば言っていたな。

というかそれ本気だったのか。

 

「それは無理だな」

「やっぱり、祐一さんが魔法使いだからですか?」

「そうそう、俺が魔法使いだから……って」

 

え?!

今さらっと流したけど、待て。

な、なんで、俺が魔法使いだって知ってるんだ?

 

「やっぱり祐一さんは『魔法』と関わってはいけなかったんです」

「待て、なんで俺が魔法使いだっていうことを知ってるんだ?」

「祐一さんは魔法と付き合うことで確実に不幸になる……ならいっそ……」

 

俺の疑問を無視して満月はひとりごちる。

魔法と付き合うと不幸になる?

そんなこと微塵も思ったことなんかない。

 

「どういうことなんだよ。ちゃんと説明してくれ」

「えぇ、その為にこうやって二人きりになったのですし……ね。

 以前、話しかけようかと思いましたが、その時はなのはさんの案内で邪魔されてしまいましたからね」

「……」

「今思えば、あの時、無理にでも二人で話し合うべきだったようですね。

 なのはさんを押しのけてでも」

 

俺は満月と距離を空けて身構える。

今の発言。つまり満月が故意にここへと誘導したってことだ。

わざわざ味方がこんなまどろっこしいことなんてしない。

つまり、満月は敵だということ。

その気配に気付いたのか、満月がこちらに向かって微笑む。

 

「安心してください。私は祐一さんの敵になるつもりは今のところはありませんよ?」

「そう言って、後ろからずばっとやられるケースがあるらしいな」

「ふふっ、疑り深いのですね、さっきまで親しく話をしていましたのに」

 

手元にレイバルト・バリアントは無い。

泳ぐかもしれないからと、absoluteに預けたまんまだからだ。

おそらく通信系のジャミングがかかってるだろうから通信系も作動しない。

まさしく孤島ってわけか。

もし使える状態だとしても、事を起こす前に向こうがこちらを攻撃するだろう。

それだけ満月には付け入る隙が無い。

素人目にもこれは並の力の持ち主なんかじゃないってことだけはわかる。

 

「満月というのは仮の名前、本当の私の名前はムーン。

 わかっているとは思いますけど、祐一さんと同じ魔法使いですわ」

 

あっさりと自分の正体をバラす満月。

これだけの情報があれば簡単に察することが出来るから、敢えてバラしたのだろう。

それにしても驚きだな。クラスメートが凄腕の魔法使いって。

なのはちゃんが魔法使いだって知ったときも驚いたが。

 

「それでなんで俺が不幸になるって言うんだ?」

「祐一さんが魔法に関わってしまったからですわ」

 

あっさりと言い放つ満月。

なんでそんなことを言うのか俺にはわからない。

満月は敵なのだから塩を送る真似になるんじゃないのか?

 

「祐一さんは望まれず魔法と関わってしまい、使命感や義務感で戦い、自分のしたいことを抑え込まれている……ほら、これが不幸といわずなんというのですか?」

「別に俺は自分が不幸だなんて思っちゃいない」

 

微笑みを絶えさない満月に俺は叫ぶ。

たしかにこの戦いには巻き込まれてしまったし、みんなを守りたいっていう使命感があって戦いを起こしているのは確かだが、それを不幸だなんて思ったことは一度もない。

 

「口では何とでも言えますわ。

 例えば……最近、熟睡したことないんじゃありませんか?」

「なっ?!」

 

な、なんでわかるんだ?!

たしかに名雪達の件以来、敵の夜襲に備えてで熟睡したことなんてほとんどない。

 

「図星のようですね。祐一さんをずっと見てきました。

なにかしらダメージを受けた戦いがほとんどでしたよね?

そんな状況でロクに休息も取れない。地獄だったのではありませんか?」

「違う! そんなことない!!」

「この沖縄旅行だって、本当は家でずっと眠り続けていたかったのではありませんか?

 でも祐一さんは優しいですから、頼まれれば断ることが出来ない。

 旅行も奢りも、みんな断れない」

「違うっ!」

 

そんなこと、そんなことない!

たしかに満月の言うことに当てはまることもある。

だけど、だから俺が不幸だなんて限らない。

 

「このままでは使命や義務に押しつぶされてしまう。

 その前に過労かストレスで倒れるのが先かもしれませんけど」

「うぅ……」

「もっと自分を大切にしましょう?

 このままあなたは人に搾り尽くされて生きていくのですか?

 魔法と関わることを止めるだけで、あなたは昔の生活を取り戻せるのです」

 

いつの間にか距離を詰めていた満月が耳元で囁きかけてくる。

背中に当たる柔らかいものとかそんなこと考えてる場合じゃない。

ダメだ、聞いちゃダメだ!

