ざざーーん……

 

 

「……ん」

 

波の音で目を覚ます。

どうやら眠ってたようだな。

俺は砂浜から起き上がって周囲を見渡す。

空は照り輝いているというのに人気が全くといっていいほどない。

 

たしか俺は……佐祐理さんに誘われてフィア達と沖縄に旅行に来てて……

 

頭の中で今までのことを思い返す。

うん、スピードは遅いけど段々と思い出せてきた。

というわけで俺は今の状況を整理するためにも、一部始終を思い起こしてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

37幕『魔法青年の漂流』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日一日、楽しみましょう!」

 

過激な水着を纏った佐祐理さんが保育士さんのように手をぱんぱんと打ち鳴らす。

 

「みんなはどうするんだ?」

「泳ごうかな? 水浴びって結構好きなの」

「……少し日光浴をしてから泳ごうと思っています」

「パラソルの下にいるわ。直射日光ってどうも……ね」

「佐祐理様と行動を共にしようと思いますわ。私が自由行動してしまうと一人にさせてしまいますし」

「僕は少しやらなきゃいけないことがあるんで」

「そうか……フィアやなのはちゃんはどうするんだ?」

 

 

ピカーーン

 

 

俺の言葉に二人の目が狩猟者の如く光った気がした。

 

「「祐一さん! 一緒に泳ぎませんか?」」

「シンクロ?!」

「「真似しないでください!」」

 

寸分の狂いもなくフィアとなのはちゃんから発せられる言葉。

どこぞの汎用人型決戦兵器のパイロット達でさえ数日一緒に暮らしたりしてたのに、それを練習無しで成功させるとは……恐るべし女の子。

 

「じゃあ、三人で泳ぐか?」

「それは嫌です。なのはさんと一緒に泳ぐくらいならそこらへんで砂のお城作ってたほうがずっとマシです」

 

なのはちゃんを見ると表情には出してないが、フィアと同じようなオーラを感じ取れる。

ふむ、つまり一人に絞れと。そういうわけですか?

 

「え、えーと……」

 

参った。どっちを選べったってなぁ……

 

「早くするです。祐一さん。優柔不断な人は嫌いですよ」

「だったらフィアちゃんは祐一さんが嫌いってことで、さっ、行きましょう。祐一さん」

 

と俺の腕を取って先に進もうとするなのはちゃん。

まぁ、別に腕に当たるものがあるわけではないので、そこまでどぎまぎはしないのだが。

 

「ちょーーーーっと待つですっ!」

「なんですか? 優柔不断な人が嫌いなフィアちゃん」

「誰も祐一さんが優柔不断とは言ってないですっ!」

「私は祐一さんとは一言も言ってないですよ?」

「にゃーーーー!」

 

渦中の俺をほっぽりっぱなしで喧嘩を始める二人

 

「あー、二人ともやめ―――」

「「祐一さんは黙っててください!」」

「……はい」

 

二人の殺気立った一言におとなしく従う俺。

うるさい、俺は女の子に弱いんだ。どうせヘタレさ。

周りを見ればエレナさん達は早々と巻き込まれないように撤退してるし、佐祐理さんもミナのおかげで避難済みだ。

くそぉ、俺に味方はいないのか?

 

「こうなったら、全面戦争です」

「望むところ! フィアちゃんとは一旦、決着をつけなきゃいけないって思ってたし」

「あとで吠え面かくなですよ!」

「それはこっちの台詞だよっ!」

 

俺を置いてどこまでも突っ走ってる気がする二人。

というか、どちらかと一緒に泳ぐんじゃなかったか?

 

「それじゃ、勝負に勝った方が祐一さんと一緒に泳げるということで」

「わかったです。女に二言はないです!」

「それじゃ―――」

 

……これは俺は解放されたということでいいのだろうか?

まぁ、あくまで二人の戦いが終わるまでの間だけど。

 

「ちょっと、一人で歩いてくるな。勝負が終わったら声かけてくれ」

 

 

聞こえてるかは怪しいが、声をかけないで行くよりかはいいだろう。

俺は未だ言い争ってる二人にそれだけを残し、一人でぶらぶら散歩をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったな。それで俺は一人で散歩に出たんだ」

 

そしたら……

そしたら……どうなったんだっけ?

