「ふぁ……」
眠い、暑い。
ベッドに寝転びながら少々暑苦しくなってきた季節に対してそうクレームをつける。
季節は既に初夏になっていた。
魔法青年 相沢祐一
35幕「魔法青年の休日」
『そう、ご苦労様』
戦闘が終わり、人に見られるといろいろと拙いので、佐祐理さんの部屋に移動した俺達。
ユーノ君が管理局への報告を一通り終えると、通信機(といってもこっちは携帯電話)の向こうのリンディさんは労いの言葉をかけてくれた。
俺は見ていないのだが、その刺客は見たことのない魔法の杖を使っているらしい。
『それはおそらく、Xシリーズだろう。鉄球型、リング型、そして銃型。
Xシリーズに全て該当する』
「やはり、彼らはディアボルガ側―――Xシリーズからして、急進派の刺客だということですか?」
『その可能性が高い。設計図は完成していたから、早期に投入することも可能だったのだろう』
通信を変わったのか、当の開発者のノイルさんの回答にユーノ君が付け加える。
当の自分は途中参戦なので話があんまり見えてこないが、ミナを襲った襲撃者の正体はディアボルガ側の人間だということか?
あんまり話に水を刺すのはよくないし、ここは聞き役に回った方が良さそうだな。
「祐一さん」
「ん? お、フィアか」
声をかけられたので振り向くと、フィアがこっちに来ていた。
「祐一さんのお友達の家だったですね、こんな豪邸に住んでる人とお友達なんて凄いです」
「あぁ、先輩だったんだよ。たしか母親が有名企業の社長をやってて、父親は代議士をやってたかな?」
「へー、『だいぎし』というのが何か知らないですけど、凄い人です〜」
まぁ、俺も上手くは説明できないからなぁ……フィアが知らなくても当然か。
「ところで、祐一さんに聞きたいことがあるですけど……」
「……」
途端に周りの空気が重く暗いものに変わるのがわかる。
こ、このプレッシャー……ディアボルガにも劣らんぞ?
「祐一さん、まずなんでそのお友達のところにいたですか?」
「そ、そりゃあ、さ、佐祐理さんに遊びに来いっていわれたから……な、なぁ!!佐祐理さん」
「ふぇ!?」
一人でやられてなるものか、散らば諸友、お前も道連れ。
佐祐理さんには悪いが、この会話に混ざってもらうことにする。
「は、はい。佐祐理が祐一さんを誘ったんですよ」
「……まぁ、いいです」
なんなんだよ、今の微妙な間は。
「次です。なんで祐一さんはなのはさんに携帯番号を教えたですか?」
「念話の仕方は聞いたけど、遠距離での念話なんてしたことないから不安だったんだ。
だから、連絡するとき便利なように教えただけだ」
近距離の念話と同じなのでは? とか念話は無意識に出来るものなのでは? という質問はこの際、因果地平の彼方にぶっとばしてくれ。
そうしないと、俺が因果地平にぶっとばされそうな勢いだから。
「……中々、説得力のある言葉です」
だから本当だっての。
『こちらからも暇を探してはユンカースの反応を探ってはいるんだけど、最近はめっきり起こらなくなったわ。
察するに、もうユンカースのほとんどが祐一君か、ディアボルガの手に渡ったものだと見ていいと思うの』
「祐一さんが持っているのが16個、ディアボルガがわかってる時点で1個、合計して17個ということは」
『残りの4つの内の幾つかは向こうに渡っていると見てもいいでしょうね』
俺達がそんな会話をしている間にも、リンディさんとユーノ君は話を進めていく。
むぅ、なんか疎外感を感じるぞ。
『それと、私達の方で調べたのだけれど急進派の勢力は45人。こっちの軽傷者が復帰すれば、勝てないことは無い規模よ。
ディアボルガについては残念だけど、祐一さん達が持ってる以上の情報は得られなかったわ。
多少調査したとはいえ、情報の少なすぎる今、私達に出来ることは今得た情報を参考に相手の素性を調査しつつ静観するしかない。