 

「ふふっ、簡単ですよ? 魔力の核を抜き出してしまえばいいんですから。

まぁ、数日間は意識が戻らないかもしれませんけど、その間に私が全てを終わらせてみせますから」

 

背後から満月の指が俺の胸の上を愛おしく踊る。

暗示でも使ってるのだろうか? 満月の言葉がすぅっと体に染み入り、だんだんと拒絶の意思が無くなっているのがわかる。

このままじゃ……このままじゃいけないってわかっているのに。

 

「私は祐一さんを助けてあげたいんですよ。魔法という鎖を解き放ってあげたいんです」

 

満月の手が胸の中心部で止まる。

おそらくその先にあるのは俺の魔力の核。

このまま魔法使いを止めてもいいかもな……それで俺が幸せになるんなら、それでも……

 

「さぁ、体を楽にしてください……すぐに終わりますから」

 

 

 

『―――ん』

 

 

 

そして―――

 

 

 

『祐―さ―』

 

 

 

手が―――

 

 

 

『祐一―ん』

 

 

 

俺の体を―――

 

 

 

『祐一さん! 目を覚ましてくださいです!!』

 

 

 

 

―――この声は?!

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?!」

 

貫こうとした瞬間。俺はとっさに満月の腕を掴み、腕を持ったままぐるりと回転して腕を持った手を離す。

満月は俺の体から引き剥がされ、洞窟の壁まで惰性で飛ばされる。

 

「はぁ、はぁっ……」

 

今の声がなかったら危なかった。

相手は敵なんだ。魔法使いが一人減れば嬉しいのは敵なんだ。

それなのに、一時の誘惑に負けそうになるなんて……ダメだな、俺。

 

「な、なんで……」

 

満月は驚愕の表情で俺を見ている。

さっきの声で完全にふっきれた

 

「さっき、魔法が鎖だとか言ったよな」

「えぇ、言いました」

「俺にとって魔法は鎖なんかじゃない。『絆』だ」

「絆……?」

 

フィア、なのはちゃん、スコール、エレナさん、absolute、リンディさん、クロノ、フェイトちゃん、アルフ、dream、ミナ、管理局のみんな。

魔法使いになったことで、俺はたくさんの仲間に会えた。

魔法は俺にとってかけがえのない絆になってるんだ。

俺はさっきまで自分の幸せのためだけにそれを放棄しようとしてた。

情けない。

悲しみの上に立つ幸せなんて本物じゃないってわかっていたはずなのに。

 

「俺の幸せで誰かが悲しむくらいなら、俺は幸せにならなくったっていい。

 それは絶対に不幸なんかじゃない!

 魔法のある生活が俺の幸せな生活なんだ!」

「……つくづく奴隷体質のようですね」

「……悪いか?」

「いいえ、もう祐一さんに迷いも無いようですし」

「当然だ!」

「なら、私の仕事はここまでです」

 

そう言いながら水着を整える満月。

 

「なんだって?」

「言ったはずですよ? 私は今はあなたの敵じゃないと」

 

そりゃ確かに言ってたけど、それは俺を油断させる罠じゃなかったのか?

 

「さて、そろそろ私は帰りましょうか?」

「おい、もしかして俺はここに取り残されか?」

 

まさか真の目的はそれだったりしてな。

俺は至って真面目に聞いたのだが、満月は先ほどとは違う純粋な笑みを浮かべる。

 

「まさか、ここは島ではありませんから海岸沿いに行けば先ほどのビーチに着きますよ」

「へ?」

「魔法で島のように錯覚させただけです」

 

そ、そうだったのか?

 

「さて、それでは近いうちにお会いしましょう」

「お、おい! ま、待て!」

「ごきげんよう」

 

満月を中心に風が巻き起こる。

風が巻き起こった跡には満月の姿は完全に掻き消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。ムーン様」

「お出迎えご苦労様」

 

拠点に帰ってきた満月に金髪蒼眼の紳士が片膝をついて出迎える。

 

「いえ、ムーン様の従者として当然のことです」

「そんな畏まらなくてもいいですよ?

 一応、あなたをトップにして私達は動いているのですから

 こんな姿、他の人に見せてご覧なさいな」

「しかし、我はムーン様の従者です」

 

頑なな紳士の態度に満月はこめかみを抑える。

 

「……頭が固いですね」

「主人に忠実であると言って下さいませ」

「それじゃあ、これからも忠実に私達のトップを務めるのですよ? ディアボルガ」

「はっ!」

 

返答と共にディアボルガは奥の玉座へと移動する。

金髪蒼眼の紳士―――ディアボルガは、主人である満月の命令通り、今日も首領という与えられた職務を全うするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

J「やーっとおわたーよ」

フィ「なんかえちぃです」

J「というより、いよいよ満月が本格始動ですよ」

フィ「満月さん、凄い人物だったですね」

J「だからいったべ? 満月は重要人物だと」

フィ「まぁ、敵だっていうのはなんとなくわかってた人が多そうですけど」

J「否定しないな。この前メールでも『満月はきっと時空管理局の強硬派が送り出した監視役』って意見貰ったし」

フィ「ニアミスですね」

J「あぁ、ニアミスだった」

 

 

 

 

 

※感想・指摘・質問がございましたらBBSかMailでお願いします。

 

 

 

 

 

 

フィ「そういえば最後のあの台詞、もしかして私ですか?!」

J「ノーコメント。もしかしたら口調を変えたなのはかも知れないぞ?」

フィ「それだとしたらやるせねぇです」

 

 

 

2006年2月23日作成