そこからどうにも次の展開が思い出せない。

早くもボケたか? 俺。

えっと……

 

「祐一さん」

「ん?」

 

考えるのを止めて、声のするほうを向くと、そこには茶色の長髪の美人さん。

 

「…………あぁ、満月か」

「……なんですか? その妙な間は」

 

これはきっと満月の美貌にくらんだからだ。

絶対に、忘れていたわけじゃない。

……いや、多少は忘れていたけどね。

 

そうだ、段々と思い出せてきたぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、沖縄っていいよなぁ! 真っ赤な太陽、透き通った水色の海。

中々こんな海、北の方じゃお目にかからないもんなぁ」

 

北の街で雪に見慣れすぎたのだろうか?

なんか海という言葉自体が非常に懐かしいし、

海に入るというのもなんか数十年もしてないかのような新鮮感がある。

 

「本当ですね。私も久しく来ていませんでしたから、新鮮な感じです」

「あぁ、本当、本当……って誰だ?」

 

横を見ると茶色の長髪にどこか神秘的な感じのオーラを纏った一人の少女が立っていた。

もちろん水着は着用していて、彼女に似合っている感じのワンピース型だ。

 

「こんにちは、祐一さん」

「……」

「なにか具合でも悪いのでしょうか?」

「……あぁ、愛知さんか!」

 

少女は俺のクラスになのはちゃんと一緒に転校して来た愛知満月さんだった。

ちなみに今の間は愛知さんの水着に見とれていた訳で、決して愛知さんの存在を忘れていたわけじゃないぞ? 絶対に。

 

「嫌ですわ。満月と呼んでくださいと言ったではないですか?」

「……あぁ、そう言えばそうだったなぁ、満月」

 

そういえば昔そんなことを言ってたような気もする。

どうにもいろいろな事がありすぎて満月さんの存在を思い出すのに時間がかかってしまったが

……って墓穴してるし、俺。

 

「で、どうして満月は沖縄に?」

「ここには私の別荘があるんです。ここら辺はプライベートビーチもありますし、別荘を建てる人が多いことで有名なんです」

「……ブルジョワジー」

「なにか?」

「いや、満月の家は金持ちだなぁってな」

「嫌ですわ。私の会社なんて日本で五本の指に入る程度の企業です。

そこまでお金持ちというわけではないですよ」

 

くそ、金持ちがこういうこと言うと普通はムカついてくるのに、

満月の場合はこれが天然だってそこはかとなくわかってるから、どうにもそういう感情が芽生えない……これが真のお嬢様ってやつなのかもしれないな。

 

「ところで、祐一さんは? もしかして祐一さんも別荘を持っていらっしゃるとか?」

 

そんな大人気のゲームソフト感覚で沖縄に別荘持ってると思うのだろうか?

と、思い切り突っ込みたいのを堪える。

 

「いや、知り合いの先輩が別荘をこの辺に持っててな。

 それで厚意に甘えて休暇に来てるんだ」

「もしかして、その先輩って女性の方ですか?」

「え? うん、そうだけど?」

「……」

 

腕を組んで思考のポーズを取る満月。

なんだろう? 佐祐理さんが女の人だと何か問題でもあるのだろうか?

暫くして、満月が腕を解いて俺に話しかけてきた。

 

「祐一さん、一緒にクルージングでもしませんか?」

「……はい?」

 

いきなり何を言い出すかと思えば。

クルージング……船?

 

「折角こんな綺麗な海に来たのですから、泳ぐだけじゃなくて、

上から覗き込むのもまた一興だと思いますよ?」

「というより自家用クルーザーを持ってるのか?」

「え……一般家庭に一家に一台は持っていないのですか?」

 

持ってねぇ、持ってねぇ、持ってねぇ。

一応俺の家はその一般家庭だけど、クルーザーなんてそんなものを買うなら家のローンを払ってると思うぞ?

今のやり取りでわかったが、どうやら満月の金銭感覚は相当アレらしい。

アレというのは、その……なんだ……とにかく疎いってことだ。

 

「普通は持ってないと思うぞ?」

「そうなのですか。なら初めてですよね?」

 

キラキラした目で俺を見る満月。

そ、そんな目で言われたら、断れないじゃないか。

 

「わかった。行こう」

「本当ですか? 嬉しいです。それじゃあ早速行きましょう?