現状じゃ、向こうが行動を起こしてくれなきゃ、私達は接触すらできないのだからね』
「そうですね」
『今回は私達が動くのが遅すぎたのがあったから追跡は無理だったけど、次の接触の時には何かしらの情報が欲しいわね』
やはり、戦いを左右するのは戦力、智謀も当然のことだが、それよりも重要なのは情報だな。
実際、俺達はなのはちゃん、フェイトちゃん、スコールといった凄腕の魔術師が数人に、absolute、エレナさん、ミナといった凄腕の魔術師となんら遜色の無い実力を持つ守護者もいる。
更にリンディさん、dreamなど、参謀としてのレベルが高い人材も揃っている。
だが一つ、情報が無いだけで俺達はただ指を咥えて相手が動くのを待つしかない。
すごく悔しいが、そういうことなのだ。
『とりあえず、なのはさん達は祐一さんとその周囲の警護をしていて。
私達も防衛体制を強化しつつ、全力でディアボルガの本拠地を探すけれど、おそらく……いえ、確実に見つかる見込みは無いでしょうね。
だから一番敵と接触する可能性が高いあなた達だけが頼りなの。
月並みかもしれないけれど、頑張って』
「はい。任せてください」
アースラとの通信を切ると、ユーノ君が俺を見る。
「……というわけですから、いつまでになるかはわかりませんが、一先ずユンカースの発生か向こうが活動を起こしてくるまでは待機ですね」
―――というわけで俺は久しぶりに得たいつ終わるかも知れぬ平穏の日々を満喫しているのだ。
今日、明日、明後日と土曜、日曜、創立記念日で3連休。
連休、ただそれだけで俺の気分を高揚とさせるというのに、更にあゆが俺に謝ってきたのだ。
「祐一君、今まで鯛焼きを奢らせていてごめんなさい。
許してほしいなんて、甘いことだってわかってる。だけどボクは、ボクは」
あゆはがくりと頭をうな垂れ、俺の反応が怖いのか小刻みに震えていた。
本気で驚いた。
正直謝罪の言葉なんて聞けるとは思わなかったし、奢りのことも断れない自分が悪いということで、半分諦めかけていたから。
俺は当然あゆを許した。
人の気持ちを思うことができるなら、もう大丈夫。
あゆは二度と俺や人に理不尽な奢りは要求しないだろう。
だから、俺ははっきりいってご機嫌もご機嫌、超ご機嫌だった。
Trrrrrrrr……
「ん?」
下から聞こえてくる電話の声。
まぁ、誰かが出るだろう。俺はもう一眠り―――
「……って、今日は誰もいないんだったよな」
秋子さんは仕事、名雪は大会前の特別合宿、あゆと真琴は天野の家に遊びに行ったんだっけ?
仕方無しに、下の階に降りてけたたましく鳴り響く受話器を取る。
「はい、水瀬ですが」
『もしもし〜 水瀬さんのお宅ですか?
倉田という者なのですけれど』
受話器から聞こえたのは佐祐理さんの声だ。
「佐祐理さん?」
『あっ、祐一さんですか〜』
「どうしたんです? 俺に用なら携帯に電話してくれればよかったのに」
名雪をはじめ、全員に俺は携帯の電話番号は教えているはずなんだが。
『それは家の人にご挨さ―――げふんげふん!! 秋子さんにもいっておきたいことでしたので、秋子さんが出る可能性が高い、水瀬家の電話にしたんですよ〜』
「秋子さんなら今は仕事に出かけちゃってていないぞ? いつも帰ってくるのは深夜だから、俺が話を聞いて伝えておくよ」
『そうですか。なら先に祐一さんの方に伝えますね〜』
俺にもなんか用があったのか。あぁ、さっき秋子さん「にも」と言ってたな。
『祐一さん。明日なんですけど、フィアちゃんやミナちゃん達も連れて泳ぎに行きませんか?』
「は?」
泳ぐ? ということはプールのお誘いか?
たしか隣の駅の近くには温水プールがあるとかいってたな。
そこにでも行くのだろうか?