 船はあちらに停泊してるので」

 

佐祐理さんに一言言っておこうかと思ったが、満月がぐいぐいと引っ張ってくるので、まぁ、後で言えばいいかということにして、俺は船が置いてある場所に移動することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、その船が嵐に見舞われてここに不時着したと、言うわけか」

 

周囲を見渡しても満月以外の人影はない。

つまりここは無人島だっていうことがわかる。

満月のような華奢な女の子が無事なんだ。おそらく船は残ってる。

俺がこんな所に寝てるのは―――まぁ、嵐かなにかで流されたんだろう。

船員があの船にはいたから、満月は船を船員に任せて俺を探しに来たのだろう。

 

「なにを言ってるんですか? 不時着ではありませんよ」

「へ?」

 

もしかして、ここはさっきまでいた場所の裏側でしたなんてオチなのか?

それともこの島は満月の所有する島だとでも言うのか?

 

「肝心の船がありませんので、『不時着』というよりかは『漂着』の方が正しいですわ」

「な、なんとぉ?! つ、つまり、マジで遭難だと?」

「えぇ、そうなんです」

「……」

「……?」

 

ははっ、ここは沖縄のはずなのに、なんで鳥肌が立ってるんだろう?

しかも本人、気付いてないと来たよ。

 

「それじゃ、船は?」

「転覆したのではないでしょうか?

 船員は避難しましたけど、私達はそれに炙れてしまったのですわ」

「そ、そか……」

 

……よく生きてたな。俺と満月。

というか、普通船員よりも俺達を優先させるものじゃないのか?

一応、お客様だし。

 

「本当、大変なことになってしまいましたね」

「そ、そうだな」

 

こうも軽い感じに話されるとなんか危機感がなくなるな。

満月は怖くないのだろうか?

こんな状況でも全然参ってないし、なにより彼女の口調は既にこれは想定の範囲内だとでも言わんばかりの感じを受ける。

 

「でもきっと助けが来ますよ。もしダメならここで暮らせばいいんですし」

「いっ?!」

 

さらっと爆弾発言を落としていく満月に思わず赤面してしまう。

暮らすって……誰もいない孤島に二人っきりじゃ……いいかも。

 

「って、違う違う違う! 残念だけど、そういうわけにはいかないんだよ。これが」

 

そうだ。俺は魔法青年なんだ。

俺の体はもう俺一人のためのものじゃない。

俺は一刻も早く帰らないといけないんだ!

 

「早く帰れる方法を探そう。

 諦めるのはまずそれからさ」

「……わかりました」

 

さて、それじゃあまずは島の探検をして立地を確認しないとな。

長期戦になるなら食料や水も集めないといけないし、出来る限り今日中に救助の宛てが見つかればいいんだが、もしかしたら明日になるかもしれない。

そうなったら雨露凌げる場所も見つけないといけないし。

あ、もしかしたら助かった船員達が捜してくれているかもしれない。

 

 

 



「でも……祐一さんは……その方が幸せになれます。絶対に」




 

 

 

とりあえず脱出と生き延びることしか考えてなかった俺は、満月の呟きも耳には入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

J「かきおわたーよ」

フェ「お疲れ様です」

J「今回は沖縄に行ってしまったフィアに変わり、フェイトに担当してもらおうと思います」

フェ「よろしくお願いします」

J「今回は久々の満月の登場。伏線も何もあったもんじゃありませんが」

フェ「忘れたとかこの人誰とか言う人嫌いです」

J「そういえばこの人重要なポジションにいるんでしょう? とか思い出してくれた人は真の魔法青年ファンかもしれません。なにせ自分もほとんどうろ覚えでしたから」

フェ「いろいろ言われてたよね。満月はどこで出てくるのですか? って」

J「あぁ、重要なポジションにいると言ってしまった手前、有耶無耶にはできないし」

フェ「……伏線ほったらかしはいけないと思う」

J「そうだな。実際伏線今のところ何が残ってるのかわかってないのだが」

フェ「……ダメ作者」

J「今頃気付いたか」

 

 

※感想・指摘・質問はBBSかMailでよろしくお願いします。

 

 

P.S.

J「次回で沖縄編終了の予定」

フェ「祐一と満月の愛の逢瀬?」

J「かーもなー」

フェ「う、後ろで暴動が起こってるんだけど……」

J「ここはユーノとスコールを信じろ」

フェ「でもこっちにあれ飛んできてるよ?」

J「あれ?」

フェ「うん、スターライトブレ―――」

J「のぎゃああああぁあぁあ!」

フェ「―――イカーが」

J「お、遅ぇ……」

 

 

 

 

 

2006年2月8日作成