『フィアちゃんや守護者は普段はあまり外に出たがらないそうじゃないですか。
かくいうミナちゃんもそんな感じでしたし』
「まぁ、そうなる……かな?」
たしかにフィアやエレナさんって進んで外に出たがるタイプじゃないなぁ。
現実に、フィアは猫形態で日向ぼっこしてるし、エレナさんやabsoluteら守護者達も、今はレイバルト・バリアントの中でお休み中だ。
フィアはユンカースの監視に、守護者は襲撃者に備えて、あまり出歩かないようにしてるんだろうけれど、ずっと部屋の中や狭い所に押し込まれていたら気が滅入るだろう。
俺なら気が滅入る。
『この前のユーノさんの話だと当分は様子見だそうですし、少しくらいなら外へ遊びに行っても大丈夫かなと思って』
「あ〜、気分転換みたいなもんですね」
『はい』
ふむ、俺としてはユンカースが全く反応しなくなったことや、ディアボルガ勢の暗躍とか気になることがたくさんあるから、あまり遊びに出歩くのはよくないと思うのだが……正直、戦い詰めで俺達はボロボロだ。
休息をとっていたとしても、安心した状態での休息はほとんどなかったので、一度何もかも忘れて本格的に休息を取るという意味ではこの申し出はありがたい。
「どうしたですかぁ〜」
「お、フィアか。今、佐祐理さんから電話がしてるんだよ」
振り向くと、猫の姿で片手を口に添えてあくびをしているフィア。
だから猫の癖に芸が細かいんだって。
「佐祐理さんからですか、何用です?」
「明日、皆で泳ぎに行きませんか? っていう遊びの誘いだよ」
『どうですか? たまにはパッと気分転換するのもいいと思うんですけど……』
「うーん……祐一さんはどうするですか?」
「俺は行ってもいい思うぞ。1日くらいならなのはちゃんに頼めばOKかな……って」
「それなら行くです(なのはさんが行かない、これはチャンスです!)」
即答だった。
何が彼女を駆り立てたのかは知らないけれど、フィアの周りからはなにか異質なオーラを感じた。
「それじゃあ行きます。佐祐理さん」
『わかりました。それじゃあ明日の8時に佐祐理の家に来てもらえますか?』
8時……早いな。
隣の駅ならそこまで早くなくてもいいと思うんだがな。
「こういう意味か……」
「どうしたんですか? 祐一さん」
隣のなのはちゃんが俺を労わるかのように話しかけてくる。
現在時刻10時30分。
場所―――おそらく本州か九州の上空。
そう、俺達は今、倉田家の自家用飛行機に乗っているのだ。
しかも自衛隊にありそうな、大きくて速いやつ。
おそらく今までの人生で初体験だろう。
軽くコンビニに行くような感じで沖縄へと向かうなんて。
そりゃあ、沖縄はもう海開きしてるけどさぁ……
「さすが金持ちは違うってか?」
「そうですね。アリサちゃんやすずかちゃんもこんなの持ってるのかなぁ……」
え、えーと、あなたの友達は何者ですか? なのはちゃん。
「というか―――」
「な、なんでここになのはさん達がいるですかーーー!!」
俺の疑問を引き継ぐように叫ぶフィア。
うむ、どこぞかの熱血野郎も顔負けだな。
「なのはちゃんには留守番を頼んでおいたはずなんだが……?」
「そーです、そーです! なのはさんはおとなしくお留守番してればよかったですよ〜」
なんか、フィアの言葉の節々にトゲというか『約束された勝利の剣』を感じるのは気のせいか?
「そのことをリンディさんに話したら、『ずっとという訳には行かないけれど、一日二日くらいならアースラの局員を派遣できるわよ』っていっていたんで、動きがあったらすぐに帰ることを条件に私とユーノ君も同行を許可してもらいました」
「というわけで、僕達もたまには休息が必要かな? って思いまして」
「へぇ……そうだったのか」
全員が離れるのは少し不安だが、アースラの局員の力を信じることにしよう。
彼らはそれで飯を食ってる訳だし。
「ぐっ……」
「そういうことですから。フィアちゃんも納得してもらえたよね?」
「……仕方ないです」
なのはちゃん達も加わるとなれば、楽しくなりそうだな。
「わーお! 高い高い!! ほら見て、absolute」
「ちゃんと見ています。全く、子供みたいにバカはしゃぎしないで下さい」
「……zzz」
「沖縄ってどんな所なんでしょうか?」
みんな喜んでるみたい(?)だし、それだけでもよかったって思えるな。
やっぱり、旅行は楽しまないと。
「はいは〜い。皆さん聞こえますか〜」
前方でマイク片手に話し始めるのはこの沖縄旅行の主賓の佐祐理さん。
「もうすぐ、この飛行機は目的地の沖縄に着きます。
着陸の時は、シートベルトをきちんと着用してくださいね
あと、携帯電話とか電子機器も使用してはいけませんよー」
「はーい」
さぁ、いよいよ沖縄旅行。
一体、何が起こるのやら?
後書き
J「短いな。というか今までが長かったのかもしれないが」
フ「死になさいです!」
ドォォォォォォォン
J「にゃ、にゃにおする!」
ガシッ!←胸倉を掴む音
フ「な ん で ! なのはさんも沖縄旅行について来てるですか〜!!」
J「ぎ、ギブ!! ギブアップ!!」
フ「どうあっても、私をメインヒロインから追い出すつもりですか?」
J「そういう訳ではないのだが……なんつーか、人数が多い方が面白いし?」
フ「それでいつも失敗してるじゃないですか!」
J ……|||orz
自家用飛行機出したさに、佐祐理さんの父親をすごい人にしてしまいましたが、そこはスルーの方向でw
※感想・指摘・質問がございましたら、掲示板かmailにて、よろしくお願いします。
2005年10月8日作成